弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
 本件控訴ならびに本件附帯控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人(附帯被控訴人)の、附帯控訴費用は附帯控訴人(被控訴人)
らの、各負担とする。
       事   実
 控訴人(附帯被控訴人、以下控訴人という)代理人は、「原判決中、控訴人敗訴
部分を取消す。被控訴人aおよびその余の被控訴人(附帯控訴人、以下附帯控訴の
有無にかかわらず被控訴人という)らは控訴人に対し、それぞれ、原判決別紙第二
目録の各被控訴人該当の請求金額欄記載の各金額と認容金額欄記載の各金額との差
額相当の金員および右各金員に対する昭和三七年七月八日から支払済まで年五分の
割合による金員を支払え。被控訴人らの附帯控訴を棄却する。訴訟費用は、第一、
第二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決ならびに仮執行宣言を求め、被控
訴代理人は、「控訴人の本件控訴を棄却する。原判決中、被控訴人ら(ただし、被
控訴人aを除く)の敗訴部分を取消す。控訴人の被控訴人ら(ただし、被控訴人a
を除く)に対する請求を棄却する。訴訟費用は、第一、第二審とも控訴人の負担と
する。」との判決を求めた。
 当事者双方の主張と証拠の関係は、次の一、二、三のとおり附加訂正するほか
は、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
一、控訴代理人は、次のとおり述べた。
A 控訴人請求の組合費のうち、「炭労資金」、「安保資金」、「政治意識昂揚資
金」は、控訴人国鉄労働組合の目的の範囲を超えるものではなく、したがつて、こ
れらを臨時徴収する旨の組合決議は、法律上、組合員を拘束する効力を有するもの
である。
(一) 右各資金徴収に至る経過
(1) 「炭労資金」について
 昭和三四年ごろ、炭鉱閉鎖と炭鉱労働者の大量解雇を中心とする大規模な合理化
が行なわれ、国鉄においても国鉄志免炭鉱の売山と同鉱従業員の人員整理が計画さ
れたため、控訴人が加盟する日本労働組合総評議会(以下総評という)は、第一二
回定期大会で、石炭産業合理化政策に反対し、日本炭鉱労働組合(以下炭労とい
う)と国鉄志免鉱の人員整理による合理化を全労働者に対する攻撃として受けと
め、総評を舞台とする全国闘争として各単産の共闘態勢を強化する一方、炭労と国
鉄志免の闘争支援のため資金カンパを行ない、資金上の融資態勢を確立することな
どを決議した。
(イ) それで、控訴人は、同年一〇月二五、二六日の第五三回中央委員会で、炭
労の三井鉱山大量解雇反対闘争支援のための資金として、控訴人の組合員一人当り
金一〇〇円の臨時徴収をする旨決議し、同年一二月その旨指令した。
(ロ) なお、総評は、同年一一月、第一三回臨時大会で、前記炭労闘争支援資金
の額は、傘下組合員一人当り、同年中に金一〇〇円、翌年一月以降四月までの間炭
労闘争が続く限り、毎月金五〇円、計金三〇〇円とする旨決議し、昭和三五年六月
の第一四回臨時大会で、右支援資金三〇〇円のうち、当時納入されていなかつた金
一〇〇円を夏期一時金から徴収すべきことと同年八月以降炭労三池闘争が終結する
まで毎月金五〇円を徴収する旨決議した。
 それで、控訴人は、右決議にしたがい、同年八月の第二〇回定期大会で、納入残
金一〇〇円と八月分金五〇円の一人当り計金一五〇円を臨時徴収する旨決議し、同
年九月その旨指令した。
(ハ) 次いで総評は、同年九月、第一六回臨時大会において、炭労闘争収拾段階
における支援資金として、傘下組合員一人当り金三〇円を徴収する旨決議した。
 それで、控訴人は、昭和三六年一月、第五六回中央委員会において、右決議どお
り組合員一人当り金三〇円を臨時徴収する旨決議し、同年二月、その旨指令した。
(2) 「安保資金」について
 昭和三五年初頭以降、全国で展開された新安保条約批准反対闘争で、総評は重要
な一環をにない、控訴人はじめ傘下各単産に多数の刑事、民事上の被処分者を出し
た。そこで、総評は、同年六月第一四回臨時大会で、安保闘争における犠牲者救援
のため傘下労働者一人当り金五〇円を徴収する旨決議した。
 控訴人は、右決議に基づき、同年八月、第二〇回定期大会において、右決議どお
りの臨時徴収をする旨決議し、同年九月、その旨指令した。
(3) 「政治意識昂揚資金」について
 控訴人は、昭和三五年一〇月一七、一八日の第五五回中央委員会において、来た
る同年一一月二〇日に実施される衆議院議員選挙で、控訴人の組合員であるかまた
は控訴人の推せんを受けた候補者の当選を期するため、年度末手当から組合員一人
当り金二〇円を政治意識昂揚資金として臨時徴収する旨決議し、同年一〇月二〇日
その旨指令した。
(二) 労働組合の目的と本件各資金
(1) そもそも、労働組合以外の法人、例えば会社は、営利を目的とするが、営
利を実現する商行為は多種多様であるから、定款において目的として掲げられた行
為にその活動を制限する必要がある。そして、民法上の公益法人においても同様の
事が言える。これに反して、労働組合は、その本来の性質として、団体交渉などの
団体行動を通じて労働者の政治上、経済上、社会上の地位の向上を図ることを目的
とするものであり、そして、労働組合の右の目的が具体的には何を指し、何が右の
目的実現のための方法であるかは、長年の労働運動の実際の中で、社会的に労働常
識により決されるところに委ねることが法の理念である。このように、労働組合に
あつては、目的自体広汎なものであつて、これによる活動の制限は比較的弱いもの
である。しかるに、以上の理を無視している原判決は不当である。
(2) 「炭労資金」について
 前述のとおり、「炭労資金」は、控訴人そのものの用途に供するものではない。
しかしながら、一般に、長期的に見れば、一企業の労働者の労働条件のみが他企業
のそれと無関係に上下することはなく、一企業の人員整理、大量解雇はまず競業的
関係にある企業における解雇或いは労働条件の切下げをもたらすのが資本主義下の
労働市場の特性である。さればこそ、国鉄労働組合規約第四条は、後述するよう
に、その事業の一つに「他団体との協力」を掲げ、控訴人は、右組合規約第一六条
第二項に基づき、大会決議により、炭労と同じく総評に加盟し、総評においても、
規約第二条において、「加盟組合の争議を成功に導くための有効な援助」を目的の
一つとして掲げ、これに基づいて前述の炭労等の支援カンパをはじめとする決議を
したのである。
 右の総評大会の決議は、当然加盟団体である控訴人を拘束するし、本件「炭労資
金」の徴収の目的が人員整理による石炭産業合理化に反対する闘争を広汎に展開す
ることにあり、控訴人の志免売山反対闘争もその重要な一環をなすのであるから、
労働者連帯の原理、労働組合の実質的機能、控訴人と炭労との形式上の関係などか
らいつても、控訴人の当時の運動方針や控訴人の結成目的に包含されると言わなけ
ればならない。
(3) 「安保資金」、「政治意識昂揚資金」について
(イ) 労働組合法第二条に定める労働組合の結成を憲法および同法で保障するの
は、社会的、経済的弱者である個々の労働者をして、強者である使用者との交渉に
おいて対等の立場に立たせることにより、労働者の地位を向上させることを目的と
するものである。しかし、現実の政治、経済、社会機構のもとで労働者がその経済
的地位の向上を図るにあたつては、単に対使用者との交渉においてのみこれを求め
ても十分にはその目的を達することはできず、労働組合が右の目的をより十分に達
成するための手段として、その目的達成に必要な政治活動や社会活動を行なうこと
を妨げられるものではない(最高裁大法廷昭和四三年一二月四日判決最高刑集二二
巻一三号一四二五頁参照)。
(ロ) そして、現実には、労働組合が労働者の経済的地位の向上をはかることと
社会的政治的地位の向上をはかることとは截然と区別できるものではなく、相互に
密接に関連し合つているものであることは、労働組合の歴史と現状により明らかで
ある。
 のみならず、労働組合のあり方は広く政府の政治的外交的経済的施策とも密接に
関連しているのであつて、例えば、政府が戦争開始を決定すれば、労働者は最も基
本的な生命、生活の脅威にさらされるのであり、又軍需産業に政府資金を投融資す
れば、平和産業は圧迫をうけそこに働く労働者の生活条件は少くとも相対的に低下
する。現代社会における国家の地位と機能は、一八世紀の夜警国家時代と違つて極
めて卓越した巨大なものとなつており、直接、間接に労働者の生活を左右している
ものである。
 これに対応して、労働組合の機能もただ一企業内における使用者との交渉に限局
できるものでないのであつて、広く労働者の共通の問題をとりあげ、或いは、政治
的活動をすることによつて国会を中心として社会的な発言力を増加し、政府に対し
て働きかけることによつて自己に有利な諸条件を獲得していくのは当然の成行であ
る。
 ことに、国鉄など公共企業体においては、その財政は国家予算の一部として閣議
の承認を経て国会の議決を要し(日本国有鉄道法第三九条の二から第五一条ま
で)、その業務は全面的に運輸大臣の監督を受けその命令に服すべきものとされ
(同法第五二条から第五四条まで)、労働協約および公労委の仲裁裁定について
も、予算上資金上不可能な支出を内容とするものについては、国会の承認が必要と
されている。このような国家企業の場合、その労働組合が経済上の地位の向上をは
かり、有利な労働条件を得るためには、当然、国会に自らを支持する議員を多く選
出し、或いは国会に議席を有する政党に支持を働きかける等、政治的活動を行わざ
るを得ない(静岡地裁昭和三四年六月二四日判決下級刑集一巻六号一四七八頁参
照)。
 のみならず、「鉄鋼の製造および販売ならびにこれに附帯する事業」を目的とす
る株式会社が株主に配当すべき利益金の一部をもつて政党に対し政治資金の寄付を
する行為すら、同会社の目的に包含されると解されるほど、社団の目的は広く解さ
れている。ましてや、附随的にもせよ、政治運動をすることが法律上認められてい
る労働組合において、規約に定められた正規の手続に従い、新安保条約反対、国会
議員選挙など一定の政治運動を行ない、かつ、これに必要な資金を支出し徴収する
ことは、労働組合の目的の範囲内であること明らかである。
 更に、「安保資金」は、控訴人の被処分組合員の救援活動を、総評全体の連帯の
下に行なう趣旨のものであるから、もとより控訴人の運動方針に合致するし、もと
もと安保闘争と被処分者の救援活動とは別個の問題であり、組合指令に従つて処分
された組合員の救援は、組合の目的の範囲内である。
(ハ) 国鉄労働組合規約三条、四条について
 国鉄労働組合規約第三条は目的として「組合は国鉄労働組合員の生活と地位の向
上を図ると共に日本国有鉄道の業務を改善し、民主的国家の興隆に寄与することを
目的とする」と定め、第四条は事業として、「四、他団体との協力に関すること、
五、その他組合の目的達成に必要なこと」を掲げている。政治的運動を組合の目的
と事業から排除していないのみならず、民主的国家の興隆に寄与するに必要な範囲
でこれを包含する趣旨であることは明らかである。ことに「安保資金」は安保条約
の改定に反対するために労働組合が行なう諸活動のための資金であるが、右改定条
約は、わが国の防衛と自衛力の行使に関し、直接にわが国を戦禍に巻き込む危険性
があることが多くの識者によつて指摘されており、その当否は別としても、このよ
うな危険は全労働者の生存の基盤に関するものであるから、労働組合がこの条約の
当否について発言し、その見解を広く国民に訴えて運動することは、これを組合の
目的の範囲外であるとすることはできない。しかも、控訴人は、その数多くの事業
の一つとして他の事業と兼ねて右の運動を行なつたものにすぎない。
 これを実質的にみても、本件「安保資金」や「政治意識昂揚資金」は、控訴人の
経常的な組合費の月平均額八九〇円に比べ、絶対的かつ相対的に低く、このような
組合費の支払義務を否定することは労働組合の政治活動そのものの否定である。
 したがつて、控訴人が選挙活動のため或いは安保条約改訂に反対する宣伝、デモ
等の政治活動および被処分者の救援活動のため、組合規約の定める手続と機関の決
定を経て、その資金を臨時組合費として徴収することは、違法でも組合の目的の範
囲外でもないのである。
B 「年末闘争資金」「管理所闘争資金」「志免カンパ」「春闘資金」の支払義務
はないとの被控訴人らの主張に対する反論
 被控訴人らは、公共企業体等労働関係法(以下公労法という)第一七条が争議行
為を禁止していることを根拠として組合員はこれら臨時組合費の支払義務がないと
主張するが、次の三点で誤つた見解である。
 (イ) 右臨時組合費もまた、通常組合費と同じく、組合本来の業務運営の資金
に充てられ、ただ後者が一定の月額割合の額であるに比べ、前者が臨時的に増額徴
収され、通常組合費のみによる財政上の不安定をあらかじめ補充する点に差異があ
るにすぎない。
 控訴人の前記各臨時組合費の使用目的である運動は、組合員の労働条件の維持改
善のため、国鉄当局に対し有利な地位を獲得することを目指す一切の行動を含むも
のであつて、具体的には、要求決定のための調査、集会、職場交渉、デモ等にはじ
まる広範な運動であり、前記資金は、これらのための旅費、文書費、連絡費、処分
者の救済のための法廷資金その他広範多岐な支出に当てられる。
 従つて、仮りに被控訴人主張のように全闘争の一局面において公労法違反等の事
態が生じたとしても、少くとも費用の面では到底他と区分し難いし、又結果的にも
極く一部分にすぎない。
 しかも、言うまでもなく斗争の方法は労使紛争の経過に応じて流動的であり、相
手方の出方によつて変化する。従つて、本件の各資金の臨時徴収の決定の時点にお
いて、その決定の趣旨はこのように未確定でしかも広範な全運動の費用の総体につ
いて、通常組合費だけでは足らないので、その補充資金として徴収されたものであ
つて、専ら公労法違反を目的としたり或はこれと対価乃至条件づけられた資金徴収
ではない。
 従つて、被控訴人の主張する公労法違反の争議行為の惹起ということは、本件組
合費納入の債権債務関係の成立の目的でも主たる動機でもなく、結局組合費の使用
によつて起りうる将来の未必の事態であつて、債権関係にとつては一つの事情にす
ぎない。それにもかかわらず、これを理由とし債権関係全体を無効であるとするな
らば、本来支払われるべき適式な組合費の納入義務に関し、組合の団結は甚だしい
侵害を蒙り、かつ同時に当該の組合員に不当な抗弁理由と利益を与えるに帰する。
(ロ) 仮に前記各臨時組合費の一部に公労法第一七条違反の争議行為の費用が含
まれていたとしても、労働組合の財政的基礎をなす組合費の支払は、組合員の団結
の基盤であり、組合員の最も基本的な義務であつて、その支払が公序良俗に反する
場合にのみ右義務が否定されるに過ぎない。しかるに、公労法第一七条違反の行為
は、同法第一八条に定める法的効果を超えて、反社会的、反倫理的効果を生むもの
ではない。公労法違反の争議行為は、政治目的でなく、暴力を伴わず、不当に長期
にわたるようなものでない限り、労働組合法第一条第二項が適用され、可罰的違法
性は存在しない(最高裁昭和四一年一〇月二六日大法廷判決、最高刑集二〇巻八号
九〇一頁参照)。このことからすれば、公労法第一七条違反の行為が公序良俗違反
となるものではなく、まして言わんや、右の争議行為の費用の拠出が公俗良俗に違
反するものでないことは明らかである。
(ハ) 更に、争議権など労働基本権に対する制限は、合理性の認められる必要最
少限度に止めなければならず、労働基本権の制限違反に伴う法律効果、即ち違反者
に対して課せられる不利益については、必要な限度をこえないよう十分な配慮がな
されねばならず(前示最高裁判決参照)、争議行為そのものに種々の態様があり、
それが正当な限界を超えて違法性が認められる場合にも、その違法性の程度には強
弱さまざまのものがあるから、公労法第一七条に違反した者に対する解雇も、必要
な限度を超え妥当性合理性を欠き裁量権の範囲を著しく逸脱したものであれば無効
である(最高裁昭和四三年一二月二四日第三小法廷判決、最高民集二二巻一三号三
〇五〇頁参照)。
 ところで、争議行為の態様、程度、違法性の有無と強弱、その制裁処分の適否
は、各種の資料に基づきあらゆる状況を総合して判断されねばならず、不当な懲戒
処分や刑事訴追から組合員の権利を守るための裁判手続は、通常、長期、大規模と
なり、関連経費も大きく、そのための臨時組合費の徴収が許されなければ、組合員
の権利救済は不可能である。そして、およそ組合の争議指令の適法違法を問わず、
これに従つた組合員がその事の故に不利益処分を受けた場合、これを正当に救済す
ることは指令者の組合として当然である。それは、公労法違反の争議指令の拘束力
とは全く次元の異つた問題である。
 以上のとおりであるから、公労法第一七条違反の法律効果を、組合費支払義務の
不存在にまで及ぼすことは、その立法趣旨に反し、かつ最近の最高裁判所判決に反
するものであつて、被控訴人らの主張は理由がない。
二、被控訴代理人は、次のとおり述べた。
A 労働組合の目的と政治活動、特に「安保資金」「政治意識昂揚資金」につい
て、
 労働組合が政治活動を行なうことができるといつても、それは、労働組合法第一
条第一項の目的達成のために行なわれる限度においてであり、例え争議行為であつ
ても右の目的のためではなしに政治目的のためにされたものは刑事制裁の対象とな
る(最高裁昭和四一年一〇月二六日大法廷判決、最高刑集二〇巻八号九〇一頁参
照)。
 ところで、本件「安保資金」「政治意識昂揚資金」は、安保反対闘争資金と組合
員の政治意識昂揚を図るための資金であつて、いずれも労働組合法第一条第一項に
定める目的達成にあてられるものではないから、労働組合の権利能力の範囲外であ
り、労働組合といえども組合員にその納入義務を負わせその請求権を取得すること
はできないのである。
 また、労働組合は、およそその目的の範囲内の活動のために必要な資金であれ
ば、その使途、性質のいかんを問わず、常に経常的な組合費以外に当該資金を臨時
の費用として臨時組合費その他の名目で組合員に賦課し、かつ強制的に徴収するこ
とができるわけのものではなく、組合規約所定の機関決定により組合員を拘束でき
る臨時組合費等の内容に限界があり、当該臨時組合費徴収の目的が対使用者との関
係において労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図るため団体交渉その他
の団体行動をするという労働組合本来の目的から著しく離隔し、右のような活動目
的のための資金としての性格が甚だ稀薄である場合には、組合員の個別的な同意が
ない限り強制的に徴収することは許されず、その点の判断は個々の事案に即して個
別的、具体的に決せられるべきものである(福岡地裁昭和四〇年(ワ)第一一六二
号、昭和四四年二月一日判決)。
B 「年末闘争資金」「管理所闘争資金」「志免カンパ」「春闘資金」の支払義務
について。
(一) 公労法第一七条の趣旨からすれば、労働組合の決定または指令であつて
も、同条第一項の規定により禁止された行為を行なうことを内容とするものは、本
来違法であつて、関係組合並びにその組合員及び役員を拘束しないものと解すべき
である。
 また、組合の指令または右指令に基づく行動が客観的に違法であれば、それが重
大明白ではなくとも、組合員に服従義務はない(秋田地裁昭和三五年九月二九日判
決、労民集一一巻五号一〇八一頁参照)。
 ところで、控訴人は、要求貫徹のための運動資金の不足を臨時組合費によつて補
つているのかも知れないが、控訴人は、終戦以来、継続して、公労法第一七条は違
憲無効との前提に立つて、同条違反の争議行為を要求貫徹のため反復しており、本
件「年末闘争資金」「管理所反対闘争資金」「志免カンパ」「春闘資金」等の対象
となつた闘争を、後記(二)のとおり、実力行使を含む組合指令によつて開始し、
現実に業務阻害行為を行なつたことからすれば、控訴人は、まさに、右闘争の指令
によつて、当初から公労法第一七条違反の争議行為およびその予備・準備的行為を
指令し、これと同時にその必要経費としてこれらの臨時組合費の徴収を決定したも
のというべきである。
 したがつて、このような公労法第一七条違反の争議行為を含む闘争指令は、組合
員を拘束せず、拘束力のない闘争指令を前提とし、かつ、組合員の労働条件の改善
と言う労働組合本来の目的以外の事項を目的として使用される臨時組合費の徴収指
令もまた、組合員を拘束しないから、被控訴人らは前記各臨時組合費の納入義務は
ない。
 また争議行為を法認されている民間企業と異り、争議を禁止されている公共企業
体においては、実力行使を含む組合指令自体が公労法第一七条に違反し、その争議
は全体的にみても部分的にみても違法であることはいうまでもない。一方右指令に
基づいて被控訴人らが臨時徴収金を拠出することは、公労法第一七条違反の争議行
為をあおりそそのかす違法行為に該当するものとも考えられるのである。このよう
な見地からも組合員に臨時徴収金の納入義務なしといえる。
(二) 「春闘資金」について
(イ) 公労協の「春闘」の本質
 公共企業体等労働組合の賃金闘争は、昭和二八年以来公労協戦術委員会におい
て、労組間の戦術調整が図られ、いわゆる統一闘争として行なわれてきたが、昭和
三二年の春闘以来、スケジユール闘争と化し、公労法第一七条違反の争議行為は、
公然と行なわれ、毎回多数の職員が解雇等の処分を受けるに到つていることは公知
の事実である。
(ロ) 昭和三六年の「春闘」について
 昭和三六年一月、控訴人組合は、第五六回中央委員会を開催し、春闘方針を審議
した。中央委員会は冒頭提案理由の説明の中で「要求を勝ちとるために春闘の最も
盛り上る三月下旬から四月にかけて半日ストを決行する。このストは、要求貫徹ま
で反覆して続け、更に決定的な打撃を与えるため拠点闘争を加えて闘う。」との決
意を表明し次の如く決定した。
 闘争方針(要旨)
闘争の目標
(1) 新賃金六、六〇〇円を闘いとる。
(2) 年度末手当〇、五ケ月分を闘いとる。
(3) 欠員補充を闘いとり臨時雇用員を全員職員化させる。
(4) 週四〇時間に短縮する労働制を闘いとる。
(5) 夜間勤務の割増賃金及び食糧費制度を確立させる。
(6) ダイヤ作成基準及び列車など勤務基準を組合案により協約化する。
(7) 強制的退職勧奨に反対する。
(8) ILO条約一〇五号を批准させスト権を奪還する。
(9) 運賃はじめ公共料金の値上げに反対する。
(10) 不当処分を撤回させる。
闘争の進め方
(1) 各地本は、二月二一日までに臨時大会または委員会を開き春闘方針を確認
し、闘う体制の整備を図る。
(2) 春闘の具体的進め方を検討するため一月二六、七日全国地評地本組織部長
会議を招集する。
(3) 具体的戦術内容は、総評、公労協の決定を尊重し、戦術委、中執委で検討
し指令するが、基本的な闘いの方向は、非番者集会、長期超勤拒否、順法闘争を組
織し、春闘の最も重要な時期に半日ストを展開する。
(4) 闘争資金としては、新賃金引上げ額の一か月分を拠出することを前提条件
に、二月下旬給料から三〇〇円(うち公労協犠救資金一〇〇円、三池カンパ三〇
円)を臨時徴収する。
 以上
 かくて、春闘を開始した控訴人は、二月一四日の中執会議で当面の行動を協議、
即日、闘争指令第一五号をもつて、「各地本は、合理化や職場要求を解決するた
め、三月一日以降、拠点を選定し、順法闘争、業務切捨て闘争を実施する。」こと
を指令し、更に、二月二三日闘争指令第一六号をもつて「各地評、地本は、運賃は
じめ公共料金値上げ反対国民運動を積極的に展開すること。三月四日の春闘第一次
統一行動には全職場一斉に休憩時間中の集会を開くこと及び、地方集会に最大限の
動員を行うこと。」を指令した。
 控訴人は、前述の指令どおり、昭和三六年三月一日から三六協定拒否及び貨物中
心の順法闘争に突入、春闘の前段闘争を開始した。このうち順法闘争は、三月一日
から八日にかけて合理化反対や職場要求を掲げ各地本毎に業務切捨て、労基法安全
規則の完全遵守などを行なつた。
 国鉄本社調べによる昭和三六年三月上旬の主な地本の順法闘争、実施状況とその
影響は次の通りである。
 福知山地方本部
 「三月ダイヤ改正に伴う貨車集結輸送方式の変更に関連する綾部駅の入換機廃
止」を理由とする順法闘争
 三月一日 福知山駅の職場集会と構内デモ、構内職員の作業速度の緩慢実施。
 影響遅延、貨物二本(一三~二〇分)
門司地方本部
 「門司、折尾、鳥栖各操車場の構内照明度の労基法違反」を理由とする拠点順法
闘争
 三月一日 門司操車場運休、貨物一二本遅延貨物四本(四~四二分)、折尾操車
場運休、貨物三本遅延貨物一本(九分)鳥栖駅運休、貨物一三本遅延、旅客九本
(四~三四分)、貨物一三本(八~一五〇分)長崎駅運休、貨物一本、遅延、旅客
一二本(三~三〇分)貨物一本(五分)計、運休、貨物二九本、遅延、旅客一二本
(三~三〇分)貨物(四~一五〇分)
 三月二日 門司操車場運休、貨物二本、遅延、貨物七本(七~六分)鳥栖駅運休
一一本遅延貨物七本(七~二二九分)長崎駅遅延旅客一本(三分)貨物一本(二
分)計運休、貨物一三本、遅延旅客一本(三分)、貨物一二本(一~二二九分)
広島地方本部 広島駅、広島操車場、小郡駅において、三月四日、構内作業などの
遵法闘争を行なつた結果、旅客三本、貨物七本の列車が総計二一〇分遅延した。
岡山地方本部 三月三日、津山駅において「作業ダイヤの厳守」の順法闘争を行な
つた。影響、貨物遅延三本(一六~五三分)
 三月六日以降、新見駅において緩慢入換作業の順法闘争を行なつた結果、次のよ
うな列車の影響が発生した。
三月六日遅延旅客五本(三~一九、五分)計三七分、貨物八本(五~一〇八分)計
三三一分
三月七日運休、貨物二本遅延、旅客五本(六~二一分)計六五分、貨物一九本(四
~一六八分)計七六三分
三月八日遅延、旅客二本(一~六分)計七分、貨物九本(六~八九分)計三二二分
熊本地方本部 熊本駅下り操車詰所の構内照明度が労基法違反であるとして、三月
三日、午後六時半から四日、午前二時まで構内勤務者二〇名中、一七名の職員が職
場放棄を行なつた結果、次のような列車影響が発生した。
 運休、貨物一七本、遅延、旅客(含む急行一、準急一)八本(一一~四九五分)
貨物一三本(一〇~四六六分)
三、当審における証拠関係(省略)
       理   由
一、当事者関係
 控訴人が日本国有鉄道の職員によつて結成された法人格を有する単一労働組合で
あり、被控訴人らがいずれも国鉄広島鉄道管理局管内で勤務する国鉄職員であつて
もと控訴人の広島地方本部厚狭支部に所属する組合員であつたことは、当事者間に
争いがない。
二、一般組合費について
 当裁判所は、控訴人の被控訴人らに対する本件一般組合費の請求は全部正当であ
ると判定した。その理由は、「当審において新たに取調べた証拠によつても、原審
の事実認定を動かすことはできない。」と附加するほかは、原判決の理由中該当の
記載(原判決七枚目表一一行から同八枚目裏三行まで)のとおりであるから、これ
を引用する。
三、臨時組合費について
 当裁判所は、原審裁判所の認容した範囲で、控訴人の本件臨時組合費の請求は理
由があり、その余の右請求は理由がないと判定した。その理由は、次の(一)、
(二)、(三)、のとおり附加訂正するほかは、原判決の理由中該当の記載(原判
決八枚目裏五行から同一二枚目裏四行まで)のとおりであるから、これを引用す
る。
(一) 原判決一一枚目表八行と九行との間に、次のとおり挿入する。
 「被控訴代理人は、前記各資金および後記『春闘資金』の対象となつた闘争の指
令が公労法第一七条に違反する争議行為の指令を内容の一部として含んでいること
の故に右闘争の指令自体違法であり、右争議は全体的にも部分的にも違法であり、
右指令に基づき被控訴人らが臨時組合費を拠出することは、公労法第一七条第一項
後段に違反すると主張する。
 なるほど、労働組合の正当性のない争議行為のための費用に充てるために臨時組
合費を徴収する決議は、動機の不法性を表示してなされるが故に、公序良俗違反と
して無効である。更に、労働組合が、労働争議の解決の手段を主として正当性のな
い争議行為に求めたなどのため、争議費用の大部分が右の正当性のない争議行為の
費用で占められていることが明らかであるのに、右の争議全体の費用にあてるため
に臨時組合費を徴収する決議も、同様に無効であると解してよい。しかし、単に労
働争議解決のための争議行為の一部に正当性を欠くものがあるというだけでは、闘
争全体を違法視することはできないし、右争議費用にあてるための臨時組合費の徴
収決議を無効であるということはできない。また、なるほど、労働組合のなした正
当性のない争議行為の指令は、違法であつて組合員を拘束しない。更に、労働組合
の闘争の指令が正当性のない争議行為の指令を含み、しかも、組合員に対して、こ
れを重点的に実行することを命じていて、これが実行できないときには正当性のあ
る争議行為の実行を期待しないものと解釈されるときには、たとえ右闘争指令が正
当な争議行為の指令を一部含んでいたとしても、全体として公序良俗に違反し無効
であると解してよい。しかし、単に闘争指令の内容の一部に正当性のない争議行為
の指令が含まれているというだけでは、右闘争指令全体が違法であるとか、右闘争
費用にあてるための臨時組合費の徴収決議が無効であるということはできない。し
たがつて、右闘争資金の拠出が公労法第一七条第一項後段に反するとは言うことが
できないのである。
 そして、原審証人bの証言によつて成立の真正が認められる甲第二号証の一、
二、甲第三号証の一、二、甲第六号証の一、二、成立に争いがない乙第六号証、弁
論の全趣旨により成立の真正が認められる第七号証によれば、昭和三三年の年末闘
争、本件管理所闘争、志免鉱払下闘争、昭和三六年春季闘争の各指令が、前記各臨
時組合費の徴収のほかに、半日ストや勤務時間内の職場集会の実行の日時、場所、
参加人員等を大まかに定め、その具体的決定権限を下部機関に与える指令と同時に
なされていることが認められるが、これら半日ストや勤務時間内の職場集会が直ち
に公労法第一七条に違反するものとたやすく言うことができず(最高裁大法廷昭和
四一年一〇月二六日判決、刑集二〇巻八号九〇一頁参照)、仮にこの点を積極に解
するとしても、なお、前記各闘争の指令は半日ストや時間内職場集会のほかに遵法
闘争のごとく前記公労法の規定に直ちに違反すると断定し難い手段や、時間外職場
集会などの違法の疑いのない行動をも指令していることは前記各証拠から明らかで
あり、そして、控訴人組合の前記各闘争の指令の内容を検討しても、これら半日ス
トや時間内職場集会を主な争議行為とし、或いはスト権奪還のためのみに実行し、
または計画した事実は認められず、また、前記闘争の指令が正当性のない争議行為
を主に実行することを意図し、これを実行しないときには組合員に正当な争議行為
の実行を期待しない程重視していると解釈すべき事情も認められないばかりか、昭
和三六年春闘においては控訴人は全く半日ストを実施しないで右闘争を収拾した事
実は前記乙第六号証から明らかである。
 そうしてみると、前記の各資金の対象となつた闘争の指令が半日ストや時間内職
場集会の指令を含んでいるとしても、右臨時組合費の徴収決議が違法無効とは言う
ことができないものと解さなければならない。
 したがつて、この点に関する被控訴人らの主張も採用できない。」
(二) 原判決一一枚目表九行から同一二枚目表六行までを、次のとおり訂正す
る。
「つぎに、(ホ)「炭労資金」、(ヘ)「安保資金」、(ト)「政治意識昂揚資
金」について判断する。
 成立に争いがない甲第一七号証ならびに弁論の全趣旨によれば、控訴人は、労働
組合法第二条第五条の規定に適合するものとされた労働組合であつて、昭和三四、
三五、三六年ごろ施行されていたその組合規約中では、その目的を「組合員の生活
と地位の向上を図ると共に、日本国有鉄道の業務を改善し、民主的国家の興隆に寄
与すること」と定め、また、その業務を「労働条件の維持改善に関すること、福利
厚生に関すること、教養文化の向上に関すること、他団体との協力に関すること」
と定めていたことが認められる。
 そうしてみれば、控訴人は、労働組合法第二条に定めるとおり、自主的に組合員
の労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的とすること
は言うまでもないが、従たる目的である「民主的国家の興隆への寄与」は、それ自
体が直接の目的とされているのではなく、右の主たる目的の実現を通じて計るべき
間接の目的とされているものと解するのを相当とする。けだし、労働組合法は日本
国憲法の期待する民主的国家の興隆をその理念とするものである一方、民主的国家
の興隆の理念のもとに労働者の経済的地位の向上を目指すものであつて、労働組合
法に基づいて設立された控訴人の組合規約中の目的の定めも、右の精神を表現した
ものと解するのを相当とするからである。したがって、控訴人の組合規約中でその
業務とされている「他団体との協力」も、そのこと自体が目的ではなく、右の主た
る目的の実現のため必要な範囲での業務を指すものであり、他の団体、特に労働組
合の上部団体の指示に盲従することを指すものではないと言わなければならない。
 そして、控訴人は、右に説示した目的を遂行するうえで直接間接に必要な行為に
ついてのみ、行為能力ひいては権利能力を有する。そして、右の必要性の有無を判
断するに当つては、その行為が労働組合の外部第三者の利害に関するところがなく
組合と組合員間の法律関係にしか法的効果を及ぼさない臨時組合費の徴収決議であ
る場合には、いわゆる外形理論によることなく、目的遂行上現実に必要であるか否
かの点のみを考慮すべきである。控訴代理人は、労働組合については、その目的に
よる権利能力の制限を特に緩く解すべきである旨主張するが、何が法人の目的の範
囲内の行為であるかは、広く、労働、経済等の社会状勢の上に立って、当該法人の
存立目的およびこれに対する社会の一般的認識内容などの諸点を検討し、慎重に決
すべきであるとは言え、労働組合に限つて目的の範囲を超えたところまで権利能力
を認めるべき合理的な根拠を見出すことはできない。
 そして、労働組合が、特定の支出にあてるために臨時組合費の徴収を決定したと
きに、右支出目的が右組合の目的の範囲を超える場合には、たとえ右決定が組合規
約の定める手続によつていたとしても、右徴収決議は無効であり、労働組合は組合
員に右臨時組合費を請求できない。
 以上の見解にしたがつて、順次判断をすすめることとする。
(炭労資金について)
 原審証人bの証言により成立の真正が認められる甲第三号証の一、二、甲第四号
証、甲第六号証の二、原審証人cの証言により成立の真正が認められる甲第一四号
証の一、二、原審証人d、同c、原審ならびに当審(第一、第二回)証人e、当審
証人fの各証言および弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。
 昭和三四年ごろ、いわゆるエネルギー革命の進行にともない、石炭産業において
炭鉱閉鎖と労働者の大量解雇を中心とする大規模な合理化が行なわれようとした
が、炭労は、これに対抗して、いわゆる独占資本に対する企業整備反対闘争と、政
府に対して積極的な燃料政策の実現を迫るいわゆる政策転換闘争を進め、三井三池
炭鉱などで強力な闘争を行なつた。総評は、その成否が今後の安保反対闘争および
日本の労働運動に多大の影響を与える結果となるとの見解のもとに、炭労の右企業
整備反対闘争を支援し、総評において炭労に対し、争議中の炭労組合員の生活費
を、五人家族で月額一万円を基準として保障するための資金を援助することを中心
に、総評加盟組合の組合員を応援のため三井三池炭鉱の争議現場に派遣するなどの
援助を行なつたのであるが、総評は、昭和三四年八月の第一二回大会で、約二〇億
円にものぼると言われる右援助の必要資金にあてるため、各加盟組合は所属組合員
から炭労支援カンパを臨時徴収し、総評に納付することを決議した。
 一方、控訴人においても、その当時、国鉄職員約二、〇〇〇名が就業する国鉄志
免鉱業所を民間に払下げようとする国鉄の方針について、右職員が国鉄職員の身分
を失いその労働条件の維持改善その他経済的地位の向上が困難になるとの理由で反
対し、右鉱業所の売山問題解決の一方策として、炭労と同様、政府に対してエネル
ギー革命の事態に対応した積極的な燃料政策の立案と実行を要求する闘争を行なっ
ていた。そこで、控訴人は、右鉱業所の売山反対闘争の成功には炭労が行なつてい
る前記政策転換闘争の成功が有益であるとの、また、前記の総評の見解と同じく、
炭労の前記企業整備反対闘争の成否が安保反対闘争および労働運動に及ぼす影響が
大きいとの見解に立ち、前記の総評の決定にしたがつて、先に認定したとおり本件
「炭労資金」の徴収の決議と指令をした。
 以上の事実によつて判断するのに、控訴人が炭労の政府に対する政策転換闘争を
支援することは、控訴人自体の志免鉱業所売山反対の争議解決に必要な行為と解す
ることはできるが、本件「炭労資金」は、主として、炭労が使用者との間で行なつ
ている企業整備反対の争議を支援するため炭労組合員の争議中の生活補償資金や支
援団体の活動費に充てる目的で徴収されたものであつて、政策転換闘争それ自体に
直接必要な費用に充てる目的ではなく、仮に右目的を有する部分があつたとしても
それは極く僅かであつたものと解するのを相当とする。けだし、政策転換闘争に直
接要する経費は、右のとおりの生活補償費や活動資金に比べ極めて僅少で足ると解
されるからである。
 ところで、国鉄志免鉱業所売山の方針は、石炭産業とは異る産業分野に属ししか
も私企業とは異る経営理念を有する公共企業体内部における不採算部門の切捨てで
あると同時に、蒸気機関車の廃止など国鉄企業内の不要陳腐化部門の切捨てを意図
するものであるから、同じくエネルギー革命を契機とするとは言え、石炭産業の延
命策とも言うべき企業合理化とは異つた経済的動因を有し、両者はおのずから別個
の解決を見ることも充分あり得る訳であり、したがつて、一方の問題が労働者に有
利に解決したからと言つて他方の問題についても労働者に有利な解決を直接間接に
もたらすだけの関連性があるとは解し難い。
 そうであるから、本件「炭労資金」の徴収は、組合員の労働条件の維持改善その
他経済的地位の向上と言う控訴人の目的の実現に直接間接に必要とは言えず、その
徴収決議は控訴人の目的の範囲を超えるものとして無効であると言わざるを得ない
のである。
 この点に関し、控訴代理人は、企業間の労働条件の連動性、人員整理の波及効果
などを主張するが、一般論としては誠に首肯し得るものがあるけれども、本件に関
し具体的な蓋然性の存在を証するに足る証拠はなく、また、控訴代理人は、組合規
約上他団体との協力を業務と定めていることを根拠に本件「炭労資金」は控訴人の
目的の範囲内であると主張するが、先に説示したとおり右の業務は控訴人の前記目
的実現のためのものを指すのであるから、前記判断を左右することはできないし、
また、労働者の階級連帯が必要であるからと言つて本件「炭労資金」が控訴人の目
的実現に直接間接に必要であるとは解し難い。
(安保資金について)
 原審証人bの証言によつて成立の真正が認められる甲第四号証、原審証人d、当
審証人e(第一、二回)、同fの各証言、当審における調査嘱託の結果(二回と
も)および弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。
 総評は、昭和三五年初頭以降、全国で展開された新安保条約批准反対闘争で重要
な一環をにない、控訴人国鉄労組はじめ加盟各単産に多数の刑事、民事上の被処分
者を出した。そこで、総評は、同年六月の第一四回臨時大会で、安保闘争の犠牲者
救援のため加盟組合の組合員一人当り金五〇円を徴収する旨決議した。
 控訴人国鉄労組においても、安保条約は、戦争の原因となり国民・労働者の生存
すら危険にさらすのみか、国鉄労働者としては、これに基づき、労働災害を伴い易
い駐留米軍の軍用資材輸送が増強され、一般輸送が抑圧されて国鉄企業経営が圧迫
されることにより、組合員の労働条件の悪化や経済的地位の低下をもたらすとの理
由から、これに反対することを決定した。そして、同年五月、衆議院がその批准案
を可決すると、批准阻止の唯一の最後の手段として、岸内閣の退陣と国会解散を求
めて、三回にわたり時限ストなどの闘争を行なつた。その結果、公労法第一七条、
日本国有鉄道法に違反したとして、国鉄労働組合員のうち、一一名が右闘争の計画
最高責任者及び現地の責任者であるとの理由で解雇、二名が管理者に対する違法行
為があつたとの理由で免職、一六九名が停職、二七七名が減給懲戒処分を受け、二
四名が起訴された。そのため、控訴人は、これらの被処分者がその結果として失つ
た賃金、減給分、昇給延伸の昇給差額分、起訴による休職中の給与の減少分の補
償、解雇や懲戒処分に対する法的救済手続や刑事裁判の費用などに約五億円を要す
ることとなつたが、総評加盟労働組合中でも控訴人は特に多くの被処分者を出した
ため、前記の総評の決議どおり所属組合員一人当り金五〇円の割合による金員を総
評に拠出しても、それ以上の犠牲者救援資金を受けられる関係にあつた。それで、
控訴人は、第二〇回定期大会での決議に基づき、総評に拠出するため、同年九月五
日、指令第二号をもつて、組合員から一人金五〇円あてを臨時組合費として徴収す
る旨指令した。
 これらの事実に基づいて判断するに、いわゆる安保条約(昭和三五年六月二三日
条約第六号日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力および安全保障条約、以下新
安保条約という)の批准阻止の行為は、国鉄労働者にとつても、国鉄労働者の立場
を超えた国民個々の立場からなされた政治活動につきるものと言うべきである。そ
して、国鉄労組が新安保に反対する理由として挙げる駐留軍輸送の原因である米国
軍隊の日本駐留は、新安保条約によつてはじめて生じるものではなく、日本国とア
メリカ合衆国との間の安全保障条約(昭和二七年条約第六号、以下旧安保条約とい
う)第一条に基づき既に生じていたものであつて、新安保条約の発効を阻止して
も、旧安保条約に基づく駐留を解消できる訳のものではない。新安保条約批准阻止
が、駐留米軍輸送の減少、引いては国鉄労働者の労働条件、経済的地位の維持改善
や、国鉄労組の副次的目的である日本国有鉄道の業務の改善と関連性を有すること
を論証するだけの訴訟資料は提出されていないのである。
 そうすると、国鉄労組の前記新安保条約批准阻止のストライキなどの行為は、所
属組合員の労働条件の維持改善その他経済的地位の向上という控訴人の主たる目的
および右主目的の実現を通じて果たすべき日本国有鉄道の業務の改善、民主的国家
の興隆への寄与という控訴人の間接的目的をより十分に達成するための手段として
必要な政治活動と言うには程遠く、その目的の範囲内の行為に属するとは到底言う
ことはできない。
 そして、このように、控訴人の組合規約の定める目的から著しく離れた、公労法
第一七条日本国有鉄道法第三二条などに違反し、しかもデモなど通常表現の自由と
して許される範囲を超えた違法な団体行動に、故意に参加したため受けた懲戒また
は刑事処分によつて、組合員が失つた賃金または昇給分、罰金を補填し、或いはそ
の法的救済手続や刑事訴訟に関する費用を援助することもまた、控訴人の目的の範
囲内に属する行為と言うことはできない。けだし、組合目的と著しく離れていて、
しかも違法な団体行動を故意に行なつた組合員の救援までも組合の目的の範囲内と
することは、組合の目的の概念の不明確をもたらし、一般組合員の利益を不当に侵
害するものといわなければならないからである。そして、控訴人の業務として「他
団体との協力」が組合規約中に定められているとしても、前述の控訴人の目的実現
のためのそれに限られるのであるから、右判断をゆるがすものではない。
 そうであるから、本件「安保資金」の徴収決議は、控訴人の目的の範囲を超える
ものとして無効であるといわざるを得ない。
(政治意識昂揚資金について)
 原審証人bの証言により成立の真正が認められる甲第五号証、原審証人d、原審
および当審(第一、第二回)証人e、当審証人f、同gの各証言、原審(第一、第
二回)および当審における被控訴人h本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨によれ
ば、次の各事実が認められる。
 昭和三五年一一月の総選挙において、控訴人は、控訴人の組合員出身の立候補者
一二名の支持を決定したが、その選挙資金に充てるため、右立候補者の所属政党
(主として日本社会党)に対し、その人数に応じて、国鉄労働組合政治連盟を通じ
て寄付をした。控訴人は、右寄付のための資金を調達するため、先に認定のとお
り、本件「政治意識昂揚資金」の徴収の決議と指令をした。
 しかし、被控訴人らは、控訴人の政党支持の運動方針に対し、支持政党を異に
し、かつ、労働組合運動と政治に関する思想上の相違があることから、右指令に従
わなかつた。
 以上の事実に基づいて判断するのに、組合員において、支持政党を異にするなど
これに応じられない政治思想上の理由があるのに、労働組合が右組合員に対し、衆
議院議員選挙の特定の立候補者のための選挙資金の拠出を強制することは、民主主
義国家の基本原理である国民の政治的信条の自由(日本国憲法第一九条第二一条)
に対する侵害として許されない。したがつて、本件「政治意識昂揚資金」徴収の決
議と指令は、右資金を任意に拠出する者に対しては格別、被控訴人らに対しては無
効である。したがつて、被控訴人らに対し右資金の支払を求める本件請求部分は理
由がない。
(三) なお、「当審において新たに取り調べた証拠によつても、臨時組合費の請
求についての原判決理由中の事実認定を動かすことはできない。」と附加する。
四、以上のとおりであるから、原判決は相当であつて、これに対する本件控訴およ
び本件附帯控訴はいずれも理由がないから棄却すべきであり、訴訟費用の負担につ
いて民事訴訟法第九五条第八九条第九三条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 松本冬樹 浜田治 野田殷稔)

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