弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人に有罪を言渡した部分を破棄する。
     本件を神戸地方裁判所に差し戻す。
         理    由
 弁護人渋谷又二の控訴趣意は本件記録に綴つている控訴趣意書記載のとおりであ
るから引用する。
 控訴趣意第二点の一、二について、
 記録について調査するに本件起訴状には第二の犯罪事実として被告人が古物商を
営んでいる者であるが昭和二五年五月初頃から同年九月初旬頃までの間八回に亘り
Aから提時計外二三点を買受けながらこれを所定の帳簿に記載しなかつた事実及び
罰条として古物営業法第二九条第一七条をそれぞれ掲げているのであるが、検察官
は原審第三回公判期日において右本来の訴因に対し予備的訴因として被告人が古物
商免許を受けずして前記期間に八回に亘りAから提時計外二三点を買受けて古物営
業を為した事実及び罰条として同法第二七条第六条を追加したところ、原審はその
予備的訴因を認めて被告人に対し有罪の判決をなしたのであ<要旨>る。しかし、右
本来の訴因は被告人が古物営業者であることを前提として該営業者としての義務に
違背し帳簿に所定の事項を記載しなかつたという不作為を犯罪事実とするも
のであるに反し予備的訴因は被告人には古物営業をする資格がないに拘らず積極的
に古物常業を為したという作為を犯罪事実とするものであつて両者の基礎的事実を
共通にするものとは認め難く犯罪の構成要件を全く別異にするものであるから原審
における前記予備的の訴因は公訴事実の同一性を害するものといわねばならない。
 それ故原審においては須らく本来の訴因について審理を尽し仮りに被告人が古物
営業者でない場合であつてもその資格ある者の代理人として起訴に係る不作為をし
たことが認められるならば訴因の変更によつてその罪責を問うを妨げないであろう
が原審がたやすく前記予備的訴因の追加を許容して本来の訴因につき判決せず新ら
しい公訴の提起がない限り審判の目的とならない事実につき被告人に対し有罪の判
決をしたのは刑事訴訟法第三一二条第一項の規定に違反しこの違法が判決に影響を
及ぼすこと明らかであるばかりでなくなお審判の請求を受けた事件について判決を
せす、審判の請求を受けない事件について判決をした不法あるに帰するのであるか
ら論旨は理由あり、原判決中被告人に対し有罪を言渡した部分は到底破棄を免れな
い。
 よつて弁護人渋谷又二のその他の控訴趣意に対する判断を省略し刑事訴訟法第三
九七条第三七八条第三号第三七九条第四〇〇条本又に従い主文の上おり判決する。
 (裁判長判事 富田仲次郎 判事 棚木靱雄 判事 入江菊之助)

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