弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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          主    文   
 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
 2 訴訟費用は原告らの負担とする。
          事 実 及 び 理 由
第1 請求
 1 被告は原告Aに対し,1589万2558円及び平成10年10月10日から支払済みまで
年5分の割合による金員を支払え。
 2 被告は原告Bに対し,794万6279円及び平成10年10月10日から支払済みまで年
5分の割合による金員を支払え。
 3 被告は原告Cに対し,794万6279円及び平成10年10月10日から支払済みまで年
5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
  原告らは,平成10年10月10日に死亡したDの相続人であるが,同月9日,Dは路上に
倒れ込んでいたところを車に轢き逃げされ死亡したものであり,警察官がDを保護していれ
ば,死亡することはなかったと主張して,Dの有していた損害賠償請求権を相続分に応じて
請求している事件である。
 1 当事者間に争いがない事実
   Dは,平成10年10月9日,岐阜県大垣市a町b丁目c番地先路上に倒れていたところ
を,同日午後11時5分ころ,走行してきた車輌に轢かれ(以下「本件事故」という。),E病院
に搬送されたが,頭蓋骨骨折による出血性ショックによって,同月10日午前0時34分に死
亡した。原告AはDの妻,原告B及び原告CはDの子であり,Dの地位を原告Aが2分の1,
原告B及び原告Cが各4分の1の割合で承継した。
 2 原告の主張
   警察官は,道路上に倒れている者があった場合においては,これを救助するなどして,
車輌による轢過等の事故が発生しないようにすべき義務があるが,次の(1)から(5)までに記
載したうちのいずれかの過失によりこの義務を怠り,警察官が現場に臨場するのが遅れ,D
を本件事故の前に救護することができなかったため,本件事故によって死亡させ,Dに下記
の損害を生じさせたから,原告らは,Dの有していた損害賠償請求権を相続分に応じて請求
する。
          記
  医療費                       1万3870円
  文書料                         4440円
  葬儀費用等                   244万1000円
  逸失利益                   2062万6944円
    Dの死亡する前年の年収は233万8062円であり,Dは昭和24年2月19日生まれ
であるから,就労可能年数18年に相当する新ホフマン係数12.6032を用い,生活費控除
割合を3割とする。
    2,338,062×12.6032×(1-0.3)=20,626,944
  慰謝料                    3000万円
  損益相殺                  -2568万1138円
    自動車損害賠償保障法による損害のてん補
  弁護士費用                   438万円
 (1) 本件事故の前に,路上に人が倒れている旨の110番通報があり,現場を「d交差点
から東ロッテリア前」と特定したが,通信指令室から所轄の大垣警察署に指令をする段階
で,「d交差点からロッテリア前付近」と連絡したため,現場を特定するための情報の一つで
ある「東」が欠けた。
 (2) 通信指令室から連絡を受けた大垣警察署の宿直員が警邏中の大垣11号に乗務す
る警察官に対して現場を指示するに当たり,通信指令室からの連絡が「d交差点から東ロッ
テリア前」であったにもかかわらず,現場を特定するための情報の一つである「東」が欠落し
た情報を伝えた。
 (3) 大垣警察署の宿直員が「東」という情報を欠落させたことがないとしても,d交差点か
ら東には,ロッテリアの店舗は存在せず,ケンタッキーフライドチキンの店舗が存在すること
を知っていたから,大垣11号に乗務する警察官に対しては,「d交差点から東ファーストフー
ド店前」又は「d交差点から東ケンタッキーフライドチキン店前と思われる。」と連絡すべきで
あったのに,これを怠った。
 (4) 本件事故の現場が大垣警察署の近くであったことは容易に推定することができるか
ら,大垣11号に対して指令を出すだけでなく,大垣警察署の宿直員は,同署の警察官を出
動させるべきであったのに,平成10年10月9日午後11時4分まで出発させなかった。
 (5) 大垣11号に乗務する警察官は,現場が「d交差点から東ロッテリア前」であると連絡
を受け,d交差点から東には,ロッテリアの店舗は存在せず,ケンタッキーフライドチキンの
店舗が存在することを知っていたから,d交差点を東へ向かって進んでDを探すべきであっ
たのに,同交差点を南へ向かった。
 3 被告の主張
   本件事故の前に,路上に人が倒れている旨の110番通報があったのが平成10年10
月9日午後11時0分ころであり,本件事故が起きたのは同日午後11時5分ころであるか
ら,わずかな時間のうちに,不十分な情報から現場を特定し,警察官を臨場させ,Dを救護
する措置を講ずることは不可能であった。
 4 争点
   被告が過失により,道路上に倒れているDを救助するなどして,車輌による轢過等の事
故が発生しないようにすべき義務を怠ったか否か。
第3 判断
 1 乙第2号証及び第3号証,証人F及び証人Gの証言並びに以下に摘示する証拠によれ
ば,次の事実経過が認められる。
   平成10年10月9日午後11時0分ころ,携帯電話から「男の人が路上にねておりひき
そうになった 危ないのでみてほしい」との110番通報があり,岐阜県警察本部通信指令室
のF警部補が受理した(乙第1号証の1及び2)。F警部補は,通報者と通話を続け,現場の
特定を行い,「d交差点から東ロッテリア前」という線まで絞り込んだが,F警部補が参照して
いた地図ではd交差点から東方向に進行した沿道にロッテリアの店舗がないことから,同日
午後11時4分まで,現場を特定するための問答を繰り返した。F警部補の受理直後の同日
午後11時2分,指令担当のH警部補は,大垣警察署に対し,「路上に人が寝ており危険で
あるとの通報,探してほしい」との指令を出した。その後,大垣警察署の担当者は,警邏中
の大垣11号に対して「dの交差点のロッテリア付近で路上に人が倒れていて危険であるの
で,検索に向かえ。」との指令を出した。大垣11号に乗務していたI巡査長及びG巡査は,d
交差点から東方向にはロッテリアの店舗が存在しないことから,ロッテリアと類似するファー
ストフード店が多いd交差点から南方を検索することにし,同交差点を南進していたところ,
後続の自動車の運転手からクラクションで呼び止められ,その運転手から路上に人が倒れ
ていたと聞いたため,再び同交差点方向に向かい,その途中で8番らーめんの店舗前で交
通事故発生との無線連絡を傍受した。本件事故の110番通報は,同日午後11時6分ころ
にされている(乙第4号証)。
 2 証人Fは,Dが倒れている現場を特定するための情報として,「d交差点から東ロッテリ
ア前」というところまで特定したと証言するが,証人Gは,d交差点,ロッテリアの2点は言わ
れたが,東という点は聞いていないと証言する。したがって,通信指令室における指令の段
階又は大垣警察署の宿直員がした指令の段階のいずれかにおいて,東という情報が欠落
したことが推認される。
   ところが,「d交差点」,「東」及び「ロッテリア」の三つの情報を全て満たす場所は存在し
ないから,東という情報が加わわれば,最初の110番通報から本件事故の発生までの約5
分間で,現場の特定に成功し,Dを保護することが可能になったという関係にはない。また,
一般に,方角はコンパス等を所持するのでない限り,通報者の判断が加わっていることが多
く,交差点や店舗の名前は,通報者が直接認識した可能性が高いことから,三つをすべて
満たす場所がない場合に,認知の誤りが比較的生じやすい東という情報を欠落させ,d交差
点及びロッテリアという情報を重視したとしても,あながち不相当ではなく,それによって本件
事故を防止することができなかったということはできない。
 3 原告らは,d交差点から東には,ロッテリアの店舗は存在せず(甲第17号証),ケンタッ
キーフライドチキンの店舗が存在するし,同店舗は大垣警察署の近くである(甲第14号証
の2)から,大垣警察署の警察官ならばこのことを知っていたはずであり,「d交差点から東ロ
ッテリア前」という情報は,「d交差点から東ケンタッキーフライドチキン店前」と解釈すること
ができたはずであると主張する。
   一般的にロッテリアとケンタッキーフライドチキンの店舗が似ていて混同されている事実
があるのであればともかく,通報者からロッテリアという固有名詞が出ているのに,これをケ
ンタッキーフライドチキンと断定的に解釈することは適切でない。したがって,警察官が原告
らの主張するような解釈をしなかったとしても過失があるとはいえない。
   ところで,原告らの前記主張は,「ロッテリア」という情報を「ファーストフード店」と拡張解
釈することを前提にするものであるが,前記認定のとおり,このような解釈は,大垣11号に
乗務する警察官によって行われていたことが認められる。したがって,d交差点を南進して検
索を行おうとしたことは不相当ではなく,大垣11号に乗務していた警察官に過失はない。原
告らの主張は,d交差点から東であることを前提にし,「ロッテリア」とはケンタッキーフライド
チキンの店舗を誤って認識した結果であるとの解釈に立って初めて成り立つものであるが,
本件において,通報者からの不十分な情報をもとにして,ここまでの解釈をすることは警察
官に要求されない。
 4 平成10年10月9日午後11時4分,大垣警察署から大垣35号がDを探すために出発
したことは争いがない。前記認定の事実によれば,大垣35号の出発の時点では,現場の特
定はされておらず,本件事故の現場が大垣警察署の近傍であることは認識されていなかっ
たことが認められる。原告らは,大垣35号の出発が遅れたことが過失であると主張するが,
現場の特定につながる新たな情報がない時点においても,検索のため2台目の警察車両を
動員したことは適切な措置であり,結果的にDを発見することができなかったからといって,
被告に過失があったということはできない。
 5 以上のとおり,本件事故は,結果からみれば,大垣警察署の近傍において発生したも
のであるが,現場を特定する情報が不十分であり,通報から本件事故の発生まで約5分間
しかないという状況下で,関係する警察官が職務に精励したが,不幸にして防ぐことができ
なかったものであり,結果論から過失を論ずることは妥当でない。
   なお,原告らは,本件事故のひき逃げ犯人が逮捕されず,捜査状況についての説明が
不適切なこと,警察発表によりDにとって不名誉な報道がされたことについて不満を持って
いる旨の主張をしている。しかし,これらの事後的事情如何によって本件事故を未然に防ぐ
ことができなかったことについての被告の過失の有無が左右されるものではない。また,警
察発表を歪曲して報道がされることもあり,本件についての警察発表が不適切であったこと
を認めるに足りる証拠はない。さらに,原告らの本件請求全部がDの損害賠償請求権を相
続したという構成をとっている以上,遺族固有の損害は本件請求の範囲外である。
 6 よって,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき民事
訴訟法第61条,第65条第1項本文をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
 岐阜地方裁判所民事第2部
             裁判官      古   閑   裕   二

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