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平成21年7月21日判決言渡
平成20年(行ケ)第10337号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年7月16日
判決
原告ウォーソー・オーソペディック・イン
コーポレーテッド
訴訟代理人弁護士矢部耕三
同木村剛大
訴訟代理人弁理士星野修
同伊藤孝美
被告特許庁長官
同指定代理人豊永茂弘
同川本眞裕
同紀本孝
同酒井福造
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2006−7271号事件について平成20年5月8日にした審
決を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,米国法人であるエスディージーアイ・ホールディングス・インコーポ
レーテッド(SDGIHOLDINGS,INC.,以下「訴外会社」という。)が名称を「医療機
器」とする発明につき国際特許出願をしたところ,日本国特許庁から拒絶査定を
受けたので,これを不服として審判請求をし,平成18年5月16日付けで特許
請求の範囲の変更等を内容とする手続補正をしたものの,同庁から請求不成立の
審決を受けたことから,訴外会社を吸収合併した原告がその取消しを求めた事案
である。
2争点は,上記補正後の請求項1に係る発明(本願発明)が下記引用文献に記載
された発明(引用発明)との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項),で
ある。

特開平2−198549号公報(発明の名称「外傷治療で用いられる脊椎骨の
骨接合具用インプラント」,出願人ソシエテドウフアブリカシヨンドウ
マテリエルオルトベディック,公開日平成2年8月7日。以下,この文献を
「甲1文献」といい,これに記載された発明を「引用発明」という。甲1)
第3当事者の主張
1請求原因
(1)特許庁における手続の経緯
訴外会社は,1998年(平成10年)11月9日の優先権(米国)を主張
して,平成11年11月4日,名称を「医療機器」とする発明について国際特
許出願(PCT/US99/25960。日本における出願番号は特願200
0−580533号)をし,平成13年5月9日日本国特許庁に翻訳文(請求
項の数2。公表公報は特表2002‐529136号〔甲4〕)を提出し,そ
の後平成15年1月14日付けで特許請求の範囲の補正(請求項の数21,甲
11)・平成17年10月19日付けで誤訳訂正書(請求項の数23,甲5)
を提出をしたが,拒絶査定を受けたので,これに対する不服審判請求をした。
特許庁は,上記請求を不服2006−7271号事件として審理し,原告は
訴外会社を吸収合併して,平成18年5月16日付けで特許請求の範囲の変更
等を内容とする補正(以下「本件補正」という。請求項の数23。甲6)をす
るとともに平成18年10月11日付けで出願人名義変更届(甲7)を提出し
たが,特許庁は,平成20年5月8日,「本件審判の請求は,成り立たな
い。」との審決をし(出訴期間として90日附加),その謄本は平成20年5
月20日原告に送達された。
(2)発明の内容
本件補正後の請求項の数は前記のとおり23であるが,そのうち請求項1の
内容は,以下のとおりである(以下,これに記載の発明を「本願発明」という。
下線は補正部分)。
・【請求項1】
長手方向の穴を形成する複数の壁部分を含む受け部材と,
長手方向軸線を有する円筒形係合部分,及び前記円筒形係合部分が前記穴
内の前記壁部分にねじ込まれて係合されるように前記円筒形係合部分に形成
されたねじであって,後方に面するねじ面の傾斜が,ねじの長手方向の軸線
を通るねじの所定の断面において,ねじの根本における後方に面するねじ面
の一点がねじの頂点における後方に面するねじ面の一点よりねじの前端に接
近しているようにされたねじを含む閉鎖部材と,
を備える医療機器
(3)審決の内容
ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,上記補正後の本願発明は,前記引用発明及び本願優先
日前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから特許
法29条2項により特許を受けることができない,というものである。
イなお,審決は,上記判断をするに当たり,引用発明の内容を以下のとおり
認定した上,本願発明と引用発明との一致点及び相違点を次のとおりとした。
・<引用発明の内容>
長手方向の溝6を形成する2つの側部を含む「側方分岐部4で構成される
本体2」と,長手方向軸線を有する円筒形部分,及び前記円筒形部分が前記
溝6内の前記側部にネジ込まれて係合されるように前記円筒部分に形成され
たネジ9を含むプラグ8であって,プラグ8をネジ込んだ場合の荷重の半径
方向成分が完全に除去され,本体2(側方分岐部4)が開かないようになさ
れたネジ9を含むプラグ8と,を備える脊椎骨接合用器具。
・<一致点>
本願発明と引用発明は,
「長手方向の穴を形成する複数の壁部分を含む受け部材と,
長手方向軸線を有する円筒形係合部分,及び前記円筒形係合部分が前記穴
内の前記壁部分にねじ込まれて係合されるように前記円筒形係合部分形成さ
れたねじを含む閉鎖部材と,を備える医療機器。」である点で一致する。
・<相違点>
本願発明では,「後方に面するねじ面の傾斜が,ねじの長手方向の軸線を
通るねじの所定の断面において,ねじの根本における後方に面するねじ面の
一点がねじの頂点における後方に面するねじ面の一点よりねじの前端に接近
しているようになされたねじ(閉鎖部材のねじ)」を用いているのに対して,
引用発明では,「閉鎖部材(プラグ8)をねじ込んだ場合に,受け部材(本
体2)が開かないようになされた閉鎖部材のねじ」として,「荷重の半径方
向成分が完全に除去されるねじ」を用いている点。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決には,以下に述べるように,上記相違点に対する判断に
誤りがあるので,違法として取り消されるべきである。
ア本願発明と引用発明との差異
(ア)課題の相違
本願発明の課題は,医療機器の後方開放型形状に関し,固定部材の広が
りを防止しながら,装置の部品の輪郭及び大きさを最小限にし,コストを
低減し,このような装置を使用する困難性を低減することにある(甲5
〔誤訳訂正書〕〔段落【0005】,【0006】〕)。インプラントの
溝内に配置されたロッドの動きによってインプラント内に生じる応力によ
り,スロットの脚又は壁部分が互いに離れるように広げられると,もはや
ロッドを固定部材内で保持することができなくなるからである(甲5〔段
落【0004】〕)。このように,本願発明は,「雄ねじを雌ねじにねじ
込んだ後」の「固定部材(受け部材)の広がりを防止する」ことを課題と
している点に特徴があり,この特徴は,医療分野での使用を想定している
ことと密接に関連する。すなわち,医療機器を人体に埋め込むため,ねじ
が緩んだら締め直すということが困難となる。そのため,雄ねじを雌ね「
じにねじ込む場面」(以下「1段階目」という)で強固に止めた上,さら
に,「雄ねじを雌ねじにねじ込んだ後」(以下「2段階目」という。)に
人体が動くことで生じる応力にも対応できるようにすることで受け部材の
広がりを確実に防止することを志向した発明である。
これに対し,引用発明は,雄ねじを雌ねじにねじ込む場面」において「
プラグをロッドに固定することが課題である。すなわち,引用発明は,
雄ねじを雌ねじにねじ込む場面」でロッドを強固に止めて全体が緩むこ「
とを防止しようとするものであり,1段階目のみに着眼点を置いた発明で
ある。「雄ねじを雌ねじにねじ込んだ後」,すなわち,2段階目において
も受け部材の広がりを防止しようという課題は,甲1文献には記載も示唆
も存在しない。
(イ)機能,解決手段の相違
本願発明の機能は,後方開放型部材において,医療機器がロックされた
ときに脚部に対し長手方向軸線14から半径方向内側の力を加え,長手方
向軸線14から半径方向外側への脚部の広がりを防止するということにあ
る。そして,その解決手段として専ら「後方に面するねじ面の傾斜が,ね
じの長手方向の軸線を通るねじの所定の断面において,ねじの根本におけ
る後方に面するねじ面の一点がねじの頂点における後方に面するねじ面の
一点よりねじの前端に近接しているようにされたねじ」(以下「反対角度
ねじ」ともいう)により脚部の広がりを防止しているものである。
これに対し,引用発明の機能は,プラグ(8)のロッド(3)の方向を
向いた面(8)に設けたプラグ(8)をロッド(3)に係止して固着さa
せる手段である中心尖端(12)と外周リング(13)を用いてプラグを
ロッドに対して固定することに主眼がある(甲1文献の請求項1)。また,
分岐部4の雌ねじ11とプラグ8の雄ねじ9を鋸歯ピッチとした場合で
あっても,分岐部4に働く半径方向外側の力を除去するのみである。すな
わち,本願発明のように分岐部4の半径方向外側への広がりを防止するた
めに,分岐部4に対し半径方向内側への力を加えるものではない。
このように,本願発明は,「雄ねじを雌ねじにねじ込んだ後」,医療機
器がロックされた場合に,脚部に対し半径方向内側の力を加えることで脚
部の広がりを防止するものであるのに対し,引用発明は,「雄ねじを雌ね
じにねじ込む場面」においてプラグのねじ込みによってロッドをいかに固
定するかを解決するものであり,両者は機能,解決手段の基本的な発想を
異にするから,この差異を解消することは困難である。
(ウ)引用発明による示唆の不存在
甲1文献には,「雌ネジ11とプラグ8の雄ネジ9は,鋸歯ピッチとす
ることができる」との記載がある(3頁右下欄3∼5行)。しかし,鋸歯
ねじは,「軸方向の力が一方向だけに働く場合に用いられる非対称断面形
のねじ」と定義されている(JIS工業用語大辞典第5版1727頁。甲
8)。そして,これによれば,鋸歯ねじについて後方ねじ面の傾斜に着目
した定義はされておらず,上記辞典に記載された図によれば後方ねじ面の
傾斜は90度となっている。
また,荷重の半径方向成分を完全に除去するためには,プラグの中心軸
線に対して垂直なフランク面を提供することが必要であるから,鋸歯ネジ
ピッチは,本体2の軸線に垂直な荷重面を有していると考えられる。
したがって,甲1文献の「雌ネジ11とプラグ8の雄ネジ9は,鋸歯ピ
ッチとすることができる」との記載は,後方ねじ面の傾斜に着目して構成
された本願発明の「反対角度ねじ」を採用することの示唆にはなり得ない。
なお,甲1文献の「プラグ8をネジ込んだ場合の」との記載は,その対
応米国特許5005562号明細書(甲9)には「」とあonscrewingup
ることを考慮すると,「プラグ8をネジ込むとき」(プラグ8をネジ込む
過程の段階)と解釈すべきである。したがって,半径方向成分が完全に除
去される「荷重」は,「プラグをネジ込んだ後にロッドの動きの結果とし

て本体2に生じる荷重」ではなく,「プラグを本体2にネジ込むときに生
じる荷重」を意味していると考えるべきである。この場合,プラグ8の鋸
歯ねじの,プラグの中心軸線に対して垂直なフランク面は,ねじ山の前方
(先端側)に設けられることになる。このような構成のネジに,本願発明
の「反対角度ねじ」のような後方ねじ面の傾斜を設けることは不可能であ
る。
イ引用発明と米国特許5607304号に記載された周知技術の組み合わせ
の困難性
(ア)審決は,周知技術が記載された文献として下記文献を掲げる。

米国特許5607304号公報(発明の名称「IMPLANTCONNECTOR」,権
利者CrystalMedicalTechnology,adivisionofFolsomMetalProduc
ts登録日1997年〔平成9年〕3月4日。甲2。以下,この文献を
「甲2文献」といい,これに記載された技術を「周知技術1」という。)
(イ)課題の相違
周知技術1は複数の壁部からなる後方開放型(ロッドを挿入できる通路
を形成する複数の壁部を備えるU字型形状を有する受け部材)の本体に関
する発明ではなく,内側に雌ねじが形成された単一の連続する壁を有する
円筒形部品に関する技術であるから,本願発明と解決されるべき技術的課
題が著しく異なる。
(ウ)機能,解決手段の相違
周知技術1の機能は,隙間部分の変位によって雄ねじと雌ねじの干渉状
態を生じさせ,より強い結合関係を実現することにある。すなわち,周知
技術1は,ねじの螺旋経路に沿って干渉状態が作られる雄部材及び雌部材
の間のねじ接続について述べており,雌ねじと雄ねじのそれぞれの頂部と
谷部分との間の干渉状態(いわゆる締まり嵌めの状態)は,雄部材のねじ
山の変形により生じ,半径方向外側に向かう力を生じさせ,この半径方向
外側に向かう力を雌部材21,23のねじの底部分の内壁上にかけるよう
に働く。周知技術1は,半径方向内側の力を働かせるねじはもちろん,半
径方向の力を除去する効果を有するねじすらも開示しておらず,むしろ,
頂部と底部分との間の半径方向の力を発生させ,これを要求するものであ
る。
これに対し,引用発明の機能は,前記のとおり,中心尖端12と外周リ
ング13を用いてプラグをロッドに対して固定することに主眼があり,分
岐部4の雌ネジ11とプラグ8の雄ねじ9を鋸歯ピッチとした場合でも,
分岐部4に働く半径方向成分の力を除去するよう機能するにすぎない。
このように,引用発明と周知技術1の機能とは相反するものである。
ウ引用発明と特開昭62−104640号に記載された周知技術の組み合わ
せの困難性
(ア)審決は,周知技術が記載された文献として下記文献を掲げる。

特開昭62−104640号公報(発明の名称「傾きが0もしくは負の
側面を有するらせん形の溝を形成する方法」,出願人エスコフィエテク
ノロジーエス.アー.,公開日昭和62年5月15日。甲3。以下,こ
の文献を「甲3文献」といい,これに記載された技術を「周知技術2」と
いう)
(イ)技術分野の相違
引用発明の技術分野は骨接合インプラント,特に脊柱接合用インプラン
トであり,医療分野での使用が想定されている。
これに対し,周知技術2について,甲3文献に医療分野での使用を示唆
する記載,及び材料に関する記載はない。
したがって,引用発明と周知技術2では技術分野が異なる。
(ウ)課題の相違
周知技術2は,傾斜角が正の側面を有するねじにおいて,大きな引っ張
り力を与えた場合に接合が外れるおそれがあることを課題としており(甲
3〔3頁左下欄2行∼右下欄2行〕),後方開放型の本体の脚部の広がり
を防止するという引用発明における技術的課題とは異なる。
(エ)機能解決手段の相違
引用発明の機能は,前記のとおり,中心尖端12と外周リング13を用
いてプラグをロッドに対して固定することである。また,分岐部4の雌ね
じ11とプラグ8の雄ねじ9を鋸歯ピッチとした場合でも,分岐部4に働
く半径方向成分の力を除去するように機能するにすぎない。
これに対し,周知技術2は,ねじで接合されるパイプに引っ張り力を与
えるとその引っ張り力が径方向の成分を持つものである。
したがって,引用発明は周知技術2が要求する径方向の力をなくすため
の解決方法を示すものであり,周知技術2のねじを引用発明に組み込むこ
とによって引用発明の目的は達せられなくなる。
エ引用発明とその他の文献に記載された技術の組み合わせの困難性
(ア)被告は,本件訴訟の段階になって,周知技術とされる下記文献の存在を
主張した。
・実願昭46‐113259号(実開昭48‐67159号)のマイクロ
フィルム(考案の名称「ボルト,ナット」,出願人A,公開日昭和48
年8月25日。乙1,3。以下,これを「乙1文献」という。)
・特公昭49‐10799号公報(発明の名称「核燃料集合体の頭部ガイ
ド」,出願人ゼネラル・エレクトリツク・コムパニ,公告日昭和4
9年3月13日,乙2。以下,これを「乙2文献」という。)
(イ)乙1文献及び乙2文献に記載された技術はいずれも「雄ねじを雌ねじに
ねじ込む場面」で作用する技術であり,「雄ねじを雌ねじにねじ込んだ
後」に作用することを想定していない。したがって,雄ねじを雌ねじにね
じ込んだ後に作用し受け部材の広がりを防止するをいう本願発明の技術思
想は従来技術と比較して優れた発明であるというべきである。
オ小括
上記のとおり,①本願発明と引用発明とは,解決すべき技術的課題が明ら
かに異なり,そのための解決手段にも重大な差異がある上,引用文献たる甲
1文献には相違点である「反対角度ねじ」について,これを採用する何らの
示唆もなされていないのであるから,引用発明から本願発明へ想到するには
当業者にとって著しい困難性があること,②周知技術1は,複数の壁部から
なる後方開放型の本体に関する技術ではなく,引用発明と共通の課題が存在
しない上,引用発明と機能も異なるのであるから,周知技術1を引用発明に
適用する具体的な動機付けは存在せず,引用発明に周知技術1を組み合わせ
ることによって本願発明に相当することは当業者にとって困難であること,
③引用発明と周知技術2とは,技術分野が著しく異なる上,周知技術2は後
方開放型部材における課題を持ち得ないこと,さらに両者は相反する機能を
有し,周知技術2を引用発明に適用する動機付けが存在しないため,引用発
明に周知技術2を組み合わせることによって本願発明に想倒することは当業
者にとって困難であることに照らすと,審決は本願発明と引用発明との相違
点について誤った判断をしたものであり,この判断の誤りは,本願発明の進
歩性の有無に関する結論に影響を及ぼすことが明らかである。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
(1)「本願発明と引用発明との差異」に対し
ア「課題の相違」につき
(ア)甲1文献には以下の記載がある。
・特許請求の範囲
「(1)骨に固定される部分(1)と,ロッド(3)に取り付けられ
る本体(2)とで構成され,この本体には本体後側に向かって開
いた溝(6)が形成されており,この溝によって本体は2つの分
岐部(4)に分けられ,さらに,ロッド(3)を収容するために
この溝(6)は本体の両側で開いているような骨接合具用,特に
脊椎骨接合具用のインプラントにおいて,
本体(2)の後端を構成する上記2つの分岐部(4)の内壁に
形成された雌ネジ(11)にネジ込み可能なプラグ(8)を具備
し,このプラグ(8)はその直径方向反対側の2つのエッジがロ
ッド(3)と当接するように溝(6)のネジ込まれた側を閉じ,
このプラグ(8)のロッド(3)の方向を向いた面(8a)には
プラグ(8)をロッド(3)に係止して固着させる手段が設けら
れており,この係止・固着手段によってロッドの並進運動と回転
運動とが固定されることを特徴とするインプラント。」
・発明の詳細な説明
「・・・インプラントの本体の2つの側面すなわち分岐部4と雌ネ
ジ11とプラグ8の雄ネジ9は,鋸歯ピッチとすることができる。
こうすることによって,プラグ8をネジ込んだ場合の荷重の半径
方向成分が完全に除去され,2つの分岐部4が開かないようにす
ることができる。」(3頁右下欄2ないし8行)
(イ)上記の記載からすると,引用発明(甲1文献)の課題は,少なくとも,
本体後側に向かって開いた溝が形成された脊椎骨接合具用のインプラン
トの形状(医療機器の後方開放型形状)に関し,「本体の分岐部の雌ね
じ(受け部材)が開かないようにする」ことであるといえる。一方,本
願発明の課題は,医療機器の後方開放型形状に関し,「固定部材(受け
部材)の広がりを防止する」ことにある。そうすると,両者の課題は,
医療機器の後方開放型形状に関し,「受け部材が開かない(広がらな
い)ようにする」という点で共通する。
イ「機能,解決手段の相違」につき
上記アで述べたように,引用発明の課題は,少なくとも「本体の分岐部の
雌ねじ(受け部材)が開かないようにする」ことである。また,引用発明は,
ねじ込んだ後に継続的に使用される医療機器に関するものであるから,「雄
ねじを雌ねじにねじ込む場面」よりも「雄ねじを雌ねじにねじ込んだ後」に
使用されるものであり,引用発明の機能,解決手段は,「雄ねじを雌ねじに
ねじ込んだ後」に,「本体の分岐部の雌ねじ(受け部材)が開かないように
する」ことを基本的な発想にする。一方,本願発明は,「雄ねじを雌ねじに
ねじ込んだ後」に,受け部材に対し半径方向内側の力を加えることで受け部
材の広がりを防止するものであるから,本願発明の機能,解決手段は,「雄
ねじを雌ねじにねじ込んだ後」に,「受け部材が広がらない(開かない)よ
うにする」ことを基本的な発想にするものである。そうすると,両者は,機
能,解決手段の基本的な発想を共通にしているということができる。
ウ「引用発明による示唆の不存在」につき
上記イで述べたように,引用発明は,ねじ込んだ後に継続的に使用される
医療機器に関するものであることから,「雄ねじを雌ねじにねじ込む場面」
よりも「雄ねじを雌ねじにねじ込んだ後」に使用されるものであるというこ
とができる。そして,「雄ねじを雌ねじにねじ込んだ後」に雄ねじを引き抜
こうとする動きがあるとき,雄ねじの後方に面するねじ面が,この動きに抵
抗するねじ面になることは明らかであり,そうである以上,この後方に面す
るねじ面が,荷重の半径方向成分を完全に除去するねじ面(垂直面)になる
とともに,このような雄ねじを用いることで,「本体の分岐部の雌ねじ(受
け部材)が開かないようにする」との課題が解決されると見るのが妥当であ
る。そうすると,引用発明において,雄ねじの後方に面するねじ面(垂直
面)は,上記課題の解決に関与するものであることから,引用文献たる甲1
文献には,雄ねじの後方に面するねじ面に上記課題を解決する機能,解決手
段を適用することの示唆が存在するということができる。
また,甲1文献の「プラグ8をネジ込んだ場合の」との記載の解釈は,あ
くまで,甲1文献の記載から行われるべきものであって,甲1文献の対応米
国特許5005562号明細書(甲9)の記載から行われるものではない。
(2)「引用発明と米国特許5607304号公報に記載された周知技術(周知技
術1)の組み合わせの困難性」に対し
ア「課題の相違」につき
(ア)周知技術1が記載された甲2文献には以下の記載がある。
・「ReferringparticularlytoFIG.4,itmaybeseenthatthefemal
ereceptacleutilizingourinventionhasanegativeloadflank26,
suchthattheloadflankadjacentthecrestofthethreadisclo
sertothethrustconnection41thanthesameloadflank26adjac
enttherootofthethread.・・・Itmaybeseenthattheforcesr
equiredtoovercometheinterferencewillbedictatedbythemall
eabilityofthematerialselectedandthevolumeofmaterialinvo
lved,suchthatthistypethreadprofilesignificantlyincreases
theresistanceoftheconnectiontoradialrelativemotion.」『特
に図4を参照すると,ねじの頂部に隣接する負荷フランクがねじの根本
に隣接する該負荷フランク26よりスラスト接続部41に近くなるよう
に,本発明を用いた雌型ソケットが負の負荷フランク26を有している
事がわかるだろう。・・・このタイプのねじの輪郭が半径方向の相対的
な動きに対する接続の抵抗を顕著に増加させるように,干渉に打ち勝つ
ために要求される力は,選択された材料の展性および含まれる材料の量
によることは分かるだろう。』(第3欄59行から第4欄12行。『』
内は訳文)
・「Reportedcommonproblemsnotedbypractitionersarebreakageof
thescrewandlooseningofthescrewfixatingtheprosthesisin
U.S.Pat.No.5,213,500,forexample.Itisbelievedthatonecau
seofthefailureofthethreadedconnectionisthestressimpose
donselectedthreadsalongtheconnection.Onconventionalstrai
ghtV-threads,thisthreadisthelastengagedthreadclosestin
proximitytotheheadofthescreworbolt.Anominallymanufactu
redcomponentcanplaceportionsofthethreadsinstressconditi
onsabovetheyieldstrengthofthematerial,resultinginperman
entdeformationofthethread.Thisyieldingmayleadtoalosso
fpreloadtensionandretainedtorqueintheconnection,leading
torelativemotionbetweenthejoinedcomponents,andcompromisin
gthefunctionoftheprosthesis.Likewise,dynamicfatigueofth
eoverloadedfastenercanleadtocatastrophicfailure.Thesestr
essconcentrationsarecompoundedbythephysicalsizerestraints
placedonprostheticcomponents.Thematerialswhichareavailab
letothedesignertochoosefrom,towit,--polymers,metals,an
dcomposites--oftentimesexhibitcreepcharacteristics.Thestres
s-raisingfactorsencounteredinimplantsaggravatethetendency
ofthesematerialstohavetime-dependentstrainatstresslevels
belowyield.」『医師などによって報告される一般的な問題として,例
えば米国特許NO.5213500のプロテーゼを固定するねじにおける
破損及び弛緩が挙げられる。ねじ接続で起こる不具合の原因の一つは,
接続に沿って特定のねじ山に加えられるストレスである,と考えられて
いる。従来の標準的なVねじでは,ねじ又はボルトの頭部に最も近い最
後に係合されるねじ山が,かかるねじ山にあたる。呼び寸法で製造され
た部品によって,ねじ山の一部が材料の降伏力より強いストレス状態に
置かれることになり,これによってそのねじ山が変形して元に戻らなく
なることがある。この降伏が,予め設定された張力と,接続時に確保さ
れたトルクの損失につながり,これによって,接合された部品同士が相
対的に動き,プロテーゼの機能を損なうことがある。同様に,過負担が
掛けられた留め具の動的疲労によって,致命的な不具合が発生すること
がある。このようなストレスの集中は,プロテーゼ構成部品に物理的サ
イズの制限があることによってさらに助長される。設計者が選択し得る
素材,つまり,ポリマー,金属,及び合成物は,クリープ特性を示す場
合がある。インプラント施術中に発生するストレス増加要因によって素
材のこの特性は助長され,降伏力よりも弱いストレスレベルでも時間依
存性ひずみが発生するようになる。』(第1欄第24から49行。『』
内は訳文。)
(イ)上記記載からすれば,雄ねじをねじ込んだ場合に,リープ特性による雌
ねじの半径方向の変形ひずみが生じることを前提にして,「雄ねじをねじ
込んだ場合に,雌ねじの半径方向の変形ひずみに対する抵抗を増やす(雌
ねじが開かない)ようになされた雄ねじ」として,「後方に面するねじ面
36の傾斜が,ねじの長手方向の軸線を通るねじの所定の断面において,
ねじの根本における後方に面するねじ面の一点がねじの頂点における後方
に面するねじ面36の一点よりねじの前端に接近しているようになされた
ねじ」を用いることが開示されているので,周知技術1の課題は,少なく
とも「雌ねじ(受け部材)が開かないようにする」ことであり,この課題
を解決する手段は,上記雄ねじを用いることであるということができる。
一方,引用発明の課題は,前述のように,少なくとも「本体の分岐部の雌
ねじ(受け部材)が開かないようにする」ことにある。そうすると,両者
の課題は,雌ねじ(受け部材)の型が異なるとしても,「雌ねじ(受け部
材)が開かないようにする」という点で共通するので,「技術的課題が著
しく異なる」ということはできない。
イ「機能,解決手段の相違」につき
周知技術1の課題は,雄ねじをねじ込んだ場合にクリープ特性による雌ね
じの半径方向の変形ひずみが生じることを前提にして,少なくとも「雌ねじ
(受け部材)が開かないようにする」ことであって,引用発明の課題と周知
技術1の課題とは,「雌ねじ(受け部材)が開かないようにする」という点
で共通する。そして,引用発明の上記課題を解決する手段は,「後方に面す
るねじ面を垂直面とした雄ねじ」を用いることであり,一方,周知技術1の
上記課題を解決する手段は,「後方に面するねじ面36の傾斜が,ねじの長
手方向の軸線を通るねじの所定の断面において,ねじの根本における後方に
面するねじ面の一点がねじの頂点における後方に面するねじ面36の一点よ
りねじの前端に接近しているようになされたねじ(雄ねじ)」を用いること
であり,これからして,引用発明の上記課題を解決する手段と周知技術1の
上記課題を解決する手段とは,雄ねじの後方に面するねじ面が上記課題の解
決に関与するという点で共通する。そうすると,両者は,雄ねじの後方に面
するねじ面の傾きが違うとしても,課題及びこの課題を解決する手段(機能,
解決手段)において共通している(相反していない)ので,引用発明に,周
知技術1を組み合わせる,つまり,雄ねじの後方に面するねじ面における半
径方向の力をなくすことに代えて,半径方向内向きの力を発生させることで,
「雌ねじ(受け部材)が開かないようにする」との課題を解決できる(引用
発明の目的を達成できる)ことは,当業者であれば容易に想到し得ることで
ある。
ところで,原告は,「周知技術1の機能は,隙間部分の変位によって雄ね
じと雌ねじの干渉状態を生じさせ,より強い結合関係を実現することにある。
・・・この干渉状態は,雄部材のねじ山の変形により生じ,半径方向外側に
向かう力を生じさせ,この半径方向外側に向かう力を雌部材21,23のね
じの底部分の内壁上にかけるように働く。」と主張しているが,この「干渉
状態を生じさせ,より強い結合関係を実現する」ことと「雌ねじ(受け部
材)が開かないようにする」こととは,ねじの抜けを防止するという点で共
通することから,両立し得るものであるということができるので,周知技術
1は,「雌ねじ(受け部材)が開かないようにする」との課題を失うもので
はない。
(3)「引用発明と特開昭62−104640号公報に記載された周知技術(周知
技術2)の組み合わせの困難性」に対し
ア「技術分野の相違」につき
(ア)周知技術2が記載された甲3文献には以下の記載がある。
・「2本のパイプの一方に,両パイプの共通の軸に平行に引っ張り力を
与えると,そのパイプをもう一方のパイプから引き離そうとするので,
この引っ張り力はねじ山の側面で径方向の成分を持つことがわかる。こ
の成分は,互いにかみ合う雄ねじと雌ねじの側面を径方向に滑らせる。
側面の傾斜角が正の場合,この径方向の力により,中空部材の雌ねじを
有する側面の直径が増大し,反対に,中空部材の雄ねじを有する壁面の
直径は減少する。壁面が薄い中空部材の場合,互いのねじ山がはずれて,
その結果接合状態でなくなるような径方向の変形が起こる可能性があ
る。」(3頁左下欄8行∼19行)
・「そのような危険を回避する手段が知られている。その手段とは,ね
じ山の側面の傾斜角が0もしくは負であるねじを使用することである。
第3図及び第4図は,このようなねじの例である。」(3頁右下欄3行
∼6行)
・「第4図の場合,ねじ山の側面の母線17及び18は直線であり,
従って,それらの接線と一致する。母線17上の任意の1点Pを通って
径14に平行な直線14′をひくと,この平行線は母線と角度α1をな
す。この角度は正であり,従って,そのねじ山の側面は,角度α1の正
の傾斜角を持つ。反対に,母線18上の任意の1点Sを通って径14に
平行な直線14″をひくと,この平行線は母線と負の角度β1をなす。
実際,点Sからねじの外側の方向,すなわち矢印に示す方向に直線14
″をたどると,ねじ山の側面から離れるのではなく,逆にねじ山の内部
に入っていく。従って,ねじ山のこの側面は負の傾斜角β1を持つ。こ
れはアンダカットを有するねじ山の側面であると言われることが多い。
側面の傾斜角が負であるようなねじ山を備えるパイプを接合して引っ張
り力を与えると,その引っ張り力が径方向の成分をもつので,2つの雄
ねじと雌ねじが互いにより密接に接合することがわかる。側面の傾斜角
が正のねじ山の場合と同様に,その他の条件をすべて同じにして考える
と,側面の傾斜角の負の程度が大きくなるほど径方向の成分が大きくな
る。」(3頁右下欄19行から4頁左上欄20行)
(イ)上記記載からすると,「雄ねじをねじ込んだ場合に,雌ねじの直径が増
大しない(開かない)ようになされた雄ねじ」として,「後方に面するね
じ面の傾斜が,ねじの長手方向の軸線を通るねじの所定の断面において,
ねじの根本における後方に面するねじ面の一点がねじの頂点における後方
に面するねじ面の一点よりねじの前端に接近しているようになされたね
じ」を用いることが開示されているので,周知技術2の課題は,少なくと
も「雌ねじ(受け部材)が開かないようにする」ことであり,この課題を
解決する手段は,上記雄ねじを用いることであるということができる。一
方,引用発明の課題は,少なくとも「本体の分岐部の雌ねじ(受け部材)
が開かないようにする」ことにある。そうすると,両者は,医療分野とい
う点では相違しているものの,固着技術という点で技術分野が共通すると
ともに,「雌ねじ(受け部材)が開かないようにする」という課題におい
て共通している。
イ「課題の相違」につき
原告が主張するように,引用発明の雌ねじは後方開放型であるのに対して,
周知技術2の雌ねじは後方開放型でない。しかし,引用発明の課題と周知技
術2の課題とは,雌ねじ(受け部材)の型が異なるとしても,「雌ねじ(受
け部材)が開かないようにする」という点で共通するので,「課題が著しく
異なる」ということはできない。
ウ「機能,解決手段の相違」につき
前記のとおり,引用発明の課題と周知技術2の課題とは,「雌ねじ(受け
部材)が開かないようにする」という点で共通する。そして,引用発明の上
記課題を解決する手段は,「後方に面するねじ面を垂直面とした雄ねじ」を
用いることであり,一方,周知技術2の上記課題を解決する手段は,「後方
に面するねじ面の傾斜が,ねじの長手方向の軸線を通るねじの所定の断面に
おいて,ねじの根本における後方に面するねじ面の一点がねじの頂点におけ
る後方に面するねじ面の一点よりねじの前端に接近しているようになされた
ねじ(雄ねじ)」を用いることであり,これからして,引用発明の上記課題
を解決する手段と周知技術2の上記課題を解決する手段とは,雄ねじの後方
に面するねじ面が上記課題の解決に関与するという点で共通する。そうする
と,両者は,雄ねじの後方に面するねじ面の傾きが違うとしても,課題及び
この課題を解決する手段(機能,解決手段)において共通している(相反し
ていない)ので,引用発明に,周知技術2を組み合わせる,つまり,雄ねじ
の後方に面するねじ面における半径方向の力をなくすことに代えて,半径方
向内向きの力を発生させることで,「雌ねじ(受け部材)が開かないように
する」との課題を解決できることは,当業者であれば容易に想到し得ること
である。
(4)「小括」につき
引用発明に周知技術1及び2を組み合わせることで本願発明に相当すること
は当業者にとって容易であるから,審決は本願発明と引用発明の相違点につい
て誤った判断をしたものではない。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯)・(2)(発明の内容)・(3)(審決の
内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,以下原告の主張する取消事由について判断する。
2取消事由ア(本願発明と引用発明の差異)について
(1)本願発明の意義
ア本件補正後の明細書(公表特許公報〔甲4〕,誤訳訂正書〔甲5〕,平成
18年5月16日付け手続補正書〔甲6〕)には,以下の記載がある。
・【発明の属する技術分野】
「本発明は,ねじが形成された固定閉鎖部材を使用する医療機器に関す
る。さらに詳細には,本発明は,医療機器を閉鎖し,医療機器の部品の
広がりを防止する際に特に有効な装置に関する。」(甲5,段落【00
01】)
・【従来の技術】
「整形外科学的な障害,疾病,または変形の治療において,治療し改善
するために患者の身体の身体に人工的な移植部材を配置することがよく知
られている。移植部材及び装置は,治癒を促進するために骨,筋肉,腱及
び/又は靱帯を空間的な関係で一緒に固定することが有効である。例えば,
脊柱の分野において,脊柱を治療し安定する1つの型式は,屈曲可能なロ
ッドを含む。このロッドは,問題の特別な領域の脊柱の正常な湾曲に対応
して屈曲可能であることが好ましい。ロッドは,多数の固定部材によって
脊柱の長さに沿って椎骨に係合される。椎骨の空間的な部分に係合するよ
うな形状の種々の固定部材は,椎体の薄層に係合するフックと椎骨の部分
にねじ込まれることができるねじを有する。またロッドまたは他の同様の
部材は,他の整形外科学的な問題を治療する際に有効である。」(甲5,
段落【0002】)
・「有効なロッド移植装置において,ロッドは,各固定部材の通路に配置
される。このような装置の1つの例は,にSoamorDanekGroup,Inc
よって販売されているCotrel-Dudosset/CD脊柱装置である。CD装置は,
「後方開放」型構成でフック及び骨ねじを含み,フック及び骨ねじの固定
部材は,脊柱ロッドを受ける通路を形成する本体を含む。このスロットは,
ねじが形成された穴を含み,この穴に,固定部材の本体内にロッドを形成
するためにねじが形成されたプラグが係合される。この技術の詳細は,Cor
telに付与された米国特許第5,005,562号にも示されており,その内容はこ
こに組み込まれている。米国特許第8,672,176号,米国特許第5,725,527号,
米国特許第5,738,685号,米国特許第5,782,833号及び米国特許第5,728,098
号に開示されたような同様の後方開放型形状を有する他の装置も知られて
いる。」(甲5,段落【0003】)
・「医療機器の後方開放型形状に関する1つの困難性は,本体部分の直立
した脚部または壁部分が移植後に広がりを示すことである。例えば,脊柱
の領域において,ロッドが後方開放型脊柱固定部材の本体部分の通路に配
置された後,ロッドと固定部材との間に相対運動がないようにそれを通路
内にクランプするために閉鎖固定部材がロッドの本体部分に係合される。
相対運動が不可能なので,移植後ロッドに配置された応力が固定部材を介
して骨に伝達される。いくつかの場合,これらの応力は,スロットの各側
の固定部材の脚部または壁部分が互いに離れるように広がるか移動するよ
うにする。固定部材の大きな広がりは,それによって障害を生じる。なぜ
ならば,閉鎖または固定部材は,もはやロッドをクランプするために固定
部材内で保持することができないからである。これが生じると,ロッドは
固定部材に対して自由に移動し,一緒になっている固定部材を分離するよ
うになる。このような場合,移植部材の整形学的な機能がなくなり,障害
や合併症が発生する。」(甲5,段落【0004】)
・「従来の医療機器は,広がりを防止するために,固定部材を一緒に包囲
し保持するためにナット,キャップ,クランプまたは同様な装置を含む。
例えば,Biedermannらに付与された米国特許第5,672,176号においては,
固定部材のスロットにロッドが配置され,固定部材は,ロッドの中間部分
を介して押すために固定部材と係合され,外側ナットが固定部材の外側に
ねじ込まれる。これらの装置は,広がりを制御するために有効であるが,
比較的高価であり,外側ナットまたはキャップのない装置と比較される移
植部材に対してあまり効率的ではない。また,外側ナットまたはキャップ
が医療機器の大きさを大きくし,この装置を外科手術を実行し移植部材を
配置する制限された領域に移植することをさらに困難にする。また患者に
対する痛み,または可能な合併症が発生する危険性が高い。」(甲5,段
落【0005】)
・「したがって,医療機械特に整形外科的装置の業界においては,固定部
材の広がりを防止しながら,装置の部品の輪郭及び大きさを最小限にし,
コストを低減し,このような装置を使用する困難性を低減する必要性があ
る。」(甲5,段落【0006】)
・【課題を解決するための手段】
「本発明の1つの好ましい実施形態によれば,長手方向の穴と横断する
通路とを形成する複数の脚部または壁部分を含む受け部材と,長手方向軸
線を有する略円筒形の係合部分を含む閉鎖部材と,を備えた医療機器が提
供される。閉鎖部材は,後方に面するねじ面の傾斜が,ねじの長手方向の
軸線を通るねじの所定の断面において,ねじの根本における後方に面する
ねじ面の一点がねじの頂点における後方に面するねじ面の一点よりねじの
前端に接近しているようになされたねじを含み,これは医療機器の脚部部
分または壁部分に係合する。また,本発明は,複数の脚部または壁部分が
広がる可能性を有する種々の医療器具または機器の一部である。特に好ま
しい実施形態において,本発明は骨ねじ,薄層フック,圧縮プレート,外
側固定部材または2つまたはそれ以上の脚部または壁部分が,骨受け通路
と前記通路に連通する穴とを形成し,閉鎖部材を受ける他の固定装置とと
もに使用することができる。特定の実施形態において,脚部または壁部分
の内面は,閉鎖部材の係合部分のねじに対応する内側ねじを有し,このね
じは,閉鎖部材のねじとかみ合うことができる。」(甲6,段落【000
7】)
・「本発明は,医療機器が閉鎖され固定され医療機器の広がりが防止され
る装置を提供する。本発明は,医療機器の寸法及び輪郭を低減する利点を
提供する。外側ナットまたはキャップを無くすことによって寸法を低減す
るだけではなく,反対角度のねじが広がる大きな危険性を有することなく
受け部材の寸法を大きく低減することができる。不必要な部品をなくすこ
とによってこのような装置の移植の際の困難性とコストとが低減される。
本発明の他の利点及び他の目的は,当業者によって評価され,次の詳細な
説明及び図面を参照することによって明らかになる。」(甲5,段落【0
009】)
・図面(甲4)
【図1】本発明の装置の好ましい実施形態の断面図
【図2】図1に示す本発明の装置の実施形態の受け部材の部分断面図
【図3】図1に示す本発明の装置の実施形態の閉鎖部材の1つの実施形態
の断面図
イ上記記載によれば,本願発明は,ねじが形成された固定閉鎖部材を使用す
る医療機器に関するものであり,装置部品の輪郭及び大きさの最小限化,コ
ストの低減,装置を使用する困難性の低減を実現するため,医療機器の後方
開放型形状に関し,固定部材(受け部材)の広がりを解決することを課題に
し,その解決手段として,閉鎖部材に形成されるねじを反対角度ねじとする
ことを採用し,脚部に対し半径方向内側の力を加えることで脚部の広がりを
防止するものであることが認められる。
(2)引用発明の意義
ア引用発明が記載された甲1文献には以下の記載がある。
(ア)特許請求の範囲
・「(1)骨に固定される部分(1)と,ロッド(3)に取り付けられる本
体(2)とで構成され,この本体には本体後側に向かって開いた溝
(6)が形成されており,この溝によって本体は2つの分岐部(4)
に分けられ,さらに,ロッド(3)を収容するためにこの溝(6)は
本体の両側で開いているような骨接合具用,特に脊椎骨接合具用のイ
ンプラントにおいて,
本体(2)の後端を構成する上記2つの分岐部(4)の内壁に形成
された雌ネジ(11)にネジ込み可能なプラグ(8)を具備し,この
プラグ(8)はその直径方向反対側の2つのエッジがロッド(3)と
当接するように溝(6)のネジ込まれた側を閉じ,このプラグ(8)
のロッド(3)の方向を向いた面(8a)にはプラグ(8)をロッド
(3)に係止して固着させる手段が設けられており,この係止・固着
手段によってロッドの並進運動と回転運動とが固定されることを特徴
とするインプラント。」
・「(2)前記係止・固着手段がプラグ(8)の他の部分と一体に形成され
た中心尖端(12)を含むことを特徴とする請求項1に記載のインプ
ラント。」
・「(3)前記係止・固着手段がプラグ(8)の面(8a)から突出した外
周リング(13)を含み,この外周リング(13)は断面が三角形で,
好ましくは頂点(13a)が丸くなっており,プラグ(8)の他の部
分と一体に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のインプ
ラント。」
・「(4)前記係止・固着手段が中心尖端(12)とプラグ(8)の面(8
a)から突出した外周リング(13)を含み,該尖端と外周リングが
プラグの他の部分と一体に形成されていることを特徴とする請求項1
に記載のインプラント。」
・「(5)固定部(1),本体(2)およびプラグ(8)が生体適合性の良
い同じ材料で作られていることを特徴とする請求項1∼4のいずれか
一項に記載のインプラント。」
・「(6)プラグ(8)をネジ込んだ場合の荷重の半径方向成分を除去する
ために,本体(2)の2つに分かれた分岐部(4)の雌ネジ(11)
とプラグ(8)の雄ネジ(9)とが,鋸歯ピッチであることを特徴と
する請求項1∼5のいずれか一項に記載のインプラント。」
・「(7)プラグ(8)がロッド(3)の方を向く面(8a)に,粗面部分
(15)を有することを特徴とする請求項1∼6のいずれか一項に記
載のインプラント。」
・「(8)前記粗面部分(15)が,斜辺部分(15a)が締まる方向に向
いた鋸歯状に形成されていることを特徴とする請求項7に記載のイン
プラント。」
・「(9)プラグ(8)が,冷間加工,例えば冷間鍛造で,製作され,切削
加工で製作されたロッド(3)よりもかなり大きい硬度を付与されて
いることを特徴とする請求項1∼8のいずれか一項に記載のインプラ
ント。」
(イ)発明の詳細な説明
a産業上の利用分野
「本発明は,骨接合(osteosynthesis)に用いられるイ
ンプラント,特に脊柱接合具用インプラントに関するものである。
上記のインプラントは,骨に固定(投錨)するための部分と,ロッド
を取りつけるための本体とで構成され,この本体は2つの分岐部に分か
れ且つ後部に向かって開いた溝が形成されており,この溝は,さらに,
上記ロッドが収容できるように本体の両側に向かって開いている。
上記の骨に固定(投錨)するための部分は,例えば,適当な形のネジ
またはブレードで構成することができる。」
b従来の技術
「公知のインプラントの上記本体は,閉じているか,後側が開いている
か,両側方が開いていた。
これらのインプラントは,以下の欠点がある。
(1)本体の形式として3つの異なる型があるために,取付けに必要な
部材の数が非常に多くなる。
(2)例えばフランス国特許第2,545,350号(83/07,45
0)に記載のような,後側が開いた本体の場合には,追加の取付け
要素によって構成された溝内固定具を使用する必要があり,この追
加の取付け要素を予めロッドに取り付けておかなければならない。
(3)本体が閉じているインプラントの場合には,ロッドを差し込むの
はかなり難しい。
(4)本体が開いたインプラントの場合には,正確に位置決めしなけれ
ばならず,ネジを使用する際に医師に不便を強要する。
(5)使用する部材が多様で複雑であるため,かなりの補助具を使用す
ることが必要である。
(6)大きくて不便である。
(7)インプラント要素の製作は難しく,コストがかかり,特に,外す
場合には切断加工が必要なため,取外しが困難である。」
c発明が解決しようとする課題
「本発明の目的は,これらの欠点のないインプラントを提供することに
ある。」
d課題を解決するための手段
「本発明に従うインプラントは,本体の後端を構成している2つに分か
れた分岐部の内壁に形成された雌ネジにネジ込まれるように構成された
プラグを具備し,このプラグがネジ込まれた側で上記の溝が閉じられ,
2つの直径方向反対側のエッジでロッドと当接している。ロッドの方を
向いたプラグの面には,プラグをロッドに対して並進運動および回転運
動しないように係止・固着する手段が設けられている。
上記分岐部の内壁に形成されたネジによって本体の分岐部の中にプラ
グがネジ込まれるので,インプラントは非常に小さい寸法となる。
可能な実施例の1つでは,上記係止・固着手段は,プラグの他の部分
と一体に形成された中心尖端を具備している。
変形として,この係止・固着手段は,プラグの面から突出して周囲に
形成された外周リングで構成するか,または,この外周リングと中心尖
端との組合せで構成するのが好ましい。・・・」(2頁右下欄12行∼
3頁左上欄17行)
・「・・・インプラントの本体の2つの側面すなわち分岐部4の雌ネジ1
1とプラグ8の雄ネジ9は,鋸歯ピッチとすることができる。こうする
ことによって,プラグ8をネジ込んだ場合の荷重の半径方向成分が完全
に除去され,2つの分岐部4が開かないようにすることができる。」
(3頁右下欄2∼8行)
・図面
【図1】骨接合具のロッドに取り付けられた本発明によるインプラント
の1実施例の斜視図
【図2】第1図のインプラントのロッドの軸方向における正面図(プラ
グは本体から外してある)
イ上記記載によれば,引用発明は,骨接合,特に脊柱接合具用インプラント
に関する発明であり,医師が施術をする際の作業等を容易化するためにイン
プラントの小型化,部材の数を減らすことなどを課題としているほか,イン
プラント用医療機器における後方開放型の形状に関し,受け部材が開かない
(広がらない)ようにすることも課題としており,後者の課題の解決手段と
して,閉鎖部材(プラグ8)と受け部材(分岐部4)に形成されるねじを鋸歯
ピッチとすることを採用し,閉鎖部材(プラグ8)をねじ込んだ場合の荷重の
半径方向成分を完全に除去することで,受け部材(分岐部4)が開かないよう
にしたものであることが認められる。
ウなお,原告は,甲1文献の「プラグ8をネジ込んだ場合の」(3頁右下
欄5行)との記載は,引用発明の対応米国特許5005562号明細書
(甲9)には「」とあることを考慮すると,「プラグ8をonscrewingup
ネジ込むとき」(プラグ8をネジ込む過程の段階)と解釈すべきであると
主張する。しかし,甲1文献が日本で日本語によってなされた出願の公開
特許公報であることに照らせば,その解釈は甲1文献の記載自体から行わ
れるべきものである。そして,引用発明が後方開放型の形状を有する脊椎
骨接合用器具であり,脊椎骨接合用器具は人体に埋め込まれるため,ねじ
が緩んでも締め直すことが困難であることは自明であることからすると,
甲1文献の「プラグ8をネジ込んだ場合の」との記載は,雄ねじを雌ね「
じにねじ込むとき」に限定されると解するのは妥当でなく,「雄ねじを雌
ねじにねじ込んだ後」をも含むと解するのが相当である。
(3)原告の主張に対する判断
ア原告は,本願発明は,雄ねじを雌ねじにねじ込む場面」(1段階目)で「
強固に止めた上,さらに,「雄ねじを雌ねじにねじ込んだ後」(2段階目)
の受け部材の広がりを確実に防止することを志向した発明であるのに対し,
引用発明は,雄ねじを雌ねじにねじ込む場面」(1段階目)においてプラ「
グをロッドに固定することが課題であり,「雄ねじを雌ねじにねじ込んだ
後」(2段階目)においても受け部材の広がりを防止しようという課題は存
在しないから,両者は解決しようとする課題が異なると主張する。
しかし,上記(2)で述べたとおり,引用発明が後方開放型の形状を有する
脊椎骨接合用器具であり,医療分野での使用を想定していることが認められ
る。そして,脊椎骨接合用器具は人体に埋め込まれるため,ねじが緩んでも
締め直すことが困難であることは自明であることからすると,甲1文献の
「プラグ8をネジ込んだ場合の荷重の半径方向成分が完全に除去され,2つ
の分岐部4が開かないようにすることができる」との記載(3頁右下欄5行
∼8行)は,雄ねじを雌ねじにねじ込む場面」(1段階目)に限定される「
ものではなく,「雄ねじを雌ねじにねじ込んだ後」(2段階目)も含むと解
される。すなわち,引用発明は,「雄ねじを雌ねじにねじ込んだ後」(2段
階目)においても,受け部材が開かないようにすること(本体2(側方分岐
部4)が開かないようにすること)を課題としているというべきである。
そうすると,本願発明と引用発明は双方とも,後方開放型の形状を有する
医療機器において「受け部材が開かない(広がらない)ようにする」という
課題を有していると認めることができる。したがって,本願発明と引用発明
とでは解決すべき課題が異なるとの原告の上記主張は採用することができな
い。
イまた,原告は,本願発明は,「雄ねじを雌ねじにねじ込んだ後」,医療機
器がロックされた場合に,脚部に対し半径方向内側の力を加えることで脚部
の広がりを防止するものであるのに対し,引用発明は,「雄ねじを雌ねじに
ねじ込む場面」においてプラグのねじ込みによってロッドをいかに固定する
かを解決するものであり,両者は機能,解決手段の基本的な発想を異にする
から,この際を解消することは困難であると主張する。
確かに,甲1文献の特許請求の範囲第1項の「・・・このプラグ(8)は
その直径方向反対側の2つのエッジがロッド(3)と当接するように溝
(6)のネジ込まれた側を閉じ,このプラグ(8)のロッド(3)の方向を
向いた面(8a)にはプラグ(8)をロッド(3)に係止して固着させる手
段が設けられており,この係止・固着手段によってロッドの並進運動と回転
運動とが固定されることを特徴とするインプラント。」との記載(1頁左下
欄14行∼同頁右下欄5行)によれば,甲1文献に記載された発明はロッド
の並進運動と回転運動とを固定するために,プラグ(8)に設けられた係止
・固定手段を解決手段として採用していることが認められる。
しかし,甲1文献の特許請求の範囲第6項の「プラグ(8)をネジ込んだ
場合の荷重の半径方向成分を除去するために,本体(2)の2つに分かれた
分岐部(4)の雌ネジ(11)とプラグ(8)の雄ネジ(9)とが,鋸歯ピ
ッチであることを特徴とする請求項1∼5のいずれか一項に記載のインプラ
ント。」との記載(2頁左上欄7行∼12行),及び「インプラントの本体
の本体の2つの側面すなわち分岐部4の雌ネジ11とプラグ8の雄ネジ9は,
鋸歯ピッチとすることができる。こうすることによって,プラグ8をネジ込
んだ場合の荷重の半径方向成分が完全に除去され,2つの分岐部4が開かな
いようにすることができる。」との記載(3頁右下欄2∼8行)によれば,
前記(2)で述べたとおり,引用発明は,受け部材が開かないようにするため
に,閉鎖部材のねじとして荷重の半径方向成分が完全に除去されるねじ(鋸
歯ピッチのねじ)を解決手段として採用していることが認められる。そうす
ると,本願発明と引用発明は,受け部材が開くことを防止するために閉鎖部
材のねじの形状としていかなるものを用いるかという点においては,共通の
発想を有していると認めることができる。したがって,本願発明と引用発明
は機能,解決手段の基本的な発想を異にするとの原告の上記主張は採用する
ことができない。
ウさらに原告は,鋸歯ねじとは,「軸方向の力が一方向だけに働く場合に用
いられる非対称断面形のねじ」と定義されているところ(JIS工業用語大
辞典第5版1727頁),かかる定義によれば,鋸歯ねじについて後方ねじ
面の傾斜に着目した定義はされていないこと,荷重の半径方向成分を完全に
除去するためには,プラグの中心軸線に対して垂直なフランク面を提供する
ことが必要であるから,鋸歯ネジピッチは,本体2の軸線に垂直な荷重面を
有していると考えられるので,甲1文献の「雌ネジ11とプラグ8の雄ネジ
9は,鋸歯ピッチとすることができる。」との記載(3頁右下欄3∼5行)
は,後方ねじ面の傾斜に着目して構成された本願発明の「反対角度ねじ」を
採用することの示唆にはなり得ないと主張する。
しかし,本願発明と引用発明が,後方開放型の形状を有する医療機器にお
いて「受け部材が開かない(広がらない)ようにする」という共通の課題を
有していること,その解決手段としていかなる閉鎖部材(ねじ)を用いるか
という点においては共通の発想を有していることは前記のとおりである。そ
して,引用発明は骨接合用のインプラントに関するものであり,受け部材に
閉鎖部材をねじ込んだ後に継続的に使用されるものであること,「雄ねじを
雌ねじにねじ込んだ後」に,雄ねじを引き抜こうとする動きがあるとき,雄
ねじの後方に面するねじ面がこの動きに抵抗するねじ面になることに照らせ
ば,甲1文献の「雌ネジ11とプラグ8の雄ネジ9は,鋸歯ピッチとするこ
とができる。こうすることによって,プラグ8をネジ込んだ場合の荷重の半
径方向成分が完全に除去され,2つの分岐部4が開かないようにすることが
できる。」(3頁右下欄3∼8行)」との記載は,雄ねじの後方に面するね
じ面の傾斜に着目して「反対角度ねじ」を採用した本願発明の示唆たり得る
ものというべきであって,これと異なる原告の主張は採用することができな
い。
エなお,原告は,「甲1文献の『プラグ8をネジ込んだ場合の』との記載は
『プラグ8をネジ込むとき』(プラグ8をネジ込む過程の段階)と解釈すべ
きであるところ,半径方向成分が完全に除去される『荷重』は,『プラグを
ネジ込んだ後にロッドの動きの結果として本体2に生じる荷重』ではなく,
『プラグを本体2にネジ込むときに生じる荷重』を意味していると考えるべ
きである。この場合,プラグ8の鋸歯ねじの,プラグの中心軸線に対して垂
直なフランク面は,ねじ山の前方(先端側)に設けられることになる。この
ような構成のネジに,本願発明の『反対角度ねじ』のような後方ねじ面の傾
斜を設けることは不可能である。」と主張する。
しかし,引用発明がプラグ8をねじ込んだ後に受け部材が開かないように
することも課題としていることは前記のとおりであるから,甲1文献の「プ
ラグ8をねじ込んだ場合の」との記載を「プラグ8をねじ込むとき」と限定
して解釈することを前提とする原告の上記主張は採用することができない。
3取消事由イ,ウ及びエ(引用発明と周知技術の組み合わせの困難性)について
(1)原告は,周知技術1(甲2文献)及び周知技術2(甲3文献)並びに乙1文
献・乙2文献と引用発明との組み合わせの困難性を主張するが,当裁判所は,
甲2文献(周知技術1)について判断するまでもなく,以下に述べるように,
周知技術たる甲3文献・乙1文献・乙2文献に基づいて引用発明から本願発明
を想到することは容易であると判断する。
(2)甲3文献(周知技術2),乙1文献及び乙2文献には以下の記載がある。
ア甲3文献
・「第2図の場合,点Mにおけるねじ山の側面7の傾斜角は,この点にお
けるこのねじ山の側面の母線の接線と径5に平行でこの点を通る直線5’
がなす角度αに等しいことがわかる。同様に,点Nにおけるねじ山の側面
8の傾斜角は,この点におけるこのねじ山の側面の母線の接線と径5に平
行でこの点を通る直線5”がなす角度βである。これらの角度α及びβは,
正である。なぜなら,各々,点Mもしくは点Nからねじの外側すなわち直
線5’,5”の端部に示す矢印の方向に,切断面に含まれる径5に平行に
進むと,母線上のこれらの点M,Nにおける接線から離れていくからであ
る。」(3頁右上欄3行∼15行)
・「上述のような,側面の傾斜角が正であるねじを有するらせん形のねじ
は,製造が最も簡単なため一番良く使われている。これは,例えば国際規
格S.I.に適するねじの場合である。この国際規格によれば,対向する
側面は,各々,径に対して30°の正の傾斜角を持つ。
しかしながら,傾斜角が正の側面を有するこれらのねじは,応用によっ
ては,機械的強度が不十分であるという欠点を持つ。例えば,一方の端部
が雄ねじで,もう一方がその雄ねじに対応するように接合される雌ねじと
なっている2つの回転体中空部材のねじによる接合の場合である。」(3
頁右上欄16行∼左下欄7行)
・「2本のパイプの一方に,両パイプの共通の軸に平行に引っ張り力を与
えると,そのパイプをもう一方のパイプから引き離そうとするので,この
引っ張り力はねじ山の側面で径方向の成分を持つことがわかる。この成分
は,互いにかみ合う雄ねじと雌ねじの側面を径方向に滑らせる。側面の傾
斜角が正の場合,この径方向の力により,中空部材の雌ねじを有する側面
の直径が増大し,反対に,中空部材の雄ねじを有する壁面の直径は減少す
る。壁面が薄い中空部材の場合,互いのねじ山がはずれて,その結果接合
状態でなくなるような径方向の変形が起こる可能性がある。
例えば,直径が大きく肉厚の薄いパイプが接合されているときに,大き
な引っ張り力を与えると,接合がはずれる恐れがある。」(3頁左下欄8
行∼右下欄2行)
・「そのような危険を回避する手段が知られている。その手段とは,ねじ
山の側面の傾斜角が0もしくは負であるねじを使用することである。第3
図及び第4図は,このようなねじの例である。切断面P2,P3は,第2
図の場合のように,各々,参照番号9,10に示すねじのらせんの接線に
垂直で,しかも,ねじ山の底部で点11,12と交わる回転体部材の径1
3,14を含む平面である。第3図の場合は,ねじ山の側面15,16の
母線は直線で,径13に平行である。これらの母線上の任意の点の接線は,
これらの母線と一致し,従って,また径13に平行である。これは,いわ
ゆるねじ山が「四角」のねじである。このようなねじ山を備えるパイプを
接合した場合に軸方向に引っ張り力を与えると,ねじ山の側面には径方向
の成分が存在し得ないことがわかる。」(3頁右下欄3行∼18行)
・「第4図の場合,ねじ山の側面の母線17及び18は直線であり,従っ
て,それらの接線と一致する。母線17上の任意の1点Pを通って径14
に平行な直線14’をひくと,この平行線は母線と角度α1をなす。この
角度は正であり,従って,そのねじ山の側面は,角度α1の正の傾斜角を
持つ。反対に,母線18上の任意の1点Sを通って径14に平行な直線1
4”をひくと,この平行線は母線と負の角度β1をなす。実際,点Sから
ねじの外側の方向,すなわち矢印に示す方向に直線14”をたどると,ね
じ山の側面から離れるのではなく,逆にねじ山の内部に入っていく。従っ
て,ねじ山のこの側面は負の傾斜角β1を持つ。これはアンダカットを有
するねじ山の側面であると言われることが多い。
側面の傾斜角が負であるようなねじ山を備えるパイプを接合して引っ張
り力を与えると,その引っ張り力が径方向の成分をもつので,2つの雄ね
じと雌ねじが互いにより密接に接合することがわかる。側面の傾斜角が正
のねじ山の場合と同様に,その他の条件をすべて同じにして考えると,側
面の傾斜角の負の程度が大きくなるほど径方向の成分が大きくなる。」
(3頁右下欄19行∼4頁左上欄20行)
・図面
【図1】ねじ山の側面が正の傾斜角を持つらせん状のねじを備えるパイプを,
軸を含む平面で切断してその上半分を示した図
【図2】第1図に示すねじを備えるパイプを,ねじ山の接戦に垂直な平面で
切断してその上半分を示した図
【図3】正方形のねじ山を持つねじを,ねじ山の接線に垂直な平面で切断し
てその上半分を示した図
【図4】側面の一方が負の傾斜角を有するねじ山を備えるねじの断面図の上
半分を示す図
イ乙1文献
・「従来のボルト,ナットは第3図に示すように接触面とボルト(a)の
軸芯の為す角θは90度より小であるため,ナット(b)は外周方向に広
がる力Wが働き,又ボルト(a)は中心方向に収縮する力を受ける。(2
頁10行∼14行)
・「この考案は叙上のように同方向に傾斜する捻子面(1)および(2)
をもつ断面鋸歯状の捻子山(3)(3)を設けたボルト(4)と,この捻
子山(3)に適合して嵌合する雌捻子(5)を形成した2つ割りナット
(6)(6)から成るため,所望の締付箇所処において両2つ割りナット
(6)(6’)をボルト(4)に左右から嵌め込むことにより,直ちに嵌
着されてナットの締付作用を確実に行なうことができる,即ち従来のもの
とは逆に2つ割りナット(6)(6’)は中心方向に収縮する力を受け,
ボルト(4)は外周方向に広がる力を受ける,これを第2図に就いて説明
すると,接触捻子面(2)の任意の接触点を中心軸線との距離をrその点
における接線が中心軸線と為す角度をθ(r)その点にかゝる面圧を段位面
積当たりW(r)とすると,半径方向への分力はW(r)cosθ(γ)と
なる。今ボルト(4)と2つ割りナット(6)(6’)の接触捻子面
(2)がr1とr2の間で接触しているとき2つ割りナット(6)(6
’)に作用する力FはF=∫W(r)cosθrdr<0であればr1r2
2つ割ナット(6)(6’)は中心方向に縮む力が作用する。第2図にお
いてθ≧π/2であればよい。このように2つ割りナット(6)(6’)
が中心方向に収縮しようとする力が作用することによって,従来のように
互いに連続した環状のものでなくても充分な締付作用が働き,常にボルト
(4)と2つ割りナット(6)(6’)は密着する方向に力が作用し,弛
むことがないから弛み止め装置を施す必要もない,この性質のためボルト
(4)の任意の位置に捻子を切り前後の軸径に関係なく2つ割ナット(6)
(6’)を装着することができ,これによって所望する機械の組立の省力
化に頗る役立つ画期的な考案である。」(3頁6行∼4頁18行)
・図
【図1】この考案に係わるボルト,ナットの縦断正面図
【図2】螺着状態を示す拡大断面図
【図3】従来のボルト,ナットの螺着状態を示す図面
ウ乙2文献
・「通常のねじれを有するねじを用いて交差点を固定しようとする試みも,
スロット28と29の端部がスピリット・ナットとして働くことが分った
ために採用されない。例えば,通常V型に切られたねじれを有するねじは,
スロットの端部で切られた雌ねじにかみ合って外側への力が作用し,その
結果,スロットは締まるというよりむしろ広がることとなる。
この問題は,この発明によって解決された。即ち,この発明はねじ方向
に力を与えて締まる鋭角に切ったねじ31を用いることを特徴とする。第
4図に示すように,ねじ31は交差点15の下部と上部の両方に働く。こ
れを達成するために,スロット28(1)の端部32(1)に雌ねじが切
られ,又梁17(1)にはスロット28(1)に向って短いねじすじをつ
けたスロット33(1)を設ける。」(2頁右欄30行∼3頁左欄1行)
・「鋭い角度でねじ山をつけた詳細を第7図に断面図として示す。ねじ山
は,ねじの垂直軸39に対して鋭い角度Aでねじの側面38を構成し,し
たがって,その断面は鋸歯状になっている。故に,雄ねじと雌ねじとが力f
tで締めつけられると,その結果としまして,梁をねじ方向へ推し進める側
面力fが作用することになる。側面力fの大きさは角度Aの関数である。11
ある与えられた締めつけ力ftに対し,その側面力fは,ある与えられた角1
度Aによって計算することができる。力fは角度Aが90度でゼロとなり,1
角度Aが0度の方向に減少するに従い増加することになる。」(3頁左欄
18∼29行)
・図面
【図7】鋭角でねじを切った詳細の断面図
(3)ア上記各文献の記載によれば,「閉鎖部材(雄ねじ)をねじ込んだ場合に,
受け部材(雌ねじ)が開かないようになされた閉鎖部材のねじ」として,
「後方に面するねじ面の傾斜が,ねじの長手方向の軸線を通るねじの所定の
断面において,ねじの根本における後方に面するねじ面の一点がねじの頂点
における後方に面するねじ面の一点よりねじの前端に接近しているようにな
されたねじ(反対角度ねじ)」を用いることは,本願優先日たる平成10年
(1998年)11月9日当時周知の技術であったことが認められる。なお,
原告は,乙1文献及び乙2文献に記載された技術は,「雄ねじを雌ねじにね
じ込む場面」で作用する技術であり,「雄ねじを雌ねじにねじ込んだ後」に
作用することを想定していないと主張するが,いずれの技術も雄ねじと雌ね
じの接合に関する技術であり,接合時のみならず接合後も雄ねじと雌ねじが
緩んで離れないように要請されることは自明と解されるから,上記技術がこ
のような場面を想定していないと解することはできず,原告の上記主張は採
用することができない。
そして,引用発明における「閉鎖部材をねじ込んだ場合に,受け部材が開
かないようになされた閉鎖部材のねじ」として,上記周知の技術を適用する
こと,すなわち「荷重の半径方向成分が完全に除去されるねじ」に代えて,
「後方に面するねじ面の傾斜が,ねじの長手方向の軸線を通るねじの所定の
断面において,ねじの根本における後方に面するねじ面の一点がねじの頂点
における後方に面するねじ面の一点よりねじの前端に接近しているようにな
されたねじ(反対角度ねじ)」を用いることは,周知技術が雄ねじと雌ねじ
の接合に関する基礎的な技術であり,分野を問わずに必要に応じて用いられ
るものと認められることに照らすと,甲3文献及び乙1,2文献に記載され
た技術が本願発明のような医療分野に関するものではないとしても,格別の
困難性があるとはいえない。したがって,本願発明は引用発明及び本願優先
日前周知の事項に基づいて当業者(その発明の属する技術の分野における通
常の知識を有する者)が容易に発明をすることができたというべきであり,
かかる判断をした審決に誤りはない。
イなお,原告は,引用発明は,甲3文献に示される周知技術が要求する径方
向の力をなくすための解決方法を示すものであるから,この周知技術のねじ
を引用発明に組み込むことによって,引用発明の目的は達せられなくなると
主張する。しかし,引用発明にかかる医療機器は,前述のとおり,受け部材
の開きを防止することを課題としており,径方向の荷重成分を除去すること
と,周知技術により径方向内側への力を生じさせることは,本体の開きを防
止するという目的において共通しており,周知技術を引用発明に組み込むこ
とでその目的が達せられなくなるものではないから,原告の上記主張は採用
することができない。
4結語
以上によれば,原告主張の取消理由は理由がない。
よって原告の主張を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官今井弘晃
裁判官真辺朋子

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