弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成12年(行ケ)第77号審決取消請求事件(平成12年10月4日口頭弁論終
結)
          判     決
     原      告   ショーメ アンテルナシオナル エス.アー.
     代表者        【A】
     訴訟代理人弁護士   武田正彦
     同    弁理士   【B】
     同          【C】
     同          【D】
     被      告   特許庁長官 【E】
     指定代理人      【F】
     同          【G】
同【H】
          主     文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日
と定める。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
 1 原告
   特許庁が平成10年審判第11678号事件について平成11年10月22
日にした審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
   主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は、平成7年10月13日、意匠に係る物品を「腕時計」とし、その形
態を別紙第1記載のとおりとする意匠(以下「本願意匠」という。)につき意匠登
録出願(意願平7-30405号)をしたが、平成10年3月26日に拒絶査定を
受けたので、同年7月24日、これに対する不服の審判の請求をした。
 特許庁は、同請求を平成10年審判第11678号事件として審理した上、
平成11年10月22日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、
その謄本は同年11月8日原告に送達された。
 2 審決の理由の要点
   審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願意匠が、その登録出願前に日本
国内において頒布された刊行物である「’90輸入時計総合カタログ」(平成元年
11月30日社団法人日本時計輸入協会発行)に記載され、意匠に係る物品を「腕
時計」とし、形態を別紙第2記載のとおりとする意匠(以下「引用意匠」とい
う。)と比較して、意匠に係る物品が同一であり、その形態についても共通点が差
異点を凌駕し、結局、引用意匠に類似するものであるから、意匠法3条1項3号に
該当し、意匠登録を受けることができないとした。
第3 原告主張の審決取消事由
   審決の理由中、本願意匠及び引用意匠の認定(審決書2頁2行目~15行
目)、両意匠の意匠に係る物品の同一性の認定(同2頁16行目~17行目)、本
願意匠と引用意匠の具体的構成態様の共通点(4)~(6)及び差異点(イ)~(ヘ)の認定
(同4頁1行目~5頁1行目)は認める。
 審決は、本願意匠と引用意匠との共通点の認定を誤るとともに差異点を看過
し(取消事由1)、また、両意匠の類否の判断を誤った(取消事由2)ものである
から、違法として取り消されるべきである。
 1 取消事由1(共通点の認定誤りと差異点の看過)
 (1) 腕時計本体について
   ① 腕時計本体の左右の畝状体について
     審決は、本願意匠と引用意匠の腕時計本体の左右の畝状体につき、いず
れも上方視で長円形、横断面がほぼ半円状とする(共通点(2))が、引用意匠では、
時刻表示部の側部が上記畝状体の腹部にかなり食い込んでおり、上方視が長円形と
はいい難く、また、横断面図を示していないので横断面の形状は不明であるから、
審決の上記認定は誤りである。
② 時刻表示部の上下の畝状体について
  審決は、本願意匠と引用意匠の時刻表示部の上下の畝状体について、
「時刻表示部の方形の上辺に接して上方に向かって、左右の畝状体の上端寄り部分
と同形の畝状体を奇数の数本配置し、その内側の2本の畝状体を背高に、その他の
畝状体の高さを左右の畝状体と同高とし、その結果全体の畝状体の高さが互い違い
に現れており、また腕時計本体の下半部については上半部と対称状の態様のもので
ある点」(審決書3頁9行目~16行目)で共通すると認定する。
  しかし、時刻表示部の上下の畝状体の数は、本願意匠では3本であるの
に対し、引用意匠では5本と異なる上、その形状においても、本願意匠では時刻表
示部の上下の畝状体のうち腕時計本体の左右の畝状体のすぐ内側の2本が左右の畝
状体より背高になっているのに対し、引用意匠においては逆に低くなっている点、
本願意匠の時刻表示部の上下の畝状体は、背高の畝状体2本を除く他の畝状体1本
が左右の畝状体と上端部及び下端部を等しくするのに対して、引用意匠において
は、逆に、背高の畝状体が左右の畝状体と上端部及び下端部を等しくする点で差異
があり、審決はこれらの差異を看過している。
③ 時刻表示部について
  審決は、両意匠とも、時刻表示部は「縦長方形窓状」(審決書3頁2行
目~3行目)ないし「縦長方形状」(同3頁8行目~9行目)である点で共通する
としつつ、両意匠は、「時刻表示部の方形輪郭形状につき、引用意匠の方が縦長で
ある点」(同4頁11行目~12行目)において差異を認めている(差異点
(ハ))。
  しかし、本願意匠の時刻表示部は長方形というよりは正方形に近いもの
であり、顕著に長方形である引用意匠とは大きく異なっており、審決の上記認定は
誤りである。
 (2) バンドについて
 審決は、本願意匠と引用意匠のバンドの畝状体について、「上方視の長さ
が幅の略2倍で、幅が腕時計本体の畝状体と同幅で、その横断面が略半円状の短い
もので、これを腕時計本体部に連続状、上下に互い違い状に数列配列した態様のも
のである点」(審決書3頁17行目~末行)で共通すると認定する。
 しかし、本願意匠における畝状体の長さと幅の関係は審決も指摘するよう
にほぼ2対1であるが、引用意匠ではほぼ1.5対1であり、また、引用意匠は横断面
図を示していないので横断面形状は不明であるから、審決の上記認定は誤りであ
る。
(3) 時刻表示部とバンドの幅の比率について
    バンドの幅を100とした場合の時刻表示部の幅は、本願意匠では約60
であるのに対し、引用意匠では約80であり、大きく異なる。審決はこの差異点を
看過している。
 2 取消事由2(類否の判断の誤り)
   審決は、時計表示部に関する差異点(ハ)~(ホ)は類否の判断の上で影響が少
ないとするが、看者に強く印象を与える部分であって、意匠の要部に相当するとい
うべきである。
   そして、上記1で指摘したとおりの審決が看過した差異点、すなわち、(a)
バンド幅を100とした場合の時刻表示部の幅が、本願意匠が約60であるのに対
し、引用意匠は約80である点、(b)腕時計本体の左右の畝状体の形状が異なる
点、(c)時刻表示部の上下の畝状体の数及び形状が異なる点、(d)バンドの畝状体
の長さと幅の関係が異なる点についても、両意匠の顕著な差異であり、これに審決
が認定する差異点(イ)~(ヘ)(審決書4頁8行目~末行)を総合すると、以上の諸
点は本願意匠と引用意匠の審美性ないしその類否の判断に影響を及ぼす大きな差異
というべきである。
   すなわち、本願意匠においては、バンドの中に時計本体が小さく埋め込まれ
た外観で、看者にフェミニンでエレガントな感じを与えるのに対し、引用意匠にお
いては、時計本体を大きくくっきり表した外観で、看者に男性的で無骨な感じを与
える。さらに、本願意匠は、腕時計というよりは、時刻表示部付きのブレスレット
のような外観であるのに対し、引用意匠はいかにも腕時計然としている。一般に、
腕時計においては、全体が小さいことから、時刻表示部を見やすくするため大きく
する傾向があるが、本願意匠ではかなり小さく、ざん新な意匠である。
   以上のような両意匠の大きな差異からすると、両者は類似しないというべき
であって、審決の判断は誤りである。
第4 被告の反論
   審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
 1 取消事由1(共通点の認定誤りと差異点の看過)について
 (1) 腕時計本体について
① 腕時計本体の左右の畝状体について
  原告は、引用意匠の時刻表示部の両側部が腕時計本体の左右の畝状体内
側腹部にかなり食い込んでいると主張するが、それは左右の畝状体の内側縁部の中
央ほぼ3分の2をわずかに侵食した程度のものであり、また、左右の畝状体が凸弧
面状であり、その侵食部分は片方の縁の裾に当たる部分であることを勘案すると、
審決の「上方視で長円形」との認定に包摂され得る程度のものであって、審決に誤
りはない。
  また、原告は、引用意匠は横断面を示していないので横断面形状は不明
であると主張するが、引用意匠は写真版で示されているので、横断面図がなくと
も、横断面がほぼ半円状であることは十分認識することができる。
② 時刻表示部の上下の畝状体について
  原告は、まず、時刻表示部の上下の畝状体の数の相違を主張するが、そ
の点は、審決が差異点(イ)(審決書4頁8行目~9行目)として認定しており、差
異点の看過とはいえない。
  次に、原告は、時刻表示部の上下の畝状体の高さに関する審決の認定の
誤りを主張するが、この点に関して原告が主張する差異点は、腕時計本体の左右の
畝状体が長いか短いかにより生ずる差異であり、審決はこれを差異点(ロ)として、
「腕時計本体部の左右畝状体について、引用意匠の方がかなり長い点」(同4頁1
0行目~11行目)を摘示しているから、差異点の看過はない。なお、審決の「そ
の他の畝状体の高さを左右の畝状体と同高とし」(同3頁12行目~13行目)と
の記述は「その他の畝状体の高さ(を)低いものとし」の誤記であるが、続けて
「その結果全体の畝状体の高さが互い違いに現れており」(同3頁13行目~14
行目)と認定しており、また、上記のとおり差異点(ロ)を摘示していることから、
審決の結論に影響する誤認はない。
③ 時刻表示部について
  原告は、時刻表示部の縦横比の相違について主張するが、本願意匠でも
引用意匠でも縦長方形状であることに変わりはなく、その縦横比率の差異について
は、審決は差異点(ハ)として、「時刻表示部の方形輪郭形状につき、引用意匠の方
が縦長である点」(審決書4頁11行目~12行目)を摘示しており、審決の認定
に何ら誤りはない。
(2) バンドについて
 原告は、本願意匠と引用意匠の畝状体の幅と長さの関係の相違について主
張するが、意匠における類否判断は、意匠を視覚的にとらえ、そこから生ずる美観
を感受し評価するものであるから、多数の畝状体が連結され、バンド全体の美観を
構成している本件の場合に、個々の畝状体の幅と長さの関係について具体的な数値
による対比を行う必要はなく、審決がバンド部の畝状体につき「上方視の長さが幅
の略2倍」(審決書3頁17行目)と認定したことに誤りはないというべきであ
る。
(3) 時刻表示部とバンドの幅の比率について
    原告は、バンドの幅に対する時刻表示部の幅の比率の相違について主張す
るが、審決は、差異点(イ)として「畝の本数につき、本願意匠が5本であるのに対
して、引用意匠は7本である点」(審決書4頁8行目~9行目)を摘示するととも
に、差異点の評価において、「(イ)の点は、全体に幅広状のものと稍幅狭状のもの
との差異感をもたらすものである」(同6頁7行目~9行目)とし、その差異点に
言及しており、審決には差異点を看過した誤りはない。
 2 取消事由2(類否の判断の誤り)について
(1) 原告は、本願意匠と引用意匠の類否の判断において、その差異点の与える影
響が大きい旨主張するが、両意匠は、まず、腕時計本体について共通点(2)(審決書
3頁5行目~16行目)があり、バンドについて共通点(3)(同3頁16行目~末
行)があるところ、上方視長円形畝状体を左右互い違いに数列並べた畝状体のベル
トのバンドを付けた腕時計の先行意匠(乙第2号証の3の番号7、8の腕時計)、
腕時計本体がベルト体に埋め込まれた先行意匠(乙第1号証の5の番号1、2の腕
時計、乙第4号証の2の下欄中央のSWZZ002の腕時計)等を参酌すれば、両
意匠の特筆すべき共通点は、腕時計本体自体及びバンド自体の形態の共通点もさる
ことながら、腕時計本体とバンドの取付態様にもあるというべきである。すなわ
ち、全体が、上方視長円形の畝状体を左右互い違いに数列並べたベルト体の上下中
央部に、縦長方形窓状の時刻表示部を設けた基本的構成態様のものであること、そ
して、その具体的構成態様において、特に、腕時計本体とベルトとの取付態様につ
いて、時刻表示部の両側にバンド部の畝状体とその上下方をほぼ同形とする畝状体
を形成してバンド部に連続させ、また、時刻表示部の上下辺からバンド部に向けて
バンド部の畝状体とほぼ同形の畝状体を延設し、バンド部と腕時計本体を一体的に
連続させて取り付けたものであり、さらに、腕時計本体から延びる畝状体につい
て、背高のものと低いものとをバンド部と同様に交互に形成し、バンド部の畝状体
と融合させて形成している点が近似している。
  これに対し、原告の主張する差異点(a)及び(c)は審決の認定する差異点
(イ)に帰結するものであり、同(b)及び(d)については、それぞれ上記1(1)
①、(2)で反論したとおりである。そして、差異点(イ)(畝の本数の相違)は、この
主の物品のベルト部において、畝状体を5本とするものも7本とするものもごく一
般的であり、創作のバリエーションの範囲に属するものである。次に、差異点(ロ)
(腕時計本体の左右畝状体の長さの差異)は、本願意匠が畝状体を5本としたこと
によって、背高のものと低いものとの順序が替わり、その結果として、本願意匠の
左右の畝状体は、長さの短いものになったのであって、また、この畝状体はバンド
部の畝状体と融合させて形成しているため目立たず、この差異が類否判断に及ぼす
影響は軽微である。また、差異点(ハ)(時刻表示部の形状の相違)は、引用意匠が
際立って長方形であるとの印象はなく、本願意匠もやや縦長の長方形であることに
変わりはないからその差異はさほど目立たず、差異点(ニ)(時刻表示部の線模様の
差異)は、両意匠ともにごくありふれた態様のものにすぎず、差異点(ホ)(時刻表
示部の時刻表示の差異)につき、本願意匠がローマ数字及び点で時刻を表示してい
る点に特徴がなく、差異点(ヘ)(バンドの留め具の差異)の点については、引用意
匠においても留め具が設けられていると推認されるところであって、全体から見れ
ばさほど重要視されない部位の差異にとどまるものである。
  以上のとおり、審決の類否の判断に誤りはないというべきである。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(共通点の認定誤りと差異点の看過)について
 (1) 腕時計本体について
   ① 腕時計本体の左右の畝状体について
     原告は、本願意匠と引用意匠の腕時計本体の左右の畝状体の構成の相違
を主張するところ、確かに、両意匠を子細に対比した場合、引用意匠では時刻表示
部の両側部が同畝状体の内側に若干食い込んだ形態となっている点で本願意匠と異
なり、かつ、審決はその旨を明示的に摘示していないが、時刻表示部が左右の畝状
体を覆い隠すような態様ではなく、「上方視が細長棒状の長円形・・・の畝状体2
本を間隔を置いて左右に配し、その上下に同長の余地を設けてその間に縦長方形状
の時刻表示部を配し」(審決書3頁6行目~9行目)との共通点の認定に包摂され
る程度の軽微な差異にすぎないというべきであって、両意匠の類否の判断に影響を
及ぼすような差異点とまでは認められないから、これをとりたてて摘示しなかった
ことが誤りであるとはいえない。
     また、原告は、引用意匠における上記畝状体の横断面の形状は不明であ
ると主張するが、引用意匠は写真版として示されているため、横断面図がなくと
も、陰影等によりその横断面がほぼ半円状であることは容易に認識することができ
るから、原告の上記主張も理由がない。
② 時刻表示部の上下の畝状体について
  原告は、時刻表示部の上下の畝状体に関して、まずその数の相違を主張
するが、この点は、審決が差異点(イ)として摘示して検討しているところであっ
て、差異点の看過ということはできない。
  次に、原告は、上記畝状体の背高部分と低い部分との組合せの構成につ
いて審決の認定の誤りを主張する。確かに、審決は、「その他の(注、背高でな
い)畝状体の高さを左右の畝状体と同高とし」(審決書3頁12行目~13行目)
ている点を両意匠の共通点として認定するところ、この構成は引用意匠には当ては
まらないというべきであるが、審決の共通点(2)における認定は、時刻表示部の左右
の畝状体と上下の畝状体とが背高のものと低いものとが互い違いに現れるという点
を主眼としており、その点において両意匠の形態は共通するものである。そして、
時刻表示部上下の畝状体の形態に関して、看者の目をひくのは、この共通点の部分
であって、背高でない畝状体の高さが左右の畝状体と同高であるかどうかという点
は、このような両意匠の共通部分に包摂され、看者においてほとんど意識されない
ところというべきである。しかも、この差異点は、本願意匠と引用意匠の畝の本数
の相違に由来するものであるから、この点について審決が差異点(イ)を摘示してい
る以上、これと別に上記差異点を摘示しなかったとしても、差異点の看過というこ
とはできない。
③ 時刻表示部について
  原告は、本願意匠の時刻表示部は長方形というより正方形に近いもので
あって、顕著に長方形である引用意匠とは異なる旨主張するが、本願意匠の時刻表
示部が縦長方形であることは明らかであって、その点で引用意匠と共通するとした
審決の認定に誤りはない。なお、時刻表示部の縦横比率については、審決は差異点
(ハ)として明示しているところであるから、差異点の看過ということもできない。
 (2) バンドについて
    原告は、バンドの畝状体の長さと幅の比率の差異について主張するが、両
意匠のバンドは、多数の同形の畝状体が互い違いに連結されてバンド全体の美観を
構成しているものであって、個々の畝状体の形態それ自体によって美観が構成され
るものとはいい難いのであるから、その長さと幅の比率について厳密な対比を行う
ことなく、「上方視の長さが幅の略2倍」(審決書3頁17行目)であるとした審
決の認定に誤りはないというべきであるし、上記畝状体の幅と長さの比率がおおむ
ね1対2といい得る範囲にあると認められることからしても、それ以上の厳密な比
較に基づく微細な差異は、本願意匠と引用意匠との全体的な類否の判断に影響を及
ぼすようなものではないというべきである。
 (3) 時刻表示部とバンドの幅の比率について
    原告は、バンドの幅を100とした場合の時刻表示部の幅が本願意匠で約
60であるのに対し引用意匠では約80であると主張するが、審決は、差異点(イ)
(畝の本数の相違)に関して、「(イ)の点は、全体に幅広状のものと稍幅狭状のも
のとの差異感をもたらすものである」(審決書6頁7行目~9行目)として言及し
ており、原告の主張する上記差異点について、審決は判断しているということがで
きるから、この点について差異点の看過をいう原告の主張は理由がない。
 2 取消事由2(類否の判断の誤り)について
 (1) まず、原告が主張する差異点(a)~(d)については、審決が差異点として
現に摘示しているか、又は本願意匠と引用意匠との全体的な類否の判断に影響を及
ぼすようなものでないことは、上記1のとおりであるから、以下、審決の認定する
共通点及び差異点に基づいて検討する。
 (2) まず、両意匠の要部について検討するに、後述するようなこの種の腕時計
の先行意匠にも照らすと、本願意匠と引用意匠とは、長円形畝状体を左右互い違い
に数列並べたベルト体の中央部に縦長方形窓状の時刻表示部を設けた点(共通
点(1))が、両意匠の形態全体の基調を決定づける特異な態様というべきであって、
これに加えて、腕時計本体とバンド部との取付態様において、時刻表示部の左右及
び上下の畝状体をバンド部の畝状体と連続、融合させて形成している点(共通
点(2)、(3))に顕著な特徴があり、以上が相まって、両意匠の構成中、看者の最も
注意をひく要部を成すものと認められる。
    すなわち、長円形畝状体を左右互い違いに数列並べてベルト体を構成する
先行意匠としては、平成3年11月30日社団法人日本時計輸入協会発行の「’9
2輸入時計総合カタログ」(乙第2号証の3)に掲載された番号7、8の腕時計が
あるが、その時刻表示部は円形で、しかもバンドの両側に大きくはみ出す形態であ
って、ベルト体の中央部に縦長方形窓状の時刻表示部を設けた本願意匠及び引用意
匠とは、その受ける印象が全く異なるものである。また、腕時計本体がベルト体に
埋め込まれた形態の先行意匠としては、平成元年11月30日社団法人日本時計輸
入協会発行の「’90輸入時計総合カタログ」(乙第1号証の5)に掲載された番
号1、2の腕時計、特許庁が平成2年9月に受け入れた株式会社服部セイコー発行
の「SEIKO WATCH CATALOGUE 1990VOL.1」(乙第4号
証の2)に掲載された型番SWZZ002の腕時計等がある。しかしながら、前者
のバンドはほぼ正方形の板状体を方眼状に並べて形成しているものであって、左右
互い違いに並べた畝状体が腕時計本体からバンド部にかけて連続的に形成されてい
る本願意匠及び引用意匠とは全く異なる美感を生ずるものであるし、後者について
は、奇数の数の列の上方視縦長方形ないしほぼ正方形の畝状体を左右互い違いに配
するとともに、腕時計本体の時刻表示部の左右、上下の畝状体とバンドの畝状体を
連続的に形成している点において、両意匠との共通点が認められるが、畝状体は3
列で、しかも中央列が両側の列よりも顕著に幅広(時刻表示部の幅よりわずかに狭
い程度)となっているため、畝状体が5列ないし7列で各畝状体が同幅である本願
意匠及び引用意匠とは、その全体から受ける印象が顕著に異なっている。
    これらの先行意匠を参酌すると、上記の共通点(1)~(3)の構成は、独創性
の高い形態として看者の目をひく要部であるというべきである。
 (3) これに対し、甲第10号証(スイスの時計製造・マイクロ技術者【I】及
び【J】の2000年7月10日付け意見書)は、引用意匠が時計業界で広く用い
られている古典的モデルであるのに対し、本願意匠は際立って独創的な特徴を持っ
ているとし、その理由として、引用意匠では、長方形のケース(時刻表示部)に広
い文字盤がついており、その側部は金属製バンドの止め具を支えるつまみまで延び
ており、7列の「米粒」タイプの金属製バンドが付いているのに対し、本願意匠の
特徴は正方形(ないし若干長方形)のケース(時刻表示部)にあり、その側面のド
ーム型の2つの丸ひだ装飾は金属製バンドを止めるつまみまで延びておらず、5列
の「コーヒー豆」タイプの金属製バンドが付いている旨を指摘する。
    しかし、時刻表示部の形状の相違(差異点(ハ))については、引用意匠の
時刻表示部も際立って縦に長い長方形ではなく、他方、本願意匠の時刻表示部も長
方形であることに変わりはなく、両意匠の類似性について、前述したような両意匠
の要部の類似性を上回るような強い影響を及ぼす差異とは認められない。次に、時
刻表示部の側部(時刻表示部の左右畝状体)がバンドの止め具を支えるつまみまで
延びているかどうかという点は、原告の前記第3の1(1)②の主張と同趣旨のものと
解されるところ、この点については、前記1(1)②で述べたとおり、両意匠の共通点
に包摂されてしまう程度のものにすぎないというべきである。また、バンドの畝状
体が「米粒」タイプか、「コーヒー豆」タイプかという点は、その縦横比率の相違
をいう趣旨と理解されるところ、これが本願意匠と引用意匠との全体的な類否の判
断に影響を及ぼすようなものではないことは前述したとおりである。さらに、畝の
列の数の差異(差異点(イ))については、本願意匠のようにこれを5列とするか、
引用意匠のように7列とするかということは、先行意匠に照らして、ありふれたバ
リエーションにすぎないものと認められ(例えば、乙2号証の3の番号7と8の関
係など)、その差異がもたらす美的印象の相違はさほど大きなものとは認められな
い。なお、上記意見書が、先行意匠に照らして引用意匠が広く用いられている古典
的なモデルにすぎないという点は、その引用に係る先行意匠に照らして、根拠がな
いというべきである。
 (4) 以上に検討した以外の差異点(差異点(ロ)、(ニ)~(ヘ))については、い
ずれも意匠の細部にわたる差異にすぎず、両意匠の強い類似性の中に埋没してしま
う程度のものというべきであって、この点に関する審決の認定判断に誤りはない。
    なお、原告は、本願意匠がフェミニンでエレガントな感じを与え、腕時計
というよりは時刻表示部付きのブレスレットのような外観であるのに対し、引用意
匠は男性的で無骨な感じを与え、いかにも腕時計然としている旨主張するが、前述
のような両意匠の強い類似性を上回るような強い印象の相違とまでは認められず、
上記の認定判断を左右するものとはいえない。
 よって、原告主張の取消事由2も理由がない。
 3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消す
べき瑕疵は見当たらない。
   よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担並
びに上告及び上告受理申立てのための付加期間の指定につき行政事件訴訟法7条、
民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第13民事部
裁判長裁判官 篠 原 勝 美
裁判官 長 沢 幸 男
裁判官 宮 坂 昌 利
別紙第1別紙第2

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛