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平成28年4月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成27年(ネ)第10127号損害賠償請求控訴事件
原審・東京地方裁判所平成26年(ワ)第27277号
口頭弁論終結日平成28年3月2日
判決
控訴人AdaZERO株式会社
同訴訟代理人弁護士岩瀬吉和
同山内真之
同並木重伸
同弁理士金山賢教
被控訴人株式会社カクヤス
同訴訟代理人弁護士大野聖二
同小林英了
同弁理士津田理
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,控訴人に対し,1億円及びこれに対する平成26年10月26
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
4仮執行宣言
第2事案の概要(略称は,原判決に従う。)
1本件は,発明の名称を「Web-POS方式」とする特許第5097246
号に係る本件特許権を有する控訴人が,被控訴人に対し,被控訴人がインターネッ
ト上で運営するEC(電子商取引)サイトを管理するために使用している制御方法
(被告方法)が,本件特許の願書に添付した本件特許請求の範囲の請求項1(本件
請求項1)記載の発明(本件特許発明)の技術的範囲に属し,本件特許権を侵害す
ると主張して,不法行為による損害賠償請求権に基づき,1億円(特許法102条
3項により算定される損害額6億円の一部である9000万円及び弁護士費用60
00万円の一部である1000万円の合計額)及びこれに対する訴状送達日の翌日
である平成26年10月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅
延損害金の支払を求める事案である。
原判決は,被告方法は,本件特許発明の文言侵害にも均等侵害にも当たらず,そ
の技術的範囲に属するということはできない,として控訴人の請求を棄却した。
そこで,控訴人が原判決を不服として控訴したものである。
2前提事実
原判決5頁7行目の「概数量」とあるのを「該数量」と訂正するほかは,原判決
の「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから,これを引用する。
3争点
原判決の「事実及び理由」の第2の3記載のとおりであるから,これを引用する。
第3争点に対する当事者の主張
争点に対する当事者の主張は,以下の1のとおり訂正し,以下の2のとおり当審
における当事者の主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の第2の4記
載のとおりであるから,これを引用する。
1原判決の訂正
(1)原判決8頁25行目の「共有」とあるのを,「供給」と訂正する。
(2)原判決21頁23行目の「概数量」とあるのを,「該数量」と訂正する。
(3)原判決23頁18行目の「クライアント装置を」とあるのを,「クライアン
ト装置と」と訂正する。
(4)原判決28頁7行目の「商品単位」とあるのを,「カート単位」と訂正する。
2当審における当事者の主張
(1)争点2(被告方法が文言上,本件特許発明の技術的範囲に属するか)につい

〔控訴人の主張〕
ア構成要件F4の解釈
構成要件F4は,その文言上,「該数量に基づく計算」について,Web-PO
Sクライアント装置において行われる場合と,Web-POSサーバ・システムに
おいて行われる場合の双方を含んでおり,このことは,本件明細書の【0137】
の記載からも裏付けられる。
イ原判決のクレーム解釈の誤り
原判決は,「Web-POSクライアント装置」上の「Webブラウザ」による
処理が,少なくとも(構成要件F1),「カテゴリーの変更または入力(選択)に
関する表示制御過程」(構成要件F2),「商品識別情報の入力(選択)のための
表示制御過程」(構成要件F3)及び「商品注文内容の表示制御過程」(構成要件
F4)を含むべきことを構成要件Fにおいて規定しているところ,構成要件F2な
いしF4において,「Web-POSサーバ・システム」が何らかの処理を行う場
合には,その都度,「Web-POSクライアント装置」から「Web-POSサー
バ・システム」に何らかの要求が送信されること(例えば,「HTMLリソース」
を要求する「HTTPメッセージ」の送信,商品識別情報に対応する商品基礎情報
の問合せ,ユーザのオーダ操作に対応する計算結果の注文情報の送信)が明確に規
定されているのに対し,本件請求項1は,「ユーザが,該入力手段により数量を入
力(選択)する」操作が行われた場合に,構成要件F4の「該数量に基づく計算」
を「Web-POSサーバ・システム」に行うよう要求することを規定していない
のであるから,「該数量に基づく計算」は,専ら「Web-POSクライアント装
置」において行われるものと解するのが相当であると判断した。
(ア)しかし,特段の明示がなくとも,HTMLリソースがWeb-POSサー
バ・システムにおいて生成され,供給されること,商品基礎情報がWeb-POS
サーバ・システムの商品(PLU)マスタDBから抽出され,Web-POSクラ
イアント装置に送信されること,及び注文情報がWeb-POSサーバ・システム
において取得(受信)されることは,本件明細書の【0015】,【0016】の
記載から明らかであって,これらが規定されているのは,Web-POSサーバ・
システムにおいて何らかの処理が行われることを明示するためではない。これらが
規定されているのは,HTMLリソースが,Web-POSクライアント装置から
送信されたHTTPメッセージに応じて,Web-POSクライアント装置に送信
されること,Web-POSクライアント装置においてユーザが商品(PLU)リ
ストにおいて商品識別情報を入力(選択)するごとに,商品基礎情報が取得されて
表示されること,及び商品の注文明細情報がWeb-POSクライアント装置の表
示装置に表示されている状態でユーザがオーダ操作を行うと,注文情報がWeb-
POSサーバ・システムにおいて取得(受信)されることという,各ステップの内
容とその相互の関係を明確に示すためである。
これに対して,商品についてユーザが入力(選択)した数量に基づく計算につい
ては,本件特許発明の構成及び目的に照らしても,Web-POSサーバ・システ
ム上で行われるべき処理であるか,Web-POSクライアント装置上で行われる
べき処理であるかは,一義的には定まらない。そして,本件特許発明では,いずれ
の構成をも含めるために,計算が行われる場所を明示しなかったものである。
また,本件特許請求の範囲の記載によって,商品についてユーザが数量を入力(選
択)するというステップがあり,これに応じてWebサーバ・クライアント・シス
テムにおいて「該数量に基づく計算」というステップが行われるという,各ステッ
プの内容,主体及び相互の関係は明確である。さらに,本件明細書の【0137】
の記載によれば,「該数量に基づく計算」が,Web-POSサーバ・システムで
行われる場合とWeb-POSクライアント装置で行われる場合の双方があり得る
こと,この双方の場合が本件特許発明の技術的範囲に含まれることも,明確である。
(イ)本件特許発明では,構成要件F2ないしF4の各表示制御過程が規定され
ており,構成要件F1によれば,これらの表示制御過程は,Web-POSクライ
アント装置のWebブラウザによって行われる。
しかし,このことは,各表示制御過程において行われる情報の処理(計算)が,
原則として(明示的にWeb-POSサーバ・システムにおいて行われると規定さ
れていなければ),Web-POSクライアント装置において行われるとの解釈を
基礎付けるものではない。
構成要件F1の記載にもかかわらず,本件特許発明の構成要件F2ないしF4で
は,Webブラウザによる処理については,その都度,明示的に規定されている。
したがって,構成要件F1の「上記Webブラウザによる処理」との文言は,構成
要件F2ないしF4の各表示制御過程を対象とするものではあるが,これを超えて,
構成要件F2ないしF4の全ての処理が対象に含まれると解することは誤りである。
これらの表示制御過程に伴って行われる計算等の処理については,明示的に「We
bブラウザ」によって処理されると規定されていなければ,Web-POSサーバ・
システムで行われる場合と,Web-POSクライアント装置で行われる場合の双
方を含むものである。
(ウ)本件明細書の【0014】の記載は,計算等の処理を可能な限りWeb-
POSサーバ・システムにおいて行うべきことを示している。これに反して,原則
として計算はWeb-POSクライアント装置で行われるべきとする原判決の解釈
は,本件特許発明の特徴を理解しておらず,誤りである。
(エ)被控訴人は,仮に「該数量に基づく計算」がWeb-POSサーバ・シス
テムで行われる場合には,その後の「計算結果の注文情報が該Web-POSサー
バ・システムにおいて取得(受信)されることになる」との構成要件が無意味なも
のになる旨主張する。
しかし,構成要件F4の「計算結果の注文情報」とは,計算結果そのものではな
く,「計算結果に対応した注文情報」を意味する。「該数量に基づく計算」が,W
eb-POSクライアント装置で行われる場合には,「計算結果の注文情報」に計
算結果が含まれるが,Web-POSサーバ・システムで行われる場合には,We
b-POSクライアント装置に通知された計算結果を再度Web-POSサーバ・
システムに送る必要はないから,計算結果自体がWeb-POSサーバ・システム
で保持される一方で,計算結果を含まない注文情報(既にWeb-POSサーバ・
システムで行われた計算結果に対応する注文内容で,注文を確定させる情報)が,
オーダ操作によって送られることになる。すなわち,ユーザによって入力(選択)
された数量に基づきWeb-POSサーバ・システムで計算が行われ,その結果が
Web-POSクライアント装置に通知された後,ユーザのオーダ操作により通知
された計算結果に対応した(計算結果を含まない)注文情報がWeb-POSサー
バ・システムに送られることとなる。
したがって,「計算結果の注文情報が該Web-POSサーバ・システムにおい
て取得(受信)されることになる」との構成要件が無意味になるものではなく,被
控訴人の上記主張は理由がない。
ウ出願経過は原判決の解釈の根拠とならないこと
原判決は,構成要件F4の「該数量に基づく計算」が,専ら「Web-POSク
ライアント装置」において行われるとの解釈は,本件特許の出願手続における第2
手続補正により,「該数量に基づく計算」がWeb-POSサーバ・システムによ
り行われ,その結果がWeb-POSクライアント装置に通知される構成が本件特
許請求の範囲から除外されたと解されることからも裏付けられる旨判断した。
(ア)しかし,原判決による出願経過の理解は,誤りである。
第1手続補正がされる前は,「該数量に基づく計算」をWeb-POSクライア
ント装置において行うか,Web-POSサーバ・システムにおいて行うかは,本
件特許請求の範囲において規定されておらず,この点については何らの制約もな
かった。
そして,第1手続補正は,本件特許請求の範囲に「該オーダ内容に基づく計算が
上記Web-POSサーバ・システムにおいて行われる」との文言を付加すること
によって,当該計算をWeb-POSサーバ・システムにおいて行うことに限定し
ようとした。
ところが,第1手続補正が却下されたため,その後に行われた第2手続補正にお
いては,「ユーザが,該入力手段により数量を入力(選択)すると,該数量に基づ
く計算が行われる」との文言とすることにより,「該数量に基づく計算」がWeb
-POSサーバ・システムにおいて行うことに限定せず,Web-POSクライア
ント装置によって行われる場合と,Web-POSサーバ・システムによって行わ
れる場合の双方を含むものとしたのである。
(イ)第1手続補正は,特許法17条の2第3項に違反するとの理由で却下され
たが,当該却下は,発明の詳細な説明には,第2フレームに表示されている数量入
力フィールドに数量が入力されて初めて第3フレームに明細フォームが表示される
例が開示されているにもかかわらず,第1手続補正に係る請求項1,4では,かか
る入力なしに注文明細情報が表示されると規定されたことなどを理由とするもので
あり,本件明細書の発明の詳細な説明に「該数量に基づく計算」がWeb-POS
サーバ・システムによって行われる構成が記載されていない,との理由によるもの
ではない。
したがって,第1手続補正が却下された後に行われた第2手続補正は,「該数量
に基づく計算」がWeb-POSクライアント装置によって行われる場合に本件特
許発明を限定しようとするものではない。実際,第2手続補正は,「該数量に基づ
く計算」をWeb-POSクライアント装置で行うことを規定する文言を,一切追
加するものではない。
(ウ)また,控訴人が審判請求書において,構成要件F4に係る第2手続補正の
根拠として本件明細書の【0137】を挙げていることに照らせば,第2手続補正
は,「該数量に基づく計算」が「Web-POSサーバ・システム」によって行わ
れる構成を本件特許請求の範囲から除外しようとするものではなく,むしろ,当該
構成を本件特許請求の範囲に含めることを意図したものであることが明らかである。
エ被控訴人の主張アについて
(ア)被控訴人は,構成要件F1の「上記Webブラウザによる処理」との文言
は,構成要件Fの各処理がWeb-POSクライアント装置における処理であるこ
とを規定するものであると主張する。
しかし,構成要件F1において含まれるとされる「処理」とは,構成要件F2の
「1)カテゴリーの変更または入力(選択)に関する表示制御過程」,構成要件F
3の「2)商品識別情報の入力(選択)のための表示制御過程」及び構成要件F4
の「3)商品注文内容の表示制御過程」という,3つの「表示制御過程」にすぎず,
「該数量に基づく計算」などの表示制御ではない処理は含まれていない。すなわち,
Webブラウザとは,クライアント装置(を操作するユーザ)とサーバとの間で情
報を仲介するプログラム(ソフトウエア)であり,当該仲介のために,サーバから
供給されたHTMLリソースを処理して,ユーザが理解できるように表示し,また,
ユーザによる操作を受け付けて,当該操作に応じてサーバにHTMLリソースを要
求する,という機能を有するものである。しかるに,Webブラウザは,これらの
機能を超えて,計算等の処理を行うものではない。そうすると,「該数量に基づく
計算」は,Webブラウザの機能によるものではないから,原則としてWeb-P
OSクライアント装置において行われるべきものとはいえない。
(イ)被控訴人は,構成要件F(F1~F4)において,Web-POSサーバ・
システムにおける処理については,そのことが必ず規定される旨主張する。
aしかし,構成要件F4は,注文明細情報をWeb-POSクライアント装置
の表示装置に表示する処理を含んでいるところ,当該注文明細情報は,Web-P
OSサーバ・システムから供給される。これは,本件明細書の【0021】に「注
文商品明細を表示する部分の表示過程に対応するプログラムを含むHTMLリソー
スがWebサーバ装置から供給される」と,【0022】に「Webサーバ装置は,
…商品発注明細フォームを供給」と,各記載されているとおりである。すなわち,
上記記載によれば,商品の注文明細情報は,Web-POSクライアント装置から
Web-POSサーバ・システムに問い合わされ,Web-POSサーバ・システ
ムから注文明細情報を含むHTMLリソースが供給され,これをWeb-POSク
ライアント装置が取得していることは明らかである。しかるに,本件特許請求の範
囲の記載では,Web-POSサーバ・システムに注文明細情報(を含むHTML
リソース)が要求されることや,注文明細情報(を含むHTMLリソース)がWe
b-POSサーバ・システムから発信されることは,明示的には規定されていない。
このように,本件特許発明の構成要件F(F1~F4)においては,Web-P
OSサーバ・システムにおいて処理が行われる場合でも,常にその旨が明記されて
いるわけではない。これは,あえて規定しなくともWeb-POSサーバ・システ
ムが関与することが明らかな処理の場合や,Web-POSサーバ・システムとW
eb-POSクライアント装置のいずれで処理しても本件特許発明の制御方法の実
施に影響がない場合には,あえてその旨を明記する必要がないからである。
bむしろ,構成要件F(F1~F4)全体の記載に照らせば,「該数量に基づ
く計算」は,Web-POSサーバ・システムで行われると解する方がより自然で
ある。
すなわち,構成要件F2には「ユーザが,…カテゴリーを変更または入力(選択)
するごとに,…対応する商品基礎情報を含むHTMLリソースを要求するHTTP
メッセージが上記Web-POSサーバ・システムに送信され」との記載があり,
構成要件F3には「ユーザが,…商品識別情報を入力(選択)するごとに,…対応
する商品基礎情報が上記Web-POSサーバ・システムに問い合わされて取得さ
れ」との記載がある。これらの記載から,ユーザが入力や選択といった操作を行う
ごとに,Web-POSクライアント装置からWeb-POSサーバ・システムに,
問合せ(HTMLリソースを要求するHTTPメッセージの送信)が行われると理
解できる。
そして,構成要件F4においても,「ユーザが…数量を入力(選択)する」との
過程が含まれているから,前述した構成要件F2及びF3の記載に照らせば,当業
者は,ユーザによる当該数量の「入力(選択)」に応じて,Web-POSクライ
アント装置からWeb-POSサーバ・システムに何らかの問合せが行われるもの
と理解する。この問合せの際に,ユーザが「入力(選択)」した数量をWeb-P
OSクライアント装置からWeb-POSサーバ・システムに送信し,当該数量を
受け取ったWeb-POSサーバ・システムにおいて,「該数量に基づく計算」が
行われる構成は,特許請求の範囲の記載に照らしても,当然に含まれていると解す
ることが,当業者の理解としては自然である。
(ウ)したがって,被控訴人の主張は,いずれも理由がない。
オ小括
以上のとおり,原判決による構成要件F4の解釈及び被告方法が構成要件F4を
文言上充足しないとした判断は,いずれも誤りである。
構成要件F4は,その文言上,「該数量に基づく計算」がWeb-POSクライ
アント装置において行われる場合と,Web-POSサーバ・システムにおいて行
われる場合の双方を含んでいる。したがって,被告方法は構成要件F4を文言上充
足する。
〔被控訴人の主張〕
ア構成要件F4の解釈
(ア)本件特許発明の構成要件Fは,構成要件F1において「上記Webブラウ
ザによる処理が,少なくとも」と規定され,これに引き続いて,構成要件F2から
F4において,「1)カテゴリーの変更又は入力(選択)に関する表示制御過程」
(構成要件F2),「2)商品識別情報の入力(選択)のための表示制御過程」(構
成要件F3),「3)商品注文内容の表示制御過程」(構成要件F4)と規定され,
最後に「を含み」と規定されているように,構成要件F2ないしF4では,構成要
件F1で定義された「上記Webブラウザによる処理」,すなわち,Web-PO
Sサーバ・システムではなく,Web-POSクライアント装置における処理を前
提とするものである。
このことは,構成要件Fにおいて,Web-POSクライアント装置ではなく,
Web-POSサーバ・システムにおいて何らかの処理が行われる場合には,その
都度,Web-POSクライアント装置からWeb-POSサーバ・システムに何
らかの情報(HTTPメッセージ(構成要件F2),商品基礎情報(構成要件F3),
計算結果の注文情報(構成要件F4))が送信されることが規定されていることか
らも,裏付けられる。
そして,構成要件F4において,「ユーザが,該入力手段によりオーダ操作(オー
ダ・ボタンをクリック)を行うと,該商品の注文明細情報に対する該数量入力(選
択)に基づく計算結果の注文情報が該Web-POSサーバ・システムにおいて取
得(受信)される」と規定されているとおり,Web-POSサーバ・システムに
おいて取得されるのは「数量入力(選択)に基づく計算結果の注文情報」であり,
Web-POSサーバ・システムに当該情報を送信する前提として計算が行われて
いるのであるから,当該計算を行う主体(構成要件F4の「該数量に基づく計算が
行われる」主体)は,Web-POSクライアント装置となる(その結果としての
注文情報がWeb-POSサーバ・システムで取得される。)。
(イ)控訴人の主張アについて
控訴人は,本件明細書の【0137】の記載を根拠に,「該数量に基づく計算」
がWeb-POSサーバ・システムとWeb-POSクライアント装置の双方で行
われることが,本件特許発明の技術的範囲に含まれる旨主張するが,前記(ア)にお
いて述べた特許請求の範囲の記載を無視した主張であって,失当である。
イ原判決のクレーム解釈に誤りがないことについて
(ア)控訴人の主張イ(ア)について
a控訴人は,構成要件F2ないしF4において,Web-POSサーバ・シス
テムの処理が規定されているのは,同システムにおいて何らかの処理が行われるこ
とを明示するためではない旨主張する。
しかし,本件特許発明において,Web-POSサーバ・システムが,受信した
HTTPメッセージに基づきHTMLリソースを生成すること,受信した商品識別
情報に対応する商品基礎情報を抽出する処理を行うこと,注文情報を受けて売上管
理等の処理を行うことは,いずれも当然に予定されているところである。
そうすると,構成要件F2において,Web-POSクライアント装置からWe
b-POSサーバ・システムにHTTPメッセージを送信することが規定されてい
るのは,当該受信したWeb-POSサーバ・システムにおいてHTMLリソース
を生成する処理が行われることを,構成要件F3において,Web-POSクライ
アント装置からWeb-POSサーバ・システムに商品識別情報を送信して問合せ
を行うことが規定されているのは,当該受信したWeb-POSサーバ・システム
において商品基礎情報に対応する商品識別情報を抽出する処理が行われることを,
構成要件F4において,Web-POSサーバ・システムにおいて計算結果の注文
情報をWeb-POSクライアント装置から取得(受信)することが規定されてい
るのは,当該注文情報を受信したWeb-POSサーバ・システムにおいて売上管
理等の処理が行われることを,いずれも明示したものであることは明らかである。
b控訴人は,「該数量に基づく計算」については,Web-POSサーバ・シ
ステムでの処理かWeb-POSクライアント装置での処理かは一義的に定まらず,
いずれの構成をも含めるために計算が行われる場所を明示しなかったものであると
主張する。
しかし,構成要件Fは,Webブラウザによる処理,すなわち,Web-POS
サーバ・システムではなく,Web-POSクライアント装置における処理を規定
したものであり,Web-POSサーバ・システムにおける処理についてはその旨
を明記したものであるから,処理を実行する主体が明記されていない旨の控訴人の
主張は誤りである。
(イ)控訴人の主張イ(イ)について
構成要件Fの各処理がWebブラウザ(Web-POSクライアント装置)にお
ける処理であることを前提として,構成要件F2に規定の一部の処理において,重
複してWebブラウザで行われることが規定されていたとしても,当該処理がWe
bブラウザでされる点に変わりはなく,また,当該構成要件が不明確となるもので
はない。
むしろ,控訴人の主張するように,構成要件Fの各処理がWeb-POSサーバ・
システムとWeb-POSクライアント装置の双方で行われる場合を包含するとす
れば,構成要件F1において,「上記Webブラウザによる処理が,少なくとも」
との前置きを置いた(すなわち,Web-POSクライアント装置での処理を前提
とした)ことと相反するものであり,不合理な解釈であることは明白である。
(ウ)控訴人の主張イ(ウ)について
前記アのとおり,構成要件FはWeb-POSクライアント装置における処理を
規定したものであることは明らかであり,控訴人の主張は,特許請求の範囲の記載
に基づかない主張であり失当である。
(エ)控訴人の主張イ(エ)について
構成要件F4の「該数量に基づく計算」が,Web-POSサーバ・システムで
行われるものと解釈した場合,「該数量に基づく計算」がされた結果の情報は,W
eb-POSサーバ・システムで生成され取得されることになる。上記解釈を前提
とすると,該入力手段によりオーダ操作がされた時点で,計算結果の注文情報がW
eb-POSクライアント装置からWeb-POSサーバ・システムに送られるこ
ととなり,Web-POSサーバ・システムにおいて計算結果の情報を繰り返し取
得するということとなる。かかる帰結は不合理であって,むしろ構成要件F4にお
ける「該数量に基づく計算」が,Web-POSクライアント装置で行われる(そ
の後,Web-POSサーバ・システムに計算結果の情報が送られる)との解釈が
合理的であることは,上記の点からも明らかである。これに対し,控訴人は,構成
要件F4の「計算結果の注文情報」は計算結果そのものではなく「計算結果に対応
した注文情報」を意味すると主張するが,「対応した注文情報」と解釈されるべき
合理的理由はなく,明らかに失当である。
ウ出願経過の参酌について
(ア)控訴人の主張ウ(ア)及び(イ)について
出願経過の点で問題となっているのは,「該数量に基づく計算」がWeb-PO
Sサーバ・システムで行われるとの限定を付すことが新規事項に該当するかどうか
ではなく,出願人が第1手続補正及び第2手続補正により限定しようとした内容で
ある(そもそも,当該構成は本件明細書の【0137】に記載されており,新規事
項の追加に当たるものではない。)。
そして,出願当初のクレームでは「該数量に基づく計算」を行う主体が特定され
ておらず,第1手続補正では,Web-POSサーバ・システムが「該数量に基づ
く計算」を行うという限定を付したにもかかわらず,第2手続補正では,第1手続
補正とは逆に,Web-POSクライアント装置が「該数量に基づく計算」を行う
という限定を付したものである。そして,原判決は,かかる出願経緯に鑑みて,第
1手続補正において限定されていた,Web-POSサーバ・システムで「該数量
に基づく計算」を行う構成は除外されたと判示したのであって,控訴人の主張は失
当である。
(イ)控訴人の主張ウ(ウ)について
審判請求書における補正の根拠の記載は,審査の便宜上記載されるものであって,
審判官により客観的に認定されたものではないし,記載に誤り・過不足があったと
しても拒絶理由を構成するものではない。そして,第2手続補正により特許請求の
範囲の文言から何が除外されたかは,補正前後の特許請求の範囲の記載に基づき定
められるべきものであり,審判請求書の記載を根拠とすべき理由はない。
したがって,控訴人の主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものではなく,失
当である。
エ小括
以上のとおり,本件特許発明の構成要件F4の「該数量に基づく計算」の主体は,
Web-POSサーバ・システムではなく,Web-POSクライアント装置であ
ることは明らかである。そして,被告方法においては,ユーザ端末の表示画面上で
商品の「数量」を入力して「カートに追加」がクリックされると,数量の情報がW
ebサーバに送られて金額の計算が行われ,当該ユーザ端末において金額の計算が
行われることはないから,被告方法は構成要件F4を充足しないことは明らかであ
る。
(2)争点3(被告方法が本件特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属す
るか)について
〔控訴人の主張〕
ア原判決は,控訴人は,本件出願手続において,被告方法のような「該数量に
基づく計算」が「Web-POSサーバ・システム」により行われ,その結果が「W
eb-POSクライアント装置」に通知される構成について,これを明確に認識し
ながら,あえて本件特許請求の範囲から除外したものと外形的に評価し得る行動を
とったものというべきである旨判示するとともに,第2手続補正により本件請求項
1記載の発明は「該数量に基づく計算」が「Web-POSクライアント装置」に
より行われるものに限定されたと解される以上,第2手続補正のうち,構成要件F
4に関する部分についての補正の目的が,サポート要件(特許法36条6項1号)
違反の拒絶理由の解消を目的としたものであるとしても,被告方法のような構成を
あえて本件特許請求の範囲から除外したものと外形的に評価し得る行動をとったと
の上記認定判断が左右されるものではない旨判示して,被告方法は,均等の第5要
件を充足しないとした。
イ均等の第5要件の解釈-本件出願経過における手続補正について
(ア)しかし,均等の第5要件を判断するに当たっては,手続補正の目的や出願
人の認識などの事情を考慮して,当該手続補正によって被疑侵害物件が特許請求の
範囲から「意識的」に除外されたか否か,又は,外形的にそのように解される行動
と評価できるか否かを検討して,均等侵害の成立を認めることが禁反言の法理に照
らして許されないとまでいうことができる特段の事情が認められるか否かを判断す
ることが必要である。
(イ)本件出願経過においては,平成23年8月11日付け拒絶理由通知を受け
て,控訴人は,同年10月9日付け手続補正書(第1手続補正)を提出したが,平
成24年4月16日付け補正の却下の決定を受けるとともに,同日付け拒絶査定を
受けた。そこで,控訴人は,同年7月22日付け手続補正書(第2手続補正)によ
り,本件特許請求の範囲を,設定登録時の内容である本件請求項1に補正するとと
もに,審判請求書を提出した。
しかるに,上記拒絶査定の理由は,特許法36条6項1号違反及び同法29条2
項違反であるが,本件特許発明の構成要件F4の「該数量に基づく計算」がWeb
-POSサーバ・システムにおいて行われるか否かを問題とするものではないから,
第2手続補正は,拒絶理由を解消するために,「該数量に基づく計算」がWeb-
POSクライアント装置において行われるとの構成を付加したものではない。そも
そも控訴人は,第2手続補正によって,「該数量に基づく計算」がWeb-POS
クライアント装置において行われるとの構成が付加されたとの原判決の認定を争う
ものであるが,この点を措いても,拒絶理由の解消と当該構成の付加は,全く関係
がないから,結果として,第2手続補正によって当該構成が付加されたとしても,
当該構成を有さない(すなわち,「該数量に基づく計算」がWeb-POSサーバ・
システムで行われる)Web-POSネットワーク・システムの制御方法が,本件
特許請求の範囲から意識的に除外されたということはできない。
(ウ)また,第1手続補正は,特許法17条の2第3項に違反するとの理由によ
り却下されたが,前記(1)〔控訴人の主張〕ウ(イ)のとおり,当該却下は,発明の詳
細な説明には,第2フレームに表示されている数量入力フィールドに数量が入力さ
れて初めて第3フレームに明細フォームが表示される例が開示されているにもかか
わらず,第1手続補正に係る請求項1及び4では,かかる入力なしに注文明細情報
が表示されると規定されたことなどを理由とするものであり,本件明細書の発明の
詳細な説明に「該数量に基づく計算」がWeb-POSサーバ・システムによって
行われる構成が記載されていない,との理由によるものではなく,本件特許発明の
構成要件F4の「該数量に基づく計算」がWeb-POSサーバ・システムにおい
て行われるか否かとは全く関係がない。したがって,第2手続補正の目的も,「該
数量に基づく計算」がWeb-POSクライアント装置によって行われる場合に本
件特許発明を限定しようとするものではない。
(エ)以上のとおりであるから,第2手続補正によって,「該数量に基づく計算」
をWeb-POSサーバ・システムにおいて行う構成が,本件特許請求の範囲から
「意識的に除外」されたと外形的に評価することはできない。したがって,均等の
第5要件の根拠である禁反言の法理において考慮される,第三者の期待の保護と特
許権者の利益の比較衡量に関して,特許権者の利益を犠牲にして保護すべきとする
ほどの第三者の期待が生じていたとはいえない。
ウ本件特許発明の目的及び効果に照らしても,意識的除外が認められないこと
本件特許発明の課題は,「専用のPOS通信機能/POS専用線を必要とせず,
取扱商品の自由な変更が可能なPOSシステムを実現すること」であり,この課題
を解決するため,本件特許発明は,「従来の専用回線を用いた専用端末型POSシ
ステムの欠点を排除し,汎用のパソコン及びインターネットを用いて端末でのPO
S処理を殆ど無くし,端末側の入力情報に基づきサーバ側ですべてのPOS処理を
受け持つことにより,非常に安価で簡便なPOSシステムを構築する」ものであり,
具体的には,本件請求項1の構成を採用することにより,上記課題を解決するもの
である。そして,上記構成により,①カテゴリーの変更又は入力(選択)に関する
表示,②識別情報の入力(選択)のための表示,③商品注文内容の表示,という各
ステップを経た上で,注文情報をWeb-POSサーバ・システムにおいて取得し,
これに基づく売上管理を実現するものである。以上から明らかなように,「該数量
に基づく計算」が,Web-POSサーバ・システムで行われるか,Web-PO
Sクライアント装置で行われるかという問題と,本件特許発明の目的及びこれを実
現する構成とは関係がない。
したがって,第2手続補正によって,「該数量に基づく計算」をWeb-POS
クライアント装置で行うという構成が付加されたとの解釈が仮に維持されるとして
も,かかる構成が本件特許発明の目的及びこれを実現する構成とは関係がない以上,
第2手続補正について,「該数量に基づく計算」がWeb-POSサーバ・システ
ムで行われる構成を,「出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなど,特許
権者の側においていったん特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか,又
は外形的にそのように解されるような行動をとった」と評価することはできない。
エ小括
以上のとおり,第2手続補正に関し,「該数量に基づく計算」がWeb-POS
サーバ・システムにおいて行われる構成について,出願人がこれを明確に認識しな
がら,あえて本件特許請求の範囲から除外したものと外形的に評価し得る,とした
原判決の判断は誤りである。
〔被控訴人の主張〕
ア均等の第5要件の解釈
(ア)均等の第5要件において検討すべきは,被疑侵害製品(方法)に係る構成
を特許請求の範囲から意識的に除外したと認められる事実があるかどうかであって,
手続補正の目的いかんは関係がない。出願経過において被疑侵害製品(方法)に係
る構成を特許請求の範囲から意識的に除外したと認められる事実があったにもかか
わらず,後に当該構成について特許権侵害を主張することは禁反言の法理に照らし
許されない。この点は,出願経過における手続補正が拒絶理由を回避するためにさ
れたかどうかとは無関係である。
(イ)本件特許の出願人は,出願当初の特許請求の範囲の記載においては,「該
数量に基づく計算」の主体を限定しておらず,第1手続補正において「該数量に基
づく計算」をWeb-POSサーバ・システムで行う構成(被告方法の構成)を特
許請求の範囲に含めていたにもかかわらず,その後の第2手続補正において,「該
数量に基づく計算」をWeb-POSクライアント装置で行う本件特許発明に変更
したのである。
このように,本件特許の出願人は,「該数量に基づく計算」をWeb-POSサー
バ・システムで行う構成を認識した上で第1手続補正を行い,その後の第2手続補
正において,当該構成を特許請求の範囲に含めずに,「該数量に基づく計算」をW
eb-POSクライアント装置で行う旨の限定を付したのであり,しかも,本件明
細書には「該数量に基づく計算」をWeb-POSサーバ・システム及びWeb-
POSクライアント装置のいずれでも行うことができる旨の記載があったにもかか
わらず,これをWeb-POSクライアント装置で行うとの限定を付したのであり,
かかる出願経過に鑑みれば,「該数量に基づく計算」をWeb-POSサーバ・シ
ステムで行う構成を特許請求の範囲から意識的に除外したことは明らかである。
(ウ)さらに,本件明細書において,「該数量に基づく計算」を行う主体が,W
eb-POSサーバ・システムとWeb-POSクライアント装置のいずれでも良
い旨記載されているところ(【0137】),第2手続補正において,これをWe
b-POSクライアント装置で行う本件特許発明の構成に限定したのである。この
ように,本件明細書に被告方法に相当する他の構成が開示されており,当該構成を
含めることが容易であったにもかかわらず,あえて特許請求の範囲に含めなかった
のであるから,後になって当該含めなかった構成について権利侵害を主張すること
は,禁反言に照らし許されない。
イ本件出願経過の目的等は意識的除外の認定とは無関係であること
(ア)控訴人の主張イ(イ)について
均等の第5要件の適用に当たっては,ある構成が特許請求の範囲から意識的に除
外されたと認められる事情があるか否かが問題とされるべきである。
前記アのとおり,「該数量に基づく計算」をWeb-POSサーバ・システムで
行う構成が,本件明細書に開示があり,しかも第1手続補正で特許請求の範囲に含
められていたにもかかわらず,第2手続補正では,(Web-POSサーバ・シス
テムではなく)Web-POSクライアント装置で行う構成に限定されたのである
から,手続補正の目的を考慮するまでもなく,「該数量に基づく計算」をWeb-
POSサーバ・システムで行う構成が意識的に除外されたことは明らかである。
(イ)控訴人の主張イ(ウ)について
前記のとおり,「該数量に基づく計算」を特許請求の範囲から意識的に除外され
たと認められる事情が明確に存在する以上,第1手続補正が却下された理由を考慮
するまでもなく,均等の第5要件が認められないことは明らかである。
(ウ)控訴人の主張イ(エ)について
手続補正は出願人の責任によって行われるべきところ,「該数量に基づく計算」
をWeb-POSサーバ・システムで行う構成を除外する意図がなかったのであれ
ば,第2手続補正においても,第1手続補正で付したのと同様の限定を残せば良かっ
たのであり,それにもかかわらず,あえて当該限定を外して「該数量に基づく計算」
をWeb-POSクライアント装置で行う構成に限定したのである。
そして,当該出願経過を見た第三者としては,本件特許発明において「該数量に
基づく計算」がWeb-POSサーバ・システムではなくWeb-POSクライア
ント装置で行われるものであると期待し,これを前提として本件特許発明を回避す
るようにシステムを構成するものである。特許請求の範囲から除外された構成につ
き,後になって均等侵害であると主張されるのであれば,当該第三者にとって不測
の不利益を被ることは明らかである。
ウ本件特許発明の目的及び効果は,意識的除外の認定とは無関係であること
控訴人が挙げる本件特許発明の特徴は,出願前に広く知られた周知技術にすぎな
い。また,前記のとおり,「該数量に基づく計算」を特許請求の範囲から意識的に
除外されたと認められる事情が明確に存在する以上,本件特許発明の目的や効果が
どうであろうと,均等の第5要件が認められないことは明らかである。
したがって,控訴人の主張ウは理由がない。
エ小括
以上のとおり,本件出願経過に鑑みれば,本件特許発明の構成要件F4の「該数
量に基づく計算」がWeb-POSサーバ・システムで行われる構成を認識しつつ,
それを意識的に除外したことは明らかであるから,被告方法は,均等の第5要件を
充足しない。
第4当裁判所の判断
当裁判所も,被告方法は,本件特許発明の文言侵害にも均等侵害にも当たらず,
その技術的範囲に属するということはできないから,控訴人の請求は棄却すべきも
のと判断する。
その理由は,以下のとおりである。
1争点2(被告方法が文言上,本件特許発明の技術的範囲に属するか)につい

事案に鑑み,まず,構成要件F4の充足性について検討する。
(1)本件特許発明について
本件請求項1の記載によれば,本件特許発明は,「Webサーバ・クライアント・
システム」(構成要件A)において実現される「Web-POSネットワーク・シ
ステムの制御方法」(構成要件I)に関する発明である。そして,「Web-PO
Sサーバ・システム」が備えるべき構成を構成要件Cにおいて規定し,「Web-
POSクライアント装置」が備えるべき構成を構成要件Dにおいて規定した上で,
「Web-POSサーバ・システム」と「Web-POSクライアント装置」との
基本的な関係について,「Web-POSクライアント装置」が備える「Webブ
ラウザ」から「Web-POSサーバ・システム」にアクセスすると,「Web-
POSサーバ・システム」から「Web-POSクライアント装置」に対し,当該
装置において商品の選択や発注に係るユーザ操作を受け付ける「HTMLリソース」
が提供されること,当該ユーザ操作に基づく商品の売上情報が「Web-POSサー
バ・システム」において管理されることを構成要件Eにおいて規定している。さら
に,「Web-POSクライアント装置」が備える「Webブラウザ」による処理
が,少なくとも(構成要件F1),「1)カテゴリーの変更または入力(選択)に
関する表示制御過程」(構成要件F2),「2)商品識別情報の入力(選択)のた
めの表示制御過程」(構成要件F3)及び「3)商品注文内容の表示制御過程」(構
成要件F4)を含むべきことを,構成要件Fにおいて規定していることが認められ
る。
これらのうち,「Web-POSクライアント装置」が備える「Webブラウザ」
による処理は,以下のとおりである。
まず,「カテゴリーの変更または入力(選択)に関する表示制御過程」について
は,①「Web-POSサーバ・システム」から「Web-POSクライアント装
置」に取扱商品に関する基礎情報に含まれたカテゴリーに対応する「カテゴリーリ
スト」を含む「HTMLリソース」が供給され,「Web-POSクライアント装
置」の「表示装置」に「カテゴリーリスト」が表示されること,②ユーザが,「W
eb-POSクライアント装置」の「入力手段」により,表示された上記①の「カ
テゴリーリスト」からカテゴリーを変更又は入力(選択)するごとに,「Web-
POSクライアント装置」が「Web-POSサーバ・システム」に変更又は入力
(選択)されたカテゴリーに対応する商品基礎情報を含む「HTMLリソース」を
要求する「HTTPメッセージ」を送信すること,③「Web-POSサーバ・シ
ステム」が上記②で受信した「HTTPメッセージ」に基づき,変更又は入力(選
択)されたカテゴリーに対応する商品基礎情報を抽出して,「Web-POSクラ
イアント装置」に同情報を含む「HTMLリソース」を送信し,「Web-POS
クライアント装置」の「表示装置」に変更又は入力(選択)されたカテゴリーに対
応する商品基礎情報からなる商品リストが表示されることが,それぞれ規定されて
いるものと認められる(以上につき,構成要件F2)。
次に,「商品識別情報の入力(選択)のための表示制御過程」においては,④ユー
ザが「Web-POSクライアント装置」の「入力手段」により,上記③のとおり
表示された商品リストにつき商品識別情報を入力(選択)するごとに,「Web-
POSクライアント装置」が「Web-POSサーバ・システム」に同商品識別情
報に対応する商品基礎情報を問い合わせ,これを取得すること,⑤ユーザが,取得
した商品基礎情報に基づく商品の情報を,「Web-POSクライアント装置」の
「表示装置」に表示させることが,それぞれ規定されているものと認められる(以
上につき,構成要件F3)。
さらに,「商品注文内容の表示制御過程」については,⑥上記⑤のとおり表示さ
れた商品の情報について,「ユーザが,該入力手段により数量を入力(選択)する
と,該数量に基づく計算が行われると共に,前記入力(選択)された商品識別情報
と該商品識別情報に対応して取得された上記商品基礎情報に基づく商品の注文明細
情報が該入力手段を有する表示装置に表示されると共に,ユーザが,該入力手段に
よりオーダ操作(オーダ・ボタンをクリック)を行うと,該商品の注文明細情報に
対する該数量入力(選択)に基づく計算結果の注文情報が該Web-POSサーバ・
システムにおいて取得(受信)される」ことが規定されているものと認められる(以
上につき,構成要件F4)。
(2)構成要件Fについて
ア前記(1)のとおり,本件特許発明において,構成要件F1には「上記Webブ
ラウザによる処理が,少なくとも,」と記載され,同記載に続いて,構成要件F2
には「1)カテゴリーの変更または入力(選択)に関する表示制御過程」,構成要
件F3には「2)商品識別情報の入力(選択)のための表示制御過程」,構成要件
F4には「3)ユーザが所望する商品の注文のための表示制御過程,を含み,」と,
それぞれ記載されている。
そして,構成要件F1の「上記Webブラウザ」とは,構成要件Dの「Webブ
ラウザ」を指し,「Web-POSクライアント装置」は,「Webブラウザ」を
備えていることから(構成要件D),上記記載によれば,構成要件F1では,「W
eb-POSクライアント装置」が備える「Webブラウザ」による「処理」が,
少なくとも,構成要件F2に記載された「1)カテゴリーの変更または入力(選択)
に関する表示制御過程」,構成要件F3に記載された「2)商品識別情報の入力(選
択)のための表示制御過程」及び構成要件F4に記載された「3)ユーザが所望す
る商品の注文のための表示制御過程」を含むことが規定されているということがで
きる。
イこの点,構成要件F2ないしF4は,原則として「Web-POSクライア
ント装置」が行う処理が記載されているが,中には,「Web-POSサーバ・シ
ステム」が行う処理も記載されている。
(ア)構成要件F2によれば,「該Web-POSサーバ・システムの商品(P
LU)マスタDBにおいて管理されている取扱商品に関する基礎情報に含まれたカ
テゴリーに対応するカテゴリーリストを含むHTMLリソース」及び「該要求のH
TTPメッセージに基づき,該Web-POSサーバ・システムの商品(PLU)
マスタDBにおいて管理されている取扱商品に関する基礎情報から該変更または入
力(選択)されたカテゴリーに対応する商品基礎情報が抽出され,該抽出された商
品基礎情報を含むHTMLリソース」は,いずれも,「Web-POSサーバ・シ
ステム」において「生成」され,上記各「HTMLリソース」が,「Web-PO
Sクライアント装置」に「供給」ないし「送信」される(構成要件C参照)。
そして,上記各「HTMLリソース」は,「Web-POSクライアント装置」
が備える「Webブラウザ」で「処理」されることにより,「カテゴリーリスト」
及び「カテゴリーに対応する商品基礎情報からなる商品リスト」を表示装置に表示
させる。
そうすると,構成要件F2において,「Webブラウザ」が行う「処理」は,「カ
テゴリーリストを含むHTMLリソース」及び「商品基礎情報を含むHTMLリソー
ス」に基づいて,表示装置に「カテゴリーリスト」及び「カテゴリーに対応する商
品基礎情報からなる商品リスト」を表示することであるということができる。
もっとも,構成要件F2において,「Web-POSサーバ・システム」による
上記各HTMLリソースの「生成」,「供給」ないし「送信」といった「処理」も
記載されている。これは,「Webブラウザ」で「処理」される上記各「HTML
リソース」が,「Web-POSサーバ・システム」において「生成」され,「供
給」ないし「送信」するという「処理」が行われることを前提とするものであるこ
とから,これを構成要件上明確にしたものであることが理解できる。
したがって,構成要件F1によって,「Web-POSクライアント装置」が備
える「Webブラウザ」による「処理」が行われるものとして規定されている構成
要件F2を全体としてみれば,構成要件F2の「カテゴリーの変更または入力(選
択)に関する表示制御過程」における「処理」は,「Web-POSクライアント
装置」が備える「Webブラウザ」による「カテゴリーリスト」及び「カテゴリー
に対応する商品基礎情報からなる商品リスト」を表示装置に表示させる「処理」が
規定されているのであって,「Web-POSサーバ・システム」による「処理」
が記載されているのは,「Webブラウザ」で「処理」される上記各「HTMLリ
ソース」について,「Web-POSサーバ・システム」における「処理」が行わ
れることを構成要件上明確にしたものということができる。
(イ)これに対して,構成要件F3においては,構成要件F2のように,「HT
MLリソース」が,「Web-POSサーバ・システム」において「生成」,「供
給」ないし「送信」されるなど,「Web-POSサーバ・システム」による具体
的な「処理」は何ら規定されておらず,構成要件F1の規定に基づき,「Web-
POSクライアント装置」が備える「Webブラウザ」を「処理」の主体として,
商品識別情報の入力(選択)のための表示制御過程が規定されている。
そして,構成要件F2によれば,「Web-POSサーバ・システム」において,
「商品基礎情報」を含む「HTMLリソース」が「生成」され,「Web-POS
クライアント装置」に「送信」されるから,「該入力(選択)された商品識別情報
に対応する商品基礎情報」は,「HTMLリソース」として,「Web-POSサー
バ・システム」から「送信」され,「Web-POSクライアント装置」が備える
「Webブラウザ」で「処理」されることにより,「商品の情報」を表示装置に表
示させる。
そうすると,構成要件F3において,「Webブラウザ」が行う「処理」は,「H
TMLリソース」に含まれる「該入力(選択)された商品識別情報に対応する商品
基礎情報」に基づいて,表示装置に「商品の情報」を表示することであり,構成要
件F3においては,「商品識別情報の入力(選択)のための表示制御過程」におけ
る「処理」が規定されているということができる。
もっとも,構成要件F3には,「該入力(選択)された商品識別情報に対応する
商品基礎情報」は,「Web-POSクライアント装置」が「Web-POSサー
バ・システム」に問い合わせて取得することが規定されている。「商品に関する基
礎情報」は,「Web-POSサーバ・システム」において「管理」されており(構
成要件C),これを「Web-POSクライアント装置」が「Web-POSサー
バ・システム」に問い合わせて取得することが規定されていることからすれば,構
成要件F3には,「Web-POSサーバ・システム」から上記「該入力(選択)
された商品識別情報に対応する商品基礎情報」を含む「HTMLリソース」が「W
eb-POSクライアント装置」に対して送信されることが記載されているという
ことができる。しかして,構成要件F3において,上記規定がされているのは,「W
ebブラウザ」で「処理」される上記「HTMLリソース」に含まれる「該入力(選
択)された商品識別情報に対応する商品基礎情報」が,「Web-POSサーバ・
システム」において「管理」され,「該入力(選択)された商品識別情報に対応す
る商品基礎情報」を含む「HTMLリソース」を「生成」,「送信」するという「処
理」が行われることを前提とするものであることから,これを構成要件上明確にし
たものであることが理解できる。
したがって,構成要件F1によって,「Web-POSクライアント装置」が備
える「Webブラウザ」による「処理」が行われるものとして規定されている構成
要件F3を全体としてみれば,構成要件F3の「商品識別情報の入力(選択)のた
めの表示制御過程」における「処理」は,「Web-POSクライアント装置」が
備える「Webブラウザ」による「商品の情報」を表示装置に表示させる「処理」
が規定されているのであって,「Web-POSサーバ・システム」による「処理」
が記載されているのは,「Webブラウザ」で「処理」される「該入力(選択)さ
れた商品識別情報に対応する商品基礎情報」について,「Web-POSサーバ・
システム」における「処理」が行われることを構成要件上明確にしたものというこ
とができる。
(ウ)また,構成要件F4においては,構成要件F3と同様に,構成要件F2の
ように,「HTMLリソース」が,「Web-POSサーバ・システム」において
「生成」,「供給」ないし「送信」されるなど,「Web-POSサーバ・システ
ム」による具体的な「処理」は何ら規定されておらず,構成要件F1の規定に基づ
き,「Web-POSクライアント装置」が備える「Webブラウザ」を「処理」
の主体として,商品注文内容の表示制御過程が規定されている。
そして,「前記入力(選択)された商品識別情報と該商品識別情報に対応して取
得された上記商品基礎情報」は,「Web-POSクライアント装置」が備える「W
ebブラウザ」で「処理」されることにより,「商品の注文明細情報」を表示装置
に表示させるとともに,ユーザが,該入力手段によりオーダ操作(オーダ・ボタン
をクリック)を行うと,「該商品の注文明細情報に対する該数量入力(選択)に基
づく計算結果の注文情報」が「Web-POSサーバ・システム」に対して「送信」
されることになる(「Web-POSサーバ・システム」において「取得(受信)」
されることになる以上,「Web-POSクライアント装置」から送信されること
は,明らかである。)。
そうすると,構成要件F4において,「Webブラウザ」が行う「処理」は,少
なくとも,「前記入力(選択)された商品識別情報と該商品識別情報に対応して取
得された上記商品基礎情報」に基づいて,表示装置に「商品の注文明細情報」を表
示すること,及び「該商品の注文明細情報に対する該数量入力(選択)に基づく計
算結果の注文情報」を「Web-POSサーバ・システム」に対して「送信」する
ことであり,構成要件F4においては,「商品注文内容の表示制御過程」における
「処理」が規定されているということができる。
もっとも,構成要件F4には,「該商品の注文明細情報に対する該数量入力(選
択)に基づく計算結果の注文情報が該Web-POSサーバ・システムにおいて取
得(受信)されることになる」と規定されている。しかし,当該規定は,上記のと
おり,「Webブラウザ」が,「該商品の注文明細情報に対する該数量入力(選択)
に基づく計算結果の注文情報」を「Web-POSサーバ・システム」に対して「送
信」する「処理」を行うことを前提とするものであり,「Web-POSサーバ・
システム」からみれば,上記「Webブラウザ」で「送信」する「処理」が行われ
た場合には,「該商品の注文明細情報に対する該数量入力(選択)に基づく計算結
果の注文情報」が「取得(受信)されることになる」と,受動的ないし仮定的に記
載されているにすぎないものと解するのが自然であって,「Web-POSサーバ・
システム」を「処理」の主体として規定しているということはできない。
したがって,構成要件F1によって,「Web-POSクライアント装置」が備
える「Webブラウザ」による「処理」が行われるものとして規定されている構成
要件F4を全体としてみれば,構成要件F4の「商品注文内容表示制御過程」にお
ける「処理」は,「Web-POSクライアント装置」が備える「Webブラウザ」
による,少なくとも,「商品基礎情報に基づく商品の注文明細情報」を表示装置に
表示させる「処理」及び「該商品の注文明細情報に対する該数量入力(選択)に基
づく計算結果の注文情報」を「Web-POSサーバ・システム」に対して「送信」
する「処理」が規定されているのであって,「Web-POSサーバ・システム」
による「処理」が記載されているということはできない。
(エ)以上のとおり,本件特許発明の構成要件F2ないしF4において,「We
b-POSサーバ・システム」が行うべき「処理」として,「HTMLリソース」
が,「Web-POSサーバ・システム」において「生成」,「供給」ないし「送
信」されることが記載され(構成要件F2),また,「該入力(選択)された商品
識別情報に対応する商品基礎情報」が,「Web-POSサーバ・システム」にお
いて「管理」され,「該入力(選択)された商品識別情報に対応する商品基礎情報」
を含む「HTMLリソース」を「生成」,「送信」する「処理」が記載されている
のは(構成要件F3),「Webブラウザ」で「処理」される上記「HTMLリソー
ス」が,「Web-POSサーバ・システム」における上記各「処理」が行われる
ことを前提とするものであることから,これを構成要件上明確にしたものである。
そして,前記アのとおり,構成要件F1では,「Web-POSクライアント装
置」が備える「Webブラウザ」による「処理」が,少なくとも,構成要件F2に
記載された「1)カテゴリーの変更または入力(選択)に関する表示制御過程」,
構成要件F3に記載された「2)商品識別情報の入力(選択)のための表示制御過
程」及び構成要件F4に記載された「3)ユーザが所望する商品の注文のための表
示制御過程」を含むことが規定されていること,構成要件F2ないしF4において,
上記各表示制御過程における「処理」は,いずれも「Web-POSクライアント
装置」が備える「Webブラウザ」による「処理」として規定され,「Web-P
OSサーバ・システム」が行うべき「処理」については,これを構成要件上明確に
記載していることに鑑みれば,構成要件F2ないしF4において,「Web-PO
Sサーバ・システム」による処理であることが明確に記載されているもののみが,
「Web-POSサーバ・システム」における「処理」であって,それ以外は,「W
eb-POSクライアント装置」が備える「Webブラウザ」,あるいは「Web
-POSクライアント装置」による「処理」のみが規定されていると解するのが相
当である。
ウ構成要件F4の「該数量に基づく計算」について
構成要件F4の「ユーザが所望する商品の注文のための表示制御過程」における
「該数量に基づく計算」を行う「処理」については,例えば,「Web-POSサー
バ・システム」に対して,「計算」した結果を含むHTMLリソースを要求するH
TTPメッセージが送信され,これに対して「Web-POSサーバ・システム」
がHTMLリソースを「生成」し,「供給」ないし「送信」することや,「Web
-POSサーバ・システム」に問合せがされて「Web-POSクライアント装置」
においてこれを取得することや,あるいは「Web-POSサーバ・システム」で
「計算」した結果が,「Web-POSクライアント装置」の「Webブラウザ」
において「処理」されることについては,特許請求の範囲には,何らの記載もない。
このように,構成要件F4において,表示制御過程における「処理」は,「We
b-POSクライアント装置」が備える「Webブラウザ」による処理として規定
され,「該数量に基づく計算」については,特許請求の範囲上,「Web-POS
サーバ・システム」による「処理」であることが明確に記載されていないから,構
成要件F4の「該数量に基づく計算」は,「Web-POSサーバ・システム」で
は行われず,「Webブラウザ」を備える「Web-POSクライアント装置」で
行われるものと解さざるを得ない。
(3)控訴人の主張について
ア控訴人は,構成要件F4は,その文言上,「該数量に基づく計算」について,
「Web-POSクライアント装置」において行われる場合と,「Web-POS
サーバ・システム」において行われる場合の双方を含んでいることは,本件明細書
の【0137】から裏付けられる旨主張する。
(ア)なるほど,本件明細書の【0137】には,「明細フォームの計算は必ず
しもWeb-POSクライアント装置側のみで行われる必要はなく,Web-PO
Sサーバ装置側で行われ,その結果がWeb-POSクライアント装置に通知され
るように構成されてもよい。」と記載されていることから,本件明細書の発明の詳
細な説明には,「該数量に基づく計算」が,「Web-POSクライアント装置」
で行われる場合と,「Web-POSサーバ・システム」で行われる場合の両者が
記載されているということができる。しかしながら,特許発明の技術的範囲は,特
許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないところ(特許法70条1項),
本件明細書には,実施例として,本件特許発明の「該数量に基づく計算」が,専ら,
「Web-POSクライアント装置」において行われ,「Web-POSクライア
ント装置」から「計算結果の注文情報が該Web-POSサーバ・システムにおい
て取得(受信)されることになる」ものしか開示されておらず(【0027】~【0
133】),本件明細書の【0137】の記載のみをもって,本件特許発明の「該
数量に基づく計算」が,「Web-POSクライアント装置」で行われる場合と,
「Web-POSサーバ・システム」で行われる場合の双方いずれをも含んでいる
と直ちにいうことはできない。そして,本件特許請求の範囲の記載から,構成要件
F4の「該数量に基づく計算」が,「Web-POSクライアント装置」で行われ
ることのみが記載されていると解さざるを得ないことは,前記(2)のとおりである。
(イ)仮に,「該数量に基づく計算」が「Web-POSサーバ・システム」で
行われるとするならば,その後に引き続くユーザのオーダ操作により,「該数量入
力(選択)に基づく計算結果の注文情報が該Web-POSサーバ・システムにお
いて取得(受信)される」こととなり,既に「Web-POSサーバ・システム」
において計算し取得している計算結果を,再度「Web-POSサーバ・システム」
が受け取ることとなり,不自然かつ不合理である。これに対し,「該数量に基づく
計算」は,「Web-POSクライアント装置」で行われ,その後,ユーザのオー
ダ操作により,「Web-POSサーバ・システム」に対して,計算結果を含む注
文情報が送られるというように,本件特許発明は,「Web-POSクライアント
装置」で「該数量に基づく計算」を行うことを前提としたシステムであると解する
のが自然かつ合理的である。
控訴人は,この点について,構成要件F4の「計算結果の注文情報」とは,計算
結果そのものではなく,「計算結果に対応した注文情報」を意味するものであって,
「該数量に基づく計算」が,「Web-POSクライアント装置」で行われる場合
には,「計算結果の注文情報」に計算結果が含まれるが,「Web-POSサーバ・
システム」で行われる場合には,「Web-POSクライアント装置」に通知され
た計算結果を再度「Web-POSサーバ・システム」に送る必要はないから,計
算結果自体は「Web-POSサーバ・システム」で保持される一方で,計算結果
を含まない注文情報(既に「Web-POSサーバ・システム」で行われた計算結
果に対応する注文内容で,注文を確定させる情報)が,オーダ操作によって「We
b-POSサーバ・システム」に送られることになる旨主張する。
しかし,本件明細書には,「計算結果の注文情報」が,「計算結果に対応した注
文情報」であることの記載はないし,「該数量に基づく計算」が,「Web-PO
Sクライアント装置」で行われる場合には,「計算結果の注文情報」には「計算結
果」が含まれ,これに対して,「Web-POSサーバ・システム」で行われる場
合には,「計算結果の注文情報」に「計算結果」が含まれないなどということも記
載がない。
また,本件請求項1に,「注文情報」について,「該PLU情報に基づく商品ご
との注文情報が,Webブラウザを介して,該Web-POSサーバ・システムに
おいてリアルタイムに取得される」(構成要件G),「上記Web-POSサーバ・
システムにおいて,上記Web-POSクライアント装置からリアルタイムで取得
(受信)した上記商品の注文情報を売上管理DBに反映する」(構成要件H),「上
記Web-POSクライアント装置におけるユーザによる商品の注文操作が,We
bブラウザを介するだけで,該商品ごとの注文情報として上記Web-POSサー
バ・システムにおいて取得され」(構成要件H)及び「該取得された商品ごとの注
文情報に基づく売上管理が実現される」(構成要件H)と記載されているように,
本件特許発明においては,「Web-POSクライアント装置」におけるユーザの
注文操作によって,「注文情報」が,「Web-POSサーバ・システム」でリア
ルタイムに取得され,商品ごとに売上管理DBに反映されて売上管理が実現される
ものである。
そうすると,「Web-POSサーバ・システム」において,商品ごとの売上管
理を実現するためには,構成要件F4に記載されている「Web-POSクライア
ント装置」から取得(受信)する「注文情報」は,商品ごとの商品名,単価,数量,
金額などの情報(商品の注文明細情報)を含むものでなければならないから,構成
要件F4において,「Web-POSクライアント装置」から「Web-POSサー
バ・システム」に送信される「計算結果の注文情報」は,「該数量に基づく計算」
の結果,すなわち,「計算結果」を含むものと解すべきであって,控訴人が主張す
るような,「計算結果」を含まない「計算結果に対応した注文情報」であると解す
ることはできない。
(ウ)なお,控訴人は,第1手続補正(乙15)において,特許請求の範囲の請
求項1について,「該オーダ内容に基づく計算」が「Web-POSサーバ・シス
テム」で行われることに限定するとともに,本件請求項1と同様に,「計算結果の
販売情報または注文情報が該Web-POSサーバ・システムにおいて取得(受信)
されることになる」との文言を付加した補正をした。控訴人は,このことを根拠に,
本件特許発明の構成要件F4は,「該数量に基づく計算」が「Web-POSクラ
イアント装置」で行われることに限定されるべきではない旨主張する。
しかしながら,第1手続補正は,平成24年4月16日付けで補正の却下の決定
がされている(乙16)。すなわち,「該オーダ内容に基づく計算」が「Web-
POSサーバ・システム」で行われる場合にも,「計算結果の販売情報または注文
情報が該Web-POSサーバ・システムにおいて取得(受信)されることになる」
との第1手続補正に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,却下されたものであ
るから,当該却下された請求項1の記載は,本件請求項1の「該数量に基づく計算」
が「Web-POSクライアント装置」で行われることに限定されるべきではない
ことの根拠となるものではない。その上,本件明細書には,実施例として,本件特
許発明の「該数量に基づく計算」が,専ら,「Web-POSクライアント装置」
において行われ,「Web-POSクライアント装置」から「計算結果の注文情報
が該Web-POSサーバ・システムにおいて取得(受信)されることになる」も
のしか開示されておらず(【0027】~【0133】),「該数量に基づく計算」
が「Web-POSサーバ・システム」で行われた場合において,「Web-PO
Sクライアント装置」から「計算結果の注文情報が該Web-POSサーバ・シス
テムにおいて取得(受信)されることになる」ことについては何らの記載もない。
したがって,第1手続補正における,特許請求の範囲の請求項1についての補正
の経緯は,本件特許発明の構成要件F4の「該数量に基づく計算」が「Web-P
OSクライアント装置」で行われることに限定されないことの根拠となるものでは
ない。
(エ)したがって,控訴人の前記主張は,採用することができない。
イ控訴人は,本件明細書の【0014】の記載によれば,本件特許発明は,「計
算」等の「処理」を可能な限り「Web-POSサーバ・システム」において行う
べきことを示しており,これに反して,原則として「計算」は「Web-POSク
ライアント装置」で行われるべきとする解釈は,本件特許発明の特徴を理解してお
らず,誤りであると主張する。
しかし,本件明細書の【0091】ないし【0098】,【0111】及び【0
112】には,明細フォームの更新の「処理」は,「Web-POSサーバ・シス
テム」から「Web-POSクライアント装置」にダウンロードされる「明細フォー
ム表示制御クライアントプログラム」に基づいて,「Web-POSクライアント
装置」で行われることが記載されている。したがって,たとえ,本件明細書の【0
014】に,「サーバ側ですべてのPOS処理を受け持つ」との記載があるとして
も,本件明細書中に記載された「計算」の「処理」について,「Web-POSサー
バ・システム」のみで行われるということはできない。
ウ控訴人は,構成要件F1において含まれるとされる「処理」とは,構成要件
F2の「1)カテゴリーの変更または入力(選択)に関する表示制御過程」,構成
要件F3の「2)商品識別情報の入力(選択)のための表示制御過程」及び構成要
件F4の「3)商品注文内容の表示制御過程」という,3つの「表示制御過程」に
すぎず,「該数量に基づく計算」などの表示制御ではない処理は含まれておらず,
そのため,「該数量に基づく計算」は,「Webブラウザ」の機能によるものでは
ないから,原則としてWeb-POSクライアント装置において行われるべきもの
とはいえない旨主張する。
そこで,検討するに,構成要件F4は,発明特定事項として,「前記入力(選択)
された商品識別情報と該商品識別情報に対応して取得された上記商品基礎情報に基
づく商品の注文明細情報が該入力手段を有する表示装置に表示される」ことを含ん
でいるところ,「商品の注文明細情報」は,「取得された上記商品基礎情報」に基
づくものである。
ところで,「商品の注文明細情報」を表示装置に表示するためには,少なくとも,
「単価」(例えば,本件明細書の【図14】における「item_price」,
【図21】における「単価」など。)及び「数量」が必要であるから,上記「取得
された上記商品基礎情報」には,「単価」が含まれることは明らかである。
そして,構成要件F3において,「商品基礎情報」は,既に「Web-POSク
ライアント装置」において,「Web-POSサーバ・システム」に問い合わせて
「取得」されているのであるから,構成要件F4における「該数量に基づく計算」
の「処理」は,「Web-POSクライアント装置」において既に「Web-PO
Sサーバ・システム」に問い合わせて「取得」されている「単価」と,「ユーザが,
該入力手段により数量を入力(選択)」した「数量」に基づいて行われるものであ
ることからすれば,「該数量に基づく計算」の「処理」は,「Web-POSクラ
イアント装置」において行われると解するのが自然である。
これに対して,「該数量に基づく計算」の「処理」が「Web-POSサーバ・
システム」において行われるとするならば,その後に引き続くユーザのオーダ操作
により,「該数量入力(選択)に基づく計算結果の注文情報が該Web-POSサー
バ・システムにおいて取得(受信)される」こととなり,既に「Web-POSサー
バ・システム」において計算し取得している計算結果を,再度「Web-POSサー
バ・システム」が受け取ることとなり,不自然かつ不合理であることは,前記ア(イ)
のとおりである。
したがって,控訴人の主張するように,「該数量に基づく計算」が,表示制御で
はない「処理」であったとしても,前記(2)のとおり,「該数量に基づく計算」の「処
理」は,「Web-POSサーバ・システム」では行われず,「Webブラウザ」
を備える「Web-POSクライアント装置」で行われるものと解さざるを得ない。
エ控訴人は,構成要件F4は,「商品の注文明細情報」を「Web-POSク
ライアント装置」の表示装置に表示する処理を含んでいるところ,本件明細書の【0
021】及び【0022】の記載によれば,当該「商品の注文明細情報」は,「W
eb-POSサーバ・システム」から供給されるものであって,Web-POSク
ライアント装置からWeb-POSサーバ・システムに問い合わされ,Web-P
OSサーバ・システムから注文明細情報を含むHTMLリソースが供給され,これ
をWeb-POSクライアント装置が取得していることは明らかであるから,構成
要件Fにおいて,「Web-POSサーバ・システム」で「処理」するとの明示的
な記載がなくとも,「Web-POSサーバ・システム」で「処理」が行われ得る
ものである旨主張する。
しかし,控訴人が上記主張において前提とする「商品の注文明細情報」が「We
b-POSサーバ・システム」から供給されること(「商品の注文明細情報」につ
いて,Web-POSクライアント装置からWeb-POSサーバ・システムに問
合せがされ,Web-POSサーバ・システムから注文明細情報を含むHTMLリ
ソースが供給され,これをWeb-POSクライアント装置が取得すること)につ
いては,構成要件F4には何ら規定されていないから,控訴人の上記主張は,特許
請求の範囲の記載に基づくものということはできず,採用することができない。
なお,本件明細書の【0021】の「注文商品明細を表示する部分の表示過程に
対応するプログラムを含むHTMLリソースがWebサーバ装置から提供される」
との記載は,「注文商品明細を表示する部分の表示過程に対応するプログラム」が
「Web-POSクライアント装置」に提供されることが記載されているだけで
あって,「注文商品明細」を提供するものではないから,本件特許発明において,
「商品の注文明細情報」が「Web-POSサーバ・システム」から供給されるこ
との根拠となるものではない。
また,本件明細書の【0022】の「クライアント装置において,該「商品情報
に対応したPLUリストを表示する部分」の商品情報に対しその識別情報を入力す
ると,Webサーバ装置は,「商品基礎情報と前記入力した商品識別情報とに基づ
いて出力される入力結果の注文商品明細を表示する部分の表示過程」として上記入
力結果の商品販売明細や商品発注明細フォームを供給し」との記載部分は,平成2
4年7月22日付けで,審判請求書とともに提出された手続補正書(乙18)によ
り補正(第2手続補正)されたものである。しかし,上記記載部分は,平成24年
4月16日付け補正の却下の決定(乙16)において,「発明の詳細な説明では,
第2フレームに表示されているPLUリスト中の所望の商品名を選択し,第2フ
レームに表示されている数量入力フィールドに数量を入力しないとPOS管理のた
めの明細フォームを第3フレーム上に取得できないにもかかわらず,請求項1,4
では,第2フレームに表示されている数量入力フィールドに数量を入力せずに,『商
品の注文明細情報が該入力手段を有する表示装置に表示される』という新たな技術
上の意義が追加されているから,当該補正は,新たな技術的事項を導入するもので
ある。」として,却下された手続補正書(乙15)の特許請求の範囲の請求項1の
「2)商品識別情報の入力(選択)に関する表示制御,すなわち,…該取得された
商品情報に対し商品識別情報を入力(選択)するごとに,該入力(選択)された商
品識別情報と該取得された商品基礎情報に基づく商品の注文明細情報が該Web-
POSサーバ・システムから供給され,該供給された商品の注文明細情報が該入力
手段を有する表示装置に表示される」との記載に相当する。したがって,第2手続
補正における【0022】の補正も,新たな技術的事項を導入するものであったと
いうことができ,控訴人の上記主張の根拠となるものではない。
オ控訴人は,構成要件F2には「ユーザが,…カテゴリーを変更または入力(選
択)するごとに,…対応する商品基礎情報を含むHTMLリソースを要求するHT
TPメッセージが上記Web-POSサーバ・システムに送信され」との記載が,
構成要件F3には「ユーザが,…商品識別情報を入力(選択)するごとに,…対応
する商品基礎情報が上記Web-POSサーバ・システムに問い合わされて取得さ
れ」との記載があるから,本件特許発明の構成要件F(F1ないしF4)は,ユー
ザが入力や選択といった操作を行うごとに,「Web-POSクライアント装置」
から「Web-POSサーバ・システム」に問合せ(HTMLリソースを要求する
HTTPメッセージの送信)が行われると理解できるところ,構成要件F4におい
ても,「ユーザが…数量を入力(選択)する」との過程が含まれているから,前述
した構成要件F2及びF3の記載に照らせば,当業者は,ユーザによる当該数量の
「入力(選択)」に応じて,Web-POSクライアント装置からWeb-POS
サーバ・システムに,何らかの問合せが行われるものと理解するものであり,かか
る構成要件F全体の記載に照らせば,構成要件F4の「該数量に基づく計算」は,
「Web-POSサーバ・システム」で行われると解する方がより自然である旨主
張する。
しかし,構成要件F2は,「カテゴリーの変更または入力(選択)に関する表示
制御過程」であって,ユーザが「カテゴリー」を入力(選択)するごとに,「We
b-POSクライアント装置」の表示装置では,「商品基礎情報からなる商品リス
ト」を変更しなければならないから,「商品基礎情報」を有する「Web-POS
サーバ・システム」に対して,「HTMLリソース」を要求する「HTTPメッセー
ジ」を「送信」する必然性が理解できる。同様に,構成要件F3は,「商品識別情
報の入力(選択)のための表示制御過程」であって,ユーザが「商品識別情報」を
入力(選択)するごとに,「Web-POSクライアント装置」の表示装置では,
「商品基礎情報に基づく商品の情報」を変更しなければならないから,「商品基礎
情報」を有する「Web-POSサーバ・システム」に対して,「HTMLリソー
ス」を要求する「HTTPメッセージ」を「送信」する必然性が理解できる。
これに対して,構成要件F4は,「商品注文内容の表示制御過程」であって,ユー
ザが数量を入力(選択)すると,「該数量に基づく計算が行われる」と記載されて
いるのであって,構成要件F2や構成要件F3のように,「Web-POSサーバ・
システム」が有する「商品基礎情報」について,「Web-POSクライアント装
置」から「Web-POSサーバ・システム」に対して,「HTTPメッセージ」
を送信することによって「HTMLリソース」を要求したり,問合せをしたりする
必然性はない。かえって,前記ウのとおり,構成要件F3において,「商品基礎情
報」は,既に「Web-POSクライアント装置」において,「Web-POSサー
バ・システム」に問い合わせて「取得」されているから,構成要件F4における「該
数量に基づく計算」の「処理」は,「Web-POSクライアント装置」において
既に「Web-POSサーバ・システム」に問い合わせて「取得」されている「単
価」と,「ユーザが,該入力手段により数量を入力(選択)」した「数量」に基づ
いて行われるものであることからすれば,「該数量に基づく計算」の「処理」は,
「Web-POSクライアント装置」において行われると解するのが自然である。
カよって,控訴人の前記主張は,いずれも採用することができない。
(4)被告方法について
前記のとおり,構成要件F4の「該数量に基づく計算」は,「Web-POSサー
バ・システム」ではなく,「Webブラウザ」を備える「Web-POSクライア
ント装置」で行われるものと解される。
そして,証拠(乙1)によれば,被告方法においては,「(ユーザ端末の)表示
画面上で,商品の「数量」を入力して「カートに追加」がクリックされると,数量
の情報がWebサーバに送られて金額の計算が行われ,計算結果が顧客のコン
ピュータに送られて表示され…ユーザ端末において,入力した数量に基づく金額の
計算が行われることはない」(原判決別紙被告システム説明書「4」参照)と認め
られる。
そうすると,仮に,被告システムにおける「ユーザ端末」が本件特許発明にいう
「Web-POSクライアント装置」に該当するとしても,構成要件F4にいう「該
数量に基づく計算」は,当該「ユーザ端末」において行われないのであるから,被
告方法は,少なくとも構成要件F4を充足しない。
(5)小括
以上によれば,その余の各構成要件の充足性につき検討するまでもなく,被告方
法が,文言上,本件特許発明の技術的範囲に属するということはできない。
2争点3(被告方法が本件特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属す
るか)について
(1)均等侵害の要件
特許請求の範囲に記載された構成中に,相手方が製造等をする製品又は用いる
方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても,①
同部分が特許発明の本質的部分ではなく,②同部分を対象製品等におけるものと
置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するも
のであって,③上記のように置き換えることに,当該発明の属する技術の分野に
おける通常の知識を有する者(当業者)が,対象製品等の製造等の時点において
容易に想到することができたものであり,④対象製品等が,特許発明の特許出願
時における公知技術と同一又は当業者がこれから当該出願時に容易に推考できた
ものではなく,かつ,⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求
の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,同
対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明
の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁判所平成6年(オ)第
1083号平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。
そして,特許発明の実質的価値は,特許請求の範囲に記載された構成からこれ
と実質的に同一なものとして当業者が容易に想到することのできる技術に及び,
第三者はこれを予期すべきものであるから,対象製品等が,特許発明とその本質
的部分,目的及び作用効果で同一であり,かつ,特許発明から当業者が容易に想
到することができるものである場合には,原則として,均等が成立する。しかし,
特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなど,特許
権者の側においていったん特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか,
又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて,特許権者が
後にこれと反する主張をすることは,禁反言の法理に照らし許されないから,こ
のような特段の事情がある場合には,例外的に,均等の成立が否定されることと
なる。
(2)本件出願手続における補正の経緯
本件出願手続における補正の経緯については,以下の事実が認められる。
ア控訴人は,平成22年7月11日,特願2010-43641号に係る出願
について,分割出願(本件出願)を行うとともに,平成23年4月4日,手続補正
書を提出して,特許請求の範囲を補正した。
上記手続補正の時点において,「計算」については,「Web-POSサーバ・
システム」で行われるのか,「Web-POSクライアント装置」で行われるのか
を含め,発明特定事項としては何ら規定されていなかった(甲2,30)。
イ控訴人は,平成23年8月11日付けで,特許庁から,特許法29条2項及
び36条6項1号違反を理由とする最後の拒絶理由通知を受けたことから,同年1
0月9日付け手続補正書を提出して,特許請求の範囲を補正するとともに(第1手
続補正),意見書を提出した。
この第1手続補正においては,特許請求の範囲の請求項1は,「ユーザが,該入
力手段により,オーダ内容(数量)を入力(選択)すると,該オーダ内容に基づく
計算が上記Web-POSサーバ・システムにおいて行われると共に,その結果が
上記Web-POSクライアント装置に通知され,また,ユーザが,該入力装置に
より,オーダ操作(オーダ・ボタンをクリック)を行うと,該商品の注文明細情報
に対する該オーダ内容に基づく計算結果の販売情報または注文情報が該Web-P
OSサーバ・システムにおいて取得(受信)されることになる,」との発明特定事
項を含み,「計算」は,「Web-POSサーバ・システム」で行われることに限
定された(乙4,14,15)。
ウ特許庁は,平成24年4月16日付けで,前記イの第1手続補正について,
新規事項の追加を含み,特許法17条の2第3項に違反するとして,補正却下の決
定を行うとともに,本件出願について,同日付けで,同法36条6項1号及び同法
29条2項に違反するとして拒絶査定をした。
上記補正却下の決定は,発明の詳細な説明では,第2フレームに表示されている
数量入力フィールドに数量を入力しないとPOS管理のための明細フォームを第3
フレーム上に取得できないにもかかわらず,第1手続補正に係る請求項1及び4で
は,かかる入力をせずに注文明細情報が表示されるという新たな技術的事項を導入
するものであることなどを理由とするものであり,上記拒絶査定は,第1手続補正
前の請求項1の商品オーダ内容の確定操作過程の記載については発明の詳細な説明
には記載も示唆もないこと,同請求項1ないし4に係る発明は特開平9-3303
60号公報(甲5)に記載された発明に基づいて容易に発明することができたもの
であることを理由とするものであった(乙14,16,17)。
エそこで,控訴人は,平成24年7月22日付けで,審判請求書を提出すると
ともに,同日付け手続補正書を提出して,特許請求の範囲を補正し(第2手続補正),
その後,同年9月5日,本件特許の特許査定を受け,同月28日,設定登録を受け
た。
この第2手続補正による特許請求の範囲の請求項1(本件請求項1)は,「ユー
ザが,該入力手段により数量を入力(選択)すると,該数量に基づく計算が行われ
ると共に,前記入力(選択)された商品識別情報と該商品識別情報に対応して取得
された上記商品基礎情報に基づく商品の注文明細情報が該入力手段を有する表示装
置に表示されると共に,ユーザが,該入力手段によりオーダ操作(オーダ・ボタン
をクリック)を行うと,該商品の注文明細情報に対する該数量入力(選択)に基づ
く計算結果の注文情報が該Web-POSサーバ・システムにおいて取得(受信)
されることになる,」という発明特定事項を含み,「該数量に基づく計算」が,「W
eb-POSクライアント装置」で行われることのみが記載されていると解さざる
を得ないものであった。なお,審判請求書には,第2手続補正に係る本件請求項1
の構成要件F4の記載は,出願当初の明細書の【0137】等の記載に基づく旨記
載されており,「該数量に基づく計算」に関する発明特定事項の補正の根拠として,
本件明細書の【0137】を挙げていた(甲1,2,乙5,18)。
(3)均等の第5要件について
前記(2)の認定事実によれば,第1手続補正前の時点では,特許請求の範囲の請求
項1において,「計算」については,「Web-POSサーバ・システム」で行わ
れるのか,あるいは,「Web-POSクライアント装置」で行われるのかを含め,
発明特定事項としては何ら規定されていなかったが,控訴人は,第1手続補正によっ
て,特許請求の範囲の請求項1において,「計算」について,「Web-POSサー
バ・システム」で行われる構成に限定し,その後にした第2手続補正において,特
許請求の範囲を本件請求項1の構成要件F4のとおり補正し,この第2手続補正に
基づく特許請求の範囲の請求項1(本件請求項1)について,特許査定を受けたも
のであるということができる。そして,第2手続補正によって補正された特許請求
の範囲の請求項1(本件請求項1)の「該数量に基づく計算」,すなわち,本件特
許発明の構成要件F4の「該数量に基づく計算」は,「Web-POSサーバ・シ
ステム」では行われず,「Webブラウザ」を備える「Web-POSクライアン
ト装置」で行われるものと解さざるを得ないことは,前記1のとおりである。
そうすると,本件出願手続において,第1手続補正前の時点では,「計算」につ
いて,発明特定事項として何らの規定もされていなかった特許請求の範囲の請求項
1について,控訴人は,第1手続補正により,「計算」が「Web-POSサーバ・
システム」で行われる構成に限定し,その後の第2手続補正によって,この構成に
代えて,あえて「該数量に基づく計算」が「Web-POSクライアント装置」で
行われる構成に限定して特許査定を受けたものということができる。
上記事実に鑑みれば,控訴人において,「該数量に基づく計算」が,被告方法の
ように「Web-POSサーバ・システム」で行われる構成については,本件特許
発明の技術的範囲に属しないことを承認したもの,又は外形的にそのように解され
るような行動をとったものと評価することができる。
したがって,均等の第5要件の成立は,これを認めることができない。
(4)控訴人の主張について
ア控訴人は,均等の第5要件の充足を判断するに当たっては,手続補正の目的
や出願人の認識などの事情を考慮すべきところ,第2手続補正の目的は,「該数量
に基づく計算」が「Web-POSクライアント装置」によって行われる場合に本
件特許発明を限定しようとするものではないから,第2手続補正によって,「該数
量に基づく計算」を「Web-POSサーバ・システム」において行う構成が,本
件特許請求の範囲から「意識的に除外」されたと外形的に評価することはできない
し,特許権者の利益を犠牲にして保護すべきとするほどの第三者の期待が生じてい
たとはいえない旨主張する。
しかし,第1手続補正前の時点では,「計算」について,発明特定事項として何
らの規定もされていなかった特許請求の範囲の請求項1について,控訴人は,第1
手続補正により,「計算」が「Web-POSサーバ・システム」で行われる構成
に限定し,その後の第2手続補正によって,第1手続補正による「計算」が「We
b-POSサーバ・システム」で行われる構成に代えて,あえて「Web-POS
クライアント装置」で行われる構成に限定することにより,「該数量に基づく計算」
が,被告方法のように「Web-POSサーバ・システム」で行われる構成につい
ては,本件特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したもの,又は外形的にそ
のように解されるような行動をとったものと評価することができることは,前記(3)
のとおりである。かかる評価は,構成要件F4に係る第2手続補正が,第1手続補
正却下又は拒絶理由を回避するために行われたものであるか否かなど,出願人の手
続補正の目的いかんによって左右されるものではなく,客観的に判断されるべきで
ある。
そして,前記(3)のとおり,控訴人において,「該数量に基づく計算」が,被告方
法のように「Web-POSサーバ・システム」で行われる構成については,本件
特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したもの,又は外形的にそのように解
されるような行動をとったものと評価することができるのであるから,特許権者の
かかる外形的行動を信頼した第三者を保護すべきであり,控訴人がこれに反して当
該「Web-POSサーバ・システム」で行われる構成について均等の主張をする
ことは,禁反言の法理に照らして許されないというべきである。
イ控訴人は,本件特許発明の課題は,「専用のPOS通信機能/POS専用線
を必要とせず,取扱商品の自由な変更が可能なPOSシステムを実現すること」で
あり,この課題を解決するため,本件特許発明は,本件請求項1の構成を採用する
ことにより,上記課題を解決するものであるところ,「該数量に基づく計算」が,
Web-POSサーバ・システムで行われるか,Web-POSクライアント装置
で行われるかという問題は,本件特許発明の上記目的及びこれを実現する構成とは
関係がないから,第5要件を充足する旨主張する。
しかし,控訴人において,「該数量に基づく計算」が,被告方法のように「We
b-POSサーバ・システム」で行われる構成については,本件特許発明の技術的
範囲に属しないことを承認したもの,又は外形的にそのように解されるような行動
をとったものと評価することができることは,前記(3)のとおりであり,本件におい
て,本件特許発明の目的やこれを実現し得る構成いかんによって,上記評価が左右
されるものではない。
ウしたがって,控訴人の前記主張は,いずれも採用することができない。
(5)小括
以上によれば,均等のその余の要件の成否につき検討するまでもなく,被告方法
が本件特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するということはできない。
3結論
したがって,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の請求は理由がな
いから,控訴人の請求を棄却した原判決は相当である。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官髙部眞規子
裁判官田中芳樹
裁判官柵木澄子

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