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平成13年(行ケ)第227号 審決取消請求事件
平成14年5月14日口頭弁論終結
            判       決
      原      告    エル・エス・アイ ジャパン株式会社
      原      告    株式会社ジョイス
      原      告    有限会社佐藤美術工芸
      3名訴訟代理人弁理士  南 條 眞一郎
   同   森 竹 義 昭
      被      告    特許庁長官及川耕造
      指定代理人       山 田 忠 夫
   同   藤 井 靖 子
   同   山 口 由 木
   同   大 橋 良 三
   同   高 木   進
          主       文
   1 原告らの請求を棄却する。
   2 訴訟費用は原告らの負担とする。
            事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告ら
 特許庁が補正2000-50130号事件について平成13年4月3日にし
た審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
  原告らは,平成5年10月22日,発明の名称を「麻雀卓枠」とする発明
(以下「本願発明」という。)につき特許出願(平成5年特許願第264521
号。以下「本願出願」という。)をしたが,平成12年7月4日付けで拒絶理由通
知を受け,その指定期間内に,本願出願の願書に最初に添付した明細書(以下「当
初明細書」という。)又は図面(以下「当初図面」といい,これと当初明細書をあ
わせて「当初明細書等」という。)について,平成12年9月18日付けで手続補
正をした(以下「本件補正」という。)。
  特許庁審査官は,平成12年10月6日に,本件補正を却下するとの決定
(以下「原決定」という。)をした。原告らは,平成12年11月27日,原決定
に対する不服の審判を請求した。特許庁は,この請求を補正2000-50130
号事件として審理し,その結果,平成13年4月3日,「本件審判の請求は,成り
立たない。」との審決をし,その謄本を同年5月1日に原告らに送達した。
2 当初明細書における特許請求の範囲の記載
【請求項1】麻雀卓本体と組み合わせて用いられる麻雀卓枠であって,前記枠
の内側に麻雀卓本体が入る大きさの空間が形成され,前記枠の外周部には点数棒を
収容する点数棒箱,点数表示装置及び操作部が設けられ,前記枠の内部には点数棒
の重量を計測する重量センサ及び前記重量センサ,点数表示装置及び操作部を制御
する中央処理装置が収容された麻雀卓枠。(以下「当初発明」という。)
3 本件補正後の特許請求の範囲の記載
【請求項1】麻雀卓本体に組み合わせて用いられる麻雀卓枠であって,前記麻
雀卓枠の内側に麻雀卓本体が入る大きさの空間が形成され,前記麻雀卓枠の外周部
には点数棒を収容し収容された前記点数棒の数を計測するセンサを有する点数棒
箱,点数表示装置及び操作部が設けられた,麻雀卓枠。
(【請求項2】~【請求項6】省略)
【請求項7】麻雀卓本体に組み合わせて用いられる麻雀卓の内側に麻雀卓本体
が入る大きさの空間が形成され,前記麻雀卓枠の外周部には点数棒を収容し収容さ
れた前記点数棒の数を計測するセンサを有する点数棒箱,点数表示装置及び操作部
が設けられた,麻雀卓。
(【請求項8】~【請求項11】省略)
【請求項12】前記麻雀卓枠が麻雀卓本体と一体に構成されている,請求項
7,請求項8,請求項9,請求項10又は請求項11の麻雀卓。
(【請求項13】~【請求項14】省略)
4 審決の理由の要点
 審決は,別紙審決書の写し記載のとおり,原決定のうち,本件補正後の請求
項1及び7並びに12についての各補正が,当初明細書等に記載された事項の範囲
内においてなされたものではないとして,本件補正を却下した判断は妥当であり,
原決定は結論において相当である,と認定判断した。
第3 原告ら主張の審決取消事由の要点
 審決の理由中,【1】手続の経緯,【2】請求人の主張は認める。【3】当
審の判断,【4】むすびは争う。
 審決は,請求項1,7及び12のいずれについても,その補正が許されるべ
きか否かの認定判断において誤りを犯したものである。すなわち,請求項1及び7
については,各項の補正が,当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなさ
れたものではないと判断した点で誤っており,また,この判断に至る過程において
も手続違反があった。請求項12については,同項の補正が当初明細書等に記載さ
れた事項の範囲内においてなされたものでないと判断した点で誤っている。このよ
うに,審決には,判断の対象とした各請求項のいずれについての認定判断にも,そ
れぞれの結論に影響を及ぼす誤りが存在するから,審決は,違法なものとして取り
消されるべきである。
1 請求項1及び7についての審決の誤り
(1)請求項1及び7に係る補正事項「点数棒の数を計測するセンサを有する点
数棒箱」についての判断の誤り
(ア)審決は,当初明細書等において,「「センサを有する点数棒箱」,つま
り「点数棒箱がセンサを有する」という構成に関する記載は見いだせない。また,
先願発明(判決注・特願平4-162747号に記載された麻雀卓の発明をいう。
以下同じ。)に関する記載中に「点数棒箱がセンサを有する」という構成が記載さ
れていても,該記載から,本願発明のものも「点数棒箱がセンサを有する」という
構成を含むことが自明であるとは,到底いえない。」(審決書2頁35行~3頁2
行)と判断したが,誤りである。
 特許請求の範囲に記載することの可能な事項は,当初明細書等に記載さ
れた事項のすべてであり,当初明細書等に記載された事項を,特許請求の範囲に記
載することが可能な事項と,記載することが可能でない事項とに区別する根拠はな
い。「重量センサを有する点数棒箱」との構成は,当初明細書等の【0005】な
いし【0007】,【図1】及び【図2】において,先願発明に関する記載として
存在している(このことは,被告も認めるところである。)。先願発明及び当初発
明は,本願出願の発明者等による一連の発明であるだけでなく,これらを総合する
ことによって新たな発明がなされることもないのであるから,先願発明についての
前記記載は,本願発明についての記載ともみることができる。上記のとおり,「重
量センサを有する点数棒箱」との構成は,先願発明に関するものとしてであるとは
いえ,当初明細書等の【0005】ないし【0007】並びに【図1】及び【図
2】に記載されているのであるから,これを特許請求の範囲に記載したからといっ
て,これにより,当初明細書等の要旨が変更される,などということはあり得な
い。特許請求の範囲(請求項1及び7)において「点数棒の数を計測するセンサを
有する点数棒箱」を「麻雀卓枠」の構成として記載しても,当初明細書等の要旨が
変更されることはない。
(イ)審決は,「当該補正は当初明細書に記載された「重量センサ」を「セン
サ」に補正するものであるが,単に「センサ」という記載は,「重量センサ」以外
の「センサ」をも含むことになる(・・・)が,「重量センサ」以外の「センサ」
については当初明細書に何等記載されておらず,かつ,同明細書の記載からみて自
明なものともいえない。」(審決書3頁3行~11行)と判断したが,誤りであ
る。
 「重量センサ」以外にも各種のセンサがあることは,当業者に周知であ
って,どのようなセンサを用いるかは当業者が必要に応じて適宜決定すべき設計的
事項であるにすぎないから,本願発明において,重量センサ以外のセンサを用いる
ことは,当業者にとって自明な事項である。また,このような状況の下で,当初明
細書等においてセンサとして重量センサが記載されているとしても,それは,単に
実施態様として記載されたという以上の意味を有するものではない。そうである以
上,重量センサを公知ではない新規なセンサに変更したのならともかく,技術常識
である他のセンサに変更しただけであるなら,それが当初明細書等の要旨の変更に
当たることはあり得ないというべきである。
(2)請求項1及び7の補正事項の判断における手続違背
 審決は,「当該補正は当初明細書に記載された「重量センサ」を「セン
サ」に補正するものであるが,・・・「重量センサ」以外の「センサ」については
当初明細書に何等記載されておらず,かつ,同明細書の記載からみて自明なものと
もいえない。」(審決書3頁3行~11行)と判断し,これをも,本件補正が当初
明細書等の要旨を変更するものであるとする根拠にしている。
 しかし,「重量センサ」を「センサ」に補正することが要旨変更に当たる
ことは,取り消しを求めた原決定(甲第8号証)に記載されていない理由であり,
原告らは,当然ながら,審判請求において,この点を採り上げて,原決定を取り消
すべき理由として,意見を述べることをしていない。
 審判長は,上記理由により本件補正中の上記部分を要旨変更と判断し,そ
れを根拠にして論を進めようとするのであれば,まず審理の結果を原告らに通知
し,相当の期間を指定して,意見を申し立てる機会を与えなければならなかったの
である。ところが,審決は,この手続のないまま,その結論に至ったのである。し
たがって,審決は,特許153条2項が規定する手続に違背してなされたものとい
うべきである。
2 請求項12についての審決の誤り
 審決は,「本願発明について,「麻雀卓枠が麻雀卓本体と一体」という構成
に関する記載は見いだせない。また,先願発明に関する記載中に「麻雀卓枠が麻雀
卓本体と一体」という構成が記載されていても,該記載から,本願発明のものも
「麻雀卓枠が麻雀卓本体と一体」という構成を含むことが自明であるとは,到底い
えない。」(審決書3頁36行~4頁1行)と判断したが,誤りである。
 1で述べたように,特許請求の範囲に記載することが可能な事項は,当初明
細書等に記載された事項のすべてであり,当初明細書等に記載された事項を特許請
求の範囲に記載することが可能な事項と記載することが可能ではない事項とに区別
する根拠はない。「麻雀卓枠が麻雀卓本体と一体」との構成は,当初明細書の発明
の詳細な説明の【0009】,【0012】及び【図3】において,先願発明に関
する記載として存在しており(このことは,被告も認めるところである。),同構
成は,このように,当初明細書等に記載されているのである。
 そもそも,麻雀卓のようにいくつかの部品から構成される物品については,
物品全体として販売されることのみならず,それぞれの部品が交換部品あるいは補
修部品としても販売されることも,極めて普通のことである。したがって,その物
品が一体として販売されることも,交換部品あるいは補修部品として別体で販売さ
れることもあるのであるから,一体のものと別体のものとの間に技術的な作用効果
の差異がない本願出願に係る麻雀卓について,「麻雀卓枠と麻雀卓本体と」を一体
と記載しようと別体と記載しようと,明細書の要旨を変更することなどあり得よう
がないのである。
第4 被告の反論の要点
1 原告らの主張の1(請求項1及び7についての審決の誤り)について
(1)請求項1及び7の補正事項「点数棒の数を計測するセンサを有する点数棒
箱」についての判断の誤りについて
(ア)「重量センサを有する点数棒箱」,すなわち,点数棒箱自体が重量セン
サを有することは,当初明細書等において先願発明に関する記載として存在するこ
とは認める。しかし,先願発明においては,重量センサを有するトレイ(点数棒
箱)が取り付けられているのは「麻雀卓」であって「麻雀卓枠」ではない。
 当初発明としては,当初明細書の段落【0013】ないし【001
7】,【図5】に記載された実施例の記載から明らかなとおり,「点数棒箱」と
「重量センサ」とは「別体」であり,先願発明にみられるような,重量センサと点
数棒箱とを一体としたものについては,当初発明のものとしては何ら記載されてい
ない。そして,このような重量センサと点数棒箱とを一体としたものを当初発明の
麻雀卓枠に具体的にどのように組み込むのかについては,当業者が容易に理解でき
るものとはいえず,まして,そのような構成が当初明細書等の記載からみて自明で
あるとは到底いえない。
 すなわち,当初明細書等には,センサを有する点数棒箱が設けられた麻
雀卓枠に関しては何ら記載されていない。このような麻雀卓枠が当初明細書等の記
載から自明であるということもできない。
 したがって,このような補正が当初明細書等の要旨を変更するものであ
ることは明らかであり,審決の判断には何らの誤りもない。
(イ)「重量センサ」以外に,各種の「センサ」が存在することは認める
(「温度センサ」,「光センサ」,「距離センサ」等がある。)。
 原告らは,「重量センサ」は単なる実施態様である,と主張する。しか
し,当初明細書等には,先願発明についての記載部分を含めても,点数計数用セン
サとしては「重量センサ」しか記載されていないのであるから,「重量センサ」が
センサの一実施態様として認識されていたものとすることはできない。
 原告らは,本願発明において,「重量センサ」以外のセンサを用いるこ
とは,当業者にとって自明な事項である,と主張する。しかし,「重量センサ」と
いう用語に含まれる「センサ」という用語から,例えば「温度センサ」や「光セン
サ」という,「重量センサ」以外のセンサ自体をいわゆる自明の範疇で直ちに想起
できるものと,百歩譲って仮定したとしても,それらのセンサの麻雀卓枠への組み
込み方法や,それらのセンサを使って「点数棒の数を計測する」手段について何ら
開示されていない当初明細書等から,本願発明において,「温度センサ」や「光セ
ンサ」を点数棒の数の計測に用いることが自明であるなどと,いうことができるも
のではない。
 原告らは,本件補正は「重量センサ」を公知ではない新規なセンサに変
更したものではないと主張する。しかし,補正事項が明細書の要旨を変更するもの
であるか否かの判断において,補正事項(補正後の記載事項)が公知であるかどう
かは問題とはならない。補正事項が当初明細書等に記載されていたか否か,また,
記載されていなかった場合,当初明細書等の記載から自明であるか否かが判断され
るべきなのである。原告らの主張が当を得ないものであることは明らかである。
(2)請求項1及び7の補正事項の判断における手続違背について
 原決定(甲第8号証)は,「点数棒の数を計測するセンサを有する点数棒
箱」が当初明細書等に記載されておらず,かつ,当初明細書等の記載からみて自明
とはいえないことを,補正の却下の「理由」の一つとして挙げている。審決は,上
記文言中の「センサ」という用語について検討を加え説明したものであって,新た
に補正の却下の「理由」を追加したものではない。したがって,審決は,特許法1
53条2項が規定する手続に違背するものではない。
2 原告らの主張2(請求項12についての審決の誤り)について
(1)当初明細書等の段落【0004】~【0009】,【図1】及び【図2】
に先願発明として記載されている麻雀卓において,外周部を「麻雀卓枠」,その内
側の卓部分を「麻雀卓本体」とみれば,同発明においては,「麻雀卓枠が麻雀卓本
体と一体に構成されている」ということもできる。しかし,その場合にも,重量セ
ンサ及び点数を計算する装置が組み込まれているのは,「麻雀卓本体」であって
「麻雀卓枠」ではない。
 一方,当初発明として記載されている「麻雀卓枠」は,段落【0013】
~【0017】,【図5】に記載された実施例の記載から明らかなとおり,「麻雀
卓本体」とは「別体」とされているものだけである。すなわち,自動点数計数装置
が組み込まれた麻雀卓枠と麻雀卓本体を一体としたものは,当初明細書等には何ら
記載されていない。これを自明の事項とすることもできない。
 以上のとおりであるから,自動点数計数装置が組み込まれた麻雀卓枠と麻
雀卓本体を一体としたものである本件補正後の請求項12に係る発明を,当初明細
書の発明の詳細な説明に記載された発明とすることはできない。
(2)原告らが,「・・・現在業務用に用いられている麻雀卓の殆どは複雑な機
構を有する牌セッタを具えており,このような機構に加えて自動点数計数装置を組
み込むと麻雀卓全体の保守作業がしにくくなる。また,家庭内等非業務用の分野に
おいて用いられる麻雀卓としては牌セッタを有しないゲーム用の台のみからなる麻
雀卓が多く用いられており,このような台のみからなる麻雀卓を改造して自動点数
計数装置を組み込むことは困難である。(甲第2号証段落【0009】,段落【0
010】)」という従来技術の問題点に着目して,「・・・本発明の麻雀卓枠を牌
セッタが組み込まれた麻雀卓本体に適用した場合には自動点数計数装置が組み込ま
れた枠を取り外すことにより麻雀卓全体の保守作業を容易に行うことができる。ま
た,本発明の麻雀卓枠を牌セッタを有しないゲーム用の台のみからなる麻雀卓にも
適用することも可能である。」(同号証段落【0018】)という作用効果を有す
る,麻雀卓本体とは別体である,点数棒箱等を有する「麻雀卓枠」の開発に至った
ことは,当初明細書等の記載から,明らかである。
 この点からみて,麻雀卓枠と麻雀卓本体とを一体としたもの,つまり,保
守作業がしにくく,牌セッタを有しない台のみからなる麻雀卓に適用できない麻雀
卓枠も,当初明細書等の要旨を変更しないものとして,特許請求の範囲に記載可能
であるとの原告らの主張には矛盾がある。
(3)したがって,本件補正が当初明細書等の要旨を変更するものであることは
明らかであり,審決の判断には何らの誤りもない。
第5 当裁判所の判断
1 原告らの主張2(請求項12についての審決の誤り)について
 原決定は,「補正後の請求項12に記載された「麻雀卓枠が麻雀卓本体と一
体に構成されている」は,当初明細書または図面に記載されておらず,かつ,同明
細書または図面の記載からみて自明のこととも認められない。」(甲第8号証2頁
下から5行~3行)と判断し,審決は,「本願発明について,「麻雀卓枠が麻雀卓
本体と一体」という構成に関する記載は見いだせない。また,先願発明に関する記
載中に「麻雀卓枠が麻雀卓本体と一体」という構成が記載されていても,該記載か
ら,本願発明のものも「麻雀卓枠が麻雀卓本体と一体」という構成を含むことが自
明であるとは,到底いえない。」(審決書3頁36行~4頁1行)と判断した。
(1)本件補正後の請求項12の文言は,第2の3で述べたとおり,「前記麻雀
卓枠が麻雀卓本体と一体に構成されている,請求項7,請求項8,請求項9,請求
項10又は請求項11の麻雀卓。」(甲第6号証【請求項12】)というものであ
る。ここに引用されている請求項7は「麻雀卓本体に組み合わせて用いられる麻雀
卓の内側に麻雀卓本体が入る大きさの空間が形成され,前記麻雀卓枠の外周部には
点数棒を収容し収容された前記点数棒の数を計測するセンサを有する点数棒箱,点
数表示装置及び操作部が設けられた,麻雀卓。」(第2の3参照)というものであ
るから,請求項12に係る発明(厳密には,そのうちの請求項7引用部分)は,外
周部に点数棒を収容し収容された前記点数棒の数を計測するセンサを有する点数棒
箱,点数表示装置及び操作部が設けられた麻雀卓枠が,麻雀卓本体と一体に構成さ
れているものであると認められる。
 当初明細書には,「具体的には,点数棒を収容するトレイ,点数棒の重量
を計測する重量センサ,点数表示装置,操作部及びこれらを制御する中央処理装置
(CPU)を卓本体とは別体に構成された枠に組み込んだものである。このような
構成を採る本発明においては,牌セッタが組み込まれた麻雀卓本体から自動点数計
数装置が組み込まれた枠を取り外すことにより麻雀卓全体の保守作業を容易に行う
ことができる。また,本発明に係る点数自動計数麻雀卓は牌セッタを有しないゲー
ム用の台のみからなる麻雀卓にも適用可能である。」(甲第2号証段落【001
2】。なおこの段落は本件補正によって補正されておらず,補正前後の明細書に共
通して記載されている。)との記載があることからみて,請求項12の「一体に構
成」が,「別体に構成」と対比される意味合いで用いられていること,すなわち,
卓本体から枠を取り外すことができないことを意味することは,明らかである。
(2)当初明細書には,「特願平4-162747号に記載された自動点数計数
麻雀卓は麻雀卓本体に重量センサ,CPU及び表示装置からなる自動点数計数装置
が組み込まれている。ところで,現在業務用に用いられている麻雀卓の殆どは複雑
な機構を有する牌セッタを具えており,このような機構に加えて自動点数計数装置
を組み込むと麻雀卓全体の保守作業がしにくくなる。」(甲第2号証段落【000
9】),「家庭内等非業務用の分野において用いられる麻雀卓としては牌セッタを
有しないゲーム用の台のみからなる麻雀卓が多く用いられており,このような台の
みからなる麻雀卓を改造して自動点数計数装置を組み込むことは困難である。」
(同段落【0010】),「本発明はこの枠に自動点数計数装置を組み込んだもの
である。」(同段落【0011】)との記載及び上記段落【0012】の記載があ
る。
 段落【0009】及び段落【0010】の上記記載は,先願発明(特願平
4-162747号に記載された自動点数計数麻雀卓)は,麻雀卓本体に自動点数
計数装置を組み込んだものであることを述べた上,そのような構成では,保守作業
が困難であること,「台のみからなる麻雀卓」への自動点数計数装置の組込みは困
難であることを述べたものであり,これに続く段落【0011】及び段落【001
2】の上記記載は,これら困難性が卓本体とは別体に構成された枠に自動点数計数
装置を組み込む,という構成を採用することによって解決されることを述べたもの
である。
 そうである以上,麻雀卓枠に自動点数計数装置を組み込むに当たっては,
その麻雀卓枠が麻雀卓本体と別体であることを前提としているというべきであり,
麻雀卓本体と一体に構成された麻雀卓枠に自動点数計数装置を組み込むという技術
思想は記載されていないことが明らかである。
(3)原告らは,特許請求の範囲に記載することが可能な事項は,当初明細書等
に記載された事項のすべてであり,当初明細書等に記載された事項を特許請求の範
囲に記載することが可能なものと可能でないものとに区別する根拠はない,と主張
する。
 しかし,当初明細書等において,先願発明として記載されたものは,その
構成すべてを有することによって一つの技術的思想を形成するものであり,当初発
明として記載されたものは,その構成すべてを有することによって一つの技術的思
想を形成するものであるから,当初明細書等に先願発明と当初発明の双方が記載さ
れているからといって,先願発明の構成要件と当初発明の構成要件を無条件に組み
合わせることまでが当然に記載されていることになるわけのものでないことは,い
うまでもないことであり,これらを組み合わせたものがそこに示されているといえ
るのは,その根拠となる事由の存在する一定の場合に限られることは当然である。
そして,本件補正後の請求項12に係る発明は,麻雀卓枠を麻雀卓本体と一体とす
るという先願発明の構成要件と,点数棒の数を計測するセンサ,点数棒箱,点数表
示装置及び操作部を麻雀卓枠に組み込むという当初発明の構成要件を組み合わせた
発明であることが,明らかである。
 ところが,当初明細書等において,麻雀卓枠に自動点数計数装置を組み込
むという構成の採用に当たっては,その麻雀卓枠が麻雀卓本体と別体であることを
前提としていることは上記説示のとおりであり,麻雀卓枠と麻雀卓本体を一体とす
るか別体とするかという技術的事項を,麻雀卓枠に自動点数計数装置を組み込むこ
とと切り離した技術的事項と解することはできないのであるから,上記組み合わせ
がそこに示されているということはできないのである。
(4)原告らは,「麻雀卓枠が麻雀卓本体と一体」という構成は,当初明細書の
発明の詳細な説明の段落【0009】,段落【0012】及び【図3】に記載され
ている,と主張する。
 しかし,当初明細書の段落【0009】は,「特願平4-162747号
に記載された自動点数計数麻雀卓は麻雀卓本体に重量センサ,CPU及び表示装置
からなる自動点数計数装置が組み込まれている。」との記載があることからも明ら
かなとおり,麻雀卓枠に自動点数計数装置を組み込むことを開示するものではな
く,同段落【0012】は,「卓本体とは別体に構成された枠に組み込んだ」との
記載があることからも明らかなとおり,「麻雀卓枠が麻雀卓本体と一体」という構
成を開示するものではない。さらに,当初明細書の「【図3】本願発明を適用した
点数自動計数麻雀卓の外観正面図」(【図面の簡単な説明】欄)との記載及び【図
3】によれば,【図3】は自動点数計数装置を組み込んだ麻雀卓枠を麻雀卓本体に
取付けた外観正面図にすぎず,この図自体から,麻雀卓枠が麻雀卓本体から取り外
せない,すなわち,一体であることを看取することなど到底できるものではない。
 したがって,原告らが主張する当初明細書等の段落【0012】及び【図
3】には「麻雀卓枠が麻雀卓本体と一体」であることすら記載されておらず,段落
【0009】に同構成が記載されているとしても,麻雀卓本体に自動点数計数装置
を組み込んだ場合であり,補正後の請求項12に係る発明の構成である,麻雀卓枠
に自動点数計数装置を組み込みかつ麻雀卓枠が麻雀卓本体と一体という構成を開示
するものではない。
(5)原告らは,物品が一体として販売されることもまた別体として販売される
こともあるとして,麻雀卓のような場合は,一体と記載しようと別体と記載しよう
と,明細書の要旨を変更することなどあり得ない,と主張する。
  しかし,当初明細書の段落【0009】記載のものにおいては,麻雀卓枠
には自動点数計数装置が組み込まれていないし,当初明細書の段落【0012】及
び【図3】記載のものは,麻雀卓枠と麻雀卓本体が別体であり,組み合わされた状
態で販売することがあるとしても,取り外し可能であって,本願明細書における
「一体に構成」に当たるものではないから,原告らの主張は,失当である。
(6)以上によれば,本件補正中の請求項12に係る部分についての審決の上記
判断に誤りはなく,請求項1及び7に係る部分について検討するまでもなく,本件
補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内でされたものではないことが明らか
である。したがって,本件補正を却下した原決定の取消を求めた原告らの請求を棄
却した審決は相当であり,原告らの請求は,その余の原告らの主張について判断す
るまでもなく理由がないことが明らかである。ただし,本願出願については,今後
においても,請求項1及び7についての原告らの主張1の(1)で問題とされている補
正と同趣旨の補正がなされる可能性もあるので,以下においては,これについて
も,検討しておくことにする。
2 原告らの主張1(請求項1及び7についての審決の誤り)の(1)(請求項1及
び7の「点数棒の数を計測するセンサを有する点数棒箱」についての判断の誤り)
について
(1)審決は,本件補正後の請求項1及び7の「点数棒の数を計測するセンサを
有する点数棒箱」との記載について検討した上,「本願発明について,「センサを
有する点数棒箱」,つまり「点数棒箱がセンサを有する」という構成に関する記載
は見いだせない。また,先願発明に関する記載中に「点数棒箱がセンサを有する」
という構成が記載されていても,該記載から,本願発明のものも「点数棒箱がセン
サを有する」という構成を含むことが自明であるとは,到底いえない。」(審決書
2頁35行~3頁2行)と判断した。
 当初明細書において,「重量センサを有する点数棒箱」との構成が,先願
発明に関する記載として存在することは,当事者間に争いがない。
 当初発明が,麻雀卓本体に自動点数計数装置を組み込むことに起因する保
守作業の困難性及び「台のみからなる麻雀卓」への自動点数計数装置組込困難性
を,麻雀卓本体とは別体に構成された麻雀卓枠に自動点数計数装置を組み込む,と
いう構成を採用することによって解決したものであることは,前記1で述べたとお
りである。
 そして,自動点数計数装置を麻雀卓本体に組み込む場合と,麻雀卓枠に組
み込む場合とを比較した場合,自動点数計数装置の構成要素である重量センサ,C
PU,点数棒箱,点数表示装置及び操作部をどのような配置構成とすることが合理
的であるかについて,格別異なると解すべき理由はないというべきである。
 しかも,当初明細書の請求項1には「枠の外周部には点数棒を収容する点
数棒箱,・・・枠の内部には点数棒の重量を計測する重量センサ・・・が収容され
た」と記載があるのみであり,この記載からは,点数棒箱が重量センサを有するの
か有さないのかは限定されていないものと認めることができる。
 そうであれば,麻雀卓本体に自動点数計数装置を組み込む場合の例として
「点数棒箱自体が重量センサを有する」という構成が開示されているのであれば,
同構成を麻雀卓枠に自動点数計数装置を組み込む場合にも採用できることは,当初
明細書の記載から自明というべきである。
 被告は,「重量センサと点数棒箱とを一体としたものについては本願発明
の実施例としては何等記載されていない。そして,このような重量センサと点数棒
箱とを一体としたものを本願発明の麻雀卓枠に具体的にどのように組み込むのか,
当業者が容易に理解できるものとはいえず,まして,そのような構成が当初明細書
の記載からみて自明であるとは到底いえない。」と主張する。しかし,重量センサ
と点数棒箱とを一体としたものを麻雀卓枠に組み込む態様と,それらを麻雀卓本体
に組み込む態様に相違があるといえないことは前示のとおりであるから,被告の主
張は,採用することができない。
 したがって,上記審決の判断中「本願発明のものも「点数棒箱がセンサを
有する」という構成を含むことが自明であるとは,到底いえない。」(審決書3頁
1行~2行)との部分は,「センサ」との構成が要旨変更に当たるか否かの点を除
いては誤りというべきである。
(2)審決は,「「センサ」という記載では,「重量センサ」以外の「センサ」
をも含むことになる」(審決書3頁4行~5行)と認定した上で,「「重量セン
サ」以外の「センサ」については当初明細書に何等記載されておらず,かつ,同明
細書の記載からみて自明なものともいえない。」(審決書3頁9行~11行)と判
断している。
(ア)当初明細書に「重量センサ」という用語が見られる反面,単なる「セン
サ」及び「重量センサ」以外の「・・・センサ」との用語が存在しないことは,甲
第2号証により明らかである。
 本件補正後の請求項1及び請求項7には,「点数棒の数を計測するセン
サ」と記載されているものの,最終的に表示すべきは点数であって,しかも点数棒
には,10000点棒,5000点棒,1000点棒,及び100点棒の4種類が
あることは当裁判所に顕著な事実であり,各点数棒の種類毎に点数棒の数を計測し
なければ,点数を表示しえないことも自明であることからすれば,上記記載が「点
数棒の種類毎に点数棒の数を計測するセンサ」を意味することは明らかである。
(イ)当初明細書等には,「5,6,7,8は点数棒の重量を計測するための
重量センサ・・・10は重量センサによって計測した点数棒の重量を持ち点数とし
て計算する中央処理装置,11,12,13,14は各ゲーム者の持ち点を表示す
るLED等からなる表示装置」(甲第2号証段落【0005】)との記載(同記載
は先願発明についての記載であるが,自動点数計数装置の構成自体については,そ
れを麻雀卓本体に設ける場合と,麻雀卓枠に設ける場合で相違がないことは(1)で述
べたとおりである。)があるとともに,【図1】には点数棒箱1ないし4に点数棒
が雑然と収納されている状態が図示されている。これらの記載及び図示からみて,
【図1】は4種類の点数棒が各ゲーム者毎の一つの点数棒箱1ないし4に収納さ
れ,各ゲーム者毎の一つの重量センサ5ないし8によって,点数棒全体の重量が計
測されることを図示したものと解される。
 そうすると,「重量センサ」を他の「センサ」に置換することが自明で
あるといえるためには,センサであれば,どのようなものであっても,一つの点数
棒箱に雑然と収納された点数棒の数を,点数棒の種類毎に計測し得るものであるこ
とが当業者にとって技術常識といえる程度に広く知られていなければならないこと
になる。ところが,そのように知られていたことを認めさせる資料は,本件全証拠
を検討しても見いだすことができない。
(ウ)原告らは,「重量センサ」以外の各種のセンサが当業者における周知・
慣用技術であることは技術常識である,そして,どのようなセンサを用いるかは当
業者が必要に応じて適宜決定すべき設計的事項である,と主張する。しかし,ここ
で問題とすべきは,センサであれば,どのようなものであっても,点数棒の種類毎
にその数を計測することができることが当業者にとって技術常識といえる程度に広
く知られているかどうかであり,単に各種のセンサそのものが当業者における周
知・慣用技術であるというだけでは,これらを点数棒の数を計算するセンサとして
使用することが,当初明細書等から自明であるとはいえないのである。
(エ)以上のとおりであるから,原告ら上記主張は採用することができない。
審決の「「重量センサ」以外の「センサ」については当初明細書に何等記載されて
おらず,かつ,同明細書の記載からみて自明なものともいえない。」(審決書3頁
9行~11行)との判断に誤りはない。
3 結論
 以上に検討したところによれば,原告らの主張する取消事由には理由がな
く,「原審における補正の却下の決定は,結論において妥当なものであり,これを
取り消す理由はない。」(審決書4頁6~7行)との審決の判断に誤りはない。そ
こで,原告らの請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟
法7条,民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所第6民事部
           裁判長裁判官    山  下  和  明
              裁判官     設  樂  隆  一
 
              裁判官     阿  部  正  幸

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