弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人島内賀喜太上告趣意第一点について。
 なるほど、原判決は「被告人は昭和二一年五月頃……Aから同人の転出証明書を
預り配給物資の受配保管方を依頼せられ……」と判示しているが右判示にいう「依
頼」は犯罪の動機又は犯行に至る経過事実の一部として判示したものであることは、
原判決の判示自体により明白である。しかのみならず、原判決は更に「……その後
長岡の所在が不明となり昭和二一年一二月頃には最早同人が自己の同居人でないこ
とを確認したにも拘わらず……」と判示して冒頭に認定判示した被告人がAから受
けた配給物資の受配保管方の依頼は昭和二一年一二月頃にはすでに存在しなくなつ
ている事実を認定判示しているのであるから、原判決は被告人が同二二年一月以後
においてAに対する米麦等の配給物資の配給を受けたのは同人の依頼に基ずかない
ものであることを確定しているものといわなくてはならぬ。そして、たとい、被告
人が配給物資の代金を支払つたとしても、Aの依頼がなければ被告人において配給
を受けることのできない米麦その他の配給物資を、前示のように同人の依頼がすで
になくなつているのに拘らずなお依頼を受げているように装つて配給所員を欺罔し
てこれが配給を受けたものであるから、被告人の所為は詐欺罪の成立をさまたげる
ものではない。(昭和二二年(れ)第六〇号同二三年六月九日大法廷判決集二巻七
号六五三頁参照)。次に本件犯行が刑法詐欺罪を構成するものであること前段説明
するとおりであり、食糧緊急措置令一〇条に「其ノ刑法ニ正条アルモノハ刑法ニ依
ル」と明定されているのであるから、本件犯行は詐欺罪を以て問擬すべきものであ
つて所論のように食糧緊急措置令一〇条違反を以て処断すべきではない。(昭和二
三年(れ)第三二九号同年七月一五日第一小法廷判決集二巻八号九〇三頁)されば、
原判決には所論のような法令の適用を誤つた違法は存しない。論旨は理由がない。
 第二点について。
 しかし、原判決挙示の証拠に照し所論判示事実の認定はこれを肯認するに足り、
その間反経験則等の違法はない。所論は原判決の引用していない証拠に基ずき独自
の見解に立つて原裁判所の裁量に属する事実認定を非難するに帰着し上告適法の理
由とならぬ。
 よつて旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 長部謹吾関与
  昭和二五年二月二日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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