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平成25年12月19日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成25年(ワ)第18129号商号使用差止等請求事件
口頭弁論の終結の日平成25年11月11日
判決
東京都千代田区<以下略>
原告三菱商事株式会社
東京都港区<以下略>
原告三菱重工業株式会社
上記両名訴訟代理人弁護士大野聖二
小林英了
本橋たえ子
千葉県鴨川市<以下略>
被告有限会社三菱合同丸漁業
同訴訟代理人弁護士本多清二
本多諭
主文
1被告は,その営業上の施設又は活動に,「有限会社三菱合同丸漁業」
その他の「三菱」の文字を含む商号及び標章を使用してはならない。
2被告は,「三菱」の文字を,船舶,魚類選別台,名刺その他の営業表
示物件から抹消せよ。
3被告は,千葉地方法務局平成14年8月1日設立の商業登記中,「有
限会社三菱合同丸漁業」の商号登記の抹消登記手続をせよ。
4被告は,原告らに対し,それぞれ10万円及びこれに対する平成25
年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5訴訟費用は被告の負担とする。
6この判決は,第3項を除き,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
主文第1項ないし第4項と同旨
第2事案の概要
本件は,原告らが,被告は,自己の営業表示として原告らの著名な営業表示
と同一又は類似のものを使用して,原告らの営業上の利益を侵害していると主
張して,被告に対し,不正競争防止法(以下「法」という。)2条1項2号,
3条に基づき,営業表示の使用の差止め並びに営業表示物件からの「三菱」の
文字の抹消及び被告の商号登記の抹消登記手続を求め,法4条に基づき,それ
ぞれ弁護士費用相当損害金10万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から
支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案で
ある。
1前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容
易に認めることができる事実)
原告三菱商事株式会社は,船舶や水産物等の売買及びこれらの生産,製
造・加工業等を目的とする会社であり,原告三菱重工業株式会社は,船舶等
の建造,販売及び修理等を目的とする会社である。
原告らは,いずれも「三菱グループ」と呼ばれる企業グループに属し,同
グループ及び原告らそれぞれの営業表示としていずれも著名な「三菱」との
標章(以下「原告ら営業表示」という。)を使用している。
(甲4ないし6,10,11)
被告は,平成14年8月1日に設立された漁業を目的とする会社である。
被告は,商号を「有限会社三菱合同丸漁業」(以下「被告商号」という。)
とする商業登記を経由し,その営業上の施設又は活動に,被告商号のほか,
「三菱合同丸」等の「三菱」の文字を含む標章(以下「被告営業表示」とい
い,被告商号と併せて「被告営業表示等」という。)を使用し,また,漁船
等の船舶,魚類選別台,名刺にこれらを表示している。
被告は,三菱グループに属する会社ではなく,原告らや三菱グループと何
ら経済的,組織的関連がない。
2争点
被告営業表示等が原告ら営業表示と同一又は類似するか否か(争点1)
被告が被告営業表示等を使用する行為によって原告らの営業上の利益が侵
害されるおそれがあるか否か(争点2)
被告が被告営業表示等を使用する行為について法3条及び4条の適用が除
外されるか否か(争点3)
3争点に関する当事者の主張
争点1(被告営業表示等が原告ら営業表示と同一又は類似するか否か)に
ついて
(原告ら)
被告商号や被告営業表示の要部は「三菱」の部分にあり,これは原告ら営
業表示と同一であるから,被告営業表示等は,原告ら営業表示と同一又は類
似する。
(被告)
被告商号や被告営業表示は,原告ら営業表示と同一でなく,類似もしない。
「三菱合同丸」との被告営業表示は,沿岸の巻網式漁業を家業とするA家が
代々用いてきた,船主と左右の漁船の船頭という三者の結びつきを象徴する
標章(等幅の横線を等間隔に上下に3本並べた下に菱形を配した図形から成
るもの。以下「本件マーク」という。)及び上記三者が合同して漁業を行う
ことから付けられた「合同丸」という名称に由来し,本件マークとともに用
いられてきたものであるから,被告商号や「三菱合同丸」等の被告営業表示
の要部は「三菱合同丸」の部分であり,「三菱」の部分のみを「合同丸」の
部分と切り離し観察して類否の判断を行うべきではない。
争点2(被告が被告営業表示等を使用する行為によって原告らの営業上の
利益が侵害されるおそれがあるか否か)について
(原告ら)
被告が被告営業表示等を使用すると,著名な原告ら営業表示の希釈化が生
じ,被告が原告らと経済的又は組織的に何らかの関連を有していて緊密な営
業上の関係があると誤認されるおそれがあるから,被告が被告営業表示等を
使用する行為によって原告らの営業上の利益が侵害されるおそれがある。
(被告)
被告は漁業を営んでいて,販売は漁業協同組合を通じて行うから,「三
菱」の表記を使用して顧客を吸引することは考えられず,その業務の内容及
び規模等からすると,被告が被告営業表示等を使用したからといって,原告
ら営業表示の希釈化が生じることはなく,被告が三菱グループと関連がある
と考える者もいないから,被告が被告営業表示等を使用する行為によって原
告らの営業上の利益が侵害されるおそれはない。
争点3(被告が被告営業表示等を使用する行為について法3条及び4条の
適用が除外されるか否か)について
(被告)
被告は,A家の家業を承継したこれと一体の事業体であり,A家では原告
ら営業表示が著名になる前の遅くとも昭和16年頃からその家業に被告営業
表示等を使用してきたのであって,被告が被告営業表示等を使用する行為は,
自己の氏名を不正の目的でなく使用するか,原告ら営業表示が著名になる前
から被告営業表示等を使用する者又はその業務を承継した者が被告営業表示
等を不正の目的でなく使用する行為に類するものであるから,被告が被告営
業表示等を使用する行為については,法19条1項2号,4号の類推適用に
より,法3条及び4条の規定は,適用されない。
(原告ら)
A家の氏と「三菱」とは無関係であり,原告ら営業表示が著名になる前か
ら被告営業表示等を使用していたという事実もないから,被告が被告営業表
示等を使用する行為について,法3条及び4条の規定が適用される。
第3当裁判所の判断
1争点1(被告営業表示等が原告ら営業表示と同一又は類似するか否か)につ
いて
被告商号は,「有限会社三菱合同丸漁業」であるが,このうち「有限会社」
の部分は会社の種類を表し,「漁業」の部分は事業分野を表す一般名詞で,特
定の営業を識別する機能はない。そして,「三菱」の部分は,著名な原告ら営
業表示と同一であり,「合同丸」の部分は漁業に関連する船舶の名称としてあ
りふれたものであって,「三菱」の部分が営業を示す識別標識として強く支配
的な印象を与えるものであるから,被告商号を見る者は,「三菱」の部分だけ
を独立して感得するものと認められる。このことは,「三菱合同丸」等の被告
営業表示についても同様であって,これを見る者は,「三菱」の部分だけを独
立して感得するものと認められる。そうすると,原告ら営業表示と被告営業表
示等との類否を判断するに当たっては,原告ら営業表示と被告営業表示等の構
成中の「三菱」の部分を対比するのが相当である。そして,これらは,称呼及
び観念が同一であるから,被告営業表示等は,原告ら営業表示に類似する。
被告は,被告商号や「三菱合同丸」等の被告営業表示の由来等からしてその
要部は「三菱合同丸」の部分であると主張するが,被告商号や被告営業表示を
見る者は,「三菱」の部分を独立して感得するのであって,このことは被告営
業表示等の由来や本件マークとともに用いられてきたことにかかわりがないか
ら,被告の上記主張は,採用することができない。
2争点2(被告が被告営業表示等を使用する行為によって原告らの営業上の利
益が侵害されるおそれがあるか否か)について
被告は,原告らや三菱グループとは何ら経済的,組織的関連がないのであり,
被告が自己の営業表示として著名な原告ら営業表示に類似のものを使用すると,
少なくとも原告らの信用等が化体した原告ら営業表示の希釈化が生じるおそれ
があるものといわざるを得ない。そうであるから,被告が被告営業表示等を使
用する行為によって原告らの営業上の利益が侵害されるおそれがあると認めら
れる。
3争点3(被告営業表示等を使用する行為について法3条及び4条の適用が除
外されるか否か)について
被告営業表示等は,A家の氏ではないし,A家の氏と何らかの関わりがある
ことを認めるに足りる証拠はない。
また,A家では原告ら営業表示が著名になる前の遅くとも昭和16年頃から
被告営業表示等を使用していたことを認めるに足りる証拠はない(被告が援用
する乙3の1(集合写真)には,本件マークの下に縦書きで「<以下略>」と
表示された幟や本件マーク等が表示された旗などが撮影されているに過ぎない
し,乙3の2(写真)は,船首に「第十九三菱合同丸」と表示された船舶が撮
影されたものであり,被告の主張するように,これが昭和31年ころに撮影さ
れたものであるとしても,前記前提事実に,証拠(甲1,2,4,5,11)
及び弁論の全趣旨を総合すれば,原告ら営業表示は,その頃よりも前から原告
らや三菱グループの営業表示として既に著名であったことが認められるから,
乙3の2は,A家が原告ら営業表示が著名になる前から被告営業表示等を使用
していたことを明らかにするものではない。)。
そうであるから,被告が被告営業表示等を使用する行為について,法3条及
び4条の規定の適用が除外されるとは認められない。
4原告ら営業表示の著名性に照らせば,被告には,原告ら営業表示に類似する
被告営業表示等を使用して原告の営業上の利益を侵害したことについて,少な
くとも過失があると認められるところ,本件事案の内容やその難易等,諸般の
事情を考慮すると,被告の侵害行為と相当因果関係に立つ弁護士費用相当損害
金は,原告らそれぞれにつき各10万円を認めるのが相当である。
したがって,原告らの請求は,すべて理由がある(訴状送達の日の翌日が平
成25年7月26日であることは,記録上明らかである。)。
5よって,原告らの請求は,すべて理由があるからこれを認容することとして,
主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官高野輝久
裁判官三井大有
裁判官志賀勝

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