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平成18年3月24日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成16年(ワ)第5713号地位確認等請求事件
口頭弁論終結日平成18年1月25日
判決
東京都杉並区ab丁目c番d号
原告A
東京都渋谷区ef丁目g番h号
女性ユニオンB気付
原告C研究所非常勤職員組合
同代表者執行委員長D
原告ら訴訟代理人弁護士甲
同乙
同丙
同丁
同戊
東京都港区ij丁目k番l号
被告大学共同利用機関法人E研究機構
(訴訟提起時の被告の表示国)
同代表者機構長F
同指定代理人己
同庚
同辛
同壬
同癸
主文
1原告Aと被告との間で,原告Aが被告に対して労働契約上の地位を
有することを確認する。
2被告は,原告Aに対し,金190万290円並びに平成16年3月
17日から本判決確定の日まで,毎月17日限り,1か月金19万2
9円及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
3原告C研究所非常勤職員組合の請求を棄却する。
4訴訟費用は,原告Aと被告との間においては全部被告の負担とし,
原告C研究所非常勤職員組合と被告との間においては,被告に生じた
費用の3分の1を原告C研究所非常勤職員組合の負担とし,その余を
各自の負担とする。
5この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。ただし,
被告が金500万円の担保を供するときは,上記仮執行を免れること
ができる。
事実及び理由
第1請求
【原告A関係】
(主位的請求)
1主文第1項,第2項に同じ。
2訴訟費用は,被告の負担とする。
3第2項につき仮執行宣言
(予備的請求)
1被告は,原告Aに対し,金314万174円及びこれに対する平成1
6年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2訴訟費用は,被告の負担とする。
3第1項につき仮執行宣言
【原告C研究所非常勤職員組合関係】
1被告は,原告C研究所非常勤職員組合に対し,金100万円及びこれ
に対する平成16年3月30日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
2訴訟費用は,被告の負担とする。
3第1項につき仮執行宣言
第2事案の概要
【原告A関係】
非常勤職員(時間雇用職員,事務補佐員)として,1年ごとに13回
にわたり任用更新を繰り返されてきた原告が,平成15年3月31日の
任期満了をもって次年度の任用をしないこととされたため,同任用更新
の拒絶をもって,①原告の勤務関係の実態は私法上の労働契約関係であ
り,解雇に関する法理が類推されるところ,これは合理性を欠いた不当
な雇止めであり,その後も労働契約関係が継続している,②仮に原告の
勤務関係が公法上の任用関係であるとしても,これは不当な任用更新の
拒絶であり,解雇に関する法理の類推あるいは権利濫用,信義則に関す
る法理の適用により拒絶が許されない結果,その後も任用関係が継続し
ていたところ,国立大学法人法の施行に伴って平成16年4月1日から
は私法上の労働契約関係に移行したと主張して,被告に対し労働契約上
の地位を有することの確認及びこれに対応する賃金の支払を求め(主位
的請求),雇用継続についての合理的期待を害されたことの慰謝料を請
求(予備的請求)した事案
【原告C研究所非常勤職員組合関係】
原告Aら非常勤職員等で構成する職員団体たる原告組合が,不当な交
渉拒否を理由として,不法行為による損害賠償請求権に基づき損害金を
求めた事案。
1争いのない事実等
(1)G情報センターからC研究所への改組
アG情報センターは,学術情報の収集,整理及び提供並びに学術情
報及び学術情報システムに関する総合的な研究及び開発を目的とし
て訴訟提起時の被告国が国立大学設置法9条の2に基づいて昭和6
1年4月5日に設置した大学共同利用機関である(乙32)。
イG情報センターは,平成12年4月1日,文部科学省管轄の大学
共同利用機関の1つとして,C研究所(以下「C研」という。)に
改組された。
ウC研は,情報学に関する総合研究,学術情報の流通のための先端
的な基盤の開発及び整備を行うことを目的とする大学共同利用機関
であり,その主な事業は,総合的な情報学の研究のほか,その研究
成果を実証的に開発し,先端的な学術情報システムを形成・運用す
る事業,特に学術情報の検索サービス,電子図書館サービスなど,
学術情報提供サービスを行うことである(甲1,乙1)。
エ国立大学法人法の施行に基づき,平成16年4月1日からC研の
設置者が国から被告大学共同利用機関法人E研究機構に承継された。
また,国立大学等(大学共同利用機関法人を含む。)の職員は,
別に辞令が発せられない限り,同日をもって当該国立大学法人等の
職員となるものとされ,同職員に対しては同日以降は当該独立行政
法人の就業規則が適用されることとなった(甲38)。
(2)原告Aの任用関係
ア原告A(以下「原告A」という。)は,平成元年5月1日,C研
の前身であるG情報センターに事務補佐員として次のとおり任用さ
れた。
①平成元年5月1日から平成2年3月31日まで(乙13の1)
イ原告Aは,次のとおり任命権者G情報センター所長から事務補佐
員(G情報センター事業部データベース課)として,各任期満了後,
各1年の任期付きで任用更新された。
②平成2年4月1日から平成3年3月31日まで(乙13の2)
③平成3年4月1日から平成4年3月31日まで(乙13の3)
④平成4年4月1日から平成5年3月31日まで(乙13の4)
⑤平成5年4月1日から平成6年3月31日まで(甲2の1,乙
13の5)
⑥平成6年4月1日から平成7年3月31日まで(甲2の2,乙
13の6)
⑦平成7年4月1日から平成8年3月31日まで(甲2の3,乙
13の7)
⑧平成8年4月1日から平成9年3月31日まで(甲2の4,乙
13の8)
⑨平成9年4月1日から平成10年3月31日まで(甲2の5,
乙13の9)
⑩平成10年4月1日から平成11年3月31日まで(甲2の6,
乙13の10)
⑪平成11年4月1日から平成12年3月31日まで(甲2の7,
乙13の11)
ウ原告Aは,次のとおり任命権者C研究所長から事務補佐員(C研
究所開発・事業部アプリケーション課)として,各任期満了後,各
1年の任期付きで任用更新された。
⑫平成12年4月1日から平成13年3月31日まで(甲2の8,
乙13の12)
⑬平成13年4月1日から平成14年3月31日まで(甲2の9,
乙13の13)
⑭平成14年4月1日から平成15年3月31日まで(甲2の1
0,乙13の14,15)。
エ原告Aの給与は時間給であり,毎月末日締めの翌月17日払いで
あった。勤務日及び勤務時間は1週間5日,1日6時間であった
(甲7)。
(3)原告Aに対する任用更新の拒絶
ア原告Aは,「あなたの場合にあっては,平成14年4月1日付け
の人事異動通知書に記載されているとおり平成15年3月31日限
りで任期満了となりますが,平成15年4月1日以降の任用は予定
しておりませんので,予めお知らせいたします。」との記載のある
C研究所管理部総務課長名の平成15年1月23日付け書面(甲
3)を受け取った。
イ平成15年3月31日,前記に係る任用の任期が満了し,原告A
は,同日限りC研を退職した扱いとされ(乙13の16),もって
任用更新を拒絶された(以下「本件任用更新拒絶」という。)。
(4)原告C研究所非常勤職員組合(以下「原告組合」という。)は,国
家公務員法108条の3に基づき,平成15年3月3日に人事院に職
員団体登録した職員団体である(甲4,甲5)。
2争点Ⅰ「原告Aの勤務関係は,私法上の労働契約関係か,公法上の公
務員任用関係であるか。」
(1)原告らの主張
ア原告AとC研との勤務関係は,非常勤職員といってもその実態に
おいて私法上の労働契約関係とみるべきである。
イしたがって,その雇止めには,解雇に関する法理の類推が妥当す
るものと解するべきである。
ウそして,本件雇用関係は有期労働契約に基づくものであったが,
ほぼ14年間の長きにわたり更新を繰り返してきた結果,実質的に
は期限の定めのない労働契約と同視すべき状態に至っており,かつ,
本件任用拒絶は,合理性のない雇止めであるから,無効というべき
である。よって、原告Aは、被告に対し労働契約上の地位を有する。
(2)被告の主張
ア非常勤職員は,国家公務員法附則13条に基づく特例である人事
院規則8-14(非常勤職員等の任用に関する特例)を根拠として
任用される公務員であって,私法上の労働契約に基づく労働者では
ない。
イしたがって,原告Aの勤務関係は,私法上の労働契約関係ではな
いから,いわゆる雇止めとは事情が異なり,解雇に関する法理を類
推する余地はない。
3争点Ⅱ「非常勤職員の勤務関係に解雇に関する法理が類推されるか。
信義則,権利濫用の法理が適用されるか。」
(1)原告らの主張
ア非常勤職員の勤務関係を公法上の任用関係と解するとしても,公
務に従事する者については,公務の民主的かつ能率的な運営を阻害
することがないようその身分の保障が図られなければならないから,
非常勤職員の勤務関係にも信義則や,権利濫用が許されない旨の民
法1条所定の法規制が及ぶと解される。
イそのことからすると権利濫用の法理の延長である解雇に関する法
理の類推も肯定されるべきである。
(2)被告の主張
ア人事院規則では,任期を定めて任用された職員の任期が満了した
場合においてその任期が更新されないときは,当然退職するものと
されている(人事院規則8-12(職員の任免)74条)。
イ期間の定めのある任用更新が繰り返されたからといって,期限の
定めのない任用になることはない。
ウ非常勤職員の勤務関係は公法的規律に服する公法上の任用関係で
あるから,その任用更新の拒絶について私法上の法原理である解雇
に関する法理が類推されると解すべき余地はない。信義則や,権利
濫用が許されない旨の民法1条所定の法規制が及ぶこともない。
4争点Ⅲ(仮に上記法理の適用が一般的に肯定されるとして)「原告A
に対する本件任用更新拒絶が有効か否か。」
その前提となる争点として,争点Ⅲー1「G情報センターが原告Aに
対し,平成11年12月27日ころ,今後の任用更新は3年を上限とす
る旨を告知したか否か。」
(1)原告らの主張
ア原告Aを含む事務補佐員は,G情報センター及びC研から,正職
員同様に本人が退職を希望しない限り長期に雇用されるものとして
処遇上も扱われてきた。また,人事担当者から「定年を超えても働
けるから」と告げられた者もおり,相当長期の雇用継続が予定され,
原告Aもこれを期待していたものである。現に原告Aは13回にわ
たり任用更新を受け,その勤務期間は13年11か月に及んでいる。
イ原告Aは,被告から,平成11年12月27日ころ,今後の任用
の更新は3年を上限とする旨の告知を受けたことはない。
ウ平成11年4月にG情報センターからC研に改組された時も,事
務補佐員について一定の期間経過後に雇用を打ち切る旨の説明がな
されたことなどなく,改組後も従前どおり任用更新が行われ,その
回数も3回に及んだ。
エ原告Aが次年度の任用更新を受けられないかもしれないと思った
のは,平成14年11月ころ,平成14年10月10日付け総務課
長事務連絡「非常勤職員の雇用計画等について(依頼)」(甲1
2)をたまたま目にした時であり,公式にこれを知らされたのは,
平成15年1月23日付け書面(甲3)を受け取ったときである。
オ以上によれば,原告Aに対する本件任用更新拒絶は,合理性を欠
き,かつ,信義則に反するので,解雇に関する法理ないし信義則及
び権利濫用の法理に基づき,本件任用更新拒絶は許されない。
カそして,原告Aは,国立大学等の職員であったところ,国立大学
法人法の施行の際に別段何らの辞令を受け取っていないから,国立
大学法人法附則4条により,平成16年4月1日をもって被告大学
共同利用機関法人E研究機構の職員に移行した。同職員には被告の
就業規則が適用され,ここにおける勤務関係は私法上の労働契約関
係とされているから,原告Aは,被告に対し,同日以降は労働契約
上の地位を有するに至った。
(2)被告の主張
ア非常勤職員の任用を更新するかどうかについては,予算,業務の
必要性,当該非常勤職員の能力,事務・事業の合理化推進の必要性
等の事情を総合的に勘案して決定している。
イG情報センターは,改組後の非常勤職員の任用について,平成1
1年3月に説明会を開催し,非常勤職員が従事しているすべての業
務がこのまま継承されることはかなり難しいこと,業務補助が必要
となる場合は非常勤職員に依頼する業務内容等を整理した上で予算
の許す範囲内で改めて募集すること等について,原告Aら非常勤職
員に説明した。
ウ次いで,平成11年12月27日付けで,今後は非常勤職員の任
用予定期間は原則として1年とし,任用を更新する場合でも最長3
年とする旨の方針を決定し,これを各課長宛てに通知し(乙10),
課長がその所属の非常勤職員に口頭で告知した。
エC研において,平成15年3月31日をもって上記3年間の任用
期限が満了する非常勤職員は36名いたところ,そのうち任用更新
しなかった者が23名で,その理由内訳は非常勤職員による代替補
充9名,外部業務委託(民間会社への業務の外注化・アウトソ-シ
ング)8名,削減6名である。原告Aが携わっていた業務は外部業
務委託された。また特例的に任用更新した者は13名であるが(成
果普及課,コンテンツ課),これらの者もいずれも平成16年3月
31日までに自己都合または任期満了により退職している。
オ以上によれば,解雇に関する法理の類推が許されないことは前記
のとおりであるが,そもそも本件任用更新拒絶には何ら信義則に反
するところはないから,これを違法・無効と解する余地はない。
カ加えて原告らの主張によっても,平成15年4月1日付けでの任
用更新をしないことが違法・無効だとした場合,そもそも原告Aが
いかなる地位を取得するのか不明であり,平成16年4月1日にお
いてC研の職員であることを根拠付けることはできないというべき
である。そうすると,原告Aが,国立大学法人等の成立の際,現に
国立大学等の職員等にある者に当たると解する余地はなく,国立大
学法人法附則4条を適用する前提を欠くといわざるを得ない。
5争点Ⅳ「本件任用更新拒絶によって,原告Aの期待権が違法に侵害さ
れ損害を被ったといえるか。」
(1)原告らの主張
ア原告Aは,雇用継続について法的に保護されるべき合理的な期待
を有していた。
イ本件任用更新拒絶によりこれが裏切られ,著しい精神的損害を受
けた。その損害を金銭的に評価するなら,再就職に必要な期間とし
て6か月分の賃金相当額114万174円と慰謝料200万円が相
当である。
(2)被告の主張
ア原告Aが任用更新されることにつき仮に何らかの期待を抱いてい
たとしても,その期待利益は,法が非常勤職員についての任用更新
を否定していないことによって反射的にもたらされる事実上の不利
益に過ぎず,法律上保護された利益でないものというべきである。
イしたがって,本件任用更新拒絶により,その権利ないし法的利益
が侵害されたと解する余地はない。
6争点Ⅴ「原告組合の団体交渉申入れに対するC研の対応が,違法なも
のとして同組合に対する不法行為になるか。」
(1)原告らの主張
ア本件においては,任用更新をしない旨告げられた時点において,
既に原告Aらの任期満了日が迫っており,一刻も早く団体交渉をし
なければ同原告らに著しい不利益を与える急迫した事情が存在した。
にもかかわらずC研は,原告組合の団体交渉申入れに対し,職員団
体としての適格性が確認できないとしてこれを事実上拒否した。C
研の上記対応は,任期満了日が迫っていることを承知の上で,時間
切れを狙ったものとしか思われない。よって,C研が職員団体登録
まで予備交渉に応じなかったことは違法な団体交渉拒否である。
イC研は,原告組合の職員団体登録手続が完了した後においても3
回の予備交渉に応じたのみであった。このようなC研の対応が,違
法なものとして同組合に対する不法行為になることはいうまでもな
い。
ウ上記交渉拒否により原告組合は,職員団体としての社会的評価及
び存在価値を毀損され損害を被った。これを補填するには100万
円が相当である。
(2)被告の主張
ア交渉申入れ団体が登録された職員団体でない時は,当該団体の構
成員は職員が主体となっているか,その目的とするところが交渉の
内容にふさわしいものかなど,総合的に勘案して,交渉することが
適当であるかどうか判断する必要がある。また,交渉を円滑かつ効
果的に行うためには予備交渉により,議題,時間,場所その他必要
な事項を取り決めて行うものとされている。
イ原告組合からの平成15年3月5日付けの交渉申入れに際しては,
人事院の登録通知が添付されており,交渉の当事者足りうることが
確認されたので,予備交渉を行うこととした。同月13日,同月2
5日,同月31日と予備交渉を行ったが合意に至らなかったもので
ある。なお,特定の職員につき任用更新するかしないかは任命権の
行使に属することであって,交渉により決めることではないため本
交渉に至らなかったものである。
ウ原告組合の構成員3名のうち非常勤職員であった原告Aを含む2
名が平成15年3月31日をもって任期満了退職したため,原告組
合は同年4月1日以降は国公法上の職員団体ではなくなった。そこ
でC研では,原告組合との団体交渉は成立しないと考えたが,それ
までの経緯を考慮し,同年4月11日及び同月24日には話し合い
に応じたものの,進展が見られなかった。そのため同年5月,これ
以上話し合っても意見の一致を見出すことが困難であると判断し,
以降の交渉申入れに対しては応じない旨を回答したものである。
エ以上のようなC研の対応には,原告組合に対する団体交渉義務違
反はないから,何ら違法なものではない。
7その他の主張
(1)原告らの主張
原告Aは,給与として平成15年1月分から3月分まで月平均19
万29円を受け取っていた。
(2)被告の主張
非常勤職員は1年度ごとに新たに任用され,その給与は,任用時に
その経験年数等を考慮して新たに決定される。平成15年3月当時の
原告Aの時間給は,1時間1220円であった。
8結論
(1)原告ら
よって,原告Aは,被告に対し,①労働契約に基づき,その地位の
確認及び未払給与として本件任用拒絶以降の平成15年4月分から平
成16年1月分までの合計190万290円及び平成16年2月分
(支給日平成16年3月17日)以降,毎月17日限り,月額19万
29円の支払を求め(主位的請求),②不法行為による損害賠償請求
権に基づき,314万174円及びこれに対する不法行為以後の日で
訴状送達の翌日である平成16年3月30日から支払済みまで民法所
定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(予備的請求),③
原告組合は,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,
100万円及びこれに対する不法行為以後の日で訴状送達の翌日であ
る平成16年3月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合に
よる遅延損害金の支払をそれぞれ求める。
(2)被告
争う。
第3争点に対する判断
1争点Ⅰ「原告Aの勤務関係は,私法上の労働契約関係か,公法上の公
務員任用関係であるか。」について
(1)被告所論のとおり,非常勤職員は,国家公務員法附則13条に基づ
く特例である人事院規則8-14(非常勤職員等の任用に関する特
例)を根拠として任用される公務員であると解される。
(2)そして,前記摘示事実によれば,原告Aは,平成元年5月1日をも
って,任期付きの時間雇用職員たる非常勤職員として任用され,以来
その任用更新が繰り返されてきたところ,平成15年3月31日をも
って本件任用更新拒絶がされたものである。
(3)よって,原告Aの勤務関係は,任期を定めて任用された公法上の公
務員任用関係であると認められ,原告ら主張の私法上の労働契約関係
であるとは認められない。
2争点Ⅱ「非常勤職員の勤務関係に解雇に関する法理が類推されるか。
信義則,権利濫用の法理が適用されるか。」について
(1)人事院規則では,任期を定めて任用された職員の任期が満了した場
合においてその任期が更新されないときは,当然退職するものとされ
ていること(人事院規則8-12第74条1項)は,被告所論のとお
りである。
(2)任期の定めのある非常勤職員が任用更新を繰り返された場合の法的
効果について
ア常勤職員と非常勤職員とは,その採用方法や処遇において法によ
り歴然と区別がされており,かつ,任期の定めのない非常勤職員の
存在は,法の予定しないところというべきであるから,任期を定め
て任用された職員について,その任用の更新が繰り返されたからと
いって,常勤職員に転化することがないことはもとより,期限の定
めのない非常勤職員になることもないことも,また被告所論のとお
りである。
イかつて民間企業にまま見られたように,有期労働契約において,
その更新が繰り返されるうちに,次第にその契約期間完了の都度,
直ちに新契約締結の手続をとることが行われなくなり,実質的に期
限の定めのない契約と同視できるようになるといったケース(東芝
柳町工場臨時工契約更新拒絶事件・最判昭和49年7月22日民集
28巻5号927頁は,このような事案について解雇に関する法理
の類推を肯認した裁判例である。)は,勤務条件法定主義を採り,
法や規則に則って任用及び任用更新手続が履践される非常勤職員た
る公務員の任用関係においては考えにくい。
また,同様に当事者の合理的意思解釈によって,任用関係の内容
が改訂・変更されるとすることも認め難いことから,任用更新が繰
り返されたことによる非常勤職員の更新への期待に対して,直ちに
合理的期待であるとして法的保護が与えられると解することもまた
困難である。
ウ本件と同様の国立大学等の事務補佐員たる非常勤職員(ただし,
本件と異なり日々雇用職員)が3年度目の任用予定期間満了後に再
度の任用がされなかったため,その国家公務員たる地位の確認と損
害賠償を求めた事案(大阪大学図書館事務補佐員再任用拒絶事件)
について,控訴審(大阪高判平成4年2月19日労判610号54
頁)が,「国家公務員の勤務関係は公法上の関係であって,その任
用については国公法,人規その他の公法的規制下にあり,日々雇用
職員としての任用の更新が継続されたことを理由として,控訴人の
日々雇用職員としての任用が期限の定めのない非常勤職員としての
任用に転化することを認めることは,結局,任用の要件,手続,効
果等について,それぞれ法律によって定めている右国公法等の規定
の趣旨を潜脱する結果となるから,許されないものと解するのが相
当である。」「公法的規制を受ける国家公務員の任用関係の性質か
らすると,日々雇用の一般職国家公務員の地位は,任用期間の満了
によりて当然に消滅するものというほかなく,したがって,期間が
満了した非常勤職員を再度採用するかどうかは任命権者の自由裁量
に属し,解雇に関する法理を類推適用すべき余地はないものと解す
るのが相当である。」と判断したところ,これが上記東芝柳町工場
臨時工契約更新拒絶事件や日立メディコ柏工場臨時員契約更新拒絶
事件・最判昭和61年12月4日労判486号6頁等の最高裁判例
違反である等とした上告理由に対し,最高裁判所は,「原審の適法
に確定した事実関係の下においては,上告人は,昭和59年3月3
0日に任用予定期間が経過したことによって当然に退職したものと
した原審の判断は,正当として是認することができ,右判断は,所
論引用の判例に抵触するものではない。」と判示した(最判平成6
年7月14日労判655号14頁)のは,上記の趣旨によるものと
思われる。
エまた,被告所論の横浜市所在の青葉台郵便局の非常勤職員(日々
雇用職員たるいわゆる「ゆうメイト」)の任用更新拒絶について,
損害賠償を請求した事案(乙25,乙26,乙27)に関する控訴
審判決(東京高判平成15年8月6日,乙26)が,「控訴人ら日
々雇用職員の任用上の法律関係を定める上記人事院規則及び任用過
程の上記のような規定内容に照らせば,その任用関係について,法
の一般原則により解雇権濫用の法理が適用又は類推されるとする控
訴人らの主張は採用することができない。」と判示したのも,同様
の理を述べたものとも考えられるところである。
(3)非常勤職員の勤務関係に対する信義則,権利濫用の法理の適用
ア被告は,「非常勤職員の任用を更新するかどうかについては,予
算,業務の必要性,当該非常勤職員の能力,事務・事業の合理化推
進の必要性等の事情を総合的に勘案して決定している。」と主張し,
非常勤職員の任用更新または更新拒絶の判断は,上記事情を勘案し
た上での任命権者の裁量処分と主張するようである。
イそうであったとしても,行政事件訴訟法30条は,取消訴訟につ
いて「行政庁の裁量処分については,裁量権の範囲をこえ又はその
濫用があった場合に限り,裁判所は,その処分を取り消すことがで
きる。」と定め,裁量処分に関しても裁量権の逸脱または濫用の場
合には違法となる旨明記しているところである。
ウ思うに,権利濫用ないし権限濫用の禁止に関する法理は,解雇に
限らず一般的に妥当する法理であって,「権利の行使及び義務の履
行は,信義に従い誠実に行わなければならない。」という信義則の
法理と共に,公法上の法律関係においても適用の余地のある普遍的
法原理であるというべきであって,これは裁判例も認めるところで
ある。
エそして,任期付きで任用された公務員の任用関係が,被告所論の
ように公法的規律に服する公法上の法律関係であるとしても,この
場合に,これらの法理の適用の可能性を全く否定するのは相当では
ない。これを解雇権濫用法理の類推と呼ぶかどうかは別として,特
段の事情が認められる場合には,権利濫用・権限濫用の禁止に関す
る法理ないし信義則の法理が妥当することがあり得ると考えるのが
相当である。
(4)最高裁判所も,前記大阪大学図書館事務補佐員再任用拒絶事件・最
判平成6年7月14日労判655号14頁において,「任命権者が,
日々雇用職員に対して,任用予定期間満了後も任用を続けることを確
約ないし保障するなど,右期間満了後も任用が継続されると期待する
ことが無理からぬものと見られる行為をしたというような特別な事情
がある場合には,職員がそのような誤った期待を抱いたことによる損
害につき,国家賠償法に基づく賠償を認める余地があり得る。」とし
て,非常勤職員に対する任用更新拒絶が違法と評価されることがあり
得ることを示しているところ,これは,前記(3)エにいう特段の事情が
認められる場合を示したものとも解される。
(5)任用更新拒絶が権利濫用に当たる場合に言及した裁判例
ア被告所論の横浜市所在の港郵便局の非常勤職員(日々雇用職員た
るいわゆる「ゆうメイト」)の任用更新拒絶に関する雇用契約関係
確認等請求の行政訴訟の事案(乙35,乙36)において,その控
訴審判決(東京高判平成16年8月25日,乙36)は,「控訴人
の期限付任用は,制度上,更新が当然に予定されているものではな
いから,解雇事由がないから任用更新ができないとか,任用更新を
しないこと自体が権利濫用であるとは認めることができない。」と
判示している。
イしかし,同控訴審判決は,それに続いて「なお」として,任用更
新をしなかった理由について触れて当該事案の事情を考察したうえ,
「そこで,課長の説明に係る上記任用更新をしない理由というもの
も,全く根拠がないものとは認められず」と説示し,加えて「その
他にも控訴人について任用更新をしないことが特別に権利濫用に当
たることをうかがわせるような事情も見当たらない。」と判断する
ところである。
ウ上記裁判例は,ここにいう「任用更新をしないことが特別に権利
濫用に当たる事情」が存在する場合には,任用更新拒絶が許されな
いことを示したものと解されるところ,ここにいう「任用更新をし
ないことが特別に権利濫用に当たる事情」とは,前記(3)エにいう特
段の事情と同義と解されるものと思料する。
エなお,原告ら所論の岡山市所在の岡山中央郵便局の非常勤職員
(ゆうメイト)の任用更新拒絶に関する地位確認等請求事件につい
て,岡山地判平成14年10月15日労働法律旬報1552号38
頁(甲37)は,「本件の期限付き任用の内容は職員の身分保障を
妨げないものでなければならず,信義則や,権利濫用が許されない
旨の民法1条所定の法規整が及ぶものというべきであって,本件雇
止めにも解雇権濫用法理の類推適用の余地がある。」「期間満了に
よって,当然に任用関係が消滅し,あるいは,被告の自由裁量によ
って更新拒絶をなしうるものではなく,前記一に説示したことに照
らし,更新拒絶が権利濫用に係るものでないことが必要である。」
として,上記観点から当該雇止めの効力について検討している(結
論としては,当該原告が顧客との信頼関係を損ね,職務の円滑な遂
行を阻害し,また,職務を懈怠したとして,当該雇止めは相当であ
るといわざるを得ず,解雇権濫用と見られるべき点は認められない
としている。)。
(6)結論
ア以上によれば,①任命権者が,非常勤職員に対して,任用予定期
間満了後も任用を続けることを確約ないし保障するなど,右期間満
了後も任用が継続されると期待することが無理からぬものと見られ
る行為をしたというような特別な事情があるにもかかわらず,任用
更新をしない理由に合理性を欠く場合,②任命権者が不当・違法な
目的をもって任用更新を拒絶するなど,その裁量権の範囲をこえま
たはその濫用があった場合,③その他任期付きで任用された公務員
に対する任用更新の拒絶が著しく正義に反し社会通念上是認しえな
い場合など,特段の事情が認められる場合には,権利濫用・権限濫
用の禁止に関する法理ないし信義則の法理により,任命権者は当該
非常勤職員に対する任用更新を拒絶できないというべきである。
イよって,本件において,上記特段の事情が認められる場合に当た
るか否かについて以下に検討する。
なお,当裁判所は,後記の理由から本件における特段の事情の有
無の認定に際しては,G情報センターが原告Aに対し,平成11年
12月27日ころ,今後の任用更新は3年を上限とする旨を告知し
たか否かが,重要な間接事実となるものと思料する。
3そこで,以下に上記特段の事情の存否に関する判断,その他争点Ⅲ,
Ⅳ,Ⅴに対する判断の前提となる事実関係を審究するに,証拠及び弁論
の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1)原告Aの任用
ア原告Aは,雑誌に載っていたG情報センターの求人広告を見てこ
れに応募した(甲52)。
G情報センター所長は,平成元年5月1日付けで原告Aを非常勤
職員(時間雇用職員,事務補佐員,事業部データベース課)として,
任期を平成2年3月31日まで,時給を657円として任用し,そ
の旨の人事異動通知書を交付した(乙13の1)。
イ原告Aが担当してきた業務内容は,学会発表データベース及び科
学研究費成果概要データベース等のデータ整理(原稿のチェック,
納品データの確認チェック等)及び業務補助であり,その間に13
回にわたって任用更新が繰り返されたが,C研への改組後もその業
務内容に基本的に変更はなかった(甲41,甲42,甲43,甲4
4,甲45,甲46,甲47,甲48,甲49,乙13の1ないし
16,原告A本人尋問の結果・5頁)。
ウC研が原告Aに宛てた「非常勤職員の勤務条件等」と題する書面
(甲7)には,身分として「一般職員の国家公務員のうち,非常勤
職員(時間雇用職員)として採用された。」,任期として「当該会
計年度とする。」,勤務日等として「週5日・月~金を勤務日とし,
他の日は勤務を要しない日とする。」,勤務時間として「1週間の
勤務時間は30時間とする。月~金曜日1日6時間(10時00分
~16時30分)」,休暇として「人事院規則15-15(非常勤
職員の勤務時間及び休暇)等の規定に基づき休暇を与える。」,災
害保障(ママ)として「公務上の災害に対しては,国家公務員災害
保障(注;「補償」の誤記と思われる。)法の適用がある。」,そ
の他として「社会保険(健康保険,厚生年金),雇用保険に加入す
ることができる。」との記載がある。
エ原告Aは,平成2年4月1日より雇用保険に,平成8年10月1
日より厚生年金にそれぞれ加入していた(甲6,甲9)。
(2)Dの勤務条件
ア原告組合の代表者であるD(以下「D」という。)は,原告Aと
同様,G情報センター事業部データベース課ないしC研開発・事業
部アプリケーション課の非常勤職員として平成元年4月1日から勤
務していた者である。
イG情報センターがDに宛てた「非常勤職員の勤務条件等」と題す
る書面(甲8)の記載内容は,身分,任期,勤務日等,災害保障及
びその他は上記甲7と同様である。勤務時間は「週31時間,月曜
日から木曜日1日6時間(9時00分~15時15分),金曜日7
時間(9時00分~16時15分)であるほか,休暇の欄には「年
次有給休暇」として,「(1)採用後1年以上継続して勤務し,全勤
務日の8割以上出勤した場合に,次の1年間に下表の休暇日が与え
られる。」として下表には「勤続勤務年数が1年以上2年未満10
日,2年以上3年未満11日,3年以上4年未満12日,4年以上
5年未満13日,5年以上6年未満14日(いずれも週5日勤務の
場合)」との記載が,また「(3)残日数は10日を限度として,次
の1年間に繰り越すことができる。」との記載になっている。
ウ上記勤務条件中,年次有給休暇については,その事務補佐員とし
ての共通性から,原告Aについても同様であったと解される。
(3)G情報センターからC研への改組の前後
アG情報センターからC研への改組に先立つ平成11年3月9日,
平成12年以降の非常勤職員の雇用について,非常勤職員を対象者
とする連絡会が開催された(乙9の1,2)。
イ上記連絡会には原告Aも出席した。出席者には,「G情報センタ
ー非常勤職員各位」として「平成12年4月以降のG情報センター
における非常勤職員の雇用について」と題したG情報センター管理
部長名の平成11年3月9日付け文書(事務連絡)(甲9の2)が
配布された(証人Hの供述・7頁,原告A本人尋問の結果・25
頁)。ここでの説明内容は,「現在のG情報センターの業務はどう
なるのかということは現時点では何ともいえませんが,(中略)す
べての業務が現状のまま継承されるというのは,かなり難しいので
はないかと思われます。」「継承される場合でも,その継承される
業務への対処方針を検討し,業務補助が必要となるときは,依頼す
る業務内容や条件を整理した上で,予算の許す範囲内で,改めて募
集させていただくことになると思います。」「また,更なる状況の
変化があれば,適宜ご連絡させていただきます。」という抽象的,
仮定的なものであった。
(4)G情報センターの平成11年12月27日ころの方針
ア管理部総務課長の同年12月27日付け事務連絡「平成12年度
非常勤職員の採用に伴う取扱いについて」(乙10)には,「任用
期間は原則として1年間とする。なお,センター側と本人が同意す
ればさらに1年間更新することができるが原則として最大3年間と
する。」と記載されている。
イ上記方針に基づいて,G情報センターは,各非常勤職員が所属す
る課の各課長に対して,各非常勤職員に対し,上記方針を口頭で告
知するよう指示した。ただし,この時には前記3月時の連絡会のよ
うな説明会が催されたことなく,非常勤職員に対する説明文書が配
布された事実もなかった。また,非常勤職員から上記方針に関する
承諾書を取り付けることもしなかった(証人Hの供述・46頁)。
ウ上記当時,原告Aが所属する事業部データベース課の課長は,訴
外Iであり(以下「I課長」という。),同課には当時原告A,D
を含む6名の非常勤職員が在籍していた(乙13の11)。
エ平成11年12月27日以後,非常勤職員の間からG情報センタ
ー当局に対する反発ないし動揺が生じた様子は窺われない(証人H
の供述・10頁,46頁)。原告Aにおいても,その直後に何らか
の行動をおこすこともなく,格別普段と変わることなく勤務してい
たことが窺われる(原告A本人尋問の結果・28頁,39頁)。
オC研へ改組された平成12年4月1日以降も,原告Aは任用更新
されたこと,所属部課名が事業部データベース課から開発・事業部
アプリケーション課に変更されたものの,原告Aの担当業務はほぼ
従来通りであったことは前記のとおりである。
カC研へと改組されたころから,新たに採用される事務補佐員に対
しては,3年で雇用を打ち切る旨の文書に署名・押印を求めるよう
になり(訴状7頁),原告Aも,このことを聞き知った(甲52,
原告A本人尋問の結果・28頁)。
キなお,上記改組に際して,C研の建物が千代田区mn丁目o番p
号G総合センター内の現在地へ移転し,竣工式が行われたが,原告
Aが所属していた課では非常勤職員に対する式の案内はなく,式か
ら戻ってきた一部の常勤職員から「行きたければ行ってくれば。」
と言われただけであって,原告Aは悔しい思いをした(甲52)。
(5)平成14年10月,11月の非常勤職員の雇用計画に係る調査
ア平成14年11月12日起案の「非常勤職員の雇用計画等につい
て」と題する文書(甲11)添付のアプリケーション課に係る平成
14年10月24日付け「非常勤職員の雇用計画に係る調査票」に
は,システム開発管理係欄に,非常勤職員氏名「D」,外注化の可
否「可」,H15年度必要人員「1」,H15年度の状況「要後任
補充」との記載が,データ処理技術係の欄に,非常勤職員氏名
「A」,非常勤に係る業務内容「科研DB原稿前処理,引用DB雑
誌受入処理,科研DB,引用DB納品データチェック・修正」,外
注化の可否「可」,H15年度必要人員「1」,H15年度の状況
「派遣切り替え可(司書資格保有者希望)」との記載がある。
イこの調査票は,平成14年10月10日付け総務課長事務連絡
「非常勤職員の雇用計画等について(依頼)」(甲12)に基づい
て作成されたものである。当時,アプリケーション課は,常勤職員
が課長1名,課長補佐1名,係長3名,事務官3名の計8名,非常
勤職員が原告A,Dら事務補佐員計5名の構成であった(乙24の
2)。
ウこの時点では,アプリケーション課に在籍する5名の事務補佐員
のうち,システム開発係のDについては任期満了と共に退職して後
任を補充することに,データ処理技術係の4名中,訴外J及び原告
Aが任期満了と共に退職して後任は司書資格保有者による派遣切り
替えに,訴外Pは15年度内継続要望に,訴外Kは,当初採用が平
成12年11月1日であるため,任用期間が3年に達せず,任用更
新した上,3年に達する平成15年11月以降も年度内は継続任用
することが,開発・事業部側の希望であったことが窺われる(甲1
1)。
(6)C研の平成14年12月27日ころの方針
ア平成14年12月27日付け事務連絡会議決定の「平成15年3
月31日における非常勤職員(事務系)の取扱い」と題する文書
(乙11の2,なお,甲10はその案である。)には,「C研が平
成12年4月1日に改組・創設された際,それまで任期を付されて
いなかった平成12年4月1日以前より在職している時間雇用非常
勤職員(事務系)の雇用期間については,一律に平成12年4月1
日を始期とする最長3年間の雇用期間とすることとなった。従って,
平成15年3月31日には一度に多くの者が雇用期間満了とな
り,」との記載がある。
イ加えて上記会議決定では,続いて「場合によっては,業務遂行上,
著しく支障が出ることが危惧される。」として,「下記の①から③
の何れかに該当し,かつ,業務を遂行するうえで真に必要と認めら
れる場合には,特例措置として3年を超えて平成15年4月1日か
ら平成16年3月31日まで継続雇用できることとする。なお,本
措置を適用する際の非常勤職員の選考については,その必要性,合
理性,客観性に十分配慮し,公平かつ適切な方法で行うものとす
る。」として次の基準が示された
①同一係において相当数の非常勤職員が同時に雇用満了となり,
担当業務の専門性及び業務の複雑・困難さの観点から早急な代替
措置又は外注化が困難である場合。
②同一係の上記職員が全て異動することにより,円滑な業務引き
継ぎ等が担保されず継続性の観点から業務に支障が生ずることが
明らかである場合。
③常勤職員の欠員に伴う経過措置として一時的に常勤職員の行っ
ていた業務の一部を当該非常勤職員が担当しているなかで,早急
な欠員補充が困難であり,かつ,円滑な業務の継続性が必要な場
合。
(7)平成15年1月の非常勤職員の雇用計画に係る調査
ア平成15年1月7日起案・同月9日決裁の「平成15年度非常勤
職員の雇用について」と題する文書(乙11の1,2)に基づいて,
非常勤職員の雇用計画に関する調査が行われ,「平成15年度非常
勤職員雇用予定調査票」が作成された。
イそのアプリケーション課に係る同年1月27日付け調査票(乙3
0)によると,Dは「要後任補充」であって従前の調査票(甲1
1)の記載と変わらないが,原告Aは外注化「可」,「後任不要
(請負切替予定)」とされ,原告Aの業務に関しては従前の「派遣
切り替え可」から「請負切替予定」に変更された。また,従前15
年度任用更新予定であったPについては「後任不要(請負切替予
定)」に変更されている。
ウこれらは原告Aの属するデータ処理技術係においては,事務補佐
員4名中,原告Aを含む3名が平成15年3月31日が雇用期限で
あったところ,その担当業務を民間委託(外注化)することとした
(甲50,乙30,被告準備書面(5)4頁)ことに伴うものと思われ
る。
エ上記調査に関連してコンテンツ課においては,平成15年1月こ
ろ,その所属の事務補佐員全員に対して課長による個別面談が行わ
れ,その席上,同課課長は,各事務補佐員に対し,3年を上限とす
る任用予定期間があることを了承しているかどうかを確認した(証
人Hの供述・44頁)。
(8)平成15年4月1日以降の任用計画の決定
ア上記調査に基づいて同年2月6日開催の事務連絡会議において,
C研において平成15年3月31日をもって上記3年間の雇用期限
が満了する非常勤職員は36名いたところ,そのうち任用更新しな
い者が23名で,その理由内訳は代替補充9名,外注化(アウトソ
-シング)8名,削減6名であり,成果普及課,コンテンツ課等の
13名を特例的に任用更新することとされた。その理由は,成果普
及課については上記③,コンテンツ課については上記①によるもの
とされた(乙12)。
イ上記決定に基づく同年2月7日起案・同月10日決裁の「平成1
5年度非常勤職員の雇用について」と題する文書(乙12)のとお
り,成果普及課及びコンテンツ課からの特例措置として継続雇用を
希望する者については1年を限度とする継続が認められたことによ
り,各課において,雇用予定者の勤務の意志及び任期等を確認の上
2月28日まで必要書類を提出することとされた。また,後任の補
充に当たり一括面接等を必要とする場合は,その有無を2月14日
まで総務課長まで連絡するものとされた(乙12)。
ウC研は,平成15年2月23日朝刊に事務職の求人広告を出した
(甲14),上記後任の代替補充者等を募集した。
(9)原告Aに対する本件任用更新拒絶の告知
ア原告Aは,平成14年11月ころ,前記(5)の非常勤職員の雇用計
画等についての文書(甲11)を見たというDから話を聞かされ,
自分の欄が「派遣切り替え」と記載されていることを知り,不安に
感じた。次いで平成15年1月に入ると,同じ開発・事業部のコン
テンツ課において,非常勤職員に対して課長から「平成15年3月
における3年雇い止めについて知っているか。」との確認が個別に
あったという噂を耳にし,さらに前記(6)の平成14年12月27日
付け事務連絡会議決定の「平成15年3月31日における非常勤職
員(事務系)の取扱い」と題する文書の案文(甲10)に,「時間
雇用非常勤職員(事務系)の雇用期間については,一律に平成12
年4月1日を始期とする最長3年間の雇用期間とすることとなった。
従って,平成15年3月31日には一度に多くの者が雇用期間満了
となり,」との記載を発見して不安に駆られた(甲52,甲58,
原告A本人尋問の結果・30頁,34頁,36頁)。
イ原告A,Dは,訴外Lと連名で,平成15年1月20日,C研所
長宛てに「来年度も雇用が更新されるものと信じておりますが,最
近,私たち非常勤職員の間で,『非常勤職員(ただし研究系を除
く)において来年度の任用更新が行われない』のではないか,とい
う噂が流れており,そのことにより大きな心労を感じておりま
す。」との文書を提出した(甲13)。
ウこれに対しC研は,平成15年1月23日付けで管理部総務課長
名で原告A宛てに,所長了解のもと,所長に代わり回答するとして,
「非常勤職員は,国家公務員法附則13条に基づく特例である人事
院規則8-14(非常勤職員等の任用に関する特例)を根拠として
雇用されております。非常勤職員の任用制度は,年度毎に1日以上
最長1年以内の任期を付して任用され,任期満了を以て当然に退職
を予定した任用形態の制度であり,再任用を前提とした制度ではあ
りません。あなたの場合にあっては,平成14年4月1日付けの人
事異動通知書に記載されているとおり平成15年3月31日限りで
任期満了となりますが,平成15年4月1日以降の任用は予定して
おりませんので,予めお知らせいたします。」と回答した(甲3)。
エこれを受けて原告A,Dは,平成15年2月6日,C研所長宛て
に「平成15年1月22日に総務課長より,『「C研究所になった
のを機に平成12年4月1日に事務系の非常勤職員の任期はこれ以
降最長3年間の雇用期間とすることとなった。」と決まった。』と
突然宣告されましたが,私たちは「最長3年間」という話は伺って
おりませんし,文書等もいただいていない旨を伝えたにもかかわら
ず,『言いました。』『決まりました。』と何度も言われ,たいへ
ん困惑している次第です。」「4月以降の収入源を絶たれ,生活に
困窮するのは目に見えています。私たちは,今後もC研究所での勤
務を続けたいと思っております。」との「要望書」(甲15)を提
出した。
(10)原告組合の結成
ア原告A,Dは,平成15年1月20日,女性ユニオンBに相談に
行き,女性ユニオンB執行委員長の訴外M(以下「M」という。)
に相談したところ,Mから,職員団体を結成して団体交渉をするこ
とを勧められた(証人Mの供述・1頁)。
イ原告A,Dは,Mと共に,平成15年2月5日,原告組合を結成
し(甲4),人事院に組合登録を申請した。
ウC研においては,それまで非常勤職員による職員団体は存在しな
かった(証人Hの供述・43頁)。
(11)原告組合のC研に対する団体交渉申入
ア原告組合は,平成15年2月6日,C研所長宛に「団体交渉申入
書」(甲16)を送った。その議題は,非常勤職員の任用更新,勤
務条件の改善,差別待遇問題その他であった。
これに対しC研は,「団体交渉について」と題する同年2月10
日付け文書(乙28)をFAXで送り,主として原告組合が国家公
務員法上の職員団体としての要件を充たしているか不明であるとし,
これを明確にするよう求めた(甲16,乙28,証人Hの供述・4
2頁)。
イ原告組合は,同月10日付けでC研所長宛に申入書(乙17)を
送った。
C研所長は,原告組合執行委員長D宛てに,「2003年2月1
0日付け申入書について」と題する平成15年2月13日付け文書
(甲18)を交付した。
ウ原告組合は,「予備交渉について」と題する同年2月19日付け
文書(甲31,乙18)に原告組合の規約(甲4)を添付してC研
に提出した。
C研は,原告組合が国家公務員法108条の2の職員団体である
かどうか,かつ,交渉の当事者としての適格性を有するかどうかに
ついて,上記規約からは確認できなかったとして,「予備交渉につ
いて」と題する同年2月24日付け文書(甲19)をFAXで送っ
た。
エ人事院関東事務局長は,原告組合を平成15年3月3日付けで登
録した(甲5)。
オ同年3月5日,原告組合は,C研所長宛に「団体交渉について」
と題する文書(甲20)を送り,①非常勤職員の任用更新について,
②非常勤職員の勤務条件の改善について,③非常勤職員に対する差
別待遇について,④その他を議事として団体交渉を行うよう求めた。
これには,人事院の登録通知(甲5)が添付されていたことから,
C研は,原告組合が交渉の当事者足りうることが確認されたとして,
予備交渉を行うこととし,原告組合に対し,「予備交渉について」
と題する同年3月7日付け文書(乙19の1)を送った。
(12)原告組合とC研との第1回予備交渉
ア同年3月13日午後3時から,第1回予備交渉が行われた。出席
者は原告組合側がD(執行委員長),訴外M(副執行委員長),原
告A(書記長)の3名で,C研側がN総務課長,O人事係長の2名
であった(甲53の1,2,乙31,証人Mの供述・4頁)。原告
組合は,同日付け「非常勤職員に対する任用更新拒否(解雇)の撤
回を求める要求書」(乙19の2)を提出した。
イその席上C研側は,任用更新の上限を3年とする方針の原告Aに
対する伝達について,「当時原告Aが所属していたデータベース課
のI課長が,平成11年12月27日か,2,3日以内に,データ
ベース課の非常勤職員を一堂に集めた上,口頭で通知した。」と回
答したところ,そのころデータベース課の非常勤職員が全員出勤し
ていた日があったとは思えないとの疑問が原告組合側から寄せられ
た(甲53の1,2)。
(13)原告組合とC研との第2回予備交渉
アC研は,原告組合に対し,「予備交渉について」と題する同年3
月18日付け文書(乙20)を送った。
イ同年3月25日午前10時30分から,第2回予備交渉が行われ
た。出席者は原告組合側が前回と同じ3名,C研側が前回の2名に
H総務課長補佐を加えた3名であった(甲54の1,2,乙31,
証人Hの供述・42頁,証人Mの供述・4頁)。
ウその席上C研側は,任用更新の上限を3年とする方針の原告Aに
対する告知について,「I課長に再度確認したところ,記憶がやや
薄れているため,一堂に集めた時に全員はいなかったかもしれない
が,いなかった非常勤職員に対して,別途日を空けず,間違いなく
雇用期間の件を伝えたとの返答だった。」旨,前回とはやや違う回
答をした(甲54の1,2)。
(14)原告組合とC研との第3回予備交渉
ア原告組合は,C研所長宛に,同年3月25日,「団体交渉につい
て」と題する文書(甲33)を,同年3月28日,「非常勤職員の
任用更新等についての要請」と題する文書(甲34,乙21)をそ
れぞれ送った。
イ平成15年3月31日午前10時30分から,第3回予備交渉が
行われた。出席者は,双方とも前回と同じ各3名であった(甲55
の1,2,乙31)。
(15)平成15年4月1日以降の交渉経過
ア平成15年4月1日,原告組合のMは,原告A,Dらと共に,C
研所長宛て「抗議及び団体交渉申入書」(甲21)をC研総務課ま
で渡しに行き,同時に原告A,Dにおいて,同日以降もC研におい
て就労の意思のあることを示した(甲21,甲39,証人Mの供述
・5頁,10頁)。
イ原告組合は,更に同年4月7日付けで「質問及び要求書」(甲2
2)を,4月28日付けで「抗議及び交渉申入書」(甲23)を,
5月20日付けで「抗議及び交渉申入書」(甲24)を,10月2
日付けで「質問及び団体交渉申入書」(甲25)を,11月6日付
けで「抗議及び要求書」(甲26)を,それぞれ提出した。
ウこれに対してC研は,5月15日付け(甲27),6月3日付け
(甲28),10月15日付け(甲29),12月1日付け(甲1
7,乙22)及び平成16年3月19日付け(乙23)各文書で回
答したが,C研側では,平成15年4月1日以降,予備交渉という
認識はなく,話し合いの機会は持たれたものの(甲56の1,2),
以後交渉が開かれることはなかった(乙31,証人Hの供述・43
頁,証人Mの供述・6頁)。
(16)平成15年4月1日以降の非常勤職員の任用更新の状況
アC研において平成15年3月31日における任期満了者は,原告
Aを含め59名のところ,うち任用更新者は35名である。
イそのうち平成12年4月1日から起算して3年間の雇用期限が満
了する非常勤職員は36名であったところ,うち特例的に任用更新
された者が13名いる(コンテンツ課10名上記①該当,総務課2
名上記②該当,成果普及課1名上記③該当)。その残りの原告Aを
含む23名が任用更新されなかったところ,その理由内訳は,後任
の非常勤職員の任用による代替補充9名,外部業務委託8名,削減
6名である。そのうちC研として転職先をあっせんした者はいない
(証人Hの供述・16頁)。
ウなお,平成15年度においては24名が新規任用された。また,
上記13名の特例的任用更新者は,いずれも平成16年3月31日
までの間に自己都合または任期満了により退職している(被告準備
書面(7)13頁,証人Hの供述・15頁)。
(17)原告Aが担当していた業務の外注化
ア原告Aが平成15年3月当時担当していた学術用語集データベー
ス関連補助業務,引用文献リンクシステムの関連補助業務等は,他
の任用期間が満了した事務補佐員の業務と共に平成15年4月から
外部業務委託された(被告準備書面(7)14頁,甲50)。人材派遣
会社の派遣社員を受け入れているということではない(証人Hの供
述・15頁,37頁)。
イ平成16年4月の法人化に際して,開発・事業部のアプリケーシ
ョン課は,コンテンツ課に吸収される形で改組され,原告Aが担当
していた上記業務のうち学術用語集データベース関連補助業務はコ
ンテンツ課学術情報形成第2係が,引用文献リンクシステム関連補
助業務は同課学術情報形成第1係が,それぞれ担当することとされ
た(被告準備書面(7)14頁)。
(18)人事院からの職員団体の登録抹消申請の通知
平成17年3月15日,人事院は,関東事務局総務課長名で,原告
組合執行委員長に対し,平成16年4月1日の国立大学の法人化に伴
い,原告組合が国公法上の職員団体としての要件を具備しないものと
なったとして,職員団体の登録抹消申請書にて抹消手続を行うよう通
知した(甲36)。
4争点Ⅲー1「G情報センターが原告Aに対し,平成11年12月27
日ころ,今後の任用の更新は3年を上限とする旨を告知したか否か。」
について
(1)前記認定によれば,平成11年3月9日,G情報センターが説明の
ための連絡会をもったことが認められる。原告Aは3月の連絡会には
出席していたが,そこでは業務が今のままで継承されるとするのは困
難であるといった抽象的な説明があったに過ぎない。
(2)G情報センター管理部総務課長の平成11年12月27日付け事務
連絡「平成12年度非常勤職員の採用に伴う取扱いについて」(乙1
0)には,「任用期間は原則として1年間とする。なお,センター側
と本人が同意すれば更に1年間更新することができるが原則として最
大3年間とする。」と記載されているところであり,前記認定のとお
り,G情報センターが,平成11年12月27日ころ,今後は非常勤
職員の任用予定期間は原則として1年とし,任用更新する場合でも最
長3年とする旨の方針を決定したこと,上記方針に基づき,平成11
年12月27日ころ,これを各課長宛てに通知し,課長がその所属の
非常勤職員に口頭で告知するよう指示したことが認められる(乙10,
証人Hの供述・10頁,28頁)。
(3)被告は,「これにより原告Aの所属するデータベース課のI課長も,
同日ころ,上記方針を原告Aに対し口頭で伝えた。」と主張する。
(4)しかし,前記認定によれば,この時には前記3月時の連絡会のよう
な説明会が催されたことなく,非常勤職員に対する説明文書が配布さ
れた事実もないこと,非常勤職員から上記方針に関する承諾書を取り
付けることもしなかったこと,原告Aら非常勤職員の勤務条件等によ
ると,12月29日以降は勤務を要しない日となっているため(乙1
3の11),口頭による告知が可能なのは12月27日と28日の両
日しかないものの,原告Aが所属していたデータベース課の非常勤職
員の中にはその両日とも出勤していない者もいた旨指摘されており,
平成11年12月27日ころ,非常勤職員全員に伝えることができた
か否か疑問であること(証人Hの供述・45頁,原告A本人尋問の結
果・39頁),同日以後,非常勤職員の間からG情報センター当局に
対する反発ないし動揺が生じた様子は窺われないこと(証人Hの供述
・46頁),原告Aにおいても,その直後に何らかの行動をおこすこ
ともなく,格別普段と変わることなく勤務していたこと,非常勤職員
間に動揺が広がったのは,平成14年末になってからであること,原
告Aが具体的な行動をおこしたのは平成15年1月以降であることの
事実が認められる。
(5)前記のとおり平成15年3月時におけるI課長のC研に対する報告
内容にも変遷があり(甲53の1,2,甲54の1,2,証人Hの供
述・31頁,44頁),同課長が上記報告当時,平成11年12月こ
ろ原告Aに告知したか否かを記憶しているのか疑問を抱かせるものと
なっている。
また,前記平成11年12月27日付け事務連絡「平成12年度非
常勤職員の採用に伴う取扱いについて」(乙10)には,「おって,
平成10年4月2日以降平成12年3月末までの間に採用された非常
勤職員については,更新した場合でも最大その採用年月日から原則と
して3年間とする。」との記載が続いているところ,原告Aのように
上記平成10年4月2日より前に採用された者については当該事務連
絡の対象となっていないと解釈される可能性もあり,結局のところ,
I課長において平成元年5月1日採用の原告Aについては上記方針の
告知を必要ないと考え,原告Aに対して告知を行わなかった可能性も
ないとはいえない。
(6)以上によれば,I課長が原告Aにこれを告知したことを認めるに足
りる証拠はない。
(7)結局のところG情報センターの上記方針についての非常勤職員に対
する伝達は,不徹底だったものといわざるを得ず(証人Hの供述・4
7頁),被告主張の「G情報センターが原告Aに対し,平成11年1
2月27日ころ,今後の任用の更新は3年を上限とする旨を告知し
た。」との事実を認めるに足りる証拠はない。
5争点Ⅲ「原告Aに対する本件任用更新拒絶が有効か否か。」について
(1)以上の認定によれば,原告Aが担当してきた業務は,情報データベ
ース作成関連であって,学術情報の検索サービス,電子図書館サービ
スなど,学術情報提供サービスを行うことを主な事業の1つとするC
研にとっては,恒常的に必要な業務であったこと,それも特定の常勤
職員が担当していた業務を補助するという態様でなく,固有の担当業
務として継続して従事していたこと,G情報センター時代は,任用更
新を希望した非常勤職員はほぼ漏れなく任用更新されていたこと,原
告Aに限らず非常勤職員は一般に,ここは長く勤め続けられる職場だ
という認識を持っており,G情報センター側も,非常勤職員について
「任期を付されていなかった」という捉え方をしていたこと,その中
で原告Aは,平成元年5月1日から平成12年3月31日までのG情
報センター時代に10回,C研への改組後の平成12年4月1日から
平成15年3月31日まで3回の合計13回にわたる任用更新を受け,
継続して同種の業務に従事していたこと,その間,原告Aの勤務態度
及び業績に不足があった旨の被告の主張はなく,かつ,これを窺わせ
る事情も見受けられないことが認められる。
(2)G情報センターからC研への改組(平成12年4月1日)に際して,
G情報センターが,平成11年12月27日ころ,今後は非常勤職員
の任用予定期間は原則として1年とし,任用更新する場合でも最長3
年とする旨の方針を決定したことにより,非常勤職員の更新を巡る状
況は一変したわけであるから,これは非常勤職員の身分に関して重大
な方針変更があったと認められるところ,この方針変更決定が原告A
に伝えられることはなかったことは,前記4認定のとおりである。
なお,これに先立つ平成11年3月9日,連絡会が開催され,非常
勤職員への状況説明はあったものの,それはその時点での流動的状況
を反映して,その配布文書がいうように「現時点では何ともいえませ
んが」「更なる状況の変化があれば,適宜ご連絡させていただきま
す。」といった抽象的,仮定的なものに留まらざるを得なかったもの
であって,任用更新拒絶に関する具体的な告知とはいえないものであ
る。
その他に非常勤職員に対する連絡会等の説明の場が設けられた様子
もない。
(3)そして,平成12年4月1日のC研への改組に当たっても原告Aが
任用更新され,その所属する課の名称は変わったものの,原告Aが担
当する業務内容はほぼ従来のままであったこと,その際においても前
記任用更新に関する方針変更が原告Aに伝えられることがなかったこ
とが認められる。
その翌年の平成13年4月1日の任用更新に際しても同様である。
(4)その翌々年の平成14年4月1日においても同様に任用更新された
が,その時点に至ってもC研から原告Aに対し,上記方針変更の事実
を伝えられることがなく,また,上記変更された方針によれば,原告
Aについての任用更新は今回が最後となるところ,その旨を告知され
たこともないこと,その後においても平成15年3月31日において
任期満了となる原告Aに対し,その後の転職予定等について訊かれた
形跡もないこと(原告A本人尋問の結果・40頁)が認められる。
(5)そして,C研が原告Aに次年度の任用更新の予定がないことを告知
したのは,平成15年1月に入ってからであり,任期満了まで2か月
余しかない間近であって,かつ,それもC研が進んで告知したのでは
なく,周囲の噂から不安に駆られた原告Aからの質問に答えるもので
あったこと等の事実が認められる。
(6)厚生労働省は,告示357号「有期労働契約の締結,更新及び雇止
めに関する基準を定める告示」において,「使用者は,期間の定めの
ある労働契約の締結に際し,労働者に対して,当該契約の期間満了後
における当該契約に係る更新の有無を明示しなければならない。」と
定め,契約更新がない場合には締結に際しこれを明示するよう求めて
いる。
これは私法上の労働契約に関する告示であるから,非常勤職員たる
公務員の勤務関係を対象とするものではない。しかし,公務員であっ
ても,民間の労働者と同様,その職を失えば一介の私人(無職者)と
なって収入の途を立たれるわけであるから,任用更新の当否が種々の
事情を勘案して判断されるものだとしても,仮に任用更新をしないこ
とが任用当初からはっきりしているのであれば,任命権者は,任期付
き任用に際し,被任用者に対して,その任期満了後における任用更新
がないことを明示し,もって被任用者をしてその任期終了後の再就職
の途を探す機会を与える必要があるというべきである。
(7)本件においては,任命権者たるC研所長は,平成14年4月1日の
任用更新の時点で,原告Aに対し,次の任用更新をしないことを決め
ていたというのであるから,遅くともその時点ではこれを告知し,も
ってその任期満了後の再就職の途を探す機会を与えるべきであったと
思料する(その後の事情により,仮に原告Aが特例的に任用更新する
対象に含まれるに至った場合には,その時点でこれを伝えてこれに応
じるか否かを確認すれば足りるものと考える。)。
(8)衆議院議員の平成15年6月10日付け「『国立の大学及び研究機
関等における非常勤職員の雇い止め問題』に関する質問主意書」に対
する同年7月29日付け政府答弁書は,「研究所においては,任期満
了後に任用を更新しない非常勤職員に対しては,本人の申し出を受け,
可能な範囲で,再就職についての支援を行ったところである。」と回
答しているが(甲40),原告Aに対し,上記告知をしていないので
あるから,本人が申し出をする機会を与えていないに等しく,かつ,
その後においても転職予定等について訊かれた形跡もないのであるか
ら,同原告に対して再就職についての支援を行ったとは言い難い。
(9)思うに,非常勤職員といっても,任用更新の機会の度に更新の途を
選ぶに当たっては,その職場に対する愛着というものがあるはずであ
り,それは更新を重ねるごとに増していくことも稀ではないところで
ある。任命権者としては,そのような愛着を職場での資源として取り
入れ,もってその活性化に資するよう心がけることが,とりわけ日本
の職場において重要であって,それは民間の企業社会であろうと公法
上の任用関係であろうと変わらないものと思われる。
また,非常勤職員に対する任用更新の当否ないし担当業務の外注化
の当否については方針もあろうが,任用を打ち切られた職員にとって
は,明日からの生活があるのであって,道具を取り替えるのとは訳が
違うのである。
これを本件について見るに,C研においては,原告Aら非常勤職員
に対して冷淡に過ぎたのではないかと感じられるところである。永年
勤めた職員に対して任用を打ち切るのであれば,適正な手続を践み,
相応の礼を尽くすべきものと思料する次第である。
(10)以上要するに,原告Aは,平成元年5月1日に非常勤職員として
任用されて以来13年11か月にわたり,13回の任用更新を受け,
それなりに職場に愛着を持ちつつ勤務に励み,平成15年4月1日以
降も任用更新されるものと信じていたところ,C研においては,既に
平成11年末において原告Aの平成15年3月31日をもっての任用
終了方針を原則決定しており,しかるにその当時においても,その後
の最終の任用更新時においても,これを原告Aに告知することをせず,
まして,任期満了後における原告Aの再就職について,あっせんはも
ちろん心配もした形跡がないことが認められるのである。
上記事情の下においては,本件任用更新拒絶は,著しく正義に反し
社会通念上是認しえないというべきであって,前記2にいう特段の事
情が認められる場合に該当するものと思料する。
よって,任命権者たるC研所長が,原告Aに対し,平成15年4月
1日以降の任用更新を拒絶することは,信義則に反し,許されないも
のといわなければならない。
なお,被告は,争点Ⅳに係る損害賠償の点に関してではあるが,前
記大阪大学図書館事務補佐員再任用拒絶事件の事案と本件とを比較し
てみても,本件に前記事件の最高裁判決のいう「特別の事情」を認め
る余地がないことは明らかであるとする。しかし,前記の事案は,日
々雇用職員で4月1日から翌年3月30日までを任用予定期間とし,
3月31日には公務員たる身分を保有していないことから任用の「更
新」といえるか,厳密にいえば微妙な事案であり(上記最高裁判決も,
「任用予定期間の満了後に再び任用される」との表現を用いてい
る。),採用から3年度目の任用予定期間の満了をもって再任用され
なかった(それ以前に時間雇用職員として4回任用されていたことを
加えても,在職期間が通算して4年7か月に満たない。)という事案
であって,本件における原告Aのように任用更新が13回に及び,そ
の結果,通算して13年11か月にわたって非常勤職員の身分を継続
して保有していた事案とは異なるものである。したがって,前記最高
裁判決が,当該事案の事実関係の下においてはそのような「特別の事
情」があるということはできないと判示したとしても,本件は事案を
異にするものであるから同一には考えられないところである。
6任用更新後の原告Aの法的地位について
(1)以上によれば,原告AとC研は,平成15年4月1日以降において
も従前の任用が更新されたのと同様の法律関係に立つというべきであ
るから,原告Aは,平成16年3月31日までの任期が付された非常
勤職員であったとみなされる。
(2)ア国立大学法人法の施行に基づき,平成16年4月1日からC研の
設置者が国から非公務員型の独立行政法人たる被告大学共同利用機
関法人E研究機構に承継されたこと,国立大学等(大学共同利用機
関法人を含む。)の職員は,別に辞令が発せられない限り,同日を
もって当該国立大学法人等の職員となるものとされたこと,同職員
に対しては同日以降は当該独立行政法人の就業規則が適用されるこ
とは,争いのない事実であり,原告Aに対し,上記承継に際し別に
辞令が発せられた事実がないことは,弁論の全趣旨により認めるこ
とができる。
イ以上によれば,原告AとC研との勤務関係は,上記承継に伴い,
平成16年3月31日までの国による任用関係から平成16年4月
1日以降は独立行政法人たる被告大学共同利用機関法人E研究機構
との労働契約関係に移行したことが認められる。
ウなお,被告は,平成16年4月1日における当該独立行政法人に
よる原告Aに対する採用に疑義を述べるが,本件のような任用更新
拒絶の事案においては,当該任用更新拒絶が許されない結果更新さ
れる次の任期中に訴訟提起がなされた以上,当該訴訟に対する判決
による公権的な判断がなされ,それが確定するまでの間は,その任
期が満了したとしても,続いて任用更新がなされたものとして扱う
ことが,公平の見地から相当であると解される。
その理は,本件のように国から独立行政法人に勤務関係が承継さ
れた場合においても,また,有期労働契約における雇止めの事案に
おける契約期間の満了の場合においても,変わらないというべきで
ある。
(3)したがって,平成17年4月1日においても,原告Aは,契約期間
を1年とする有期労働契約を更新された立場にあるというべきであり,
その理は,以後本判決確定まで同様である。
(4)非常勤職員が1年度ごとに新たに任用され,その給与は,任用時に
その経験年数等を考慮して新たに決定されること(乙5),平成15
年3月当時の原告Aの時間給は,1時間1220円であったことは,
被告所論のとおりであるところ,その結果,原告Aが,C研から給与
として平成15年1月分から3月分まで月平均19万29円を受け取
っていたことは原告ら所論のとおりである。
(5)よって,①原告Aが被告に対して労働契約上の地位を有することを
確認し,②その未払給与として本件任用更新拒絶以降本訴提起までの
190万290円(給与支払は毎月月末締めの翌月17日払いであっ
たから,平成15年4月ないし平成16年1月までの10か月分のみ
なし就労分である。),③平成16年3月17日から毎月17日限り,
本判決確定までの間,月額19万29円の給与(及び各支払日以後の
遅延損害金)の支払を命じる次第である。
7争点Ⅴ「C研の原告組合の団体交渉申し入れに対する対応が,違法な
ものとして同組合に対する不法行為になるか。」について
(1)前記認定によれば,C研は,原告組合から平成15年2月6日付け
で団体交渉の申し入れを受けたところ,その当時は原告組合は人事院
登録を受けていなかったことから,原告組合の交渉当事者としての適
格性について検討中,人事院の登録通知があったことから,同年3月
7日,予備交渉を行う旨通知したこと,これを受けてC研と原告組合
との間に同年3月13日,25日,31日の3回にわたって予備交渉
が行われたこと,同年4月1日以降も文書でのやり取りは行われたが,
原告Aらの任期が平成15年3月31日をもって満了したとして,C
研はそれ以降の交渉を行わなかったことの各事実が認められる。
(2)交渉申入れ団体が登録された職員団体でない時は,当該団体の構成
員は職員が主体となっているか,その目的とするところが交渉の内容
にふさわしいものかなど,C研において総合的に勘案して交渉するこ
とが適当であるかどうか判断する必要があることは被告所論のとおり
である。したがって,C研が,原告組合から平成15年2月6日付け
で団体交渉の申し入れを受けた際,直ちに交渉ないし予備交渉を行わ
なかったことは違法とまではいえないところである。
(3)また,登録された職員団体から,職員の給与,勤務時間その他の勤
務条件に関し,及びこれに付帯して,社交的又は厚生的活動を含む適
法な活動に係る事項に関し,適法な交渉の申入れがあった場合には,
当局は,その申入れに応ずべき立場に立つ(国家公務員法108条の
5第1項)ところ,登録された職員団体となった原告組合から,平成
15年3月5日に交渉の申し入れを受けたC研が,同月7日,その申
し入れを受け,交渉を円滑かつ効果的に行うため同月13日に予備交
渉を行いたい旨告知したことは前記のとおりである。
そして,同月13日から31日まで3回にわたり,議題,時間,場
所その他必要な事項を取り決めるべく,予備交渉の場を設けたものの,
原告組合側では,原告Aら非常勤職員の任用更新拒絶の方針を撤回す
べしとの要求が中心課題であったため,交渉は平行線をたどり,C研
側としては上記要求は団体交渉の議題としてふさわしいものでなかっ
たことから本交渉には至らなかったというものである。
(4)以上によれば,C研は,原告組合との間で,一応の交渉を行ったと
見ることができるところ,原告組合の権利を侵害する等違法な行為を
行ったことを認めるに足りる証拠はない。
(5)原告らは,「本件においては,任用更新をしない旨告げられた原告
Aらの任期満了日が迫っており,一刻も早く団体交渉をしなければ同
原告らに著しい不利益を与える事案であった。にもかかわらずC研の
対応は,任期満了日が迫っていることを承知の上で,時間切れを狙っ
たものとしか思われない。」と主張するところ,C研において平成1
5年3月31日の原告Aらの任期満了までの時間稼ぎの目的で原告組
合の交渉当事者としての適格性について検討を遅らせたというのであ
れば,違法と評価される可能性があるが,本件において,C研に上記
目的が存したとまで認めるに足りる証拠はない。
(6)なお,前記判示のとおり,原告Aに対する本件任用更新拒絶は,許
されないものといわなければならないところであるが,非常勤職員の
任用の更新ないしその拒絶は,任命権者たるC研所長の権限に係る管
理運営事項であることは被告所論のとおりであるから,国家公務員法
108条の5第3項により,交渉の対象とすることができないもので
ある。したがって,原告Aに対する本件任用更新拒絶が許されない旨
の判断が,C研の原告組合に対する交渉態度が不法行為になるか否か
の判断に直接影響するものではない。
(7)平成15年4月1日以降は,C研において原告AおよびDにつき任
用更新しなかったことから,C研が知る限り原告組合の構成員にC研
の職員は居なくなったのであり,原告Aはこれを不服として平成16
年3月12日に至って本件訴訟を提起したものの,任用更新の是非が
交渉事項に当たらないことは前記のとおりであるから,平成15年4
月1日以降のC研の原告組合に対する対応に不法行為たるべき違法性
及び過失があるとまでは認め難い。
(8)よって,C研の対応が,原告組合に対する不法行為になるとは認め
られないから,これを前提とする原告組合の請求には理由がない。
8よって,原告Aの主位的請求には理由があるからこれを認容し,原告
組合の請求には理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり
判決する。
東京地方裁判所民事第36部
裁判官山口均

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