弁護士法人ITJ法律事務所

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判示事項
 食糧管理法違反(米穀運搬罪)の被疑者と認めるべき犯人が進行中の列車から駅
構内線路上に抛り出した袋入精米在中のリュクサックを当該駅職員において当該列
車に闇物資取締のために乗り込んでいた司法警察職員の所属する駅公安室に送致す
るべく送り荷札をつけて当該駅に保管中、右犯人が右駅員の隙をうかがつて該物件
を持ち逃げした場合において、従来もかかる取締にあたつて駅構内に闇米等抛り出
されたものがあつたら常に取締警察職員の要求によつてこれを取得し当該係官の許
に送致する例となつており、本件の場合においても、犯人が該物件を列車から抛り
出した際車上の警察職員から駅員に対していつものとおり処置を依頼する趣旨の合
図があつたので該駅員においてその指示に従つたものである関係にある場合には、
刑法第二四二条後段に該当するものを窃取した罪が成立する。
         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴審に於ける訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は弁護人糸賀悌治提出の控訴趣意書に記載された通りである。之
に対し当裁判所は左の通り判断する。
 右趣意書第一、第二点について
 刑事訴訟法第二百二十一条は検察官、検察事務官又は司法警察職員は被疑者其の
他の者が遺留した物は之を領置することができることを規定しているところ、本件
記録を精査するに、論旨も認める如く、本件窃盗罪の客体となつた袋人精米在中の
リュックサックは食糧管理法違反(米穀運搬罪)の被疑者と認むべき被告人が進行
中の列車からA駅構内線路上に抛り出したものであるから、右法条に所謂被疑者の
遺留した物に該当し当時闇物資取締の為に該列車に乗り込んでいた司法警察職員に
於て之を適法に領置し得べき場合であつたことは疑いがない。而して原審及び当審
に於けるA駅長の証言並に原審証人Bの証言に依れば、本件発生当日闇物資取締に
先立つて当該司法警察職員はA駅員に対して闇物資の取締をするから協力して貰い
度い。証拠品は駅の方で預つてくれと申入れ、駅の方でも之を了承したことが認め
られるのみならず、従来も同種取締の<要旨>行われた際には駅員は同種協力をして
いたのである。即ち本件被告人のしたと同様進行中の列車内から線路上に闇
米等を抛り出す者も屡々あつたが駅の方ではいつも取締警察職員の要求により之が
占有を取得した上直に当該係官の許に送致するという手続をとることを例としてい
たのである。本件の場合に於ても同様であつて被告人が判示物件を列車から抛り出
した際車上の警察職員から駅員に対し右物件の処置方につきよろしく頼むという趣
旨に解される合図があつたので、駅員は直ちに右物件の占有を取得しいつもの通り
之をC駅公安室宛当該司法警察職員に送致すべく送り荷札をつけて保管していたと
ころ、被告人から該物件は自己の所有であるから引渡して貰いたいとの頼みを受け
たが、駅員は該物件は取締官の頼みによつて保管しているもので送付しなければな
らぬものであるから渡すことはできないといつて拒んだのである。然るに被告人は
駅員の隙をうかがつて該物件を持つて逃げたものであるという各事情が一切明白に
なつている。而して之によればA駅員が本件の場合のみならず平素から闇物資取締
に際し取締官の依頼をうけて前記の如き行為をしていたのは、被疑者と目すべき者
の置き去つたものにつき司法警察職員に於て法律に定められた領置手続を践むに際
し、要求を受けて司法警察職員の手足となり一時物件の占有を取得し之を保管した
上遅滞たく当該職員に送付し以て適法の領置手続を完了させる為であつたと解する
ことができる。(尤も本件に於てはA駅長は司法警察権を有している者と認められ
るから自己独特の権限に基いて本件物件の領置ができるし又本件を単なる遺失物と
みて、駅長は駅構内に於ける遺失物につき当然占有権を有すという観方もあるが、
駅長の証言によつても又本件論旨によつても駅長が之等二つの権限に基いて本件物
件を処理したものではないとしているので之等の点についてはしばらく論外とす
る。)
 而して以上の如き関係であるから、本件被告人は司法警察職員のなす領置手続に
属する占有権を侵害したものであつて、刑法第二百四十二条に所謂公務所の命によ
り他人の看守する自己所有物の窃取を遂げたものといわざるを得ないのである。
 尤も原判決の行文をみると、被告人はA駅長の保管に属する本件物件を窃取した
と判示してあり、之につき刑法第二百三十五条第二百四十二条を擬律してあること
は論旨指摘の通りであるが、其の趣旨たるや、被告人はA駅長が公務所の命により
占有(保管)中の被告人所有の物件を窃取したものと判示するに在つたことは了解
に難くないから、此の点に関し原判決は被告人が窃取したものは被告人以外の者の
所有に属すると判示したものであり、然るときは刑法第二百四十二条を適用した点
との間に理由のくいちがいを来すとする論旨(第一点)及び原判決が本件物件は被
告人以外の者の所有に属すと認定したとすればそれは事実誤認であるという論旨
(第二点)は共に理由がない。更に以上の事実関係に付論旨は本件に於ては正式の
押収手続(差押又は領置)が採られていないから駅長の本件物件の占有は被疑者た
る被告人には対抗し得ない又取締に当つた警察職員は右物件の占有すらしなかつた
のであるから之を駅員に看守させることはできないのである。之を要するに本件物
件については刑法第二百四十二条所定の「他人の占有に属し又は公務所の命により
他人の看守するもの」なる要件は満されていないと主張するのである。よつて按ず
るに押収手続中差押をする場合に於ては令状がなければ之を行うことを得ないが、
領置をする場合に在つては勿論令状の必要はなく手続として調書、目録等の作成を
要求されてはいるものの(刑事訴訟規則第四十一条)斯る手続を完了しない以上は
領置の効果が発生しないとすベきではなく、被領置物の占有取得の行為が先行し調
書作成等の手続は可及的速かに之に伴うべきことが要求されているに過ぎないもの
と認むべきである。故に一旦領置する目的を以て占有を取得したが之に伴う手続が
結局為されなかつたというが如き場合は適法の領置が為されたとはいい得ないであ
ろうが、然らずして占有取得後遅滞なく右手続が採られた以上は占有取得の当初よ
り適法の領置があつたものと認めるを妨げないのである。本件に於ては前記の通り
駅員は司法警察職員の命によつて正当の領置手続の為さるべきことを前提として本
件物件の看守中被告人の為に其の占有を侵害されたものであつて、斯る侵害行為が
無ければ適法な手続は遅滞なく行われたものであろうことは了解に難くないのみな
らず、取締の司法警察職員は本件物件が駅構内に抛り出されたのを現認した上駅員
に其の看守を命じたものと解し得ること前記の通りであるから、以上の論旨は結局
理由が無いことになる。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 藤嶋利郎 判事 飯田一郎 判事 井波七郎)

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