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        主         文
 1 控訴人らの本件各控訴並びに被控訴人Iの本件控訴をいずれも棄却する。
 2 控訴人らの本件各控訴に係る控訴費用は控訴人らの負担とし,被控訴人Iの
本件控訴に係る控訴費用は被控訴人Iの負担とする。
        事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人らの控訴の趣旨
  (1) 原判決中,本訴部分を次のとおり変更する。
  (2) 被控訴人らは,各自,控訴人E,同F,同G,同Hに対し各15万051
6円,被控訴人A,同Bに対し各14万5795円,被控訴人Cに対し13万87
95円,被控訴人Dに対し14万3516円及びこれらに対する平成11年11月
7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  (3) 被控訴人Iは,控訴人ら各自に対し,各23万5000円及びこれに対す
る平成12年3月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 被控訴人Iの控訴の趣旨
  (1) 原判決中,被控訴人Iの敗訴部分を取り消す。
  (2) 控訴人らの請求をいずれも棄却する。
  (3) 控訴人らは,被控訴人に対し,連帯して,220万円及びこれに対する平
成11年7月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 1 本件のうち控訴人らの本訴請求は,被控訴人学園が設置する崇徳高等学校バ
レー部の生徒の保護者であった控訴人らが,
  (1) 同部の監督である被控訴人Iに対し,
   ① 被控訴人Iが控訴人らの預託した遠征費・合宿費の余剰金を不正に領得
したことを理由に,第1次的に民法709条による不法行為損害賠償請求権に基づ
き,第2次的に委任契約に基づく預託金返還請求権ないし民法415条による同契
約の債務不履行損害賠償請求権に基づき,上記余剰金相当額として控訴人E,同
F,同G,同Hにおいては各15万0516円,控訴人A,同Bにおいては各14
万5795円,控訴人Cにおいては13万8795円,控訴人Dにおいては14万
3516円及びこれらに対する平成11年11月7日(訴状送達の日の翌日)から
支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,
   ② 被控訴人Iが部費の会計報告を行わないことは委任契約の債務不履行で
あるとして民法645条及び651条による同契約の解除を理由に,その原状回復
請求権に基づき,既払の部費相当額として各13万5000円及びこれらに対する
訴状送達後である平成12年3月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合に
よる遅延損害金の支払を求め,
   ③ 被控訴人Iの上記委任契約の各債務不履行による損害賠償請求権に基づ
き,慰謝料として各10万円びこれらに対する平成12年3月8日(平成12年3
月3日付け「訴え変更申立書」送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5
分の割合による遅延損害金の支払を求め,
  (2) 被控訴人学園に対し,被控訴人Iが控訴人らの預託した遠征費・合宿費の
余剰金を不正に領得した行為は,被控訴人学園の事業の執行につきなされたもので
あるとして,民法715条による不法行為損害賠償請求権(使用者責任)に基づ
き,被控訴人Iと連帯して上記(1)①と同様の損害賠償金の支払を求めた事案であ
る。
    また 本件のうち被控訴人Iの反訴請求は,被控訴人Iが控訴人らに対
し,控訴人らの報道機関に対する情報提供が同被控訴人の名誉を毀損し,また控訴
人らが広島総合銀行から同被控訴人の口座取引明細表を入手し,これを所持,利用
したことが同被控訴人の自己情報管理権ないしプライバシー権等を侵害することを
理由に,民法709条による不法行為損害賠償請求権に基づき,慰謝料200万円
及び弁護士費用20万円の合計220万円及び及びこれに対する不法行為日である
平成11年7月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の
支払を求めた事案である。  
    以上の各請求に対して原審は,控訴人らの本訴請求のうち被控訴人Iに対
する遠征費・合宿費の返還請求につき一部を認容したものの,その余の同被控訴人
に対する請求及び被控訴人学園に対する請求をいずれも棄却し,被控訴人Iの反訴
請求を棄却する判決を言い渡したので,これについて控訴人ら及び被控訴人Iから
控訴がなされた。
 2 当事者間に争いのない事実
当事者間に争いのない事実は,原判決の「第2 事案の概要」中の「1 当事者間
に争いのない事実」(原判決4頁2行目から5頁3行目まで)に記載のとおりであ
るから,ここにこれを引用する。
 3 当事者の主張
   当事者の主張は,次のとおり付加訂正するほかは,原判決の「第2 事案の
概要」中の「2 当事者の主張」(原判決5頁4行目から9頁14行目まで)に記
載のとおりであるから,ここにこれを引用する(ただし,原判決7頁19行目の
「適示」を「摘示」と改める。)。
  (1) 当審における控訴人らの主張
   ① 本訴請求の遠征費・合宿費
    ア 被控訴人Iは,遠征費・合宿費を相当期間経過後も清算していないの
で,これを不正に領得している。
    イ 被控訴人Iは,遠征費・合宿費の一部を,懇親会費として自己の飲食
費等に費消しているので,目的外使用として不法行為が成立する。また,同様に監
督・コーチの交通費・宿泊費等,夜食・クリーニング代のうち相当額を越える部
分,土産代についても,目的外使用として不法行為が成立する。
    ウ したがって,被控訴人らは,連帯して,遠征費・合宿費につき不法行
為責任を負担すべきである。
   ② 本訴請求の部費
    ア 被控訴人Iは,委任契約に基づいて,部費につき会計報告すべき義務
がある。
    イ 控訴人らは,被控訴人Iに対し,民法651条により委任契約を解除
しているので,同被控訴人には部費の清算義務がある。
    ウ 控訴人らの子らは,それぞれ平成12年春に崇徳高等学校を卒業して
いるので,被控訴人Iには部費の清算義務がある。 
  (2) 当審における被控訴人Iの主張
   ① 本訴請求の遠征費・合宿費
    ア 次の事情があるので,被控訴人Iには遠征費・合宿費の清算義務・会
計報告義務はない。
     (ア) 遠征費・合宿費についても,部費と同様に清算義務・会計報告義
務がないことは,長年にわたる慣行であった。
     (イ) 保護者会は,バレー部の活動のための支払の代行だけではなく,
各保護者から被控訴人Iとの金銭預託に関わる契約内容の決定権限まで一任された
機関である。そして,遠征費・合宿費のおおまかな決定と連絡を行い,またその徴
収を行っていたのは,保護者会ないしその会長である。
     (ウ) 保護者会の保護者らは,遠征・合宿に際しては,これまで長年に
わたり交際費や活動費の徴収額について,部費と遠征費・合宿費の余剰状態を総合
的に判断して,監督と協議して金額決定をしてきた。
        なお,部費は,交際費のみに使用するもの,遠征費・合宿費は実
費にのみ使用するものとは明確に区別されていなかった。
    イ 仮に,被控訴人Iに遠征費・合宿費の清算義務・会計報告義務がある
としても,次のとおりその余剰金が他の遠征・合宿に回されている。
     (ア) 坂出合宿(本判決別表3⑤)
        被控訴人Iの宿泊費・食事代,懇親会費,お土産代について,同
被控訴人が自己負担すべきいわれはないから,これらも支出に含めるべきである。
更に8万円が中国高校選手権大会(鳥取)の費用に充当されているから,本判決別
表3⑤のとおり支出合計は86万9150円であるので,原判決別表3⑤の支出は
訂正されるべきである。
     (イ) 岡山遠征(本判決別表3⑦)
        上記(ア)と同様の理由により,本判決別表3⑦のとおり支出合計
は36万5250円であるので,原判決別表3⑦の支出は訂正されるべきである。
     (ウ) 中国高校選手権大会(鳥取。本判決別表3⑧)
        本判決別表3⑧のとおり収入合計は70万8565円であり,支
出合計は73万6800円であるので,原判決別表3⑧の収入・支出は訂正される
べきである。
     (エ) ステップアップ合宿(福山。本判決別表3⑪)
        本判決別表3⑪のとおり収入合計は13万0260円であり,支
出合計は11万3420円であるので,原判決別表3⑪の収入・支出は訂正される
べきである。
   ② 反訴請求
    ア 控訴人らは,その子がバレー部のレギュラーからはずされたことに対
する意趣返しのために,報道機関に対して,被控訴人Iが金銭を不法領得したかの
ような印象を与える事実を公然と摘示し,その名誉を毀損している。
    イ 控訴人らは,広島総合銀行から被控訴人Iの口座取引明細表を不法に
入手して保持し,これを利用したので,同被控訴人の自己情報管理権ないしプライ
バシー権等を侵害している。
  (3) 当審における被控訴人学園の主張
    遠征費・合宿費について,控訴人ら主張の被控訴人Iの不法行為はない。
 4 主たる争点
   本件の主たる争点は,原判決の「第2 事案の概要」中の「3 主たる争
点」(原判決9頁15行目から26行目まで)に記載のとおりであるから,ここに
これを引用する。
第3 証拠
   原審の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから,ここにこれを引
用する。
第4 当裁判所の判断
 1 当裁判所も,控訴人らの被控訴人らに対する本訴請求のうち被控訴人Iに対
する請求を原判決認容の限度において正当として認容し,その余の同被控訴人に対
する請求及び被控訴人学園に対する請求並びに被控訴人Iの控訴人らに対する反訴
請求をいずれも失当として棄却すべきものであると判断する。その理由は,次のと
おり付加するほかは,原判決の「第3 争点に対する当裁判所の判断」に記載のと
おりであるから,ここにこれを引用する。
  (1) 本訴請求の遠征費・合宿費
   ① 控訴人らは,ア 被控訴人Iが遠征費・合宿費を相当期間経過後も清算
していないので,これを不正に領得していること,イ 被控訴人Iが遠征費・合宿
費の一部を懇親会費として費消しているので不法行為が成立し,また監督・コーチ
の交通費・宿泊費等,夜食・クリーニング代のうち相当額を越える部分,土産代に
ついても,目的外使用として不法行為が成立すると主張する。
     しかし,上記引用に係る原判決説示(原判決11頁24行目から36頁
2行目まで)のとおり,被控訴人Iが遠征費・合宿費を私的な用途に使用したこと
を認めるに足りる的確な証拠はない。のみならず,被控訴人Iがバレー部の監督に
就任した平成6年10月以降,遠征費・合宿費についても,保護者会又は個々の保
護者から会計報告や清算を求められたことは一切なく,控訴人らを除く大部分の保
護者らは,被控訴人Iを信頼し,その使途を被控訴人Iの裁量に任せていたことに
照らすと,被控訴人Iがこれまで遠征費・合宿費につき会計報告を行わず,余剰金
を返還していないことをもって直ちに不法行為を構成するとまではいえないものと
いうべきである。
     なお,被控訴人Iは,遠征費・合宿費の清算義務・会計報告義務がない
と主張するが,上記引用に係る原判決説示(原判決11頁24行目から36頁2行
目まで)のとおり,遠征費・合宿費は,遠征・合宿における交通費や宿泊費等の特
定の支出に充てるために,各保護者が被控訴人Iに預託した金銭であって,各保護
者が被控訴人Iに対して委任した遠征・合宿に関する事務処理に要する費用として
預託されたものであるから,被控訴人Iにはその清算義務・会計報告義務があるも
のというべきである。
   ② ところで,被控訴人Iは,(ア) 坂出合宿(本判決別表3⑤)につい
て,被控訴人Iの宿泊費・食事代,懇親会費,お土産代につき,同被控訴人が自己
負担すべきいわれはないから,これらも支出に含めるべきであり,更に8万円が中
国高校選手権大会(鳥取)の費用に充当されているから,本判決別表3⑤のとおり
支出合計は86万9150円であるので,原判決別表3⑤の支出は訂正されるべき
であること,(イ) 岡山遠征(本判決別表3⑦)について,本判決別表3⑦のとお
り支出合計は36万5250円であるので,原判決別表3⑦の支出は訂正されるべ
きであること,(ウ) 中国高校選手権大会(鳥取。本判決別表3⑧)について,本
判決別表3⑧のとおり収入合計は70万8565円であり,支出合計は73万68
00円であるので,原判決別表3⑧の収入・支出は訂正されるべきであると主張す
る。
     しかしながら,上記引用に係る原判決説示(原判決14頁16行目から
36頁2行目まで)のとおり,遠征費・合宿費は,遠征・合宿に要する実費の預託
と解すべきであるので,これから監督及びコーチの交通費,宿泊費,食事代,懇親
会費及びお土産代等を支出することはできないものと解するのが相当である。
また,被控訴人Iは,ステップアップ合宿(福山。本判決別表3⑪)
について,本判決別表3⑪のとおり収入合計は13万0260円であり,支出合計
は11万3420円であるので,原判決別表3⑪の収入・支出は訂正されるべきで
あると主張するが,これを認めるに足りる的確な証拠はなく,むしろ証拠(甲1
0,原審の控訴人E本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によると,原判決別表3⑪
の収入・支出のとおりであることが認められる。
     したがって,被控訴人Iの上記主張を採用することはできない。
  (2) 本訴請求の部費
    控訴人らは,ア 被控訴人Iが委任契約に基づいて部費につき会計報告す
べき義務があること,イ 被控訴人Iに対し,民法651条により委任契約を解除
しているので,部費の清算義務があること,ウ 控訴人らの子らがそれぞれ平成1
2年春に崇徳高等学校を卒業しているので,部費について清算すべき義務があるこ
とを主張する。
    しかしながら,上記引用に係る原判決説示(原判決10頁2行目から11
頁23行目まで並びに36頁3行目から8行目まで)のとおり,部費は,特定の事
務処理のために被控訴人Iに預託されていたものではないところ,その使途につい
ては,被控訴人Iの裁量に広く任されており,これにつき被控訴人Iに会計報告の
義務はなく,余剰金が生じたときも返還することを要しないものとされていたこと
が認められるから,控訴人ら主張の上記事由による部費の返還も予定されていない
ものと解するのが相当である。
    したがって,控訴人らの上記主張を採用することができない。
  (3) 反訴請求
    被控訴人Iは,ア 控訴人らにおいてその子がバレー部のレギュラーから
はずされたことに対する意趣返しのために,報道機関に対し,被控訴人Iが金銭を
不法領得したかのような印象を与える事実を公然と摘示し,その名誉を毀損してい
ること,イ 控訴人らが広島総合銀行から被控訴人Iの口座取引明細表を不法に入
手して保持し,これを利用したので,同被控訴人の自己情報管理権ないしプライバ
シー権等を侵害していることを主張する。
    しかしながら,本件全証拠によっても,控訴人らの子がバレー部のレギュ
ラーからはずされたことに対する意趣返しの意図の存在及び控訴人らが広島総合銀
行から被控訴人Iの口座取引明細表を不法に入手したことを認定することはできな
い。そして,上記引用に係る原判決説示(原判決37頁3行目から39頁23行目
まで)のとおり,控訴人らには被控訴人I主張の不法行為は成立しないものという
べきである。
  (4) その他の当審における主張立証も上記認定判断(原判決引用)を左右する
に足りないものというべきである。
 2 よって,原判決は相当であり,控訴人らの本件各控訴並びに被控訴人Iの本
件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決す
る。
    広島高等裁判所第4部
        裁判長裁判官    竹   中   省   吾
           裁判官    廣   永   伸   行
           裁判官    河   野   清   孝
(本判決別表3⑤,同3⑦,同3⑧,同3⑪の添付省略)

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