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裁判例


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          主      文
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告らの負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
 平成16年7月11日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の東京都選挙
区における選挙を無効とする。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
 本件は,平成16年7月11日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙
(以下「本件選挙」という。)について,東京都選挙区の選挙人である原告らが,
平成12年改正に基づく公職選挙法(公選法)の議員定数配分規定は,憲法前文,
同13条,同14条1項,同15条1項,同44条ただし書き及び同47条(以下
「憲法14条1項等」という。)に違反し,同98条1項及び99条により無効で
あり,これに基づき実施された本件選挙も無効であり,上記選挙区の選挙も無効で
あると主張して,公選法204条に基づき,被告に対し,同選挙区における本件選
挙を無効とすることを求める事案である。
2 前提事実(争いのない事実又は裁判所に顕著な事実若しくは公知の事実)
 (1) 原告らは,本件選挙における東京都選挙区の選挙人である。
 (2) 本件選挙は,公選法の一部を改正する法律(平成12年11月1日法律第
118号。以下「平成12年改正」という。)により改正された同法の参議院議員
定数配分規定(公選法14条,同法別表第3及び平成12年改正附則。以下「本件
定数配分規定」という。)に基づいて施行された。
(3) 参議院議員選挙制度の改正経緯の概要は,以下のとおりである。
 まず,昭和22年に参議院議員選挙法(同年法律第11号)が制定された
ことにより,同院の議員定数は250人とされ,うち100人が全都道府県の区域
を通じて選出される全国区選出議員,その余の150人が都道府県の選挙区で選出
される地方区選出議員とされた。昭和25年に公選法が制定され,選挙に関する規
定が統合された。昭和45年には,沖縄県の本土復帰決定に伴い,同県選出の議員
が2名増員された。昭和57年には,全国区制度の廃止及び拘束名簿式比例代表制
の導入がなされ,「地方区」の名称が「選挙区」と改められた。平成6年には,選
挙区間で定数の是正がなされ,宮城,埼玉,神奈川,岐阜がそれぞれ2名増員され
る一方,北海道が4名減,兵庫,福岡がそれぞれ2名減となった。平成12年改正
は,拘束名簿式比例代
表制を改め非拘束名簿式比例代表制を導入するとともに,議員定数を252名から
242名に10名減員し,比例代表選出議員を100人から96人に,選挙区選出
議員を152人から146人とし(減員については,10名のうち5名の減員が平
成13年の選挙で実施され,残りの5名は本件選挙でなされた。),選挙区の減員
については,岡山,熊本及び鹿児島が,それぞれ2名減員した結果,いわゆる逆転
区が解消した。これにより,2人区が27,4人区が15,6人区が4,8人区が
1となった。
(4) 参議院議員選挙における選挙区間の議員1人あたりの人口較差及び定数配
分規定の改正経緯の概要は,以下のとおりである。
ア 選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,参議院議員選挙
法制定当時は1対2.62(以下,較差に関する数値は,すべて概数である。)で
あったが,その後,次第に拡大し,平成4年7月26日施行の参議院議員選挙当時
には,1対6.59となった。
イ これについて,平成6年法律第47号による公選法の一部改正(以下
「平成6年改正」という。)がなされた結果,平成2年の国政調査による人口に基
づく選挙区間における議員1人当たりの人口の較差は,最大1対6.48から最大
1対4.81に縮小し,いわゆる逆転現象は消滅することになった。
ウ その後,上記改正後の定数配分規定の下において,人口を基準とする上
記較差は,平成7年10月実施の国政調査結果によれば最大1対4.79に縮小
し,選挙人数を基準とする上記較差も,上記改正当時における最大1対4.99か
ら同年7月23日施行の参議院議員選挙当時における最大1対4.97に縮小し
た。
エ 平成13年7月29日施行の参議院議員選挙(以下「前回選挙」とい
う。)当時における選挙区間の議員1人当たりの選挙人数の最大較差は,1対5.
06であった。
オ 本件選挙当日における各選挙区の有権者数,議員1人当たりの選挙人数
及びその較差の状況は,別紙「参議院議員通常選挙都道府県別人口較差(平成16
年7月11日選挙当日有権者数・選挙区)」記載のとおりであり,議員1人当たり
の選挙人数の最大較差は,鳥取県と東京都の1対5.13であった。
     また,各選挙区間の人口数を比較すると,人口数の最も多い東京都選挙
区と最も少ない鳥取県選挙区とでは4.92倍の較差が生じていた。さらに,議員
数が4名以上配分されている選挙区に限って,議員1人あたりの人口数を比較して
みても,人口の最も多い東京都選挙区と最も少ない栃木県選挙区とでは3.01倍
もの較差が生じていた。
3 争点
 (1) 本件選挙の投票価値の不平等状態は,選挙制度の仕組みの下において投票価
値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程
度の投票価値の著しい不平等状態であるか否か。
(2) (1)が肯定されるとして,かかる不平等状態は,複雑かつ高度に政策的な考
慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量的権限に係るものであることを考
慮しても,その許されるべき限界を超えていたと判断できるか否か。
4 争点に関する当事者の主張
(1) 原告ら
ア 憲法は,代表民主制を採用し(憲法前文1段,同43条1項),公務員の
選定罷免権を国民固有の権利とし(同15条1項),普通選挙(同3項),平等選
挙(同14条1項,同44条)を保障しているものであり,普通選挙制度,平等選
挙制度の発展の歴史的経過からすると,選挙権の憲法的保障は,国民の人種,信
条,性別,社会的身分,門地,その他具体的能力,資質及び居住地域の差異にかか
わらず,形式的に一人一票の保障を要請し,かつ,その選挙権の内容においても等
価性の保障(一票等価)を要求するものであるから,かかる一人一票,一票等価に
基づく選挙権の憲法的保障の要請は,国会が選挙区制を有する選挙制度を採用する
場合には,各選挙区から選出される代表者(議員)数の配分を均等になすべく,人
口分布に比例した配分
をなすよう国会の立法権限を覊束するものであるが,本件定数配分規定では,別紙
[表1-1]のとおり,人口分布に比例した配分がなされていない。東京都選挙区
は,47選挙区中では選挙区人口が最も多い選挙区であるが,法定議員数は8人で
あり,人口に比例させて代表されるべき議員数を適正に配分するならば,別紙[表
3-1]のとおり,少なくとも6人の,なお偶数配分を前提としても,別紙[表2
-1]のとおり,少なくとも4人の議席数が不足している。
イ 上記のとおり,本件定数配分規定の下では,投票価値の著しい不平等が生
じている。
  偶数配分や都道府県単位の選挙区制は,憲法上の要請ではない。選挙区間
の最大較差を基準とするのであれば,その較差を是正するために,奇数配分を採用
したり,合区を検討すべきである。
ウ 前回選挙について,最高裁平成15年(行ツ)第24号同16年1月14
日大法廷判決・民集58巻1号56頁(以下「平成16年大法廷判決」という。)
では,6人の裁判官が違憲の反対意見を述べているほか,多数意見のうちでも4人
の裁判官が「したがって,例えば,仮に次回選挙においてもなお,無為の裡に漫然
と現在の状況が維持されたままであったとしたならば,立法府の義務に適った裁量
権の行使がなされなかったものとして,違憲判断がなさるべき余地は,十分に存在
するものといわなければならない。」とする補足意見を述べているところである。
国会は,上記大法廷判決後,本件選挙に至るまで,何ら,平成12年改正に基づく
本件定数配分規定を改正せず,そのような審議すら全く行っていない。
エ 被告は,参議院の各派代表者懇談会や協議会を通じた行動があたかも参議
院としての活動である旨主張するが,いずれも正式の機関ではないから,そこにお
ける協議の結果が参議院を拘束するものでないことは明らかであって,これを参議
院の活動と同視することはできないものである。
オ 被告が主張する協議会での経緯をみても,較差是正に向けた真摯な努力が
なされたとは到底思われない。
カ 投票価値の平等を達成するために,米国,英国,ドイツ,フランス等で
は,いずれもわが国よりはるかに厳しい基準が法律又は判例上確立され,かつ,運
用されている。
キ 以上のような国会の怠慢は,立法府の義務に適った裁量権の合理的行使の
範囲を逸脱しているものである。
ク 原告らの主張の詳細は,別紙原告ら準備書面(第5の1)ないし同(第5
の5)(各写し)のとおりである。
(2) 被告
ア 代表民主制の下における選挙制度は,選挙された代表者を通じて,国民の
利害や意見が公正かつ効果的に国政の運営に反映されることを目標とし,他方,政
治における安定の要請をも考慮しながら,それぞれの国において,その国の実情に
即して具体的に決定されるべきでものであり,そこに論理的に要請される一定不変
の形態が存在するわけではなく,我が憲法もまた,上記の理由から,国会の両議院
の議員の選挙について,議員は全国民を代表するものでなければならないという制
約の下で,議員の定数,選挙区,投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定め
るべきものとし(憲法43条,同47条),両議院の議員の各選挙制度の仕組みの
具体的決定を原則として国会の裁量にゆだねているのであるから,国会が新たな選
挙制度の仕組みを採
用した場合には,その具体的に定めたところが,国会の上記の裁量権を考慮して
も,上記制約や法の下の平等などの憲法上の要請に反するため,その限界を超え,
これを是認することができない場合に,初めてこれが憲法に違反することになるも
のと解すべきであることは,これまでの判例により確立されている考え方である。
イ これまでの最高裁判例によれば,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みの
決定における唯一絶対の基準となるものではないから,国会にゆだねられた立法裁
量権の合理的行使の結果として各選挙区に配分された議員定数とそれぞれの選挙区
の選挙人数又は人口との比率に較差が生じ,そのために選挙区間における選挙人の
投票価値の平等がそれだけ損なわれることとなったとしても,これをもって直ちに
議員定数の定めが憲法14条1項等の規定に違反して選挙権の平等を侵害するもの
であるということはできない。社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生
ずる人口の異動について,それをどのような形で選挙制度の仕組みに反映させるべ
きであるかなどの問題は,複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要求するものであ
って,その決定は,
種々の社会情勢の変動に対応して適切な選挙制度の内容を決定する責務と権限を有
する国会の裁量にゆだねられているところである。
ウ したがって,議員定数配分規定の制定又は改正の結果,上記にような選挙
制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過す
ることができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態を生じさせたこ
と,あるいは,その後の人口異動が上記のような不平等状態を生じさせ,かつ,そ
れが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する何らの措置も講じないこ
とが,複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量
的権限に係るものであることを考慮してもその許される限界を超えると判断される
場合に,初めて議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当で
ある。
エ 最高裁昭和54年(行ツ)第65号同58年4月27日大法廷判決・民集
37巻3号345頁(以下「昭和58年大法廷判決」という。)は,選挙区間の議
員1人当たりの選挙人数の最大較差1対5.26(以下,較差に関する数値は,す
べて概数である。)について,最高裁昭和57年(行ツ)第171号同61年3月
27日第一小法廷判決・裁判集民事147号431頁(以下「昭和61年判決」と
いう。)は,同最大較差1対5.37について,最高裁昭和62年(行ツ)第14
号同62年9月24日第一小法廷判決・裁判集民事151号711頁(以下「昭和
62年判決」という。)は,同最大較差1対5.56について,最高裁昭和62年
(行ツ)第127号同63年10月21日第二小法廷判決・裁判集民事155号6
5頁(以下「昭和6
3年判決」という。)は,同最大較差1対5.85について,それぞれ違憲の問題
が生ずる程度の投票価値の著しい不平等には至っていないと判示し,最高裁平成6
年(行ツ)第59号同8年9月11日大法廷判決・民集50巻8号2283頁(以
下「平成8年大法廷判決」という。)は,同最大較差が1対6.59に至ったこと
について,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等が生じていた旨判示
したが,最高裁平成9年(行ツ)第104号同10年9月2日大法廷判決・民集5
2巻6号1373頁(以下「平成10年大法廷判決」という。)は,同最大較差1
対4.97について,最高裁平成11年(行ツ)第241号同12年9月6日大法
廷判決・民集54巻7号1997頁(以下「平成12年大法廷判決」という。)
は,同最大較差が1対
4.98について,そして,平成16年大法廷判決は,同最大較差が1対5.06
について,それぞれ違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等には至って
いないと判示した。
以上の最高裁の一連の判決の判示内容に照らせば,最大較差が1対5.1
3であった本件選挙においても,投票価値の不平等が,到底看過することができな
いと認められる程度に達しているとはいえないことは,明らかである。
オ 参議院は,平成16年大法廷判決を重く受けとめ,以下のとおり,速やか
に定数較差是正のための作業に着手していたものであるから,同判決の上記補足意
見が述べるような,無為の理に漫然と現在の状況を維持していたとの批判は当たら
ない。
  なお,被告の主張の詳細は,以下に述べるほか,別紙被告準備書面(1)(写
し)のとおりである。
 (ア) 平成16年大法廷判決を受け,国会がこれに対応した経緯は,概ね以
下のとおりである。
 すなわち,参議院は,同年2月6日に参議院議長が主宰する各会派代表
者懇談会が開かれ,そこで参議院議員選挙の定数較差問題に関する協議会(以下
「本件協議会」という。)を設置することが合意された。そして,本件協議会は,
同年2月18日から同年5月28日までの間,合計5回にわたり,参議院議員選挙
の定数較差問題について協議を行ったが,第159回国会中に定数較差是正を行う
べきとする意見と同是正が困難であるとする意見が分かれ,また,同是正が困難で
あるとする立場からは,本件選挙後,新たな会派構成に基づき新たな人選による協
議を開始すべきであるなどの提案がなされた。本件協議会は,同年5月28日,上
記各意見及び提案について,報告書を取りまとめ,これを参議院議長及び各会派代
表者に提出した。この報
告を受けた参議院は,同年6月1日に各会派代表者懇談会を開き,本件選挙後,新
たな会派構成の下に,速やかに協議会を設置し,第21回参議院議員通常選挙に向
けて,定数較差問題について結論を得るよう協議を再開する旨の申し合わせを行っ
た。本件選挙後,平成16年7月30日,参議院議長は,定数較差是正のために改
めて協議機関を設定し,今後新たな協議機関において,定数較差是正に向けて協議
を行う旨の見解を示した。
(イ) 過去の公選法改正(法案の成立)から選挙執行までの周知期間が,昭
和57年改正では,約10か月,平成6年改正では,約1年1か月,平成12年改
正では,約9か月であったことと比較すると,平成16年大法廷判決から,本件選
挙執行までの期間は,約6か月と極めて短期間であったものであるといわざるを得
ないところ,上記(ア)の参議院の対応は相当であって,その定数是正のために,何
ら無為に過ごしたものであるということはできないから,同判決の多数意見に付さ
れた上記補足意見を踏まえたとしても,立法府が参議院議員の定数較差是正につい
て,その裁量権を適切に行使しなかったものということはできない。
第3 証拠関係
証拠関係は,当審訴訟記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから,これを
引用する。
第4 当裁判所の判断
 1 議員定数配分規定の合憲性判定基準について
  (1) 憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人
の投票の有する影響力の平等,すなわち,投票価値の平等を要求していると解する
のが相当である。しかしながら,憲法は,どのような選挙制度が国民の利害や意見
を公正かつ効果的に国政に反映させることになるのかの決定を国会の広い裁量にゆ
だねているのであるから,投票価値の平等を選挙制度の仕組みの決定における唯
一,絶対の基準としているものではなく,投票価値の平等は,原則として,国会が
正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に
実現されるべきものと解さなければならない。それゆえ,国会が具体的に定めたと
ころがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り,それによって
投票価値の平等が損な
われることになっても,やむを得ないと解すべきである。
(2) ところで,参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は,参議院議員
の選挙について,参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員15
0人とに区分した上で,全国選出議員については,全都道府県の区域を通じて選出
されるものとする一方,地方選出議員については,都道府県を単位とする選挙区に
おいて選出されるものとし,各選挙区ごとの議員定数につき,憲法が参議院議員は
3年ごとにその半数を改選すべきものとしていることに応じて,各選挙区を通じそ
の選出議員の半数が改選されることになるように配慮し,定数は偶数としその最小
限を2人として,人口に比例する形で2人ないし8人の偶数の議員数を配分した。
昭和25年に制定された公選法の参議院議員定数配分規定は参議院議員選挙法の議
員定数配分規定をそ
のまま引き継ぎ,その後,沖縄返還に伴い沖縄県選挙区の議員定数2人が付加され
た外は,平成6年改正まで上記定数配分規定に変更はなかった。なお,昭和57年
に参議院議員が比例代表選出議員100人と選挙区選出議員152人に区分される
ことになったが,比例代表選出議員は全都道府県を通じて選出されるものであっ
て,各選挙人の投票価値に差異がない点においては,従来の全国選出議員と同様で
あり,選挙区選出議員は従来の地方選出議員の名称が変更されたにすぎないもので
あった。平成6年改正は,上記総定数252名を変更しないまま,7選挙区で改選
議員定数を4増4減した。平成12年改正は,比例代表選出議員の選挙制度を拘束
名簿式比例代表制から非拘束名簿式比例代表制に改めるとともに,上記総定数を1
0人削減することとし
,これにより選挙区選出議員の定数が6人,比例代表選出議員の定数が4人削減さ
れたものである。
(3) 上記のような参議院議員の選挙制度の仕組みは,憲法が二院制を採用した
趣旨から,参議院議員の選出方法を衆議院議員のそれとは異ならせることによって
その代表の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとする意図の下に,参
議院議員を全国選出議員ないし比例代表選出議員と地方選出議員ないし選挙区選出
議員とに分け,後者については,都道府県が歴史的にも政治的,経済的,社会的に
も独自の意義と実体を有し政治的に一つのまとまりを有する単位としてとらえ得る
ことに照らし,これを構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし
機能を加味しようとしたものであると解することができる。したがって,公選法が
定めた参議院議員の選挙制度の仕組みは,国民各自,各層の利害や意見を公正かつ
効果的に国会に代表
させるための方法として合理性を欠くものとはいえず,国会にゆだねられた立法裁
量権の合理的行使として是認し得るものである。
  そうである以上,その結果として各選挙区に配分された議員定数とそれぞ
れの選挙区の選挙人数又は人口との比率に較差が生じ,そのために選挙区間におけ
る選挙人の投票価値の平等がそれだけ損なわれることになったとしても,これをも
って直ちに上記議員定数の定めが憲法14条1項等の規定に違反して選挙権の平等
を侵害したものとすることはできない。すなわち,上記のような選挙制度の仕組み
の下では,投票価値の平等の要求は,人口比例主義を最も重要かつ基本的な基準と
する選挙制度の場合と比較して,一定の譲歩を免れない。また,社会的,経済的変
化の激しい時代にあって不断に生ずる人口の異動につき,それをどのような形で選
挙制度の仕組みに反映させるかなどの問題は,複雑かつ高度に政策的な考慮と判断
を要求するものであ
って,その決定は,種々の社会情勢の変動に対応して適切な選挙制度の内容を決定
する責務と権限を有する国会の裁量にゆだねられているところである。
(4) したがって,議員定数配分規定の制定又は改正の結果,上記のような選挙
制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過す
ることができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態を生じさせたこ
と,あるいは,その後の人口異動が上記のような不平等状態を生じさせ,かつ,そ
れが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する何らの措置も講じないこ
とが,複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量
的権限に係るものであることを考慮してもその許される限界を超えると判断される
場合に,初めて議員定数配分規定が憲法に違反するものと解するのが相当である。
(5) 以上は,議員定数配分規定の憲法違反を理由とする選挙無効訴訟におい
て,昭和58年大法廷判決,平成8年大法廷判決,平成10年大法廷判決,平成1
2年大法廷判決及び平成16年大法廷判決の趣旨とするところであるので,当裁判
所もこれにしたがって,本件の争点について判断を加えることにする。
2 本件定数配分規定の合憲性について
(1) まず本件選挙の投票価値の不平等状態の程度について検討を加える。
ア この点についての最高裁判決の推移は,以下のとおりである。
(ア) 平成8年大法廷判決まで
昭和58年大法廷判決は,昭和52年7月10日施行の参議院議員選
挙当時における選挙区間の議員1人当たりの選挙人数の最大較差が1対5.26で
あったことについて,いまだ許容限度を超えて違憲の問題が生ずる程度の著しい不
平等状態が生じていたとするには足りない旨判示し,さらに,昭和61年判決は,
昭和55年6月22日施行の参議院議員選挙当時の同最大較差1対5.37につい
て,昭和62年判決は,昭和58年6月26日施行の参議院議員選挙当時の同最大
較差1対5.56について,昭和63年判決は,昭和61年7月6日施行の参議院
議員選挙当時の同最大較差1対5.85について,いずれも,いまだ違憲の問題が
生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするには足りない旨判示していた。
(イ) 平成8年大法廷判決
平成8年大法廷判決は,平成4年7月26日施行の参議院議員選挙当
時の同最大較差1対6.59について,投票価値の平等の要求は,憲法14条1項
に由来するものであるから,国会の立法裁量権にもおのずから一定の限界があるこ
とはいうまでもない,上記較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は,極め
て大きなものといわざるを得ない,公選法が採用した上記のような選挙制度の仕組
みに従い,参議院(選挙区選出)議員の全体の定数を増減しないまま選挙区間にお
ける議員一人当たりの選挙人数の較差を図ることには技術的な限界があることは明
らかであるが,上記選挙の施行後に行われた平成6年改正により,総定数を増減し
ないまま7選挙区で改選議員定数を4増4減する方法を採って,選挙区間における
議員一人当たりの選挙人
数の最大較差が1対4.99に是正されたものであることが顕著であるとして,参
議院議員の選挙制度の仕組みや是正の技術的限界,比例代表選出議員については投
票価値の不平等がないこと等を考慮しても,投票価値の平等の有すべき重要性に照
らして,もはや看過することができないと認められる程度に達していたものという
べきである旨判示した。
(ウ) 平成8年大法廷判決以後本件選挙まで
平成10年大法廷判決は,平成7年7月23日施行の参議院議員選挙
当時の同最大較差1対4.97について,投票価値の不平等が到底看過することが
できないと認められる程度に達しているとはいえず,上記選挙当時において本件定
数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示し,次
いで,平成12年大法廷判決は,平成10年7月12日施行の参議院(選挙区選
出)議員選挙当時に同最大較差が1対4.98となったことについて,憲法に違反
するに至っていたものとすることはできない旨判示し,平成16年大法廷判決は,
平成13年7月29日施行の参議院議員選挙当時において,選挙区間の議員1人当
たりの選挙人数の最大較差が1対5.06となったことについて,定数配分規定が
憲法に違反するに至ってい
たものとすることはできない旨判示した。その後,上記のとおり,本件選挙の時点
で同最大較差は,1対5.13となるに至った。のみならず,この最大較差となっ
た東京都以外にも,千葉県が1対4.94,神奈川県が1対4.74,大阪府が1
対4.74(いずれも概数)という較差となっており,このような大きな不均衡が
人口の集中する大都市の存する選挙区に現れている。
イ 前記のような参議院議員の選挙制度の基本的仕組み,そして,そのうち
の選挙区を都道府県単位とした上で,各選挙区の議員定数を偶数配置として選挙の
都度に半数改選とする仕組みは,参議院に,衆議院とは異なる独自性をもたせるよ
うに配慮したものであり,これが相応の機能を果たしつつ,半世紀を超える期間そ
のまま維持され,国民各層に浸透し,定着しているものである。
一方,平成16年大法廷判決にもかかわらず,前示のとおり,なお,1
対5を超えるという異常な投票価値の不平等さが存在し,しかも,その較差が少な
からず拡大していることは,それ自体,極めて憂慮すべき状態であるといわざるを
得ない。
しかしながら,選挙区間の議員1人当たりの選挙人数の最大較差につい
ては,人口の大都市集中化による過疎と過密が進む中で変動する地域代表的要素の
重要性の度合い,いわゆる政党政治が浸透している中における,参議院議員,とり
わけ選挙区選出議員の存在意義,衆議院議員をも含めた国会議員の選挙全体におけ
る投票価値の平等など,そのときどきの諸々の社会的,政治的な情勢を総合的に考
慮した上で判断する必要があることも軽視することができないのであって,現在の
参議院選挙制度の具体的な仕組みを維持しつつ,さらに議員定数を増やさないこと
を前提とする限り,投票価値の平等を図るには技術的な限界があることも,これを
認めざるを得ないところである。
ウ 上記諸点を総合すれば,本件選挙の投票価値の不平等状態は,選挙制度
の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らし,極めて憂慮すべ
き状態にあるといわなければならないけれども,なお,これをもって到底看過する
ことができない程度に至っているとまでは認められない。
  なお,この点について,被告は,過去の最高裁判例で問題とされた最大
較差の比率に照らすと,本件は,いまだ違憲の状態に至っていない旨主張するが,
これまでの最高裁判例は,あくまで当該事件において問題となっている選挙につい
ての最終審としての判断であって,当該事件で違憲ではないとされた最大較差が常
に将来にわたって合憲であり続けるという判断を含むものと解することは相当でな
いから,被告の上記主張は,本件選挙の投票価値の不平等状態が憲法上何ら問題の
ないところであるとする趣旨の意見としては,到底これを採用することはできな
い。
また,原告らは,国会が,本件選挙に至るまで,平成12年改正に基づ
く本件定数配分規定を何ら改正せず,そのような改正の審議すら全く行っていない
と主張するので,この点について検討するに,確かに,平成16年大法廷判決の後
においても,較差是正に向けた立法的手当がなされなかったことは,公知のところ
であり,これに対して被告が主張する本件協議会等の国会(特に参議院)でとられ
た対応についても,証拠(甲31の1ないし5,甲32の3,乙1ないし乙4)に
よれば,その存在及び活動は認められるものの,そこにおける協議経過及び協議内
容等をみても,それらの対応をもって上記のような立法的手当てのための国会にお
ける立法手続を具体的に開始したものとまでは理解することができないのである。
しかし,そうであると
しても,前示のとおり,現在の参議院選挙制度の具体的な仕組みを維持しつつ,さ
らに議員定数を増やさないことを前提とする観点に立ちながら考えるとすれば,本
件協議会における議論等国会(特に参議院)でなされた対応が全て無意味又は無価
値なものであるとか,これをもって立法府が果たすべき責務を放棄したり,漫然と
従前の状況を放置したりするものであるとかとみることもはなはだしく穏当を欠き
相当ではないのであって,上記の対応がそれ相当の意義を伴うものというべきであ
るから,原告らの上記主張は,採用することができない。
(2) 以上によれば,上掲の争点(2)に立ち入るまでもなく,原告らの請求は理
由がない。
3 よって,原告らの請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき,行政事
件訴訟法7条,民訴法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決す
る。
東京高等裁判所第9民事部
裁判長裁判官  雛  形  要  松
裁判官浜秀樹は転補につき,裁判官北澤純一は差支えにつき,いずれも,署
名押印することができない。
裁判長裁判官  雛  形  要  松

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