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平成29年3月28日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成27年(ワ)第10139号地位確認等請求事件
口頭弁論終結日平成29年3月7日
判決
主文
1原告が,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを
確認する。
2被告は,原告に対し,平成26年2月から本判決確定の日まで,毎
月25日限り,31万2500円及びこれらに対する各支払期日の翌
日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3被告は,原告に対し,平成26年6月から本判決確定の日まで,毎
年6月15日及び12月10日限り,各68万8500円並びにこれ
らに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金
員を支払え。
4訴訟費用は被告の負担とする。
5この判決は,第2項及び第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1主位的請求
主文第1項ないし第3項と同旨。
2予備的請求
被告は,原告に対し,5972万6843円及びこれに対する平成26年1
月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,被告が会社法上の会社分割(新設分割)の方法によって自社工場を
分社化した際に,同会社分割により設立された会社(新設会社)において被告
から労働契約を承継するとされた原告が,被告に対し,①主位的に,上記労働
契約の承継は,原告との関係で手続に瑕疵があるので,原告はその効力を争う
ことができる旨を主張して,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認
と,同契約に基づく賃金及び賞与の支払を求め,②予備的に,上記新設会社の
一人株主であった被告が,会社分割前の説明に反して,同会社分割の1年半後
に同新設会社の解散決議をして,同会社の従業員であった原告を失職させるに
至った旨やこの失職を回避するために必要な措置を講じることを怠った旨等を
主張して,故意又は過失による不法行為に基づく損害賠償の支払を求める事案
である。
2前提事実(争いのない事実又は後掲の証拠(枝番のあるものは枝番を含む。)
及び弁論の全趣旨によって認められる事実)
当事者
ア被告は,昭和48年9月20日に設立され,化粧品類及びその関連製品
の製造,加工,輸出入及び売買等を目的とする株式会社である。
イ原告は,昭和61年1月13日,アルバイトとして被告で稼働し,昭和
62年1月1日以降,被告との間で正規雇用に係る労働契約を締結した者
である。
(甲1,25,乙1,弁論の全趣旨)
関係法令等の定め(いずれも後記の本件会社分割当時に適用されるもの)
ア会社法(平成17年法律第86号。平成23年法律第53号による改正
前のもの。)
762条1項
一又は二以上の株式会社又は合同会社は,新設分割をすることができ
る。この場合においては,新設分割計画を作成しなければならない。
764条1項
新設分割設立株式会社(判決注・一又は二以上の株式会社が新設分割
をする場合において,新設分割により設立する株式会社。同法763条
柱書,同条1号参照。)は,その成立の日に,新設分割計画の定めに従
い,新設分割会社(判決注・新設分割設立株式会社が新設分割により新
設分割をする株式会社。同条5号参照。)の権利義務を承継する。
イ会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(平成12年法律第10
3号。平成17年法律第87号による改正後のもの。以下「承継法」とい
う。)
2条1項
会社(株式会社及び合同会社をいう。以下同じ。)は,会社法第五編
第三章及び第五章の規定による分割(吸収分割又は新設分割をいう。以
下同じ。)をするときは,次に掲げる労働者に対し,通知期限日までに,
当該分割に関し,当該会社が当該労働者との間で締結している労働契約
を当該分割に係る承継会社等(・・・(中略)・・・新設分割にあって
は同法第763条に規定する新設分割設立会社をいう。以下同じ。)が
承継する旨の分割契約等(・・・(中略)・・・新設分割にあっては新
設分割計画(同法第762条第1項の新設分割計画をいう。以下同じ。)
をいう。以下同じ。)における定めの有無,第4条第3項に規定する異
議申出期限日その他厚生労働省令で定める事項を書面により通知しなけ
ればならない。
一当該会社が雇用する労働者であって,承継会社等に承継される事
業に主として従事するものとして厚生労働省令で定めるもの
・・・(以下略)
2条3項
前二項・・・(中略)・・・の「通知期限日」とは,次の各号に掲げ
る場合に応じ,当該各号に定める日をいう。
一株式会社が分割をする場合であって当該分割に係る分割契約等に
ついて株主総会の決議による承認を要するとき当該株主総会・・
・(中略)・・・の日の二週間前の日の前日
・・・(以下略)
3条
前条第1項第1号に掲げる労働者が分割会社(判決注・2条1項の分
割をする会社をいう。2条2項参照。)との間で締結している労働契約
であって,分割契約等に承継会社等が承継する旨の定めがあるものは,
当該分割契約等に係る分割の効力が生じた日に,当該承継会社等に承継
されるものとする。
4条1項
第2条第1項第1号に掲げる労働者であって,分割契約等にその者が
分割会社との間で締結している労働契約を承継会社等が承継する旨の定
めがないものは,同項の通知がされた日から異議申出期限日までの間に,
当該分割会社に対し,当該労働契約が当該承継会社等に承継されないこ
とについて,書面により,異議を申し出ることができる。
7条
分割会社は,当該分割に当たり,厚生労働大臣の定めるところにより,
その雇用する労働者の理解と協力を得るよう努めるものとする。(以下,
これを「7条措置」という。)
8条
厚生労働大臣は,この法律に定めるもののほか,分割会社及び承継会
社等が講ずべき当該分割会社が締結している労働契約及び労働協約の承
継に関する措置に関し,その適切な実施を図るために必要な指針を定め
ることができる。
ウ商法等の一部を改正する法律(平成12年法律第90号。平成17年法
律第87号による改正後のもの。以下「商法等改正法」という。)附則5
条1項
会社法の規定に基づく会社分割に伴う労働契約の承継等に関しては,会
社分割をする会社は,会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律第2
条第1項の規定による通知をすべき日までに,労働者と協議をするものと
する。(以下,この協議を「5条協議」という。)
エ分割会社及び承継会社等が講ずべき当該分割会社が締結している労働契
約及び労働協約の承継に関する措置の適切な実施を図るための指針(平成
12年労働省告示第127号。平成24年厚生労働省告示第518号によ
る改正前のもの。以下「本件指針」という。)
第2「分割会社及び承継会社等が講ずべき措置等」の1項「労働者及
び労働組合に対する通知に関する事項通知の時期」
「法(判決注・本件指針の引用部分における「法」とは「承継法」の
ことをいう。)第2条第1項及び第2項の労働者又は労働組合への通知
は,次に掲げる会社法(平成17年法律第86号)に規定する日のうち,
株式会社にあっては,イ又はロのいずれか早い日と同じ日に・・・(中
略)・・・行われることが望ましいこと。
イ吸収分割契約等の内容その他法務省令で定める事項を記載し,又
は記録した書面又は電磁的記録をその本店に備え置く日
ロ株主総会を招集する通知を発する日
・・・(以下略)」
第2の4項「労働者の理解と協力に関する事項」
商法等改正法附則第5条の協議
イ労働者との事前の協議
商法等改正法附則第5条の規定により,分割会社は,法第2
条第1項の規定による通知をすべき日(以下「通知期限日」と
いう。)までに,承継される事業に従事している労働者と,会
社分割に伴う労働契約の承継に関して協議をするものとされて
いること。
分割会社は,当該労働者に対し,当該効力発生日以後当該労
働者が勤務することとなる会社の概要,当該労働者が法第2条
第1項第1号に掲げる労働者に該当するか否かの考え方等を十
分説明し,本人の希望を聴取した上で,当該労働者に係る労働
契約の承継の有無,承継するとした場合又は承継しないとした
場合の当該労働者が従事することを予定する業務の内容,就業
場所その他の就業形態等について協議をするものとされている
こと。
ロ法第7条の労働者の理解と協力を得る努力との関係
当該協議は,承継される事業に従事する個別労働者の保護の
ための手続であるのに対し,法第7条の労働者の理解と協力を
得る努力は,下記のとおり,会社分割に際し分割会社に勤務
する労働者全体の理解と協力を得るためのものであって,実施
時期,対象労働者の範囲,対象事項の範囲,手続等に違いがあ
るものであること。
・・・(中略)・・・
ホ協議開始時期
分割会社は,通知期限日までに十分な協議ができるよう,時
間的余裕をみて協議を開始するものとされていること。
ヘ会社分割の無効の原因となる協議義務違反
商法等改正法附則第5条で義務付けられた協議を全く行わな
かった場合又は実質的にこれと同視し得る場合における会社分
割については,会社分割の無効の原因となり得るとされている
ことに留意すべきであること。
法第7条の労働者の理解と協力を得る努力
イ内容
分割会社は,法第7条の規定に基づき,当該会社分割に当た
り,そのすべての事業場において,当該事業場に,労働者の過
半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合,
労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働
者の過半数を代表する者との協議その他これに準ずる方法によ
って,その雇用する労働者の理解と協力を得るよう努めるもの
とすること。
「その他これに準ずる方法」としては,名称のいかんを問わ
ず,労働者の理解と協力を得るために,労使対等の立場に立ち
誠意をもって協議が行われることが確保される場において協議
することが含まれるものであること。
ロ対象事項
分割会社がその雇用する労働者の理解と協力を得るよう努め
る事項としては,次のようなものがあること。
会社分割をする背景及び理由
効力発生日以後における分割会社及び承継会社等の債務の
履行に関する事項
労働者が法第2条第1項第1号に掲げる労働者に該当する
か否かの判断基準
法第6条の労働協約の承継に関する事項
会社分割に当たり,分割会社又は承継会社等と関係労働組
合又は労働者との間に生じた労働関係上の問題を解決するた
めの手続
・・・(中略)・・・
ニ開始時期等
法第7条の手続は,遅くとも商法等改正法附則第5条の規定
に基づく協議の開始までに開始され,その後も必要に応じて適
宜行われるものであること。」
工場の分社化とそれに伴う原告の労働契約等
ア被告は,昭和51年2月に厚木工場を完成させ,同所で自社ブランドの
化粧品等の製造を行っていたが,平成24年7月2日,会社法上の新設分
割の方法によって厚木工場につき会社の分割(以下「本件会社分割」とい
う。)をして,被告の100パーセント子会社であるオアスグローバルマ
ニュファクチュアリング株式会社(以下「オアス」という。)を設立した。
イ原告は,平成24年当時,被告の厚木工場の製造ラインで勤務していた
ところ,前記アのとおり,同年7月2日に同工場が被告から分社化される
ことに伴って,同年6月10日付けで被告とオアスに対して秘密保持に関
する誓約書をそれぞれ提出した上,同年7月2日までにオアスとの間の雇
用契約書に署名押印し,その労働契約が被告からオアスへ承継される取扱
いとなった。
(甲1,5~7,乙2,弁論の全趣旨)
ウ平成24年5月当時,被告の厚木工場のA工場長(なお,同工場長は,
オアス設立後,その代表取締役に就任した。)からは,原告を含む同工場
の従業員らに対し,同工場が被告から分社化されるのに際して,同従業員
らの労働契約関係は従前と同じ条件のまま新設会社に移行する旨の説明が
されたところ(この点は争いがない。),オアスにおける原告の給与は,
月額合計31万2500円(基本給月額30万6000円,家族手当月額
6500円)であり,当月末日締め,当月25日払とされていた。
(甲7,9の1~4,12,弁論の全趣旨)
オアスによる原告の解雇等
アオアスは,原告に対し,平成26年1月20日付け解雇通知書をもって,
オアスの一人株主である被告が同月31日にオアスの解散決議をすること
を踏まえ,それを理由に同日付けでオアスを解雇する旨の意思表示をした。
イオアスは,平成26年1月31日,株主総会の決議により解散した。
(甲8,乙2)
3争点
主位的請求(地位確認請求,賃金請求及び賞与請求)に関して
ア本件会社分割に伴う原告の労働契約の承継に関する手続が5条協議の趣
旨に違反するかどうか(争点1)
イ原告が被告に対して退職の意思表示をしたかどうか(争点2)
ウ原被告間の労働契約が黙示に合意解除されたかどうか(争点3)
エ原告の主位的請求が信義則に反する訴権の行使といえるかどうか(争点
4)
オ賃金請求権の額(争点5)
カ賞与請求権の有無(争点6)
予備的請求(不法行為に基づく損害賠償請求)に関して
ア不法行為の成否(争点7)
イ損害額(争点8)
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(本件会社分割に伴う原告の労働契約の承継に関する手続が5条協議
の趣旨に違反するかどうか)
原告の主張
ア会社分割においては,労働者保護の見地から,分割会社は労働者との間
で株式会社の新設分割において,新設会社への労働契約の承継の有無,分
割後の業務の内容・就業場所・就業形態等について会社の考え方を説明し,
本人の希望を聴取し,協議をしなければならないところ,承継法3条によ
れば分割をする会社との労働契約が分割によって設立される会社に承継さ
れるものとされている労働者と,当該分割をする会社との間で,商法等改
正法附則5条1項に基づく労働契約の承継に関する協議(5条協議)が全
く行われなかった場合,又は,上記協議が行われたものの,その際の当該
会社からの説明や協議の内容が著しく不十分であるため法が上記協議を求
めた趣旨に反することが明らかな場合には,当該労働者は当該承継の効力
を争うことができるものとされている(最高裁平成20年(受)第170
4号同22年7月12日第二小法廷判決・民集64巻5号1333頁参
照)。
イ上記判旨を踏まえれば,5条協議は,分割会社からの一方的な説明や,
それに対する質問の受付を行っていたということでもって「協議」を代替
できるものではないことはいうまでもなく,分割会社と個々の労働者(労
働組合が個々の労働者の意向を代理して特定して述べる場合を含む。)と
の間で,実際かつ個別に行われるべき必要があるし,個別労働者が協議に
おいて自らの労働契約の承継に係る意向等を明らかにすることができるも
のでなくてはならず,分割会社のなす説明が,特に雇用継続や将来の見通
しについて,根拠のないもの又は虚偽のものであれば,個々の労働者の労
働契約の承継の是非についての意向を誤らせるものであるから,協議とし
て不十分であるといわざるを得ない。
また,5条協議の労働者保護の趣旨に鑑みれば,その実施時期は,分割
会社が分割計画書を作成し,これを公表して,個々の労働者が労働契約の
びロに鑑みて,分割計画書を本店に据え置く日又は株主総会の招集通知を
発する日のいずれか早い日までに相当の期間を置いて行われなければなら
ないというべきである。
ウ5条協議の実施時期に関して,仮に被告の主張する平成24年6月12
日を期限とすることを前提としたとして,被告は,それまでに,平成24
年5月の厚木工場での朝礼におけるA工場長による説明,同年6月7日の
カフェテリア(社員食堂)での被告の人事部担当者による説明会等を実施
し,個別の質問を受け付けたこと等でもって,5条協議を個別に実施した
と推認できるとか,商法等改正法や承継法が5条協議の実施を求めた趣旨
に反するものではない旨を主張する。
は,分割会社が,労働者に対し,新設される会社の概要,当該労働者が承
継法2条1項1号に掲げる労働者に該当するか否かの考え方等を十分説明
することを前提に,「本人の希望を聴取した上で,当該労働者に係る労働
契約の承継の有無,承継するとした場合又は承継しないとした場合の当該
労働者が従事することを予定する業務の内容,就業場所その他の就業形態
等について協議をするもの」であるところ,本件では,上記説明会等でそ
もそも本件分割に伴う労働契約の承継に関して被告から原告を含む従業員
らに対して十分な説明がされていない上,上記内容に沿った協議が全く行
われておらず,それどころか,特に平成24年6月7日のカフェテリアで
の説明会では,契約が承継されると被告が決定した従業員に対して,雇用
関係の承継についての異議を聴取しない旨を繰り返し述べることに終始し,
労働契約の承継に係る意向を従業員らの側で明らかにする機会は全く与え
られなかった。また,新設される会社についても「社名が変わるだけで他
に変わりはないから安心するように」という旨の明るい見通しを述べるだ
けで,本件指針に沿った説明や協議は果たされていない。
以上のような事情を踏まえれば,本件では,本件会社分割に伴い原告の
労働契約が被告からオアスに承継されるに当たって,5条協議は全く行わ
れなかった,あるいは会社からの説明や協議の内容が著しく不十分である
ため法が上記協議を求めた趣旨に反することが明らかであり,そうすると,
原告は,前記判例に従って,同承継の効力を争うことができ,被告に対し,
労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と,同契約に基づく賃金
及び賞与の支払を求めることができるというべきである。
被告の主張
ア本件会社分割当時における被告の人事部担当者や,オアスの人事労務手
続の担当者等が全員退職し,当時のやり取りに係るメール等のデータが削
除されていること,被告がオアス解散後の平成26年6月に本社オフィス
を移転したことで資料等が整理されたために従前の状況について詳細を確
認することが難しい状況に置かれていること等の事情があるものの,その
ような限定された状況の中から明らかとなる事実からでも,被告が,原告
を含む従業員らに対し,本件会社分割に伴う労働契約の承継に関して,個
別協議を実施していたことを合理的に推認することができる。
つまり,被告においては,平成23年末頃までに厚木工場を分社化する
方針を決定したところ,①被告が本件会社分割について相談していた弁護
士が平成24年4月11日付けで「労働者との個別協議(商法改正附則§
5)」の実施を求めた日程表を人事労務手続担当者に送付していること,
②被告が,原告を含む従業員らに対し,平成24年5月の厚木工場での朝
礼におけるA工場長による説明,同年6月7日のカフェテリアでの被告の
人事労務手続担当者による説明会等において,多数回にわたり,本件会社
分割に伴う労働契約の承継に係る説明を実施していること,③退職に係る
被告に宛てた誓約書及び入社に係るオアスへの誓約書を原告が上司から手
交されていること,④前記②の同月7日実施に係るカフェテリアでの説明
会で被告の人事部担当者が不明な点についての質問を受け付ける旨を明ら
かにしたところ(甲18),同月12日の段階で,被告の下に個々の従業
員から一定数の質問が寄せられていたこと(乙12),⑤原告が,おそら
く本件会社分割に伴う労働契約の承継を争うために同年5月24日付けで
外部労働組合に一時加入したにもかかわらず,わずか1週間後に同組合を
脱退し(乙13,14),同年6月以降,上記の各誓約書及びオアスとの
間の雇用契約書への署名捺印及びその提出に唯々諾々と応じ,労働契約の
承継に何ら異議を述べていなかったことに照らせば,被告が原告に対して
個別協議を適切に実施していたことが合理的に推認できる。
なお,被告が本訴において上記のように本件に関わる詳細を確認するこ
よる本訴提起が後れてなされたことも影響しているものといえ,5条協議
違反の有無を検討するに当たって,この点を看過すべきではない。特に,
原告が,本訴における従前の主張に反し,当事者尋問において初めて,上
司であるBスーパーバイザーとの間で個別面談を実施して自身の希望を述
べる機会があったことを明言するに至ったことに照らせば,被告の5条協
議違反の有無を検討するに当たって,Bスーパーバイザー及びその上司で
あったCの証人尋問が必要不可欠であり,原告の上記のような本訴提起の
後れと本訴手続内における供述の変遷をさて措いて,被告の正当な主張立
証の機会を奪うことは許されない。
イまた,そもそも原告が引用する判例も,労働契約の承継に同意した社員
についてまでも,個別に面談を実施しなければならない旨を判示したもの
ではなく,本件において,前記アのとおり,被告が平成24年5月以降多
数回の説明会を実施し,質問を受け付けたところ,被告の下に個々の従業
員から一定数の質問が寄せられていることに鑑みれば,仮に原告との間で
個別協議がなされていなかったとしても,それは,原告が各誓約書やオア
スとの雇用契約書に署名捺印した上でこれらを提出し,労働契約の承継に
同意しており,もはや個別面談の実施が必須の状況になかったからにほか
ならず,そのような事情を踏まえれば,被告において,承継法が5条協議
を求めた趣旨に反するものと評価されるいわれはない。
本件において被告が行った手続,すなわち,会社分割の計画及び会社分
割が社員の労働条件に与える影響の有無や内容等について社員全体への説
明会を開催し,個別の質問等がある社員に対しては会社の人事担当者や上
司に個別に相談をするよう呼びかけ,その上で質問や自己の希望に関する
相談をしてきた社員については個別に面談を行うという手続は,会社分割
時の5条協議義務履践の方法として実務上極めて一般的かつ広く行われて
いる方法であり,これでもって5条協議違反を問われるならば,会社分割
手続の法的安定性は著しく損なわれ,将来において企業再編等を検討する
会社は,会社分割に伴う労働契約承継の効力が否定されるリスクを恐れ,
会社分割手続を選択すること自体を避けざるを得なくなり,企業組織再編
の実務に与える影響は計り知れない。
ウちなみに,原告は,5条協議の実施時期について,分割会社が分割計画
書を作成し,これを公表するまでに(本件でいえば平成24年5月16日
までに),あるいは,分割計画書を本店に据え置く日又は株主総会の招集
通知を発する日のいずれか早い日までに相当の期間を置いてなされるべき
旨を主張するが,本件会社分割は,株主総会の決議による承認を要するも
ので,同決議が平成24年6月27日付けでなされたことからすると,協
議を行う期限は同月12日であり(商法等改正法附則5条,承継法2条3
項1号),原告の上記主張は理由がないものといわざるを得ない。いずれ
にせよ,被告は,その期限までに,多数回にわたる説明を実施し,質問も
受け付けていたのであるから,何ら違反を問われるいわれはない。
2争点2(原告が被告に対して退職の意思表示をしたかどうか)
被告の主張
仮に本件会社分割に伴う原告の労働契約の承継が5条協議の趣旨に違反す
るものであったとしても,原告は,被告に対し,「今般私は,2012年
(判決注・平成24年)7月1日付をもって,貴社を退職することになりま
した」と記入された誓約書を署名捺印の上で提出して退職の意思表示を明ら
かにし,被告はこれを受領して承認しているから,原被告間の退職合意が有
効に成立している。
原告の主張
上記誓約書の文言上,その趣旨が退職の意思表示ではなく,会社分割後の
守秘約束にあることは明白で,事実経過を記載したにすぎない前段部分をも
って,原告が被告を退職する旨の意思表示をしたとはいえない。
3争点3(原被告間の労働契約が黙示に合意解除されたかどうか)
被告の主張
原告が被告からの退職に言及した誓約書を差し入れたこと,そして,その
後,被告とは別会社であるオアスで勤務を開始し,その時点から約2年9か
月,オアスを解雇されてから1年2か月もの間,原告が被告からの退職を何
ら争ってこなかったことを踏まえると,原被告間の労働契約は,少なくとも
黙示的に合意解除されたものと解すべきである。
原告の主張
被告は,平成24年当時,本件会社分割に伴う労働契約承継の手続を原告
に対して取っていたものであるところ,同契約の承継とは,同契約の一方当
事者が変更するのみで,同契約自体はそのまま存続することを意味するから,
これに伴う手続に同契約を退職する旨の意思表示が含まれると考える余地は
なく,原被告間に退職の意思表示に関するやり取りがない以上,「原告が被
告からの退職を争ってこなかった」という被告の主張は前提を欠くものとい
うほかない。
4争点4(原告の主位的請求が信義則に反する訴権の行使といえるかどうか)
被告の主張
原告が本件会社分割に伴いオアスで勤務を開始してから約2年9か月,オ
アスを解雇されてから1年2か月もの間,労働契約の承継の効力を全く問題
としてこなかったにもかかわらず,そのような状況を前提とする被告やオア
スの企業活動が長期間にわたって継続してきたことに鑑みると,原告が,本
訴において,突如としてこれを争うことは,信義則に反する訴権の行使に当
たり,不適法であることは明らかである。
原告の主張
かつて被告の従業員であって本件会社分割に伴ってオアスで勤務するよう
になった原告は,被告によるオアスの解散のため失職するまで,オアスが被
告の子会社として従前と変わらず営業を続ける旨の被告の説明を信じていた
し,上記解散のため失職して初めて不利益を生じたのであるから,提訴が遅
いという趣旨の被告の主張が当を得ないことは明らかである。
原告は,上記解雇の前後を通じて,裁判で被告の責任を追及する可能性が
ある旨を予告しており,被告の代理人弁護士もその点は了知していたもので
(甲24),法的構成の検討などのために,解雇から本訴提起までにやや時
間を要したことはあるものの,不法行為に基づく請求権の消滅時効が3年で
あることとの均衡を実質的に考えても,原告が本訴において労働契約の承継
の効力を争うことが,信義則に反する訴権の行使に当たるなどといえないこ
とは明らかである。
5争点5(賃金請求権の額)
原告の主張
原告の給与は,少なくとも月額合計31万2500円(基本給30万60
00円,家族手当6500円)を下らず,その支払方法は,当月末日締め,
当月25日払とされていた。
被告の主張
原告の主張する給与は,オアス在職当時のものにすぎず,被告在職当時の
ものではない。
6争点6(賞与請求権の有無)
原告の主張
原告の賞与は,平成25年の実績についてみれば,同年6月14日に68
万8500円,同年12月10日に68万8500円が支給されたもので,
平成26年以降の支給額がこれを下回る理由はないというべきである。
被告の主張
被告の給与規定には,「会社は,毎年6月および12月に会社の業績を考
慮した上で,賞与を支給することがあります。」とあるにすぎず,賞与の支
給の有無は被告の裁量に委ねられており,無条件に賞与の支払義務を負担す
るものではない。
7争点7(不法行為の成否)
原告の主張
仮に原告の労働契約のオアスへの承継が無効でなかったとしても,被告は,
確たる根拠もないままに明るい見通しを適当に述べて,原告を含む自社従業
員との労働契約をオアスに承継させておきながら,短期間のうちにオアスへ
の発注を打ち切り,一人株主としてオアスの解散決議を行って,原告を含む
従業員らを失職させ,さらにその際に失職回避のために必要な措置を講ずる
ことなく,故意又は過失によって,その労働契約上の権利を侵害した。
被告の主張
被告が平成25年8月以降にオアスへの発注を取りやめて外注に切り替え
たことや,平成26年1月にオアスの解散決議を行ったことは,オアスの赤
字状態が改善せず,事業としての継続性が見込めなかったことに起因するも
のであり,いずれの行為にも違法性はなく,不法行為として評価されること
はあり得ない。まして,被告が当初からオアスの解散を計画していたような
ことは全くない。オアスの株主である被告が具体的な法律上の根拠なくオア
スの従業員の失職を回避するために必要な措置を講ずる根拠もない。
8争点8(損害額)
原告の主張
ア賃金に係る逸失利益5372万1993円
失職直前の平成25年の年収・542万6464円×ライプニッツ係数
9.9(失職時50歳から再雇用後の定年である65歳までの14年1月
に対するもの)
イ退職金に係る逸失利益57万5137円
退職年金規定に基づき,被告から得られたであろう退職金731万30
81円から,オアスから受領した退職金673万7944円を控除した金
額。
ウ弁護士費用相当損害上記ア及びイの合計額の10パーセントである5
42万9713円
エ以上によれば,原告は,被告に対し,不法行為に基づき,損害賠償とし
て合計5972万6843円及びこれに対する不法行為の日(被告がオア
スの解散決議をして原告を失職させるに至った日)である平成26年1月
31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払
を求めることができる。
被告の主張
争う。原告の主張する利益は実質的に未就労状態における将来分の賃金を
請求することにほかならず,不法行為との関係で法律上保護に値する利益と
は評価し得ない。
第4当裁判所の判断
1主位的請求(地位確認請求,賃金請求及び賞与請求)に関して,争点1(本
件会社分割に伴う原告の労働契約の承継に関する手続が5条協議の趣旨に違反
するかどうか)について
はじめに
原告は,本件会社分割に伴い原告の労働契約が被告からオアスに承継され
るに当たって,5条協議が全く行われなかった,あるいは会社からの説明や
協議の内容が著しく不十分であるため法が上記協議を求めた趣旨に反するこ
とが明らかであるので,原告において上記承継の効力を争うことができ,し
たがって,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と,
同契約に基づく賃金及び賞与の支払を求めることができる旨を主張するのに
対し,被告は,被告が原告に対して労働契約の承継に当たって個別協議を実
施したことが合理的に推認できることや,本件の事情に鑑みて,被告におい
て承継法が5条協議を求めた趣旨に反するものと評価されるいわれはない旨
等を主張するので,以下,検討する。
認定事実
前記前提事実に加え,後掲の証拠(枝番のあるものは特に断らない限り枝
番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば,次のような事実が認められる。
ア被告は,化粧品類及びその関連製品の製造,加工,輸出入及び売買等
を目的とする株式会社であるところ,厚木工場(昭和51年2月完成)
で自社ブランドの化粧品等の製造を行っていた。
(前記前提事実ア,同ア)
平成24年4月9日,当時の被告代表者であるD元社長は,被告の従
業員のうちマネージャー以上の役職にある者に対し,国内外への自社以
外の企業やベンダーとのビジネス拡大(OEM市場への参入,海外顧客
への販売,海外ベンダーからの購入等)を実現するために,同年7月2
日に「製造並びに物流部門を独立した法人格として,分社化すること」
(本件会社分割)を決定した旨等を公表した。また,この発表内容は,
その後,同年4月25日に,メールでもって,他の一般従業員にも周知
された。
(甲3,乙3)
D元社長の上記発表を踏まえて,被告から委任を受けた弁護士(本訴
の被告訴訟代理人弁護士らではない。)は,遅くとも平成24年4月1
1日までに,本件会社分割に係る日程表を作成し,これを被告の人事労
務手続担当者であるEらに送付した。その日程表には,予定事項として,
同年5月中旬頃に「労働者との個別協議(商法改正附則§5)」を行う
旨が記載されていた。
(乙6,弁論の全趣旨)
イ原告は,平成24年当時,被告の厚木工場の製造ラインで勤務してい
たところ,同年5月上旬頃の同工場における朝礼の場で,他の従業員と
ともに,A工場長から本件会社分割に関する説明を受けた。その内容に
ついて,原告は,A工場長から,厚木工場を分社化する目的として,被
告の製品に加えて他の化粧品会社の製品を作ること(OEM市場への参
入),分社化した後の従業員の労働条件について,何も変わらず,同じ
職場(厚木工場)で同じ賃金で働いてもらうという説明があったものと
認識している。
(前記前提事実ア,原告2,3,8頁)
他方で,被告の人事・総務本部は,A工場長を通じて,原告に対し,
平成24年5月7日から同月22日頃にかけて,本件会社分割(厚木
工場の分社化)による組織再編成という名目の下,退職勧奨を行い,同
年5月24日までにこれを受け入れるかどうか,その意向を明らかにす
るよう要請した。ちなみにその内容は,仮に同年6月30日付けで退職
した場合,退職一時金(確定給付年金及び特別退職加算金)として合計
約1350万円が支払われ,再就職支援サービスを受けることができる
というものであった。
原告は,その当時,高校に就学中の子を二人抱え,住宅ローンも残っ
ていたこともあり,上記退職勧奨を受け入れ難かったため,同月23日,
全国一般労働組合全国協議会神奈川(以下,単に「労働組合」という。)
に加入し,同月24日に労働組合を通じてその旨を被告に通告した。
それを踏まえて,A工場長は,同月31日,原告と面談し,労働組合
に加入したことで想定される不利益等,具体的には,労働組合に加入し
たところで,団体交渉の期日設定等に時間を要するだけで,早期に問題
が解決するものではないとか,原告及び原告と同様に当時被告で勤務す
る原告の配偶者が陰口を叩かれ他の従業員が距離を置くようになる,労
働組合に入ったから被告に残って仕事を続けられると思ったかもしれな
いがそのようなことは絶対にない,被告に残っても出社したところで仕
事が割り当てられずに放置されるだけで辛い思いをする等の事情を様々
に述べた上で,労働組合が原告の雇用を守ってくれることはないが,他
方で,原告自らの考えで労働組合を脱退したことにすれば,一緒に野球
部で活動している仲であることも踏まえ,被告による原告への上記退職
勧奨をなかったものとしてリストラの対象から外すとともに,業績評価
の良くない原告の今後の努力にもよるが,本件会社分割によって新設さ
れる会社(オアス)の最高責任者(代表取締役)として原告の雇用を守
る旨を約束した。
これを受けて,原告は,同日,労働組合を脱退した。
(甲16,26,27,乙13,14,原告3~7,22頁,弁論の全趣
旨)
ウ被告は,平成24年5月16日,本件会社分割に係る新設分割計画書
を作成し,同月22日にこれを本店に据え置いた。
(乙8,弁論の全趣旨)
被告は,原告に対し,平成24年6月4日付け「会社分割に伴う労働
契約の承継に関する通知書」(以下「本件通知書」という。)を交付し,
本件会社分割に係る新設分割計画を作成したことを踏まえ,承継法2条
1項に基づき,承継会社(オアス)に承継される事業の概要(被告の
「生産物流本部及び人事・総務部門の一部に関する事業」),会社分割
が効力を生ずる日以後における商号・住所所在地・事業内容・雇用予定
者員数(被告が「713人」,オアスが「210人」),効力発生日
(「平成24年7月2日」),効力発生日以後における債務の履行の見
込みに関して特段の問題がないこと,労働契約を承継する旨の新設分割
計画における定めがあること,原告が承継法2条1項1号に定める承継
会社(オアス)に承継される事業に主として従事する社員に該当するこ
と,原告の承継会社(オアス)における就業場所・業務内容・就業形態
(厚木工場の製造に関する部門でこれに関する業務を行うこと),承継
法4条1項等に定める異議申し出の期間が平成24年6月11日から同
月25日までであること等を通知した。
(甲4)
エA工場長は,平成24年6月7日,厚木工場の朝礼で,原告を含む被
告の同工場における従業員に対し,本件会社分割の概要(目的,新会社
の名称や役員の構成等)について説明をした。
(甲17)
また,同日夕方には,厚木工場内のカフェテリアで,被告の人事労務
手続担当者であるEが,原告を含む被告の同工場における従業員に対し,
再度,本件会社分割の概要について説明をした。
Eは,具体的に,被告の生産・物流本部に属している従業員が全員オ
アスに労働契約を承継されること,平成24年6月4日付けの本件通知
書は合意書の類ではなくて飽くまで会社からの通知書であるので中身を
よく読むこと,同通知書には平成24年6月11日から同月25日まで
の異議申立期間が案内されているが,ここにいう異議申立ては,被告か
らオアスに労働契約が承継されないとされた者が行うことができるもの
であって,同契約を承継されるとされた者が被告からオアスに行きたく
ない旨を申し立てることができることを意味するものではないこと等を
説明した上,何か不明な点があれば職場の上司や人事労務手続担当者の
方に質問をして構わない旨を伝えた。
そして,引き続きA工場長も,Eと同様の説明をし,「会社分割に伴
う労働契約の承継に関する通知書」には従業員にとって不利益になるよ
うなことは一切書かれていないから,安心して被告からオアスに移り,
オアスにおいて被告で行ってきたとおりの仕事をするよう伝えた。
(甲18,原告9,10頁)
Eが質問を受け付ける旨を伝えたことを受けて,厚木
工場において勤務する被告の従業員からは,平成24年6月12日まで
に,被告の人事労務手続担当者に対し,本件会社分割に関して,これに
よる利点又は欠点は何か,またそもそもその必要性があるのか等の質問
が寄せられた。なお,原告自身は,被告の人事労務手続担当者に対して,
本件会社分割に関して特段の質問を寄せてはいない。
(乙12,弁論の全趣旨)
オ原告は,平成24年6月10日付けで,被告とオアスに対して,退社あ
るいは入社に当たって秘密保持を約束する旨の誓約書に署名押印してこれ
らを提出するとともに,被告から平成24年6月11日頃にオアスとの間
の雇用契約書の配布を受け,遅くとも同年7月2日までにこれに署名押印
をした。
(前記前提事実イ,ウ,甲5~7,乙11,原告10,20,21頁,弁
論の全趣旨)
カ被告は,平成24年6月27日,株主総会において,本件会社分割に係
る新設分割計画を承認した。
そして,同年7月2日,本件会社分割によって,オアスが設立され,原
告の労働契約は,同日以降,被告からオアスに承継される取扱いとなった。
(前記前提事実ア,乙8,弁論の全趣旨)
検討
ア法は,会社の分割における個々の労働者の労働契約の承継について,分
割会社が作成する新設分割計画の定めに従うものとする(会社法764条
1項)一方で,労働契約の承継のいかんが労働者の地位に重大な変更をも
たらし得るものであることから,分割会社が個々の労働者の労働契約の承
継について決定するに先立ち,承継される営業に従事する個々の労働者と
の間で協議(5条協議)を行わせることとし(商法等改正法附則5条1
項),当該労働者の希望等をも踏まえつつ分割会社に承継の判断をさせる
ことによって,労働者の保護を図ろうとする趣旨に出たものと解されると
ころ,承継法3条所定の場合には労働者はその労働契約の承継に係る分割
会社の決定に対して異議を申し出ることができない立場にあるが,上記の
ような5条協議の趣旨からすると,承継法3条は適正に5条協議が行われ
て当該労働者の保護が図られていることを当然の前提とするものといえる。
そうすると,株式会社の新設分割において,承継法3条によれば分割を
する会社との労働契約が分割によって設立される会社に承継されるものと
されている労働者と,当該分割をする会社との間で,商法等改正法附則5
条1項に基づく労働契約の承継に関する協議(5条協議)が全く行われな
かった場合,又は,上記協議が行われたものの,その際の当該会社からの
説明や協議の内容が著しく不十分であるため法が上記協議を求めた趣旨に
反することが明らかな場合には,当該労働者は当該承継の効力を争うこと
ができ,分割会社との労働契約上の地位確認の訴えを提起することができ
るものと解される(最高裁平成20年(受)第1704号同22年7月1
2日第二小法廷判決・民集64巻5号1333頁参照)。
そして,5条協議等において分割会社が説明等すべき内容等については,
本件指針(平成12年労働省告示第127号「分割会社及び承継会社等が
講ずべき当該分割会社が締結している労働契約及び労働協約の承継に関す
る措置の適切な実施を図るための指針
継される営業に従事する労働者に対し,当該分割後に当該労働者が勤務す
る会社の概要や当該労働者が上記営業に主として従事する労働者に該当す
るか否かを説明し,その希望を聴取した上で,当該労働者に係る労働契約
の承継の有無や就業形態等につき協議すべき旨を定めているが,その定め
るところは合理性を有するといえるから,本件において5条協議が法の求
める趣旨に沿って行われたかどうかを判断するに当たっては,それが本件
指針に沿って行われたものであるか否かも十分に考慮されるべきである。
イこれを本件についてみると,まずもって,本件会社分割に関して5条
協議を実施すべき期限は,通知期限日である平成24年6月12日(本
件会社分割に係る事項について承認した同月27日開催の株主総会の二
週間前の日の前日。承継法2条1項,同条3項1号及び本件指針第2の
)と想定されるところ,前記前提事実及び認定事実によれ
ば,被告は,上記期限までに,本件会社分割に関して,①D元社長が平
成24年4月9日から同月25日にかけて,一定の役職にある者や,そ
の他の一般従業員に対し,OEM市場への参入等によるビジネス拡大を
実現するために本件会社分割を実施することを決定した旨を公表したほ
か,②A工場長が,同年5月上旬頃,厚木工場での朝礼で,原告の含む
従業員に対し,OEM市場への参入等を目的として同工場が分社化され
るが,従業員の労働条件(勤務場所,業務内容及び賃金の額等)には特
段変更がない旨を説明し,③さらに,同年6月4日に,同日付けの本件
通知書で,原告について,その労働契約が被告からオアスに承継される
ことが決定された旨を通知した後であるが,同月7日,被告の人事労務
担当者であるEが,原告を含む厚木工場の従業員に対し,被告の生産・
物流本部に属する従業員全員の労働契約がオアスに承継されること,労
働契約を承継されない者については一定の期間異議申立てをすることが
できるが,労働契約を承継されると決定された者については承継された
くない旨を申し立てることはできないこと,何か不明な点があれば個別
の質問を受け付ける旨を説明したことが認められる。
これらの事実を総合すれば,被告は,本件会社分割に係る事項につい
て承認する株主総会の開催日から逆算して当初想定される通知期限日ま
でに,原告に対して,少なくとも,本件会社分割の目的(OEM市場へ
の参入等によるビジネス拡大等)や,それによる労働条件(勤務場所,
業務内容及び賃金の額等)の変更が特段ない旨を大まかに説明していた
ものといえる。
その上で,分割後の会社(オアス)の概要等に関する上記のような大
まかな説明を踏まえて,原告が労働契約をオアスに承継されることに関
する希望を被告から聴取されたかどうか,さらにそのような希望聴取の
上で原告の労働契約の承継の有無や就業形態等につき協議がされたかど
うかについてみるに,前記認定事実によれば,①5条協議に係る個別協
議の実施が当初予定されていた平成24年5月中旬と同時期頃(同月7
日から同月22日頃)に,被告は,A工場長を通じて,原告に対し,退
職勧奨を行っており,②しかも,A工場長は,そのような退職勧奨に対
抗すべく労働組合に加入した原告に対し,同月31日,労働組合に加入
したところで原告の雇用が守られることはなく,解決に時間を要するば
かりか,かえって仕事を割り当てられないというような形でもって冷遇
されるにすぎず,他方で,原告自らの考えで労働組合を脱退したことに
すれば,被告からの退職勧奨をなかったものとして原告をリストラの対
象から外すとともに,同工場長がオアスの最高責任者(代表取締役)と
してオアスにおいて原告の雇用を守る旨を約束し,③これを受けて,原
告は,同日のうちに労働組合を脱退して,その4日後である同年6月4
日に,本件通知書にあるとおり,原告の労働契約が被告からオアスに承
継されることが決定した旨が原告に通知されたという事実経過がある。
これら一連の経過に鑑みれば,原告は,自身の労働契約について,A
工場長との上記面談等を通じて,本件会社分割に伴う労働契約の承継に
関する希望を聴取されたのではなく,むしろ,労働組合に加入したまま,
冷遇されつつも,被告に対してリストラの不当性を訴えて争い続けるか,
それとも,労働組合を脱退してオアスの代表取締役に就任する予定であ
るA工場長の庇護の下でオアスの従業員として勤務するかの選択を迫ら
れる中で,後者の道を選ばざるを得ないと考えるに至ったにすぎないも
のといえる。
そうすると,原告は,被告から本件会社分割の目的や,それによる労
働条件の変更が特段ない旨を他の従業員と一緒に大まかに説明されては
いたものの,結局のところ,原告とA工場長との間の個別の話合いにお
いては,リストラや,労働組合に加入してリストラに抗うことでもって
不利益を被る蓋然性が高いことを示唆される中で,労働組合を脱退する
ことと引替えに労働契約のオアスへの承継の選択を迫られたにすぎず,
そのような話合いの内容は,原告が労働契約をオアスに承継されること
に関する希望の聴取とは程遠く,これをもって5条協議というに値する
か甚だ疑問であるし,少なくとも,法が同協議を求めた趣旨に反するこ
とが明らかであると認められる。
これに対し,被告は,間接的な事情を様々に挙げて(前記第3の1
ア①ないし⑤参照),被告が原告に対して個別協議を適切に実施してい
たことが合理的に推認できる旨を主張する。
しかしながら,これら被告が挙げる事情をもってしても,原被告間で
具体的にどのような個別の話合いがされたかは明らかではなく,むしろ,
前記のとおり,少なくとも原告とA工場長との個別の話合いの内容を踏
まえれば,これが5条協議を求めた法の趣旨に反することは明らかであ
るから,被告の上記各主張を採用することはできない。
なお,原告は,本訴の当事者尋問において,突如として,平成24年
6月4日付けの本件通知書を受け取った後に,Bスーパーバイザーと二
人で話し合う機会を持ち,被告に残りたいという原告の希望を伝える機
会があった旨を供述するが(原告16,25,26頁等),前記のとお
り,同年5月の時点で,A工場長から被告でのリストラの対象となって
いることや,リストラに抗っても仕事が割り当てられずに冷遇される旨
を告げられ,他方で,労働組合から脱退することと引替えにオアスでの
雇用を守ることを約束されたにもかかわらず,その後にオアスに行かず
に被告に残りたいなどと希望することは不自然かつ不合理であるし,い
ずれの当事者からも原告の上記供述内容に係る主張立証がされたことが
これまでに一切なく,本訴の終盤である当事者尋問において突如として
原告がこれを供述したこと等に鑑みれば,原告の上記供述をにわかに信
用することはできない。また,仮に,上記供述のとおり,同年6月4日
に本件通知書を受け取った後に,原告がBスーパーバイザーに対し,労
働契約をオアスに承継されることを望まず,被告に残りたいという希望
を伝える機会が実際にあったのだとしても,原告とBスーパーバイザー
との話合いの内容が客観的かつ具体的に定かでないことはもちろんのこ
と,そもそも,株主総会の開催日から逆算して想定される当初の通知期
限日(同月12日)には至っていないものの,既に同月4日には本件通
知書にあるとおり原告の労働契約がオアスに承継されることが正式に決
定されており,その後に承継に係る原告の希望を聴取したところで,そ
のような決定に先立って5条協議を尽くすという法の趣旨がもはや維持
されているものではなく,その聴取内容が同決定に何らの影響も与えて
いないと考えられることからすると,これで
の判断が左右されるものではない。
次に,被告は,必ずしも5条協議について個別の協議が必須とされる
ものではなく,仮に原被告間で個別の協議がされていなかったとしても,
本件の場合,原告が各誓約書やオアスとの雇用契約書に署名捺印の上で
これらを提出し,労働契約の承継に同意しており,もはや個別面談の実
施が必須の状況になかったと考えられることからすると,被告において,
承継法が5条協議を求めた趣旨に反するものと評価されるいわれはない
旨を主張する。
しかしながら,本件指針は,5条協議につき,承継される営業に従事
する労働者に対し,当該分割後に当該労働者が勤務する会社の概要や当
該労働者が上記営業に主として従事する労働者に該当するか否かを説明
し,その希望を聴取した上で,当該労働者に係る労働契約の承継の有無
や就業形態等につき協議すべきであるとして,その協議の内容及びプロ
セスを重視するものであるところ,被告の上記主張は,その点を看過し
て,要するに承継に関する同意さえあるならば,承継に係る協議は,個
別のものであろうが,そうでなかろうが,その内容や存在を重視する必
要はないというに等しく,本末転倒であって,上記のとおり,協議の内
容及びプロセスを重視し,他方で,承継の有効要件として労働者の同意
まで求めるものではない法の趣旨目的を蔑ろにするもので,失当という
ほかない。
なお,この点に関連して,被告は,被告が実践した「会社分割時の5
条協議義務履践の方法として実務上極めて一般的かつ広く行われている
方法」でもって5条協議違反が問われた場合の実務上の影響を様々に主
張するが,,原告とA工場長と
の間の個別の話合いの内容についてみれば,原告が労働契約をオアスに
承継されることに関する希望の聴取とは程遠く,少なくとも法が同協議
を求めた趣旨に反することが明らかであると認められるというものであ
って,被告がいうところの「会社分割時の5条協議義務履践の方法とし
て実務上極めて一般的かつ広く行われている方法」それ自体の妥当性を
論ずるものではないことを念のため付言する。
さらに,被告は,被告が本件に関わる詳細を確認することが難しい状
況に陥ったのは,原告による本訴提起が後れてなされたことも影響して
おり,5条協議違反の有無を検討するに当たって,この点を看過すべき
ではない旨を主張するものの,消滅時効にかかる請求でもないのに,自
己の証拠の散逸等の責任を原告に転嫁するものにすぎず,失当である。
この点に関連して,被告は,原告が,本訴における従前の主張に反し,
当事者尋問において初めて,Bスーパーバイザーとの間で個別面談を実
施して自身の希望を述べる機会があったことを明言するに至ったことに
照らせば,被告の5条協議違反の有無を検討するに当たって,Bスーパ
ーバイザー及びその上司であったCの証人尋問が必要不可欠である旨を
照),証人Bスーパーバイザー及び証人Cの証拠申出(平成29年2月
27日付け証拠申出書参照)をするが,その証拠申出がされたのが,弁
論準備手続の終結(平成28年11月22日の第6回弁論準備手続期日)
及び人証の証拠調べ(平成28年12月20日の第7回口頭弁論期日)
の後であり,口頭弁論の終結が予定されていた第8回口頭弁論期日であ
るところ,本件会社分割に伴う原告の労働契約の承継が5条協議の趣旨
に違反するかどうかが争点となることは,訴状及び答弁書が陳述された
平成27年6月4日の第1回口頭弁論期日の時点で既に明らかとなって
おり,その争点に関連して,原告と被告との間の5条協議の有無や内容
が具体的に問題とされることも自明であるから,被告において事実関係
の確認(第1回口頭弁論調書参照)をするに当たって,原告の供述の変
遷を待つまでもなく,早期に原告の上司であるBスーパーバイザーやC
から事情聴取をして,その内容に基づく立証を検討すべきことは容易に
予測できるのであって,被告において,口頭弁論の終結間際にならなけ
れば上記証拠申出をできなかった合理的な理由があるとは認め難く,上
記のとおり自己の証拠の散逸等の責任を原告に転嫁する姿勢に終始した
ことに鑑みても,上記証拠申出は,時機に後れてなされたものというべ
きであり,かつ,その点について,被告には少なくとも重過失があると
いうべきである。そして,被告の上記証拠申出を許すことになれば,そ
れら証人が体験したであろう事実をまず陳述書とともに主張上で明らか
にさせ,これに対する原告の反論の機会を与える必要が生じ,その上で
人証調べを行うこととなるもので,これにより訴訟の完結を遅延させる
こととなるものと認められる。したがって,被告の上記証拠申出は,民
事訴訟法157条1項により却下するのが相当である。なお,仮に,原
告が当事者尋問で供述するとおり,平成24年6月4日に本件通知書を
受け取った以降に,原告がBスーパーバイザーに対して,労働契約をオ
アスに承継されることを望まず,被告に残りたいという希望を伝える機
会が実際にあったのだとしても,既にその時点では本件通知書にあると
おり原告の労働契約がオアスに承継されることが正式に決定されており,
Bスーパーバイザーによる原告からの聴取内容が同決定に何らの影響も
与えていないと考えられ,そのような決定に先立って5条協議を尽くす
という法の趣旨がもはや維持されているものではないから,それでもっ
とおりである。
小括
以上によれば,本件会社分割に伴って原被告間でもたれた話合いの内容は,
少なくとも,法が5条協議を求めた趣旨に反することが明らかであるから,
原告は,本件会社分割による被告からオアスへの労働契約承継の効力を争う
ことができるものといえる。
2主位的請求(地位確認請求,賃金請求及び賞与請求)に関して,争点2(原
告が被告に対して退職の意思表示をしたかどうか),争点3(原被告間の労働
契約が黙示に合意解除されたかどうか)及び争点4(原告の主位的請求が信義
則に反する訴権の行使といえるかどうか)について
検討
ア前記前提事実に加え,前記1の認定事実及び証拠(甲5)並びに弁論
の全趣旨によれば,本件会社分割に伴って原告の労働関係が平成24年7
月2日に被告からオアスに承継されることを前提に,原告が平成24年6
月10日付けで,被告に対し,「今般私は,2012年(判決注・平成2
4年)7月1日付をもって,貴社を退職することになりましたが,業務上
知り得た会社,関係会社,顧客または,他の社員に関する秘密事項,在職
中知り得た機密事項及び貴社の不利益となる事項の保全に留意するととも
に,退社後もこれを他に漏らさない事を確約いたします。」と印字された
誓約書に署名押印の上,これを提出したことが認められる。
被告は,上記誓約書の文言のうち,「貴社を退職することになりました」
等の部分を踏まえて,原告が被告に対して退職の意思表示をした旨を主張
するほか,これに加えて,原告が被告からの退職を長期にわたって争って
こなかったことから,原被告間の労働契約が黙示的に合意解除された旨を
主張する。
しかしながら,上記誓約書の記載を全体としてみれば,これは,退職の
意思表示をするというよりも,秘密保持を誓約する内容のものであること
は明らかである。また,そもそも,原被告間の労働契約は,本件会社分割
当時,それに伴ってオアスに承継する取扱いとされていたのであるから,
そのような状況下において,被告を「退職」するという言い回しが例えば
上記誓約書等で用いられたことがあったとしても,それが「退社」という
事実上の意味を超えて原被告間の労働契約を将来に向けて合意解約すると
いうような法的意味合いを持って用いられたものとはいえないし,原告が
同労働契約を将来に向けて合意解約する意味合いでの「退職」の法的効力
を争うことも観念し難いと言わざるを得ない。
イまた,本訴の提起自体は,原告が本件会社分割に伴いオアスで勤務を開
始した平成24年7月2日から約2年9か月後,オアスを解雇された平成
26年1月31日から約1年2か月後の平成27年4月11日になされた
ものであるものの,本件の全証拠及び弁論の全趣旨からうかがわれる本件
の経過に鑑みると,また,本訴の請求が消滅時効にかかるものでもないこ
とからすると,これが信義則に反する訴権の行使に当たるとはいえない。
小括
以上によれば,争点2(原告が被告に対して退職の意思表示をしたかどう
か),争点3(原被告間の労働契約が黙示に合意解除されたかどうか)及び
争点4(原告の主位的請求が信義則に反する訴権の行使といえるかどうか)
に関する被告の主張は,いずれも理由がない。
したがって,争点1ないし4についての以上の検討結果から,原告の被告
に対する労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求は理由がある。
3主位的請求に関して,争点5(賃金請求の額)及び争点6(賞与請求権の有
無)について
賃金請求の額(争点5)
前記のとおり,本件会社分割においてなされた原被告間の話合いは,法が
5条協議を求めた趣旨に反することが明らかであり,原告は,同会社分割に
伴う労働契約の承継の効力を争うことができるから,被告に対し,労働契約
に基づき賃金債権を有するということになる。
そして,被告における賃金等の条件がそのまま原告とオアスの間の労働契
約に承継されたこと(前記前提事実ウ,甲7,原告27頁,弁論の全趣旨)
からすると,原告の賃金は月額31万2500円で,その支払方法は当月末
日締の当月25日払いであり,被告との関係で,少なくとも同年2月1日分
以降(前記前提事実オアスの原告に対する平成26年1月3
1日付けでの解雇がなされた以降)の賃金は未払であると認められる。
そうすると,被告は,原告に対し,労働契約に基づき,平成26年2月か
ら本判決確定の日まで,毎月25日限り,31万2500円及びこれらに対
する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅
延利息の支払義務を負うものといえる。
賞与請求権の有無(争点6)
被告における賞与については,その給与規定25条1項に「会社は,毎年
6月および12月に会社の業績を考慮した上,賞与を支給することがありま
す。」という旨の定めがある(乙27)ところ,このような定めを字句のと
おりに解すれば,会社の業績を考慮した上で被告の裁量により支給の有無と
支給される場合の金額が決定されることになっており,不支給とされる余地
があり得るものの,原告が被告で勤務していた当時に,給与規程25条2項
所定の3月期の決算賞与については,会社の業績に応じて支払われなかった
ケースがある一方で,同規定25条1項所定の夏季賞与及び年末賞与が支払
われなかったケースはないこと(乙27,原告27,28頁,弁論の全趣旨)
を踏まえれば,賞与の支給が原則としてある旨の合意が原告と被告との間の
労働契約の内容を成しているものと解するのが相当である。
そして,前記のとおり,被告における賃金等の条件がそのまま原告とオア
スの間の労働契約に承継されたことに加え,原告の賞与について,オアスへ
労働契約が承継される取扱いとなる直近の支給額よりも減額すべき事情が特
に見当たらないことに照らせば,毎年6月15日及び12月10日に,各6
8万8500円の賞与請求権が生じるものと認めるのが相当である(甲10
の1・2,弁論の全趣旨)。
そうすると,被告は,原告に対し,平成26年6月から本判決確定の日ま
で,毎年6月15日及び12月10日限り,各68万8500円並びにこれ
らに対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合に
よる遅延利息の支払義務を負うものといえる。
4結論
以上によれば,原告の主位的請求はいずれも理由があるからこれを認容する
こととし,主文のとおり判決する。なお,仮執行免脱宣言は相当ではないから
これを付さないこととする。
東京地方裁判所民事第11部
裁判長裁判官湯川克彦
裁判官上田真史
裁判官原島麻由

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