弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原告等の請求を棄却する。
     訴訟費用は原告等の負担とする。
         事    実
 原告等訴訟代理人は、昭和二十六年八月十五日被告新潟県選挙管理委員会のなし
た裁決を取消す、同年四月二十三日に行われた新潟市議会議員選挙を無効とする、
訴訟費用は被告の負担とする、との趣旨の判決を求め、その請求の原因として、次
のとおり述べた。
 第一、 原告等三名は昭和二十六年四月二十三日施行された新潟市議会議員選挙
の選挙人であるが、同選挙は左記理由によつて全部無効である。
 一、 同日新潟市において施行された選挙は、新潟市議会議員の選挙(以下議員
選挙と略称する)と、新潟市長の選挙(以下市長選挙と略称する)とが、同時に行
われたものであるが、右選挙につき新潟市選挙管理委員会(以下市選管委と略称す
る)は、投票の順序に関し選挙人毎に、議員選挙の投票を先に行い、次に市長選挙
の投票を行わしめる旨決定し、同年四月十日、同月十二日、同月十九日の三回に亘
り、投票管理者及びその代理者の会議並びに同年三月二十八日より同月三十日まで
の間、同市沼垂出張所外四ケ所で市嘱託員会議をそれぞれ開催し、これら会議にお
いて右の順序に従い投票せしめるよう指示すると同時に、右の投票順序を図解した
る表を附した選挙事務行程表を作成して、これを右の選挙事務従事者及び関係者に
配布し、右指示の周知徹底を期した外、委員長A等自ら、或は右選挙事務従事者等
をして、機会ある毎に一般選挙人に対し、右投票順序の周知を図つた結果、選挙人
一般は右の選挙においては、議員選挙の投票を先にし、市長選挙の投票を後にする
ものであることを了知するに至つた。それであるのに同市内二十九ケ所の投票所の
内木戸小学校に開設された第二十五投票所(投票管理者B)のみは、市選管委の右
投票順序の決定を無視し、市長選挙の投票用紙を最初に交付して投票させ、次いで
議員選挙の投票用紙を交付して投票させ、この市長選挙先、議員選挙後の投票順序
を午前七時より午後九時頃まで約二時間に亘り継続した。このため多数選挙人は錯
誤に陥り、その結果同投票所においては、候補者に非ざる者の氏名を記載した多数
の無効投票を出した。同投票所の開票は礎小学校に開設された第五開票所で行われ
たが、この開票所から、候補者に非ざる者の氏名を記載した無効投票は、議員選挙
で四四三票の多きに達している。この無効投票数は次表のとおり全開票所中の最高
位にあり、その全無効投票数に対する割合も七割三分という異状な高率を示してい
るが、恐らく第二十五投票所において、市議会議員の投票用紙に市長候補者の氏名
を誤り記載したものが多かつたためと推測される。
<記載内容は末尾1添付>
 そもそも同時選挙の場合において、二投票用紙を先後の別なく選挙人に同時に交
付して投票せしむるか、或は一の投票用紙を先に交付して投票せしめその終了後他
の投票用紙を交付して投票せしめるか、また後の場合においても予め先後の別を一
定し終始その順序により投票を行うか等の、投票の順序の決定は投票所の秩序を保
ち且つ選挙の公明適正を期する上に、至大な関係を有する重要事項であるから、単
に投票の事務を担任するに過ぎない投票管理者において、任意に決定施行すること
を許さるべき性質のものではなく、その自由裁量の範囲に属していないことは自ら
明らかなところであつて、本件のような同時選挙の場合、右の投票順序は公職選挙
法(以下公選法と略す)第六条第一項にいう「投票の方法」又は「選挙に関し特に
必要と認める事項」であり、その決定は市選管委の決定すべき事項であると解する
外はない。
 而して一旦これを決定し周知せしめた以上、投票管理者はその決定順序に従い投
票を行わしむべきであり、同委員会の変更決定に基かないで、任意にこれが順序を
変更するが如きことは許さるべきではない。前述のように第二十五投票所は、市選
管委の決定に背き、みだりに市長選挙先、議員選挙後の投票を約二時間の長きに亘
つて行わしめ、この間約七百人の多数に上る選挙人により投票が行われた後、漸く
その誤をさとり、急遽市選管委決定の投票順序に変更して投票を続行せしめたが、
これは明らかに公選法第六条第一項に違反し、且つこれがため多数の選挙人を、徒
らに混乱に導き或は錯誤に陥れ、その結果前述多数の無効投票を生ずるに至ちしめ
たもので、選挙が選挙人の自由に表明せる意思によつて公明且つ適正に行われるこ
とを確保せんとした公選法第一条の規定にも明らかに違反したものと云わざるを得
ない。しかも右の同法第六条第一項の法規違反は選挙の結果に異動を及ぼす虞があ
ることは明瞭(最下位当選者C1と、次点者C2との得票数の差は、三九票に過ぎ
ない)であるから、右選挙は無効たるべきものである。
 二、 市選管委は、本件選挙前三回に亘り開催された投票管理者及び代理者の選
挙事務打合会議において、投票の順序につき協議した結果、市議会議員を先に投票
せしめ、市長を後に投票せしめるの最も錯誤の少ない方法であるとの意見が多数で
あつたので、その順序によることを申合せたが、この点に関し正式に周知徹底を図
つたことはないという、原告等の異議申立に対する決定書中で述べである事実が、
真実であるとするならば、市選管委は明らかに選挙の法規に違反していると云わね
ばならぬ。公選法は市町村選挙管理委員会に対し「投票の方法……………その他選
挙に関し特に必要と認める事項を常に周知せしめる」ことを要請しているが、同時
選挙における投票の順序の如き重要事項につき、選挙事務従事者との間に申合をし
ておさながら、これが周知徹底を為さず、ために前述第二十五投票所において投票
の順序を誤り、これを発見するや急速順序を変更するなどの失態を演せしめるに至
つたことは、重要事項の周知を怠つたか或は、周知の方法その宜しきを得なかつた
ことに基因することは明瞭であつて、右市選管委の所為は公選法第六条に違反し、
しかも選挙の結果に異動を及ぼす虞あること明らかである。
 三、 前記第二十五投票所は、前示一に記載の如く午前七時から午前九時まで、
市選管委の決定した投票順序によらず市長選挙先議員選挙後の順序によつて投票を
行つたが、これを市選管委の決定どおり変更するに当たり、約三十分に亘り投票を
中止し、事実上投票所を閉鎖した。その間選挙人は長蛇の列をなし、中には投票を
断念して引上げた者すら認められた。そもそも投票所の開閉時間については、公選
法第四十条に規定するところであり、同条第一項但書及び第二項の場合を除いて
は、投票所は午前七時より午後六時までは選挙人において何時にても自由に投票し
得る状態におかれなければならぬのに、第二十五投票所が右のように約三十分間も
投票を中止し、選挙人をして投票をなさしめ得ない状態を惹起したのであるから、
これは明らかに右法条に違反している。しかも午前九時頃よりの約三十分間は投票
の最盛時であつて、同投票所における棄権数二百九十五票中には、右投票所の事実
上の閉鎖の結果生じたものをも含むものと認められるから、右の法規違反は選挙の
結果に異動を及ぼす虞のあることは明瞭である。
 第二、 更に本件選挙において新潟市石山支所に開設された第二十四投票所の投
票管理者Dは、同投票所の代理投票補助者としてE1、E2、E3、E4の四名
を、二名交代に指定し、代理投票の代筆及び立会の事務を担当せしめていたが、同
投票所の投票用紙交付係Fは、代理投票補助者に指定されていないのに拘らず所定
の手続によらないで、選挙人G等数十名(或は百数十名に達しているやも知れず)
のため、投票用紙に代筆投票しこいる。しかも投票管理者Dはこの事実を目撃しな
がらこれを放置して何等適切た措置に出てない。右は朋らかに公選法第四十八条同
法施行令第三十九条の規定に違反しており、この違反は本件選挙が十七票の少差に
より当落を争われるところによつても、選挙の結果に異動を及ぼす虞のあること明
白であると云わねばならぬ。
 以上のように本件選挙は、選挙の規定に違反し且つ選挙の結果に影響を及ぼす虞
があり、無効たるべきものであるので、原告等は昭和二十六年五月六日市選管委に
対し市議会議員選挙無効の異議を申立てたところ、同委員会は同月二十八日原告等
の申立を却け、右選挙を有効であると決定したので、原告等は更に同年六月十八日
被告新潟県選拳管理委員会に対し訴願したが、同委員会もまた同年八月十五日原告
等の請求を棄却するとの裁決をした。そこで原告等は右の裁決を取消し本件新潟市
議会議員選挙を無効とするとの判決を求めるため、本訴に及んだ次第である。
 被告の抗弁に対しては、本件選挙の投票用紙の様式が市長選挙は黒刷、議員選挙
は赤刷に区別せられ、これについての注意が投票所に掲示されていたという事実は
認めるが、その他の被告主張事実はすべて否認すると述べた。
 立証として、甲第一ないし第三号証、第四号証の一、二を提出し、証人B、H
1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H1
2、H13、H14、H15、H16、H17、G、H18、H19、H20、H
21、H22、H23、H24、H25、H26、H27、H28、H29、H3
0、H31、H32、H33、H34、H35、H36、H37、H38、H3
9、H40、H41、E4の各証言及び原告本人I尋問の結果並びに検証の結果を
援用し、乙第一号証の一、二、第四、第五号証の成立は不知なるも、その余の乙号
各証の成立は認めると述べ、乙第六、第七号証及び第八号証の一ないし五を援用し
た。
 被告訴訟代理人は原告等の請求を棄却する、との判決を求め、答弁として、原告
等が昭和二十六年四月二十三日に行われた新潟市議会議員選挙における選挙人であ
ること、原告等がその主張の日に市選管委に対し右選挙無効の異議申立をなした
が、同委員会において原告等主張の如き決定がなされたこと、更に原告等がその主
張の日に被告に対し訴願をしたが、被告が原告等主張の如き裁決を為したことを認
め、その他の原告等の主張事実については、次のとおり述べた。
 第一、 一、(1)昭和二十六年四月二十三日に議員選挙と市長選挙が同時選挙
として行われたことは認めるが、市選管委で投票の順序に関し、議員選挙を先に市
長選挙を後に行わしむ旨決定し、これを投票管理者及びその代理者の会議並びに市
嘱託員会議で指示し、または原告等主張のような選挙事務行程を作成して配布した
こと、及び一般有権者に対し投票順序に関し積極的に周知せしめるの措置を講じた
ことは否認する。ただ昭和二十六年四月十一日投票管理者事務打合会で、事務取扱
上の一応の内部的申合せとして、二つの選挙の投票用紙を同時に交付し同時に投票
せしめる方法を排し、各別に投票を行わせる方法を採るために議員選挙を先、市長
選挙を後ということが、協議打合せられたにすぎない。この協議打合せの結果を参
酌して投票順序の図解表を附した選挙事務行程表を作成した投票所もあつたが、本
件第二十五投票所ではこのような図解表を附した行程表は作成せず、投票順序には
何ら触れない投票事務分掌表を作成し、これを各係主任に配付したに過ぎない。
 (2) 右第二十五投票所において、午前七時から午前九時頃までの約二時間、
市長選挙を先、議員選挙を後の順序で投票を行わせた事実は認める。しかしこれが
ため多数の選挙人が錯誤に陥り、その結果多数の無効投票を生じたということは争
う。もともと議員先、市長後という投票順序は、一般選挙人には知られていなく
て、投票所に行つてみれば、市長選挙の投票場所と議員選挙の投票場所とは明確に
区分され、それぞれ設備の上で間違いようがない状況となつていたし、事務従事者
が終始懇切に選挙人を指導した。更に投票用紙の様式も、市長選挙は黒刷、議員選
挙は赤刷に区別され、これについての注意が投票所に掲示されていたので、選挙人
が誤解したようなことは到底考えられない。また同投票所の属する第五開票区の無
効投票は、他の開票区に比べてみても、次のように決して多いものではないし、無
効投票の総数自体も多くない。
<記載内容は末尾2添付>
 その内訳に至つては、各投票区により区々であることは通例で且つ当然である
が、第五開票区には第二十五投票所の外数投票所が所属し、その総投票が混同され
ていて(公選法第六六条第二項)区分することができないのであるから、たまたま
同開票区において候補者でない者の氏名を記載した無効投票が比較的多いからとい
つて、それが第二十五投票所において多かつたのか、或は反対に少なかつたのか
は、全く不明である。
 (3) 原告等が表にして示した(第一の一の中に)開票区別、投票総数、無効
投票数、その中候補者に非ざる者の氏名記載数、同上二者の比率はこれを認める。
但し第三開票区の投票総数は一八、一一二票である。しかしこれに基く原告等の論
旨は否認する、即ち第五開票区で候補者に非ざる者の氏名を記載した無効投票数
の、無効投票総数に対する比率が高いのは、同開票区における無効投票の総数が多
くないからで、投票総数に対する比率についてみれば次のとおりであり、必ずしも
特に高率というべきものではない。
<記載内容は末尾3添付>
 なおもし原告等のいう如く選挙人が錯誤に陥つて投票を誤つたとするならば、議
員選挙においてのみならず、市長選挙においても同様の事実が現われなければなら
ないが、市長選挙の状況は左のとおりであつて、第五開票区における無効投票中候
補者に非ざる者の氏名を記載したものの数は、無効投票総数に対する比率から云つ
ても、投票総数に対する比率から云つても、他の開票区に比較して決して高いもの
ではない。
<記載内容は末尾4添付>
 右のように第五開票区における無効投票中に、候補者に非ざる者の氏名を記載し
たものの数がいささか多いとしても、前述の如く混同開票で投票所毎に区別できな
いから、その原因が果して第二十五投票所に多かつたためかは不明である。
 (4) 同時選挙の場合において、何れの選挙の投票を先にし、何れの選挙の投
票を後にするかという投票順序の決定は、「投票に関する事務」であつて投票管理
者の担当するところである(公選法第三十七条第四項、第百二十三条参照)。見方
をかえていえば同時選挙の各選挙についての投票所を定めることに外ならないの
で、投票管理者が職務権限を有するものと解すべく、選挙管理委員会の職務権限で
はない。また何れの選挙管理委員会もこれについて投票管理者、開票管理者、選拳
長を指揮監督することができるものでもない。投票順序は、公選法第六条第一項に
いう周知せしむべき事項であるとしても、周知の職務と周知せしむべき事項を決定
する権限とは、全く別個の問題である。
 (5) 第二十五投票所において或る時間、市長選挙の投票を先に、議員選挙の
投票を後に行わせたことは、事前の投票管理者事務打合会における協議打合に違う
ものであつたけれども、右事務打合会における協議打合は何ら法的拘束力を有する
ものではなく、共同の調査研究に過ぎないのであるから、これがため投票手続が違
法となるものではない。また事柄の性質から云つてもどちらの投票を先にしなけれ
ば選挙の自由公正が保たれないというものではないから、どちらを先にしなかつた
からと云つてその選挙の無効原因が生する筋合ではない。なお右事務打合会の協議
打合に反する措置をとつたため、多数の選挙人を錯誤に陥れたという事実の全くな
いことは、前述のとおりであるからこれがため選挙の効力に影響を生ずべき筈はな
い。
 二、 市選管委が議員選挙と市長選挙につき、投票の順序を一般選挙人に周知せ
しめる方法をとらなかつたことは認めるが、この措置は何ら違法ではない、公選法
第六条第一項は常の啓蒙宣伝についての、勧奨的訓示的規定であり、これによつて
如何なる範囲の事項を周知せしめるかは、選挙管理委員会の自由裁量に属すること
で、同時選挙の場合における投票順序は、投票所に行けば極めて明瞭であるから、
啓蒙運動としても予め選挙人に周知せしめる必要のない事項であるのみならず、前
述の如く各投票管理者が決定すべき事項であるのを、選挙管理委員会がある予想の
下に周知宣伝を行うことは、むしろ差控えるが至当である。
 三、 第二十五投票所が途中で投票順序を変更したことは、むしろする必要はな
かつたことで、一つの行政上の失態であつたことは認めるが、これがため選挙が違
法となるものではない。順序変更に当り投票を休止した時間は、僅か三分ないし五
分であつて、このために投票を断念して引上げた選挙人はない、現に棄権率から云
つても第二十五投票所は〇・〇八二%で全市各投票所の平均〇・〇九五%よりむし
ろ低いのである。従つて右の投票の休止は実害を伴わず、選挙の自由公正が害せら
れたものではないから、選挙の効力に影響を生すべきものではない。
 第二、 第二十四投票所において、訴外Fが代理投票についての投票補助者に指
定されたものでないことは認めるが、同人は選挙人G等数十名ないし百数十名のた
めに代筆投票をしたことは否認する。もしかかる事実があつたとすれば、そこに選
挙罰則に触れる重大な犯罪事実があるとしなければならないが、今日までかかる犯
罪事実につき刑事手続は開始されていない。
 立証として、乙第一、第二号証の各一、二、第三号証の一ないし五、第四ないし
第七号証、第八号証の一ないし五を提出し、証人B、H1、H2、H3、H42、
H43、H44、H45、H46、F、D、H47、H48、H49、河内啓助の
各証言並びに検証の結果を援用し、甲第三号証の成立は不知、その他の甲号各証の
成立は認めると述べた。
 補助参加人指定代理人は、本件訴訟の結果につき利害関係を有すること明かであ
るから、被告を補助するため本訴訟に参加するものであると申出で、原告等の請求
棄却の判決を求め、被告訴訟代理人と全く同一に事実上の陳述、証拠の提出、援
用、認否を為した。
         理    由
 原告等三名が、昭和二十六年四月二十三日に施行された新潟市議会議員選挙(以
下議員選挙と略す)の選挙人であること、右選挙は同日新潟市長の選挙(以下市長
選挙と略す)と同時に行われたものであること、原告等が同年五月六日新鴻市選挙
管理委員会(以下市選管委と略す)に対し右議員選挙無効の異議申立をしたとこ
ろ、同委員会は同月二十八日原告等の申立を却け右選挙は有効である旨の決定をな
したこと、これに対し原告等は同年六月十八日被告に訴願したが、被告もまた同年
八月十五日原告等の請求を棄却する旨の裁決をしたことは当事者間に争がない。
 よつて原告等が主張する右選挙は無効であるとなす各理由について順次判断をす
すめる。
 第一、 一、新潟市石山区木戸小学校に開設せられた右選挙における第二十五投
票所において、投票開始の午前七時から同九時頃までは、選挙人に対し先に市長選
挙の投票用紙を交付して投票させ、次いで議員選挙の投票用紙を交付して投票さ
せ、九時頃しばらく投票を休止し(その間の経過時間については争があるが、この
点は後記三に述べる)、これを変更して議員選挙を先、市長選挙を後という順序で
選挙が行われたことは、当事者間に争がないが、原告等は、右投票の順序は公職選
挙法(以下公選法と略す)第六条第一項にいう「投票の方法」ないし「選挙に関し
特に必要と認める事項」に属するので、市選管委は議員選挙を先、市長選挙を後と
いう投票順序を決定し、且つこれを選挙事務従事者及び関係者に周知徹底せしめた
外、一般選挙人に対しても周知を図つたに拘らず、第二十五投票所の投票管理者が
濫りにその順序を変更して、前記の如く約二時間に亘り市長選挙先、議員選挙後の
投票を行わしめたのは、公職選挙法第六条第一項に違反し、これがため多数の選挙
人を混乱に導き錯誤に陥れて、候補者に非ざる者の氏名を記載した多くの無効投票
を生ぜしめた旨主張するので按ずるに、公選法第六条第一項は公職の選挙に関する
概括的な総則的規定の一つで、各種の選挙管理委員会に対し、選挙に関し特に必要
と認める事項を、平常時においても一般選挙人に周知せしめること、及び棄権防止
につき適切な措置を講ずべきことを訓示したものであり、所謂効力規定ではなく、
その内容も頗る抽象的ではあるが、選挙管理委員会がこの規定の趣旨に著しく違反
することも考えられないわけではないから、これがため選挙の結果に異動を及ぼす
虞がある場合があつたならば、同法第二百五条によりその当該選挙の全部又は<要旨
第一>一部の無効を来すこと勿論である。ところが本件のように同時に議員選挙と市
長選挙が行われる場合に、選挙人に投票用紙を同時に交付し候補者氏名
の記載も同時にさせるか、或はまず一方の投票用紙を交付しその投票を済ませてか
ら後、他方の投票用紙を交付しその投票を別に場所を設けさせるか等の方法を、予
め決めておくことは、多数の選挙人が同一の投票所で、混雑を来すことなく公正に
投票するについて、必要な事項にはちがいないが、それを決めること自体は、原告
等の主張するように、公選法第六条第一項によつて市選管委の法律上の義務とせら
れているものと、解することはできない。本来投票に関する事務であつて、その担
当者(同法第三十七条第四項)である投票管理者が決定すべきことである。投票管
理者は当該の投票所だけについて独自にこれらの方法を決定することもあるであろ
うし、また市全域の投票管理者が劃一的な方法を協議打合せることもあるであろ
う。これを本件についてみるに、原告等主張の如く市選管委で議員投票先、市長選
挙後なる順序をきめたという事実は本訴に顕われたすベての証拠を以つてしても、
これを確認するに足らないのみならず(証人H12の証言により成立の認められる
甲第三号証にある投票順序を示した図解表の記載、証人H14、H17の各証言
中、選挙当日新潟市の第一農業協同組合の事務所から市選管委へ電話で問合わせた
ところ、議員選挙が先、市長選挙が後という返事があつた旨の供述部分、証人H1
0、H50、H15、H17の各証言中、選挙運動の際候補者や運動員が、メガホ
ンやラウドスピーカーで、投票の順序は議員選挙が先、市長選挙が後という宣伝を
していた旨の供述部分、証人H6、H12の各証言中、昭和二十六年三月二十八日
の市の事務嘱託員の打合会のときすでに、市選管委の安藤委員長から、投票順序に
つき議員のを先、市長のを後にするということに話があつた旨の供述部分も、未だ
この事実を肯認する証拠とするに足らぬ)むしろ証人H43の証言により成立の認
められる乙第五号証、証人B、H43、H44、H46の各証言を総合すれば、市
選管委としては投票の順序につき何等の決定をしたこともない事実並びに選挙前昭
和二十六年四月十日頃に、投票管理者及びその代理者の事務打合会において、昭和
二十二年の知事、県会議員の際選挙人に両投票用紙を同時に交付し、ために投票に
あたつてやや混乱を生じたことのあつたのに鑑み、投票の順序をきめて各別に投票
用紙を交付すべきだとの意見が出て、議員投票を先、市長投票を後にしようという
申合せがなされ、本件選挙の際は第二十五投票所を除く他の投票所ではすべて、終
始その順序で選挙が行われた事実、また証人B、H1H2、H3の各証言によれ
ば、第二十五投票所では投票管理者Bが投票の順序を市長先、議員後ときめて、投
票を開始したところ、他の投票所ではその逆に議員先、市長後で投票しているとい
う話が入り、立会人から意見も出て、立会人たりしH1、H2、H3と協議の上、
他と同じような順序に変更することにきめた事実を認めることができる。しかも第
二十五投票所で前記のように投票開始後二時間に亘り、右打合せとは逆の順序で選
挙投票の行われたのは、証人H4の証言によると、前記打合せのあつた事務打合会
に、第二十五投票所から投票管理者の代理として出席したH4が協議打合の結果を
反対に聞き違えて投票管理者に報告したのに、基因することが窺われる。してみれ
ば、市選管委で投票の順序を決定してあつたのに拘らす、第二十五投票所でこれに
従わず、同所の投票管理者が擅に投票の順序を変更して選挙投票を開始し、その後
二時間を経て市選管委の決定した順序に改めたことが、選挙の規定に違反するのだ
という前提に立つ原告等の主張は、すでにこの点において失当と云わざるを得な
い。のみならず始めに市長先の順序で投票が行われたがため、選挙の結果に異動を
及ぼす虞のあるような多数の無効投票を生ぜしめたという事実は、本訴に顕われた
全立証を以てするも、到底これを確認することができない。
 二、 次に原告等は、もし本件の場合市選管委が投票の順序について何らの決定
をなさなかつたとしても、投票管理者及びその代理者の事務打合会で、議員選挙
先、市長選挙後の協議打合ができたのであるから、市選管委においてこの点に関し
選挙人に対し周知徹底を図らなかつたことは、選挙法規の違反であつて、これがた
め選挙の結果に異動を及ぼす虞があると主張し、市選管委が右のような周知徹底を
図つたことのない事実は、被告も認めて争わないところであるが、前段に説示の如
く同時投票の場合、両者の順序を決めることは市選管委の法律上の義務でもなく、
投票管理者間で打合せて右の順序を決めた場合でも、これにつき市選管委が自ら一
般選挙人に周知徹底を図らなければ、選挙の法規に違反したことになると解するに
は当らないから、原告等のこの点の主張も採用できない。
 三、 更に原告等は、本件選挙の投票時間中午前九時頃から約三十分間に亘り事
実上投票所を閉鎖し、その間選挙人をして投票することのできない状態を惹起せし
めたのは、公選法第四十条に違反したもので、これがため<要旨第二>実際多数の棄
権者を出だし、選挙の結果に異動を及ぼす虞がある旨主張するので、審按するに、
選挙の投票を開始してからみだりに投票所を閉鎖し、ために多数の棄権
者を生じ、またはその後の投票の混乱を来たすようなことがあれば、公選法第四十
条の違反を以つて目することもできようが、投票所の整理その他正当な理由があつ
て投票者にしばらく入場を待つて貰うようなことがあつただけでは、未だ選挙の法
規に違反したというに当らぬ。本件の場合に午前九時頃からしばらく、選挙人に投
票させることを休止した事実は、前示の如く当事者間に争がないが、その経過時間
については証人B、H1、H2、H3の各証言を綜合すれば、前示一、の中に認定
した如く投票の順序を変えることに決めてから、投票交付係の机上の投票用紙を置
きかえ、投票の交付所及び記載所のビラを貼り替えるため、選挙人のすくないとき
を見計つて約三、四分、長くかかつたとしても五分位を要し、その間投票を休止し
た事実を認めることができるし、(証人H8の入場前十五分位待さたれた旨の証言
だけではこの認定を覆すに足らぬ)このように選挙人をしばらく待たせ投票を休止
したことにより、原告主張のように同投票所において選挙の結果に異動を生ずる虞
のあるような棄権者を生じたとか、その後の投票の中に候補者をとりちがえたこと
による無効投票を沢山出したという如き事実を認むるに足る確証はない、証人H
7、H9、増井増雄、H10、H15、H16の各証言中には、右順序変更後の投
票の際議員の候補者と市長候補者の氏名をとりちがえた者のあることを聞知した旨
の供述部分もあるが、かかる伝聞のみによる証言では、未だこの事実を確認するに
足らぬ)。してみれば原告等のこの点の主張も理由がない。
 第二、 本件の選挙において新潟市役所石山支部に開設された第二十四投票所で
は、訴外Fが代理投票についての投票補助者でなかつた事実は、当事者間に争な
く、原告等は右Fが当日同投票所で選挙人G等数十名のため投票用紙に代筆してや
つた事実があり、それは公選法施行令第三十九条に違反すると主張するので調べて
みるに、成立に争なき甲第四号証の二(第二十四投票所の投票録)及び証人D、E
4の各証言によれば、当日同投票所で公選法第四十八条の代理投票をした者が十名
あつたことが認められるが、前示Fが無筆者のために投票の代筆をしたという原告
等主張事実については、証人G、H18、H19、H20、H21、H22、H2
3、黒井マヤ、H25の各証言中には、当日同投票所に投票に赴いたが、字が書け
ぬため代筆をして貰つた旨の供述部分かあり、その中証人G、H18、H20は、
Fと思われる人に代筆して貰つた旨漠然たる供述もしているが、右証人等はいずれ
も前記第四号証の二の公文書たる投票録中に代理投票者として氏名の一載つていな
い者ばかりであつて、たやすくその証言を信用することができないし、また証人H
41の証言中、Fが投票の代筆をしていた旨の供述部分は、次に認定するこれと反
対の事実に照らし措信し難いところであり、その他の原告等が該事実の立証に供せ
んとする各証人の証言は、いずれも伝聞した事実の漠然たる供述があるのみで、未
だ右事実を確認するに足らず、その他に右事実を認むることのできる証拠はない。
却て証人F、D、H47、H48、H49、E4の各証言を総合すれば、Fは当日
同投票所の投票用紙交付係であつて、投票時間中その席を離れたこともあつたが、
無筆者の代理投票をしたことは全くなかつた事実を認めることができるし、前示甲
第四号証の二の記載によれば、同投票所の投票録には十名の一代理投票者につき、
それぞれ代理投票者毎にその補助をした者の氏名が載せてあるが、その中にFの氏
名は全然記載されていない事実が認められる。よつて原告等のこの第二の主張もま
た理由なしとせざるを得ない。
 以上の次第であるから、原告等が本件選挙の無効であることを主張する本訴の請
求は、認容するに由なきを以つてこれを棄却すべきものとし、訴訟費用につき民事
訴訟法第八十九条を適用して主文の如く判決する。
 (裁判長判事 斎藤直一 判事 菅野次郎 判事 坂本謁夫)

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