弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人山本満夫の上告理由について
 一 原審の確定した事実関係は、次のとおりである。
 (一) 本件土地は上告人A1が、本件土地上の本件建物は上告人A2が、それぞ
れ所有していた。(二) Dは、昭和五四年一一月一六日、本件土地建物につき、右
各所有者からの売買を原因とする所有権移転登記を経由すると同時に、株式会社E
のために抵当権を設定してその旨の登記手続をした。(三) Dは、同五八年九月一
四日、本件土地建物につき、被上告人B1に対し、売買を原因とする所有権移転登
記手続をした。(四) Eの申立てにより、同六一年三月二五日本件土地建物につき
競売開始決定がされ、被上告人B2物産有限会社が、売却許可決定を受けて、同六
二年六月二三日その代金を納付し、同月二九日所有権移転登記を経由した。(五) 
上告人らは、遅くとも同五九年二月ころまでには本件土地建物がDに移転登記され
ていることを、また、遅くとも執行官による現況調査を受けた同六一年五月二一日
ころまでには本件土地建物につき不動産競売手続が進行していることを知っていた。
そして、上告人A1は、同年七月一九日、また、上告人A2は、同年九月二一日、
D及び被上告人B1名義の前記各所有権移転登記並びにE名義の前記抵当権設定登
記の各抹消登記手続をすることを求める訴訟の提起を弁護士に委任し、同弁護士は、
同年一一月一二日、上告人らの代理人として右各訴訟(本件の第一審事件の一部)
を千葉地方裁判所に提起していた。
 二 原審は、真実の所有者が、不動産競売手続上は当事者として扱われなかった
場合であっても、何らかの事情により不動産競売手続の開始・進行の事実を知り、
又は知り得る状況にあって、その停止申立て等の措置を講ずることのできる十分な
機会があったということができるときは、民事執行法一八四条の適用を認めるのが
相当であると判断した上、右事実関係の下においては、上告人らは、本件競売手続
が開始された比較的早い時期にそれが進行していることを知っていて、売却によっ
て本件土地建物の所有権を失うことを防止するために、第三者異議の訴えを提起し
て競売手続の停止を求める等の措置を講ずるに十分な時間的余裕を有していたとい
えるとして同条の適用を認め、被上告人らに対し前記各所有権移転登記の抹消登記
手続をすることを求める上告人らの請求を棄却し、上告人A2に対し本件建物の明
渡しを求める被上告人B2物産の請求を認容すべきものとした。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次の
とおりである。
  担保権に基づく不動産の競売は担保権の実現の手続であるから、その基本とな
る担保権がもともと存在せず、又は事後的に消滅していた場合には、売却による所
有権移転の効果は生ぜず、所有者が目的不動産の所有権を失うことはないとするの
が、実体法の見地からみた場合の論理的帰結である。しかし、それでは、不動産競
売における買受人の地位が不安定となり、公の競売手続に対する信用を損なう結果
ともなるので、民事執行法一八四条は、この難点を克服するため、手続上、所有者
が同法一八一条ないし一八三条によって当該不動産競売手練に関与し、自己の権利
を主張する機会が保障されているにもかかわらず、その権利行使をしなかった場合
には、実体上の担保権の不存在又は消滅によって買受人の不動産の取得が妨げられ
ることはないとして、問題の立法的解決を図ったものにほかならない。したがって、
実体法の見地からは本来認めることのできない当該不動産所有者の所有権の喪失を
肯定するには、その者が当該不動産競売手続上当事者として扱われ、同法一八一条
ないし一八三条の手続にのっとって自己の権利を確保する機会を与えられていたこ
とが不可欠の前提をなすものといわなければならない。これを要するに、民事執行
法一八四条を適用するためには、競売不動産の所有者が不動産競売手続上当事者と
して扱われたことを要し、所有者がたまたま不動産競売手続が開始されたことを知
り、その停止申立て等の措置を講ずることができたというだけでは足りないものと
解すべきである。
  そうすると、原審の前記判断には、同条の解釈適用を誤った違法があり、右違
法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を
免れない。そして、本件においては、被上告人らは、上告人らとDとの間の売買が
通謀虚偽表示によるものであり、民法九四条二項によりその登記の無効を善意の第
三者に対抗することができない旨主張しているので、この点について更に審理を尽
くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決
する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    佐   藤   庄 市 郎
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    可   部   恒   雄
            裁判官    大   野   正   男
            裁判官    千   種   秀   夫

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