弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人七名を各懲役四月に処する。
     ただし、この裁判確定の日から二年間右各刑の執行を猶予する。
     原審および当審における訴訟費用は全部被告人七名の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、東京高等検察庁検察官石井春水が差し出した東京地方検察庁
検察官河井信太郎名義の控訴趣意書に記載してあるとおりであるから、これを引用
し、これに対して、当裁判所は、次のように判断をする。
 所論は、要するに、原判決は、刑法二〇八条の二第一項の解釈適用を誤り、有罪
と認定するに足りる証拠があるのに、犯罪の証明がないとして無罪の言渡をしたも
のであつて、原判決には、法令の解釈適用の誤り、ひいては事実の誤認があり、右
誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄を免れないとい
うのである。
 第一、 当裁判所の判断
 一、 本件集会の背景と概況について、記録および証拠物によれば、つぎの各事
実が認められる。 (一) 昭和四一年九月二二日東京都千代田区a町b番地A公
園においてB連合のC実行委員会主催の「ベトナム戦争反対、小選挙区制粉砕、全
国学生統一行動」を目的とする集会が開催され、右集会は同日午後二時から同日午
後四時までを充て、同日午後四時集団示威運動に移り、右公園を出発し日比谷公園
で同日午後五時解散することが予定されていた。
 (二) B派は、D連合の派閥のうち中核派、社学同、社青同の三派が合体して
昭和四〇年七月頃結成されたが、前記C実行委員会は、同四一年三月の臨時大会の
決定に基き、同年七月結成され、同年一二月を目標にB派によるDの再建を期して
いた。これに対しD派は派閥としては革マル派に属し、同年七月の定期大会におい
て「三派連合による一二月Cの策動を粉砕し、三派連合による分断策動を粉砕して
行くための闘い」につき協議を重ねるなど、かねてからB派の動きに対抗してい
た。
 (三) 本件集会当日午後三時四〇分ごろまでにB派約四〇〇名、D派約三〇〇
名がA公園内広場に参集した。同広場においては、東側の築山に面し正面入口から
みて右側にD派の学生、左側にB派の学生が位置し、午後三時四五分ごろB派は集
合を開始し、D派も、同時に集会を開いた。そして、両派の指導者が築山を背にし
て演説を始め、午後三時五二分ごろ両派集団の接点付近でもみ合いを始めるや、B
派の十数名が手に手に角棒を振り上げてD派学生に向い、同じくB派の他の三十数
名も角棒、竹竿を持つてこれに加わつてD派集団に襲いかかり、D派もこれに応戦
したが、漸次後退し、大部分は公園外に追い出された。B派はもとの集合場所に引
き揚げ、D派も追い追い公園内に戻り、その一部が集り反撃の構えを見せた。ここ
で待機中の機動隊が同派間に割つて入り、午後三時五五分頃検挙活動をした。この
結果双方とも四散したが、間もなくB派はもとの場所に、D派もその付近に集合
し、その一部はB派集団に突込み、午後三時五八分ごろ機動隊の規制がなされ、そ
の後、両派とも右広場内に参集し、午後四時すぎB派、続いてD派が公園を出てデ
モ行進に移つた。
 二、 (一)被告人七名の行為についてみると、原判決も認定するとおり、被告
人らは、いずれも、前記両派学生の乱闘状態の中において、B派学生約五〇名とと
もに、D派の学生を角棒で殴打し、あるいは角棒を振り上げて殴打する姿勢を示
し、あるいはこれを投げつけるなど各自角棒を所持して行動したことは記録上明ら
かである。
 各被告人についてその行動を具体的に摘示すれば、つぎのとおりである。
 (1) 被告人Eは、午後三時八分ごろF大学生四名とともに、会場にきてB派
集団に加わり、午後三時五〇分頃B派の指導者Gが演説中築山直下で右Gの方の状
況を見守りながら右手に持つた角棒を地面に立て、両派の乱闘が開始されるや、B
派学生の中に加わり、右手で角棒を振り上げながら、D派学生を追つて前進した。
 (2) 被告人Hは、午後二時四五分ごろI会館の学生ら約一四名とともに会場
にきて、B派集団に加わり、両派集団の接点付近で、両派のもみ合いが始つたこ
ろ、そこで角棒を配つていた者から角棒を渡され、乱闘が始まるや、B派の学生の
中に入り、角棒を持つてD派学生を追い、途中D派の学生に対し角棒を持つて対峠
したが、相手が逃げたので、もとの場所へ戻つた。
 (3) 被告人Jは、午後三時四八分ごろB派G、D派Kの両名が演説の応酬を
していたところ、右Gの右後方におり、午後三時五二分ごろ、乱闘開始直後、B派
学生の先頭に位置し、角棒を両手で握り、右肩付近まで立てて引き寄せ、D派学生
に殴りかかろうとし、また角棒を立ててD派学生を追い、角棒で三回位これを殴打
した。
 (4) 被告人Lは、午後三時過ごろM大学学生四〇名位とともに会場に到着
し、D派Nのアジ演説が始つたころ、傍にいた学生から角棒を受け取り、両派の乱
闘の際、B派学生の中にあつて角棒を携行してD派学生を追いかけて前進した。
 (5) 被告人Oは、午後三時四八分ごろ前記Gの演説中、その右斜後方築山直
下でB派学生の中におり、乱闘開始直前に、右Gの後方植込中をくぐり、右方に移
動し、乱闘の際、B派の先頭に立ち、棒を振り上げてD派学生を追い前進した。
 (6) 被告人Pは、両派乱闘開始直後午後三時五二分ごろ、両派の接点のすぐ
後方で角棒を立てて体の右方に寄せ、D派学生に向つて殴りかかる構えをし、つぎ
に、D派学生を追いかけて行つたB派学生の大部分が戻つてき始めた際、その中に
あつて、角棒を左手に持ち、右手拳を上げて殴る格好をし、さらに角材を拾つてD
派学生に投げつけ、これがQに当つた。
 (7) 被告人Rは、午後二時五七分ごろ、プラカードを携行しS大学学生約三
〇名とともに、会場に到着したが、両派乱闘開始直後、被告人Pの傍らにあつて、
両派の接点のすぐ後方に位置し、D派学生に対し角棒を振つて攻撃の構えを示し、
さらにD派学生に角棒で二、三回殴りかかり、一回が相手に当つた。
 (二) 被告人七名を含め、本件現場に参集したB派学生の中には、プラカード
を携行するものはあつたが、各自角棒を予め準備携行したものとは認められない。
しかし午後二時五二分ごろB派学生によりプラカードないし角棒が入つていると思
われる赤旗の包み二個が現場に持ち込まれ、両派乱闘の直前、これらの包みが解か
れB派の学生によりプラカードの板が剥がされ、二、三十本の角棒が作られ、近く
のB派学生に配られた事実が推認できる。
 三、 以上の事実関係において、被告人七名が共同加害の目的をもつて兇器を準
備して集合した事実を認定できるかどうかを検討する。
 (一) 被告人七名は、いずれも、前記のとおり、B派学生とD派学生との乱闘
が行なわれた際、各自角棒を携行して右B派学生の集団に参加し行動した事実は明
らかである。ただ、被告人らが本件現場に参集する以前、各自角棒を携行した事実
は確認できない。しかし、被告人E、同H、同Lは、前記両派の乱闘直前に現場で
各自角棒を所持するに至つた事実は明らかであり、被告人J、同O、同P、同Rの
四名は、いつ、どこで、角棒を所持するに至つたかは詳かではないが、右四名が、
前記のとおり、両派乱闘の際、いずれもB派学生の集団の中にあつて各自角棒を持
つて行動した事実が明瞭である。
 刑法二〇八条の二第一項にいう集合とは、通常二人以上の者が兇器を準備し共同
加害の行為をする目的で一定の時刻、一定の場所に集まることをいうが、すでに時
と所を同じくする二人以上の者が兇器を準備し共同加害の目的を持つようになり、
それによつて一個の集合体とみられるに至つた場合も、集合にあたると解するのが
相当である。従つて、兇器を準備し共同加害の目的をもつて集合したというのも、
必ずしも集合する前に目的を持つていた場合だけではなく、右のように兇器を準備
し、共同加害の目的が生じると同時に、集合したとみられる場合をも含むのであ
る。本件についてみれば、被告人七名は、いずれも、角棒を所持するに至つた時点
においてそれぞれ兇器を準備して集合したものと認めざるをえない。
 さらに、兇器準備集合罪が成立した場合でも、それが発展してその目的とした加
害行為が実行の段階に至つたときは、本罪と加害行為の罪とは、別個独立の犯罪で
あり、両者は併合罪の関係にあると解するのが相当である。そして、これは最高裁
判所の決定(最決昭和三八年一〇月三一日最高裁裁判集刑事一四八号一〇六五頁、
最決昭和四三年七月一六日刑集二二巻七号八三〇頁)において、すでに明らかにさ
れたところであり、当<要旨第一>裁判所も、最高裁判所の右判断に従う。他方、兇
器準備集合罪が成立した場合、本罪はいわゆる継続犯であるから、行為
者が兇器を準備して集合しているかぎり、犯罪は継続するものと解すべきである。
原判決は、二人以上の者が共同加害の目的をもつて兇器を準備して集合した場合で
あつても、進んで加害行為実行の段階に至つたときは、そこに存在するのは、先に
目的とされた共同加害行為の実行そのものであつて、集合体による行動はあつて
も、兇器準備集合罪としては、すでに終了しているというのであるが、これは右罪
が継続犯であることを看過したものであり、原判決の右解釈は誤りといわなければ
ならない。
 (二) つぎに、被告人七名が前記のように各自角棒を所持するに至つた時点に
おいて共同加害の目的を有したかどうかについて判断をする。
 <要旨第二>右のような被告人らの内心の目的意図については、被告人らの供述が
ないかぎり、右兇器を所持するに至つた時点における客観的状況、被告
人らのその前後の行動等により、これを判断するほかない。すなわち、当時原判決
も認定するような両派学生間の一触即発の緊迫した客観的状況があつたこと、両派
学生が集団として乱闘を行つたこと、被告人七名はいずれも、角棒を所持して右乱
闘中のB派学生の集団に加わり、共同してD派の学生を角棒で殴打し、あるいは殴
打する姿勢を示し、これを持つて追いかけ、さらにこれを投げつけるなど、兇器の
用法に従つてこれを使用して攻撃的行動をしたことを総合すれば、被告人七名は、
いずれも、角棒を所持するに至つた時点において、対抗するD派学生の身体に対し
共同して害を加える目的を生じたものと認めることができる。
 以上述べたとおり、被告人七名がいずれも共同加害の目的をもつて兇器を準備し
て集合した事実は、優にこれを認めることができる。
 原判決は、乱闘状態に至る前の段階において共同加害の目的で兇器を準備して集
合したことが認められなければならない、被告人らが乱闘状態の中にあつて角棒を
所持して行動したことから、直ちにその前段階において共同加害の目的をもつて角
棒を所持して集合したと推断することはできないとし、また、共同加害の目的とい
う以上、加害行為が他人と共同して達成しようと意欲する対象でなければならない
とし、その目的を確認する証拠もないとしたのは、兇器準備集合罪の規定の解釈を
誤り、事実を誤認したものであり、右誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであ
るから、原判決は破棄を免れない。結局論旨は理由がある。
 よつて、本件控訴は理由があるから、刑訴法三九七条一項三八〇条三八二条によ
り、原判決を破棄した上、同法四〇〇条但書に従い、自ら次のように判決する。
 第二、 自判
 (罪となるべき事実)
 被告人らは、B連合派の学生であるが、同派はかねてよりD連合派と対立抗争関
係にあつたところ、昭和四一年九月二二日午後三時五〇分ごろ、東京都千代田区a
町b番地A公園において、自派学生による集会中、D派の学生がその場に参集して
対抗しようとしたところから、これを実力で排除するため、被告人らB派の学生約
五〇名が右D派の学生の身体に対し共同して害を加える目的をもつて、それぞれ角
棒を携行準備して集合した際、被告人らにおいて同様目的のもとに長さ一メートル
前後の角棒一本を所持してこれに加わり、それぞれ兇器を準備して集合したもので
ある。
 (その余の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 関谷六郎 判事 東徹 判事 中島卓児)

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