弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各控訴を棄却する。
     (訴訟費用に関する部分省略)
         理    由
 本件各控訴の趣意は、被告人全員につき被告人全員の弁護人小林直人名義の控訴
趣意書および控訴趣意書補充書、被告人A・同Bにつき同被告人等の弁護人岡村正
善・村田継男連名名義の、被告人Cにつき同被告人の弁護人東城守一名義の各控訴
趣意書記載のとおりであるから、これらをここに引用しつぎのとおり判断する。
 小林弁護人の控訴趣意第一点、岡村・村田両弁護人の控訴趣意第三点・東城弁護
人の控訴趣意第一点について。
 所論はDは正規の車掌ではなく、被告人等には同人が車掌であることの認識はな
かつたし、列車は発車の準備が完了していなかつた状態であり、しかも被告人等に
は原判示のごとき共同暴行の事実はない、という。
 右所論のうち、被告人等の暴行の点を除くその余の主張については後記小林弁護
人の控訴趣意第四点およびその補充、岡村・村田両弁護人の控訴趣意第二点、東城
弁護人の控訴趣意第二点における判断を引用する。すなわち、Dは正規の車掌であ
り、被告人等にもその認識があつたことが十分認められるし、列車は発車すべき状
態にあつたものであり、Dの行為は職務執行行為である。
 よつて、被告人等の暴行の事実について考察する。
 まず、被告人B・Aの行為について、所論はBは緩急車内にははいつたけれども
暴行はしていないし、Aは単にDに対し乗車しないように説得したにすぎないと主
張し、所論指摘の証拠中にはこれに符合するがごとき供述部分があるけれども、こ
れらの証拠は原判決挙示の証拠に照すと到底措信し難く、原判決挙示の証拠を綜合
して考察すると、まさに原判示のとおり、一六四列車は中二番線で最後の組成を終
り、一五時四四分頃北二番線に引き直され、発車線についたとき、ピケを張つてい
た組合員が右貨物列車の緩急車内に車掌が乗務しているのを発見し、緩急車の左右
から「開けろ」「降りろ」と叫んでいるうち、被告人Bは緩急車前方左側窓に手を
差しいれ、組合員Eは足をこぢいれ、ついに窓を押し開き、侵入を阻止しようとす
るD等の抵抗を排除して、まずEが、ついで被告人Bが右の窓から緩急車内に侵入
し、ここに両名は、恰もその頃該車輌のデツキに通ずる扉の硝子が破れ、デツキか
ら車内に侵入してきたF・G等と一体となつて、車掌Dの身体を押し或いは引張る
などして同人を車外に出し、間もなくその現場に来投した被告人Aも右の者等と一
体となつてDの左腕を捉らえたり、身体を抑止したりして乗車を阻止したことが十
分認められる。このように、車掌Dの乗車を阻止する共同目的の下に、被告人B・
A等が他の数名の者と現場において一体となつて、順次同車掌に暴行を加えた以
上、同被告人等に暴行についての共同認識のあつたことは明らかであり、同被告人
等の所為が暴行の共同正犯にあたることは当然である。
 つぎに被告人Cの行為について考察する。
 原判決挙示の証拠を綜合すると、原判示のとおり、同被告人が外一名とともに、
緩急車後部端梁に乗車せんとするDの右足を掴んで引き落したことが十分認められ
る。所論は、Dが引き落された直後Cを難詰せず他の一人のカツターシヤツを着た
男のシヤツを掴えて難詰していること、証第三号によると、被告人CはDの身体の
どこも掴えてはおらず、単に走つていることが明らかであるというのであるが、原
判決は被告人Cが他の一名と共同で引き落したとの認定であり、引き落した二人の
うちまず逃げようとする者を難詰するのはむしろ自然であり、その際被告人Cが同
時に難詰されていないからといつて、同被告人が暴行を加えないという証左とはな
し難く、また証第三号によつては所論のように被告人CがDの足を引張つていない
ことが明らかではなく、かえつて、当審鑑定人原田正の鑑定書によると、証第三号
は鮮明度を欠ぎこの証第三号の写真自体からは四分の不確実の範囲でしか判断でき
ず、その範囲で判断すると四分・六分の割合で掴んでいると見られる度合が、掴ん
でいないと見られる度合より高いことが認められるので、この写真は右の所論の掴
んでいない証拠にはならない。原判決挙示の証拠中証第一・二号の各証によると、
同被告人は当初ピケラインにいたのであるが(証第二号の一一ないし一五)、その
後は被告人B、Eらの緩急車内侵入を援護して(証第二号の二四)侵入させた後自
からも緩急車のデツキに乗り(証第二号の二九ないし三一、証第一号の九・一
〇)、Dの身体に接着するようにして、附き纏い、漸次積極的な行動に移つてお
り、これに、原判示事実に照応する被害者たるDの原審公判廷における供述、目撃
証人H、I、J、K、Lの原審公判廷における各供述を綜合すると原判示事実を優
に認め得るから、原判決には所論のごとき事実の誤認はない。所論はひつきょう原
審の措信しない証拠にもとづいて原判決の認定を批難するに帰し理由がない。
 小林弁護人の控訴趣意第二点(補充書による補充部分を含む)および東城弁護人
の控訴趣意第二点の(三)について。
 所論は原判示国有鉄道(以下単に国鉄と呼ぶ)職員の休暇闘争は正当な組合活動
であり、被告人等の所為に対しては公共企業体等労働関係法(以下公労法という)
第三条、労働組合法(以下労組法という)第一条第二項を適用すべきであり、仮り
に被告人等の所為に逸脱があつても刑法第三六条・第三七条を適用して刑の減免を
なすべきであるのに、これらを認めなかつたのは事実の誤認と法令適用の誤りがあ
るという。
 まず、原判示国鉄の休暇闘争について考察する。
 所論は、右の休暇闘争は正当な組合活動であると主張する。一般に労働者が休暇
をどのように利用するかは自由であろう。しかし、休暇請求権が所論のごとく形成
権であるかどうかはともかくとして、それが個々的でなく一斉に、即ち、組織的・
集団的に労働条件の維持改善の要求貫徹のために業務の正常な運営を阻害すること
を目的として利用されるならば、それは形式の如何にかかわらず、まさに争議行為
として評価されるべきである。本件の三割休暇闘争の実態は原審で取り調べた証拠
によると、昭和二九年一一月二五・二六・二七日の三日のうち一日宛休暇を組織的
に一斉に請求させ、列車のダイヤを混乱におとしいれ国鉄当局に打撃をあたえるこ
とを狙いとしてなされたものであることが認められる。すなわち、国鉄労組がその
主張を貫徹するために、組織的に業務の正常な運営を阻害することを目的とし、少
くとも正常な運営が阻害されることを予知しながらなしたものである以上争議行為
といわざるを得ない。
 しかして、公労法第一七条によると、公共企業体たる国鉄職員は争議行為を禁止
されている(同条の合憲性については後記説示のとおりである)以上三割休暇闘争
は正当な組合活動ではなく、争議行為として違法であると断定せざるを得ない。
 このように休暇闘争という争議行為自体が違法であり、しかも、これを強行する
ために統制の下に原判示のとおり、第一行動隊は車掌区事務室前にピケツトライン
を張り、当日入出区者の確認をなし、休暇割当職員の出動を阻止し、当局その他の
スト破りを阻止し、併せて外部単産の支援を指揮してピケの行動に参加させ、第二
行動隊は第一行動隊の隣位置に集結し、列車発車の際は列車の出発地に移動し、運
行停止の列車に代替要員を乗車させることを拒否すると同時に休暇実施による運行
停止列車の運行停止を確認し、第三行動隊は原則として定位置は第一行動隊の隣接
地区とし、当局のスト破り、又は不当労働行為を阻止する、第四行動隊は当日の割
当休暇の組合員を当局の業務命令が届かないよう一定場所に集合せしめ、或いは他
へ移動し、勤務に就かせないよう説明指導するよう夫々任務についていたのであ
る。これら一連の行動は禁止された争議行為であり所論のごとく正当な組合活動と
いえないことは勿論である。のみならず被告人等はいずれもDに対し暴行を加えた
ものであるから、原判決が被告人等の行為に対して公労法第三条・労組法第一条第
二項、刑法第三六条・第三七条を適用しなかつたのは当然であつて、原判決には所
論のごとき事実誤認ないし法令適用の誤りはない。論旨は理由がない。
 小林弁護人の控訴趣意第三点(補充書による補充部分を含む)、岡村・村田両弁
護人の控訴趣意第一点、東城弁護人の控訴趣意第二点(一)について。
 所論は、国鉄職員は刑法第九五条の公務員に該当しないし、同条の保護法益は権
力関係を内容とする公務の場合を指し、国鉄の業務は私企業的性格を有するにすぎ
ないから国鉄職員の業務に対する反抗は業務妨害とはなつても刑法第九五条の公務
執行妨害にはならないという。
 刑法における公務員の定義は同法第七条に「本法ニ於テ公務員ト称スルハ官吏、
公吏、法令ニヨリ公務ニ従事スル議員、委員、其ノ他ノ職員ヲ謂フ」と規定してい
る。日本国有鉄道法(以下国鉄法という)第三四条第一項には、「役員及び職員は
法令により公務に従事する者とみなす」とある以上国鉄職員は刑法における公務員
といわざるを得ない。所論は右の「みなす」の趣旨は経済罰則の整備に関する法律
第一条、国民金融公庫法第一七条、日本輸出入銀行法第一七条、日本開発銀行法第
一七条、日本電信電話公社法第一八条、農林漁業金融公庫法、中小企業金融公庫法
第一七条に「刑法その他の罰則の適用については法令により公務に従事する職員と
みなす」と同一趣旨であつて、刑法その他の罰則の適用についてだけ役職員を公務
員とみなすにとどまり、国鉄の業務を公務とする趣旨ではないというけれども、国
鉄法第三四条の規定の仕方は右経済罰則の整備に関する法律第一条等と明らかに異
る(経済罰則の整備に関する法律に規定する別表甲号・乙号掲記の経済団体の職員
はいずれも本来の意義における公務員ではなく、ただ甲号団体の職員に限つて罰則
の適用については公務員とみなされるにすぎないことは当裁判所も所論と同一見解
である。なお日本銀行法第一九条には所論指摘のとおり「日本銀行ノ職員ハ之ヲ法
令ニ依リ公務ニ従事スル職員ト看做ス」とあり国鉄法第三四条第一項と同一文言で
あるが、同法後に成立した経済罰則の整備に関する法律により日本銀行は別表甲号
に掲記されるにいたつたので、右の文言にかかわらず国鉄職員と同一視することが
できない)のみならす、国鉄の法律的性格を考えて見ると、国鉄は、従前純然たる
国の行政機関によつて運営されてきた鉄道その他の事業を経営し、能率的な運営に
よりこれを発展せしめ、もつて公共の福祉を増進することを目的として(国鉄法第
一条)設立せられた公法上の法人(同第二条)であつて、その資本金は全額政府の
出資にかかり、その公共性は極めて高度なところから、国はこれに対し広汎な統制
権を保有している。すなわち国鉄は運輸大臣の監督下におかれ(国鉄法第五二条)
その業務運営は内閣の任命する監理委員会の指導統制に服し(同第九条以下)、そ
の総裁は内閣が任命し(同第二〇条)、その予算は運輸大臣及び大蔵大臣の検討及
び調整を経て国会に提出され、国の予算の議決の例によつて国会において議決され
(同第三九条以下)、会計は会計検査院が検査する(同第五〇条)ことに定められ
ているし、国鉄職員も職務の遂行については国家公務員と同様の規定がおかれ(同
第三二条)、一定の事由があるときはその意に反して降職・免職・休職にされ(同
第二九条・第三〇条)、一定の事由があるときは懲戒処分を受ける(同第三一条)
等公務員と同一性格を規定し、労働者災害補償保険法・失業保険法等の関係におい
ては、国に使用され、国庫から報酬を受けるものとみなされ(同第六〇条ないし第
六二条)、更に一切の争議行為が禁止されている(公労法第一七条)。これらを考
え合せると、国鉄法は国鉄の業務を準国家的業務となし、これを公務としているこ
とは明らかである。
 されば国鉄法第三四条第一項に「役員及び職員は法令により公務に従事する者と
みなす」の趣旨は刑法第七条所定の公務に従事する職員とみなしたわけであり、国
鉄職員は所論の職員自らの罰則の適用に関する限度において公務員とみなしたので
はなく、広く刑法における公務員であると解すべきである。
 つぎに、刑法第九五条において保護する法益と国鉄業務との関係について考察す
る。
 同条は公務員を特別に保護する趣旨の規定ではなく、第一義的には公務員によつ
て執行される公務そのものを保護する規定ではあるが、公務のうち特に権力関係を
内容とする場合のみを対象としたのではなく、広く公務員の行う公務執行を保護す
るものと解する。所論のごとく、公務の執行に対する妨害が、特に業務妨害罪から
区別して処罰される所以は公務が一般の業務と異るが故であり、業務妨害罪は個人
又は団体の経済的・精神的活動の保護を目的とするものであり、公務の執行が実質
的に右の業務と異るのは公務執行が権力関係を内容とする場合においてであるから
国家の活動中非権力関係を内容とするもの、特に私企業的性格を有するものについ
ては国家もまたその権力性を捨象した関係において私人と同様の経済活動の主体と
して行動しているのであるから、これに対する妨害を私人の業務に対する妨害と区
別して考える必要はないとの論拠のもとに、国鉄職員の職務の執行を妨害した場合
について、それが鉄道公安官であれば公務執行妨害罪或は職務強要罪となり、その
他の職員に対する場合は職務強要罪(暴行脅迫)或は業務妨害罪(威力・偽計)に
なるとの学説および裁判例もあるけれども当裁判所はその見解を採らない。国家の
活動中非権力的関係を内容とするものといえども、その公共性においては一般私企
業とは格別の差があることが通常であり、これらについての職務は直ちに公共の福
祉につながるものであり、この非権力的の公共業務の執行をいかに保護すべきか
は、国家の歴史的<要旨第一>発展的段階において捉えるべき立法上の問題というべ
く、刑法第九五条は所論のごとく権力関係の場合のみに限定せず、広く
公務員によつて執行される公務を保護していることは明らかであり、前説示のごと
く国鉄職員による国鉄の業務の執行が公務員による公務である以上、その職務の執
行に対する暴行脅迫による妨害が公務執行妨害にあたることは勿論である。このよ
うに解することは福祉国家を希求する憲法の精神に反するものではない。論旨は理
由がない。
 小林弁護人の控訴趣意第四点(補充書による補充部分を含む)、岡村・村田両弁
護人の控訴趣意第二点、東城弁護人の控訴趣意第二点の(二)について。
 所論は、原判決はDが正規の手続を経て車掌に任命され、勤務指定を受けた、と
認定しているが、同人は法的に任命された車掌ではないし、本件当日の乗車勤務は
適法に指定されていない。さらに当日の同人の行動は運転に関する諸規定に違反し
ていて公務執行における職務の適法性を著しく欠いていたという。
 まずDの車掌任命について。
 原判決挙示の証拠によると、Dはもともと昭和一二年から同一四年まで車掌とし
て乗務していた者であるが、その後長期間車掌の実務に就いていなかつたところか
ら、車掌として勤務するため、昭和二八年一二月五日臨時運転考査に合格し、昭和
二九年一一月二四日M鉄道管理局において局長Nから口頭で車掌の勤務指定を受
け、同月二五日同車掌区助役から一六四貨物列車の乗務指定を受けたこと、したが
つて、正規の手続を経て車掌に任命され、その勤務指定を受けたことが十分認めら
れる。被告人等において、Dが車掌の勤務指定を受けたことについての認職のあつ
たことは同人が正規の車掌の服装をしていたこと、代替要員が車掌の任務につくこ
とのあることを斗争指令自体が指摘し本件一連の争議も同認定のとおり代替車掌の
乗務阻止にあつたこと、さらに、原審証人Gの証言によると、Dが代替車掌である
ことを同人等が認識していたことにより十分認められる。所論は右に関し公労法第
四条第一項但書には「管理又は監督の地位にある者及び機密の事務を取り扱う者は
組合を結成し、又はこれに加入することはできない」と規定され、さらに同条第二
項には、「前項但書に規定する者の範囲は公共企業体等労働委員会の決議に基き労
働大臣が定めて告示する」と規定されていて、国鉄職員は団結権を保障される一般
職員とその圏外におかれる管理職員とが強行法規で区別されており、Dは当時管理
職(局文書課係主席)に任命されている以上、その者に団結権を保障される一般職
員の職を兼務させることはできないと主張する。
 しかし、公労法第四条はその規定に明らかなとおり、国鉄職員の団結権に関する
規定であり、同条第一項但書は非組合員の範囲を定めたものであつて、組合員の従
事すべき職種に属する業務に非組合員を従事させることを禁止したものではない。
すなわち、非組合員に組合員の従事すべき職種に属する業務を兼務させても、その
非組合員は同条により組合に加入することはできないけれども、兼務そのものを禁
止しているわけではない。その他このような兼務を禁止する規定はない。原判決挙
示の昭和二五年七月三一日国鉄総裁達第四〇三号鉄道管理局長事務処理規定第一条
第三項によると、鉄道管理局長は次長・部長等特定の職員を除いて部下職員の採
用・昇給・降給・勤務指定・転勤・休職・退職及び免職をすることができる旨規定
してあり、右の勤務指定に兼務が含まれることは明らかである。さらに、スト等の
緊急事態の場合の列車運転確保のために昭和二八年一一月三〇日付国鉄副総裁より
各鉄道管理局長宛「緊急事態に対する列車運転の確保について」と題する依命通達
が出ており、同通達によると、過去において運転車掌の経歴を有する者であつて臨
時運転考査に合格した者を一時運転車掌の業務に服務させることができる旨規定し
ている。これと異る当審証人Oの供述調書の供述部分は措信できない。
 なお、所論は原審証人N(当時M鉄道管理局長)の証言中の「問、斗争当時Dを
P駅まで自動車でやつた時Q助役に命令があつたといいますが、証人は大体そうい
う命令を何時出されたのですか。答、そういう命令は私は出していません。問、証
人の指示でQ助役がDをPまでやらしたのではないですか、答、いいえそうではあ
りません」の供述部分を捉えてDは昭和二九年二月二五日一六四列車に車掌として
乗車することの勤務指定は局長から適法に指定されたものでないと主張するのであ
るが、右N証人の供述はその前後の供述と対照すると、Dに対する勤務指定そのも
のを否定しているのではなく、Dの車掌勤務の方法について、P駅に自動車で行つ
て乗車するように特別具体的指示をしたことはないというにとどまり、原審証人D
の証言によると、昭和二九年一一月二四日N局長より直接a車掌区の車掌を兼務す
るよう勤務指定を受け、その翌日Q助役から一六四列車に乗務するよう命令を受け
たが、一六四列車が出る前にどうしても乗れそうでないということで助役からP駅
まで行つて乗務するようにいわれた、というのであつて、局長から勤務指定を受け
たことは明らかに認められるので、右N証人の供述部分をもつて、適法な勤務指定
がなかつたとして原判決の認定を非難する所論は理由がない。
 そこで、つぎに、Dの職務の執行が公務執行妨害罪の対象たる保護に値する適法
性を具備していたかどうかについて検討する。公務執行妨害罪が成立するために
は、当該公務員がその職務について一般的職務権限(一般的職務権限がなければも
ともと職務の執行といえない)および具体的職務権限を有し、具体的場合におい
て、職務行為の有効要件として定められている条件並びに重要な方式を履践してい
ることを要する。
 本件においてDは前説示のとおり、車掌としての一般的職務権限を有するととも
に、昭和二九年一一月二五日の一六四列車に車掌として乗務することの勤務指定を
受けていたのであるから、原判示一六四列車における車掌としての具体的職務権限
を有していたことは勿論である。
 ところで、所論はDは一六四列車発車の際車掌区乗務員執務内規第四一条(列車
点検要領)第四二条(列車点検事項一一項目)第四四条(貨物列車点検事項一〇項
目)第四八条(出発準備合図)をことごとく怠つていたというのであるが、原審証
人Dの供述によると、一六四列車に車掌として乗務したのはDとR車掌であり、そ
の他M鉄道管理局の非組合員六名が同列車の緩急車に乗車したことが認められる
が、車掌たるD等両名が右の諸規定をことごとく怠つたことを認めるべき証拠はな
い(原審で取り調べた証拠によると右四一条・四二条・四四条の各点検は一六四列
車のS駅出発に接着するP駅とS駅中二番線および北二番線で行われ、発車準備が
完了していたことが認められる)。ただ、第四八条の出発合図の点において或は欠
げる疑がないでもないが、たとい、これが欠けていたとしても、そのことからして
右Dの行為が公務執行妨害罪の対象たる職務執行に該当しないというべきではな
い。
 <要旨第二>いかなる条件を具備し、いかなる方式の履践が公務執行妨害罪の対象
としての職務として保護に値するかはその職務内容およびこれを規律す
る法規の解釈によつて各具体的に決定すべき問題であり、一般的にいつて、国民の
自由・権利を拘束する行為(例えば逮捕・勾留など)については行政の法律適合性
が最も厳格に要求されるし、右拘束が稀薄になるにつれて要件も緩和されるといつ
てよい。本件Dの行為は右の国民の自由・権利の拘束性については稀薄であるし、
出発合図に欠げる点があるとしても、他の要件について具備されており、しかも、
原判示認定のとおり、国鉄労組の昭和二九年末斗争の第四波斗争の三割休暇斗争を
主軸とする超過勤務拒否・遵法斗争戦術による列車運行休止にもとづく緊急事態に
おける職務行為であることからすると、原判示のDが緩急車内から車外に押し出さ
れ乗車を阻止されるまでの職務行為は客観的に車掌の職務行為であるといつて差し
支えないので(Dが車掌としての職務執行の意思であつたことは明らかである)、
公務執行妨害罪の対象としての保護に値する行為であると認めるべきである。
 ところで、原判決は右の被告人B・Aらの妨害により降車させられたDが更に引
き続き緩急車後部端梁に乗車せんとしたのを同人の右足をつかんで引き落した被告
人Cの行為を公務執行妨害罪に問擬したのに対し、所論はこのDの行動は車掌の職
務行為の適法性の要件を著しく欠除するものであると主張するので検討する。
 車掌Dの行為を全体的に観察し、右の行為が客観的に明らかに職務行為に該当し
ないとなれば、端梁に乗らざるを得ないようになつたことがたとい被告人等の妨害
行為によるものであるとしても、端梁に乗つているDを引き落すことは公務執行妨
害にはならないといえるであろう。しかしここに注意しなければならないのは、D
の本件車掌職務は継続的流動的であるから、或る一時点の所為を断続的微視的に捉
えるべきではなく全体の行為中の一環として判断しなければならない。本件におい
てDは原判示のとおり被告人B・Aらの妨害によつて緩急車から降ろされたものの
依然職務遂行の意思をすてず、当局の環視の下に職務を遂行しようとして妨害を排
除して端梁に飛び乗つたのであり、被告人CもDか端梁に乗ることによつて一六四
列車が運行されることを阻止するために敢えて引き落したのであつて、このDの行
為が職務執行課程中の一行為であることは客観的に明らかであり、本件緩急車には
端梁から車内に入ることも可能であることが当審証人Tの供述によつて認められる
ので、Dが端梁に乗つて乗車しようとした行為はなお職務行為といつて差し支えな
く、これに暴行を加えて引き落した被告人Cの所為を公務執行妨害罪に擬律した原
判決は正当である。原判決には論旨が指摘するごとき法令適用の誤りなどない。論
旨は理由がない。
 小林弁護人の控訴趣意第五点(補充書による補充部分を含む)について。
 所論は、原判決は公労法第一七条を合憲とする前提の下に被告人等の行為の違法
性を認定しているが、同条は審法第二八条に違反する無効の規定であるから、原判
決は結局無効な規定を有効なものとして適用した誤りがあり、仮りに該規定が有効
であるとしても、被告人等の所為は右規定による禁止行為に該当しないので、その
適用を誤つたことに帰するという。
 団結権は生存権的基本権のうち自由権的色彩のきわめて強いものであるとはい
え、夫々の団結権にはその内在的な権利の限界がなければならない。特別権力関係
にもとづく国家公務員の団結権、国民経済および公共の福祉に直接つながる公共企
業体の職員の団結権、私企業の従業員などの団権結には同じく団結権といつても業
務の性質、その企業の性格から来る制限の相異のあることは当然である。国鉄の法
律的性格は小林弁護人の控訴趣意第三点において説示したとおり、現在なお準国家
事務の性格を有しているのであり、国鉄職員の身分も私法的側面を有するととも
に、公法的側面を有している。しかも、これら職員の争議行為は国民経済の破たん
をも招来することが考えられる。したがつて、これら職員はその私法的側面におい
ては一般私企業の従業員と同様に団結権を保障すべきであるのに反し、公法的側面
においてはこれを排除せざるを得ないわけである。この両面の調和として公労法は
争議権を否定する一方仲裁制度(同条第三三条ないし第三五条)を設け、その枠内
において団結権を保障したわけである。されば公労法第一七条は公共企業体の性格
からの制限であり(このことは反面公共の福祉にも合致する)、憲法第二八条に違
反するものではない。また所論は本件のごとき小グループの職場離脱のごときは公
労法第一七条に問擬すべきでないというのであるが、小林弁護人の控訴趣意第三点
について説示したとおり、三割休暇闘争が争議行為と認められる以上同条に該当す
ると断定せざるを得ない。この点の論旨もまた理由がない。
 以上各判断のとおり、被告人等の本件各控訴は理由がないから刑事訴訟法第三九
六条により棄却し、当審における訴訟費用の負担につき、同法第一八一条第一項本
文を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 二見虎雄 裁判官 後藤寛治 裁判官 矢頭直哉)

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◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
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応募方法
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残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
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連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
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応募方法
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