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平成21年7月21日判決言渡
平成20年(行ケ)第10260号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年6月4日
判決
原告ジーニアスワーミンメモリアル
ラボラトリー株式会社
訴訟代理人弁理士井瀧裕敬
訴訟代理人弁護士吉田和彦
同相良由里子
同外村玲子
被告株式会社ハーティウォンツ
訴訟代理人弁護士飯島歩
同町野静
訴訟代理人弁理士横井知理
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が取消2007−300811号事件について平成20年6月4日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,クロバー株式会社より原告が平成19年4月26日移転登録により
取得した後記商標登録について,被告が平成19年6月22日付け(予告登録
平成19年7月10日)で商標法50条1項に基づき不使用を理由とする商標
登録取消審判を請求したところ,特許庁がこれを認める審決をしたことから,
商標権者たる原告がその取消しを求めた事案である。
2争点は,上記取消審判予告登録日(平成19年7月10日)より3年前以内
に,原告から通常使用権の許諾を受けた被告が上記商標を使用したか(商標法
50条2項,である。)
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
アクロバー株式会社(以下「訴外会社」という)は,昭和59年12月。
22日,下記商標について商標登録出願をし,昭和62年9月21日に特
許庁から商標登録第1986197号として設定登録を受けた(以下「本
件商標」といい,当該商標権を「本件商標権」という。。)

(商標)(指定商品)
第13類
「,,」手動利器手動工具金具
イ原告は,上記訴外会社から,本件商標権の移転を受け,平成19年4月
26日付けでその移転登録(受付は平成19年4月13日)がなされた。
ウ被告は平成19年6月22日本件商標の全指定商品につき商標法以,,(
下「法」という)50条1項に基づき不使用を理由とする商標登録取消。
審判を請求し,平成19年7月10日その旨の予告登録がなされた。
エ特許庁は,同請求を取消2007−300811号事件として審理した
上,平成20年6月4日「登録第1986197号商標の商標登録は取,
り消す」旨の審決をし,その謄本は平成20年6月16日原告に送達さ。
れた。
(2)審決の内容
審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本件商
標は,取消審判請求の登録前3年以内に日本国内において商標権者,専用使
用権者又は通常使用権者のいずれによっても,その指定商品について使用し
ていたものと認めることはできず,かつ,本件商標を請求に係る指定商品に
ついて使用していないことについて正当な理由があるものとも認められな
い,というものである。
(3)審決の取消事由
しかしながら,本件商標は,原告から通常使用権の許諾を受けた被告によ
り,原告が本件商標権の移転を受けた平成19年4月26日から商標登録取
消審判の予告登録日である平成19年7月10日までの間に,その指定商品
について使用されていたから,使用されたことの立証がないとした審決は違
法として取り消されるべきである。
ア被告による本件商標の使用
(ア)法50条1項は,登録商標と使用商標の同一性の有無に関し特別の
規定を設け,①書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標,②平
仮名,片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって
同一の称呼及び観念を生ずる商標,③外観において同視される図形から
なる商標,④その他当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標,
であれば両商標は同一であると規定している。
(イ)この点,登録商標たる本件商標は「ウオンツ」であり,被告が使用
する標章は以下のとおりである。
a「ウォンツ」
被告は,ウェブサイト(甲9,甲18,レシートにおける店舗名)
(甲11)において上記標章を使用している。
b「」
被告は,ウェブサイト(甲9,甲18,被告店舗におけるレシー)
ト(甲16,同レジ袋(甲17)において,本件ロゴを使用してい)
る。
なお,甲15(原告の元従業員E作成の陳述書)に添付した写真の
とおり,現在,被告のドラッグストアチェーン「Wants・ウォ」「
ンツ」三篠店で使用されるレジ袋及びレシートには本件ロゴが使用さ
れ,さらに同店舗では,爪切り,はさみ,かみそり等の商品を販売す
る際に本件ロゴが表示されたレジ袋やレシートが使用されているとこ
ろ(同添付写真4∼10,このことは,平成18年5月から同様で)
あった。
c「ウォンツ」及び本件ロゴ「」の二段書き
被告は,ウェブサイト(甲19,被告店舗の看板(甲15,写真)
1∼3,被告店舗における商品添付シール(甲36添付写真)にお)
いて上記標章を使用している。
なお,甲15(原告の元従業員E作成の陳述書)に添付した写真の
とおり,現在,ドラッグストアチェーン「Wants・ウォンツ」」「
三篠店の店舗正面の看板には,(以下「本件ロゴ」という)と。
本件商標が二段に書されており,このことは,平成18年5月から同
様であった。
また,被告のウェブサイトのバックナンバーには「2007年5,
月掲載」として,最上段に本件ロゴと本件商標が二段に書され,さら
に,女性用シェーバーが掲載されており(甲19,そこには「お求),
」。,めはお近くのウォンツ各店までと記載されているこのことからも
平成19年5月に,女性用シェーバーが,ウォンツの各店舗で販売さ
れていることは明らかである。
(ウ)本件商標とこれら被告使用標章とを対比すると,以下のとおりとな
る。
a本件商標と「ウォンツ」との対比
本件商標と「ウォンツ」は「オ」の文字の大小において相違して,
いる。しかし,本件商標は約25年前に出願登録されたものであると
ころ,登録商標は時代とともに多少の変更を加えて使用されるのが一
般的であり,特に小文字の母音の使い方は,時代により異なることは
周知の事実である。
また,日本語にはもともと小さい「ィ「ゥ「ォ」等は存在してお」」
(「」「」「」。),らず平仮名では小さいぃぅぉの表記は通常使用されない
外来語にのみ使用されるのが原則であるところ,外来語において,大
きい「イ「ウ「オ」が小さい「ィ「ゥ「ォ」と互換的に使用され」」」」
ることがあるのは例えばフイルムとフィルムあるいはウ,「」「」,,「
オルト」と「ウォルト」の例からも明らかである。ディズニーのファー
ストネームは,「ウォルト」と表記されるのが一般であるが「ウオル,
ト」と発音されるのが通常である。
ちなみに「フイルム」と「フィルム,あるいは「ウオルト」と「,」,
ウォルト」は,発音されるとき,アクセントの位置が第2音か第1音
かの相違があるが,この相違により両者が実質的に同一の単語である
と認識されることが妨げられることはない。
さらに,被告の店舗では,実際に店舗名を「ウオンツ」と発音され
ることが多かった(甲31,32。かかる事情を考慮すれば「ウォ),
ンツ」は本件商標と社会通念上同一の商標の範囲内にあるとみるのが
相当である。
b本件商標と本件ロゴ「」との対比
上記aに述べたところに加えて,現在の我が国における外国語使用
の実情に鑑みれば「ウォンツ」は「wants」の片仮名書きであ,
ると理解されるのが自然であり「コンサイスカタカナ語辞典(19,」
99年〔平成11年〕9月20日・株式会社三省堂発行,甲34)に
おいても「ウオンツ」ないし「ウォンツ」は「wants〕必要な物,欲〔
しい物」と記載されているとおりである。
「」「」,本件ロゴはと書してなりウォンツという称呼を有し
「必要「欲求」というような観念を生じさせるものである。したが」
って,本件商標と本件ロゴは,称呼及び観念においても同一であるた
め,両商標は社会通念上同一と認められる商標である。
c本件商標と「ウォンツ」及び本件ロゴの二段書きとの対比
「ウオンツ」は時代の変遷に伴い「ウォンツ」と表記されること,
特許庁の不使用取消審判において母音の大小は相違点とすら認定され
ていないことは上述のとおりである。さらに,登録商標と他の文字と
の同時使用の場合は,社会通念上,登録商標と同一の商標と認められ
る(小野昌延編「注解商標法【新版】下巻」1142頁(2006
年〔平成18年・青林書院発行。したがって,本件商標と「ウォン〕)
ツ」及び本件ロゴの二段書きは社会通念上同一である。
(エ)同店舗で販売されていた爪切り,はさみ,かみそりは,本件商標の
指定商品である「手動利器,手動工具,金具」に含まれるところ,レシ
ートにおける使用は商品の取引書類に本件商標を使用するものであり,
ウェブサイトにおける使用は宣伝広告に本件商標を使用するものである
し,商品添付シールにおける使用は商品又は商品の包装に本件商標を使
用するものである。
したがって,被告は,原告が本件商標権を取得登録した平成19年4
月26日から本件登録取消審判請求の予告登録日である平成19年7月
10日までの間に,本件商標と社会通念上同一の商標を,本件商標の指
定商品について使用していたものである。
イ被告が本件商標の通常使用権者であること
(ア)商標の使用許諾契約の締結
a原告(旧商号・株式会社道下薬局)と被告は,平成7年4月16日
に,原告が旧商号当時に経営していたドラッグストアチェーン「ウォ
ンツ」の12店舗の営業を原告から被告に譲渡し,これに対し被告が
営業譲渡を受けた店舗から生ずる売上げの1.5%を原告にロイヤリ
ティとして支払うこと(第1条2項)を内容とするドラッグストア・
(。「」。)ロイヤリティ契約甲14以下本件ロイヤリティ契約という
を締結した。同契約は,原告が当時運営していた12店舗を被告に営
業譲渡する旨の契約(以下「本件営業譲渡契約」という)の存在を。
前提とするものであり,また,被告がドラッグストアチェーン「ウォ
ンツ」を上記12店舗以外にも展開することが当然の前提とされてい
た。
このように本件ロイヤリティ契約ないし本件営業譲渡契約は,原告
が,同契約締結以降,ドラッグストアチェーン「ウォンツ」を被告に
営業展開させることを含意するものである以上,当然に「ウォンツ」
というチェーン店の店名を使用させる合意を含むものであった。さら
に,店名は,店舗で交付されるレシート,販売される商品の包装等に
使われるものであるから,当事者の合意内容として,ドラッグストア
で扱われる商品について商標の使用を許諾する合意を当然に含むもの
であった(甲15∼17。)
そしてこのような契約の合理的な意思解釈として原告が商標ウ,,「
ォンツ「Wants」について使用許諾をした以上,原告が後にド」
ラッグストアで扱われる商品について,本件商標のような商標「ウォ
ンツ「Wants」と実質的に同一の商標につき商標権を取得した」
場合には,当然にその商標権について通常使用権が許諾される旨の合
意が含まれていたものと解すべきである。
,,b上記合意の存在は以下に述べる本件ロイヤリティ契約成立の経緯
広島県における「ウォンツ」のブランド力,継続的なロイヤリティの
支払等によっても裏付けることができる。
(a)本件ロイヤリティ契約成立の経緯
原告(平成13年1月22日に現商号に変更登記)は,原告代表
者であるA(旧姓「B,旧々姓「A。以下「A」という)の両親が」」。
昭和33年に創業し「ウォンツ」の名称でドラッグストアを展開,
していた会社であった。昭和63年に原告代表者の父であるDが逝
,(,去すると原告代表者の夫であったB平成21年3月21日離婚
以下「B」という)が原告の代表取締役に就任し,平成7年には広。
島県内に確固たる基盤を有し,広く12店舗の店舗網を展開するよ
うになっていた。本件ロイヤリティ契約は,原告の株式の過半数を
保有していたのが当時の原告代表者(B)ではなくAであったため
に「ウォンツ」ブランドの店舗展開に必要なリース契約が締結でき
ず,この問題を解決するために店舗網の移転が必要であるとのBの
説明を受けて締結されたものであり,平成7年4月に被告が設立さ
れるとともに代表取締役にBが就任なお原告の代表取締役はB(。,,
の退任に伴い,Aが就任した「ウォンツ」12店舗が原告から被。),
告に移転されることになった。その際,BとAは,被告が小売りを
担当し,原告が教育事業や無体的な財産の活用を行う役割を分担す
ることを話し合って決めた。原告の会社案内(甲52)には,事業
内容としてその旨が記載されているし,また原告代表者Aがその発
行済み株式の100%を保有する原告のグループ会社である訴外イ
ービーエス株式会社(以下「EBS社」という)のウェブサイト。
において,原告の事業内容が「グループ統括,知的財産管理」であ
る旨が表示されている(甲53。実際にも,原告はEBS社と共)
同して種々の知的財産ビジネスを展開しており,一般市販薬と処方
()薬の飲み合せをチェックするシステム相互作用チェックシステム
,(,のプログラム開発を行い特許出願特開2004−157978
甲61)を行った上,被告店舗において実施したり,ウェスト周囲
()。,径を低減する食品に関する特許を出願している甲62さらに
顧客の遺伝体質や生活習慣に基づいてサプリメントを選択し提案す
るテーラーメイドサプリメント提供方法の開発を行い,特許を取得
した(特許第4162194号。)
(b)広島県を基盤とする「ウォンツ」のブランド力
原告は,本件ロイヤリティ契約締結当時,年間売上高が約38億
円,経常利益が3億円を超える優良企業であった。原告のドラッグ
ストア店舗網は,原告が創業以来築き上げてきた信頼と「ウォン,
ツ」の名称で展開してきたブランドを基盤とするものであり,その
信用力とブランドに裏付けられた店舗網を移転するとなれば,相当
の対価が発生することは明白であった。そのため,BからAに対し
て店舗の承継についての説明がなされた際,その場に同席していた
原告の顧問税理士であったCから,承継店舗の対価及びブランド料
を被告が支払うことを前提として,ロイヤリティとして承継した店
舗の売上高の3%を15年くらいの期間支払う旨の提案があった。
これに対しBから3%では高すぎると異議が出たことから,結果と
して承継した店舗の売上高の1.5%を30年間支払う旨の合意が
なされ,それに基づき本件ロイヤリティ契約証書(甲14)が作成
されたのである。かかるロイヤリティは,承継店舗の対価のみなら
ず,本件商標に示される信用力に対する価値も含むものであった。
(c)当事者の意思の合理的解釈
Aは,店舗の承継に伴い「ウォンツ」に関する権利を被告に譲渡
。,「」する意思は全く有していなかったその一つの理由はウォンツ
は,Aの父が新しく開設する薬局店のために,Aのアイディアで付
けた名称であったためである。Aが「ウォンツ」の名称を思い付い
たきっかけは,昭和61年ころ,仕事で出張中に店舗名が片仮名と
漢字とではお店に対して客が受ける印象が随分と異なることを実感
し,新しい薬局店は「道下薬局」ではなく新鮮な印象を与えるよう
に片仮名にしたいと考えたことである。そこで,Aは,客の「欲し
いものが揃う」という意味を込めて「ウォンツ」と名付けた。この
ように「ウォンツ」の名称はAが初めて薬局に付けた愛着のある,
名称であり,店舗を譲渡したとしても名称に関する権利を譲渡する
意思は全くなかった。
また,かかる事実は,被告以外の会社の薬局にも「ウォンツ」の
名称を付していたことからも明らかである。すなわち,原告が58
%,Aが40%の株式を保有する株式会社ファーマシー・トータス
(以下「ファーマシー・トータス社」という)と,Aが80%の株。
式を有する有限会社ファーマシー・サンマルコ(以下「ファーマシ
ー・サンマルコ社」という)が開設していた薬局店舗は,本件ロ。
,「」イヤリティ契約を締結した平成7年4月16日以降もウォンツ
という名称を使用していた。したがって,Aは「ウォンツ」の店舗
網の大部分を被告に移転したとしても「ウォンツ」の名称につい,
ての権利まで譲渡したつもりは全くなく,被告,ファーマシー・ト
ータス社及びファーマシー・サンマルコ社に「ウォンツ」の名称を
使わせていたという意識であった。
(d)被告によるロイヤリティの継続的支払
平成7年4月16日に本件ロイヤリティ契約を締結した後,ドラ
ッグストア「ウォンツ」各店舗の経営は,原告から被告に移転し,
被告から原告に対し継続的にロイヤリティが支払われていたこと
は,各社の決算報告書等の記載から明らかである。
すなわち,原告(株式会社道下薬局)の平成6年4月16日∼平
成7年4月15日の事業年度分の確定申告書には,ウォンツ本部の
ほか,中の棚店,横川店等の収益が計上されているが,原告の平成
7年4月16日∼平成8年4月15日の事業年度分の確定申告書に
は,同ウォンツ店舗からの収益の記載はなく,これに代わり,売上
高としてロイヤリティが計上されている。また,被告の平成13年
4月1日から平成14年3月31日の決算報告書(甲26,被告)
の平成14年4月1日から平成15年3月31日の決算報告書(甲
27,被告の平成15年4月1日から平成16年3月31日の決)
()。算報告書甲28にもロイヤリティが損益として記載されている
(イ)原告による本件商標権の取得
a本件ロイヤリティ契約締結当時,原告は商標「Wants」につい
て商標権を有していなかったが,本件商標について上記のとおり使用
を許諾していた以上,原告が後にドラッグストアで扱われる商品につ
いて,本件商標につき商標権を取得した場合,当然にその商標権につ
いて通常使用権が許諾される旨の含意がされていたものと合理的に解
釈すべきである。このように解さないと,原告は,被告に対し,本件
商標について使用を許諾しておきながら,後に被告に商標権を行使す
ることができることになって不合理であるし,また,商標について使
用を許諾するということは,その商標について許諾者が商標権を後に
取得した場合でも,依然としてその商標を使用許諾する意思を当然に
含むものであると解され,これは,とりもなおさず,後に取得した商
標権について通常使用権を許諾したのと同じことであるからである。
そして,商標権を取得せずに商標の使用許諾をすることは,民法5
61条の他人物の売買と同様に解することができる。すなわち,許諾
,,,者は商標権を有していなくても商標の使用を許諾することができ
その商標について商標権を後に取得した場合も,当然に使用許諾の関
係が続くことになる。
そして,原告は,平成19年4月13日,訴外会社から本件商標権
を特定承継したのであるから(甲13,本件商標権の移転登録を原)
告が得たときに本件商標権について被告に対する使用許諾が成立した
ものと解される。本件商標権の特定承継を受けたことを理由に,原告
が「Wants」の名称及び商標を使用させる義務並びに被告がそれ
を使用することができる契約上の権利が消滅する理由はない。
b被告は,原告の本件商標権の取得は,別訴のロイヤリティ支払請求
をあたかも実体ある権利に裏打ちされたものに装うためにすぎないと
主張するが,事実に反する。原告は,創業者であるDが作り上げた店
舗網のための名称であり,かつ,原告代表者A自らが命名した「ウォ
ンツ」を尊重するため,可能な指定商品については随時商標登録出願
しようとしており,既に登録された商標については譲渡交渉等を進め
ることを検討していた。原告は,本件ロイヤリティ契約締結前に,以
下の出願を行い,また,平成7年に訴外会社が本件商標権を有してい
たことを把握し,その後同社から譲り受ける機会を待ち続けていたも
のである。
・平成6年4月19日出願
商標「HeartyWants/ハーティウォンツ」
平成9年1月31日登録
登録第3252679号
2請求原因に対する認否
請求原因(1),(2)の各事実は認めるが,(3)は争う。
3被告の反論
審決の認定判断は,以下に述べるとおり正当であり,原告主張の取消事由は
理由がない。
(1)被告による本件商標の使用につき
ア原告は,被告が,看板(甲15添付写真)及び被告ホームページ(甲1
8)において使用した標章が,本件商標と社会通念上同一であると主張す
る。
この点,被告が店舗名称に使用しているのは,下記標章(以下「被告使
用標章」という)である。。

すなわち,被告使用標章は,ハートマークを二つ重ね合わせたような形
をモチーフとした特徴的な楕円を組みあわせてなる「W」の大文字と「a
nts」の小文字のアルファベットが組み合わされたもの(本件ロゴ)で
あって「Wants」の部分は赤色で大きく横書きで中央に配され,そ,
の「ants」の小文字の上に小さく「ウォンツ」とカタカナの文字が添
えられるようにして配されているものである。また「a「n「t」,」,」,
についても,文字の先端が飛び出すことなく,丸められて全体が丸みを帯
,「」「」びた柔らかなデザインとなっておりWantsの文字とウォンツ
の文字の配置やサイズ,配色などが相俟って,全体として統一感のある一
連一体の標章になったものである。
また,被告はレジ袋やウェブサイト上において,デザイン化された本件
ロゴだけの使用もしている(甲17,18。被告の店舗看板などへの標)
章使用は,このWの文字がデザイン化された「Wants(本件ロゴ)」
又は「ウォンツ」の小さな文字も組み合わされてデザイン化された「Wa
nts(被告使用標章)であるから,需要者は,そのデザイン化された」
文字とともに店舗名称を認識するものである。
他方,本件商標の「ウオンツ」は,被告使用標章に用いられている「ウ
ォンツ」と異なり,オの文字も含めてすべてが同じ大きさの片仮名で横書
きにされている。
このように,本件商標「ウオンツ」と被告使用標章とでは,その外観の
相違が極めて大きい。
また,本件商標「ウオンツ」は,おそらく英語に由来するといった観念
を想起し得るであろうが,ウオンツと読める英単語には「Wants」,
以外にもWontWontWantなどが考えられるW,「」,「’」,「」。「
ants」は「欲する,必要なもの,欲しいもの,欲望」といった意であ
,「」「,,」,「’」,るがWontは習慣習わし慣れたでありWontは
「Willnot」の短縮形として知られている。いずれも基本的な英
単語であるから,片仮名だけをみていずれかに一義的には定まらない。そ
うすると「ウオンツ」と「Wants」という文字同士を対比しても,,
片仮名からアルファベットへの対応関係がなく,その観念も一義的に定ま
らない。なお,法50条1項が「…片仮名及びローマ字の文字の表示を相
互に変更するもの」として想定するのは,片仮名をローマ字のヘボン式,
訓令式などで読みとして表示することであり「UONTSU」や「UO,
NTU」である。片仮名をローマ字に置き換えようとするときは,ローマ
字を片仮名に読み替えるケースとは異なり,英単語も含めて様々な書き方
が想定され,一義的な対応関係が失われてしまい,同一とはいい難い。
さらに,本件商標は「ウォンツ」ではなく「ウオンツ」であることか,
ら,これを呼称する場合4音となり,強勢の位置も2音目におかれる。他
方,被告使用標章に用いられている「ウォンツ」の場合は3音で,強勢は
1音目となるので,明確に異なる。
以上のとおりであるから,本件商標「ウオンツ」と本件ロゴないし被告
使用標章とは同一ではなく,社会通念上も同一とは認められない。なお,
原告の元従業員であるE作成の陳述書(甲15)においては,Eの勤務し
ていたドラッグストアの店名がウオンツとされているが正しくはウ「」,「
ォンツ」であり,同陳述書は信用できない。
イまた原告は,被告の店舗において,本件ロゴが印字されたレジ袋やレシ
ート(甲16,17)が使用されていたとも主張する。
しかし,本件ロゴを用いた看板を掲げた被告のドラッグストア店舗にお
いて本件商標の指定商品に該当する爪切り等が販売されているとしても,
それらの商品には,それぞれ個別に貝印などの他社商標が付されているの
であって,看板やレシートにおける本件ロゴと個々の商品との間に商標的
な結び付きがあるとはいえない。したがって,かかる商標と商品との結び
つきが弱い証拠をもって商標の使用があったということはできない。
また,レシート(甲16)の日付は本件審判請求の予告登録日以降の平
成20年9月3日であり,これをもって本件審判請求の予告登録日前3年
の間に被告使用標章が指定商品について使用されていたとは認められな
い。
ウまた原告はまつ毛カール器に盗難防止シールが貼付されていること甲,(
36)をもって,本件商標の指定商品についての商標の使用に該当する旨
主張するが,まつ毛カール器は21類に属し,本件商標の指定商品である
13類(手動利器,手動工具,金具)には含まれない。
(2)商標の使用許諾契約の締結につき
ア原告と被告は,被告が設立された平成7年4月に,原告が当時運営して
いたドラッグストア全店舗の営業を被告に対し譲渡する旨の合意をし(本
件営業譲渡契約,同合意に基づき営業譲渡をした。)
この営業譲渡の合意は,ドラッグストアの店舗譲渡に関するものであっ
て,商標権に関する留保や除外などはない。そもそも契約書には商標とい
う記載が一切ないし,同営業譲渡に際し商標についての明示的な書面は作
成されていない。つまり,店舗名称ないしドラッグストアで扱われる商品
についての本件商標の使用許諾といった点について,殊更に営業譲渡から
切り離して取り決めた事実はないのである。
実務的にみても,上記のような内容の営業譲渡契約において,営業の核
となるべき商標権だけを譲渡人が留保するという取組みは考え難い。仮に
営業の譲受人が商標権の譲渡を受けることができなければ,たとえ通常使
用権の設定を受けたとしても,商標権者が各種倒産法の適用を受け,又は
商標権が任意又は強制的に処分された場合には,その利用を継続できなく
なる危険があるし,また,後日何らかの事情で営業譲渡当事者間に紛争が
生じた場合,商標使用権を取り消されたり,商標使用の差止請求や損害賠
償がなされる危険が残るからである。なお,商標権の処分の危険性につい
ては,本件営業譲渡契約締結時である平成7年当時においても通常使用権
の登録により回避することが可能であったが,当時の倒産法制下において
は破産管財人等による解除権の行使を回避することはできなかったし,実
務上,通常使用権が登録されることは極めて少なく,現に本件においても
通常使用権の登録はなされていないから,上記リスクは回避できないこと
となる。
このような危険に鑑みれば,原告が主張するような取組みが行われるの
は,譲渡人(原告)が当該商標に関連する営業を継続し,その権利を保有
し続ける必要がある場合に限られると解されるが,たとえそのような事情
があるとしても,企業名や店舗名のような,いわゆるコーポレートブラン
ドについて譲渡ができない場合には,譲受人にとって極めて危険な取引と
なるため,そもそも営業譲渡契約が合意に至らないのが通例であると考え
られる。本件において,そのような特殊な合意をする理由はない。また,
そのような異例の合意をするのであれば,譲渡対象から商標に係る権利を
除外する旨の明示的合意がなされるはずであるし,使用許諾の対象となる
商標及び商品について特定されるべきである。
被告は「Wants」をドラッグストアの店舗名称に使用しているの,
であって,個々具体的商品のブランドとして使用しているわけではない。
本件の指定商品たる手動利器(例えば,はさみ)などの商品は,ドラッグ
ストアでラインナップとして扱うことはあり得ても,決して主力の商品で
はない。そうすると,原告のいう合意に本件商標の指定商品が含意されな
ければならない必然性もない。原告はドラッグストアで扱われる商品につ
いて商標の使用を許諾する合意と主張するだけで,許諾された商品役務と
の関係が不明確であり,そのような曖昧不自然な使用許諾の合意自体が存
在しないことは明らかである。
イこの点,原告は,本件ロイヤリティ契約が,被告が原告から営業譲渡を
受けて店舗経営を展開するものである以上,当然に「Wants」という
ドラッグストアチェーン店の店舗名称及びドラッグストアで販売される商
品について商標を使用させる合意を含むものである旨主張する。
しかし,本件ロイヤリティ契約は節税対策上の名目にすぎず,何ら実体
を伴わないものである。原告と被告の関係は,平成15年10月の被告側
からの金銭支払の打ち切り,平成17年の任期満了時の役員退任による両
者間での人的関係の終了,平成18年4月4日の広島地裁へのロイヤリテ
(())ィ支払請求の訴訟係属平成18年ワ第416号株券発行等請求事件
などによって悪化の一途を辿っており,原告が本件商標権を取得した平成
19年4月26日の時点では,両者間には信頼関係など全くなかった。い
わば完全な断絶状態にある原告被告間において,信頼関係なしに使用許諾
関係が形成されることなどあり得ない。なお,原被告間の本件ロイヤリテ
ィ契約の成立は,上記広島地裁が平成21年1月15日に言い渡した判決
(乙4)において明確に否定されている。
,,とりわけ被告は平成7年に原告から営業譲渡を受けているのに対して
原告が本件商標権を取得したのは平成19年であり,それまで原告は本件
商標権の使用権原を一切有していなかったのである。本件商標権の取得行
為を12年前の営業譲渡行為と関連付けること自体,時期的な整合性を欠
くというべきであるし,本件商標権の取得が上記広島地裁への訴訟提起後
の行為であることからすると,これはいわば名目的なロイヤリティに実体
としての商標権を用意することで,ロイヤリティの支払請求をあたかも実
体ある権利に裏打ちされたものに装うための方途にすぎないというべきで
ある。
その他原告は,本件ロイヤリティ契約の経緯等に関する事情を挙げて原
告の主張する商標使用許諾の合意を裏付けるものと主張するが,これらは
いずれも本件商標に係る使用許諾の根拠となり得るものではない。
第4当裁判所の判断
(),(),1請求原因(1)特許庁における手続の経緯(2)審決の内容の各事実は
当事者間に争いがない。
2通常使用権者による本件商標の使用の有無について
(1)証拠(甲2∼5,12∼14,20,21,40∼42,73,80,
86∼90,乙4,6の1∼13,原告代表者A尋問の結果)及び弁論の全
趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
ア本件商標登録は,前記のとおり,に本店を有するクロバー株式会社(訴
外会社)により,昭和59年12月22日に出願され,昭和62年9月2
1日に設定登録されたものである。
その後,訴外会社から平成9年4月17日に存続期間の更新登録がなさ
れ,次いで平成19年4月19日に存続期間の更新登録申請がなされて同
年5月1日に更新登録がなされている。
そして,訴外会社は原告(ジーニアスワーミンメモリアルラボラトリー
株式会社)に対し,上記商標権を平成19年4月13日譲渡し,平成19
年4月26日付けで移転登録がなされている。
これに対し被告から,平成19年6月22日付けで不使用取消審判請求
がなされ,平成19年7月10日付けでその旨の予告登録がなされている
(甲13。)
なお,上記商標登録については平成8年法律第68号により改正された
商標法附則2条1項により書換登録が必要であるが,権利者からの書換申
請がなされていないため,平成29年9月21日限り商標権が消滅するこ
ととなっている(同附則11条。)
イ原告代表者であるAと被告代表者であるBとは,ともに京都薬科大学在
学中に知り合い,Aが昭和52年に広島に戻って実父であるDの経営する
株式会社道下薬局(原告の旧称)に薬剤師として入社すると,保険会社に
勤務していたBも同社を退職して上記道下薬局に勤務するようになり,ほ
どなくAとBは,Bの姓である「B」名で結婚した。同人ら間には子1名が
いる。
同人らの婚姻関係は,当初は良好であったが,平成11年ころから会社
の経営方針等を巡り意見が対立するようになり平成15年5月ころにはB,
が家を出て別居し(ただし,平成16年10月から平成17年2月の間は
別居関係から修復,平成21年3月27日には,裁判上の和解により離)
婚しAは「B」姓から「A」姓に復帰した。
ウ原告会社は,昭和33年10月2日に設立された株式会社(当初は有限
会社)であり,Aの父Dがその創業者であって,当初は「道下薬局」の名
称で,昭和61年ころからは「ドラッグストアウォンツ」の名称で薬局
,()を経営していたところ昭和63年に当時原告代表者であったDAの父
が死亡すると,Bが原告代表者に就任した。
Bは,自身の原告に対する持株比率が低いため営業展開に支障があると
考えたことから,原告のドラッグストア「ウォンツ」の営業を自身が株式
の過半数を所有する別法人に移すこととし,平成7年4月11日に被告を
設立して代表取締役に就任し,同年4月16日ころ原告から被告に「ウォ
ンツ」12店舗の営業を譲渡した(本件営業譲渡契約。)
エ本件営業譲渡契約と同時期に,原告と被告間において,被告が原告に対
し,平成7年4月16日から30年間,被告が営業譲渡を受けた店舗から
生ずる全売上げの1.5%のロイヤリティを支払うこと等を内容とする,
平成7年4月16日付け「ロイヤリティ契約証書(甲14)が作成され」
た(本件ロイヤリティ契約。上記契約書の記載内容は,下記のとおりで)
ある。

「,,株式会社道下薬局を甲とし株式会社ハーティウォンツを乙として
甲乙間において,次のようにドラッグストア・ロイヤリティ契約(以
下ロイヤリティという)を締結した。
第1条乙は,甲に対し平成7年4月16日より平成37年4月15
日までの30年間次項に定めるロイヤリティを支払う。
2ロイヤリティの金額は甲が営業移譲した店舗から生ずる全
売上の1・5%とする。乙は毎月の売上(前月16日から当月
15日までの1ヶ月間で締め切る)およびロイヤリティの金。
額を甲に1ヶ月以内に報告する。ロイヤリティは6ヶ月毎に締
め切り,合計した金額を締め切り月の2ヶ月後に甲の口座へ入
金する。
3前項のロイヤリティの割合は諸情勢が著しく変動した場合
は両者の協議によって変更することができる。
第2条本契約後に判明した諸費用については,本件契約成立の前日
までの分は甲の負担とし,その後の分は乙の負担とする。
第3条本契約に定めのない事項は甲乙協議の上円満な運営を計るよ
う協力しなければならない。
この契約を証するために本書2通を作成し,各自署名捺印の上各その
1通を保有する」。
オ上記営業譲渡を受けた後,被告は,その経営するドラッグストア「ウォ
ンツ」を,下記標章を使用して中国地方に積極的に展開し,同地方で有数
のドラッグストアチェーンとなった。

しかし,BとAは,前記のとおり,平成11年ころから経営方針を巡る
意見の食い違いが表面化し,平成15年5月ころにはBが家を出て別居す
るようになり,平成16年10月から平成17年2月の間は修復したもの
の,同17年2月には,Aは平成17年6月に被告の専務取締役の地位を
解任され,Aが株式の100%を保有するEBS社に対して被告が行って
いた事業支援ないし資金援助が控えられるようになった。
そこで原告ないしAは,平成18年4月に至り,被告に対し本件ロイヤ
リティ契約に基づく未払のロイヤリティの支払等を求める訴訟を広島地裁
に提起(平成18年(ワ)第416号株券発行等請求事件)したが,同2
1年1月15日に請求棄却の判決がなされたため,広島高裁に控訴中であ
る。
ちなみに原告は,前記営業譲渡後の平成13年1月12日付けで,それ
までの「株式会社道下薬局」からAの父・和民の名にちなんで「ジーニア
スワーミンメモリアルラボラトリー株式会社に商号変更している平」(
成13年1月22日登記。)
カ原告は,何らかの動機により,原告及び被告の営業に関連の深い「Wa
nts・ウォンツ」等に関する商標を,下記のとおり,自ら出願し又は」「
第三者から譲渡を受ける方法により,その商標権を取得している(本件商
標もその一つ。)
①登録第3252679号
(指定商品:第5類「薬剤,歯科用材料,医療用油紙,衛生マスク,オ
,,,,,,,ブラートガーゼカプセル耳帯眼帯生理帯生理用タンポン
生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包
帯液,医療用腕環,失禁用おしめ,人工授精用精液,乳児用粉乳,乳
糖,はえ取り紙,防虫紙,出願人株式会社道下薬局(原告,出願」))
日平成6年4月19日,登録日平成9年1月31日,ただし平成1
9年7月10日付けで被告から不使用取消審判の予告登録あり(甲2
9,30。)
②登録第1951787号「WANTS(指定商品:第1類「化学」
品(他の類に属するものを除く)薬剤,医療補助品,出願人神沢」)
産業株式会社,出願日昭和60年2月12日,登録日昭和62年5
月29日。ただし平成19年1月22日付けの原告からの不使用取消
審判請求の予告登録,平成19年3月6日付けの取下げ登録,平成2
0年3月17日付けクミアイ化学工業株式会社から原告への移転登録
(乙6の2)がある。
③登録第4049972号「ウォンツ/WANTS(指定商品:第」
1類「化学品,植物育成剤,植物ホルモン剤,土壌改良剤,発芽抑制
,」),,剤その他の植物成長調整剤出願人クミアイ化学工業株式会社
出願日平成7年11月17日,登録日平成9年8月29日。ただし
平成19年1月22日付けの原告からの不使用取消審判請求の予告登
録,平成19年3月6日付けの取下げ登録,平成20年3月17日付
けクミアイ化学工業株式会社から原告への移転登録(乙6の3)があ
る。
④登録第4494156号「WANTS/ウオンツ(指定商品:第」
「,,,,,,3類せっけん類香料類化粧品つけづめつけまつ毛歯磨き
つや出し剤,靴クリーム,靴墨,塗料用剥離剤,出願人有限会社」)
野々川商事,出願日平成12年8月4日。ただし平成19年1月2
2日付けの原告からの不使用取消審判請求の予告登録,平成19年3
月6日付けの取下げ登録,平成19年6月14日上記会社の一般承継
()人たる日本メナード化粧品株式会社から原告への移転登録乙6の4
がある。
⑤登録第4530369号「ウオンツ/Wants(指定商品:第」
9類「レコード並びにレコードジャケット及び録音済みコンパクトデ
」,「,,,」),ィスク第16類紙類紙製包装用容器文房具類写真立て
出願日平成12年10月30日,登録日平成13年12月21日,
平成20年7月24日有限会社ホワイトプランニング(出願人)から
原告への移転登録(乙6の5)がある。
⑥そのほか,原告が本件営業譲渡後に被告社名や店舗名称等を商標出
願し,商標登録を得たものとして,次のようなものがある。
・登録第4991116号「(指定役務:第42類「医薬」
品・化粧品の試験,医学に関する研究開発,医学に関する研究開発
に関する助言,医学に関する研究開発に関する情報の提供,医薬品
の臨床試験,医薬品の臨床試験結果の解析及び評価,心臓血管循環
疾患・動脈循環疾患・動静脈循環疾患・末梢動脈疾患及びその他の
関連する疾患の治療用薬剤の試験,医薬品に関するその他の試験・
検査又は研究,医薬品に関する試験・検査又は研究に関する助言,
医薬品に関する試験・検査又は研究に関する情報の提供,受託によ
」,「,,,る研究開発第44類調剤医療情報の提供調剤情報の提供
,,,栄養の指導医療用機械器具の貸与治験で得られたデータの集積
医療記録の編集,医療診断,その他の医業,医業に関する助言,医
業に関する情報の提供(平成17年4月28日出願・平成18年」)
9月29日登録,乙6の6)
・登録第5150166号「(指定商品:第3類「せっけ」
ん類,香料類,化粧品,歯磨き,かつら装着用接着剤,つけづめ,
つけまつ毛,つけまつ毛用接着剤,家庭用帯電防止剤,家庭用脱脂
剤,さび除去剤,染み抜きベンジン,洗濯用柔軟剤,洗濯用でん粉
,,,,,,のり洗濯用漂白剤洗濯用ふのりつや出し剤研磨紙研磨布
,,,,,,研磨用砂人造軽石つや出し紙つや出し布靴クリーム靴墨
塗料用剥離剤,第5類「薬剤,歯科用材料,医療用油紙,衛生マ」
スク,オブラート,ガーゼ,カプセル,耳帯,眼帯,生理帯,生理
用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそう
,,,,,,こう包帯包帯液医療用腕環失禁用おしめ人工受精用精液
乳糖,はえ取り紙,胸当てパッド,第16類「家庭用食品包装フ」
ィルム,紙製ごみ収集用袋,プラスチック製ごみ収集用袋,衛生手
ふき,型紙,紙製テーブルクロス,紙製テーブルナプキン,紙製タ
オル,紙製手ふき,紙製のぼり,紙製旗,紙製ハンカチ,紙製幼児
用おしめ,裁縫用チャコ,荷札,書画,事務用又は家庭用ののり及
び接着剤,青写真複写機,あて名印刷機,印刷用インテル,印字用
インクリボン,活字,こんにゃく版複写機,自動印紙はり付け機,
事務用電動式ホッチキス,事務用封かん機,消印機,製図用具,装
飾塗工用ブラシ,タイプライター,チェックライター,謄写版,凸
版複写機,文書細断機,封ろう,マーキング用孔開型板,郵便料金
計器,輪転謄写機,観賞魚用水槽及びその附属品(平成17年4」)
月28日出願・平成20年7月11日登録,乙6の7)
⑦さらに原告は「」との商標について,商願2007−29
493(指定役務:第35類「衣料品・飲食料品及び生活用品に係る
各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧
客に対する便益の提供,商願2007−29494(指定役務:第」)
35類「織物・寝具類・被服・履物・かばん類・袋物・身の回り品の
小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,商」)
願2007−29495(指定役務:第35類「飲食料品の小売又は
卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,ビタミン・ミ
ネラル・植物栄養素・ハーブ等を主原料とした棒状・板状・粒状・顆
粒状・粉末状・液状・錠剤状・チュアブル状又はカプセル状の加工食
品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,
ビタミン・ミネラルを主原料とした錠剤状・顆粒状又はカプセル状の
加工食品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の
提供,ビタミン・植物栄養素を主原料とした錠剤状の加工食品の小売
又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,薬草を主
成分とし、食品添加物及び各種栄養素を加味した粒状・粉末状・錠剤
状の加工食品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便
益の提供,商願2007−29496(指定役務:第35類「手動」)
利器・手動工具・金具・台所用品・清掃用具及び洗濯用具の小売又は
卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,商願200」)
7−29497(指定役務:第35類「薬剤・医療補助品・化粧品・
歯磨き及びせっけん類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に
対する便益の提供,商願2007−29498(指定役務:第35」)
類「印刷物・紙類及び文房具類の小売又は卸売の業務において行われ
」)()。る顧客に対する便益の提供として出願中である乙6の8∼13
(2)以上によれば,原告と被告間において,平成7年4月16日の本件営業
譲渡契約当時,商標権の帰属や承継について何らかの検討をした形跡はない
こと,原告が本件商標権等「ウォンツ」関連商標の取得や出願を行ったの,
は,原告代表者と被告代表者の夫婦関係が険悪になり,これに伴い,原告と
被告の関係が悪化した後であり,それまでの間は,そのような商標出願や商
,,標権の取得はもとよりその取得を検討していたとの事情さえ窺えないこと
被告が本件の不使用取消審判請求を行ったのは原告が本件商標権を取得した
直後であることが認められる。
ところで,法50条1項,31条の定める通常使用権は,商標権者から第
三者への許諾(通常使用権設定契約)により設定され,商標原簿にその旨の
登録がなされるといわゆる対抗力が生じ,その後に商標権・専用使用権・通
常使用権を取得した者に対しその効力を生じる(法31条4項,特許法99
条1項等)ものであるから,上記設定契約がなされたといえるためには,そ
の合意が当事者間において相当程度明確になされたものであることが必要と
解されるところ,原告の主張する設定契約とは商標権者たる原告が商標権を
取得する平成19年4月26日より12年も前である平成7年4月16日付
け(甲14)のもの(本件ロイヤリティ契約)であり,かつ上記契約条項の
内容は前記(1)エのとおりであって,商標権に関する記載は一切認められな
いのであるから,上記平成7年4月16日付けの契約により通常使用権設定
の合意があったと認めることはできない。
のみならず,営業を譲渡する場合,店舗の名称を使用する権利ないし権限
が譲渡人と譲受人に分属することは,両者間において名称使用を巡って紛争
が生じる余地を残す点で譲渡対象となる営業権の価値を損なうものであり,
その意味では極めて例外的な事情というべきであるし,殊に,営業譲渡時に
おいて現に実施許諾するべき商標権を取得していない場合には,そのような
権利を将来において現実に取得した際に別途協議すれば足りるというべきで
あるから,当事者間において店舗の名称使用権の分属を指向する場合には,
その旨の明示的な意思表示をもって確認することが当事者の合理的意思に合
致し,他方,そのような明示的な意思表示が存在しない場合には,上記のよ
うな名称使用に係る権利は営業譲渡に随伴して譲受人に移転したものと解す
ることが当事者の意思に合致するというべきである。そして,本件において
そのような明示的な合意が存在しないことは当事者間に争いがないところで
あるから,以上のような事情を総合考慮すれば,原被告間において,本件営
業譲渡契約の締結時に,原告が本件商標のような商標「ウォンツ「Wan」
ts」と実質的に同一の商標につき商標権を取得した場合に当然にその商標
権について通常使用権が許諾される旨の合意があったと認めることはできな
いというべきである。
(3)原告の主張に対する補足的判断
原告は,本件ロイヤリティ契約成立の経緯等の事情を挙げて,原告と被告
間において本件商標の使用許諾についての合意があった旨主張するので,改
めてこの点について検討する。
ア原告は,本件営業譲渡により,被告は小売を担当し,原告は教育事業や
無体財産の活用を行う旨の役割分担ができたとして,本件商標権の取得は
このような原告の役割分担の現れである旨主張し,Aは原告代表者本人尋
問において同旨の供述をする。
しかし,前記(2)のとおり,原告は平成19年4月に至るまで本件商標
,,,権を取得していなかったのでありしかも本件商標権を取得した時期は
原告代表者(A)と被告代表者(B)の私生活上の関係が決定的に悪化し,
原告と被告の事業上の関係も,訴訟が提起されるなど敵対的な関係となっ
ていた時期であること等を併せ考慮すると,原告が,本来被告が管理すべ
き無体財産を被告に代わって管理・活用してきたとか,本件商標権の取得
がそのような無体財産の管理・活用行為を実現するものであったと認める
ことはできない。
なお原告は,原告が平成7年当時訴外会社が本件商標権を有していたこ
とを把握し,その後同社から譲り受ける機会を待っていた旨主張するが,
本件営業譲渡契約時に商標に関する事項が議題に上っていた形跡がないこ
とは前記(2)に認定したとおりであるし,その他原告の主張するような事
情があったことを認めるに足りる証拠はない。そして,原告が平成7年当
時本件商標の存在を把握していたにもかかわらず平成19年に至るまで本
件商標権を取得し得なかったことや,同年になってこれを取得したことに
ついて合理的な理由は見当たらないことに照らせば,原告の上記主張は採
用することができない。
また原告は,前記(1)カ①に摘示した「HeartyWants/ハ
ーティウォンツ」の商標を出願したことをもって,原告がドラッグスト
アに関する名称を管理していたことの裏付けになる旨主張するが,同商標
は本件営業譲渡の前に出願され,本件営業譲渡契約後に設定登録に至った
ものであり,前記(1)のとおり,平成17年までは原告と被告間の関係が
決定的に悪化していたとまでは認められないことを併せ考慮すれば,原告
が「ハーティウォンツ」の商標について引き続き管理保存行為を行った
としても,あながち不合理とまでいうことはできない。これに対し,同商
標以外のドラッグストア「ウォンツ」の名称に関する商標については,本
件営業譲渡契約後,原告と被告間の関係が悪化するまでの間,原告が何ら
かの管理行為を行っていたとは認められないのであって,両者を同列に論
じることはできないから,原告の上記主張は採用することができない。
イ原告は,被告から原告に対し本件ロイヤリティ契約に基づくロイヤリテ
ィが継続的に支払われていたとし,本件営業譲渡時における原告のブラン
ド力等に鑑みれば,本件ロイヤリティ契約に基づくロイヤリティには,承
継店舗の対価のみならず,本件商標に示される信用力に対する対価が含ま
れると主張する。
しかし,本件ロイヤリティ契約に係る契約証書(甲14)の成立自体,
当事者間に争いがある上,ロイヤリティが支払われた実績についても,こ
れを認めるに足りる的確な証拠はない。なお,原告は,原告と被告の決算
書類等を証拠(甲25∼27)として提出し,これをもってロイヤリティ
が支払われたことの裏付けとするところ,確かに,甲25(原告の平成7
年4月16日∼平成8年4月15日の事業年度分の決算報告書)には,経
常損益の部に「ロイヤリティ」として6563万3237円が計上されて
おり,また,甲26(被告の平成13年4月1日∼平成14年3月31日
の事業年度分の決算報告書,甲27(被告の平成14年4月1日∼平成)
15年3月31日の事業年度分の決算報告書)及び甲28(被告の平成1
5年4月1日∼平成16年3月31日の事業年度分の決算報告書)には,
販売費及び一般管理費明細書のロイヤリティの科目に,一定の金額が計上
されていることが認められ,これらの決算書類によれば,それぞれの該当
事業年度において,原告にロイヤリティ収入があることと,被告にロイヤ
リティの支払があることがそれぞれ認められるのであるが,当該ロイヤリ
ティと本件ロイヤリティ契約の関係を示す証拠はないし,当該ロイヤリテ
ィの支払が原告と被告間において授受されたものであることを示す明細書
や領収証等もないことからすれば,上記決算書類の記載をもってロイヤリ
ティの支払があったとまで認めることはできないし,ひいては当該ロイヤ
リティに本件商標に示される信用力に対する対価が含まれていると認める
。,。こともできないしたがって原告の上記主張は採用することができない
ウ原告は「ウォンツ」というドラッグストアの名称はAが名付けた愛着,
のある名称であるから,そのような名称に係る権利を被告に譲渡する意思
はなかったと主張するが,店舗の名称に対する愛着と,当該名称に関する
商標権の帰属ないし使用許諾は次元を異にするものであって,そのような
愛着の存在が直ちに前記(2)の認定を左右するものではない。
この点原告は,ファーマシー・トータス社やファーマシー・サンマルコ
社が経営するドラッグストアにおいては,本件営業譲渡契約後も「ウォン
ツ」の名称を使用していた(同名称の使用が原告の許諾に基づくものであ
る)として,これをもって「ウォンツ」の名称に関する権利が原告に留保
されていたことの根拠とする。
そして,甲37(島根県知事による公文書任意公開回答書)によれば,
ファーマシー・トータス社が薬種商販売業者として,において「ウォン,
ツ益田あけぼの店との名称を用いて営業が行われていたこと甲64広」,(
島県知事による医薬品販売業許可証,甲65(同薬局開設許可証,甲6))
6(農薬販売業届,甲67(農薬販売業届受理証,甲68(毒物劇物一))
),(「」),般販売業登録票甲69広島県薬剤師会認定基準薬局認定証には
ファーマシー・サンマルコ社が本件営業譲渡契約前からにおいて道,,,「
下薬局ウォンツサンリブ店」ないし「ウォンツドラッグサンリブ店」の
名称で薬局を営業していた旨が記載されている。
しかし,これらファーマシー・トータス社及びファーマシー・サンマル
コ社の代表取締役は被告の代表取締役と同じくBであり,上記2社が経営
する店舗と被告経営の店舗とは同一グループとして一体的に運営されてい
たと認められるから,上記2社の薬局において「ウォンツ」の名称を続用
したとしても,これをもって原告の上記2社に対する名称使用許諾の存在
を裏付けるものということはできないし,原告が「ウォンツ」の名称に関
する権利の原告への留保を根拠付けることになるものでもない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
,,エ原告は原告の業務として無体財産管理を行っていたことの根拠として
原告代表者Aが100%の株式を保有するEBS社における知的財産に関
する活動実態があることを主張する。
しかし,原告が証拠として挙げるEBS社のパンフレット(甲52)や
ウェブサイトにおける会社案内(甲53)には,EBS社が教育事業を行
っていることや,EBS社内にグループ内における知的財産管理を行って
いる旨の表示はあるものの,本件商標ないし「ウォンツ」に関わる商標に
ついて何らかの管理行為を行っていることを窺わせるような記載はない。
また,EBS社に関係する知的財産として公開特許公報(甲61,62)
があるが,これらは「薬品類の相互作用チェックシステム(甲61)や」
「ウエスト周囲径およびヒップ周囲径低減効果を有する食品(甲62)」
に関するものであって,これも「ウォンツ」に関わる商標とはおよそ無関
係といわざるを得ない。さらに,EBS社が出願した商標(乙10の1∼
16)を見ても「EBS社(乙10の1・2・16「herser,」),
ies/ハーセリーズ(乙10の3・15「ASVENUS/アズヴ」),
ィーナス(乙10の4「サプリナビ(乙10の5「Dr.Supp」),」),
lement/ドクターサプリメント(乙10の6「Traceab」),
」(),leSupplement/トレイサブルサプリメント乙10の8
「GENOTYPIST/ジェノタイピスト(乙10の9「DNAS」),
LIM/ディーエヌエースリム(乙10の10「COSMEGENO」),
MICS/コスメジェノミクス乙10の11メディカルゲート乙」(),「」(
10の12「METABOCURE/メタボキュア(乙10の13,),」)
「GENOTYPEFOODS/ジェノタイプフーズ(乙10の14)」
,,などいずれもEBS社の事業に関わるものであるということはできても
「ウォンツ」に関わる商標とは無関係といわざるを得ない。
したがって,原告がEBS社を通じて被告のために「ウォンツ」に関す
る商標を管理していたと認めることはできず,原告の上記主張は採用する
ことができない。
オその他,本件において,原告と被告の間で,本件営業譲渡契約に際し,
本件商標に係る権利を原告に留保し,原告が当該商標に係る権利を取得し
た場合に被告にその使用許諾をする旨の合意があったことを認めるに足り
る証拠はない。
3結論
以上によれば,原告主張に係る取消事由は理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官澁谷勝海

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