弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役2年及び罰金200万円に処する。
その罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した
期間被告人を労役場に留置する。
この裁判が確定した日から5年間その懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,税関長の許可を受けないで,うなぎの稚魚を本邦から不正に輸出しよ
うと考え,
第1O,P,Q及び氏名不詳者と共謀の上,令和2年1月29日,O及びPが,
大阪府泉佐野市泉州空港北1番地所在の関西国際空港第1ターミナルビル4階Cチ
ェックインカウンターにおいて,香港国際空港行きキャセイパシフィック航空597
便の搭乗手続を行うに当たり,キャセイパシフィック航空係員に対し,うなぎの稚
魚合計約24.65㎏を隠匿したスーツケース2個を機内預託手荷物として運送委託し
たのに,大阪税関関西空港税関支署職員に対し,何ら申告せず,もって税関長の許
可を受けないでうなぎの稚魚を輸出しようとしたが,同支署職員に上記スーツケー
スに隠匿したうなぎの稚魚を発見されたため,その目的を遂げず,
第2R,S,Q,T及び氏名不詳者と共謀の上,同月31日,R及びSが,前記
関西国際空港第1ターミナルビル4階Cチェックインカウンターにおいて,香港国
際空港行きキャセイパシフィック航空597便の搭乗手続を行うに当たり,キャセイ
パシフィック航空係員に対し,うなぎの稚魚合計約33.46㎏を隠匿したスーツケー
ス4個を機内預託手荷物として運送委託したのに,大阪税関関西空港税関支署職員
に対し,何ら申告せず,もって税関長の許可を受けないでうなぎの稚魚を輸出しよ
うとしたが,同支署職員に上記スーツケースに隠匿したうなぎの稚魚を発見された
ため,その目的を遂げなかった。
(証拠の標目)
省略
(法令の適用)
1被告人の判示各所為は,いずれも刑法60条,関税法111条3項,1項1号,
67条に該当するところ,
2判示各罪について,各所定刑中いずれも懲役刑及び罰金刑の併科を選択し,
3以上は刑法45条前段の併合罪であるから,
(1)懲役刑については,刑法47条本文,10条により,犯情の重い判示第2の罪
の刑に法定の加重をし,
(2)罰金刑については,刑法48条2項により,判示各罪所定の罰金の多額を合
計し,
4その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役2年及び罰金200万円に処し,
5その罰金を完納することができないときは,刑法18条により,金1万円を1
日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし,
6情状により刑法25条1項を適用して,この裁判が確定した日から5年間その
懲役刑の執行を猶予し,
7訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して,被告人に負担させ
ないこととする。
(量刑の理由)
本件は,被告人らが,2回にわたり,うなぎの稚魚合計約58㎏を密輸出しようと
した事案である。未遂に終わったとはいえ,輸出しようとしたうなぎの稚魚の量は
多く,貨物の輸出についての税関手続の適正な処理の実現等の関税法の目的にも照
らし,犯情は悪質である。その中で,被告人は,氏名不詳の共犯者(被告人の供述
するU。以下「共犯者U」という。)から送られてきたうなぎの稚魚から輸出に適
したものを選別するとともに,知人である共犯者らに持ち掛けて運搬役を確保し,
同共犯者らにうなぎの稚魚の入ったスーツケースと報酬を渡して関西国際空港から
送り出すなど,共犯者Uの指示や資金供給の下とはいえ,密輸出元として中心的で
不可欠の役割を果たしており,その関与の程度は大きい。しかも,被告人は,共犯
者Uの指示等の下,以前にもうなぎの稚魚の密輸出に携わったことがあるほか,少
なくとも約3年前から,大阪に拠点を移し,うなぎの稚魚を保管する水槽を整える
などして,シーズンになればうなぎの稚魚の密輸出を継続的に行い,同共犯者から
報酬等を得ていたことがうかがえるのであって,本件は職業的犯行といわなければ
ならない。そして,被告人は,平成18年と平成20年に本件同様のうなぎの稚魚の密
輸出の未遂により通告処分を受け,罰金相当額としてそれぞれ10万円と213万円を
支払ったのに,本件犯行に及んだもので,判示第1の犯行が税関で摘発されたにも
かかわらず判示第2の犯行に及んだこと等にも照らし,被告人は厳しい非難を免れ
ない。これに加え,判示第2の犯行後,同犯行の摘発のみならず共犯者3名の携帯
電話機が税関で押収されたことまで認識していたのに,エックス線検査でうなぎの
稚魚が発覚しない方法を研究するなどしてうなぎの稚魚の密輸出を継続しようとし
たこと等に鑑み,被告人には法規範を軽視する構えが著しいといわざるを得ない。
以上からすれば,被告人の刑事責任は重いというべきであり,本件犯行の利欲性
からは相応の金銭的制裁も必要であるが,被告人に同種ないし近時の懲役前科がな
いことも考慮すると,懲役刑については被告人をいきなり実刑に処するのは重すぎ
るといわざるを得ない。そこで,被告人が反省の情を示し,今後同種犯行に及ばな
い旨供述していること等を踏まえつつ,被告人を主文の懲役刑及び罰金刑に処し,
その懲役刑の執行を猶予することとした。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑-懲役2年及び罰金200万円)
令和2年10月27日
大阪地方裁判所第12刑事部
裁判官増田啓祐

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