弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     一 原判決を次のとおり変更する。
     1 第一審判決を取り消す。
     2 上告人は、被上告人に対し、金五八二万円を支払え。
     3 前項については強制執行をすることができない。
     二 訴訟の総費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人伊丹浩の上告理由第一について
 記録に現れた本件訴訟の経過等に照らせば、原判決に所論の違法はない。所論引
用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は採用することができない。
 同第二について
 一 被上告人の本訴請求は、上告人に対し、昭和六〇年四月二二日神戸地方裁判
所尼崎支部に係属中の別件訴訟において成立した訴訟上の和解で上告人が支払を約
した貸金及び給料の合計五八二万円の支払を求めるものであるところ(以下、この
上告人の債務を「本件債務」という。)、上告人は、右和解の成立は認めたが、右
和解に際して被上告人との間において本件債務については強制執行をしない旨の合
意が成立したと主張した。原審は、右主張の合意の成立を適法に確定した上、本件
債務はいわゆる責任のない債務であるから、被上告人はこれに基づいて強制執行を
することはできないが、このような場合でも裁判所は給付判決をすべきであるとし
て、本件債務について強制執行をすることができない旨を判決主文において明示す
ることなく、上告人に対して被上告人に五八二万円の支払を命じる判決をした。
 二 しかしながら、原判決中、本件債務について強制執行をすることができない
旨を判決主文において明示することなく、本件債務の支払を命じた点は、これを是
認することができない。その理由は、次のとおりである。
 給付訴訟の訴訟物は、直接的には、給付請求権の存在及びその範囲であるから、
右請求権につき強制執行をしない旨の合意(以下「不執行の合意」という。)があ
って強制執行をすることができないものであるかどうかの点は、その審判の対象に
ならないというべきであり、債務者は、強制執行の段階において不執行の合意を主
張して強制執行の可否を争うことができると解される。しかし、給付訴訟において、
その給付請求権について不執行の合意があって強制執行をすることができないもの
であることが主張された場合には、この点も訴訟物に準ずるものとして審判の対象
になるというべきであり、裁判所が右主張を認めて右請求権に基づく強制執行をす
ることができないと判断したときは、執行段階における当事者間の紛争を未然に防
止するため、右請求権については強制執行をすることができないことを判決主文に
おいて明らかにするのが相当であると解される(最高裁昭和四六年(オ)第四一一
号同四九年四月二六日第二小法廷判決・民集二八巻三号五〇三頁参照)。
 これを本件についてみるに、原審は、本件債務について上告人と被上告人との間
に不執行の合意があったことを適法に確定した上で、本件債務は、いわゆる責任の
ない債務であり、強制執行をすることはできないと判断したのであるから、その旨
を判決主文に明示すべきであったのであり、右明示を欠いた原判決には、この点に
おいて法令解釈を誤った違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らか
である。論旨は右の趣旨をいう点において理由があり、原判決は破棄を免れない。
そして、前記説示したところによれば、原判決の主文を本判決主文のとおり変更す
べきである。
 よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    三   好       達
            裁判官    大   堀   誠   一
            裁判官    味   村       治
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    大   白       勝

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