弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人弁護士森良作、同石川泰三、同飯沢進、同山田尚の上告理由第一点及
び第三点について。
 原判決はその挙示の証拠によつて、昭和二〇年一〇月九日上告人A1は自己の所
有に属し且つ自己名義に所有権取得登記の経由されてある本件土地を上告人A2に
売り渡し、上告人A2は同二一年四月一〇日被上告人にこれを転売し、それぞれ所
有権を移転したが、上告人両名間の右売買契約は昭和二二年一二月二〇日両者の合
意を以て解除されたものと認定し、次いで、右契約解除は合意に基くものであつて
も民法五四五条一項但書の法意によつて第三者の権利を害することを得ないから、
既に取得している被上告人の所有権はこれを害するを得ないとの趣意の下に、被上
告人が上告人A2に代位して上告人A1に対し上告人A2名義に本件土地の前示売
買に因る所有権移転登記手続を求める請求及び右請求が是認されることを前提とし
た被上告人の上告人A2に対する前示売買に基く所有権移転登記手続請求をそれぞ
れ容認したものであることは、判文上明らかである。思うに、いわゆる遡及効を有
する契約の解除が第三者の権利を害することを得ないものであることは民法五四五
条一項但書の明定するところである。合意解約は右にいう契約の解除ではないが、
それが契約の時に遡つて効力を有する趣旨であるときは右契約解除の場合と別異に
考うべき何らの理由もないから、右合意解約についても第三者の権利を害すること
を得ないものと解するを相当とする。しかしながら、右いずれの場合においてもそ
の第三者が本件のように不動産の所有権を取得した場合はその所有権について不動
産登記の経由されていることを必要とするものであつて、もし右登記を経由してい
ないときは第三者として保護するを得ないものと解すべきである。けだし右第三者
を民法一七七条にいわゆる第三者の範囲から除外しこれを特に別異に遇すべき何ら
の理由もないからである。してみれば、被上告人の主張自体本件不動産の所有権の
取得について登記を経ていない被上告人は原判示の合意解約について右にいわゆる
権利を害されない第三者として待遇するを得ないものといわざるを得ない(右合意
解約の結果上告人A2は本件物件の所有権を被上告人に移転しながら、他方上告人
A1にこれを二重に譲渡しその登記を経由したると同様の関係を生ずべきが故に、
上告人A1は被上告人に対し右所有権を被上告人に対抗し得へきは当然であり、従
つて原判示の如く被上告人は上告人A1に対し自己の登記の欠缺を主張するについ
て正当の利益を有しないものとは論ずるを得ないものである)。のみならず、原判
決は上告人A2が上告人A1に対して有する前示両者間の売買契約に基く所有権移
転登記請求権を被上告人において代位行使する請求を是認しているのであるから、
上告人A1が被上告人に対し右売買契約は上告人A2との間の合意解約によつてす
でに消滅していることを主張し得べきは当然の筋合であると云わなければならない。
けだし上告人A1としては上告人A2から前示移転登記手続方を直接に請求された
場合当然に主張し得べき前示合意解約の抗弁を被上告人が上告人A2に代位して移
転登記手続を請求してきた場合これを奪わるべき理由がないからである。但し、右
合意解約が当事者間の通謀による虚偽の意思表示であるとか、或は被上告人が原審
以来主張している事情の立証されたときは格別である。
 以上のとおりであるから、本上告論旨は結局理由あるに帰し、従つて本件上告は
その理由あり、原判決は到底破棄を免れないものと認める。
 よつて、爾余の論点に対する判断を省略し民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員
の一致で主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎

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