弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
     抗告費用は抗告人の負担とする。
         理    由
 一、 抗告申立の趣旨及び理由は別紙記載の通りで、これに対する当裁判所の判
断は左記の通りである。
 二、 記録によると、八幡市a町b番地のcA(債権者)は昭和二十七年十月一
日福岡地方裁判所小倉支部に対し、抗告人を債務者とし、貸金残額四十六万八千三
十円及びその遅延損害金について、公正証書を債務名義として、抗告人所有の家屋
に対し強制競売を申立てたところ、右家屋に対しては既に、元金だけで合計百十五
万七千八百円に達する三口の抵当権設定登記がなされておりまた所轄税務署などか
ら交付の要求があつた公租公課が二十五万余円に達するのに、鑑定人の右家屋の評
価額は金四十八万円に過ぎないため、執行裁判所は、債権者Aに対し民事訴訟法第
六百五十六条第一項所定の通知をなしたのであるが、これに対し右債権者は、同条
第二項により不動産上の総ての負担及び執行手続の費用を弁済して剰余あるべき価
額を金百四十二万円と定め、同価格に応ずる競買人がない場合は債権者自ら同価額
で買受くる旨申立て、保証として金百四十二万円を福岡法務局小倉支局に供託し、
同供託書を右裁判所に提出したところ、裁判所はこれをもつて同条第二項所定の申
立及び保証として十分であると認め、競売手続を続行し競売期日を昭和二十七年十
二月十七日午前九時と定めたのに対し、債権者において同年同月十六日債務者連署
の上右強制競売の申立を取下げこれにより競売手続は終了したこと、しかして同月
二十六日債権者が原裁判所に対し前示保証の取消を申立てたため、原審は民事訴訟
法第百十五条第三項の規定に準拠し所定の催告をなした上債務者から所定の期間内
に訴の提起など権利の行使がなかつたものとして、昭和二十八年二月七日本件保証
取消の決定をなしたことの各事実が認められる。
 三、 民事訴訟法第六百五十六条第二項の規定によつてなす債権者の買受の申立
は、執行裁判所において同申立を相当と認め競売手続を続行した場合は、競売期日
に、右申立価額以上の価額をもつてする競買人がないときは、債権者の競買申立を
要せず、当然債権者に最高価競買人と同視すべき地位(権利及び義務)を附与する
効力を有するものであるから、債権者が一旦この義務を負担するにいたつた以上、
任意に前示買受の申立を撤回し得ないのは固よりその所であるけれども、最高価競
買人たるの義務を負担するかどうかは競売期日を俟つて判明するのであるから、債
権者は競売期日までは、買受の申立を撤回して、その拘束力から免れ得るものとい
うべきであり、更に買受申立の拘束力は競売手続の存在を前提とするものである以
上、競売手続が取下により<要旨>終了するときは、自然買受申立の効力も消滅する
ものと解せねばならない。そして、右第六百五十六条第二項の保証は、債権
者の買受の申立を保証するものであることは、同条項の規定に徴し明白であるか
ら、買受の申立が前叙の撤回または競売申立の取下により、その効力を失うとき
は、自然保証の事由も亦消滅し、右保証のための保証金が供託されたものであると
きは同法第百十五条第一項に準じ(但し、保証の事由止みたることは、記録上明ら
かであるから債権者において、特に同条項の証明をなす必要はない)、裁判所は保
証取消の決定をなすべきものと解するを相当とする。
 四、 本件不動産競買手続は、前記二に説示の通り、競売期日の前日適法に取下
によつて終了しているから、原裁判所が保証取消の決定をなしたのは相当といわね
ばならない。もつとも原裁判所は民事訴訟法第百十五条第二、三項の規定も準用さ
れるものとの見解の下に、同条第三項所定の催告をなしているけれども、右は無用
の手続を採つただけのことで、これがため原決定を取消、変更するの事由となすを
得ない。
 抗告人は債権者を被告とし、昭和二十八年一月二十三日主張の如き訴を提起した
というけれども、その旨の証明がないばかりでなく、仮りに本件保証の取消につい
て、同法第百十五条第二、三項の準用があるとしても、原裁判所は昭和二十七年十
二月二十六日附催告書をもつて、同催告書送達の日から十日内に権利を行使して、
その旨届出るよう催告し、該書面は同年同月二十八日抗告人に送達されていること
は、記録上明らかであるから、抗告人は遅くとも昭和二十八年一月七日までに所定
の訴を提起し又は支払命令を申立て、その旨を証明すべきであるにかかわらず、抗
告人の主張によるも、右期間経過後の同月二十三日漸く訴を提起したというのであ
るから(前記の通り果して訴を提起したのであるか、又訴を提起したとしても、権
利の行使として相当の訴てあるかについては、なにらの証拠も存しない)、右訴の
提起をもつて保証取消を阻止し得べきかぎりでない。
 よつて本件抗告を棄却し抗告費用につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通
り決定する。
 (裁判長裁判官 桑原国朝 裁判官 二階信一 裁判官 秦亘)

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