弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴は、いずれもこれを棄却する。
         理    由
 本件控訴理由は末尾添付の各控訴趣意書の通りである。
 一、 被告人Aの控訴理由について。
 弁護人は、原審の科刑は不当であるから執行猶予の判決を求めると主張するけれ
ども、所論を考慮に入れて記録に現われた諸般の情状を考察してみても、原審の科
刑は相当であつて不当な量刑ではない。執行猶予の言渡のできるような情状は発見
できない。
 一、 被告人Bの控訴理由。
 第一点。
 第一について。
 (一) 弁護人は、原判決は本件偽造C株式会社増資新株式申込証拠金領収証の
交付を幇助しまたはこれを交付した被告人の行為を偽造有価証券交付の幇助または
その交付と認定し該当法条を適用処断したけれども、刑法上有価証券というのは流
通証券のことであると解すべきところ、本件領収証は増資新株引受申込の証拠とし
て払込まれたその金額を受領した事実を証明する証明文書であつて、後日株式申込
金領収書に代用され、新株券が発行された場合にこれにより新株券の引渡を請求し
得るにすぎないものであるから流通証券ではない。しかるに原判決が本件領収証を
有価証券と解したのは誤であると主張する。
 <要旨>凡そ、法律が有価証券という文言を使用している場合に、いかなる種類の
文書を有価証券と解すべきかは、当該法律の目的に従つて解釈しなければな
らないことである。例えば、証券取引法においては同法第二条第一項に掲げるもの
をいい、殊に同項第九号の規定によると「その他証券取引委員会が公益又は投資者
保護のため、必要且つ適当であると認めて証券取引委員会規則で定める証券又は証
書」を包含しているのであるから、同法にいう有価証券と商法にいう有価証券と
は、必ずしも一致しないものであること明白である。また民法と刑法とにおいても
解釈の一致しない場合があり、人格権享有の始期についての解釈を異にしているこ
とがその一例であることは、周知のことである。従つて、刑法上の有価証券の意義
を解釈するに当つても、民商法上の解釈にのみ拘泥する必要はないものと思料す
る。最近、法律雑誌や経済雑誌において、株式申込証拠金領収証が有価証券である
かどうかが論ぜられているのは(ジュリスト七号及び九号、ダイヤモンド四十巻十
八号)、すべて私法上の解釈論である。即ち、私法上有効な株式申込証拠金領収証
については、これを有価証券と解するかどうかによつて、その名義人と転得者と会
社との三者の間の法律関係の調整が異る結果になる。いいかえると、いずれの者の
利益の保護に重点を置くかによつて、結論を異にしているものと認められるのであ
る、ところで、刑法においては常に、私法上は何等の効力もない無効な証書を対象
としているものであるから、右の三者間の法律関係の調整という問題は起きてこな
い。刑法においては、虚偽の証書に対して一般第三者が誤つて信頼を与えて、不測
の損害を蒙ることを防止することを目的とする死者名義の私文書又は虚無人名義の
私文書について偽造罪の成立を認めるのと同様の理由である。思うに、刑法が私文
書偽造に関する犯罪の外に、有価証券偽造に関する犯罪を別に設けている所以は、
一般の私文書と異り、証書が売買その他の取引の客体に供せられるいわゆる流通証
券にあつては、それに対する信頼の危険が一層大きいからであると認められる。従
つて刑法第百六十二条にいわゆる「其他ノ有価証券」に該当するかどうかを判断す
るには、同条に例示せられている証券と同程度に、取引界において事実上、転輾流
通して取引されたものであるかどうかを調査すればよいものと考える。
 原判決挙示の証拠によれば、本件C株式会社増資新株式申込証拠金領収証はその
内容及び形式共に市場に流通する同会社の正規のものと酷似し、たやすく真偽の分
別し難い程度のものであり、一般株式会社の増資の場合においても同様の形式内容
の領収証を発行しており、かような新株式申込証拠金領収証は記名株券と同様に取
扱われ白紙委任状を添付して取引する商慣習の存在することが認められる。即ち本
件領収証には「本証をもつて払込金領収証に代え株券発行の上はC株式会社に於て
本証と引換に株券を交付します」「本証をもつて新株券を発行するまで名義書換を
御取扱い致します。本証の裏書譲渡は取扱いませんから売渡委任状を添付して下さ
い。」という文言が印刷されていて、株券引渡請求権を化体している外観を有し、
また原審鑑定人D証券取引所証券課長Eの供述するところによれば、増資新株式申
込証拠金領収証は市場で株券と同様に流通し、新株と称せられ銀行でもこれを担保
に取り譲渡方法にほ委任状によるものと裏書譲渡によるものとがあり、譲渡できる
ものとできないものがある、C株式会社の新株に譲渡できないものは本件犯行当時
見当らなかつた。本件領収証は証券取引法第二条第一項第六号の株券又は新株の引
受権を表示する証書には該当しないが、流通面では同一性質のものであることが明
らかである。従つて先に説明した刑法上の有価証券に該当するものと解さなければ
ならない。よつて、本件C株式会社増資新株式申込証拠金領収証を刑法上の有価証
券と解した原審の法律解釈は相当である。所論は刑法の解釈に関しては独自の見解
というの外はない。
 (二) 弁護人は、増資新株の権利義務は株式申込証提出の効果に基因するので
申込証拠金領収書は法律上権利義務発生の要件とはなつておらず、証拠金を徴せず
に株式の割当をなすも有効であり、証拠金を領収した後会社側で申込数以下の割当
をしても差支えない。従つて本件領収証が株券引渡請求権行使に欠くべからざる証
書と言えないから有価証券ではないと主張し、
 (三) 弁護人は、かつては商法上権利株の譲渡は禁止されていたのであるが昭
和十三年の商法改正によりこれまで商慣習として行われていた権利株の譲渡を適法
と認めたため証拠金又は株金払込領収証が発行せられ、裏書欄をも設け新株の名の
下に流通するに至つたのである。しかし商法第百九十条第二項(昭和二十五年法律
第百六十七号による改正前のもの)により発起人の権利株の譲渡は絶対無効と解せ
られて居るので、発起人の有する証拠金領収証は適法に流通させるわけにいかな
い。すなわち流通性がないから有価証券といえない。従つてこれと同一性質を有す
る本件領収証が市場に流通するということだけで有価証券であると認めるのは不合
理である。しかも右領収証自体に流通性はなく白紙委任状と合体して初めて流通を
もつのであると主張し、
 (四) 弁護人は、本件領収書には裏書譲渡性がなく、白紙委任状を添付して取
引されているから有価証券ではないと主張し、
 (五) 弁護人は、株券については裏書譲渡性、公示催告手続をもつて失効させ
る方法を明定しながら本件領収証については準用がない。また盗取せられ紛失又は
滅失した手形等については民事訴訟法の公示催告手続があるのに右領収証について
はかようほ手続は行われず会社側も便宜な取扱をしており、強制執行の実施された
例もきかず差押方法を知らねのである。以上の理由からも本件領収証か有価証券で
はないことが明らかであると主張し、
 (六) 弁護人は、本件領収証は証券取引法第二条第六号「新株の引受権を表示
する証書」ではない。かりに証券取引法上有価証券であつても刑法上有価証券とは
言えないと主張する
 以上(二)乃至(六)の論旨において主張するところは、全て私法上有効な株式
申込証拠金領収証の性質に関する論議であつて、刑法上有価証券と認むべきかどう
かを判定するに当つては、それ等の論議に拘泥する必要のないことは先に説明した
通りである。
 (七) 弁護人は、原判決は本件領収証を有価証券と認定したが、右は本質上本
件領収証が私文書であることを忘れ、領収証の流通性の原動力をなす裏書譲渡性の
法律上の効力若くは白紙委任状の添付せられる法律上の根拠の究明をしなかつたか
らである。もし白紙委任状が添付せられなかつた場合原審はいかなる擬律をもつて
臨まんとするかと主張する。
 しかし、有価証券は全て本質上権利義務に関する文書で本件領収証が私文書であ
ることはまことに所論の通りであるが、かかる本質を有するがゆえに私文書偽造で
あると主張するのは有価証券偽造に関する刑法の条章の存在理由を無視するもので
ある。
 なお、本件領収証に白紙委任状が添付されなかつた場合を予想して論議している
が、仮定の事実に対して判断を示す必要はない。
 第二について。
 弁護人は、原判決は被告人が本件領収証の偽造の事実を知つていたと認定した
が、被告人は原審公判で本件領収証を見ていないし本物と思つて渡したと述べ、原
審証人Fも原審公判で偽造とは知らなかつたと述べているので検察官に対するFの
供述(検第十四号)は措信し難い。原審証人Gの供述では被告人の知情は認められ
ないし、被告人Aの供述は推測にすぎない。被告人BのH検事に対する供述調書は
原審第三回公判のI証人の証言を参酌すれば任意性が疑われる。被告人は僅少な手
数料をとつていたにすぎないし多年証券業界の経験を有する者がかような僅少の手
数料で犯行に及ぶとは考えられないと主張する。しかし、原判決挙示の証拠を綜合
すれば被告人が本件領収証が偽造であることを知つていた事実を認めるに充分であ
る。記録を精査してみても被告人の弁解を採用するに足る証拠は一つもない。
 原審証人Fは原審第二回公判で検察官の「その領収証は偽造だとBから聞いた
か」という問に対し「それは値段が安いから大体偽造ではないかと思いました」と
答え、「偽造かどうか念を押したか」と問われ「どうだか覚えません」と答えてい
るのである。次いで検察官から「Bから偽造領収証だと聞いた旨検察官に述べてい
るがどうか」と聞かれ「聞いた様に申しましたが斯う言うものと違う話だと思つて
言つたのです」と答えているので右各供述を綜合すると検甲第十四号検察官に対す
るFの供述調書中の「Bに会い何かよい話はないかと尋ねたところCの新で偽造か
担保流れに勝手に委任状をくつつけた様なのがあり相場の二割位で取引するがどう
かという話が出た」という供述が真実に合致し、原審がこれを措信したことは正当
であると考えられる。次に、被告人Aの原審第二回公判の供述は本件の取引で同被
告人が実験した事実に基ずいて推測した事項の供述であるから証拠能力が与えられ
ているのである。原審証人Gは被告人Bは本件偽造領収証を偽造であると知つてい
たと思うと述べておる。H検事に対する被告人Bの供述調書については同被告人も
弁護人も原審第八回公判でこれを証拠とすることに同意しているし、原審証人Iの
証書によれば同人は警察で右被告人を取調べた司法巡査で当時の模様について供述
しているのであるが、右供述によれば右被告人は既に警察において任意自供してい
たことが明らかである。たとえ警察における自白が強制に基ずいていたとしても、
これがために直ちに検察官に対する右被告人の供述調書の任意性が疑われる理由は
ない。殊に原審第八回公判調書によれば裁判長は右被告人に対し右供述調書が任意
な供述によるものであることを確かめているのである。記録を精査しても任意性の
疑われるような証拠は一つもない。たとえ右被告人が本件犯行によつて得た手数料
が僅少であつても同被告人の知情を否定するわけにいかない。論旨は理由がない。
 第二点について。
 弁護人は、原審の科刑は過重であると主張するけれども、所論を考慮に入れて記
録に現われた諸般の情状を考察してみても、原審の科刑は相当であつて決して過重
ではない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十六条を適用して主文の通り判決する。
 (裁判長判事 斎藤朔郎 判事 松本圭三 判事 網田覚一)

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