弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決および第一審判決を破棄する。
     被告人を懲役一年二月に処する。
     第一審における未決勾留日数五九日を右本刑に算入する。
         理    由
 検察官の上告趣意は、判例違反をいうが、所論引用の各判例は、勾留請求の日の
翌日以降に勾留状が発せられその執行がなされた場合刑法二一条によつて算入の対
象となる未決勾留日数をいつから起算すべきかという本件の間題につき、法律上の
判断を示しているものとはみられないから、いずれも本件に適切な判例となり得ず、
従つて所論はその前提を欠き適法な上告理由にあたらない。
 しかしながら、所論にかんがみ職権をもつて調査するに、記録によれば、本件被
告人は昭和四二年六月三〇日本件詐欺事実のうち第一審判決の引用する昭和四二年
七月一〇日付起訴状記載の事実につき逮捕状により逮捕され、同四二年七月一日検
察官に送致されたこと、検察官は引続き同月二日勾留の請求をし、翌三日裁判官か
ら右逮捕事実と同一の事実に基く勾留状が発せられ、即日その執行がなされたこと、
そして同月一〇日右事実につき公訴の提起がなされ、その後も被告人の勾留が続け
られたまま同年八月三一日第一審判決の言渡がなされたこと、しかして第一審裁判
所は、被告人を本件詐欺事実につき懲役一年二月に処したうえ、本刑に算入の対象
となるべき未決勾留日数は勾留請求のなされた前記七月二日から判決言渡の前日で
ある八月三〇日までの六〇日であると解し、右六〇日を本刑に算入する旨の判決を
言渡したこと、原判決は、右第一審判決の未決勾留日数算入に関する解釈を正当と
して、これを維持したものであること、以上の諸点が明らかである。
 ところで、刑法二一条にいう未決勾留とは勾留状による拘禁をいう(刑訴法一六
七条六項および少年法五三条各所定の場合は格別)ものと解すべきであるから、右
のように逮捕に引続いて勾留の請求がなされ、その請求の日の翌日以降に勾留状が
発せられその執行がなされた場合においても、右刑法二一条による算入の対象とな
るべき未決勾留の日数は、右勾留状の執行がなされた日からこれを起算すべきもの
と解するのを相当とする。従つて、本件において第一審判決が被告人の本刑に算入
することのできた未決勾留日数は、被告人に対する勾留状の執行がなされた前記七
月三日から判決言渡の日の前日である八月三〇日までの五九日であつたといわなけ
ればならない。しからば、右と異なる見解に立ち、前記のとおり六〇日を算入した
第一審判決およびこれを認容した原判決には、刑法二一条の解釈、適用を誤つた違
法があり、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであつて、これを破棄しな
ければ著しく正義に反するものと認める。
 よつて、刑訴法四一一条一号により原判決および第一審判決を破棄し、同法四一
三条但書により被告事件についてさらに次のように判決する。
 第一審判決の確定した事実に法律を適用すると、被告人の判示各所為はいずれも
刑法二四六条一項、六〇条に該当し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、
同法四七条本文、一〇条により、犯情の最も重い昭和四二年四月一〇日Aから金三
万円を騙取した罪の刑につき法定の加重をした刑期範囲内において、被告人を懲役
一年二月に処し、同法二一条により第一審における未決勾留日数五九日を右本刑に
算入することとし、訴訟費用の負担につき刑訴法一八一条一項但書を適用のうえ、
裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 検察官 平出禾公判出席
  昭和四三年七月一一日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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