弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人家入経晴上告趣意第一点について。
 原判決は、被告人は自動車の運転免許を受けていないにかゝわらず、自ら自動車
を運転し途中一度通行人に追突の事故を起した後も尚運転を継続し自動車の運転に
ついては、前方を注視し、通行人の有無等について、十分の注意を払い危険のない
ことを確認しなければならない注意義務があるにかかわらず、この注意義務を怠り、
警笛も鳴らさず、漫然時速一五粁の速度で進行を続けた為め、その前方約五七尺歩
道から約七尺六寸の車道を歩行中の本件被害者に車体前部を追突し因つて同女をし
て脳出血のため間もなく死亡せしめた事実を認定したのであつて、右事実によれば、
被告人が、通常人としてなすべき注意義務を怠り、その結果人を死に至したもので
あることは極めて明白であり、原判決の注意義務に関する説示についても、何ら、
問然するところはなく、通常人として判示のことき注意義務ありとすることは当然
である。論旨は原判決が、被告人に対し、業務上の注意義務を課したものの如く主
張するけれども、それは、原判決に対する誤解である。またかりに右被害者にも過
失があつたとしてもそれがために、被告人の過失致死の責任を免れしめるものでは
ない論旨は理由がない。
 同第二点について。
 所論は、原判決が本件公訴事実中Aに対する過失傷害罪について、被害者の告訴
のないことを理由として、その公訴を棄却するに当り判決末尾において、右は、判
示過失罪との連続犯の関係において起訴されたものと認められるから、特に主文に
おいて公訴棄却の言渡をしないと判示したのに対し、右両個の過失犯は連続犯の関
係に立つものではないから、右の場合、主文において公訴棄却の言渡をなすべきも
のであると主張するのであるが、所論は、結局原判決の認めた連続犯関係を否定し、
右両個の過失犯は、独立した二個の犯罪であつて、併合罪の関係に立つものと主張
するのに外ならないのであつて、かくのごときは、被告人のために不利益な主張を
するに帰着するのであるから、上訴制度の本質上、かかかる主張は上告適法の理由
とみとめることはできない。また、連続犯関係の一部に公訴を棄却すべきものがあ
る場合には、判決理由中においてそのことを明らかにすればよいのであつて、特に
主文において、その言渡をする必要はないのである。論旨は、採用することができ
ない。
 よつて、刑訴施行法第二条、旧刑訴第四四六条に従い、主文のとおり判決する。
 右は、全裁判官一致の意見である。
 検察官 岡本梅次郎関与
  昭和二四年七月九日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎

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