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平成20年9月30日判決言渡
平成20年(行ケ)第10079号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成20年8月28日
判決
原告株式会社エクサム
被告日本たばこ産業株式会社
被告ワールドワイド・ブランズ・インク
被告ら訴訟代理人弁護士山崎行造
同杉山直人
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2006−89159号事件について平成20年1月22日にし
た審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
(1)原告は,登録第4332094号商標(以下「本件商標」という。乙
1)に係る商標権者である。本件商標は,平成10年4月1日に登録出願さ
れ,別紙商標目録のとおり「ラクダ」の図柄及び「INCA」の英文字を上
段に,「CAMEL」の英文字を下段に左横書きしたものからなり,指定商
品を第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下
着,水泳着,水泳帽,ベルト」として,同11年11月5日に設定登録(以
下「本件商標登録」という。)がされたものである。
(2)被告日本たばこ産業株式会社(以下「被告JT」という。)及び被告ワ
ールドワイド・ブランズ・インク(被告JTの関連会社,以下「被告WB
I」という。)は,平成18年11月13日,特許庁に対し,本件商標登録
の無効審判(無効2006−89159号事件)を請求し,本件商標が,被
告JTを商標権者とする別紙引用商標目録記載(1)ないし(4)の商標(以下,
同目録記載の商標をその番号に対応させて「本件引用商標1」のようにい
い,本件引用商標1ないし11をまとめて「本件各引用商標」という。)
と,被告WBIを商標権者とする本件引用商標5ないし11と類似し,他人
の業務との混同を生じさせる,不正の目的をもって使用するなどとして,商
標法4条1項15号及び19号に該当すると主張した。
(3)特許庁は,平成20年1月22日,「登録第4332094号の登録を無
効とする。」との審決をし,その謄本は同年2月7日に原告に送達された。
2審決の理由
審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件商標は,商
標法4条1項19号に該当し,同条の規定に違反して登録されたから,同法4
6条1項の規定により,本件商標登録を無効とする,というものである。
第3当事者の主張
1審決の取消事由に関する原告の主張
審決には,以下のとおり,本件商標登録が商標法4条1項19号に該当する
との誤った認定及び判断をした違法がある。
(1)原告は,南米音楽やリャーマ(ラクダ科の動物)に魅了され,リャーマ
が南米ペルーの山岳地帯,海辺の砂漠地帯で荷を背負って歩く姿から,アフ
リカ,中近東のラクダを連想し,これと,南米先住民の代表的な言葉であ
り,現代でも頻繁に使われているケチュア語で「王」を意味し,発音しやす
く,音の響きもよく,歴史上有名な「INCA」という語とを結合させ,
「INCACAMEL」という全く自己の知識・思考に基づく新語を創作
した。
本件商標の「INCACAMEL」は,原告の造語であって,独創性を
有し,インカ帝国,インカ文明,又は南米を連想させる。インカキャメル中
の「INCA」の英文字部分から,南米,リャーマや段々畑を意味するアン
デスの山並み,空中に消えた都市といわれ世界遺産にもなっているマチュピ
チュ遺跡やクスコの湖が連想される。
これに対して,被告らの有する本件各引用商標からは,タバコの販売業者
としての被告らの周知著名性を看者に印象付け,記憶させ,連想させるのみ
であって,南米を連想,印象付けることはない。本件引用商標9及び11の
「CAMEL」の英文字は造語でないこと,顕著な特徴を有していないこ
と,普通名称としてありふれていることから,その識別力が弱い。ラクダ
は,今から4000ないし6000年前に家畜化されて人間に肉,乳,毛,
皮を提供し,砂漠の船といわれる運搬手段として又は戦闘手段として,利用
されている。「CAMEL」の英文字と「ラクダ」の図柄を含む結合標章に
よって,「本件引用商標9及び11」からは,ラクダの観念のみが生ずる。
以上のとおり,「本件商標」と「本件引用商標9及び11」とは,外観,
称呼及び観念のいずれの点においても非類似であるから,これを類似である
と認定,判断した審決には誤りがある。
(2)「本件引用商標9及び11」は,タバコについては周知著名であったと
しても,本件商標の指定商品である被服等については,周知著名であるとは
いえない。そして,被告らがタバコ事業とは別個に衣類販売事業を行うとい
う計画も一切公表されていない。したがって,原告が本件商標の被服につい
て使用したとしても,被告らがタバコに関する周知商標に化体させた信用,
名声又は顧客吸引力を毀損させるおそれがあるということはできない。
(3)原告は,商標LONGCHAMP(ロンシャン)の図形(甲8)の商標
権者として登録無効審判請求を受け,無効審決を受けたことがある。しか
し,当該商標は原告が出願したものではなく,譲り受けたものであり,譲受
人が譲り受けた商標の無効審判請求を受けてこれを争うことには合理性があ
るから,無効審決を受けた事実によって,原告が不正の目的をもって,本件
登録商標を使用しようとすると推認することは相当でない。
(4)以上のとおり,本件商標は,商標法4条1項19号所定の「他人の業務
に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者
の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて,不正の目的
・・・をもつて使用をするもの」には該当しない。したがって,本件商標が
同号に該当するとした審決には違法がある。
2被告らの反論
(1)「CAMEL」の英文字又は「ラクダ」の図柄について,「ラクダ」そ
れ自体又はそれに関連する商品を指定商品として,使用される場合には,普
通名称とされて,商標法3条1項1号に該当する余地があるが,「ラクダ」
と関連性のない商品である「タバコ」や「衣服」を指定商品として,使用さ
れる場合には,普通名称とされることはない。一般に,指定商品との関係で
固有の関連性を持たない普通名詞は,強い識別力を有する商標とされるから
(乙44),本件各引用商標の「CAMEL」の英文字又は「ラクダ」の図
柄は,正にそのような場合に該当する。
また,著名商標として保護されるべきか否かは,独創的な標章が考案され
たかを基準とされるのではなく,その長年の使用,広告等によりその標章に
化体した信用がどれほど蓄積されているかを基準とされるべきである。そし
て,「CAMEL」の英文字及び「ラクダ」の図柄は,タバコの商標として
1913年に採用されて以来,被告らによって,大々的かつ継続的に宣伝,
広告され,また,被服等の分野においても,1987年以来今日に至るま
で,「F1グランプリ」や「MotoGP」のチームスポンサーとして,宣
伝広告がされてきた。「CAMEL」の英文字又は「ラクダ」の図柄(以下
「『CAMEL』商標」という場合がある。)が付され,「CAMEL(キ
ャメル)」の名で製造,販売又は提供される商品又は役務は,「タバコ」の
分野のみならず,「被服」の分野においても,被告らの業務を示すものとし
て周知著名性を有している。
(2)そして,本件商標と,本件引用商標1ないし3,5ないし9及び11
は,「CAMEL」との英文字部分において共通し,また,本件商標と本件
引用商標2,4,7,9ないし11とは,「ラクダ」の図柄において共通し
ていることに照らすならば,本件商標と本件各引用商標とは類似する。
(3)原告は,意図的に他人の著名商標に便乗するような手法を繰り返してい
る(乙39の1,乙41)。また,原告の商品は,ディスカウントストアに
おいて,いずれも他人の著名商標を装って販売されていた。例えば,Dマー
トにおいては,「ブランドバーゲン」の名の下でグッチ,セリーヌ,ハンテ
ィングワールド,ロベルタ,ダンヒル,カルチェ,MCM等の著名商標の付
された商品と並ぶ態様で,原告の商品が「CAMEL」商標の付された商品
として広告されたことがあった。また,関西にある,ブランド品のディスカ
ウントストア「還元屋」の広告においても,MCM,プリマ・クラッセ,プ
ラダ,ルイ・ヴィトン,セリーヌ等の有名ブランドと並ぶ態様で,原告の商
品が,「CAMEL」商標の付された商品として扱われたことがあった。
(4)原告は,南米音楽やリャーマに魅了され,リャーマから中近東のラクダ
を連想し,これを歴史上有名な「インカ(INCA)」という語と結合させ
て,「インカキャメル(INCACAMEL)」という新語を創作した旨
主張する。しかし,南米音楽やリャーマに最初に接してこれらに魅了された
というのであれば,そのリャーマの図柄(シルエット)とINCAとを結合
させていないこと,及び,リャーマは背中にコブがない点で,ラクダと外観
において異なっているにもかかわらず,ラクダの図柄を用いていることは不
自然であり,このような点に照らすならば,原告の主張する本件商標の創作
経緯は疑わしい。
(5)以上のとおり,本件商標の出願は,「CAMEL」商標及びこれを構成
する「CAMEL」の英文字又は「ラクダ」の図柄が有する顧客吸引力に便
乗して不正の利益を得ようとする「不正の目的」に基づくものであり,商標
法4条1項19号所定の「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものと
して日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一
又は類似の商標であつて,不正の目的・・・をもつて使用をするもの」に該
当するから,審決に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,本件商標は,商標法4条1項19号所定の「他人の業務に係る商
品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認
識されている商標と同一又は類似の商標であつて,不正の目的・・・をもつて使
用をするもの」に該当すると判断する。その理由は,以下のとおりである。
1事実認定
(1)本件商標と本件各引用商標との類否等について
ア本件商標は,別紙商標目録のとおりであり,横長の楕円形状が描かれ,
その内側の上部に,黒塗りで,右向きの「一つこぶラクダ」の図柄が描か
れ,その下には,英文字「INCA」を上段に,英文字「CAMEL」を
下段に,楕円の下側円弧に沿うような配列で横書きされたものである。本
件商標から,「インカキャメル」の称呼を生ずるが,それとともに「IN
CA」と「CAMEL」が上下二段に書かれていること,及び「ラクダ」
の図柄が上部に目立つように配置されていることから,「キャメル」の称
呼を生ずる。また,本件商標から,ラクダの図柄が配置されていることか
ら「ラクダ」の観念を生ずる。
他方,本件各引用商標は,別紙引用商標目録のとおりであり,いずれも
「CAMEL」の英文字,左向きの「一つこぶラクダ」の図柄の両方又は
一方が描かれたものである。特に,本件引用商標9及び11は,上段に
は,英文字「CAMEL」が,楕円の上側円弧に沿うような配列で横書き
され,下段には,右向きの「一つこぶラクダ」の図柄が描かれたものであ
る。本件各引用商標から,「キャメル」の称呼を生じ,また,「ラクダ」
の観念を生ずる。
本件商標と本件各引用商標は,いずれも,「キャメル」の称呼を生ずる
点,「一つこぶラクダ」の外観を生ずる点,又は「ラクダ」の観念を生ず
る点で共通し,全体として類似する。
イ上記のとおり,本件商標と本件各引用商標は,互いに類似するものであ
るが,さらに,「本件商標」と「本件引用商標9及び11」の類似性につ
いて,詳細に比較することとする。
両者の商標における「ラクダ」の図柄の特徴を比較すると,「本件商
標」と「本件引用商標9及び11」とは,いずれも,「一つこぶラクダ」
である点,後ろ足をほぼ揃えて前足の片方を前方に踏み出している点,長
い首を立てて,顔を前方に向けている点,特に,「本件商標」と「本件引
用商標11」とは,いずれも黒塗りのシルエットとされている点など,細
部の特徴が共通している。また,両者の商標における「CAMEL」の英
文字部分を比較すると,「本件商標」と「本件引用商標9及び11」と
は,いずれも,各文字が直線状に配列,横書きされるのではなく,楕円の
円弧に沿うような特徴のある配列で横書きされており,その特有の曲線状
の配列は看者をして強い印象を与えるものといえ,その点の特徴が共通し
ている。
これに対して,「ラクダ」の図柄について,「本件引用商標9及び1
1」が左向きであるのに対して,「本件商標」は右向きである点で相違す
るが,同相違点は,看者をして,全体として,異なった「ラクダ」である
との印象を与えるとはいえない。また,「CAMEL」の英文字について
も,「本件引用商標9及び11」では,上向きの円弧に沿うように配列さ
れ,横書きされているのに対して,「本件商標」では,下向きの円弧に沿
うように配列され,横書きされ,その上方に同じような円弧に沿うように
「INCA」の文字が付加されている点において相違するが,円弧状に描
かれているという特異な特徴点に比較すると,上向きか下向きかの相違
は,看者をして,双方を互いに異なる商標であると認識させるほどの強い
印象を与えるものとはいえない。また,「本件商標」には,「INCA」
の英文字が付加されているが,同部分は,「CAMEL」の文字と同心円
弧上に配列され,かつ同一書体で記載されていること,「INCA」の
「CA」部分は「CAMEL」の「CA」部分と同一書体で描かれている
こと,「ラクダ」の図柄が共に描かれていることからすると,「INC
A」の同付加部分は,看者をして,「インカ」と識別,記憶させるほどの
印象を与えるものとはいえない。
以上のとおりであり,「本件商標」と「本件引用商標9及び11」と
は,観念,称呼,外観のいずれにおいても共通し,極めて良く似た印象を
与えるものというべきである。
(2)「CAMEL」商標の周知著名性
ア商品「タバコ」について
アール・ジェイ・アール・ナビスコ・ホールディングス・コーポレーシ
ョン(以下「RJR社」という。)は,1913年ころ,米国において,
紙巻きタバコの製造,販売を開始したが,当時,トルコ葉タバコがブレン
ドされていたことや,東洋的イメージに人気があったことから,ラクダを
指す英文字「CAMEL」と,サーカスにおいて活躍していたラクダ「オ
ールド・ジョー」の写真を元にして,独自に描いた「ラクダ」の図柄から
構成される商標を採用した。同社は,その商品タバコに「CAMEL」の
英文字及び「ラクダ」の図柄を描いた包装箱を使用し,継続して宣伝広告
活動を行った結果,「本件引用商標9及び11」を構成する「CAME
L」の英文字及び「ラクダ」の図柄は,米国の需要者の間に広く認識さ
れ,今日に至っている(乙16,17の1及び2,22)。同社は,19
58年に,包装のデザインを変更しようとしたが,需要者からの強い反対
を受けて,変更を断念したことがある。このような経緯は,「ラクダ」の
図柄が,米国内で広く認識されていたことを示したものということができ
る(乙16)。
また,我が国においても,「本件引用商標9及び11」を構成する「C
AMEL」の英文字及び「ラクダ」の図柄は,昭和24年ころから現在ま
で,タバコの包装に継続して使用され,宣伝広告が継続的に行われた結
果,需要者の間に広く認識されている(乙18∼23)。
被告JTは,平成11年に,RJR社の米国以外の海外タバコ事業(本
件引用商標1ないし4に係る事業を含む。)を約9400億円で買収した
(乙12∼15,弁論の全趣旨)。なお,同年の「CAMEL」商標に係
るタバコの出荷本数は世界第3位であり,タバコ市場において「世界5大
ブランド」の一つである(乙13の5及び6)。
イ商品「被服」等について
RJR社,被告WBI及び被告JTは,昭和62年から平成5年までは
F1グランプリ(以下「F1」という。)において,また,平成5年から
現在に至るまではオートバイレースの世界最高峰である「MotoGP世
界選手権」において,それぞれチームスポンサーとなり,「CAMEL」
商標を宣伝,広告し,チームのF1カー及びオートバイの車体並びにレー
サー(アイルトン・セナ,ミハエル・シューマッハ,中嶋悟ら)及びメン
バーのユニフォーム等に,「本件引用商標9及び11」を構成する「CA
MEL」の英文字及び「ラクダ」の図柄を表示した(乙24∼33)。
また,被告WBIは,平成2年から平成5年までの間,F1関連商品と
して,「被服」(「帽子」含む。),タオル,バッグ及び旗等に,「CA
MEL」の英文字及び「ラクダ」の図柄を付して,F1専門店において販
売した(乙34)。
さらに,RJR社,被告WBI及び被告JTは,昭和55年から平成1
2年まで,「CAMEL」商標を付した商品の販売促進のため,世界的な
オフロード・イベントである「キャメル・トロフィー(CAMELTR
OPHY)」を毎年1回開催した(乙35の1及び2)。なお,本件引用
商標5が昭和61年に登録出願され,平成6年にその登録がされ(乙
6),同商標が被服に使用されている。
このように,「本件引用商標9及び11」を構成する「CAMEL」の
英文字及び「ラクダ」の図柄は,我が国において,タバコの分野のみなら
ず,被服の分野においても,本件商標の出願日である平成10年4月1日
当時のほか,平成11年11月5日の本件商標登録時を経て現在に至るま
で,被告らの商品の出所を表示するものとして,需要者の間に広く認識さ
れている。
(3)原告による他人の周知著名商標等に関連した出願等
ア原告の「CAMEL」商標の使用状況等
(ア)原告は,平成3年12月6日付けで,「CAMEL」の英文字,
「ラクダ」の図柄及びピラミッド等の図柄から構成され,指定商品を2
1類の「かばん類,袋物」とする登録商標(登録第1588062号)
について,墨田区に住所を有するI,台東区に住所を有する株式会社タ
カギから,通常使用権の設定を受けた(甲5,6,乙39の1及び
2)。
原告は,同登録商標権についての通常使用権者として,英文字「CA
MEL」及び「ラクダ」の図柄等から構成される商標(以下「本件使用
商標」という場合がある。)を付して,かばん類又は財布類に使用をし
た。RJR社は,平成7年,同登録商標について,商標法53条1項に
基づく登録取消審判請求をし,特許庁は,平成11年,RJR社の請求
を認めて,原告による上記同商標登録を取り消した。原告は,同年,上
記審判における参加人(通常使用権者)としての地位に基づいて,審決
取消請求訴訟を提起した。東京高等裁判所は,平成11年11月29
日,①RJR社の商標(本件引用商標11)は,商品「タバコ」の分野
のみならず,「かばん類,財布類」の分野においても周知著名であるこ
と,②使用商標が付された原告の商品は,大手を含む多数のディスカウ
ントストアにおいて,英文字「CAMEL」,「ラクダ」の図柄を構成
とした商標を付して販売されており,一般需要者は,「CAMEL」の
英文字,「ラクダ」の図柄だけを取り出して,出所を認識していたこと
等の事実を認定した上で,原告が本件使用商標を商品「かばん類,袋
物」に使用したことは,商標法53条1項所定の「他人の業務に係る商
品・・・混同を生ずるもの」と判断して,原告の請求を棄却する旨の判
決をした(乙39の1及び3)。
(イ)原告は,本件商標の出願に先立つ平成8年10月及び11月に,
「ラクダ」の図柄又は「INCA」及び「CAMEL」との組み合わせ
からなり,本件各引用商標と類似する商標について3件の登録出願(指
定商品かばん類,袋物)をしたが(商願1996(平8)−11704
5,同−129856,同−129857),特許庁は,いずれも拒絶
査定をした。これらの出願に係る商標は,「CAMEL」の文字部分を
目立つように配置させた,本件各引用商標に酷似した商標である(乙4
8の1∼3)。
原告が本件商標の登録出願をしたのは,その後の平成10年4月1日
である。
(ウ)原告は,平成12年にも「USCAMEL」からなる商標(指定
商品第25類洋服等)の登録出願(商願2000−011561)をし
(乙45),平成14年にも「CAMELSTAR」からなる商標(指
定商品第18類かばん類,袋物)の登録出願(商願2002−0331
49)をし(乙49),その構成に「CAMEL」を含む商標について
登録出願をした。特許庁は,いずれの出願についても拒絶査定をした。
(エ)前記のとおり,原告は,ディスカウントストア等において,その商
品に「CAMEL」の英文字及び「ラクダ」の図柄から構成される商標
について,使用,広告をした。すなわち,Dマートにおいて,「ブラン
ドバーゲン」の名の下でグッチ,セリーヌ,ハンティングワールド,ロ
ベルタ,ダンヒル,カルチェ,MCM等の商品と共に,原告の商品が
「キャメル」商標を付して,販売,広告された。また,関西所在のブラ
ンド品のディスカウントストア「還元屋」においても,MCM,プリマ
・クラッセ,プラダ,ルイ・ヴィトン,セリーヌ等の商品と共に,原告
の商品が「キャメル」商標を付して,販売,広告された(乙39の1の
5頁,乙39の2の3頁,弁論の全趣旨)。
イ原告によるその他の著名商標の使用状況等
原告は,「競争馬とジョッキーのシルエット」からなる図形商標(指定
商品第21類装身具等)について,平成4年に商標の登録出願をし,平成
9年に登録を受けた。エス.アー.ジャン.カセグレイン社(フランス)
は,平成10年7月,「LONGCHAMP」(ロンシャン)の文字及び
「競争馬とジョッキーのシルエット」の図形からなる著名商標の出所と混
同すること等を理由として,登録無効審判を請求し,平成12年12月,
特許庁は,原告の上記登録商標に係る商品が上記著名商標に係る商品と混
同を生ずるおそれがある商標であるとして,商標法4条1項15号,同法
46条1項1号により原告の上記商標登録を無効とする旨の審決をし,同
審決は確定した(乙41)。
2判断
以上認定した事実を基礎として,本件商標登録の商標法4条1項19号への
該当性について判断する。
本件の事実経過のとおり,①「CAMEL」の英文字及び「ラクダ」の図柄
から構成される「本件引用商標9及び11」は,タバコの分野のみならず,被
服の分野をも含めて,米国及び日本において需要者の間に被告らの業務に係る
商品又は役務を表示するものとして広く認識されていたこと,②原告は,本件
引用商標9及び11についての周知著名性を十分に認識していながら,あえて
これと類似する商標である本件商標の登録出願をしていたこと,③原告はその
登録出願前に既に「CAMEL」の英文字及び「ラクダ」の図柄を構成からな
る,本件各引用商標に類似する商標登録の出願を行っていたこと,④原告の使
用商品は,平成11年11月の本件商標登録前に,ディスカウント店において
「キャメル」商標の名の下に世界の著名なブランド商品と並べられて広告され
ていたこと等の事情を総合勘案すると,原告は,本件商標の出願時及び登録査
定時において,「本件引用商標9及び11」の著名商標が有する信用又は名声
に便乗して利益を得ようとの不正の目的をもって,本件商標の使用をするもの
と判断するのが相当である。
なお,本件商標の創作経緯について,原告は,南米音楽やリャーマ(ラクダ
科の動物)に魅了され,リャーマから中近東のラクダを連想し,これを歴史上
有名な「インカ(INCA)」という語と結合させて,「インカキャメル(I
NCACAMEL)」という新語を創作した旨主張する。しかし,南米音楽
やリャーマに接してこれらに魅了されたというのであれば,リャーマ(ラクダ
科の動物)の図柄(シルエット)とINCAとを結合させることなく,アフリ
カや中近東のラクダを描くのは不自然であり,原告の主張に係る本件商標の創
作過程は,到底信用できるものではない。
以上のとおりであって,本件商標の出願時及び登録査定時において,「本件
引用商標9及び11」は,米国及び日本において需要者の間に被告らの業務に
係る商品又は役務を表示するものとして広く認識されていたところ,本件商標
は,「本件引用商標9及び11」と類似の商標であって,かつ,原告は,「本
件引用商標9及び11」の有する信用又は名声に便乗する不正の目的をもって
本件商標の使用をするものであると認めることができるから,本件商標は,商
標法4条1項19号に該当する。よって,これと同旨の審決の判断に誤りはな
く,原告の主張は採用することができない。
3結論
以上によれば,原告主張の取消事由は理由がない。その他,原告は,縷々主
張するが,いずれも理由がない。よって,原告の本訴請求は理由がないから,
これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官齊木教朗
裁判官嶋末和秀
(別紙)引用商標目録
(1)商標登録第125853号(本件引用商標1)は,「CAMEL」の欧文字
を横書きしてなり,第48類「煙草及紙巻煙草」を指定商品として,大正9年3
月18日登録出願,同10年2月23日に設定登録され,その後,5回にわたり
商標権の存続期間の更新登録がされ,平成12年8月30日に指定商品を第34
類「たばこ」とする指定商品の書換登録がされたものである(乙2)。
(2)商標登録第193386号(本件引用商標2)は,別掲(2)のとおりの構成よ
りなり,第48類「紙巻煙草,葉巻煙草,嗅煙草,其ノ他各種ノ煙草」を指定商
品として,大正15年12月23日登録出願,昭和2年9月22日に設定登録さ
れ,その後,5回にわたり商標権の存続期間の更新登録がされ,平成19年6月
27日に指定商品を第34類「たばこ」とする指定商品の書換登録がされたもの
である(乙3)。
(3)商標登録第1895814号(本件引用商標3)は,別掲(3)のとおりの構成
よりなり,第27類「たばこ,喫煙用具,マッチ」を指定商品として昭和57年
9月28日登録出願,同61年9月29日に設定登録され,その後,2回にわた
り商標権の存続期間の更新登録がされ,平成18年11月8日に指定商品を第1
4類「貴金属製喫煙用具」及び第34類「たばこ,喫煙用具(金属製のものを除
く。),マッチ」とする指定商品の書換登録がされたものである(乙4)。
(4)商標登録第1895815号(本件引用商標4)は,別掲(4)のとおりの構成
よりなり,第27類「たばこ,喫煙用具,マッチ」を指定商品として昭和57年
9月28日登録出願,同61年9月29日に設定登録され,その後,2回にわた
り商標権の存続期間の更新登録がされ,平成18年11月8日に指定商品を第1
4類「貴金属製喫煙用具」及び第34類「たばこ,喫煙用具(金属製のものを除
く。),マッチ」とする指定商品の書換登録がされたものである(乙5)。
(5)商標登録第2647243号(本件引用商標5)は,別掲(5)のとおりの構成
よりなり,第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属す
るものを除く)寝具類(寝台を除く)」を指定商品として昭和61年9月25日
登録出願,平成6年4月28日に設定登録され,その後,同16年4月13日に
商標権の存続期間の更新登録がされ,平成17年1月5日に指定商品を第25類
「被服」とする指定商品の書換登録がされたものである(乙6)。
(6)商標登録第4002212号(本件引用商標6)は,別掲(6)のとおりの構成
よりなり,第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下
着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製スト
ール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネク
タイ,ネッカチーフ,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,
ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類
(「靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具」を除く。),
靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具,げた,草履類,運
動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。),乗馬靴」を指定商品とし
て平成6年5月25日登録出願,同9年5月23日に設定登録されたものである
(乙7)。
(7)商標登録第4010427号(本件引用商標7)は,別掲(7)のとおりの構成
よりなり,第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下
着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製スト
ール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネク
タイ,ネッカチーフ,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,
ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類
(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),
靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具,げた,草履類,運
動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。),乗馬靴」を指定商品とし
て平成6年5月25日登録出願,同9年6月13日に設定登録されたものである
(乙8)。
(8)商標登録第4002213号(本件引用商標8)は,別掲(8)のとおりの構成
よりなり,第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下
着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製スト
ール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネク
タイ,ネッカチーフ,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,
ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類
(「靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具」を除く。),
靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具,げた,草履類,運
動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。),乗馬靴」を指定商品とし
て平成6年5月25日登録出願,同9年5月23日に設定登録されたものである
(乙9)。
(9)商標登録第2378499号(本件引用商標9)は,別掲(9)のとおりの構成
よりなり,第21類「装身具,ボタン類,家玉およびその模造品,造花,化粧用
具(ただし洗面用具入れを除く)」を指定商品として,昭和61年8月1日登録
出願,平成4年2月28日に設定登録され,その後,同14年3月12日に商標
権の存続期間の更新登録がされ,平成15年4月2日に指定商品を第6類「金属
製のバックル」,第14類「身飾品,貴金属製コンパクト,宝玉及びその模造
品」及び第26類「ボタン類,衣服用き章(貴金属製のものを除く。),衣服用
バッジ(貴金属製のものを除く。),衣服用バックル,衣服用ブローチ,帯留,
ボンネットピン(貴金属製のものを除く。),ワッペン,腕章,腕止め,頭飾
品」とする指定商品の書換登録がされたものである(乙10)。
(10)商標登録第3264403号(本件引用商標10)は,別掲(10)のとおりの
構成よりなり,第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き
類,下着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮
製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おし
め,ネクタイ,ネッカチーフ,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキ
ャップ,ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベル
ト,靴類(「靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具」を除
く。),靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具,げた,草
履類,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。),乗馬靴」を指定
商品として平成6年5月25日登録出願,同9年2月24日に設定登録され,そ
の後,同19年3月6日に商標権の存続期間の更新登録がされたものである(乙
11)。
(11)被告らの引用する別掲(11)の商標(本件引用商標11)は,登録商標ではな
いが,「ラクダ」の図柄及び欧文字「CAMEL」からなり,遅くとも1987
年代から現在に至るまで,我が国及び海外において数多くの商品に使用されたと
被告らにおいて主張しているものである。

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