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       主   文
一 原告国鉄動力車労働組合の訴えを却下する。
二 原告国鉄動力車労働組合を除くその余の原告ら一二名の請求をいずれも棄却す
る。
三 訴訟費用は原告らの負担とする。
       事   実
第一 当事者双方の求める裁判
(原告ら)
1 被告と原告P1、同P2、同P3、同P4、同P5、同P6、同P7、同P8、同P9、
同P10、同P11および同P12との間にそれぞれ雇用契約が存在することを確認す
る。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
(被告)
一 本案前の申立て
1 原告国鉄動力車労働組合の訴えを却下する。
2 却下された部分の訴訟費用は右原告の負担とする。
二 本案の申立て
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者双方の主張
(請求原因)
一 被告は、日本国有鉄道法(以下国鉄法という。)に基づいて、鉄道事業等を経
営する公共企業体である。
 原告国鉄動力車労働組合(以下原告組合という。)は、被告の職員で組織する法
人格を有する労働組合である。
 原告組合を除くその余の原告らは、いずれも昭和三六年三月以前に被告に職員と
して雇用された者であり、かつ、原告組合の組合員にして、その役員(同月現在の
役職名は別紙第一記載のとおりである。)である。
二 被告は、原告組合を除くその余の原告らについて、すでに解雇したと称して、
同原告らと被告との間の雇用契約の存在を争つている。
三 そこで、原告組合を除くその余の原告らと被告との間に雇用契約が存在するこ
との確認を求める。
(請求原因に対する認否)
請求原因一、二記載の事実を認める。
(抗弁)
一 本案前について
 本件訴えは、被告である日本国有鉄道と原告P1、同P2、同P3、同P4、同P5、
同P6、同P7、同P8、同P9、同P10、同P11および同P12との間に雇用契約が存
続することの確認を求めるものであるから、この法律関係についてなんら管理・処
分の権能を有していない原告組合は、右訴えを遂行する適格を有しない。
 原告組合の規約第一二条には、「組合は組合員と国鉄当局との間の訴訟について
組合員の利益擁護のため、組合の名において国鉄当局に対しその組合員の権利を行
使することができる。」旨の規定がある。しかし、組合員の解雇というようなこと
は組合員全体に均等に起る問題ではない。組合員の利益擁護といつても、具体的事
案によつてその内容は異なるもので、このような将来予測のできないような権利ま
たは法律上の利益について、あらかじめこれを管理することができるという組合規
約は、組合員に対する偶発的な、しかも、不平等の拘束を認める約款で無効であ
る。したがつて、この規定のあることをもつて、原告組合が本件訴訟を遂行するこ
とができるとはいえない。
二 本案について
(一) 被告は、原告P1、同P2、同P3および同P5に対しては昭和三六年三月二
八日に、原告P4に対しては同月二九日に、原告P6、同P7、同P8、同P9、同P
10、同P11および同P12に対しては同月二七日にいずれも公共企業体等労働関係法
(以下公労法という。)第一七条および第一八条に基づき解雇の意思表示(以下
「本件解雇」という。)をした。
(二) 解雇理由の詳細は別紙第二記載のとおりであるが、その骨子は、原告組合
を除くその余の原告らは、
1 本件争議行為の実施に際し、いずれも原告組合の本部あるいは下部機構の幹部
役員として、争議行為の実施を計画し、所属組合員に対し指令することに参画する
ことによつて、争議行為の実施を共謀し、かつ、組合員をその実行にあおり、そそ
のかし(この項については、原告P5および同P8を除く。)、
2 前記のように原告組合の幹部役員として、争議行為実施のためピケ隊の動員・
編成・配置等を行ない、あるいはこれを鼓舞・激励する等して、これらピケ隊所属
の組合員をあおり、そそのかし、
3 現実にピケ隊を指揮し、あるいはみずから実力行使を行なうことによつて、ピ
ケ隊所属の組合員をあおり、そそのかし、あるいはみずから違法行為を行ない、そ
のため、被告の業務の正常な運営が著しく妨害されたことにある。
(抗弁に対する認否と反論)
一 本案前の抗弁に対して
 特別の事情がある場合は、労働組合は、組合員の身分を守る訴訟において、当事
者適格を有するのである。本件において、原告組合の規約第一二条は、被告主張の
とおり、「組合は、組合員と国鉄当局との間の訴訟について組合員の利益擁護のた
め、組合の名において国鉄当局に対しその組合員の権利を行使することができ
る。」旨定めている。
 右規定によつて、原告組合がその余の原告らの訴訟遂行に関する権限を独立に有
しているものといえるのである。もともと、労働組合の活動の中心は、対使用者と
の関係において、組合員の利益を擁護し、使用者との間に労働協約を締結し、その
他団体交渉を行ない、組合員個人の労働条件を確保するために活動することである
から、組合員の身分に関する使用者の処分についても、これを団体交渉その他の対
象にして、その解決をはかるために努力することは、むしろ労働組合の当然の使命
にほかならない。そして、労働組合の右のような主要目的からみれば、組合員の対
使用者との関係における身分に関する訴訟において、労働組合は、当然、これに当
事者として参加し、当該組合員の身分の保護をはかるための活動を行ないうるもの
といわねばならないし、また、その必要がある。
 本件において、原告組合を除くその余の原告らは、いずれも公労法第一七条およ
び第一八条に基づき被告によつて解雇された。右規定の違憲であることはしばらく
おくとしても、同規定は、一種の一般的平和義務を定めた労働協約的一面を有す
る。そして、本件解雇の原因となつた昭和三六年三月一五日の組合活動は、原告組
合の機関決定に基づいて、その指揮と統制のもとに行なわれたものである。そうと
すれば、原告組合がその余の原告らの雇用関係の存否を確定する法律上の利益があ
ることはもちろんであり、当事者適格を有する。
二 本案の抗弁に対して
(一) 本案の抗弁(一)記載の事実は認める。
(二) 別紙第二記載の解雇理由に対する認否は、別紙第三記載のとおりである。
(原告らの主張)
 被告が原告組合を除くその余の原告らに対してした前記解雇(以下本件解雇とい
う。)は、以下に述べる理由により無効である。
一 公労法第一七条第一項は、日本国憲法(以下たんに憲法ともいう。)第二八条
に違反する。
(一) はじめに
本件解雇の根拠法規の一つとされている公労法第一七条第一項は、いわゆる三公社
五現業の職員のすべてに対し業務の正常な運営を阻害するいつさいの行為を禁止し
(前段)、その組合役員らに対しそのような禁止された行為を共謀し、そそのか
し、もしくはあおつてはならないとしている(後段)が、かように公共企業体等の
職員の争議行為を全面的かつ一律に禁止することは、これら職員に対し争議権を含
む労働基本権を保障した憲法第二八条に違反する。
 なんとなれば、最高裁昭和四一年一〇月二六日大法廷判決・刑集二〇巻八号九〇
一頁(以下中郵判決という。)も判示するように、憲法第二八条が保障する「労働
基本権は、たんに私企業の労働者だけについて保障されるのではなく、公共企業体
の職員はもとよりのこと、国家公務員や地方公務員も、憲法二八条にいう勤労者に
ほかならない以上、原則的には、その保障を受けるべきもの」であつて、「公務員
またはこれに準ずる者については、………その担当する職務の内容に応じて、私企
業における労働者と異なる制約を内包しているにとどまると解すべきであ」り、し
たがつて、「労働基本権の制限は、勤労者の提供する職務または業務の性質が公共
性の強いものであり、したがつてその職務または業務の停廃が国民生活全体の利益
を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれのあるものについて、これを避け
るために必要やむを得ない場合について考慮されるべ」く、その制限の程度は、
「労働基本権が勤労者の生存権に直結し、それを保障するための重要な手段である
点を考慮すれば、……合理性の認められる必要最小限度のものにとどめなければな
らない」ところ、右公労法第一七条第一項は、国鉄・電信電話・専売などの公社員
も郵便・林野・印刷・造幣などの現業公務員も、その業務または職務の内容、した
がつて、その停廃のもたらす影響のいかんを問うことなく、しかも、各職員らが行
なう争議行為の態様・程度のいかんにかかわらず、一律かつ全面的にこれを禁止す
るものであるから、すでにこの点において違憲たらざるをえないのである。
 ちなみに、右中郵判決をふまえて出された最高裁昭和四四年四月二日大法廷判
決・刑集二三巻五号三〇五頁(以下都教組判決という。)は、公務員の争議を一
律・全面的に禁止する地方公務員法(以下地公法という。)第三七条第一項につい
て、「公務員の職務の性質・内容を具体的に検討しその間に存する差異を顧みるこ
となく、いちがいに、その公共性を理由として、これを一律に規制しようとする態
度には、問題がないわけではない」としたうえ、「地方公務員の職務は、一般的に
いえば、多かれ少なかれ、公共性を有するとはいえ、さきに説示したとおり、公共
性の程度は強弱さまざまで、その争議行為が常に直ちに公務の停廃をきたし、ひい
て国民生活全体の利益を害するとはいえないのみならず、ひとしく争議行為といつ
ても、種々の態様のものがあり、きわめて短時間の同盟罷業または怠業のような単
純な不作為のごときは、直ちに国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な支障
をもたらすおそれがあるとは必ずしもいえない」と説示し、したがつて、「これら
の規定が、文字どおりに、すべての地方公務員の一切の争議行為を禁止し、これら
の争議行為の遂行を共謀し、そそのかし、あおる等の行為をすべて処罰する趣旨と
解すべきものとすれば、それは、前叙の公務員の労働基本権を保障した憲法の趣旨
に反し、必要やむをえない限度をこえて争議行為を禁止し、かつ、必要最小限度に
とどめなければならないとの要請を無視し、その限度をこえて刑罰の対象としてい
るものとして、これらの規定は、いずれも、違憲の疑を免れないであろう」と断じ
ている。右の判示および右両判決の全体的関連からするときは、地公法第三七条第
一項と同様に、公社職員等の争議行為を一律・全面的に禁止する公労法第一七条第
一項が文字どおりに解釈適用されるものとすれば違憲の疑いを免れないとされるこ
とはもはや動かしがたいところであつて、その限りにおいて中郵判決中の公労法第
一七条第一項の合憲性に関する判断は(少なくとも実質的に)修正・変更されたと
みるべきであろう。
 右の点を、公労法の制定経過ならびに本件に即して国鉄業務の公共性の点から、
いま少しながめてみよう。
(二) 公労法の制定経過
1 戦後初期の労働立法
 一九四五年七月二六日に発せられたポツダム宣言は、その第一〇項で、「日本国
政府ハ日本国民ノ間ニ於ケル民主主義的傾向ノ復活強化ニ対スル一切ノ障礙ヲ除
去」し、「基本的人権ノ尊重ハ確立」されるべきことを命じ、日本政府はこれを受
諾した。また、一九四六年一二月六日の極東委員会指令は、連合諸国の対日労働運
動政策の基本方針を示す重要文書であつたが、その第五項で、「罷業その他の作業
停止は、占領軍当局が直接占領軍の目的乃至必要に不利益をもたらすと考えた場合
にのみ禁止される。」と規定した。占領軍当局に対する大幅な弾圧権限の承認とい
えるが、反面、公務員(官公労働者)の争議行為を特別に禁止するというような考
えは入つていなかつたといえる。
 これら初期対日労働政策のもとで、日本の労働運動は飛躍的に組合数を増加し、
ストライキを背景に前進を続けた。その目ざましい盛り上がりの中で、日本国憲法
が昭和二一年一一月三日に公布され、翌二二年五月三日に実施され、勤労者の団結
する権利・団体交渉その他団体行動をする権利が保証されたのである。
 昭和二一年三月一日施行された旧労働組合法(以下旧労組法という。)は、警察
官吏・消防職員および監獄勤務者については労働組合の結成・加入を禁止したが、
原則として公務員にも同法の適用を認めた。このことは、公務員の労働関係を、原
則として、私企業の労働者の労働関係と同一視する立場を認めたものである。つい
で同年一〇月一三日から施行された労働関係調整法(同法は、その後幾度か改正さ
れているが、以下においては、制定当時の原規定をさす場合には旧労調法と、ま
た、現行規定をさす場合にはたんに労調法という。)は、警察官吏・消防職員・監
獄勤務者のほか国または地方公共団体の現業以外の行政事務および司法事務に従事
する公務員の争議行為を禁止したが、単に行政規制の対象としたにすぎず、刑罰規
定はなく、公務員の要求にからむ紛争も労働委員会の調整の対象とされていた。国
鉄労働者などの現業公務員については、公益事業の労働者と同様に調停申請の日か
ら三〇日間に限り争議行為を禁止するといういわゆる冷却期間の制度を設けるにと
どまつた。
 このように、憲法制定とこれにともなう初期労働法制定の当時にあつては、公務
員にも原則として旧労組法・旧労調法が適用されていたが、このことは憲法第二八
条の解釈上、まことに当然といわねばならない。
2 アメリカ占領当局の介入と政令第二〇一号の制定
(1) この当然の公務員争議権尊重の法制をやぶつたのは、ほかならぬアメリカ
占領当局者である。まず昭和二一年にフーバー顧問団が来日し、翌二二年六月一一
日、公務員法についてストライキ禁止条項を含むいわゆるフーバー勧告を出した。
しかし、労働省労政局も含めた広汎な反対があり、同年八月三〇日、ストライキ禁
止条項を含まない第一次国家公務員法原案がきまり、同年一〇月国会で可決され、
同月二一日公布された。かくて、フーバーらの憲法をまつたく無視した勧告は、日
本政府の一部も含めた日本の労働者・国民の反対により成功しなかつた。
 しかし、アメリカ政府は、国際情勢とくに中国国内戦争を軸とする極東情勢の深
刻化にともない、急速に対日軍事化政策を推進するなかで、日本労働運動のもつと
も中核的部分である官公労働運動の規制をはかろうとした。
 すなわち、当時「民主主義的傾向の復活強化」と「産業民主化」とを目標とする
法制の整備によつて、労働組合の結成は飛躍的に増大し、その活動も活発となつて
いた。その間、とりわけ五〇万人を超える組合員を擁した国鉄総連を中核とした全
官公庁労働組合は、わが国労働組合の中の最強力のものであり、その活動もまた全
労働組合中もつとも顕著であつた。そして、昭和二一年一一月ころにはその活動は
ますます活発となり、インフレのもとで窮乏化した労働者の労働条件や生活を確保
するため、最低生活の保障および越年資金の支給を中心とする数項目の要求を政府
に提示し、その後の政府回答・中央労働委員会の調停案をいずれも不満として昭和
二二年二月一日午前零時を期してゼネストに突入する旨の宣言を行なつた。民間労
組もこれに同調する動きを見せた。かかる情勢のもとで、連合国軍最高司令官マツ
カーサー元帥は一月三一日右二・一スト禁止の声明を出した。かくして、国内法で
は禁ずることのできない参加者二六〇万人といわれた二・一ゼネストも、このよう
な超憲法的占領軍指令によつて禁止されたのである。
 しかし、この二・一スト禁止のマツカーサー声明は、実施面はともかくとして、
形式的には当時においてなお臨時緊急の措置であるかのごとく見せかけねばならな
かつた。だから、この措置は、一面政府と経営陣にとつて労働攻勢に対する非常に
強い反撃の支柱となつたが、たかまり続けてきた労働者大衆の基本権意識を変更す
るには充分でなかつた。そして、それらをくずすためには、一面において労働陣営
内部の分裂・対立を促進し、他面において占領軍権力による指令に依存しなければ
ならなかつた。翌二三年三月における全逓信労働組合(以下全逓という。)を中心
とする官公庁ゼネスト態勢に対して行なわれたマーカツト経済科学局長の覚書は、
先のマツカーサー声明がなお効力を持続するものだと主張することによつて、ゼネ
スト禁止の管理法を確立したのである。
(2) しかし、その後、ふたたび、全官公庁労働組合は一本となつて、その年の
夏期労働攻勢を開始した。それに対して、同年七月二二日、マツカーサー元帥から
芦田首相あてに「国家公務員法の全面的改正に時を移さず着手すること」および公
共企業体制度の採用を示唆する書簡が発せられた。これが有名なマツカーサー書簡
であるが、その内容ないし法理は、つぎに示すごとく、きわめて特異なものであつ
た。
 「その勤労を公務に奉げるものと私的企業に従う者との間には、顕著な区別が存
在する。前者は国民の主権に基礎をもつ政府によつて使用される手段そのものであ
つて、その雇用せられる事実によつて与えられた公共の信託に対し、無条件の忠誠
の義務を負う。」
 「米大統領故フランクリン・ルーズベルトの言葉によれば、『国民はその利益と
福祉のために政府活動の中に秩序と脈絡とが維持せられることを要求する。公務員
の上には、この国民全体に奉仕する義務がある。これは最高の義務である。彼等自
身の職務で政府の機能に関するものである以上、公務員の争議行為は彼等自身にお
いて要求が満足せられるまで政府の運営を妨害する意図のあることを明示するもの
に他ならない。自ら支持を誓つた政府を麻痺せしめんと企図するこのような行為
は、想像し得ないものであると同時に、許し得ないものである。』」
 「雇用もしくは任命により日本の政府機関もしくはその従属団体に地位を有する
ものは、何人といえども、争議行為もしくは政府運営の能率を阻害する遅延戦術そ
の他の紛争戦術に訴えてはならない。何人といえども、かかる地位を有しながら日
本の公衆に対しかかる行動に訴えて公共の信託を裏切るものは雇用せられているた
めに有するすべての権利と特権を放棄するものである。」
 この書簡に対して、政府は、マツカーサーの書簡は憲法に優先するという見解の
もとに、同年七月三一日政令第二〇一号を発した。この「昭和二三年七月二二日付
内閣総理大臣宛連合国最高司令官の書簡に伴う臨時措置に関する政令」によつて、
公務員の争議行為および労働協約の締結を目的とする団体交渉は禁止され、これの
違反者には刑罰が科せられることになつた。すなわち、この政令第二〇一号は、従
前の、たとえば旧労調法第三八条等による制限とは明らかに質的に異なり、つぎの
ように全面的・一律的な、しかも、刑罰を伴う争議行為禁止であつた。
(ⅰ) 旧労調法は、非現業・現業を区別していたが、政令第二〇一号は全公務員
に対する刑罰を背景とする全面的禁止であつた。
(ⅱ) 違反行為に対して、旧労調法第三九条第一項では、「違反行為について責
任のある労働者の団体」のみに罰金(五〇〇〇円以下)が科せられるだけで、参加
した労働組合員個人にはなんら罰則はなかつた。ところが、政令第二〇一号では、
単なる一参加者であつても処罰され、罰金(五〇〇〇円以下)のみならず一年以下
の懲役をも科されることになつた。
(ⅲ) 旧労調法第四二条では「三九条の罪は労働委員会の請求を待つてこれを論
ずる」としてあつた。そして、事実上一度もこの請求は労働委員会によつてなされ
ず、制裁規定としては機能していなかつた。ところが、政令第二〇一号にはこのよ
うな抑制的な規定はなく、施行後まもなく警察・検察当局により官公労働運動取締
りの格好の武器として使われるに至つた。現に、この政令に対して、国鉄・全逓な
どの労働組合は非常事態宣言を発して、憲法擁護・民族独立等のスローガンのもと
に広汎な職場離脱闘争をもつて対抗した。
 だが、その結果、職場離脱者は政令第二〇一号によつて逮捕・起訴・懲戒処分を
受けることになつたのである。
3 公労法その他国内諸法令の制定
 次いで、政府は、同年一二月三日、国家公務員法(以下国公法という。)の改正
を行ない、国家公務員の労働法上の地位について根本的変更を加え、一般の公務員
を労働組合法による保護から人事院の管理のもとに移し、公務員を一般労働法のわ
く外においたばかりでなく、政令第二〇一号を法律の形式で固定化し、しかも、そ
の内容において政令第二〇一号よりもさらに処罰範囲および法定刑をつぎのように
厳しくした。
(1) 職員たると否とを問わず、「何人といえども」争議行為等を企画・共謀・
教唆・煽動することを禁じた(現行規定第九八条第二項)。
(2) 罰則についていえば、共謀・教唆・煽動・企画者に対し、三年以下の懲役
または一〇万円以下の罰金という重罰を規定した(現行規定第一一〇条第一七
号)。これは政令第二〇一号と同様ないしそれ以上に憲法第二八条に抵触する違憲
立法である。
 そして、公務員のうち、日本国有鉄道および専売局の職員について、それらの企
業の性質が、私企業に類似する性質をもつとの理由から、これを公共企業体として
扱い、その職員の労働関係を規律する法律としては公労法が制定された。公労法な
どこれらの争議行為禁止立法が制定されるにつき特徴的なことはつぎのごとくであ
る。
(1) 超憲法的管理法令たる前記マツカーサー書簡の考え方を、そのまま国内法
に転化したものにすぎないこと。
(2) 立法理由はなんら合理的な根拠はなく、抽象的に公務員の場合は「全体の
奉仕者」、公共企業体職員の場合には「公共の福祉」のために争議権の行使を禁ず
るということであつたこと。
 ただ、国公法の場合は、争議権を奪い、団結権・団体交渉権を制限しても、その
代償措置として給与改善のために人事院勧告の存することが、また、公労法の場合
には、調停・仲裁制度の存することが喧伝された。
(3) 通常の制定・審理経過と異なつた異常事態において制定されたこと。すな
わち、旧労組法・旧労調法は、労務法制審議会においても、国会においても慎重に
審議された。しかし、政令第二〇一号や国公法・地公法の争議権はく奪については
まつたく逆であつた。すなわち、法務庁の調査意見長官の審査の機会も与えられ
ず、政府部内においても、憲法適合性についての検討がまつたくなされなかつた。
また、国会の審議についても、制定当時の国会議事録には多くの速記中止部分がみ
られ、政府答弁がなんら理由もなく打ち切られている。このように労働基本権に関
する審議の内容を国民に十分明かすことなく、これらの禁止立法は制定されたので
ある。
4 結び
 これら一連の立法の背景は、アメリカ政府の極東戦略・占領政策の変化による対
日軍事化政策であり、全公務員をその膝下に掌握することであり、そのため日本に
おける公務員の争議行為を禁止したのである。それは憲法体系とは異質の管理法令
により、占領目的の遂行という名のもとに強行されたのである。そして、その国内
法化の過程においてもなんら合理的理由を見い出すことはできず、占領軍命令の圧
力を背景として一方的に立法化されたものである。
 その後、昭和二七年のサンフランシスコ平和条約発効に際しては、占領期間中の
法規の検討と労働関係諸法規改正のための労働関係法令審議委員会が設けられ、公
務員の争議権復活が論議の対象となつたが、ついに委員会答申中には掲げられなか
つた。公労法については類項の改正が行なわれ、適用範囲の拡張等もあつたが、団
体行動権に対する考え方にはなんらの変更もなく今日に及んでいる。
 したがつて、労働基本権に重大な制限を加えるこれらの国内諸法令の憲法適合性
の吟味・検討は、将来の課題として当初から残されていたのであり、これが再検討
は不可避の宿命であつたといわなければならない。
(三) 国鉄の業務の公共性と争議権否認の不合理性
 公共企業体労働者に対する争議行為の制限が合理的であり、したがつて、合憲的
であるかどうかを考える場合には、その労働者がおかれている実態を明確につかむ
必要がある。
 国鉄労働者の争議行為制限の根拠が「国民生活全体の利益を著しく侵害するか
ら」という場合、何がこれに該当するかの基準として、国鉄が公共企業体であり、
その業務の公共性が高いということが十分な理由となるであろうか。高度に発達し
た資本主義国であるわが国の場合、いわゆる資本の独占化が進み、重要産業は少数
の独占的企業によつて占められている。そして、企業の独占化は、電気・ガス・営
利的輸送網はいうに及ばず、鉄鋼・食品・マスメデイア・サービス業等に至るま
で、すべて国民生活に重大なかかわりをもつに至つている。すなわち、これらの事
業の一時的中断は、多かれ少なかれ国民生活全体の利益を侵害する。ところで、労
働基本権は「憲法二五条に定めるいわゆる生存権の保障を基本理念とし、勤労者に
対して、人間に価する生存を保障すべきもの」(中郵判決)として保障された基本
的人権であるから、これら人権の行使が国民生活全体の利益を侵害するという理由
で制限・否定されたのではその権利の存在意義はない。独占的企業の事業の中断が
国民生活全体の利益を侵害するということでは争議権の否認や制限が行なわれえな
いのは、一般的に、労働者の争議行為が国民生活の侵害をもたらすことが社会的秩
序の中で承認されているからにほかならない。そこで、国鉄の業務の争議行為によ
る中断がはたして国民生活に耐えがたいほどの侵害を与えるかどうかを検討する必
要がでてくる。
 そこで、ここでは、一般的に国鉄労働者の職務の実態を各角度から明らかにし、
その職務の中断が国民生活全体の利益を侵害するという理由で争議権を制限・否認
することが誤りであることを明確にし、公労法第一七条第一項の違憲性を国鉄労働
者の職務の実態から明らかにする。そして、右の実態を明らかにしたうえで、国鉄
と対比される他の交通労働者の紛争解決の方法や実際を明確にし、さらに、公共企
業体等労働委員会(以下「公労委」という。)の仲裁裁定制度の役割を論じて、中
郵判決のもたらされた基本的理由を述べることとする。
1 国鉄の業務の性格および他の業務との関連
 国鉄の業務の性格を他の同種または異種の業務との関連から明らかにする基準と
しては、第一に、輸送業務の内容(公共性は多くの場合独占性と同じ内容をもつの
で、独占性の問題としては握してもよい。)、第二に、国鉄の営業政策が他の交通
機関との間に本質的違いを生じさせているか否か、第三に、国鉄部内における合理
化による業務の下請化案は何を意味するか、また、国鉄と私鉄の相互乗入れの実態
などを明らかにし、検討を加える必要がある。
(1) わが国の輸送業務における国鉄の位置
(ⅰ) 国鉄の営業キロは、現在約二万強キロであり、私鉄のそれは約六千キロで
ある。ところで、輸送における国鉄の占める役割であるが、人員・貨物の双方でみ
るとつぎのとおりである。
輸送人員(単位百万人)<18228-001>
貨物輸送(単位百万トン)<18228-002>
 なお、右では、輸送人キロ(国鉄の場合昭和四三年で三八・三%)と輸送トンキ
ロ(国鉄の場合昭和四三年で二一・一%)を省略したが、これでわかるように国鉄
の公共輸送において占める割合は決して高くなく、人員別の利用率は私鉄の方が国
鉄より六~八%多い。また、貨物輸送においても、国鉄の占める割合は四・六~六
%にすぎず、大部分は自動車輸送にゆだねられていることがわかる。しかも、年を
追うにしたがつて、国鉄の輸送部門における比率は下降線をたどつている。このこ
とは、輸送機関が多様化するなかで、国鉄の輸送部門における独占性が崩壊しつつ
あることを示している。したがつて、いまやこうしたデータからみるかぎり、私
鉄・トラツク部門の業務の中断の方が国民生活に対し大きな影響を与えていること
がわかる。
(ⅱ) 輸送業務の地域的独占性についてみると、貨物輸送においては、国鉄の占
める割合はきわめて少なく、ほとんど完全にくずれ去つているとみてよい。人員輸
送においては、地域的な独占性は、私鉄(私バス)が占めている。地方の輸送業務
は大体一地域に一企業が原則であり、一企業がほぼ独占的にその地方の輸送業務を
受けもつている。これは、輸送業務が認可制であり、原則として一路線一企業とい
うたてまえの結果である。国鉄と私鉄(バス)は、その事業の内容からみても、国
民の側からみても、完全に同質化されている。
(2) 国鉄の営業政策の基本的姿勢
 それでは、国鉄の営業政策は他の交通機関との間に法的な差異をもたらしている
か。国鉄が経営を犠牲にして、そのいわゆる公的機能を果たそうとする姿勢は見当
たらない。国鉄は毎年大きな赤字(昭和四〇年度一、二三〇億円、同四一年度六〇
一億円)をかかえているが、この赤字解消のために、国家予算を計上せず、独立採
算制が引続きとられている。「国鉄財政再建促進特別措置法」による昭和四四年九
月一二日の「日本国有鉄道の財政の再建に関する基本方針」(閣議決定)によれ
ば、いわゆる地方赤字路線の廃止・運賃改訂等企業の採算を中心とした方針が定め
られており、第三次長期計画による設備投資も再建効果の高いものに重点がおかれ
ている。こうして、地域住民の便益を無視した路線廃止が行なわれているのである
が、反面、「政治路線」が作られ、一部政治家の私利私慾に利用されている。ま
た、この営業政策は、運賃に反映している。国鉄運賃は、私鉄・私バスのそれに比
較して決してひけをとらない。昭和三六年・昭和四一年および昭和四四年の値上げ
の結果、国鉄の定期外の旅客はバスに移行している。すなわち、「運賃改訂(四十
一年三月)以後は、百キロ未満の近距離と三百キロまでの中距離客が相当逃げてい
ますが……。バスとの対抗では、バスは運賃は安いし坐席の確保ができるというこ
とで、坐席の確保がキーポイントであると思います。」(国鉄線43・1)といわ
れている。この傾向はモータリゼーシヨンによりますます助長されようと磯崎総裁
でさえ述べている。このようにみてくると、国鉄の営業政策の基本は、他の私企業
と本質的になんら異ならず、むしろ、私鉄や他の交通機関と比較した場合、運賃に
対する利用する側からみた効率やサービスは劣つているとすらいえる。国鉄の公共
性は他の私企業となんら変わらないというべきである。
(3) 国鉄の業務の私企業への下請化の現状
 国鉄輸送部門における独占性がうすれ、また、営利政策が強調される結果、国鉄
の業務の「経営合理化」の一環として、重要業務の一部の私企業への委託が行なわ
れるようになつた。これは、国鉄の「合理化」計画の主内容として行なわれている
が、運転保安上重大な問題をはらむばかりでなく、国鉄労働者に対するストライキ
の一律禁止法制の不合理性を露呈するに至つている。
 国鉄業務のうち、つぎの部門が民間に委託され、または、されようとしている。
(ⅰ) 営業関係=清掃・荷物扱い・ボイラーのふん火・起重機・機関車燃料業務
(ⅱ) 運転部門=構内入換え作業(点・保火番)
(ⅲ) 車輛の検査修繕
(ⅳ) 軌道補修・レールの取替え作業
(ⅴ) 建築
(ⅵ) 送電作業・電柱の取替え等
(ⅶ) EL・DLの部品製造
(ⅷ) 駅業務全体(列車扱い・出改札・券売・その他保安業務を含めすべて)
(ⅸ) 雑務・使番その他
(ⅹ) 休けい所・休けい所の使用人ーおこし番
 これをみてもわかるように、(ⅱ)・(ⅲ)・(ⅳ)および(ⅷ)は国鉄の本質
的業務であつて、保安上も大変問題がある。この民間委託の結果、国鉄の業務は、
管理部門と運転部門とに限定されようとしている。
 民間委託会社は、全国で約三一社あるといわれるが、その多くは中小企業であ
る。この民間委託会社の労働者が争議権を有していることはもちろんであり、その
労務不提供は国鉄の業務の停止をもたらすことになる。争議権はく奪の不合理性が
ここにも端的に現われている。
(4) 国鉄と私鉄の競合ー相互乗入れの実態
 国鉄と私鉄の相互乗入れは、交通労働者の争議権に関する差別の不合理性を端的
に示すものといえる。相互乗入れはかなり広い範囲に及んでいる。すなわち、定山
渓・羽幌・小田急・営団地下鉄五号線・遠州・有田・南海・島原・伊豆急・富士
鉄・名鉄の各鉄道一一線となつており、今後さらに広がる傾向にある。(長野電鉄
に対する国鉄の一方的乗入れを入れるともつと広がるであろう。)
(5) 国鉄の業務の公共性ないし国民生活侵害性を理由として国鉄労働者から争
議権を奪うことの不合理性
 公共企業体としての国鉄の業務の形態や性格は以上述べてきたとおりであり、ま
た、のちに反合理化闘争の正当性の項で述べる国鉄の保安政策等と関連して考える
と、わが国の輸送部門の中で国鉄がとくにその公共性の度合いが高いということは
できない。また、その業務の中断が国民生活に与える影響(侵害度)も、他と比較
して特別に大きいということはいえない。国民の日常生活に直結する分野では、む
しろ、私鉄やバスの方が大きなかかわりをもつているといえるばかりでなく、国鉄
の営業の特徴の一つである遠距離輸送についても、国民は国鉄以外の輸送機関(航
空機・高速バス・船舶・自家用車)を選択しうるのが現状であつて、国鉄業務の一
時的停廃は国民生活に重大な障害を与える分野ではなくなつてきているのである。
少なくとも戦後の一時期と比較してこのことは歴然としているのである。
 国鉄労働者の争議権否認はきわめて不合理であるといわねばならない。
2 国鉄労働者の職務の多様性
 国鉄労働者の職種には左表(一)および(二)からもうかがい知ることができる
ように、まことに多種多様なものが含まれている。同じ国鉄の事業に従事するとい
う点で公共性をひとしくするとはいつても、その職務の停廃がもたらす影響の具体
的内容は千差万別であり、管理職員(その全員が組合員ではない。)の職務のよう
に短時日の停廃でも相当の影響が予想されるものもあれば、たとえかなりの規模・
程度の停廃がなされても国民生活に重大な障害などが予想されない職種のものも存
在する。
 したがつて、これらのもの(総数は現在約四六万人、うち一般職員のみでも約四
一万人といわれる。)の争議行為を一律・無差別に、かつ、いささかの留保もなく
全面的・絶対的に禁止している公労法第一七条第一項は、「国民生活への重大な障
害を避けるために必要やむを得ない場合の」「合理性の認められる必要最小限度」
をはるかに超え、むしろ国鉄労働者の労働基本権に最大限の制限を課するものであ
つて、違憲たるを免れない。
表(一)
<18228-003>
表(二)運転所従業員一覧(ただし、新幹線支社の場合)
<18228-004>
3 私鉄部門における労使の紛争解決の方法と実態
(1) わが国の鉄道・バス労働者は約七八万人と推定されており、そのうち国鉄
約四六万、都市交通約六万、民営約二六万であつて民間交通労働者の約九五%が私
鉄総連に加盟している。私鉄総連は昭和二二年に結成され、以後一貫して民間交通
労働者の中心的組織として活動してきている。私鉄総連の過去二三年間の跡をみて
みると、わが国の民間交通労働者の労使紛争の解決がいかなる方法・態様に基づい
ているか明白となる。
 この歴史をみると結成後ほとんど毎年ストライキを行ない、賃金を含めた労働条
件の改善を使用者に迫つている。わが国の労働者は例年春闘・秋闘あるいは年末闘
争を組織しているが、これは賃金が物価上昇に追いつかず、また、一面欧米諸国の
労働者に比較し、わが国の労働者の賃金の絶対額がひくいことに起因している。
 そこで、私鉄総連加盟組合のここ数年の情況をみると、昭和三七年以降、毎年大
規模なストライキがその春闘において行なわれている。昭和三七年・同三八年二四
時間スト、同三九年四六時間、同四〇年・同四三年二四時間各ストライキが行なわ
れている。昭和四一年賃闘では二一七組合がストに参加し、不参加はたつた五組合
であつた。また、昭和四〇年の春闘では一九〇組合が参加して約二、〇〇〇本の列
車がとまつた。なお、ストライキはほとんど第一波で終わることなく、第二波、第
三波が行なわれており、闘争時点においてはスケジユールの中に組み込まれ、日常
茶飯時となつている。私鉄の場合労調法によるあつせん、調停、仲裁制度がある
が、実質的解決はストライキを背景とする労使交渉によつて決められている。
 こうして交通機関労働者のストライキは国民の意識のなかに完全に侵透してい
る。
(2) ところで、一方国鉄労働者(原告組合)の最近の闘争をみると、右の私鉄
総連の闘争に比較し、その規模はきわめて小さい。
 すなわち、昭和四〇年春闘は二時間、同四一年春闘二時間半、同四二年春闘四時
間、同四三年春闘八時間半、同四四年春闘三時間、同四五年春闘四時間の各ストラ
イキである。しかも、これらのストライキは、全国すべての地域で行なわれたので
はなく、いわゆる拠点地域数個所で行なわれたにすぎず、私鉄のストライキのよう
に列車が完全にとまることはない。国民生活に対する影響の度合いは私鉄ストの方
が大きい。
 春闘のうちで賃金闘争は公労委の仲裁移行によつて大体解決しているが、仲裁移
行決定時には実質的に賃上げ額が決められた時点であつて、仲裁はいわば交渉結果
の確認行為のような形を呈している。のちにのべるように、公労法上の仲裁制度は
争議権否認の代償的機能はまつたく果していない。
 私鉄労働者の闘争の成果は国鉄労働者の賃金に影響し、逆に国鉄の闘争が私鉄に
影響していることも、毎年の闘争経過のなかにみられる。つまり、国鉄労働者の争
議権の否認は、私鉄労働者に対しても重大な影響をもたらしているのである。
 以上のようにみてくると、国鉄労働者に対する争議権否認がいかに不合理かつし
意的なものであるかが知れよう。
4 公労委制度の役割とその評価
(1) 代償措置の問題は、公共企業体労働者の場合、公労委制度(主として仲裁
制度)があげられている。しかし、主として国際労働機構(以下「ILO」とい
う。)のなかで発展、定着したストライキの代償機関と考えられるべき当該機関の
公平性、仲裁裁定の拘束性、無条件の迅速な実施という要件は、わが国の場合、法
制的にも(公労法第三五条、第一六条)、また、実際にも存在していない(たとえ
ば、ドライヤー報告書第二、一四二~第二、一四九項参照)。
(2) しかも、そればかりでなく、実際にはこの制度がわが国の労働者の低賃金
構造を形成するかなめの役割を果している事実を無視することはできない。
 わが国の労働運動において指導的役割を果しているのは総評に結集する四三〇万
人の労働者であるが、このうち半数以上の二七〇万人は官公労の労働者であり、し
たがつて、官公労労働者が日本の労働運動のうえで決定的に重要な役割を占めてい
るのである。官公労労働者からの争議権はく奪は日本の労働運動にとつて大きな障
害となることはこの点からうなずけよう。
 しかも、公務員の場合の人事院勧告制度と公共企業体労働者の仲裁制度は、その
年またはその翌年の春闘相場を形成し、また、一般民間産業の賃金が人事院勧告や
仲裁裁定に影響するので、全体としてわが国の労働者の賃金構造のなかで仲裁制度
や人事院勧告制度が重要な役割を果たすのである。毎年の春闘で公労協の闘争が私
鉄や関連産業の春闘に直接的影響を与えていることは周知の事実である。
(3) このようにして、もともと公労協のスト禁止や公労委制度は、真の必要か
ら生れたものではなく、多分に政策的背景をもつて生れたものであり、代償制度が
真剣に考慮されていたわけではない。
 「公共企業体が再建途上の国家経済と国民の福祉に占める重要性にかんがみ、こ
れが業務の運営の停廃は寸時といえども許されない。かかる事情からやむをえず争
議禁止の措置を講ぜざるを得なかつた」(昭23・11・12衆院社労委における
増田労相の理由説明)すなわち、国家経済の再建という経済政策目的から争議権否
認法制が考えられているのであり、占領軍も労組法など労働三法はL・S(レーバ
ーセクシヨン)で検討されたが、公労法は原案がG・S(ガバメントセクシヨン)
で作られ、調査意見局のこれに対するオピニオンは禁止されたといわれるのはこの
ためである。
 昭和二六年労働関係法令審議会は「現業公務員に争議権を認めるべきである」と
答申しているが、公労法の争議権否認法制が右のような考え方から出発している以
上、この時点でこうした答申が出されたのは当然のことである。
 公労委の仲裁裁定制度は、争議権否認の代償機関でないことはもちろん、むし
ろ、わが国の労働運動に対して決定的な影響を与えた官公労働者から争議権を奪う
ことによつて、労働運動を分断し、低賃金構造の下に支配するからくりとして作ら
れ、その作用を果してきたことが認められるのである。
(4) 政府は、仲裁裁定制度が発足後、代償制度としての機能や能力をもたない
この仲裁裁定ですら額面どおり履行せず、減額したり実施時期を遅らせたりした。
その結果、国鉄労働者は、昭和二四年から同三二年までの間仲裁裁定不履行による
損害をうけ、その総額二二七億円に及び、これに伴う昇給の遅れを考慮するとその
額は四五〇億円に及んでいる。
 昭和三五年以降仲裁裁定は一応額面どおり実施されるようになつたが、昭和三五
年以降、闘争体制の確立が当局の完全実施を余儀なくさせているのが現状である。
すなわち、賃金決定については仲裁移行前の段階で妥結し、仲裁裁定は労使間で妥
結した内容のいわば確認であつて、政府がこれに対する不履行のしようがなくなつ
ているのである。すなわち、その意味では、自主的交渉による労働条件決定機構が
国鉄労使の間で確立したといつてもよい。公労委制度は、極端にいうならば、あつ
てもなくてもよいのである。
 ストライキを背景とした交渉の場において、妥結するというルールがここ数年来
確立しているが、労働者に対しては争議行為のたびに大量の処分を課してきてい
る。
 労使対等原則が実質的に無視されていることを看過するわけにはゆかない。
(5) したがつて、わが国の法制上、争議権否認の代償措置は、公共企業体労働
者の場合講ぜられていないといつてよい。争議権は基本的人権の一つであり、人権
に代償ということはありえないが、仮に代償制度を考えた場合でも、公労法第一七
条は代償措置を講じないで争議権を否認しているから、憲法二八条に違反すること
はあきらかである。
5 若干の諸外国の法制
 鉄道企業の公的性格ないし鉄道業務の公共性が争議権否認と結びつかないこと
は、諸外国の制度をみても歴然としている。わが国と同じ社会体制をもつ国々(主
としてヨーロツパ)ではわが国と同じような鉄道の営業形態をとつている(私鉄・
国鉄)が、争議行為を禁止されている国はない。
(1) フランス
 一九三七年に国有化されたフランス国有鉄道(SNCF)は、全フランス鉄道営
業キロ四〇、三五一キロのうち三七、八八〇キロを占めており、(一九六五年現在
ー国鉄編「欧米諸国の鉄道と交通政策」七八頁以下)、輸送機関において占める比
重はきわめて大きいが、フランス国鉄労働者に対する争議権の否認や制限は行なわ
れていない。一般的な強制調停手続が存在するが、争議行為に入る前の調停申立て
は義務づけられていない。
(2) イギリス
 イギリスの国鉄の路線延長は二一、九五四キロで、旅客輸送シエアは一〇・五
%、貨物のそれは二二%である(一九六六年現在ー国鉄編前同書七九頁以下)。
 わが国と同じ傾向を貨物輸送についてもつているが、鉄道労働者について争議行
為の禁止はない。知られているとおりしばしば争議行為が行なわれている。
(3) イタリー
 イタリーは国有鉄道であり、国家機関である国有鉄道庁が直接事業を行なつてい
る。しかし、鉄道労働者の争議禁止法はなく、しばしば争議行為がなされている。
(4) 西ドイツ
 西ドイツ公営企業である連邦鉄道の職員は約五〇万人であり、一九六〇年の輸送
機関別旅客輸送人員の比率は一六・八%、貨物輸送のそれは五三・五%で、以後毎
年その比率は減少しつつある(前掲書一頁以下)。
 連邦鉄道の占める割合・地位はわが国と似ているが、職員の争議権は否定されて
いない。連邦鉄道職員は一般的に争議行為ができないと考えられているBeamt
eには含まれてない。
(5) アメリカ
 アメリカは私鉄が中心であるので比較にならないが、鉄道労働関係法には争議行
為を禁止する規定がなく、現にストライキが行なわれている。
 このように、諸外国の法制は争議行為を禁止していない。法的ものの考え方が近
い西ドイツにおいても争議権は鉄道労働者について保障されている。このことは、
鉄道事業の一時的停廃によつてもたらされる国民生活に対する障害なり影響という
ことが争議行為の禁止の理由にならないことを物語ついてる。日本の法制における
争議権否認の根拠が、前述したように、戦後の経済再建という至上命令によるまつ
たくの政策的なものであつたことを想起すれば、これら外国法制と比較し公労法第
一七条第一項の憲法第二八条違反はますます明白となろう。
6 判例について
(1) 中郵判決における争議権理論の系譜
(ⅰ) 昭和四一年一〇月二六日の中郵判決は、それまで「伝統的」に支配した公
共企業体労働者に対する「公共の福祉」・「全体の奉仕者」という争議権否認の法
イデオロギーを否定した。
 右判決は、「………労働基本権の保障の狙いは憲法二五条に定めるいわゆる生存
権の保障を基本理念とし、勤労者に対して人間に価する生存を保障すると共に、他
方で憲法二八条の定めるところによつて、経済上劣位に立つ勤労者に対して実質的
な自由と平等とを確保するための手段として団結権、団体交渉権、争議権を保障し
た」ものであるとして、労働者の基本的人権としての性格を明確にした。そして、
労働基本権制限についてのいわゆる四原則を明示したが、この四原則は実質的な内
容をもつものであり、公務員または公共企業体職員であるがゆえに法律によつて形
式的にストライキが禁止されるべきではないという考え方が打ち出された。
 「その制限は合理性の認められる必要最小限度」(第一原則)、「業務の停廃が
国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれがある場合」
(第二原則)というようにしぼつた場合、公労法第一七条は、少なくともその条文
形式からみるかぎり、あらゆる種類の争議行為を国民生活に重大な障害を与えるか
どうかにかかわりなく、一律に禁止しているものと解されるから、その違憲性は明
白である。中郵判決は公労法第一七条の違憲性を明確にしていないが、この判例の
論理が公労法第一七条が違憲であることを基本的に指向していることは明白であ
る。
 こうして、昭和二八年四月八日の最高裁大法廷判決以後、一貫して流れてきた公
労法第一七条合憲論の実質的理由づけは崩壊し、公共企業体労働者の争議権否認法
制が根本的に再検討されるに至つたのである。
(ⅱ) ところで、最高裁みずからがスト禁止法制に対して根本的検討を迫られる
に至つた理由は何か。その第一は、すでにのべた公労法によつて規制を受けている
わが国の公共企業体労働者の職務の実態が、労働者の基本的人権としての争議権を
否認しなければならないほどの必然性を有しないということである。第二に、労働
者に対するスト禁圧体制の存在にもかかわらず、労働者はみずからの生存のために
ストライキを行なわねばならないのであつて、これは社会的・歴史的必然性であ
る。こういう社会的歴史的事実は、好むと好まざるとにかかわらず承認されなけれ
ばならない。第三に、官公労働者に対する争議権否認は国際的にも著しく立ち遅れ
た制度であり、わが国がILO等からきびしい批判を受け、国際的な労働者権に関
する規範を原則的に承認せざるをえない立場に立たされたことである。
 わが国労働法学界の通説的見解は公労法第一七条第一項の争議行為の一律禁止を
違憲としているのに比較して、裁判所は余りにも立ち遅れていたといわねばならな
い。
 右のような見地から右の三つの視点についてごく大まかな検討を加えておく。
 第一の点は、すでにのべた国鉄の職務の実態等で詳しく述べたように、この理由
が争議権を否認しなければならない合理的根拠となりえないことを明らかにした。
このことは、また、一面公労法第一七条制定当時の立法事実が明らかに変化してい
るのであつて、争議権を否認する合理的理由はすでに存在しなくなつていてること
を示している。
 第二の点についても若干触れたが、労働運動の歴史が争議権の刑罰の解放から民
事罰の解放、不当労働行為制度など積極的保障に及んでいることは中郵判決自身の
指摘するところでもある。日本の戦後の運動のなかでも、政令第二〇一号・公労法
制定以後のスト禁止法制のもとで争議行為がくり返されてきた。昭和三二年ころま
では仲裁裁定の完全実施を求めるために争議行為が組織されたが、それ以後は争議
行為を背景とする交渉のなかで自力の労働条件等改善要求が実現される体制が作ら
れており、争議行為が問題解決のもつとも効果的な作用を現実に果している。こう
して、組合員のなかに争議権意識は完全に定着しており、ストライキが違法である
という認識はない。公共企業体労働者に対するスト禁圧法制は、国家秩序としての
法本来の機能を果していない。これがわが国の現状である。
 第三の点であるが、いわゆるILO闘争がはじまつたのは昭和三三年であり、そ
の当時から旧公労法四条三項やストライキの一律禁止がILO理事会結社の自由委
員会で問題とされていた(六〇号事件、一七九号事件における結社の自由委員会の
報告)。
 ILOでは直接に争議権を保障した条約は見当たらないが(八七号条約八条の解
釈から争議権保障を含むとする考えも出てくるが)、それにもかかわらず、争議権
は「労働者が有する権利のうちで最も中核的」なものとしてとらえられている。そ
のためにILOではこれを制限する場合もきわめてきびしい条件を附しており、そ
の業務の停廃が国民の生存を危殆におちいらしめるとか、あるいは、国民生活に重
大な障害を与える場合などに限られるとしており、一律禁止を行なつているわが国
の法制をきびしく批判した。とくに、ILO結成以来最初である、ILO実情調査
調停委員会のわが国実情調査を政府は承認せざるをえない立場に追いこまれ、きわ
めて詳細に日本の実情が国際的な労働者の権利の保障の水準に違反している事実が
明らかにされた(ドライヤー報告書の「事実認定と勧告」の項参照)。ストライキ
の一律禁止が労働者権の侵害であると指摘されたことはいうまでもない。諸外国の
法制はすでに述べた。
(ⅲ) 中郵判決の背景は右のようなものであり、こうした事情や背景を判決のな
かに読みとるべきである。形式的に判決を解釈し、昭和二八年四月八日の判決をこ
の判例が前提としているからという理由で、これをせまく解釈するようなことがあ
つてはならない。中郵判決は、その前段の労働基本権の本質や四原則を説示した部
分を貫けば公労法第一七条第一項の違憲性にゆかざるをえず、その意味で違憲性を
否定した後半の説示部分とは論理が一貫せず、矛盾をはらんでいる。この判例の論
理を貫くかぎり、公労法第一七条第一項の違憲性につき当たらざるをえない。この
ような矛盾は矛盾として、公労法第一七条第一項の争議禁止法制が瓦解しはじめた
ことは事実である。
(2) 最高裁昭和四三年一二月二四日第三小法廷・民集二二巻一三号三、〇五〇
頁(以下千代田丸判決という。)および都教組判決と公労法第一七条第一項
 昭和四三年一二月二四日の千代田丸判決は、業務命令の集団的拒否が公労法第一
七条に違反するとして解雇された事案について、「公社が千代田丸乗組員に対し本
件出航を強制する業務命令を発することは、公社としてはやむを得ない事情にあつ
たとしても………十分説得力をもつ措置とは言い難く………前記行為をもつて直ち
に公共企業体等労働関係法………一七条に違反するものと断ずることは、いささか
酷に失するものといわなければならず、かりに右違反があるとしてもその違法性の
度合いはきわめて軽微であつたというべきである」と判示し、公労法第一七条第一
項に該当しない争議行為を具体的に認定すると共に、中郵判決同様公労法第一七条
第一項を一律にストライキを禁止すると読んだ場合それが違憲となることを明らか
にした。
 昭和四四年四月二日の都教組判決も、本質的には同じ考え方のうえに立つてい
る。ただ、中郵判決の公務員を公共企業体職員よりも公共性の度合いが高く、それ
が争議行為の禁止に影響を及ぼす趣旨の考え方を発展させ、「その争議行為が常に
直ちに公務の停廃をきたし、ひいて国民生活全体の利益を害するとはいえないのみ
ならず、………地公法三七条一項に該当し、違法性の強い場合もあるが、争議行為
の態様から言つて違法性の比較的弱い場合もあり、また実質的には右条項にいう争
議行為に該当しない場合もある。」と判示する。この判例の理論は、公労法第一七
条第一項に違反しない争議行為が存在しており、また、違反が軽微な場合には処分
をなしえないとするものであつて、この理論は都教組判決において公務員分野にお
ける発展がみられる。
(3) これら判例の基本的問題点
 一連の最高裁判例は、法令の違憲審査の一つの考え方を示している。「………合
理的な解釈によつて規制の限界が認められるのであるから、その規定の表現のみを
みて直ちにこれを違憲無効の規定である………」とすることはできないとしてい
る。この基本的態度は是認できるとしても、問題は合理的解釈の内容いかんであ
り、判例のような公労法第一七条解釈がはたして「合理的な解釈」といえるかどう
かである。都教組判決自身も「地公法三七条一項はすべての地方公務員の一切争議
行為を禁止しているから、これに違反した争議行為は右条項の法文にそくして解釈
する限り違憲といわざるをえないであろう」と述べている。この論理は、そのまま
公労法第一七条に当てはまる。公労法第一七条第一項は、一律・無差別にいつさい
の争議行為を禁止しており、争議行為の態様や内容によつて違法性の有無や程度を
区別していない。そのように解釈するのが法文にそくした合理的な解釈である。法
文を無視した解釈は、ある意味では立法行為であつて、司法権の範囲を超えている
とすらいえよう。むしろ、合理的解釈によつて合憲的解釈が不可能もしくは著しく
困難な場合、裁判所はすすんで違憲判決をすべきである。それが違憲審査権を有す
る裁判所の職責というべきであろう。
 公労法第一七条第一項は、中郵判決やその後の一連の判例の基本的理論に立脚し
て理論を発展させるならば、違憲の評価を免れない。
二 公労法第一八条は憲法第二八条に違反する。
 周知のように、中郵判決は、「労働基本権の制限違反に伴う法律効果、すなわ
ち、違反者に対して課せられる不利益については、必要な限度をこえないように、
十分な配慮がなされなければならない」と述べ、制限違反の争議行為に対する制裁
についても、いわゆる必要最小限度の原則が守られるべきことを説示した。したが
つて、たとえ争議行為が禁止違反ゆえに違法とされる場合であつても、これに対す
る制裁は慎重のうえにも慎重でなければならず、それが労働者がまさに労働基本権
の行使によつて実現しようとしたところの生存権そのものを害するものであること
に着目するならば、右の制裁は争議制限(禁止)規定の運用を通じて図ろうとして
いる国民生活全体の利益の確保のため必要な最小限度にとどめられるべきはけだし
当然である。
 ところで、公労法第一八条は、同法第一七条第一項違反の行為をした職員への制
裁として、「前条の規定に違反する行為をした職員は、解雇されるものとする。」
と定めている。この過酷な制裁規定は、その規定の存在自体によつてすでに争議に
関与することがあるべき公共企業体等の職員に対し日常絶えざる解雇の脅威を与え
ているという点において、合理性の認められる必要最小限度をこえており、また、
使用者たる公共企業体等に禁止違反者への制裁としてつねに解雇の現実的可能性を
法的に保障している点においても、必要最小限度をこえている。
 そうとするならば、公労法第一八条は、右の点においてすでに違憲無効たらざる
をえず、したがつて、同条に基づく本件解雇もまた違憲無効たるを免れない。
三 本件争議行為は公労法第一七条第一項の禁止する争議行為に該当しない。
(一) はじめに
 前述のように、公労法第一七条第一項は、それ自体、憲法第二八条に違反し無効
たることを免れないものと考えられるが、他方「法律の規定は、可能なかぎり、憲
法の精神にそくし、これと調和しうるよう、合理的に解釈されるべきものであつ
て」、「これらの規定についても、その元来の狙いを洞察し労働基本権を尊重し保
障している憲法の趣旨と調和しうるように解釈するときは、これらの規定の表現に
かかわらず、禁止されるべき争議行為の種類や態様についても、……おのずから合
理的な限界の存することが承認されるはずである」(都教組判決)とする立場もあ
るので、ここでは、かかる見地に立つて、公労法第一七条第一項の合憲的な限定解
釈を試み、本件争議行為が同条項の禁止する争議行為に該当しないことを明らかに
したい。
(二) 公労法第一七条第一項の限定解釈
 そこで、まず、地公法第三七条第一項の限定解釈を展開した都教組判決の論旨に
そくして、公労法の場合を考察するならば、つぎのごとくなろう。すなわち、公労
法第一七条第一項は、すべての公社職員らのいつさいの争議行為を禁止しているか
ら、これに違反してなされる争議行為は、法文にそくして解釈するかぎり、違法と
いわざるをえないであろう。しかし、右条項の元来の趣旨は、公社職員らの業務の
公共性にかんがみ、その停廃は国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあるの
で、これを避けるためのやむをえない措置として、その争議行為を禁止したにある
ところ、公社職員らの職務といつてもその公共性は強弱さまざまであり、また、そ
の争議行為にも種々の態様・程度が予想されて、つねに必ず国民生活全体の利益を
害し、国民生活に重大な支障をもたらすおそれがあるとはいえないから、結局、公
社職員らの具体的な行為が禁止の対象たる争議行為に該当するかどうかは、争議行
為を禁止することによつて保護しようとする法益と、労働基本権を尊重・保障する
ことによつて実現しようとする法益との比較較量により、両者を適切に調整する見
地から判断することが必要である。そして、その結果は、公社職員らの行為が公労
法第一七条第一項に禁止する争議行為に該当し、しかも、その違法性の強い場合も
あろうが、また、争議行為の態様・程度からして違法性の比較的弱い場合もあり、
さらには、実質的にみて、同条項にいう争議行為に該当しないと判断すべき場合も
でてくることになる。
 ちなみに、最高裁判所第三小法廷は、すでに右都教組判決に先だつ千代田丸判決
において、これと同旨の見解を宣明し、「右説示のような事情のもとに上告人……
のした前記行為をもつて直ちに公共企業体等労働関係法(以下公労法という。)一
七条に違反するものと断ずることは、いささか酷に失するものといわなければなら
ず、かりに、右違反があるとしても、その違法性の度合いは、きわめて軽微であつ
たというべきである。」と判示している。
 そこで、つぎに、右のような限定解釈に立つて、本件争議行為(以下において、
「本件闘争」ということがある。)がいまだ公労法第一七条第一項の禁止する争議
行為に該当しないことを明らかにする。
(三) 本件斗争に至つた諸事情
1 本件斗争と国鉄の合理化政策の本質
(1) 本件斗争は、国鉄のいわゆる「近代化、合理化」(以下単に合理化とい
う。)政策に対する反対斗争である。原告組合は、のちにも述べるように、国鉄が
近代化され国民生活の需要や輸送に快適な結果をもたらすことについて基本的に反
対する立場をとつているものではない。問題は、すすめられている合理化が輸送の
安全というもつとも本質的な要求を満たし、また、第一線の現場で働く労働者の労
働条件を真に考慮したものであるかどうかである。安全輸送問題は、事故の発生に
よつて乗務員の生命が失われることがないような条件の整備の問題であり、また、
国民の生命・財産を完全に保障しうるということであるから、はたして合理化がこ
のような要求を完全に満たしたうえで実施されているかということが検討されるべ
きである。
 しかしながら、国鉄の合理化は、すでに違憲論で述べたように、基本的に企業効
率・営利政策のうえに築かれており、運転保安は第二次的にしか考えられていな
い。このような事情は本件斗争の正当性を判断するうえできわめて重要である。
(2) 合理化が遂行される過程で、本件斗争の翌年の昭和三七年に三河島事故
(死者一六〇名)が発生し、また、その翌三八年には鶴見事故(死者一六一名)が
発生した。その他大小の事故が毎年のように発生しており、多くの人命・財産が失
われていることは公知の事実である。
(3) 国鉄当局は近代化によつて事故の件数は減り、安全性は向上したといつて
いるが、たとえば踏切事故についてみた場合、次表のようにその数は決して減つて
いない。
(1) 年度別踏切種別踏切事故件数は、つぎのとおりである。<18228-0
05>(2) 年度別事故種別踏切事故件数は、つぎのとおりである。
 また、業務上過失事故とならない不可抗力の事故もきわめて多くなつている。事
故防止対策が「完全」で「近代化」がおしすすめられている最近でもつぎのように
なつている。
刑事事件にならなかつたおもな事故
昭和43年~44年
<18228-006>
完全な列車防護装置といわれるATSの整備後でも信号冒進事故件数は絶無となつ
ていない。
 ATSの整備と信号冒進事故件数
 (列車百万キロ当り)
昭和25~31年度(車警なし) 0.028件
昭和32~38年度(車警部取付) 0.025件
昭和39~41年度(ATSの取付ほゞ完了) 0.012件
 これは、ATSの整備によつても、列車密度が高く、ATSを作動したまま運転
すると事実上列車の運行が不可能となる結果であり、「近代化」にもかかわらず、
輸送の安全は依然として動力車乗務員の「注意力」に依存していることを物語つて
いる。
 新幹線でさえ、ほとんど発表されていないが、昭和四一年四月から同四五年一月
までの間に原告組合が知りえた範囲のものだけで五三件の事故(故障)が発生して
おり、一歩誤ると重大事故になる可能性を包蔵している。
(4) 本件斗争で問題とされた合理化に対する事前協議協定の問題や乗務キロ制
限の問題は、合理化が労働条件の改悪をもたらすという側面のあることはもちろん
だが、運転保安問題についても現場の要求を反映させ、真に国民の輸送の安全を確
保しようとするところにねらいがあつた。
2 国鉄職員の置かれている勤務条件
(1)内達一号とその問題点
 動力車乗務員の勤務条件の基本的な規律は被告の昭和二四年五月二五日内達一号
「機関車乗務員及び電車運転士の勤務及び給与についての特別規定」(以下内達一
号という。)に定められている。内達一号は、昭和二四年に作られ、したがつて、
当時の国鉄の列車のスピード、労働者の労働条件を基礎にして制定されている。昭
和三六年当時電気機関車の乗務員については一週四八時間、その他の動力車(蒸気
機関車、電車、気動車)の乗務員については同じく四五時間、そして、この時間を
換算制とし、実ハンドル時間は一対一、折返し待合せ時間等は二分の一、便乗は三
分の一、自宅予備六分の一というように各定められており、これによれば、蒸気機
関車は一日五時間三〇分、電気機関車については五時間四五分となつている。当時
の動力車の構成は蒸気機関車がほぼ全体の九〇%を占め、蒸気機関車の性能からし
て、当時この換算によつて行なう乗務員の主要な業務であるいわゆる実ハンドル時
間は、大体四五%ないし五〇%を占めていた。そして、当時の乗務員の一日の乗務
キロは九〇キロであつた。ところが、その後列車のスピードアツプおよび電化等が
行なわれ、いわゆる乗務キロが延び、その結果実ハンドル時間が延長してきた。昭
和二六年当時を境にして急速な動力車の近代化が進められ、実ハンドル時間が延
び、また、乗務員の注意力を集中する時間が多くなつてきている。それと同時に、
当局の交番作成の面で一日の勤務時間が五時間三〇分と定められながら、実際には
五時間四〇分あるいは五時間四五分になつたりする不合理が出てきたため、一層現
場の勤務条件に無理が生ずるようになつた。このため、昭和二七年四月に、国鉄調
停委員会から、乗務員の一日換算時間をなるべく速かに基準に復帰させることとす
る旨の調停案が提示され、当時の機関車労働組合(原告組合の前身)はこれを受諾
した。ただしかし、乗務員の労働条件を労働時間のみからしぼるだけでは充分でな
いことは明らかである。すなわち、スピードアツプその他の合理化による労働の強
化が当然に起るからである。たとえば、東海道線の場合、当初は名古屋から米原ま
での運転が昭和三〇年の電化により大阪まで延び、また、名古屋から浜松までの運
転が名古屋から静岡まで延長されている。つまり、浜松・静岡間七〇キロ、米原・
大阪間一〇〇キロがそれぞれ延長されていることになる。のみならず、その後の五
か年計画・新五か年計画の推進のなかで、東海道線で昭和三四年四月発足のこだま
型特急が走るようになり、平均時速が九〇キロ近く出せるようになつた。これによ
つて、従来の蒸気機関車では考えられないような乗務員の注意義務の強化ー労働強
化が生れてきている。したがつて、乗務員の勤務条件は単に勤務時間(ハンドルを
握つている時間のみ)で算定することはきわめて不合理であることは明らかであ
る。乗務員に要求されている安全運転(安全綱領ならびに安全規程あるいは運心五
一五条等に定められている非常に厳格な注意義務)の要請を満足させるための注意
義務が乗務員の疲労度と密接な関係のあることは明らかであり、そのような点から
みても、少なくとも単に時間の面のみを基本的要素とする勤務条件の規制はきわめ
て不合理であるというべきである。
 このような点からみると、内達一号が単に労働時間の側面からのみ乗務員の労働
条件を規制したことはきわめて不合理であることが明らかである。一日の乗務する
キロ数を設定し、この面からの労働条件の規制が必要であることはいうまでもない
ところである。また、車内警報装置の不充分な設備上の欠陥のもとにおいては、乗
務員の二人乗務は安全輸送の面からみて、欠くことのできないものである。しかる
に、この乗務キロの制限の問題は、昭和二七年以降懸案になつていたにもかかわら
ず、本件斗争の昭和三六年三月当時まつたく考慮せられず、苛酷な労働条件をおし
つけようとしていた。のみならず、二人乗務については、車警の完備が不充分のま
ま、むしろこれを一人乗務にする方向が進められているのである。(いわゆる二人
乗務問題は、昭和四四年に至つて協定成立にいたるが、現在においてもきわめて問
題のあるものである。)
(2) 勤務形態の矛盾
 国鉄動力車乗務員の勤務条件を考える場合のもう一つの問題として、勤務形態が
きわめて不規則であるという点があげられている。しかも、このような乗務員運用
は重要な労働条件であるにもかかわらず、管理運営事項として乗務員の意思が反映
されることなく、一方的な国鉄当局の計画によつて定まるというきわめて不合理な
結果を伴つている。しかも、いつたん事故があると、乗務員は注意義務違反で起訴
され、有罪とされるケースが最近とくに多くなつてきている。昭和三二年の参宮線
事故、同三七年の三河島事故をはじめ最近の事故はほとんど刑事事件として問題に
されている。
(3) 「近代化」の労働条件への影響
 昭和三〇年代に入つてはじまる五か年計画・新五か年計画を進めるなかで、動力
車基地(機関区)の統廃合問題が発生し、また、乗務員の転換・配置換えが行なわ
れるようになつた。また、昭和三二年の五か年計画以後電化、SLのDL化、ロン
グラン、スピードアツプによりきわめて深刻な労働条件の変化強化をみている。機
関区の統廃合とは、従来八〇キロに一か所の割合であつた機関区を二〇〇キロに一
つの割合で置くように改めることで、これによつて、乗務員の労働条件は著しい変
更を受け、住居の移転の問題や通勤困難を生じ、また、転換教育などによる二重生
活を余儀なくされたり、あるいは首切り問題が現実問題として発生してきていた。
これらの問題は、どのように考えても重要な労働条件であるにもかかわらず、被告
は公労法第八条の管理運営事項であるとの理由で交渉を拒否してきていた。昭和三
二年の国鉄監査委員会の報告書によれば、近代化計画を推進するためには全面的に
労働組合の協力にまたなければならない旨指摘されている。労働者の労働条件を考
慮しない近代化・合理化が不合理であることをこの報告書は端的に物語つている。
(4) 賃金の問題
 以上のような諸要因がきわめて特徴的に動力車乗務員の労働条件を基礎づけてい
るのであるが、最後に賃金の関係をみると、昭和三六年当時乗務員に対する特別手
当は右のような特殊な勤務にかかわらずたつた三〇〇円にすぎなかつた。また、全
体の国鉄職員の給与は、当時の基準でみて、一般公務員に比較すると、一八号俸以
上(公務員の二五号俸)については国鉄職員の給与の方が低くなつている。民間産
業との比較でも国鉄職員の賃金は低い。一例をあげれば、勤続二〇年一〇か月三七
才の機関士の賃金は二一、九〇〇円、勤続七年六か月二八才の機関助士の賃金は一
五、九〇〇円である。これらのきわめて劣悪な勤務条件は、一方では国鉄労働者の
争議権がはく奪されていることの反映であると同時に、他方では争議権に代わる代
償措置の欠如の事実を如実に反映している。
3 本件斗争までの経過および目的
 本件斗争の目的は大きく分けて二つある。その一つは、国鉄の合理化に対する原
告組合と当局との事前協議の確立であり、その二は、動力車乗務員の労働条件に関
する問題(具体的には乗務キロ制限の設定の問題・ダイヤ作成基準に関する問題・
労働時間の短縮など)であつた。そこで、以下本件斗争までの経過および目的を詳
しく述べる。
(1) 事前協議協定の必要と当局ならびに原告組合の態度
 事前協議問題の発端となる昭和三二年からの国鉄の五か年計画および昭和三五年
より発足した新五か年計画は、輸送力の増強とそれに見合う管理体制を設定すると
いうことにあつた。そのために、機関区の統廃合、管理方式の変更が出てきたので
ある。すでに前述したように、国鉄の合理化計画とその実施が、国鉄職員の置かれ
ている労働条件を直接的に規制し、労働密度の強化をもたらすこと、したがつて、
これらの施策を実行する場合には、現場で現実に列車を動かす人々、すなわち、原
告組合との協議のうえで行なわれなければならないことは、先に述べた国鉄監査委
員会の報告をまつまでもなく明白なことである。ところが、この余りにも明白なこ
とがまつたくなされていなかつた。
 公労法第八条によれば、「公共企業体等の管理及び運営に関する事項は、団体交
渉の対象とすることはできない」と定めている。昭和三三年一二月九日被告と原告
組合との間に「国鉄近代化計画実施についての基本了解事項」(以下「基本了解事
項」という。)が締結され、「(一)近代化計画については可及的速かにその内容
を提示し協議を行なう。この協議は相互の完全な理解を目的とするものである。」
とされた。これは、第一次五か年計画が実施されて約一年後に締結されたものであ
るが、それまでの間、国鉄当局の原告組合に対する態度は、公労法第八条の団体交
渉の対象外であるという理由で当初から交渉を拒否してきたものであつた。
 公労法第八条は、非常に広範な労働条件を団体交渉の対象事項にあげている。こ
れは、憲法第二八条・労働基準法第一五条の精神から当然のことであるが、少なく
とも職員の労働条件に関する事項はすべて交渉の対象となりうる。機関区の統廃合
とそれによる配置換え・転換教育あるいはスピードアツプによる労働条件の変更
は、直接労働条件の主要な部分を規制する。したがつて、機関区の統廃止は、一方
で管理運営事項に属すると同時に、他方では労働条件の変更を直接的に規制してい
る。監査委員会の答申は、このような面から合理化に対する組合側の協力の必要を
明確にしたものであつた。したがつて、合理化計画のなかで、労働条件の規制をも
たらす部分は、それが管理運営事項に属するものであつても、公労法第八条の団体
交渉事項であることは明らかである。昭和三三年一二月九日に前記基本了解事項が
同年の年末斗争のなかで締結されたのは、合理化計画が労働条件の内容を直接規制
するという正当な主張に対し当局が一定の譲歩を示したものにほかならない。右基
本了解事項に定められている交渉事項は、合理化計画と要員計画、転換教育事項、
現業機関の改廃事項(主として機関区の統廃合)の三つであり、各級機関の交渉義
務も合わせて定めている。これによつて、当局は組合に対し合理化計画の全ぼうを
明示し、それを協議する義務を負担した。ところが、協定が成立したにもかかわら
ず、当局は計画の具体的な実施の段階で組合側にそれを説明するにとどまり、「相
互の完全な理解を目的とする」協議はなんら行なわれなかつた。そして、支社ある
いは管理局間のいわゆる地方段階での紛争が発生するに至つた。
(2) 地方段階の紛争と九・二二斗争
 国鉄の一車一日平均走行キロは、SL・EL・DL・客車・電車・貨車を含め
て、昭和二六年と比較し昭和三二年つまり五か年計画の実施とともに約一〇ないし
四〇の伸び率を示している。これらは合理化によるスピードアツプ・ロングランに
基づくものである。にもかかわらず、協議がほとんど行なわれず実施が強行せられ
たため、各地で紛争が生じた。この問題を惹起した根本は当局が基本了解事項に基
づく協議を無視したためである。昭和三四年九月二二日被告は列車時刻改正を発表
したが、この時刻改正によつて生じる労働条件の変更を是正するため、原告組合
は、同年七月に開かれた第九回全国大会の決定に基づいて、いわゆる九・二二斗争
を組織した。この斗争は、順法斗争・休暇斗争を含むものであつた。その結果、同
年九月二〇日、「国鉄近代化計画実施についての基本了解事項の実施に関する覚
書」が成立した。
 これによれば、計画中のものを含めて協議を行なうこと、合理化計画の実施に当
たつて、労働条件に関する事項については、原則として両者の了解を図るため中
央・地方を通じて毎月一回以上協議を行なうことが骨子とされている。この協定内
容を見てもわかるとおり、右覚書は昭和三三年一二月の基本了解事項の完全実施を
目的とするものであつた。
(3) 九・二二斗争以後の各地の情況と三・一五斗争の決定に至るまでの事情
 九月二〇日の覚書は、斗争を組織したことによる一定の前進を示すものであつた
が、それ以後の当局側の態度には協議によつて組合側の意向を反映させるという方
向はまつたくみられなかつた。協議によらない要員の削減や職員の運用合理化の問
題が昭和三四年から三五年を通じて各地で発生してきている。とくに昭和三五年の
新五か年計画の設定に伴つて、各地で合理化攻勢が激化し、対立が激しくなつてき
ている。協定無視が公然と行なわれ、各地で中央協定を守るたたかいを組むことが
余儀なくされた。その概要は左のとおりである。
(ⅰ) 盛岡 昭和三五年五月、大船渡線管理所発足に伴い、一関機関区を本線業
務と管理所兼務で分割し、気仙沼機関支区は統合して燃料係業務を外部委託し、事
務系は一部を除いて残りは駅などに配置転換する計画をなんの協議もなく抜打ち的
に出してきた。組合は、協定に従つた協議を行なうよう要求したが、当局はこれに
誠実に応じず、やむをえず同年五月三〇日一〇割休暇斗争を実行し、同日当局は右
の計画案を事実上徹回し改めて協議することを約束した。
(ⅱ) 天王寺 昭和三五年五月三〇日、被告は、突然、赤字をかかえている関西
線を合理化するため天王寺機関区を将来廃止すると発表した。一三〇名の定員削減
が伴つたものであつた。組合側は、これに対し家族ぐるみの陳情を行なつたが、無
視され、右計画の強行実施が強く打ち出されたため、同年六月四日・同月二二日と
三六協定破棄を中心とする斗争体制を固め、被告が一方的に右計画を強行する時点
である同年七月一一日を頂点に最大のたたかいを組み、とくに同月一〇日零時から
は関西線等をはじめとして一二時間の列車運転が休止せざるをえない状態となり、
当局側はこの状態に立ち至りはじめて組合側に団体交渉を申し入れ、当局提案を一
部撤回し業務機関の廃止については引き続き協議を行なう旨提案し、組合がこれを
了解したため一一日一二時五分斗争は終了した。
(ⅲ) 札幌 昭和三五年七月七日のダイヤ改正実施に伴う二人乗務の廃止・急行
列車のスピードアツプ問題が生じ、被告は協議体制をとらずにダイヤ改正を強行す
る態度を示してきた。団体交渉による進展は当局の不誠意によつてまつたくみられ
ず、同年六月一〇日原告組合はやむをえず苗穂機関区において一〇割休暇斗争を実
施し、このなかでようやく団体交渉は進展し、はじめて「二人乗務の確保、非番の
漸減の中止、折返し時間短縮の食い止め、検修回帰キロに伴う定員査定基準作成」
などで協定が成立し、同日妥結した。
(ⅳ) 岡山・大阪 山陽線の電化が岡山まで進んだことに伴つて、昭和三五年一
〇月ダイヤ改正が計画され、そのなかで、被告は、同年六月七日、従来姫路で乗り
継いでいたものを京都から岡山まで二一九・三キロ、大阪・岡山間一七六・五キ
ロ、吹田操車場・岡山操車場間一八四・五キロの間を連続乗務させる旨提案した。
そして、同月二〇日から一方的に路線見習をはじめる気配を見せ、協議を行なわな
い一方的な実施を強行しようとした。その結果、原告組合は、やむをえず同年七月
七日以降王子機関区斗争と併行して線路見習拒否等の斗争を行ない、これによつて
はじめて組合側の意向を反映した特急・貨物の姫路通過をやむをえない最小限度に
止める点で妥結した。
(ⅴ) その他 昭和三五年五月以降にかけては、各地でダイヤ改正に関連してス
ピードアツプ・乗務キロ延長等がほとんど事前協議を経ずに現実問題化した。そし
て、右に述べたほか、この期間に、この問題に関連して斗争を行ない、それによつ
て協定に示された労使関係を回復したのは、門司・大分・鹿児島・熊本をはじめと
する各地である。そして、たとえば、同年一〇月の山陽線電化による配置転換、転
換養成の問題(岡山・大阪)、上野・青森間特急「はつかり」の運行に伴うロング
ラン問題(同年一二月一〇日よりDC化)、四国支社の機関区統合問題、西鹿児島
の気動車基地設置にからむ検修一元化問題(機関区の検修作業を工場移管する。)
などが相ついで発生してきている。原告組合は弾圧を伴う斗争を好き好のんで組織
するわけではない。現実に団体行動権を伴わない団体交渉権はほとんど無にひとし
いことを右の諸事実は物語つている。当局の協定無視が続発するなかで、協定の誠
実な実施を要求するために実力行使を行なわざるをえなかつたものである。
 そこで、昭和三五年六月二五日に開かれた原告組合の第一〇回全国大会は、九・
二二斗争以後の各地の諸問題を点検するなかで、合理化に対する事前協議の確立と
乗務キロ制限・要員措置等必要な労働条件を確立するためのたたかいを確立しなけ
れば、従来の国鉄当局の態度からみて、安全運転および労働条件について最悪の事
態が発生すると認識し、このため、被告に対し完全な事前協議の協定を締結させる
ため強力な全国斗争を組織することを決定した。
 昭和三六年一月二五日、原告組合は、動力車甲第一九号をもつて、事前協議およ
び乗務キロ制限に関する申入れを行ない、その第一回団体交渉が同年二月二四日に
開かれた。そこにおいて、原告組合は、要するに、従来の当局側の協定をふみにじ
る態度を改めさせ、そのようなことができないような義務を協定のうえで明確にす
ることを当局に迫つたのである。原告組合は、前記第一〇回全国大会において一致
して強力な斗争体制の確立を決定したのに続き、昭和三六年一月一九日原告組合の
中央委員会(第三四回)において本件斗争の具体的方針を明らかにし、同年三月八
日の全国戦術会議において同月一五日乗務員の一〇割休暇斗争を行なうことを決定
したが、一連の時間の経過のなかで明白となつたのはもはや被告との団体交渉は、
一定の団体行動を背景としないかぎり、その解決が不可能であり真に誠意のある団
体交渉はできないということであつた。当局の方策が協定を無視してつぎつぎに実
施されてゆく中で、一日延ばしにその解決を延ばしてゆくことは、単に職員の労働
条件の劣悪化をもたらすだけでなく、ひいては安全確保そのものに重大な影響を与
えることになるのである。第三四回中央委員会は、こうした情況をふまえて、同年
一月二一日の斗争宣言を発した。また、本件斗争の時期を同年三月一五日に設定し
たのは、右のような事情を考慮して定められたものであつて、少なくとも三月段階
で解決されなければ、同年一〇月に予定される白紙ダイヤ改正等の問題に対して原
告組合が被告と対等な立場で対処してゆくすべがなかつたからである。
 団体交渉は、同年二月一四日以降妥結に至る同年三月一五日までの間、九回もた
れているが、実質的に締結できうる最終提案が当局によつて行なわれ、その締結を
みたのは同日の午前二時五五分から三時一五分までの団体交渉、つまり、本件斗争
突入後の団体交渉であつた。この団体交渉によつて成立した「国鉄近代化等に伴う
事前協議に関する協定」は、昭和三四年九月二〇日成立した覚書をさらに前進さ
せ、事前協議の目的を相互了解におき、協議過程において公労法第八条問題が生じ
た場合にはあらためて団体交渉によつて協定を締結することとし、合理化計画につ
いては計画中のものも含めて団体交渉を行ない意見の一致を期するものとすること
等が協定され、この協定によつて事前協議制はようやく軌道に乗つた。昭和三三年
八月、はじめて事前協議制を申し入れて以来、実に二年半ぶりの解決である。
(4) 労働条件の改善に関する問題
 本件斗争の目的の一つが労働条件の改善、なかでも合理化に伴つて必然的に起る
スピードアツプ・ロングランによる乗務キロ制限の問題にあることはすでに労働条
件の項で述べたとおりである。
 内達一号の矛盾点はすでに昭和二六年当時から出ていたが、問題点の指摘が具体
的に行なわれるに至つた昭和三一年・昭和三二年一月の段階ではまだ団体交渉事項
として具体化せず、同三四年六月はじめて具体的な団体交渉事項とされるに至つ
た。当時、昭和三四年九月二二日にダイヤ改正が行なわれ、これによつて時間の規
制のみによる内達一号の矛盾はますます増大していくようになつた。昭和三四年九
月二〇日「動力車乗務員の労働条件に関する諸懸案事項に関する協定」が締結され
たが、これは、乗務キロ制限についての団体交渉の基礎を作つたものである。これ
を基礎とする団体交渉のなかで、DLについては仲裁裁定により一定の方向を示さ
れたが、乗務キロ制限については、当局は当初四〇〇キロというようなおよそ非常
識的な提案を行ない、原告組合の具体的な提案に対し対案めいたものを出したのは
昭和三五年一月であつた。それによると、原告組合は当時一九〇キロを提案してい
たのに対し、当局は当時現実に乗務していない二五〇キロという数字を出し、それ
以上交渉は進展せず、昭和三五年の第一〇回全国大会当時は、すでに述べた地方で
の紛争の基礎を作つている問題ともなつており、団体交渉は事実上暗しように乗り
上げた形になつていた。
 その後の団体交渉の経緯は事前協議について述べたところとほぼ同様である。昭
和三六年二月二日に第一回団体交渉がもたれてのち同年三月一五日までに一三回の
団体交渉が重ねられ、はじめて「動力車乗務員の労働条件に関する協定」が成立し
た。この協定によつて、蒸気機関車以外の近代動力車乗務員についてスピードアツ
プに対する最低限度の規制を加えることができた。実際の乗務キロ制限は、個々の
仕業についてではなく交番の一循環のなかで一基準日当りこの規制に従わなければ
ならなくなつた。内達一号の盲点であるスピードアツプ折返し時間の短縮などによ
る実ハンドル時間の増加は、乗務速度別のキロ制限を加えることによつて制限を受
け、正常な勤務関係を確立するための下地がはじめてできたわけである。
 以上やや詳細に本件斗争に至るまでの経過と本件斗争による成果とをみてきた
が、本件斗争は決して偶然に生じたのではなく、斗争を組織するに至る責任はすべ
て被告にあつたのである。しかも、見落してはならないことは、従来多数締結され
ている協定・協約のうち重要なものはすべて団結活動ー斗争ーを背景にしてはじめ
て成立したという点である。本件斗争も決してこの例外ではなかつた。新五か年計
画が実施され、強行されてゆくなかで、昭和三六年三月という時期は同年一〇月の
白紙ダイヤ改正を控えたもつとも重要な時期であつて、この時期に一定の協定を締
結しておくことがどうしても必要であつたのである。
 以上みてきたように、本件斗争に至つたのはやむをえない事情にあつたのであ
り、また、斗争の目的も正当なものであつた。
(四) 本件争議行為の戦術について
1 本件争議行為の闘争戦術は、拠点における休暇闘争である。それは、年次有給
休暇を闘争手段として利用する方法であり、争議権否認法制と争議行為に対する弾
圧体制強化のもとで、争議権を否認された労働者が考え出した戦術である。
 公労法制定の過程(政令第二〇一号の国内法への変質の過程)からみて、休暇闘
争は、官公庁労使間において団体交渉権を全うさせる手段として、昭和二四年以降
少なくとも弾圧が行なわれるに至る昭和二九年までは事実上承認されてきた経過を
もつている。労働法学者がこれを称して「悪法のもとにおける秩序」と呼ぶのは、
労働基本権はく奪の代償に代わりうるものとして、休暇闘争という闘争手段を作り
上げた力を全体の法律秩序のなかで承認したからにほかならない。原告組合が本件
争議行為の闘争手段として休暇闘争を採用したのは、右のような歴史的背景に基づ
いている。
2 ところで、本件争議行為の具体的内容がどんなものであつたかを検討してみよ
う。
 昭和三六年三月一五日午前零時から午前九時までの時間帯に休暇闘争に突入する
旨の決定は、具体的には同月七日の原告組合の中央闘争委員会でなされた。方法
は、闘争前日ころまでに闘争の趣旨を組合員に徹底して休暇届を取り集めるとい
う、従来行なわれてきた慣行的方法を採用したものである。また、その内容は、列
車の進行を実力をもつてストツプさせるというものではなく、組合員が一致して職
場集会に参加するというものであつた。そして、その趣旨に基づいて、原告組合中
央執行委員長P13名義の指令第六号が旭川・水戸・静岡・広島等関係拠点に発出さ
れた。
 これらの中央決定に従つて、中央闘争委員が関係地方本部に派遣された。各地方
本部に派遣された原告らを含む関係中央闘争委員の氏名は、おおむね被告が解雇理
由中で述べているとおりである。関係地方本部の具体的戦術は本部派遣の中央闘争
委員が本部の指令・指示に基づいて決定することになつていたが、その戦術の骨子
は、本件争議行為の主内容が組合員を休暇闘争に参加させることにあつたから、線
路へのすわり込みによる列車の発車妨害あるいは停止は行なわないこと、行動隊の
指揮者の指揮によつて行動は規制され、とびはねた行動は行なわないこと、右のよ
うな配慮から説得活動は原告組合の組合員が行ない、支援労働組合の組合員は構内
に入れないことなどである。なお、闘争突入三日くらい前からは、当局も乗務員の
確保を行なうため、労使双方によつて組合員乗務員の説得活動が行なわれるのが従
来の慣行であるため、これを想定して戦術は定められた。
 前記指令第六号では、同月一五日の闘争のなかでも午前七時から午前九時まで
は、それ以前の闘争形態と異なり、列車のストツプを含む戦術が考慮されていた
が、実際には、それ以前に本件争議行為が中止されたため、そのような戦術はとら
れなかつた。
(五) 本件争議行為の影響について
1 本件争議行為による列車の遅延や運休は昭和三六年三月一五日に限られてお
り、何日にも及んだという事実はない。しかも、右争議行為は、実際に当初予定さ
れていた午前九時まで完全に実施されたわけではなく、午前四時に協定成立により
中止されており、時間的にきわめて短時間の争議行為であつた。そのうえ、深夜で
あるため、始発駅(たとえば、青森)などではほとんど列車に影響を与えなかつ
た。ことに、幹線列車が全部完全に停止するという事態は生じなかつたし、通勤に
はまつたくといつてよいほど影響を生じなかつた。旅客列車について到着が遅れた
ものもあるが、いずれもそれぞれ所定の駅に到着した。貨物列車のなかには国鉄当
局があらかじめ本件争議行為を見越して計画的に運休したものもあり、当局の不手
際によつて運休したものもある。動力車乗務員は原告組合に加入しているものばか
りでなく、国労および新国労に加入しているものもおり、これらに対しては、乗務
員運用の面でさらに工夫をすることも考えられたのである。
2 右に述べたように、本件争議行為がもたらした国民生活全体に対する影響はき
わめて少なかつたといわざるをえない。風雨災害によつて本件争議行為による以上
の大きな混乱を生じることはいくらもあり、列車の遅れも、たとえば、二時間の遅
れによつてはじめて特急券の払いもどしが行なわれるところをみてもわかるとお
り、混乱や遅れは国鉄にとつていわば日常茶飯事だといつてよい、本件争議行為
も、これらと比較して混乱がより大きかつたとはいえない。
 国鉄全線がまひし、輸送が長期間とだえたような場合なら格別、本件争議行為の
影響をもつて、国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらした場
合に該当するとはいえない。一般国民の側では、争議行為による本件程度の混乱
は、社会生活のなかで十分に許容しているといつても過言ではない。
(六) むすび
 以上述べてきた諸点を総合すれば、本件争議行為は公労法第一七条によつて禁止
された争議行為に該当しないものというべきである。
四 本件解雇は解雇権の濫用として無効である。
(一) 本件解雇の根拠法規の一つである公労法第一八条を必要的解雇条項とみ
ず、一定の場合にのみ解雇権の発動を任命当局に許容したものと解する見解があり
うる。その代表的なものはさきの千代田丸判決の場合であつて、右判決は、「とこ
ろで、公労法一八条は、同法一七条の規定に違反する行為をした職員は、『解雇さ
れるものとする。』と規定している。しかし、同条の趣旨とするところは、右の違
反行為をした職員は、当然にその地位を失うとか、一律に必ず解雇されるべきであ
るというのではなく、例えば日本電信電話公社法三一条、三三条等の定める職員の
身分保障に関する規定にかかわらず、解雇することができるというにあり、解雇す
るかどうか、その他どのような措置をするかは、職員のした違反行為の態様・程度
に応じ、公社の合理的な裁量に委ねる趣旨と解するのが相当である。そして、職員
の労働基本権を保障している右公社法の趣旨にかんがみると、職員に対する不利益
処分は、必要な限度を超えない合理的な範囲にとどめなければならないものと解す
べきで」あり、この限度をこえた解雇は、「合理性・妥当性を欠き……合理的な裁
量権の範囲を著しく逸脱したものとして、無効と解すべきで」あると判示する。
(二) このような見地に立つて本件争議行為をみると、前述のように、右争議行
為は目的においてきわめて正当であり、手段の点でも事の経過ないし状況に照らせ
ば十分に首肯しうる相当なものであつて、しかも、それがもたらした国民生活への
障害は重大どころか、すこぶる軽微な程度にとどまつたのであるから、かような争
議行為を計画・指導し、あるいは、みずから実施に当たつたことを理由に、被告が
公労法第一八条を適用して原告組合を除くその余の原告らを解雇したことは、合理
性の認められる必要最小限度をはるかにこえる制裁を課したものであつて、解雇権
の濫用として無効というべきである。
五 本件解雇は労組法第七条第一号に該当する不当労働行為である。
 本件争議行為は、すでに述べたように、まつたく正当な行為であつた。それにも
かかわらず、被告が原告組合を除くその余の原告らを解雇したことは、別紙第一記
載の地位にあつた右原告らの活発な組合活動を嫌悪したためである。したがつて、
本件解雇は、労組法第七条第一号に該当する不当労働行為であり、無効である。
(原告らの主張に対する被告の認否と反論)
一 原告らの主張一について
(二) 原告らの主張一(一)記載の主張には反対する。
 公労法第一七条が中郵判決の判示するところに従つて解釈・運用されるかぎりに
おいて合憲であることは、すでに判例上確定したところである。
(二) 同一(二)記載の主張の趣旨には賛成し難い。
(三) 同一(三)記載の主張のうち、
1 冒頭および1(1)記載の主張には反対する。
 国鉄は、鉄道国有法第一条に定める「一般運送ノ用ニ供スル鉄道ハ総テ国ノ所有
トス但シ一地方ノ交通ヲ目的トスル鉄道ハ此ノ限ニ在ラズ」とする鉄道国有の原則
に従つてその運営に当たる公共企業体であり、この原則は最近制定をみた「全国新
幹線鉄道整備法」(昭和四五年法律第七一号)にも踏しゆうされている。また、そ
の実体においても、全国にまたがる国有の単一組織の基幹的交通機関であり、その
独占性の点のみからみても私鉄・バス等の一地方に限られた他の交通機関の比でな
いことは多言を要しない。一地方の交通機関としての私鉄も、労調法第八条や、私
的独占禁止法第二一条において、その独占性を認められているが、その独占性は地
方的であり、国鉄のそれが全国規模をもつ最大のものであり、その業務の停廃が国
民生活に及ぼす影響において私鉄の比でないことは明らかである。したがつて、こ
の実体に応じて、国鉄に争議権の制限その他私鉄と異なつた立法を必要とすること
はきわめて見やすいところであり、いわゆる中郵判決が国鉄に強い公共性を認めて
いるのは当然といわなければならない。
2 1(2)記載の見解は曲解である。
 国鉄は、国有の公企業として政府の強い統制下にあり、多くの公共負担等を課せ
られているが、なお、いわゆる独立採算制による独立の企業である。従来、国が直
接経営していた鉄道事業を公共企業体に改めたのは、いうまでもなく一般私企業の
経営理念に基づく諸方策を導入することにより、国営事業の陥りやすい官僚的・非
能率的な運営を改め、能率の向上をはかり、もつてその事業を発展させ、公共の利
益の増進に役立たせようとするにある。したがつて、適切活発な企業活動により利
益をあげ、これを積み立て、財政的基礎を強固にするとともに将来の事業の発展に
資することは公共企業体設立の大眼目である。現在、国鉄は、これを地域ごとにみ
るとき、激しい競争にさらされており、財政的危機に立つていることは公知であ
り、その破たんは前述した国鉄本来の公共的使命の達成を不可能にするおそれが強
い。したがつて、今日の国鉄の緊急の関心事が赤字の解消・収益の増進にあること
はきわめて当然であり、それによつてはじめて公共的機能を果すことができるので
ある。これをもつて、国鉄は営利主義にはしり、公共の使命を忘れていると批判す
ることはもとより当たらない。
3 1(3)記載の主張は非論理的である。
 国鉄といえども一つの企業として近代分業社会の中における一つの存在である。
近代社会の合理性が生み出したもろもろの利益を活用・享受することは当然認めら
れなければならない。まして、前述のような独立の公企業として、一般私企業の経
営理念である合理化の理念の導入は必然の要請といわなければならない。いわゆる
部外能力の活用・業務の一部の下請化はこの合理化の重要な一分野であり、企業の
自主性をそこなうことなく、十分に合理化の利益を享受するために、いかなる部門
のいかなる業務を下請化するかの決定は、経営者に課せられた重要な決断というべ
きであるが、いずれにせよ、下請会社等の従業員にストライキが認められるからと
いつて、国鉄職員にも争議権がなければならないとする見解には、はなはだしい論
理の飛躍の存することは明白であろう。
4 1(4)記載の主張は不可解である。
 この点に関する原告らの主張はまことに理解しがたい。国鉄と私鉄の相互乗入れ
は、もとより乗客の利便のために行なわれているのであるが、他方、国鉄職員の争
議権の制限もまた同一の観点に立つてなされており、いずれも、公共の利益の増進
という共通の目的のためにある。交通機関の最大の使命であるこの公共の利益の確
保を度外視して交通労働者の差別の不合理性を指摘するのは、結局、労働者の争議
権を公共の利益に優先させるに帰する見解であり、前記中郵判決の趣旨とも根本的
に背反するものである。
5 1(5)、2および3記載の主張には反対する。
6 4記載の主張は独自の見解である。
 いわゆる中郵判決は、憲法第二八条の保障する労働基本権にも「国民生活全体の
利益の保障という見地からの制約を当然に内包している」とし、「その業務の停廃
が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれ」のある国
鉄等の職員につき、争議行為を禁止する規定を設けても、その禁止違反に対する不
利益が合理的なものであれば違憲無効ということはできないと判示し、かつ、公労
法第一七条・第一八条について、争議行為禁止違反が違法であるというのは、民事
責任を免れないという意味においてであつて、違反者に対して民事責任を伴う争議
行為を禁止する右公労法の規定は憲法に違反しないともいう。
 その際、右判決は、争議行為禁止の「代償として」の公労委による仲裁裁定の制
度の存在に言及し、あたかもこれを合憲の一つの理由としているのではないかとも
受け取れる判示をしている。
 しかし、右判決の趣旨をつぶさに検討すれば、それは、仲裁裁定という代償があ
るから、(あるいは、それをも一つの理由として)基本的人権の一つである争議行
為を禁止しても違憲ではないとしているものでないことが理解されるであろう。右
判決にそくして考えれば、公労法第一七条・第一八条の合憲性は、あくまでも前記
のように労働基本権に公共の利益の観点からする制約が内包されているとする点に
もつぱらその根拠をおくものといわざるをえない。その意味で、仲裁に関する法制
度やその処理の現実についてあげつらい、批判することは立法論や政策論としては
ともかく、憲法上の論議としてはほとんどその意義を認めがたい。
 企業が企業として存立するためには、その経理全般において人件費(給与)の占
める適切な位置がなければならない。それは、一般には、平和的団体交渉により、
あるいは、争議の結果としての団体交渉によつて、組合と経営者の、おそらくは力
関係を背景とした妥協によつて決定される。そこでは、競争場裡における企業の存
立という労使双方に共通したわくの中で結論が導き出されるのであるが、国鉄のよ
うな公共企業体においては、このような共通のわくないし限界は必ずしも明確に意
識されにくい。それが「親方日の丸」という俗語をもつて批判されるゆえんであ
り、国鉄職員に対する争議行為禁止の理由の一つもここにあるとも考えられ、そし
て、そのことはまた、国会の審議を経た予算によつて国鉄労使の協約締結をチエツ
クすることを定めた公労法第一六条の立法趣旨に通ずるものと思われる。右規定に
よつて、予算上・資金上不可能な支出を内容とする労使間の協約が認められないと
いうことは、一般私企業においては責任ある経営者に任せられた限界を、国有企業
なるがゆえに国会の意思による決定の形で国鉄に課そうとするものである。公労委
による仲裁裁定が協約と同一の効力を有するものとされる以上、裁定もまた、この
限界内になければならないことは当然である。仮に国鉄職員について、争議行為の
禁止規定が撤廃されたとしてもこの限界は依然として存続すべきものであることい
うまでもない。昭和三一年の公労法第三五条の改正・国鉄法第四四条第二項の新設
により、政府に対しては裁定が実施されるようできるかぎりの努力をすべき義務を
課し、国鉄に対しては運輸大臣の認可を受けて予算の定めをこえて裁定に定める給
与を支給しうる道を開いたのは、公労委の裁定と運輸大臣の認可(前者が重いこと
は公労法第一六条の趣旨から明白)という行政措置に、国会が専有する予算に関す
る権限を事実上ゆずつたにひとしい実質をもつものであり、その意義はきわめて大
きく、これによつて争議行為の代償として十分の効果を期待できるものとなつたと
いうべきである。また、仲裁委員として裁定に当たる公労委の公益委員が、国会に
対し直接責任を負う内閣の一員たる労働大臣によつて、両議院の同意を得て任命さ
れることも、右の趣旨からいつてその合理性を首肯するに十分である。
7 5および6記載の主張にも賛成できない。
二 原告らの主張二について
公労法第一八条はなんら憲法第二八条に違反するものではない。
三 原告らの主張三について
(一) すでに述べたように、国鉄が公共企業体として設立されたのは、一般私企
業において採用されている経営上の諸理念・諸方策を導入し、事業経営の能率をあ
げ、その発展を図ることによつて公共の利益の増進に寄与しようとするにあつたこ
とは明らかである。そして、いわゆる企業の近代化・合理化の理念がそのもつとも
中心をなすものであることはいうまでもない。
 ところで、企業のいかなる部面を取り上げ、これをいかなる方向において合理化
するかの策定は、企業の将来を決するきわめて重大な経営上の決断であることはい
うまでもなく、国鉄の経営に携わる者としては国民に対しその針路をあやまらない
重責をになうものである。その意味において、それが公労法第八条にいう「管理及
び運営に関する事項」であることは明確である。もとより、合理化の実施に当た
り、労働条件に変更をきたすような事項については、同条に従つて組合との団体交
渉により逐一解決していかなければならないこというまでもないが、少なくとも合
理化計画の策定については、そのスムーズな実施をはかる政策上の見地から当局側
からあらかじめ組合にこれを示し、その意向を打診することは考えられても、組合
から合理化計画の事前の呈示およびこれに対する協議を要求することは、公労法の
右規定の趣旨にそうものとは解しえない。本件争議行為ののち、昭和三六年三月一
五日国鉄労使間に締結された「国鉄近代化等に伴う事前協議に関する協定」では、
その骨子として、国鉄当局は近代化について計画中のものをも含めて事前に組合に
その内容(要員計画や転換教育計画、業務機関の統廃合等)を提示し、相互の了解
をはかる目的で協議を行なうこと、公労法第八条各号に該当する事項については別
途団体交渉を行なうことを定めるが、当局が、右の事前協議に応ずる協約を結んだ
のは前述のような政策的考慮に基づくものであつて、組合がこれを要求する権利を
有したからではないことはいうまでもない。
(二) 戦後二〇余年、わが国は実に目まぐるしい社会情勢の変革を経験した。日
本経済のいわゆる高度成長の過程で、産業立地の変化と、これに伴う都市人口の集
中、地方人口の過疎化、数々の技術革新、エネルギー革命、情報革命といわれる変
革等等によつて、産業経済の構造が大きく変化した。これに伴つて、国民生活、と
くにその消費面はますます多様化し、ひいては国民の輸送需要の動向も量的にも質
的にも大きく変化してきている。このような変化に対応して、道路の改良・新設が
相つぎ、一方において自動車産業の急激な伸長があり、両々相まつて自動車輸送は
驚異的発達を遂げつつある。一方、航空機や船舶による輸送の伸びもまた軽視を許
さない。これらの他の交通機関の発達がすでに述べたように国鉄に対する競争者と
して立ち向つてきていることは否定できない。しかしながら、他方において、国民
経済活動の多様化・広域化も著しく、輸送需要は急激に増加しつつあり、全国規模
における基幹的大量交通機関としての国鉄の重要性は少しも減少するものではな
い。また、都市周辺における通勤通学客の大量輸送等の面では、国鉄は増大する人
口集中に対処するため限りのない努力をしいられているのである。国鉄は、このよ
うに一方において競争にたえて企業の維持をはかり、いな積極的に事業の発展を図
ることによつて、他方において右のような国民的要請にこたえなければならないの
であつて、ここにすでにふれたように合理化・近代化による生産性の向上が必然の
要請となること何人にも明らかであろう。
(三) 国鉄がすでに昭和三二年の第一次五か年計画発足当時から志向し、実施に
移してきた合理化・近代化の基本的方向は、昭和三六年ころの段階においては、
(1)動力方式の近代化、すなわち、蒸気機関車から電気機関車・電車・デイーゼ
ル機関車・気動車等への転換と、これに伴う近代車輛の投入、(2)車輛保守の近
代化、すなわち、いわゆる「部品交換システム」による車輛の保守・修繕の機械
化・近代化、(3)以上の近代化をさらに効果あらしめるため軌道の強化、軌道保
守の近代化、電気関係設備および電気保守作業の近代化、信号の自動化、駅構内の
継電連動化、ATS・CTS等の高速・高頻度化等の諸方策の実施にある。そし
て、これに伴つて営業体制の近代化がすすめられてきた。
 一方、これら近代化・合理化に即応する安全対策も決してなおざりに付されてい
るわけではない。右にあげたATS装置は全車輛に取り付けられているし、CTC
信号の自動化、継電連動化等も安全に役立つ。踏切についてみても、もつとも危険
な四種踏切の数は漸減し、一種踏切は次第にその数を増加している。
 以上のような合理化・近代化によつて、いわゆる職群別のうえで「労務職」に属
する人員の比率は漸次減少し、その職務内容は高度化しつつあり、業務上の死傷病
者の数も次第に減少してきている。また、職務内容の高度化に伴う教育・訓練の実
績も向上し、これらの合理化・近代化による労働節約の効果として昭和三七年度以
降漸次労働時間の短縮が実現し、一方、合理化による人員整理はまつたく行なわれ
ていない。
(四) 端的にいつて、本件斗争の六年後の昭和四二年以後の世上にいわゆる「五
万人合理化」の経過を含めてみても、いわゆる合理化を理由として、職員の身体生
命の安全が脅やかされたり、あるいは、その生活が危急にひんしたというようなこ
とはまつたくないのであり、かえつて、自動車の爆発的発達と、鉄道事故の大半が
自動車の無謀運転にかかわること吾人が日常新聞紙上で見るところであるにかかわ
らず、職員の業務上死傷事故漸減の傾向が顕著であること前述のとおりであり、労
働時間の短縮、作業環境の向上等にみられるように職員の生活に関しても、合理化
は好結果をもたらしつつあるといつてよいのである。
 このようにみてくると、本件斗争を正当化する理由はまつたく見当たらず、原告
らの主張するところは、結局において通常の要求貫徹のための争議行為としての実
質をもつにすぎないといわなければならない。したがつて、それが公労法第一七条
に背反するものとの指弾を免かれえないことはいうまでもない。
四 原告らの主張四について
否認する。
五 原告らの主張五について
原告組合を除くその余の原告らが別紙第一記載の地位にあつたことは認め、その余
の事実は否認する。
第三 証拠関係(省略)
       理   由
 (目次)
第一 原告組合の訴えの当事者適格および確認の利益
一 争いない事実
二 判断
(一) 雇用契約に対する組合の管理処分権
(二) 任意的訴訟担当
(三) 確認の利益
三 要約
第二 原告組合を除くその余の原告らの請求の当否
一 雇用関係の成立
二 本件解雇の意思表示
三 公労法第一七条第一項および第一八条の解釈
(一) 公労法第一七条第一項は、憲法第二八条に違反するか。
1 公共企業体等の職員と憲法第二八条
2 公労法第一七条第一項と憲法第二八条
(1) 公労法第一七条第一項の文理解釈
(2) いわゆる合理的限定解釈
(二) 国鉄職員の争議行為は、公労法第一七条第一項によつて禁止されるか。
1 公労法第一七条第一項が禁止する争議行為の範囲
2 国鉄職員の争議行為に関する立法の沿革
(1) 政令第二〇一号が制定されるまで
(2) 政令第二〇一号の制定と国公法の改正
(3) 公労法の制定
3 国鉄の業務と動力車乗務員等の職務
(4) 国鉄の業務
(2) 動力車乗務員等の職務
4 原告組合の組合員たる職員に対する争議行為制限の合理性と基準
(1) 制限の合理性
(2) 制限の基準
(ⅰ) 多数の列車の運行を阻害し、または多数の乗客に迷惑を及ぼす行為
(ⅱ) 長距離列車の運行を阻害する行為
(ⅲ) 積極的に列車の運行を妨害する行為
(ⅳ) 要約
5 公労法第一七条第一項後段の意義
(三) 公労法第一八条は、憲法第二八条に違反するか。
四 本件争議行為の実状
(一) 本件争議行為への突入まで
1 原告組合の組織
(1) 平常時の組織
(2) 斗争時の組織
2 本件争議行為に至る経緯
(1) 事前協議制確立の問題について
(ⅰ) 国鉄近代化五か年計画の実施
(ⅱ) 五か年計画に対する原告組合の態度
(ⅲ) 基本了解事項の締結
(ⅳ) いわゆる九・二二斗争と覚書の締結
(ⅴ) 覚書締結後の状況
(2) 乗務粁制限問題について
(ⅰ) 内達一号とそのもとにおける乗務員の労働条件
(ⅱ) 内達一号に対する原告組合の態度
(3) 本件争議行為の企画・決定について
(ⅰ) 第一〇回全国大会の開催
(ⅱ) 第三四回中央委員会の決定
(4) 中央における斗争体制の確立について
(ⅰ) 中央斗争委員会の発足
(ⅱ) 全国組織部長会議の開催
(ⅲ) 本部斗争指令第六号の発布と派遣中斗の現地派遣
(ⅳ) 公労協戦術委員会に対する支援要請
(ⅴ) 本件争議行為への突入
(二) 旭川地区の状況(原告P4関係)(以下各列車の運行阻害状況等の細目次を
省略する。)
1 旭川機関区表関門における機関車の運行妨害
2 旭川機関区裏関門における機関車の運行妨害
(三) 水戸地区の状況(原告P1、同P6、同P7および同P5関係)
1 水戸機関区関係乗務員の連行
2 水戸駅における発車妨害
3 職務遂行妨害等
(四) 浜松地区の状況(原告P3、同P9、同P10および同P8関係)
1 浜松機関区関係乗務員の連行
2 浜松駅における発車妨害
(五) 広島地区の状況(原告P2、同P11および同P12関係)
1 広島第二機関区関係乗務員の連行
2 広島第一機関区関係乗務員の連行
3 広島駅における機関車乗務員の乗務妨害等
五 本件解雇の効力
(一) 本件争議行為の評価
(二) 原告組合を除くその余の原告らの責任(原告ら各別の細目次を省略す
る。)
(三) 再抗弁についての判断
1 解雇権濫用の主張について
2 不当労働行為の主張について
(四) 雇用契約の消滅
第三 結論
 (目次終り)
第一 原告組合の訴えの当事者適格および確認の利益
一 争いない事実
 請求原因一記載の事実は、当事者間に争いがない。
二 判断
 本件訴えは、原告組合を除くその余の原告らと被告との間に雇用契約の存在する
ことの確認を求めるものである。すなわち、そこで確認の対象とされているもの
は、原告組合と被告との間の法律関係ではなく、原告組合の組合員たるその余の原
告らとその使用者たる被告との間の個別的労働契約上の法律関係である。
(一) 雇用契約に対する組合の管理処分権
 労働組合は、実体法上当然にその組合員の個別的労働契約上の法律関係について
管理・処分の権能を有するものではない。その理由は、次のとおりである。
 労働組合は、労働条件の維持・改善その他経済的地位の向上を図るというその存
立目的に照らし、組合員たる労働者と使用者との間の労働条件について団体交渉な
いし争議行為を行ない、労働協約によつて一般的にこれを取り決め、あるいは、使
用者の組合員たる労働者に対する解雇その他の処分についてこれを団体交渉の対象
としたり、争議行為に訴えたり、労働委員会に救済を求める申立てをすることがで
きる。しかし、労働組合の組合員の雇用関係に対する管理処分権の及ぶ範囲は、そ
れをもつて限度とするのであつて、それ以上に個々の組合員の雇用関係を組合員の
意思に反して、存続させたり、消滅させたりする法律上の権限を有するものではな
い。
(二) 任意的訴訟担当
 原告組合の規約第一二条に、「組合は、組合員と国鉄当局との間の訴訟について
組合員の利益擁護のため、組合の名において国鉄当局に対しその組合員の権利を行
使することができる。」との規定があることは、当事者間に争いない。
 一般に、任意的訴訟担当がどの限度で許容されるかは、信託法第一一条の訴訟信
託の禁止ならびに民事訴訟法第七九条の弁護士代理の原則等の関係から問題があ
る。仮にそれが許容される場合があるとしても、それは少なくとも具体的な法律関
係について個々の組合員から個別的な訴訟遂行権の授権があることを要し、単に組
合規約に包括的な授権規定が掲げられているだけでは足りないものと解すべきであ
る。
 したがつて、前記規約の存在のみによつては、原告ら一二名から原告組合に対す
る適法な訴訟遂行権の授権があつたということにはならない。
(三) 確認の利益
 第三者間の法律関係の存否についても、確認の利益を有する限り、確認訴訟を提
起することができる。この場合確認の利益があるというためには、第三者間の法律
関係の存否が、確認を求める者の権利義務ないし、法律上の地位に影響を及ぼす場
合でなければならない。
 原告組合は、本件解雇が不当労働行為であると主張する。不当労働行為によつて
組合員が解雇されるときは、組合の団結が侵害され、したがつてまた組合がその解
雇の無効なることを宣言する判決を得ることは、団結の昂揚に役立つであろう。し
かし、この「団結の侵害」によつて被る組合の不利益および「団結の昂揚」によつ
て得る組合の利益は、いずれも事実上のものであつて、法律上のものではない。
 したがつて、組合は、組合員の雇用契約の存在確認を求める法律上の利益がな
い。
三 要約
 以上により原告組合は、本訴について当事者適格を欠くし、また確認の利益もな
いから、その訴えは、不適法として却下されるべきである。
第二 原告組合を除くその余の原告らの請求の当否
一 雇用関係の成立
 請求原因一記載の事実は当事者間に争いがない。したがつて、原告組合を除くそ
の余の原告らと被告との間には、いずれも昭和三六年三月以前から雇用関係が存在
していた。
二 本件解雇の意思表示
 本案の抗弁(一)記載の事実は、当事者間に争いがない。すなわち、原告組合を
除くその余の原告らは、いずれも昭和三六年三月二七日から同月二九日にかけて、
被告によつて解雇されたわけである。
三 公労法第一七条第一項および第一八条の解釈
(一) 公労法第一七条第一項は、憲法第二八条に違反するか。
1 公共企業体等の職員と憲法第二八条
 憲法第二八条は、いわゆる労働基本権、すなわち、勤労者の団結する権利および
団体交渉その他の団体行動をする権利を保障している。この労働基本権保障のねら
いは、中郵判決および都教組判決も指摘するように、憲法第二五条に定めるいわゆ
る生存権の保障を基本理念とし、勤労者に対して人間に値する生存を保障すべきも
のとする見地に立ち、一方で、憲法第二七条によつて勤労の権利および勤労条件を
保障するとともに、他方で、憲法第二八条によつて経済上劣位に立つ勤労者に対し
て実質的な自由と平等とを確保するための手段としてその団結権・団体交渉権・争
議権等を保障しようとするにある。
 そして、この労働基本権は、単に私企業の労働者に保障されるばかりでなく、公
共企業体等の職員はもとよりのこと、国家公務員や地方公務員も、憲法第二八条に
いう勤労者として、原則として、その保障を受けるべきものである。
 しかしながら、憲法が保障する労働基本権といえども、もとより絶対的無制約な
ものではありえず、そこには、労働基本権を保障する前述のような憲法の趣旨に照
らし、国民生活全体の利益との調和の見地からする合理的な制約があるものと解す
べきである。
 そして、このような見地に立つて考えれば、公共企業体等の職員の労働基本権に
ついては、ただ公共企業体等の職員であるという理由で、あるいは、公共企業体等
の職員の職務がごく一般的な比較論として私企業の労働者のそれと比較してより公
共性が強いという理由のみで、これを一律にすべて否定し、あるいは、制限するこ
とが許されないことは当然であるが、他方、公共企業体等の職員の職務の性質・内
容に応じて、私企業の労働者と異なる制限を受けることのありうることもまた否定
することができない。
 ただ、公共企業体等の職員の労働基本権に対し、具体的に、どのような制約が許
されるかについては、公共企業体等の職員にも労働基本権を保障している前述のよ
うな憲法の根本趣旨に照らし、慎重に決定する必要がある。そして、当裁判所とし
ては、右の判断に際しては、諸般の事情を考慮すべきであるが、ことに、中郵判決
の掲げる四条件、すなわち、①労働基本権が前述のように勤労者の生存権に直結
し、それを保障するための重要な手段である点を考慮して、その制限は合理性の認
められる必要最小限度のものにとどめられるべきこと、②労働基本権の制限は、勤
労者の提供する職務または業務の性質が公共性の強いものであり、したがつて、そ
の職務または業務の停廃が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をも
たらすおそれのあるものについて、これを避けるために必要やむをえない場合につ
いて考慮されるべきこと、③労働基本権の制限違反に伴う法律効果、すなわち、違
反者に対して課せられる不利益については、必要な限度をこえないように十分な配
慮がなされなければならないこと、④職務または業務の性質上から労働基本権を制
限することがやむをえない場合には、これに見合う代償措置が講ぜられなければな
らないこと、以上の四条件を基準として考慮すべきものと考える。
2 公労法第一七条第一項と憲法第二八条
(1) 公労法第一七条第一項の文理解釈
 公共企業体等の職員の争議行為を禁止する旨規定した公労法第一七条第一項が合
憲か違憲かも、右に述べたような基準に照らして判断しなければならない。
 ところが、右条項は、「職員及び組合は、公共企業体等に対して同盟罷業、怠
業、その他業務の正常な運営を阻害する一切の行為をすることができない。又職員
並びに組合の組合員及び役員は、このような禁止された行為を共謀し、そそのか
し、若しくはあおつてはならない。」と規定する。そして、この規定をその法文に
そくして解釈するかぎり、公共企業体等の職員の職務の公共性の強弱ならびにその
職務の停廃が国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあるかどうかにかかわりな
く、すべての公共企業等の職員の、しかも、いつさいの争議行為を禁止したものと
解さざるをえない。けだし、業務の正常な運営を阻害する行為とは、通常の企業運
営において正常に行なわれている業務に何らかの支障をきたすような行為を指すも
のと解すべきであるが、同盟罷業または怠業等の争議行為は、事柄の性質上本来的
に正常な企業運営業務に支障をきたす性質を帯有しているのであり、右規定は法文
上これらの行為をすべて禁止しているからである。
 そうとすれば、右規定は、前述の公共企業体等の職員の労働基本権を保障した憲
法の趣旨に反し、労働基本権の制限は必要やむをえない場合に、かつ、合理性の認
められる必要最小限度でのみ考慮されるべきであるとの要請を無視し、その限度を
こえて争議行為を禁止したものとして、違憲の疑いを免れない。
(2) いわゆる合理的限定解釈
 都教組判決は、地方公務員の争議行為を禁止する旨規定した地公法第三七条第一
項について、これをその法文にそくして解釈するかぎり違憲の疑いを免れないとし
ながら、法律の規定は可能なかぎり憲法の精神にそくし、これと調和しうるよう合
理的に解釈されるべきであり、この見地からすれば、右規定の表現にかかわらず、
禁止されるべき争議行為の種類や態様にはおのずから合理的な限界の存することが
承認されるはずであるとし、地方公務員の具体的な行為が禁止の対象たる争議行為
に該当するかどうかは、争議行為を禁止することによつて保護しようとする法益と
労働基本権を尊重し保障することによつて実現しようとする法益との比較較量によ
り、両者の要請を適切に調整する見地から判断する必要がある旨判示する。要する
に、地公法第三七条第一項は、右のいわゆる合理的な限定解釈が可能であるから、
これを違憲無効の規定であるということはできないというのである。
 公労法第一七条第一項についても、このいわゆる合理的な限定解釈を施せば、合
憲的に解する余地がないではない。すなわち、公共企業体等の職員の職務の公共性
にかんがみるときは、その職員の争議行為は公共性の強い公共企業体等の業務の停
廃をきたし、ひいては国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたら
すおそれがあるので、これを避けるための措置として、そのようなおそれのある争
議行為を禁止しようとする規定であると解するところに、かろうじて右規定の合憲
性を見いだすのである。
 しかし、公労法第一七条第一項は、前述のように、その文理上は、すべての公共
企業体等職員のいつさいの争議行為を禁止するという規定のしかたをしている。し
たがつて、右規定を国民生活に重大な障害をもたらすおそれを避けるため必要やむ
をえない場合に、しかも、合理性の認められる必要最小限度で公共企業体等職員の
争議行為を禁止したものと解すべきものとするならば、それは、あまりにも文理と
かけ離れた解釈にならないかという疑問がないではない。合理的解釈といつても、
あまりに文理とかけ離れた解釈は、法律解釈の限界を逸脱し、立法作用と同一の機
能を営むことになる。また、憲法の保障する基本的人権を、その内在的制約を理由
に、立法をもつて制限または一部禁止することは、きわめて重大な事柄であるか
ら、その制限または禁止の基準は、一般的・抽象的なものではなく、できるかぎり
客観的・具体的なものであることが望まれる。そうとすれば、前述の「国民生活に
重大な障害」とか「必要最小限度の禁止」という基準は、基本的人権の制限・禁止
の基準として妥当なものといいうるであろうか。公共企業体等の職員の職務は、一
般的にいえば、多かれ少なかれ公共性を有するとはいえ、その公共性の程度は強弱
さまざまであり、かつ、ひとしく公共企業体等の職員の争議行為といつても種々の
種類・態様のものがあるから、その争議行為の国民生活に及ぼす影響の程度は千差
万別である。それゆえ、前述の基準によつては、具体的に、いかなる職務の公共企
業体等職員の、いかなる種類・態様の争議行為が国民生活に重大な障害をもたらす
おそれがあるものとして禁止の対象とされ、いかなるものが禁止の対象外とされて
いるかを判別することは容易ではない。その結果、解釈者の主観によつて、結論を
異にするおそれがないではない。その判定は最終的には裁判所の判断をまつ以外に
方法がないが、労働者としての職員および使用者としての公共企業体等とも、行為
規範としての禁止された争議行為の基準の判断に迷い、行動をちゆうちよするか、
あるいは、もつぱら自己の有利にのみ解釈して行動するため、対立抗争を激化させ
るおそれがある。たとえば、職員の側ではこれを許されたものであるとして争議行
為を強行し、これに対し、使用者である公共企業体等の側では当該争議行為を公労
法第一七条第一項により禁止されたものであるとして争議に介入したり、これに参
加した職員を処分するなどの行為にでるという事態を招き、いたずらに労使関係を
紛糾させ、混乱させることとなりかねない。このように混乱と紛糾とをまきおこす
おそれのある抽象的基準しか設定しえない解釈が合理的な解釈といえるかという点
にも疑問がなくはない。
 以上のようにみてくると、いわゆる合理的な限定解釈によつて公労法第一七条第
一項の禁止する争議行為の種類・態様に合理的な限界を画することができるとする
見解には相当に問題があるといわなければならない。しかし一方、法令の憲法適合
性を判断するに当たつては、可能なかぎり憲法の精神にそくし、これと調和しうる
よう合理的に解釈すべきであるという原則が一般に承認されている。この命題を前
提とし、しかも公労法第一七条第一項は、国家公務員の争議行為を禁止した国家公
務員法第九八条第二項や地方公務員の争議行為を禁止した地公法第三七条第一項と
異なり、刑罰法規としての性質を有しているわけでもないことを合わせて考慮すれ
ば、前述のような疑問があることのみをもつて、公労法第一七条第一項についてい
わゆる合理的な限定解釈が許されないと断ずることは相当ではない。当裁判所とし
ては、いわゆる合理的限定解釈によつて公労法第一七条第一項を合憲的に解するこ
とには、前述のような疑問があることを一応認識しながらも、なおそれが法律解釈
としての限界を逸脱するものではないとの立場をとるものである。したがつて、右
規定は、公共性の強い職務に従事する公共企業体等職員の、国民生活全体の利益を
害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれのある争議行為に限つてこれを禁止
しようとする趣旨のものであると解し、順次以下の論理を展開する。
(二) 国鉄職員の争議行為は、公労法第一七条第一項によつて禁止されるか。
1 公労法第一七条第一項が禁止する争議行為の範囲
 さきに詳述したところから明らかなように、公共企業体等職員の争議行為の禁止
は、中郵判決の掲げる前記四条件を充足したものでなければならない。すなわち、
公労法第一七条第一項は、(イ)公共性の強い職務に従事する公共企業体等職員の
(右基準②の適用)、(ロ)国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害を
もたらすおそれがあり(右同)、(ハ)他の手段・方法等による制限ではそのおそ
れを避けることができない(右基準①の適用)争議行為に限つて、これを禁止した
ものと解すべきである。
2 国鉄職員の争議行為に関する立法の沿革
(1) 政令第二〇一号が制定されるまで
 昭和二三年七月三一日政令第二〇一号が制定施行されるまでは、昭和二〇年一二
月に制定された旧労組法および昭和二一年九月に制定された旧労調法が、民間労働
者はもとより、国家公務員や地方公務員にも適用され、警察官吏・消防職員・監獄
に勤務する者など一定の職員を除いて、民間労働者と同様に団結権・団体交渉権お
よび争議権を保障していた。そして、国鉄職員も、この当時、国家公務員たる身分
を有していたが、団結権・団体交渉権および争議権を制限されることなく、争議行
為も許されていた。
(2) 政令第二〇一号の制定と国公法の改正
 ところが、昭和二三年七月三一日に制定施行された政令第二〇一号は、現業・非
現業の区別なく国家公務員および地方公務員の争議行為を禁止した。そのため、国
鉄職員の争議行為も、一転して、禁止されることになつた。
 そして、この国家公務員の争議行為禁止の趣旨は、同年一二月三日法律第二二二
号による国公法の全面改正により、同法に盛り込まれた。
(3) 公労法の制定
 ついで、昭和二三年一二月二〇日に公布され昭和二四年六月一日から施行された
公労法(当時は公共企業体労働関係法と称した。)は、同時に施行された日本国有
鉄道法および日本専売公社法と相まつて、国鉄および日本専売公社の職員を国公法
の適用から除外し、その労働関係については公労法を適用することとしたが、政令
第二〇一号および国公法における争議行為禁止の趣旨はそのまま引き継がれた。た
だ、公労法においては、政令第二〇一号および国公法におけると異なり、争議行為
禁止違反に対する刑事制裁に関する規定を欠いている点が大きな変化であつた。
3 国鉄の業務と動力車乗務員等の職務
(1) 国鉄の業務
 国鉄は、国が国有鉄道事業特別会計をもつて経営している鉄道事業その他一切の
事業を経営し、能率的な運営により、これを発展せしめ、もつて公共の福祉を増進
することを目的とする公法上の法人である(国鉄法第一条、第二条)。国鉄の資本
金は全額政府の出資にかかり(同法第五条)、国鉄は運輸大臣の監督下におかれ
(同法第五二条)、その総裁は内閣が任命し(同法第一九条)、その予算は国の予
算の例によつて国会で議決され(同法第三九条の九)、その会計は、会計検査院が
検査する(同法第五〇条)。そして国鉄は、前記目的を達成するために、鉄道事
業、鉄道事業に関連する連絡船事業および自動車運送事業ならびにこれらの附帯事
業の経営業務等を行なうのである(同法第三条)。これによつてみれば、国鉄の業
務は、高度に公共性の強い業務であるといわなければならない。
 成立に争いない甲第一〇および第一二号証によれば、本件争議行為が行なわれた
昭和三六年三月一五日の属する昭和三五年度当時の国鉄の輸送の概況は、次のとお
りであることが認められる。すなわち、同年度末営業キロは、国鉄の鉄道において
は、二〇、四八一・九キロメートルであるのに対し、私鉄においては七、四二〇キ
ロメートルである。同年度の国鉄の国内旅客輸送に占める割合は、五一パーセント
であり、国鉄の国内貨物輸送に占める割合は、三八パーセントである。輸送人員
は、鉄道においては、五、一二三、九〇〇、〇〇〇人、船舶においては、一一、三
七七、〇〇〇人、自動車においては、二三九、二七〇、〇〇〇人であり、鉄道によ
る輸送トン数は、一九五、二九四、〇〇〇トンである。
 これによつてみれば、国鉄の輸送力は、わが国の輸送力の主要な部分を占めてい
ることが一目りよう然である。国鉄は、その大規模な輸送網により膨大な輸送を担
当していることによつて、全国すみずみに至るまで、全国民の生活に密着している
のである。
 国鉄業務の特徴として留意すべきは、その輸送量だけではなく、輸送の種類であ
る。国鉄の鉄道輸送が特に長距離輸送において、私鉄とは隔絶した威力を発揮し、
ほとんど長距離輸送を独占していることは、公知の事実である。国民が遠距離を旅
行するとき、また貨物が生産地から消費地に大量に輸送されるときなどは、庶民ま
たは一般の経済人に対し最良の輸送手段を提供するものは国鉄である。国鉄は、長
距離輸送において、全国民に最も便利なサービスを提供しており、これに代わるこ
とのできる適当な機関はない。私鉄輸送は、おおむね通勤電車用の短距離輸送を業
務内容とし、しかも大都市とその周辺に偏在しているから、国鉄の全国的規模にわ
たる長距離輸送の代替物としての役割を果たせない。
 以上の諸事情を総合して考えれば、国鉄の輸送業務は、社会経済および国民生活
にとつて、大動脈にも比肩すべき役割を果たしているといつても過言ではない。国
鉄の輸送業務の興廃は、国民生活や社会経済事情に重大な影響を及ぼすことは明白
である。国鉄の業務が停廃するときは、その種類・規模・態様のいかんによつて
は、国民生活に重大な支障をきたし、それに深刻な打撃を与えることを承認しなけ
ればならない。ここに一言にして国民生活というが、その内包するところは、広範
にして無限に近い。生命や健康を維持する最小限の必需品も、卑近な日常生活の必
要品も、娯楽や果ては高度の教育文化の領域においても、国鉄の輸送力に依存して
いないものは考えられない。したがつて、国鉄の業務の停廃は、健康にして文化的
な生活はおろか、最低の国民生活をも崩壊されるおそれすらある。そうすると、国
鉄業務は、公労法第一七条第一項の規定する争議行為禁止規定の積極的要件である
公共性が強く、国民生活に密接に関連する業務であるといわなければならない。
(2) 動力車乗務員等の職務
 国鉄のような膨大な企業は、その運営において多種多様な職権を包含するから、
国鉄職員の担当する職務もまた千差万別である。国鉄の基幹業務たる輸送業務に直
接従事する者もあれば、また間接的な附帯業務に従事する者もある。その従事する
職務のいかんによつて、その職務の停廃が国鉄の輸送業務に及ぼす影響に差を生ず
るわけである。換言すれば、国鉄職員の担当職務も、その公共性は一様ではなく、
輸送という国鉄本来の業務に密着する職務であるがために公共性の強いものと、附
帯業務であるがために公共性の比較的弱いものとがある。その公共性の度合いは、
輸送業務との関連の程度に比例する。
 成立に争いない甲第二〇号証によれば、原告組合の組合員の主流は、現に国鉄の
職員および準職員で機関車、電車、気動車、ならびにその他動力車に関係ある職務
に従事する者および右職務に従事する臨時顧用員であること、これらの者は、主と
して乗務員(機関士および同見習等)、検修(車両検修掛)、整備(信号掛、構内
掛等)および検査(車両検査掛等)等に従事していることが認められる。
 そうすると、原告組合の組合員は、国鉄の輸送業務を直接担当する者であるか
ら、その担当職務は、きわめて公共性の強いものといわなければならない。特に原
告組合の主流を占める動力車乗務員は、動力車の運転という国鉄業務の中枢をつか
さどるものであるから、その担当職務は最も公共性が強いというべきである。
4 原告組合の組合員たる職員に対する争議行為制限の合理性と基準
(1) 制限の合理性
 以上みてきたところにより明らかなように、国鉄の基幹業務である旅客および貨
物輸送業務は、公共性の強い業務であり、しかも動力車乗務員を主力とする原告組
合の組合員は、直接輸送業務に従事するが故に、その担当する職務はきわめて公共
性が強い。したがつて、原告組合の組合員が争議行為を行ない、その職務を放棄す
るときは、多かれ少なかれ、国鉄の輸送業務に直接支障を及ぼすわけである。争議
行為の種類・規模・態様のいかんによつては、国民生活全体の利益を害し、国民生
活に重大な障害をもたらすことのあるのを否定できない。例えば、原告組合員の争
議行為が長時間かつ大規模な職場放棄の形式でなされるような場合は、輸送業務の
停廃はその極に達し、社会経済に深刻な打撃を与え、国民生活に言い知れぬ混乱を
惹起するであろう。特に動力車乗務員のように高度の技術と知識とを必要とする職
種においては、余人をもつてこれに代替することができないから、なおさらであ
る。したがつて、この種の争議行為は、公労法第一七条第一項前段にいう業務の正
常な運営を阻害する行為として、禁止されるものと解すべきである。
 これに反し、原告組合員の争議行為であつても、短時間かつ小規模に、たんなる
労務提供拒否という形式をもつてなされるような場合は、国民生活全体の利益を害
し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあるものとは考えられないから、右
規定に該当する争議行為ではない。前記立法の沿革に徴しても、従来無制限であつ
た国鉄職員の争議行為を全面的に一律に禁止することを首肯させるほどの立法事実
は存在しなかつたし、公共企業体等職員の争議行為禁止は、次第に緩和の方向に向
つているのであるから公労法第一七条第一項前段の規定にもかかわらず、国鉄職員
にも許された争議行為の存在することを卒直に肯定すべきなのである。
(2) 制限の基準
 公労法第一七条第一項前段によつて禁止される国鉄職員、なかんずく動力車乗務
員の争議行為は、(イ)国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもた
らすおそれがあり、(ロ)他の手段・方法等による制限によつては、そのおそれを
避けることのできないものに限られるのである。
 しかし、裁判所が法律の合憲的解釈を試みる場合は、抽象的な基準の設定に満足
すべきではない。それでは、法的安定に役立つ国民の行動規範は、なんら発見され
ないからである。抽象的な法の解釈によつて、一般条項的な基準を設け、これを直
接に事実に適用して結論を導き出すことは、説得力のある論法ではない。ところ
で、国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれという概
念は、きわめて抽象的なものであるから、これを国鉄職員の争議行為の評価の基準
として、具体的事件に直接適用することは妥当ではない。けだし、国鉄職員の争議
行為によつて惹起される国民生活への影響は、その波及する範囲が広大であるか
ら、その終局的結果まで追及して、どの程度の障害が生じたかを測定することは、
ほとんど不可能に近い。すなわち、争議行為に起因する障害の程度を即時量的に算
定することは、まず絶望視しなければならないからである。
 当裁判所は、国鉄職員の争議行為で、国民生活に重大な障害をもたらすものの基
準は、次のとおり解すべきものと考える。
 列車の運行は、その性質上定時運行が厳格に要求される。列車の遅延は、スピー
ドアツプという危険を伴うことなしには挽回不能であるから、ある一地点において
争議行為によつて列車の運行が遅延することは、抗弁を許さない国鉄業務に対する
決定的な障害事由として、は握しなければならない。また多数の列車が同一線路上
を所定のダイヤに従い、一定の時間的間隔をもつて、しかも間断なく進行するのが
例である。いわゆる過密ダイヤにおいて、特にそうである。したがつて、一列車の
遅延または運転休止は、ただその列車の延着または運休という結果を招来するに止
まらず、後発列車の延発や後続列車の遅延または運休を招くことは必然である。接
続列車に対する悪影響も、同様に否定できない。すなわち、一列車の遅延または運
休は、その列車の乗客に迷惑を及ぼし、またはその積載貨物の延着をきたすだけで
はなく、連鎖的に他の列車の旅客の迷惑または貨物の利用に対する支障をもたらす
ことは自然の勢いである。国民生活への障害の程度を考慮するにあたつては、以上
のことを十分しんしやくすべきである。それだからといつて、短時間内の少数の列
車の遅延または運休をとらえて、国民生活に重大な障害をもたらすというのは相当
ではない。
 まず、争議行為として最も普通になされる労務提供拒否(同盟罷業)および労務
の能率低下(怠業)について考える。それを規模の面からみれば、長時間、相当広
範な地域にわたる争議行為であり、それを態様の面からみれば、列車、特に私鉄の
輸送等によつて代替不可能な長距離列車等の運行を阻害するおそれのある争議行為
がこれに当たるものと解するのが相当である。
(ⅰ) 多数の列車の運行を阻害し、または多数の乗客に迷惑を及ぼす行為
 禁止される争議行為の第一の要件は、相当の時間にわたる争議行為で、多数の列
車の運行が遅延し、または運休するおそれのあるものである。国鉄の列車を利用す
る乗客は、定時に目的地に到着することを予定して行動しているから、列車の遅延
または運休によつてこの予定が狂うときは、その計画的な生活に計り知れない障害
を及ぼすのである。貨物の場合も、利用者にとつてその理は異ならない。しかも、
これによつて一旦失われた時間の損失は、決して回復することができないのであ
る。遅延または運休の列車の数が増加し、予定の行動を阻害された乗客が多数生
じ、また大量の貨物が予定の時刻に目的地に到着しないときは、それはすなわち国
民生活全体に重大な障害をもたらすものといわなければならない。
 またそれ程の長時間にわたらない争議行為であつても、それが全国的規模におい
て多数の列車の正常な運行を阻害するおそれがある場合は、結局多数の乗客に迷惑
を及ぼし、大量の貨物の定時流通を阻害するものであるから、国民生活全体に重大
な障害をもたらす争議行為といわなければならない。
(ⅱ) 長距離列車の運行を阻害する行為
 禁止される争議行為の第二の要件は、長距離列車の運行を阻止するような争議行
為である。国鉄も私鉄も、旅客または貨物の輸送を目的とする点においては、その
業務が共通し、等しく公共性を有する。それなのに、国鉄の職員に対しては争議行
為が禁止され、他方私鉄の職員については、一定の要件のもとに争議行為が制限ま
たは限定的に禁止される場合があるに過ぎない(労調法第三七条、第三八条)。こ
の差違は、国鉄業務の公共性を強調するだけでは、説明がつかないが、等しく公共
性のある企業についても、どの企業について争議行為を禁止または制限し、どの企
業についてこれを解放するかは、立法政策の問題である。一方を禁止し、他方を放
任したとしても、その禁止規定がすなわち憲法違反のものとはならない。それはと
も角として、私鉄業務と国鉄業務との最大の差は、先にも述べたとおり、私鉄の業
務がおおむね一地域の短距離輸送業務に限られるのに対し、国鉄は全国的規模の長
距離輸送業務をもつかさどるところにある。国鉄の輸送業務は全国津津浦浦に及
び、特に長距離鉄道輸送業務は国鉄の独占事業ともいうべき観を呈する。私鉄路線
と国鉄路線との競合する地域においては、国鉄の輸送業務が停滞しても、私鉄の輸
送力が消化できる限度においては、国民の受ける迷惑は軽減する。しかし、長距離
輸送においては、国鉄の輸送を私鉄の輸送力をもつて代替することは不可能である
から、この種の国鉄業務の停廃は、絶対的に公衆の日常生活を危くし、国民経済全
体を著しく阻害することは見やすい道理である。この現実を直視するならば、国鉄
の主要幹線を進行する長距離列車の正常な運行を著しく阻害するようなおそれをも
たらす争議行為は、国民生活に重大な障害を及ぼすものとして禁止されるものと解
すべきである。
(ⅲ) 積極的に列車の運行を妨害する行為
 次に同盟罷業および怠業以外であつて、公労法第一七条第一項の禁止する業務の
正常な運行を阻害する行為として、禁止される行為は、暴力または威力を用いるな
どして、積極的に列車の正常な運行を妨害する行為である。正常な争議行為として
の評価に値しない業務妨害行為がこれに該当する。手段において違法な争議行為ま
たは争議行為に際してなされる暴力行為等が顕著な例である。労働者の争議権を保
障する憲法第二八条も、暴力または威力を伴うような積極的な業務妨害行為を保障
するものではないから、これらの行為が公労法第一七条第一項前段によつて禁止さ
れると解しても、同条の違憲性は問題とはならない。暴力や威力の行使は、争議行
為に際しても、絶対的に禁止されるべきものであつて、目的の正当性は、手段また
は方法の適法性を理由づけるものではない。
 ただこの面から右規定を適用するについては、何が積極的な業務妨害行為である
かという評価において慎重でなければならない。もつとも、列車の運行阻止という
ような業務妨害行為においては、単にその列車の運行妨害のみならず、それによつ
てもたらされるダイヤの混乱、乗客の焦燥や怒り、列車乗務員の心理的動揺等とい
う悪影響を顧慮する必要がある。それは、時には人命の危機と貨物の安危にもつな
がる重大事であつて、一般企業の業務妨害とは比べものにならない程の悪質なもの
であることを銘記しなければならない。
(ⅳ) 要約
 結局公労法第一七条第一項によつて禁止される国鉄職員の争議行為とは、同盟罷
業または怠業であつても、相当な時間大規模に行なわれるものであつて、特に主要
幹線の列車の運行を著しく阻害するもの、または暴力その他不当性を伴なう業務妨
害行為を指すものと解するのが相当である。
 5 公労法第一七条第一項後段の意義
 右規定にいう「共謀」とは、複数の者が同項前段に規定する違法行為を行なうた
め、共同意思のもとに、一体となつて互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実
行に移すことを内容とする謀議をすることであり、「そそのかし」とは、同項前段
に規定する違法行為を実行させる目的をもつて、他人に対し、その行為を実行する
決意を新たに生じさせるに足りる慫慂行為をすることであり、また「あおり」と
は、右と同様な目的をもつて、他人に対し、その行為を実行する決意を生じさせる
ような、あるいはすでに生じている決意を助長させるような勢いのある刺激を与え
ることであると解するのが相当である(最高判昭和四四年四月二日刑集二三巻五号
六八五頁参照)。そして、「あおり」または「そそのかし」は、文書または言葉に
よつてなされるだけではなく、ある種の動作によつてなされることもある。
 その行為の結果からみれば、「あおり」または「そそのかし」によつて、相手方
が実際に違法行為を実行する決意を生じたか、またはすでに生じている決意が助長
されたか、その決意に基づいて違法行為が実行されたかどうかは問わないのであ
る。
 公労法第一七条第一項は、公共企業体等の労働組合によつてなされる争議行為を
禁止する目的をもつて設けられた規定である。公共企業体等の労働組合のような規
模の大きい労働組合によつてなされる争議行為は、中央の最高機関を組織する組合
幹部の計画・発議・決定・指導により統一的に実行されることが多い。争議行為に
より現実に公共企業体等の業務の正常な運営を阻害する者は、第一線の組合員であ
るが、それを企画指導する者は組合幹部である。違法争議行為の禁止を実効あらし
めるためには、第一線の組合員の実行行為を禁止するだけでは十分でなく、その根
源にある企画・指導をも、いなむしろ後者の方を禁止する必要がある。この争議行
為の企画・指導は、組合活動としては、争議行為の共謀、あおり、そそのかしの形
態をとつて現われるのが通常であるから、公労法第一七条第一項後段は、違法争議
行為の共謀、あおり、そそのかしをその実行行為と同列において禁止し、同法第一
八条をもつて、これらの行為すべてを等しく解雇事由とした。そうすると、「あお
り」または「そそのかし」とは、その対象たる争議行為が同法第一七条第一項前段
に違反する争議行為である限り、争議行為に通常随伴する態様のものであるかどう
かを問わないし、また「あおり」または「そそのかし」行為そのものの違法性の強
弱は問題とならないのである。「あおり」または「そそのかし」行為の方法はどう
であつても、いやしくも違法争議行為の実行を指令し、慫慂し、説得する等の行為
は、すべて右規定にいう「あおり」または「そそのかし」に該当するものといわな
ければならない。争議行為に通常随伴するものと認められるあおり行為等を右規定
にいうあおり行為等から除外するときは、右規定は、ほとんど実効のない空文と化
するからである。
(三) 公労法第一八条は、憲法第二八条に違反するか。
 公労法第一八条は、「前条の規定に違反する争議行為をした職員は、解雇される
ものとする。」と規定し、さきに述べたような同法第一七条第一項の争議行為禁止
規定に違反して争議行為を行なつた公共企業体等の職員に対し解雇という不利益処
分を課している。そして、同法第一八条が前記のような違法行為をした職員を一律
に必ず解雇すべきである旨を規定したものと解すべきであるとするならば、それ
は、争議行為禁止違反に対して課せられる不利益は必要な限度をこえないよう十分
な配慮がなされなければならないとの基準に照らし、違憲の疑いを免れないであろ
う。しかし、右規定は、そのような一律的な解雇の必要を規定したものではなく、
解雇するかどうかは職員のした違法行為の態様・程度等に応じ合理的な裁量に基づ
いて決すべきものとする趣旨に解するのが相当であるから、右規定自体を直ちに憲
法第二八条に違反するものと断ずることはできない。
 四 本件争議行為の実状
(一) 本件争議行為への突入まで
1 原告組合の組織
 前記甲第二〇号証、原告組合代表者P15尋問の結果および弁論の全趣旨によれ
ば、次の事実が認められる。
(1) 平常時の組織
 原告組合は、被告の職員中動力車に関係のあるもので組織する法人格を有する労
働組合であり(このことは、当事者間に争いがない。)、組合員の労働条件の維
持・改善をはかり、経済的・社会的地位を向上させ、運輸産業を通じて民主的国家
経済の興隆に寄与することを目的とするものである。
 組織として、(イ)中央に中央執行委員会によつて構成される中央本部があるほ
か、(ロ)各鉄道管理局またはこれに準ずる範囲ごとに設けられる地方本部、
(ハ)機関区・気動車区・運転所・運転区およびその他動力車に関係ある業務機関
ごとに設けられる支部、(ニ)支社相当地域ごとにいくつかの地方本部を包括し、
その地域における被告の対応機関との団体交渉の単位として、また、地方本部間の
統制および連絡調整を行なう協議機関として設けられる地方評議会等がある。
 その議決機関は、最高のものとして大会があり、これにつぐものとして中央委員
会がある。さらに、地方本部には地方本部大会とこれにつぐ地方本部委員会とが、
支部には支部大会とこれにつぐ支部委員会とがある。
 執行機関としては、中央本部に中央執行委員会が、また、地方本部および支部に
それぞれ地方本部執行委員会および支部執行委員会がある。
 中央執行委員会は、中央執行委員長・同副委員長および書記長各一名と中央執行
委員若干名とで構成され、大会または中央委員会の決議を執行するほか、緊急事項
を処理すること、大会または中央委員会の決議の範囲内で組合員に指令すること、
原告組合の要求に関するいつさいの交渉を行ない、協定に達したときには中央執行
委員長名でこれに調印すること、重大な斗争に関する議案を提出する必要があると
きに大会または中央委員会を臨時に招集すること等の権限を有する。中央執行委員
長は、原告組合を代表するとともに、業務を統括し、同副委員長は、中央執行委員
長を助け、または、これを代理し、書記長は、中央執行委員長を助け、業務を掌
り、中央執行委員は、各部局に所属して業務を掌る。地方本部執行委員会および支
部執行委員会の構成・権限ならびに役員の任務等も右に準ずるものである。
(2) 斗争時の組織
 紛争を生じて不測の事態が予測されるときは、大会または中央委員会の決議によ
り、その都度中央斗争委員会が設けられ、斗争期間中中央執行委員会の斗争に関す
る権限が委譲される。
 中央斗争委員会は、中央斗争委員長一名、同副委員長二名、中央斗争委員および
中央斗争委員会書記各若干名で構成され、大会または中央委員会の重大な斗争に関
する決議を執行し、斗争に関するいつさいの交渉を行ない、協定に達したときは中
央斗争委員長名でこれに調印する。また、中央斗争委員会は、大会または中央委員
会の決議の範囲内で斗争手段を決定し、中央斗争委員長がこれを直接組合員に対し
指令し、右指令を受けた組合員はこれを忠実に履行する義務を負う。
 なお、右斗争指令は、具体的には各地方本部および各支部を順次経由してその所
属組合員に伝達されるが、各地方本部および各支部はその斗争指令に変更を加えた
り、これを返上したりすることは許されない。中央斗争委員長には中央執行委員長
が、中央斗争副委員長には中央斗争委員の互選したものが、中央斗争委員には中央
執行副委員長・書記長・中央執行委員等が、中央斗争委員会書記には中央委員会の
決議により中央斗争委員長の指名したものがそれぞれ当たり、中央斗争委員長は、
中央斗争委員会を代表し、同副委員長は、中央斗争委員長を助け、または、これを
代理し、中央斗争委員は、斗争に関する事務を掌り、中央斗争委員会書記は、中央
斗争委員会の指示により斗争に関する事務に従事する。
 中央斗争委員会は、その業務を遂行するため、企画統制部・共闘部・宣伝部およ
び財政部を設けて(ただし、必要に応じて、このほかの部を設け、あるいは、省略
することがある。)、業務を分担する。このうち、企画統制部は、斗争手段の計画
および実行、指令の立案、現地指導ならびに暗号・統制に関することを任務とす
る。そして、現地指導のために中央斗争委員会から現地に派遣される中央斗争委員
を一般に派遣中斗といい、これに対し、中央本部にとどまつている中央斗争委員を
残留中斗と呼びならわしている。この派遣中斗は、派遣先の斗争拠点において当該
斗争遂行上の最高責任者となり、右拠点のある地方本部あるいは支部はその指揮下
に入るので、右地方本部あるいは支部の委員長といえども派遣中斗の指令を変更し
たり、あるいは、独自に指令を発する権限を有しなくなるのであるが、他方、派遣
中斗も、あくまでも大会・中央委員会および中央斗争委員会の決定の範囲内でこれ
を忠実に履行することが要求され、緊急時にも独断専行は許されず、判断に迷うよ
うな事態が発生した場合には残留中斗に相談し、その指示を仰いでから具体的行動
に出るべきものとされている。共闘部は他の団体との共斗・連絡および要請に関す
ることを、交渉部は要求事項に関する調査および交渉に関することを、宣伝部は斗
争目的を徹底するための内外の宣伝に関することを、財政部は食糧・資材・宿泊な
ど斗争財政全般に関することをそれぞれ任務とする。
 このほか、地方本部においても、斗争時には右に準じて地方本部斗争委員会が設
けられる。
2 本件争議行為に至る経緯
 証人P16の証言により成立を認める甲第二二号証、甲第二三号証の一、二、甲第
二四号証、甲第二六号証、弁論の全趣旨により成立を認める甲第二五号証の一、
二、成立に争いのない乙第五四、第五五号証の各一ないし三、証人P16、同P17、
同P18の各証言、原告組合代表者P15尋問の結果ならびに弁論の全趣旨を総合すれ
ば、次の事実を認めることができる。
 (1) 事前協議制確立の問題について
(ⅰ) 国鉄近代化五か年計画の実施
 被告は、総額五、九七〇億円をもつて、昭和三二年度から国鉄近代化五か年計画
を実施した。その主要目標は、①老朽化諸設備の取替えと改善、②輸送力の増強、
③輸送の近代化であつたが、そのなかでも中心をなすものは輸送力の増強であり、
その具体的方法としては動力車の近代化(蒸気機関車から電気機関車・電車・気動
車へ)に重点がおかれた。
 この第一次五か年計画は、昭和三五年に入ると、当初計画の見とおしの誤りから
計画された輸送力の増強では輸送の需要の伸びに応ずることができなくなつたこと
および資金的な行詰り等の理由からこれを修正せざるをえない状況となり、被告
は、新たに国鉄近代化新五か年計画を樹立し、これを昭和三六年度から実施に移す
こととした。この新五か年計画の主要目標は、主要幹線の複線化・輸送力の増強・
輸送方式の近代化をはかるとともに、あわせて経営の合理化を推進するということ
であつた。
(ⅱ) 五か年計画に対する原告組合の態度
 原告組合は、五か年計画が組合員の労働条件に影響を及ぼすものであること、例
えば、①動力車の近代化により、従来の職種のうちに不要の職種を生じ、それに伴
い配置転換が必要となること、②乗務員の近代動力車乗務員への転換教育が必要と
なること、③動力車の近代化は必然的に列車のスピードアツプロングラン化をもた
らし、それは、一方において信号の自動化・踏切りの自動化等ともあいまつて乗務
員の労働密度を増大させるとともに、他方において途中検査修繕の廃止・機関区の
統合廃止による職員の配置転換を招来すること等を理由として、被告が近代化五か
年計画を実施するに当つては計画の段階でこれを原告組合に提示し、労使双方で協
議を行ない、協議がととのつてからこれを実施に移すべきであるとの基本的態度の
もとに、昭和三三年八月二九日、被告に対し、①五か年計画は原告組合と協議を行
なつたのちに実施すること、②転換教育について労働条件を確立すること、③配置
転換は本人の事前了解を必要とすること、④勤務時間を短縮すること、⑤職場の統
合廃止等は行なわないこと等を内容とする申入れをし、これについて団体交渉を行
なつた。
(ⅲ) 「基本了時事項」の締結
 右団体交渉において、被告は、当初、管理運営事項であることを理由として五か
年計画について事前協議を行なうことを全面的に拒否する態度をとり、交渉は難航
したが、ようやく昭和三三年一二月九日に次のような内容の「国鉄近代化計画実施
についての基本了解事項」が締結されるに至つた。
 「日本国有鉄道(以下「甲」という。)と日本国有鉄道機関車労働組合(以下
「乙」という。)とは、国鉄近代化の実施について次のように了解する。
(一) 近代化計画については、可及的速かにその内容を提示し、協議をおこな
う。この協議は、相互の完全な理解を目的とするためのものである。
(二) 前項の対象となる事項は、次の各項とする。
(イ) 近代化計画及びこれに伴う要員計画
(ロ) 職務転換に必要な教育に関する事項
(ハ) 現業機関の改廃に関する事項
(三) 甲及び乙は、協議の過程において公労法第八条各項〔団体交渉の範囲〕に
該当するものについては、あらためて団体交渉により協定を締結する。
(四) 甲の支社又は鉄道管理局においても乙の対応機関との間に本了解と同様の
精神をもつて協議する。」
(ⅳ) いわゆる九・二二斗争と「覚書」の締結
 右「基本了解事項」の中心をなすものは、その第一項の「近代化計画について
は、可及的速かにその内容を提示し、協議をおこなう。この協議は、相互の完全な
理解を目的とするためのものである。」とある部分であつた。
 しかし、右「基本了解事項」締結後の近代化計画実施に当たつての各地における
被告側の態度は、原告組合側からみれば、あるいは計画立案過程のなかで説明する
のではなく完全な実施段階に至つてはじめてこれを提案し、あるいは原告組合の計
画変更要求に対して当局案を固執して譲らないなどといつた具合に、「基本了解事
項」の精神を踏みにじるものとしかとれないものであつたため、「基本了解事項」
締結後も近代化計画実施をめぐつての労使の対立を解消するには至らず、各地で依
然として紛争状態が続いた。
 そこで、原告組合は、昭和三四年七月に開催された第九回全国大会において、
「基本了解事項」が締結されたなかで被告がなおも右のような態度をとりつづけ、
これによつてすでに現実に国鉄労働者の労働が強化され、要員が削減され、労働条
件の低下と生活不安と焦燥とがおこつている以上、被告の猛省を促し、労働者の犠
牲を排除する必要があるとしてあわせて当時さらに懸案となつていた後述の乗務員
の乗務粁制限問題等についての原告組合の要求貫徹をも目標に掲げて、同年九月二
二日の乗務員の一〇割休暇斗争を最大の頂点とする実力行使(以下、これを「九・
二二斗争」という。)を行なうことを計画し、これを背景として被告に対し団体交
渉を申し入れた。
 そして、この団体交渉の結果、同月二〇日、つぎのような内容の「『国鉄近代化
計画実施についての基本了解事項』の実施に関する覚書」(以下「覚書」とい
う。)等が締結された。
「1 対象事項の乙に対する内容提示については、計画中のものも含めて協議す
る。
2 協議の結論は、文書により確認の手続をとる。
3 実施に当つて、労働条件に関する事項については、慎重にとり扱い両者の了解
を図ることを原則とする。
4 協議を円滑に行うため、毎月一回以上中央、地方を通じ甲、乙の協議を行
う。」
(ⅴ) 「覚書」締結後の状況
 昭和三五年に入るとさきに述べたように被告が第一次五か年計画を修正して第二
次五か年計画を設定しなければならない事態に陥つたことなどから、近代化・合理
化をめぐり、各地での労使の対立はふたたび激化していつた。ことに、原告組合側
からみて被告側に中央での協定を無視する態度がみられたこと、また、同年五月に
入ると、原告組合からさきにダイヤ作成基準について申入れをし交渉を継続中であ
つたにもかかわらず、被告が同年六月(北海道は七月)から一方的にダイヤ改正を
行ない、労働条件に密接に関係するロングランや運転時分の短縮などを行なおうと
していることが明らかになつたことなどから、原告組合は、地方評議会単位に拠点
斗争を組織し、ロングラン阻止などを目的としてたたかうことを決定した。そし
て、その結果、札幌地方本部・盛岡地方本部・天王寺地方本部(以下地方本部を地
本と略称することがある。)などにおいて、なかには一〇割休暇斗争などを含む実
力行使が展開されていつた。
(2) 乗務粁制限問題について
(ⅰ) 内達一号とそのもとにおける乗務員の労働条件
 国鉄乗務員の勤務時間は、昭和二四年五月以来被告の発した内達一号によつて規
制されていた。すなわち、乗務員の勤務時間には実乗務時間・便乗時間・準備時
間・徒歩時間・待合せ時間等があるが、内達一号は、これらを一定の割合によつて
換算し、一日の平均換算時間の基準を蒸気機関車と気動車の乗務員および電車運転
士については五時間三〇分、電気機関車と暖房車の乗務員については五時間四五分
と定めていた。
 この内達一号が制定された当時は蒸気機関車が動力車の主力を占めていたが、そ
の後電化等による動力車の近代化が進むなかで、列車は次第にスピードアツプさ
れ、ロングラン化され、この傾向は、昭和三二年度から始まつた国鉄近代化計画の
実施によつていつそう急速化していつた。
 そして、この列車のスピードアツプは、必然的に、乗務員の勤務時間内における
乗務粁を増大させ、それは、また、一定時間内に安全を確認すべき信号・踏切り等
の増加を伴い、乗務員の労働密度の強化となつてあらわれた。
(ⅱ) 内達一号に対する原告組合の態度
 原告組合は、昭和二六年五月の発足当初から、国鉄乗務員の労働条件を決定する
うえでもつとも基本的な要因は列車の速度であるとの見解のもとに、勤務時間と乗
務粁の二面から規制を加えるべきであると主張したが、被告側のいれるところとな
らなかつた。
 その後前述の動力車の近代化が次第にすすみ、それが乗務員の労働強化となつて
あらわれてきたことから、原告組合は、昭和三〇年一二月、被告に対し、乗務員の
一日当たりの乗務粁制限等を交渉事項とする団体交渉を申し入れ、交渉を繰り返し
たが、なんら結論をうるに至らず、結局、昭和三四年三月、乗務粁制限等四項目を
今後の交渉目標として確認するにとどまつた。
 そこで、原告組合は、同年四月一日、被告に対し、あらためて、乗務粁制限につ
いて列車種別一基準日当り乗務粁と一継続乗務粁の最高を制限することなどを内容
とする具体的提案とともに団体交渉を申し入れ、これに基づいて団体交渉が行なわ
れたが、被告がこれでは乗務員の運用ができなくなるとして原告組合の要求を拒否
するなど、交渉に進展はみられなかつた。そして、その間にも近代化計画によるス
ピードアツプ・ロングラン化はいつそう増大していく一方であつたため、原告組合
は、前述のように、同年七月の第九回全国大会において、前記事前協議制確立問題
にあわせ、乗務粁制限問題をも目標の一つに掲げて、九・二二斗争を組織すること
を決定し、これを背景として団体交渉にのぞんだ。その結果、同年九月二〇日、事
前協議制確立問題については前述の「覚書」が締結され、乗務粁制限問題について
はつぎのような内容の「昭和三四年九月における動力車乗務員の労働条件に関する
諸懸案事項に関する協定」が締結された。
「(一) 動力車乗務員に関し、動力車近代化に即応するよう勤務時間、乗務粁、
給与等の労働条件について総合的な労働協約を締結するため、現行内達一号の検討
を含めて今後協議する。
(二) 乗務粁制限については、引続き協議する。(以下省略)」
 この協定締結によつて乗務粁制限を初めとする乗務員の労働条件についての協議
はようやく一歩進展するかに見え、被告は、翌昭和三五年一月末、乗務粁制限につ
いて当局側の案を提示してきた。しかし、当局案の内容は、原告組合の要求と大き
な隔たりがあり、双方の主張は根本的に対立し、交渉の早期妥結は困難であつた。
これに加えて、その間にも、各地方において、新動力車の投入により逐次ダイヤ改
正が行なわれ、そのたびごとに乗務粁が延長される問題が発生し、各所に労使の紛
争がひん発した。
(3) 本件争議行為の企画・決定について(主として原告P1、同P2および同P
3関係)
(ⅰ) 第一〇回全国大会の開催
 原告組合は、右(ⅰ)、(ⅱ)において述べてきたような状況のなかで、昭和三
五年六月二五日、第一〇回全国大会を開催し、そこにおいて、国鉄近代化計画につ
いて、これまで「基本了解事項」あるいは「覚書」等により逐次組合の要求を前進
させてきたが、当局側はなお一方的強行の態度を変えておらず、これをこのまま放
置すれば必然的に動力車乗務員の労働条件の悪化は免れず、ひいては安全輸送の確
保もおぼつかなくなるとの認識のもとに、被告に完全な事前協議協定等の締結に応
じさせるため、強力な全国斗争を組織し、昭和三六年の春斗の段階までに決着をつ
けることなどを決定した。
(ⅱ) 第三四回中央委員会の決定
 原告組合は、昭和三六年一月九日から福島県常磐市において第三四回中央委員会
を開き(この事実は当事者間に争いがない。)、原告P1、同P2および同P3も中央
執行委員としてこれに出席のうえ、そこにおいて、第一〇回全国大会の前記決定の
趣旨をうけて、国鉄近代化計画に関する事前協議制の確立ならびに乗務員の乗務粁
制限を斗争の主要目標として、同年三月一五日に実力行使を行なうこと、この斗争
のために中央斗争委員会を発足させること、右斗争の具体的な戦術等については中
央斗争委員会が全国組織部長会議の意見を聞いて最終的に決めることなどを決定し
た。
(4) 中央における斗争体制の確立について
(ⅰ) 中央斗争委員会の発足
 原告組合は、前記中央委員会の決定に基づき、昭和三六年二月一日中央斗争委員
会を発足させ、同日付本部斗争指令第一号をもつて、中央斗争委員会の構成と役割
分担を発表するとともに、各地方本部においても地方本部委員会終了後直ちに執行
体制を斗争体制に切り替え、斗争委員会を発足させるよう指令した。
 なお、右指令によれば、中央斗争委員会は、中央斗争委員長にはP13中央執行委
員長が、中央斗争副委員長にはP14中央執行副委員長およびP20書記長が、中央斗
争委員には書記次長・原告P1、同P2および同P3を含む中央執行委員全員および分
科会専従者全員それぞれが就任し、その総勢は二八名であつた。
(ⅱ) 全国組織部長会議の開催
 中央斗争委員会は、本件斗争の戦術等について意思統一をはかるため、同年三月
六日、東京において、全国から各地方評議会および地方本部の代表者約五〇名を集
め、中央斗争委員長以下原告P1、同P2および同P3も出席のもとに、全国組織部長
会議を開催した。右会議においては、中央斗争委員会から、旭川地本(旭川支
部)、青函地本(長万部支部)・盛岡地本(青森支部)・水戸地本(水戸支部)・
静岡地本(浜松支部)・天王寺地本(奈良気動車区支部)・四国地本(高松支
部)・広島地本(広島第二支部)・鹿児島地本(鹿児島支部)および新潟地本(新
潟支部)の一〇か所を拠点として同月一五日午前〇時から同九時まで乗務員を中心
とする一〇割休暇斗争に突入する旨の斗争戦術案が発表され、これに対し、斗争拠
点となる右各地方本部の意見発表・情勢分析あるいは意見調整などを行なつたう
え、右一〇拠点において原案どおり実力行使を実施することを決定した。
(ⅲ) 本部斗争指令第六号の発布と派遣中斗の現地派遣
 中央斗争委員会は、同月七日、会議を開き、前記全国組織部長会議の結果に基づ
き、前記一〇拠点において同月一五日午前〇時から同九時まで乗務員を中心とする
一〇割休暇斗争を実施することを決定し、同月八日、本部斗争指令第六号をもつ
て、その旨の指令を発した。
 また、右三月七日の中央斗争委員会においては、本件争議行為の具体的戦術につ
いても討議され、①前記各斗争拠点における具体的な斗争指導のため中央斗争委員
を派遣すること、原告P1は水戸地本関係の派遣中央斗争委員として水戸地区に、原
告P2は広島地本関係の派遣中央斗争委員として広島地区に、原告P3は静岡地本関
係の派遣中央斗争委員として浜松地区に赴くこと、②支部は組合員各人から有給休
暇申請書を取り集め、これを一括して争議行為突入前日に被告側に提出すること、
③乗務員に対する説得活動は、十分に話し合い、本人の理解と協力を得、自発的に
参加するように仕向けることをねらいとすること、④右説得活動には原告組合の組
合員のみがこれに当たること、③本件斗争の斗争戦術は休暇斗争であるから、原則
として列車の進行を実力をもつて妨害することはしないこと、⑥組合員は、行動に
際しては、必ずあらかじめ定められた責任者の指揮に従つて整然と行動すること、
⑦列車事故等不測の事態を避けるため、国鉄構内には部外者、すなわち、国鉄職員
たる身分を有しない支援労働組合の組合員を立ち入らせず、右部外の支援労働組合
員には国鉄構内で激励集会をしてもらうことなどが決定された。そして、右中央斗
争委員会の終了直後、その指名を受けた原告P1、同P2および同P3ら各中央斗争委
員(派遣中斗)が各斗争拠点に向けて出発し、前記決定をみた具体的な斗争戦術は
右原告ら三名を含む各派遣中斗によつて口頭指令として現地に伝達された。
(ⅳ) 公労協戦術委員会に対する支援要請
 原告組合は、そのころ、公労協戦術委員会に対し、右斗争拠点となつた一〇地方
本部に公労協・地区労を中心とする大動員をもつて支援するよう要請した。
(ⅴ) 本件争議行為への突入
 原告組合は、右のように斗争体制の確立をはかる一方で、事前協議制確立の問題
については同年二月二四日を第一回として同年三月一四日の二二時五〇分までの前
後八回にわたつて、乗務粁制限を含む動力車乗務員の労働条件については同年二月
二日を第一回として同年三月一四日の二三時一〇分まで前後一二回にわたつて、被
告と団体交渉を繰り返した。そして、これらの交渉を通じて個々的には歩み寄りの
みられた点もあつたが、基本的にはなお対立して妥結をみるに至らず、同月一五日
午前〇時の到来とともに、原告組合は本件争議行為に突入した。
(二) 旭川地区の状況(原告P4関係)
 原告P4が昭和三五年七月二五日から二七日まで留萠市労働会館で開催された原告
組合旭川地方本部の第一〇回定期大会において同地方本部の書記長に再選され、さ
らに同年八月六日旭川市で開催された同地本の第一回執行委員会において組織部長
および総務部長に併任され、そのころそれらの役職に就任し、その後昭和三六年二
月八日地本の大会または委員会の決議の範囲内で斗争手段を決定する権限を有する
同地本の斗争委員会の副斗争委員長に就任し、なお同年二月二三日旭川地方公労協
春斗特別戦術委員会が発足した際、同戦術委員会の事務局長に就任したことは、当
事者間に争いない。
 成立に争いない甲第一ないし第八号証、甲第九号証の一、二、乙第一号証の一、
二、一一ないし一三、乙第二七号証の一、二、乙第二九、第四五号証、証人P21の
証言により成立を認める乙第二号証、証人P22の証言により成立を認める乙第三〇
号証の一、二、証人P23の証言により成立を認める乙第三一号証、証人P24の証言
により成立を認める乙第三二号証、証人P25の証言により成立を認める乙第三三号
証、証人P26の証言により成立を認める乙第三五号証の二、五、証人P27の証言に
より成立を認める同号証の三、証人P28の証言により成立を認める同号証の四、証
人P29の証言により成立を認める同号証の六、証人P30の証言により成立を認める
同号証の七、証人P31の証言により成立を認める同号証の八、証人P32の証言によ
り成立を認める同号証の九、証人P33の証言により成立を認める同号証の一〇、弁
論の全趣旨により成立を認める乙第三号証の四、乙第三四号証、乙第三五号証の
一、証人P23、同P26、同P25、同P27、同P29、同P31、同P17、同P34、同P
35、同P36、同P37、同P38、同P39、同P40、同P41、同P30、同P28、同P
24、同P32、同P33、同P21、同P42、同P43、同P44、同P45、同P22の各証
言、原告P4本人尋問の結果の一部ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が
認められる。但し、同本人尋問の結果中後記認定に反する部分は措信しない。
 原告組合が昭和三六年一月一九日第三四回中央委員会において本件争議行為を敢
行することを決定したことは前認定のとおりであるが、原告P4は旭川地本より選ば
れた中央委員として右会議に出席し、本件争議行為の決定に参画した。
 北海道地本評議会は、昭和三六年三月四日北海道常任評議委員会を開催し、旭川
地本から原告P4も出席して前認定の三月六日(以下年度を特に表示しないのは昭和
三六年である。)に東京で開催される全国組織部長会議に臨む同評議会の態度を協
議したが、同組織部長会議において北海道のどの地本が斗争の拠点として設定され
ても、北海道全体が戦術委員会の決定した方針に基づいて協力して斗争に参加する
ことを決定し、そこで北海道地方評議会委員長を委員長とし、各地本から二名づつ
の戦術委員を選任して、これをもつて北海道戦術委員会を組織したが、原告P4は、
旭川地本から選出された戦術委員として、右戦術委員会の構成メンバーとなつた。
 原告組合が三月六日東京都で原告組合の全国組織部長会議を開催し、同会議にお
いて同月一五日午前〇時から午前九時まで乗務員の一〇割休暇斗争の実力行使を実
施することおよび斗争拠点の一として旭川支部を加えること等を決定したことは、
前認定のとおりである。原告P4は、組織部長としてその会議に出席して、右決定に
参画し、旭川支部が斗争拠点に指定されると、直ちに旭川地本副執行委員長P35に
電話して、その旨通知するとともに、旭川支部に対する重点オルグ体制を計画して
おいてもらいたいと依頼した。原告組合の中央斗争委員会が右決定に基づき、三月
七日旭川地本に対し前記のような斗争指令第六号を発したことは前認定のとおりで
ある。旭川地本は、同日これに基づいて、各支部長あて地本春斗指令第五号を発
し、旭川支部において斗争を行なうから、乗務員の三月一五日全一日間の年次有給
休暇申請書を同月一一日を目途に集約することおよび合理化斗争の意義を各組合員
に徹底するように指令した。
 旭川機関区は、旭川鉄道管理局管内の最大の機関区であり、当時同機関区に所属
する機関士は一五二名、気動車運転士は二〇名、機関助手は一一六名、機関助手見
習は五名であるが、うち原告組合の組合員は、機関士が一四七名、気動車運転士が
一九名機関助手が一一六名、機関助手見習が五名である。
 旭川鉄道管理局長P46は、三月一〇日付旭総第四〇一号をもつて、右斗争は違法
行為であるからすみやかに斗争計画を中止するよう申し入れた。しかし、旭川地本
は、三月一一日原告P4も出席のうえ、拡大斗争委員会を開き、前記指令第六号の具
体的消化策を協議し、各斗争委員が旭川支部にオルグとして赴き、各組合員に斗争
参加を呼びかけることを決定するとともに、同日付指令第八号をもつて旭川支部斗
争委員長および各支部斗争委員長に対し、旭川支部は、三月一五日午前〇時から午
前九時まで乗務員(関連乗入れ支部乗務員を含む。)の休暇斗争を実施するよう指
令した。一方そのころ旭川支部内には、戦術ダウンの名目をもつて、組合脱退届に
署名する者が続出していたので、三月一三日原告P4も出席して、乗務員百数十名の
参加のもとに乗務員大会を開き斗争参加の是非について論議した。一部組合員から
斗争参加について否定的な発言もなされたが、前記戦術委員等の強力な斗争参加要
請により、斗争参加を決議した。原告P4は、三月一三日旭川機関区長室に赴き、同
機関区長P23に対し、旭川機関区において三月一五日午前〇時から午前九時まで乗
務員の一〇割休暇斗争を実施することと、そのため乗務員を午前〇時から一二時ま
で特定の場所に収容する旨申入れをした。同区長は、原告P4に斗争を中止するよう
に説得したが、原告P4はこれを拒否し、当局と組合との交渉についての窓口は、同
原告が当たると述べていた。
 この間旭川地本委員長P47は、前記斗争指令に強い不満をいだき、しばしば原告
組合中央本部に対し、反対意見を述べてきたが、その意見が容れられなかつたの
で、三月一三日午後一〇時ころ組合脱退を決意し、脱退届を地本に提出した。一
方、旭川支部は、そのころ斗争委員会を開いて、前記斗争指令を返上することを決
議し、三月一四日その旨地本に通告するとともに、旭川支部委員長P48は、旭川機
関区長P23に対し同支部の三月一五日の乗務員一〇割休暇斗争指令を返上したの
で、通常どおり勤務につくとの申入れをした。
 しかし、同地本の残留幹部は、右指令返上は無効であるから、一人一人の説得に
よつてでも斗争を遂行すべきであるとして着々準備をすすめていた。そこで旭川鉄
道管理局長P46は、三月一四日に同局長室に原告P4らを招き、同原告らに対し、旭
川支部が前記のとおり旭川機関区長に指令返上を通知したことを述べ、斗争を中止
するように勧告したが、原告P4は、「斗争通知は昨日同原告の責任でしたものであ
るから、支部委員長から指令返上の申入れがあつても駄目だ。支部委員長は個人の
立場でしたのではないか。」といつて、これを拒否した。さらにその際、同管理局
総務部長P40が「責任者は誰か。指令や命令を出すのは誰か。」と尋ねたところ、
国労のP49委員長は、「責任者は国労ではP49委員長であり、動労では原告P4であ
る。」と答え、原告組合の派遣中央斗争委員P19は、「中斗指示は自分が出すが、
地本の命令は原告P4自身が出す。」と答え、原告P4は、「最高責任者は中央斗争
委員長になるし、地本の責任者は私である。」と答えた。
 原告P4ら旭川地本の残留幹部は、数回の勧告を無視し、国鉄労働組合および公労
協の支援を求めて、一五日午前〇時から実施する旭川機関区の実力行使斗争を実効
あらしめるため、同機関区構内に出入する機関車の運行を妨害し、その運行を不能
ならしめることの計画を協議決定した。すなわち、三月一四日午後一時から原告P
4外一〇名の戦術委員が出席して戦術委員会を開き、各戦術委員の分担と配置、動員
体制、実力行使の方法等について次のとおり決定したのである。原告P4の担当は本
部との連絡、報道、予算企画とする。動員力は地区労および内部(原告組合員)動
員数の合計を約一、〇〇〇名とみて、表関門に外部動員五〇〇名、内部動員四〇
名、裏関門に外部動員二〇〇名、内部動員三〇名を配置し、その外に遊撃隊として
内部動員八〇名、外部動員三〇名、予備隊として一七〇名を配置する。これらの動
員は、機関車に乗り込むなどして乗務員一人一人を説得降車させて斗争に参加さ
せ、また乗務員代務として非組合員が乗車しているときは、運転が危険であること
を説いて運転を中止させることを協議決定したのである。かくして、三月一四日午
後六時ころから旭川地本の組合員国鉄労働組合(以下国労という。)旭川地本の組
合員その他の支援団体員からなる約数百名のピケ隊が旭川機関区構内になだれ込み
始めた。同日午後八時一〇分ころ、同機関区助役室において、点呼を受け終つた二
名の乗務員が旭川地本役員から斗争への参加を説得されていた。これを目撃した原
告P4は、右乗務員のかたわらに数名の職制がいて、右説得の状況を監視しているよ
うにみえたので、右乗務員を激励し、合せて監視している職制に圧迫を加えようと
して、数十名の組合員を連れて掛声をかけ、デモ行進を行ないながら右助役室を通
り過ぎたのである。同日八時三〇分ころ機関区長P23は、同区長室に原告P4を招致
し、機関区構内に立入つているピケ隊員の退去方を通告したが、同原告はこれに応
じなかつた。同日午後一一時三〇分ころには、ピケ隊員全員が機関区事務室附近に
ある更衣室に集合のうえ、部外単産指導者も参加して激励大会(決起大会)を開い
たが、席上原告P4は、その司会を勤めるとともに、経過報告を行なつた。
 同月一五日午前〇時五分ころ、原告P4は、旭川機関区長P23に対し、同機関区乗
務員の一〇割休暇斗争を行なう旨申し入れ、同日〇時から九時までの勤務時間帯に
ある乗務員を主力とする年次有給休暇申請書四九枚を提出したが、同区長はその受
理を拒否した(休暇申請書提出の事実は、当事者間に争いない。)。なお、右時間
帯に旭川機関区から出務すべき乗務員は、三・四〇名であつた。そして、そのころ
からピケ隊員のうち約二〇〇名が機関区事務室前の表関門附近(炭水三番線三号転
てつ器附近)に、うち約二〇〇名が裏関門附近(炭水一番線二四号転てつ器附近)
に、うち約二〇〇名が運転助役詰所前附近にそれぞれ移動し、実力行使の配置につ
き、次に述べるように原告組合員、国労、公労協の組合員等が旭川機関区内に出入
する機関車が通過すべき出区線上に立ちふさがつたりして、機関車の運行を妨害し
たため、列車の運休または遅延が続出した。その状況は、次のとおりである。
1 旭川機関区表関門における機関車の運行妨害
(1) 五〇三準急旅客列車
 三月一五日午前〇時四〇分ころ第五〇三準急旅客列車のけん引機関車となるた
め、旭川機関区炭水三番線から旭川駅一番線に至るD五一一〇〇九号機関車(機関
士P37、機関助士P50)が右炭水三番線から出区して同線六号転てつ器付近にさし
かかつた。その際、同機関区事務室前炭水三番線三号転てつ器附近に集結していた
原告組合および国労の組合員ならびに公労協の支援団体員からなるピケ隊員約二〇
〇名のうち約一五名が右機関車の進路で腕を組んで人垣を作り、ピケを張つてい
た。そして機関車が進行のため汽笛を吹鳴すると歓声をあげて線路内になだれ込ん
でその進行を阻止し、機関車が止まれば線路の両側に退いてこれを明けるという方
法を繰り返し、一時三〇分ころまで機関車の進行を妨害した。そこで、右機関車は
第五〇三準急旅客列車に連結が不可能となり、同列車はやむなく機関車を交換しな
いで旭川駅を出発した。このため同列車は、二七分遅発するに至つた(遅発時間は
当事者間に争いない。以下列車の運休および遅発時間については、後記浜松地区の
第二四旅客列車の発車時間を除き、当事者間に争いないが、いちいちその旨の摘示
をすることを省略する。)。
(2) 第五六一貨物列車
 同日午前一時五〇分ころ第五六一貨物列車のけん引車となるため、旭川機関区炭
水三番線から旭川駅一番線に至るD五一三九八号機関車(機関士P38、機関助士P
45)が右炭水三番線から出区して同線六号転てつ器付近にさしかかつた。その際前
記(1)記載のピケ隊員のうち約二〇名は、(1)で述べたと同様の方法で機関車
の進路にピケを張つて機関車の進行を妨害し、うち数名が機関車に乗り込んで来
て、機関車の乗務員を説得し、不承不承の右乗務員を降車させて連行した。そこで
右機関車に乗車していた北見機関区助役P51および深川機関区留萠支区助役P52が
代務として運転したが、なおもピケ隊に進行をはばまれ、右機関車は、一寸きざみ
に進行し、やつと旭川駅に至り、第五六一貨物列車に連結することができた。その
ため右列車は、五四分遅発するに至つた。
(3) 第五六三貨物列車
 同日午前三時一〇分ころ第五六三貨物列車のけん引機関車となるため、旭川機関
区炭水三番線から旭川駅二番線に至るD五一四八四号機関車(機関士P53、機関助
士P54)が右炭水三番線から出区しようとしたが、同線三号転てつ器附近で前記
(1)で記載したピケ隊員二〇〇名が(1)で述べたと同様の方法でピケを張り、
午前四時四〇分ころまでこれを継続し、右機関車の進行を妨害したので、同機関車
は同時刻まで出区不能となつた。そのため右列車は旭川駅を三時間遅発するに至つ
た。
(4) 第三六三貨物列車
 同日午前二時三八分ころ第二五三貨物列車の機関車(機関士P55、機関助士P
56)として旭川駅一番線に到着したD五一六〇八号機関車は旭川機関区炭水三番線
において、水、石炭等を補給して第三六三貨物列車のけん引機関車(機関士P57、
機関助士P58)となるべきところ、右進路である炭水三番線三号転てつ器附近に前
記(1)で記載したピケ隊員約二〇〇名が(1)で述べたと同様の方法でピケを張
つて機関車の出入を妨害した。そのため第三六三貨物列車は二時間二四分遅発する
に至つた。
(5) 第七一貨物列車
 同日午前三時四〇分ころ第七一貨物列車のけん引機関車として旭川機関区炭水三
番線から旭川駅四番線に至る四九六三一号機関車(乗務員、代務北見機関区助役P
59、深川機関区留萠支区長P28)が右炭水三番線から出区しようとしたが、同線三
号転てつ器附近で前記(1)で記載したピケ隊員約二〇〇名が(1)でのべたと同
様の方法でピケを張り、午前四時四〇分ころまで右状態を継続したので、その間右
機関車は出区不能となつた。そのため右列車は一時間四七分遅発するに至つた。
2 旭川機関区裏関門における機関車の運行妨害
(1) 第一六二貨物列車
 一五日午前〇時四〇分ころ第一六二貨物列車のけん引機関車として同機関区炭水
一番線から旭川駅六番線に至るD五〇一四三号機関車(乗務員、機関士P60、機関
助士P61)が炭水一番線から出区し、同線の二四号転てつ器附近まで進行したとこ
ろ、原告組合および国労の組合員ならびに公労協支援の団体員からなるピケ隊員約
二〇〇名が進路に立ちふさがり、うち数名が機関車に乗り込んできて右乗務員二名
を説得して降車させ、連行してしまつた。
 そこで乗務員の代務として深川機関区助役P62および稚内機関区助役P41が右機
関車を運転して進行しようとしたところ、右ピケ隊員はなおも進路に人垣を作つて
ピケを張り、機関車の運行を不能にした。そのため、右列車は運転を休止するのや
むなきに至つた。
(2) 入換作業(入一〇番)
 前記(1)のとおり、ピケの状態が同日午前四時三〇分ころまで継続したため、
D五〇一四三号機関車は前記箇所で運行不能の状態になつた。そのため同日一時四
〇分ころに同機関区から旭川駅構内に至り、同駅構内で入換作業(入一〇番)を行
なうべき四九六三一号機関車(乗務員、代務旭川駐在運輸長付P63、北見機関区助
役P29)が一時三〇分ころ発車準備が完了していたが、前記箇所を通過することが
できず、やむなく二時一五分ころ旭川駅構内にあつた四九六六五号機関車に乗継
ぎ、これで入換作業を実施した。そのため右作業は、二時四〇分ころ完了し、一時
間遅延するに至つた。
(3) 第三〇八準急旅客列車
 同日午前二時三〇分ころ第三〇八準急旅客列車のけん引機関車として同区炭水一
番線から旭川駅三番線に至るべきC五五一七号機関車(乗務員、代務旭川機関区助
役P30、北見機関区助役P64)も前記(2)でのべたと同様な理由で運行不能とな
つたので、第三〇八列車の機関車は第三九六列車に使用したD五一一一〇一号機関
車を使用した。そのため右列車は一時間三五分遅発するに至つた。
(4) 第一七〇貨物列車
 同日午前二時四五分ころ第一七〇貨物列車のけん引機関車として同機関区炭水一
番線から旭川駅五番線に至るべきD五一九三五号機関車(乗務員、代務名寄機関区
音威子府支区長P65、深川機関区助役P31)も前記(2)でのべたと同様な理由で
運行不能となつた。そのため右列車は遂に運転を休止するに至つた。
(5) 第五〇四旅客列車
 同日午前二時二〇分ころ第五〇四旅客列車のけん引機関車として同機関区車庫四
番線から旭川駅三番線に至るべきD五一一四九号機関車(乗務員、代務稚内機関区
助役P32、同P66)も前記(2)でのべたと同様な理由で運行不能となつた。その
ため右列車は一時間二八分遅発するに至つた。
(6) 第九五八六貨物列車
 同日午前〇時五八分ころ第九五八六貨物列車の機関車として旭川駅六番線に到着
し、同駅西入換一番線に留置してあつたD五一六六〇号機関車(乗務員、代務旭川
機関区助役P33、浜頓別運輸区助役P67)は旭川機関区炭水二番線において水、石
炭等を補給して第六二貨物列車のけん引機関車となるべきところ、右進路にあたる
箇所が前記(2)でのべたと同様な理由で運行不能となつた。そのため右列車は一
時間三八分遅発するに至つた。
(三) 水戸地区の状況(原告P1、同P6、同P7および同P5関係)
 原告P1が水戸地本関係の派遣中央斗争委員として水戸地区に赴いたこと、原告P
6が昭和三五年七月一五日平市において開催された原告組合水戸地本の第五四回委員
会において同地本の執行委員長に選任され、同月三一日右役職に就任し、かつ昭和
三六年二月一〇日同地本の大会または委員会の斗争に関する決議を執行し、その決
議の範囲内で斗争手段を決定する権限を有する同地本斗争委員会の斗争委員に就任
したこと、原告P7が昭和三五年六月一日水戸市において開催された原告組合水戸地
本水戸支部委員会において同支部の執行委員長に選任され、そのころ右役職に就任
し、かつ昭和三六年二月一〇日水戸地本斗争委員会を構成する斗争委員に就任した
こと、原告P5が昭和三五年七月二八・九日の両日にわたり群馬県河原湯温泉で開催
された原告組合東京地本の第一〇回定期大会において同地本の執行委員に選任さ
れ、同月二九日右役職に就任したことは、当事者間に争いない。
 成立に争いない乙第一号証の一ないし八、乙第二号証、乙第三号証の一、二、乙
第六号証の一、乙第五二号証、証人P68の証言により成立を認める乙第七号証の三
の一および乙第四九号証、証人P69の証言により成立を認める乙第七号証の四およ
び乙第五〇号証の一、二、証人P70の証言により成立を認める乙第七号証の七、証
人P71の証言により成立を認める同号証の九、証人P72の証言により成立を認める
同号証の一四、証人P73の証言により成立を認める同号証の一八、証人P74の証言
により成立を認める同号証の一九、証人P75の証言により成立を認める乙第八号証
の二、証人P76の証言により成立を認める乙第五一号証の一ないし一五、弁論の全
趣旨により成立を認める乙第四、第五号証、乙第六号証の二、乙第七号証の一、同
号証の二の一ないし四、同号証の三の二、同号証の五、六、八、同号証の一〇の一
ないし七、同号証の一一の一、二、同号証の一二、一三、一五ないし一七、二〇、
乙第八号証の一、三、証人P68、同P74、同P73、同P71、同P70、同P77、同P
78、同P79、同P80、同P81、同P69、同P82、同P75、同P72および同P76の各
証言(但し、証人P80の証言中後記措信しない部分を除く。)、原告P1、同P5、
同P6および同P7各本人尋問の結果(但し、原告P1および同P5各本人尋問の結果
中後記措信しない部分を除く。)ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が
認められる。証人P80の証言、原告P1および同P5各本人尋問の結果中後記認定に
反する部分は措信しない。
 原告組合は、三月六日東京において全国組織部長会議を開催し、同会議において
三月一五日午前〇時から午前九時まで乗務員の一〇割休暇斗争を実施することを決
定したことは前認定のとおりであり、その際斗争拠点の一として水戸支部を加える
ことを決定したことは、当事者間に争いない。原告P6は、水戸地本から選出されて
右会議に参加し、右決定に参画した。原告組合中央斗争委員会が右決定に基づき、
水戸地本に対し前記のような指令第六号を発したことは、前認定のとおりである。
 原告P1は、三月八日派遣中央斗争委員として水戸地区に赴いた。なお、原告組合
は、拠点以外の地本は、動員をもつて斗争を支援することを決定し、各地方本部に
指令したが、この指令を受けた東京地本は、三月八日ころ東京都において原告P5ら
を構成員とする東京地本斗争委員会を開催し、水戸地区における前記一〇割休暇斗
争を支援するため、原告P5らを含む所属役員および組合員を動員して、現地に派遣
することを決議した。原告P5は、この決議に基づき三月一三日水戸地区に赴いたの
である。
 原告組合中央斗争委員会から前記指令第六号を受けた原告P6は、水戸地本斗争委
員長として三月八日に水戸地本斗争委員会を開催し、原告P1は派遣中央斗争委員と
して、原告P7は水戸地本斗争委員として右斗争委員会に出席して、右原告ら三名
は、次の事項を協議決定した。すなわち、三月一五日午前〇時から午前九時まで水
戸支部において一〇割休暇斗争を実施すること、このため水戸機関区の組合員は全
員同日休暇申請をし、また水戸機関区以外の機関士、機関助士にして代替要員とな
る者に対して説得してその乗務を阻止すること、乗務員の出務を阻止するため原告
組合で確保した旅館に乗務員を収容すること、右斗争時間帯においては場合によつ
ては実力を行使しても列車の運行を阻止すること、傘下各支部に対してはピケ隊員
の派遣を求め、茨城県労働組合連盟および国労水戸地本に対してはピケ隊員の派遣
を要請すること、全斗争委員は同日から直ちにオルグとして活動を開始し、組合員
に斗争参加を呼びかけ、休暇申請書に署名を求め、かつ斗争当日は組合指定の旅館
に行くよう説得すること等を協議決定したのである。原告P6は、右決定の趣旨を傘
下各支部に指令し、かつ茨城県労働組合連盟および国労水戸地本にピケ隊員の派遣
を要請した。
 この指令を受けた原告P7は、水戸支部執行委員長として、これを支部所属組合員
に指令し、三月一〇日には「組合員各位に告ぐ」と題して、近代化合理化反対、事
前協議制の確立、乗務粁制限を目的として、乗務員を主体とした全員休暇斗争を行
なうから組合員の協力を要望する旨の掲示を水戸機関区乗務員詰所内の掲示板に掲
出した。水戸機関区長P83は、三月一一日に各乗務員の自宅あて、原告組合が一〇
割休暇斗争を計画し、違法なストライキを実施するときくが、職員は良識ある行動
をとることを要望する旨の書面を送り、かつ同文の掲示を機関区の掲示板に掲出し
た。これに対し原告P7は、支部執行委員長名をもつて、機関区長から各家庭に通信
が郵送されるが、開封せずに支部に持参するよう記載した掲示を同機関区乗務員詰
所内の掲示板に掲出した。
 P83機関区長は、三月一二日休暇申請は許可しない旨の掲示をした。原告P7は、
同日午後一時三〇分ころ水戸支部斗争委員長名をもつて、三月一三日午後一時三〇
分から水戸機関区において総決起大会を開催する旨および組合員が多数参加するよ
う記載した文書を機関区乗務員詰所内の掲示板に掲示した。右総決起大会は、三月
一三日午後一時四〇分から機関区乗務員詰所において、原告P1、同P6、同P7ら組
合役員が列席し、組合員約五〇名が参加して開催されたが、原告P1、同P6らは交
互に激励演説をし、同大会は午後三時一〇分ころに及んだ。
 原告組合は、三月一三日現地で、高崎、水戸、千葉および東京の各地本執行委員
長以下本部の三役、専従役員、関東地評議長、同事務局長等からなる関東ブロツク
拡大戦術会議を開き、原告P1、同P6、同P7および同P5も出席して、同原告ら
は、斗争の具体的実施要領、動員者の配置、斗争委員の役割などについて次のとお
り協議決定した。すなわち、役員および各地本、支援労組から動員されるピケ隊を
指揮班、連絡班、補給班、写真班、機動隊等に区分組織すること、原告P1は総指揮
として、また原告P6は副指揮として指揮班を構成し、具体的な戦術指示は指揮班に
よつて協議決定すること、原告P7は補給班の責任者となること、機動隊を第一隊か
ら第五隊までに分け、第一隊は機関区の構内、乗務員の詰所、助役室等で、第二隊
は上り列車ホームで、第三隊は下り列車ホームで、第四隊は予備として、第五隊は
宿舎で、それぞれ乗務員に対する説得活動を行ない乗務を放棄させること、原告P
5は第三機動隊の責任者となり主として下り列車ホームで右活動をするとともに指令
の伝達に任ずること等を協議決定したのである。
 水戸鉄道管理局長P84は、三月一三日水総労第七六六号をもつて原告P6に対し、
業務の正常な運営を阻害する違法な行為をしないように警告を発した。原告P6は、
三月一四日午前一一時一五分ころ原告P1とともに同鉄道管理局長を訪れ、一五日午
前〇時から午前九時まで一〇割休暇斗争を行なう旨通告したが、その際も同局長は
右斗争の中止を警告した。また水戸機関区長P83もそのころ原告P7に対し、一〇割
休暇斗争の中止を警告した。
 水戸地本所属の組合員は、三月一三日午後一時ころから水戸機関区に集合を始
め、三月一四日午前三時ころには約一〇〇名に、同日午後五時三〇分ころには約一
五〇名に、同日午後一〇時三〇分ころには約二三〇名に達し、主として同機関区乗
務員詰所、運転当直室前廊下、外勤庫内機関士詰所、転車台附近、西誘導掛詰所附
近、元資材事務所建物より水戸機関区への通路附近等に分散して配置についた。ま
た一方原告組合の東京、高崎、千葉の各地本から右斗争支援のため参集した組合員
は、三月一四日午後七時ころ水戸駅に約一五〇名集合し、同日午後八時三〇分ころ
には約三〇〇名となり、同駅上りホーム、同駅下りホーム、同駅構内上り、一、二
番線附近等に分散して配置についた。これらのピケ隊員は、三月一五日に乗務すべ
き乗務員が乗務を終了し、当直助役の点呼を受ける前後に、また水戸機関区に助勤
を命ぜられ、水戸駅ホームに下車した他機関区所属の乗務員や、同機関区に出勤す
るため同駅ホームに下車した乗務員に対し、それぞれ斗争に参加するよう説得勧誘
し、あるいは組合本部事務所、旅館等に連行し始めた。
 原告P7は、水戸機関区所属組合員に対するオルグ活動を活発に行ない、機関士、
機関助士、機関助士見習に対し休暇申請書の提出を促し、これを取りまとめてきた
が、三月一四日午後一一時五五分ころ水戸機関区長室において同区長P83に対し、
P85機関士外二二九名の機関士等の署名捺印した休暇申請書を提出した(休暇申請
書提出の事実は、当事者間に争いない。)。なお右休暇申請書を提出した機関士等
の数は、一五日乗務すべき同機関区所属の機関士等の約九〇パーセントに達してい
る。同区長は、一〇割休暇斗争を目的とした休暇申請は認められないとして、右休
暇申請書の受領を拒否し、正規の業務につくことを要求したが、原告P7はこれを拒
否して休暇申請書を机上において退去した。
 一四日午後一一時五五分ころ原告P1の名をもつて、被告側に対し、ストライキ突
入の旨の通告がなされた。そのころ原告組合側によつて旅館に収容されていた乗務
員は約三〇〇名であり、一方被告側が確保していた乗務員は約二〇名であつた。
 その後も乗務員に対する説得連行や列車の運行に対する妨害が三月一五日午後四
時ころまで継続された。そのため、同日乗務すべき多数の乗務員が長時間欠務し、
また列車の運休や遅延が続出した。その詳細は次のとおりである。
1 水戸機関区関係乗務員の連行
(1) 第四七六五単行機関車関係
 三月一五日第四七六五単行機関車に乗務すべき水戸機関区所属の機関士P86が同
月一四日第九九六一貨物列車の乗務を終了し、午前三時三〇分ころ同機関区運転当
直室においてP87、P88両助役の点呼を受け廊下に出たところ、水戸機関区に集合
していた前記本文記載のピケ隊員のうち約一二名に「御苦労」と声をかけられてと
り囲まれ、原告組合の水戸地方本部事務所(以下地本事務所という)に連行され、
同所で同日正午ころまで留置後、自動車で松本旅館に連行され、翌一五日午前四時
ころまで同旅館に軟禁のうえ、宣伝カーで前記地本事務所に連行せられ、同五時こ
ろ解放された。
 そのため同人は三時間五一分欠務し、同人が乗務すべき第四七六五単行機関車は
水戸・高萩間の運転を休止するのやむなきに至つた。
(2) 仕業ダイヤ(入換第八)関係
 同月一五日仕業ダイヤ(入換第八)を担当すべき同区所属の機関士P89、機関助
士P90の両名は、同月一四日仕業ダイヤ(入換第一〇)の乗務を終了し、午前五時
一〇分ころ同機関区運転当直室においてP87、P88両助役の点呼を受け終つたとこ
ろ、同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち原告P5の指揮する約一
〇名に「行こう。」と声をかけられ、右ピケ隊員にとり囲まれて地本事務所に連行
され、さらに自動車で松本旅館に連行せられ、翌一五日午前四時ころまで同旅館に
軟禁されたうえ、地本事務所に連行せられ、同五時ころ同所において解放された。
 そのため同人らは一時間二〇分欠務するに至つた。
(3) 第九七一貨物列車関係
 同月一五日第九七一貨物列車に乗務すべき同区所属の機関士P91、機関助士P
92の両名は、同月一四日第九七三貨物列車の乗務を終了し、午前六時二二分ころ同
機関区運転当直室においてP87、P88両助役の点呼を受け終つたところ、原告P5に
「皆のために斗争をやつているのだから組合の指令に従つたらどうだ。」と言わ
れ、肩をたたかれ「さあ行こう。」と促され、同機関区に集合していた前記本文記
載のピケ隊員のうち八・九名にとり囲まれ地本事務所に連行され、さらに自動車で
松本旅館に至り、翌一五日午前四時半ころまで同旅館に軟禁せられた。
 そのため同人らは三時間七分欠務し、同人らの乗務すべき第九七一貨物列車は石
岡・高萩間の運転を休止するのやむなきに至つた。
(4) 第六四二五客車回送列車関係
 同月一五日第六四二五客車回送列車に乗務すべき同区所属の機関士P93、機関助
士P94の両名は、同月一四日第四二五旅客列車の乗務を終了し、同機関区運転当直
室においてP87、P88両助役の点呼を受けて、同日午前七時四〇分ころ乗務員詰所
に入つたが、同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約七名にとり
囲まれ、地本事務所に連行され、さらに九時ころ自動車で松本旅館に連行のうえ翌
一五日午前四時ごろまで同旅館に軟禁せられた。
 そのため同人らは二時間一七分欠務するに至つた。
(5) 第二九四貨物列車関係
 同月一五日第二九四貨物列車に乗務すべき同区所属の機関士P95、機関助士P
96の両名は、同月一四日第二九五貨物列車の乗務終了後、午前八時二一分ころ同機
関区運転当直室においてP87、P88両助役の点呼を受け終つたところ、同機関区に
集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約八名に「地本へ行こう。」と説得せ
られたが、同人らは「一旦帰宅させて欲しい。」と言つたにもかかわらず、原告P
5は同人らの肩をたたき「さあ行こう。」と声をかけ、同人らは右ピケ隊員にとり囲
まれ、地本事務所に連行のうえさらに松本旅館に至り、同旅館に翌一五日午前四時
ころまで軟禁せられ、自動車で地本事務所に連行のうえ同五時ころ解放せられた。
 そのため、同人らは二時間二三分欠務するに至つた。
(6) 第九六二貨物列車関係
 同月一五日第九六二貨物列車に乗務すべき同区所属の機関士P97、機関助士P
98の両名は同月一四日第九六三貨物列車の乗務を終了し、同機関区運転当直室にお
いてP99、P100両助役の点呼を受け終つて乗務員詰所に入つたところ、同日午前九
時三〇分ころ同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約五名に「組
合が手配した旅館に行こう。」と説得をうけ、自動車により松本旅館に連行され、
翌一五日午前四時ころまで同旅館に軟禁せられ、自動車で地本事務所に連行のうえ
同午前五時ころ解放せられた。
 そのため、同人らは四時間一〇分欠務し、同人らの乗務すべき第九六二貨物列車
は大甕・新小岩間の運転を休止するのやむなきに至つた。
(7) 第三六八貨物列車関係
 同月一五日第三六八貨物列車に乗務すべき大宮機関区所属の機関士P101、機関助
士P102の両名は、同月一四日第三六七貨物列車の乗務を終了し、午後四時一〇分こ
ろ水戸機関区運転当直室においてP99、P100両助役の点呼を受け終つた後、同助役
等から宿泊所へ行つてもらうから事務室で待つているよう言われ、同区事務室にお
いて待つていたところ、同三〇分ころ同機関区に集合していた前記本文記載のピケ
隊員のうち原告P5の指揮する約一六名のピケ隊員が両名の手をとつて両名を保護し
ていた公安職員からひき離し、同人らを包囲して両腕をとらえ背中を押して乗務員
詰所に連行し、その後右両名は地本事務所、旅館等を転々として連行されたうえ翌
一五日午前五時三〇分ころ解放せられた。
 そのため同人らは六時間一三分欠務し、やむなく水戸機関区長P83は同人らの乗
務すべき第三六八貨物列車には大宮機関区所属の機関士P103、機関助士P104を代
務せしめるに至つた。
(8) 第二一一旅客列車関係
 同月一五日第二一一旅客列車に乗務すべき平機関区所属の機関士P105、機関助士
P106の両名は、同月一四日第二〇二急行旅客列車に乗務し、水戸駅に到着後、同日
午後六時ころ水戸機関区運転当直室においてP99、P100両助役の点呼を受けた後同
室を出たところ、同室前の廊下にいた前記本文記載のピケ隊員のうち約五名に「地
本へ行こう。」と説得を受け、香取屋旅館に連行され、翌一五日午前一時ころまで
軟禁せられた。
 そのため、同人らは四時間二一分欠務し、やむなく水戸機関区長P83は同人らの
乗務すべき第二一一旅客列車には平機関区所属の指導機関士P107を機関士とし、原
ノ町機関区所属の指導機関士P108を機関助士として代務せしめるに至つた。
(9) 第二八一貨物列車関係
 同月一五日第二八一貨物列車に乗務すべき平機関区所属の機関士P109は、同月一
四日第二七四貨物列車の乗務を終了し、午後六時四五分ころ水戸機関区運転当直室
においてP99、P100両助役の点呼を受けた後同室から廊下に出たところ、同機関区
に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約五名から組合地方本部で休養する
よう説得を受け、地本事務所に連行され、翌一五日午前四時一〇分ころまで軟禁せ
られた。
 そのため、同人は四時間四九分欠務し、同人が乗務すべき第二八一貨物列車は友
部・平間の運転を休止するのやむなきに至つた。
(10) 第六四一旅客列車関係
 同月一五日第六四一旅客列車に乗務すべき水戸機関区所属の機関士P110は、同一
四日午後八時ころ自宅より同機関区に出勤し、同区構内自転車置場に自転車を置き
に赴いた際、同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約二〇名にと
り囲まれ、うち約六名に組合に行くよう説得せられ、自動車に乗せられ松本旅館へ
連行のうえ翌一五日午前四時ころまで軟禁せられた。
 そのため同人は二時間四分欠務し、同人の乗務すべき第六四一旅客列車は水戸駅
を一時間二三分遅延し出発するのやむなきに至つた。
(11) 予備乗務員関係
 平機関区長P111は三月一五日水戸機関区における一〇割休暇斗争に際し、非常の
際に乗務せしめるため平機関区所属の機関士P112、同P113、同P114、機関助士P
115、同P116、同P117の六名に対し、同月一四日第四一〇列車に便乗して水戸機関
区に赴くよう命令した。同人らは同日同列車に便乗して午後七時二分水戸駅上りホ
ームに到着して下車したところ、同駅に集合していた前記本文記載のピケ隊員のう
ち約三〇名にとり囲まれたので、同機関区指導助役P69はピケ隊員に対し同人らを
解放するよう抗議したが、ピケ隊員はこれを拒否し、同人ら全員を円形にとり囲
み、「ワツシヨイ、ワツシヨイ」とかけ声をかけ、かけ足で地本事務所に連行した
うえ、機関助士P116は、水府ホテルに連行せられ、翌一五日午前四時三〇分ころま
で、機関士P112外四名は香取屋旅館に連行せられ、翌一五日午前四時過ぎころま
で、それぞれ軟禁せられた。
 そのため同人らは一〇時間一八分欠務するに至つた。
(12) 仕業ダイヤ(入換第六)乗務員関係
 同月一五日仕業ダイヤ(入換第六)に乗務すべき水戸機関区所属の機関士P
118は、自宅(福島県<以下略>居住)から同機関区に出勤するため同月一四日第二
四〇二準急旅客列車に乗り、午後八時二〇分ころ水戸駅上りホームに到着し、同列
車より下車して同ホーム上の燃料掛詰所附近に至つた際、水戸駅に集合していた前
記本文記載のピケ隊員のうち約五名に「組合に協力してもらいたい。」との説得を
受け、地本事務所に連行せられ、さらに市内松本旅館に連行のうえ翌一五日午前四
時ころまで軟禁せられた。
 そのため同人は三時間二〇分欠務し、やむなく水戸機関区長P83は同人の乗務す
べき仕業ダイヤ(入換第六)には同機関区所属のP119機関士を代務せしめるに至つ
た。
(13) 第四七荷物列車関係
 同月一五日第四七荷物列車に乗務すべき平機関区所属の機関士P120、機関助士P
121の両名は、同月一四日第四四二旅客列車の乗務終了後午後八時三〇分ころ水戸機
関区運転当直室においてP99、P100両助役の点呼を受けた後、休養のため水戸車掌
区内仮休養室に赴こうとして同機関区玄関を出たところ、同機関区に集合していた
前記本文記載のピケ隊員のうち約五名に腕をとられ、組合側の宿舎に行くよう説得
を受け、同機関区横の浴場附近で自動車に乗せられ、香取屋旅館に連行のうえ翌一
五日午前四時ころまで同旅館に軟禁せられた。
 そのため、同人らは四時間二二分欠務し、やむなく水戸機関区長P83は、同人等
の乗務すべき第四七荷物列車には平機関区所属の指導機関士P122および機関助士P
123の両名を代務せしめるに至つた。
(14) 第四八荷物列車関係
 同月一五日第四八荷物列車に乗務すべき尾久機関区所属の機関士P124、機関助士
P125の両名は第四三五旅客列車に乗務し同月一四日午後八時二一分ころ水戸駅下り
ホームに到着したところ、同駅に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち五・
六名は、同人らに付添つて水戸機関区に赴き、右乗務員らが同機関区運転当直室に
おいてP99、P100両助役の点呼を受けた後、同人らは、右ピケ隊員らにいずれかへ
連行せられ、翌一五日午前五時三〇分ころ同機関区に出務した。
 そのため同人らは五時間四二分欠務し、水戸機関区長P83はやむなく同人らの乗
務すべき第四八荷物列車には尾久機関区所属の機関士P126、機関助士P127の両名
を代務せしめるに至つた。
(15) 第二八四貨物列車関係
 同月一五日第二八四貨物列車に乗務すべき田端機関区所属の機関士P128、機関助
士P129、機関助士見習P130の三名は、同月一四日第九七九貨物列車の乗務終了後
水戸機関区運転当直室においてP99、P100両助役の点呼を受けた後、同日午後八時
五〇分ころ同室出口において同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のう
ち五・六名に地本事務所に連行せられ、翌一五日午前五時三〇分ころ同機関区に出
務した。
 そのため同人らは七時間一二分欠務するに至つた。
(16) 第二二一〇旅客列車関係
 同月一五日第二二一〇旅客列車に乗務すべき尾久機関区所属の機関士P131、機関
助士P132の両名は、同月一四日第四三九旅客列車の乗務を終了し、水戸機関区運転
当直室においてP99、P100両助役の点呼を受け終つたところ、組合役員に同室前の
廊下に誘導せられ、同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約五名
にとり囲まれていずれかへ連行せられ、翌一五日午前五時三〇分ころ同機関区に出
務した。
 そのため同人らは四時間九分欠務し、やむなく水戸機関区長P83は、同人らの乗
務すべき第二二一〇旅客列車には尾久機関区所属の指導機関士P133を機関士とし同
P134を機関助士として代務せしめるに至つた。
(17) 第一二六四貨物列車関係
 同月一五日第一二六四貨物列車に乗務すべき田端機関区所属の機関士P135、機関
助士P136、機関助士見習P137の三名は、同月一四日第一二八九貨物列車の乗務終
了後水戸機関区運転当直室においてP99、P100両助役の点呼を受けた後、同日午後
九時一七分ころ同室前廊下に出たところ、同機関区に集合していた前記本文記載の
ピケ隊員のうち約五名に地本事務所に連行せられ、翌一五日午前五時三〇分ころ解
放せられた。
 そのため同人らは六時間五分欠務し、同人らの乗務すべき第一二六四貨物列車は
勝田・田端間の運転を休止するに至つた。
(18) 第七六二貨物列車関係
 同月一五日第七六二貨物列車に乗務すべき小山機関区所属の機関士P138、機関助
士P139の両名は、同月一四日第七六九貨物列車の乗務を終了して水戸機関区運転当
直室においてP99、P100両助役の点呼を受け、同日午後九時四三分ころこれを終つ
て同室前廊下に出たところ、同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のう
ち約五名に組合の指示によつて行動するよう説得せられたが、同人らが拒否したと
ころ、右ピケ隊員は同人らをとり囲んでいずれかへ連行し、翌一五日午前五時ころ
解放した。
 そのため同人らは五時間二分欠務し、やむなく水戸機関区長P83は同人らの乗務
すべき第七六二貨物列車には小山機関区所属の機関士P140、機関助士P141を代務
せしめるに至つた。
(19) 第五〇三旅客列車関係
 同月一五日第五〇三旅客列車に乗務すべき平機関区所属の機関士P142は同月一四
日第六四八旅客列車の乗務終了後水戸機関区運転当直室においてP99・P100両助役
の点呼を受けた後、午後九時三〇分ころ同室から乗務員詰所に行こうとして同室前
廊下に出たところ、同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約五名
は組合側の宿舎に行つてもらいたいとの説得を受け、水府ホテルへ連行され、翌一
五日午前四時三〇分ころまで軟禁された。
 そのため同人は一時間五分欠務するに至つた。
(20) 第三九三貨物列車関係
 同月一五日第三九三貨物列車に乗務すべき水郡線管理所所属の機関士P143、機関
助士P144の両名は、同月一四日第三九四貨物列車の乗務を終了し、水戸機関区運転
当直室においてP99、P100両助役の点呼を受けた後、午後一〇時五五分ころ同機関
区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約三〇名が同人らを連行しようと
したが、同人らが同行を拒否したところ、同人らは右ピケ隊員に押すようにして自
動車に乗せられ、水府ホテルに連行のうえ同ホテルに翌一五日午前五時二五分ころ
まで軟禁せられた。
 そのため、同人らは二時間二四分欠務し、やむなく水戸機関区長P83は同人らの
乗務すべき第三九三貨物列車には水郡線管理所所属の機関士P145、機関助士P
146を代務せしめるに至つた。
(21) 第九六五貨物列車関係
 同月一五日第九六五貨物列車に乗務すべき平機関区所属の機関助士P147は、同月
一四日第二八〇貨物列車に乗務し、水戸駅に到着し、午後一〇時一〇分ころ水戸機
関区運転当直室においてP99、P100両助役の点呼を受けた後、他区乗務員詰所で休
養するため乗務員詰所を出たところ、同詰所前廊下において同機関区に集合してい
た前記本文記載のピケ隊員のうち約五名に組合の指令に従うよう説得を受け、地本
事務所に連行せられ、翌一五日午前四時一〇分ころまで同所に軟禁せられた。
 そのため同人は四時間八分欠務し、やむなく水戸機関区長P83は同人の乗務すべ
き第九六五貨物列車には平機関区所属の機関助士P148を代務せしめるに至つた。
(22) 第三七一貨物列車関係
 同月一五日第三七一貨物列車に乗務すべき平機関区所属の機関士P149、機関助士
P150の両名は、同月一四日第二五四貨物列車に乗務して水戸駅に到着し、水戸機関
区運転当直室においてP99、P100両助役の点呼を受けた後、午後一一時三〇分ころ
同機関区乗務員詰所を出たところ、同詰所前廊下にいた前記本文記載のピケ隊員の
うち約五名につかまえられ、機関区浴場附近で自動車に乗せられて水府ホテルへ連
行のうえ、翌一五日午前四時一〇分ころまで軟禁せられた。
 そのため、同人らは四時間四五分欠務し、同人らの乗務すべき第三七一貨物列車
は水戸・長町間の運転を休止するのやむなきに至つた。
(23) 第二〇九急行旅客列車関係
 同月一五日第二〇九急行旅客列車に乗務すべき平機関区所属の機関士P151、機関
助士P152の両名は、同月一四日第二三〇旅客列車に乗務して水戸駅に到着し、水戸
車掌区内仮休養室において休養の後、同日午後一一時五〇分ころ水戸機関区に出務
するため同機関区乗務員詰所入口に至つたところ、同機関区に集合していた前記本
文記載のピケ隊員のうち約二〇名に包囲され、地本事務所に連行のうえ翌一五日午
前四時ころまで同所に軟禁せられた。
 そのため、同人らは三時間三六分欠務し、やむなく水戸機関区長P83は同人らの
乗務すべき第二〇九急行旅客列車には平機関区所属の機関士P153、機関助士P
154の両名を代務せしめるに至つた。
(24) 第七四貨物列車の重連機関車関係
 同月一五日第七四貨物列車の重連機関車に乗務すべき田端機関区所属の機関士P
155、機関助士P156、機関助士見習P157の三名は、同月一四日第一二七七貨物列車
の乗務を終了し、水戸機関区運転当直室においてP99、P100両助役の点呼を受けた
後、午後一一時四二分ころ同室出口において、同機関区に集合していた前記本文記
載のピケ隊員のうち約五名に地本事務所に連行せられ、翌一五日午前五時三〇分こ
ろ同機関区に出務した。
 そのため同人らは一時間五分欠務するに至つた。
(25) 第三六一貨物列車関係
 同月一五日第三六一貨物列車に乗務すべき平機関区所属機関助士P158は、同月一
四日第七七四貨物列車に乗務し水戸駅に到着し、午後一一時四五分ころ水戸機関区
運転当直室においてP99、P100両助役の点呼を受けた後、同室を出たところ同室前
廊下にいた前記本文記載のピケ隊員のうち約五名に包囲せられ、自動車で水府ホテ
ルに連行のうえ、翌一五日午前四時一〇分ころまで軟禁せられた。
 そのため同人は三時間四一分欠務するに至つた。
(26) 第二七九貨物列車関係
 同月一五日第二七九貨物列車に乗務すべき平機関区所属の機関士P159、機関助士
P160の両名は、同月一四日第二八二貨物列車に乗務して水戸駅に到着し、午後一一
時三〇分ころ水戸機関区運転当直室においてP99、P100両助役の点呼を受けて同室
を出たところ、同室前廊下にいた前記本文記載のピケ隊員のうち約一〇名にとり囲
まれ、組合側の宿舎に行くよう説得を受け香取屋旅館へ連行せられ、翌一五日午前
四時ころまで軟禁せられた。
 そのため、同人らは五時間一一分欠務し、同人らの乗務すべき第二七九貨物列車
は羽鳥・平間の運転を休止するに至つた。
(27) 第四二四旅客列車関係
 同月一五日第四二四旅客列車に乗務すべき尾久機関区所属の機関助士P161、同P
162の両名は同日第四四一旅客列車の乗務を終了し、午前〇時五分ころ水戸機関区運
転当直室においてP99、P100両助役の点呼を受け終つたところ、同人らは同機関区
に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約五〇名にとり囲まれていずれかへ
連行せられ、午前五時三〇分ころ同機関区に出務した。
 そのため、同人らは二時間五四分欠務し、同人らの乗務すべき第四二四旅客列車
は一時間五分遅延して水戸駅を出発するのやむなきに至つた。
(28) 第九六四貨物列車関係
 同月一五日第九六四貨物列車に乗務すべき田端機関区所属の機関士P163、機関助
士P164、同P165の三名は、第二六一貨物列車の乗務を終了し、水戸機関区運転当
直室においてP99、P100両助役の点呼を受けた後、同日午前〇時五分ころ同室を出
たところ、同室前廊下において同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員の
うち約五〇名にとり囲まれ、地本事務所に連行せられ、同日午前五時三〇分ころ同
機関区に出務した。
 そのため同人らは二時間一〇分欠務し、同人らの乗務すべき第九六四貨物列車は
高萩・新小岩間の運転を休止するのやむなきに至つた。
(29) 第一二八三貨物列車関係
 同月一五日第一二八三貨物列車に乗務すべき平機関区所属の機関士P166、機関助
士P167の両名は、第三六八貨物列車に乗務し水戸駅に到着し、同日午前〇時二二分
ころ水戸機関区運転当直室においてP99、P100両助役の点呼を受けた後、同室前廊
下において同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約五名にとり囲
まれ、組合側の宿舎に行くよう説得せられ、自動車に乗せられて水府ホテルへ連行
のうえ、翌一五日午前四時一〇分ころまで軟禁せられた。
 そのため、同人らは四時間二〇分欠務し、同人らの乗務すべき第一二八三貨物列
車は高浜・平間の運転を休止するのやむなきに至つた。
(30) 第九二六三貨物列車関係
 同月一五日第九二六三貨物列車に乗務すべき水戸機関区所属の機関士P168は、同
日午前〇時三〇分ころ自宅より同機関区に出勤し、同区構内自転車置場の附近にお
いて同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約六名に地本事務所に
行くよう説得せられ、同所に連行され、同四時ころまで軟禁せられた。
 また、機関助士P169は自宅より同機関区に出勤のため同月一四日午後八時五〇分
ころ水戸駅構内元水戸資材事務所建物附近に至つた際、同機関区に集合していた前
記本文記載のピケ隊員のうち約一〇名に地本事務所に行くよう説得せられ、同所に
連行のうえ、さらに松本旅館に連行せられ、翌一五日午前四時ころまで軟禁せられ
た。
 そのため右両名は四時間五九分欠務し、同人らの乗務すべき第九二六三貨物列車
は内原・長町間の運転を休止するのやむなきに至つた。
(31) 第三四二二旅客列車関係
 同月一五日第三四二二旅客列車に乗務すべき尾久機関区所属の機関士P170、機関
助士P171の両名は、同月一四日第三四四七旅客列車に乗務して水戸駅に到着後、一
五日午前〇時四〇分ころ同列車のけん引機関車を運転して水戸機関区構内西誘導掛
詰所附近に至り停車した際、同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のう
ち約二五名が同機関車を待ち受けており、そのうち約四名が同機関車に乗りこみ、
同人らに下車するよう約二〇分にわたり説得したので、同人らは降車し、乗務終了
点呼を受けることなくいずれかへ連行せられ、翌一五日午前五時三〇分ころ同機関
区に出務した。
 そのため同人らは三時間一八分欠務し、同人らの乗務すべき第三四二二旅客列車
は二時間三一分遅延し、水戸駅を出発するに至つた。
(32) 第七二貨物列車関係
 同月一五日第七二貨物列車に乗務すべき大宮機関区所属の機関士P172、機関助士
P173、同P174、機関助士見習P175の四名は、同月一四日第三六九貨物列車に乗務
し、水戸駅に到着し、水戸機関区運転当直室においてP99、P100両助役の点呼を受
けた後、同月一五日午前〇時四〇分ころ同機関区二階の休養室に赴くため同室前の
廊下に出たところ、同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約五〇
名にとり囲まれ、両腕をとつて室外に連れ出され、自動車で松本旅館に連行のうえ
同日午前四時一五分ころまで軟禁せられた。
 そのため同人らは二時間一九分欠務するに至つた。
(33) 第四二六旅客列車の便乗乗務員関係
 同月一五日第九六五貨物列車に乗務して水戸駅に到着し、同日第四二六旅客列車
に便乗して田端機関区に帰着すべき同機関区所属の機関士P176、機関助士P177の
両名は、第九六五貨物列車の乗務を終了し、水戸機関区運転当直室においてP99、
P100両助役の点呼を受けた後、同日午前一時ころ同機関区に集合していた前記本文
記載のピケ隊員のうち約五名にいずれかに連行せられ、同日午前五時三〇分ころ同
機関区に出務した。
 そのため同人らは五五分欠務するに至つた。
(34) 第二七〇貨物列車関係
 同月一五日第二七〇貨物列車に乗務すべき田端機関区所属の機関士P178、機関助
士P179、同P180の三名は、第六三貨物列車の乗務を終了し、水戸機関区運転当直
室においてP99、P100両助役の点呼を受けた後、同日午前一時一〇分ころ同室を出
たところ、同室前廊下において同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員の
うち約五〇名にとり囲まれ、地本事務所に連行せられ、同日午前五時三〇分ころ同
機関区に出務した。
 そのため同人らは二時間一分欠務するに至つた。
(35) 第九九六一貨物列車関係
 同月一五日第九九六一貨物列車に乗務すべき水戸機関区所属の機関士P181は自宅
より同機関区に出勤のため同日午前一時二五分ころ水戸駅構内元水戸資材事務所建
物附近に至つた際、同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約一〇
名に地本事務所に行くよう説得せられ、同所に連行のうえ同五時ころまで軟禁せら
れた。
 そのため同人は四時間一八分欠務し同人の乗務すべき第九九六一貨物列車は岩
間・平間の運転を休止するのやむなきに至つた。
2 水戸駅における発車妨害
(1) 第二二〇九急行旅客列車
 第二二〇九急行旅客列車は、水戸駅以北の運転を担当する機関士P182および機関
助士P183を乗せ、九分遅延して、三月一五日午前〇時九分に水戸駅下りホームに到
着した。同ホーム附近には、前記本文記載のピケ隊員のうち約一五〇名が下りホー
ム上に、約五〇名が下り本線と中線との間において右列車の到着を待ち受けてい
た。右列車が到着すると、原告P1および同P5らが機関車の運転室に乗り込み、前
記二名の乗務員に対し、降車するよう説得して右列車の発車を妨害した。同人らは
説得に応じることなく、〇時二〇分に発車したが、右説得行為により、列車はさら
に五分増延するに至つた。
(2) 第二〇九急行旅客列車関係
 第二〇九急行旅客列車は、水戸駅以北の運転を担当する平機関区所属の機関士P
153および機関助士P154を乗せ、三〇分遅延して、三月一五日午前一時一七分に水
戸駅下りホームに到着した。同ホーム附近には、前記本文記載のピケ隊員のうち約
一五名が下りホーム上に、約五〇名が下り本線と中線との間において右列車の到着
を待ち受けていた。右列車が列着すると、原告P1および同P5らが機関車の運転室
に乗り込み、前記二名の乗務員に対し、降車するよう説得し、約五分後には両名を
線路わきに降車させてしまつた。そして約一〇名のピケ隊員が同人らの両手を組ん
で地本事務所を経て水府ホテルに連行し、同日午前五時まで軟禁した。その直後原
告P1は、機関車運転室からマイクをもつて、ホーム上のピケ隊員に対し、「平の乗
務員は降ろした。尾久の乗務員は保安要員として残し、当分の間列車は停める。」
という趣旨の演説をした。
 このような状況のもとで、同列車の乗客約二〇名が列車の遅延に激怒して、同駅
ホームに降車して水戸駅長P68らに抗議するという事態が発生した。
 そうしたことから同列車の発車は、さらに四六分遅延し、同駅を午前三時二六分
に発車した。
 そのため、機関士P153および機関助士P154は二時間三分欠務し、第二〇九急行
旅客列車が二時間九分にわたり水戸駅下りホームに停車していたため、同列車に続
行する第二一一旅客列車は同駅場内信号機外に二時間八分、第三七一貨物列車は赤
塚・水戸駅間に二時間五分、第四七荷物列車は赤塚駅に一時間三〇分、第七七一貨
物列車も同駅に一時間四八分、第七一貨物列車は内原駅に一時間三二分停車し、遅
延するに至つた。
(3) 第二五〇貨物列車関係
 三月一五日第二五〇貨物列車をけん引すべきD五一五〇号機関車に、田端機関区
所属の機関士P184、機関助士P185、同P186の三名が乗務し、四五分遅延して水戸
機関区を出区し、同日午前一時二五分ころ西部信号所附近で一旦停車した。する
と、同機関区に集合していた前記本文記載のピケ隊員のうち約五〇名が同機関車左
側に集り、右乗務員に対し降りてくれと連呼し、そのうち一名が右機関車の運転室
に乗り込み、乗務員に降車するよう説得したが、同人らはこれを拒否した。
 そのため同機関車は、さらに約三分遅延して、午前一時二八分ころ水戸駅構内上
り一番線に停車中の右列車に連結された。すると機関車を追つて移動してきた前記
ピケ隊員のうち三名がまたもや機関車に乗り込み、右乗務員に降車するよう説得し
た。同人らがこれを拒否したのでなおも右ピケ隊員は説得を続け、残余のピケ隊員
は機関車の両側に集り、これに接近して右列車の発車を妨害した。一時四〇分ころ
には、右ピケ隊員のうち約一五名が機関車の前方三ヵ所でたき火を囲んで集り、上
り一番線内に立入つて、右列車の発車を妨害し続けた。
 水戸駅長P68は、同日午前二時二〇分ころマイクをもつて二回にわたりピケ隊員
に解散を命じたが、ピケ隊員は、そのころ約一五〇名に増加して解散しない。同駅
長は、右列車が青森発東京行の鮮魚列車でこれ以上遅延することは許されない情勢
にあつたため、鉄道公安室長P187外数十名の公安職員の出動方を要請し、公安職員
が機関車附近のピケ隊員を排除し、機関車上で説得中のピケ隊員を降車させた。
 そのため、右列車は、さらに一時間四分遅延し、同日午前二時四二分に水戸駅を
出発した。
3 職務遂行妨害等
 水戸鉄道管理局厚生課長補佐P75は、同局の職員をもつて組織する警備班員約一
〇名を指揮して、乗務員を確保するため、説得ピケ隊員が当直助役室に侵入するの
を防止しようとして、三月一四日午前六時二〇分ころ水戸機関区運転当直室入口に
ピケを張つて警備していた。原告P5は、五・六名の機動隊員を指揮してP75らのピ
ケを破つて当直室に押し入ろうとしてもみ合いとなつた。侵入が成功しないので、
原告P5は、P75を指して、「こいつをごぼう抜きにしろ。」と叫び、指揮下の隊員
に号令するとともに警備員の中に飛び込んで来た。こうして、原告P5は、機動隊員
らとともにP75の腕や足をとつて警備ラインより引抜き、手足を引つぱつて同人を
乗務員詰所に連行しようとしたが、同人が抵抗したので、原告P5は、同人の制帽を
むしりとつてこれを床上にたたきつけたりして、同人を乗務員詰所に強制連行し、
同人の警備の職務遂行を妨害した。
 機関士P188および機関助士P189が三月一四日午前八時五〇分ころ、第四三四列
車の乗務を終了し、水戸機関区当直助役室において、P99およびP100両助役の点呼
を受けた後、同助役らと話し合つていた。その際原告P5は、ピケ隊員約十数名を指
揮して同室に無断侵入し、右機関士および機関助士の手を引つぱつて連行しようと
したので、被告の職員がこれを阻止しようとしてもみ合いとなり、その際右ピケ隊
員は、そこにあつた電熱器および窓ガラス二枚を破損した。
(四) 浜松地区の状況(原告P3、同P9、同P10および同P8関係)
 原告P9が昭和三五年七月一〇日および一一日に静岡市において開催された原告組
合静岡地本の第一〇回定期大会において、同地本の執行委員長に選出され、同年八
月二〇日右役職に就任し、昭和三六年二月一日地本の大会または委員会の決議の範
囲内で斗争手段を決定する権限を有する同地本斗争委員会の斗争委員長に就任した
こと、原告P10が昭和三五年八月一〇日原告組合静岡地本浜松支部執行委員長に就
任したこと、原告P8が昭和三五年七月一七日開催された原告組合北陸地本第一〇回
定期大会において、同地本執行委員長に選出され、同日右役職に就任したことは、
当事者間に争いない。
 成立に争いない乙第一号証の一、二、九、一〇、乙第三号証の一、三、乙第四
八、第五三号証、証人P190の証言により成立を認める乙第九号証、乙第二二号証の
一、証人P191の証言により成立を認める乙第一一号証の一、二、四、証人P192の
証言により成立を認める同号証の三、証人P193の証言により成立を認める乙第一二
号証、証人P194の証言により成立を認める乙第一四号証、証人P195の証言により
成立を認める乙第一五号証、証人P196の証言により成立を認める乙第一六号証、証
人P197の証言により成立を認める乙第一八号証、証人P198の証言により成立を認
める乙第一九号証、乙第二二号証の二、証人P199の証言により成立を認める乙第二
一号証、証人P200の証言により成立を認める乙第二三号証、証人P201の証言によ
り成立を認める乙第二六号証の二ないし四、弁論の全趣旨により成立を認める乙第
一〇、第一三、第一七、第二〇、第二四、第二五号証、乙第二二号証の三、乙第二
六号証の一、証人P195、同P196、同P192、同P200、同P197、同P198、同P
202、同P203、同P204、同P205、同P206、同P207、同P208、同P209、同P
210、同P191、同P194、同P199、同P193、同P211、同P212、同P213、同P
214、同P215、同P216、同P217および同P190の各証言(但し、証人P203および
同P213の各証言中後記措信しない部分を除く。)ならびに弁論の全趣旨を総合すれ
ば、次の事実が認められる。証人P203および同P213の各証言中左記認定に反する
部分は措信しない。
 原告組合が三月六日東京都で全国組織部長会議を開催し、同会議において、三月
一五日午前〇時から午前九時まで乗務員の一〇割休暇斗争の実力行使を実施するこ
とおよび斗争拠点の一として浜松支部を加えること等を決定したことは、前認定の
とおりである。原告P9は、静岡地本から右会議に出席し、右決定に参画した。原告
組合の中央斗争委員会が右決定に基づき、三月七日静岡地本に対し、前記のような
斗争指令第六号を発したことは、前認定のとおりである。
 原告P9は、右指令を受け、静岡地本斗争委員長として、三月七日同地本の拡大斗
争委員会を開き、浜松支部からは原告P10も出席のうえ、左記事項を協議決定する
とともに、これを下部の各支部に指令した。すなわち、前記指令第六号に基づき、
浜松支部を拠点として乗務員の一〇割休暇斗争を実施することおよび同支部所属の
乗務員全員に休暇届を提出させ、かつ乗務員の代替要員となる者の代替措置を阻止
すること等を決定した。そして原告P9は、同月一〇日午後六時に新聞記者会見を行
ない(記者会見の事実は、当事者間に争いない。)「三月一五日午前〇時から午前
九時まで浜松を拠点として半日ストを行なう。」旨発表した。またそのころ同地本
は、国労静岡地本および遠州地方労働組合会議に右斗争の支援を要請した。
 原告P10は、右指令を受け、浜松支部執行委員長として、支部拡大斗争委員会を
開催し、右指令に基づく斗争実施を確認するとともに、指令を所属組合員に徹底さ
せて斗争の実効をあらしめることを協議決定した。そして原告P10らは、同日ころ
から四日間にわたつて連日職場集会を開き、組合員に対し斗争参加を呼びかけると
ともに、一二日ころからは、オルグとなつて個別に組合員を説得激励した。
 一方、原告P3は、派遣中央斗争委員として、三月八日浜松に赴き、同日および翌
九日戦術委員会を開き、原告P3らが戦術委員となり、必要に応じ、原告P9および
原告P10も戦術委員となることを決定した。
 また原告組合は、三月七日関係地本に対し、三月一五日浜松支部外九箇所を拠点
として一〇割休暇斗争を実施するから、関係地本は動員をもつてこれを支援すべき
旨を指令した。北陸地本執行委員長である原告P8は、そのころ同地本執行委員会を
開き、浜松支部の斗争の支援を行なうことおよびその支援のため役員と組合員を浜
松に派遣することを決議した。原告P8は、その決議に基づき、同月一二日ころ役員
および所属組合員約九〇名とともに浜松地区に赴いた。
 静岡鉄道管理局長P218は、三月一一日地本委員長である原告P9にあて、前記斗
争は違法であるから中止されたい旨の警告書を交付した。また浜松機関区長P
191は、三月一二日午前一〇時四五分原告P10に対し、書面により斗争を中止するよ
う申し入れたが、同原告はこれを拒否した。
 原告組合は、同月一四日現地において戦術会議を開催し、原告P3、同P9、同P
10および同P8も出席のうえ本件斗争の具体的実施方法等につき次のとおり協議決定
した。原告P3が総指揮となり、原告P9および同P10は本部付として指揮班を構成
すること、原告P8は北陸地本から動員された組合員からなる行動隊の指揮者となる
こと、具体的戦術としては斗争時間帯にある乗務員を説得して乗務を阻止すること
等を決定したのである。
 原告P10らが、所属組合員に対し、斗争への参加を呼びかけ、休暇申請書の提出
を促したところ、所属組合員である乗務員全員(病欠等の数名を除く。)から三月
一五日全一日の休暇申請書が提出された。原告P10は、これをとりまとめ、原告P
3に交付し、同原告らは、三月一四日浜松機関区長P191に対し、右申請書を一括し
て提出した。同区長は、これに対し、業務上の都合により許可できない旨回答し
た。なお当時、同機関区所属の乗務員約四九〇名のうち原告組合所属組合員は、約
四〇〇名である。
 原告P8は、三月一四日午前二時五二分ころ、浜松機関区附近に集合したピケ隊員
のうち、北陸地本からの動員者を主力とする約一〇〇名を指揮して、浜松駅構内下
りホーム東端方面から同ホームに四列縦隊で侵入した。その際同原告は、同ホーム
備付のベンチにのぼり、右ピケ隊員らに対し、音頭をとつて運賃値上げ反対と高唱
させた。同原告は、同日午前一一時五分ころピケ隊員約七〇名を指揮し、同駅構内
上り一番線に侵入し、同駅助役P199の退去通告に応ぜず、同日午後〇時三五分同駅
に到着した第一二二旅客列車の乗客および同日午後一時二分同駅に到着した第三八
旅客列車の乗客に向つて携帯マイクで運賃値上げ反対等の演説をした。さらに同原
告は、同日午後六時ころピケ隊員八名を指揮して浜松機関区に侵入し、同区助役P
219の制止もきかず、同区機関車庫山側に、「乗務粁制限旅客一九〇K、貨物一六〇
Kまでダイヤ作成基準を獲得」、「国鉄運賃各種公共料金値上反対」とそれぞれ記
載した縦八〇センチ、横九メートルの横幕二枚と「運賃値上反対の為動力車休暇斗
争に突入」の一八文字を横八〇センチ、縦一メートルの紙片に一字づつ記入したも
のを横にならべてはつたりした。
 この間、浜松地本所属組合員は、ピケ要員として浜松機関区講習室および旧丙修
職場附近に参集し、三月一四日午前〇時ころには約二〇〇名に達した。その後原告
組合の名古屋、北陸、長野の各地本および国労ならびに部外団体所属の組合員がぞ
くぞくと浜松に到着し、同日午後一〇時四五分ころには、約二、〇〇〇名が浜松機
関区の扇形車庫附近に集結するに至つた。
 右ピケ要員のうち約四〇〇名は、三月一四日午後一一時一五分ころ、静岡鉄道管
理局において確保した乗務員六九名を宿泊させていた浜松市<以下略>の松島旅館
を包囲してピケをはり、右乗務員が出務のため旅館を出ることや、被告側が右乗務
員を誘導するため旅館に入ることを妨害していた。原告P10は、右ピケ隊に加わ
り、指導者的な活動をしていた。このため、静岡鉄道管理局は、警察隊の出動を要
請し、三月一五日午前〇時三四分ころ右ピケ隊員の排除につとめたが、午前一時一
五分ころ乗務員二名を出務のため連れ出したのみで、他の六七名は旅館を出ること
ができず、結局午前三時二〇分ころまで出入を妨害された。
 右原告らの指揮するピケ隊は、乗務員の連行または浜松駅における列車の発車妨
害をしたため、乗務員の欠務または列車の遅延が続出した。その詳細は、次のとお
りである。
1 浜松機関区関係乗務員の連行
(1) 第五四貨物列車関係
 三月一五日第五四貨物列車に乗務すべき浜松機関区所属の電気機関助士P213は、
同月一四日午前一時三六分ころ第三七一貨物列車の乗務を終え浜松駅下り二番線に
下車した際、原告P3らが左右から同人の腕をとり、原告P10が同人のカバンを持
ち、同駅下りホーム中央附近に連行し、同ホームのベンチに腰かけていたところ、
同二時五二分ころ同組合所属の組合員からなるピケ隊員約一〇〇名が下りホームの
東端方面から同ホームに侵入し、同三時一三分ころ右ピケ隊員で右電気機関助士を
とり囲み、原告組合の手配した旅館へ連行し、翌一五日午前四時三〇分ころまで右
旅館に収容した。
 そのため、同人は三時間一〇分欠務するに至つた。
(2) 第一一六六貨物列車関係
 同月一五日第一一六六貨物列車に乗務すべき浜松機関区所属の電気機関士P
212が、第三八一貨物列車に乗務し、同月一四日午前四時五四分ころ浜松駅下り三番
線に到着した際、同区助役P192は、右列車の機関車に乗車して、P212電気機関士
および同助士P220に対し、同月一五日第五四一仕業(出勤時刻午前四時一五分、行
先沼津)に乗務することを命ずる旨の業務命令書を手交しようとしたところ、原告
P3の指揮する同組合所属の組合員からなるピケ隊員約一五名も同機関車に乗りこ
み、原告P3は、同助役を後からはがいじめにしてその交付を妨害しさらに同助役が
右命令を口頭で通告しようとしたところ、音頭をとつて労働歌を高唱し、その通告
を不能ならしめた。そして同機関車はピケ隊員らが乗りこんだまま同機関区に至
り、機待四番線に留置された際、ピケ隊員らは、P212電気機関士を機関車から降ろ
し、帰着点呼をうけさせることなく、原告組合手配の旅館へ連行し、翌一五日午前
四時三〇分ころまで収容した。
 そのため同電気機関士は、一時間五分欠務するに至つた。
(3) 第三六九貨物列車関係
 同月一五日第三六九貨物列車に乗務すべき稲沢第二機関区所属の電気機関士P
211および同助士P221は、同月一四日午後三時四四分ころ、第七七〇貨物列車の乗
務を終え、浜松駅上り二番線に下車した際、原告P3らの指揮する同組合所属の組合
員からなるピケ隊員約二〇〇名は、右両名をとり囲んで浜松機関区へ同行し、帰着
点呼の終了を待ち、両名は、右ピケ隊員らに自動車に乗せられ、原告組合の手配し
た旅館へ連行され、翌一五日午前四時三〇分ころまで収容された。
 そのため右両名は、五時間二〇分欠務し、第三六九貨物列車は四時間三〇分遅発
するに至つた。
2 浜松駅における発車妨害
(1) 第一五八貨物列車および第三五二貨物列車
 原告P8は、三月一四日午後二時四五分ころ約一五〇名のピケ隊員を指揮して浜松
機関区方面から浜松駅構内に侵入し、同二時五〇分ころ同駅構内上り二番線の第五
八号のイ転てつ器の西方約三〇メートル附近において、上り三番線にまたがつてス
クラムを組んでピケを張り、同駅上り三番線で実施している第三五二貨物列車(急
送品市場列車)の解結作業を妨害した。同駅駅長P195は同原告らに対し携帯マイク
で再三にわたり退去を要求したが、同原告らはこれに応じなかつた。さらに同三時
一分に至り、上り二番線に第一五八貨物列車が到着すると、同原告は、右ピケ隊員
らとともに同列車の機関車の山側(進行方向の左側)乗降口附近に押しよせ乗務員
を連行しようとし、また同列車の機関車の進路にあたる上り二番線および上り三番
線に立ち入つて、右列車の進行を妨害した。そこで、同三時一九分ころ同駅助役P
199が、同原告らに対し退去を通告したが、同原告らはこれに応ずることなく、同三
時二六分ころまでその状態を継続した。さらに右ピケ隊員らが同線を退去後、上り
三番線の第三五二貨物列車の入換作業を開始しようとすると、同原告は再び同線路
に立ち入り、「上り二番線の発車と一緒に入換作業してはいかん。」と叫んで約三
分間列車の入換作業を妨害した。
 そのため第一五八貨物列車は一〇分、第三五二貨物列車は二七分、それぞれ遅発
するのやむなきに至つた外、右両列車の後続の第一六八貨物列車も六分、同じく第
三七四貨物列車も三二分それぞれ遅発するに至つた。
(2) 第一三一一旅客列車
 原告P8は三月一五日午前〇時四〇分ころ同駅構内下り中一番線附近からピケ隊員
約九〇名を指揮して同駅構内下りホーム上に進出し、同ホーム西端(豊橋寄)から
跨線橋附近までの間をスクラムを組んで「ワツシヨ、ワツシヨ」と叫びながらジグ
ザグ行進を始めた。そこで、同駅長P195は再三再四携帯マイクで構外退去を通告し
たが、同原告らはこれに応ぜず、同駅備付の手押車を同下り一番線路内に転落せし
める等して行進を続け、同一時一分第一三一一旅客列車が同下り一番線に到着する
と、同駅構内下り中一番線附近に待機していた約六〇名のピケ隊員を合流して同列
車の機関車の前頭および両側に殺到した。そして同原告は、機関車海側(進行方向
の左側)の機関士乗降用フードステツプにのぼり、窓をたたきながら乗務員に降車
を説得したが、同乗務員がドアーを鎖錠してこれに応じないので、同原告は機関車
の山側(進行方向の右側)前部に出て、携帯マイクで右ピケ隊員に対し、「乗務員
が降りて来るまでどくな、どくな。」と号令した。同一時六分ころ同駅駅長P195お
よび同助役P199がこもごも「列車が遅れるから線路外に退去するよう」通告した
が、同原告は「ウルサイ」「駅長前へ出ろ。」と叫んで、同一時一一分ころまで右
ピケ隊員等とともに同列車の出発を妨害した。そして、右列車が同駅運転掛P222の
出発指示に基づく車掌の出発合図により起動したところ、同原告は、突然機関車前
頭約四メートルの線路内に立ち入り、懐中電燈を振り、同列車の機関士に対し携帯
マイクで、「あぶない、あぶない、線路に人がいるのがわからんか。」と叫んで動
かないので、同列車は約一メートルほど前進して停止するのやむなきに至つた。そ
の後同原告が線路外に退去したので、同列車は同一時一二分発車した。しかし、そ
のため同列車は六分遅延するに至つた。
(五) 広島地区の状況(原告P2、同P11および同P12関係)
 原告P11が昭和三五年七月二九日原告組合の広島地本第一〇回定期大会におい
て、同地本執行委員長に選出され、同年八月一〇日右役職に就任し、また原告P
12が同年九月六日同地本の広島第二支部執行委員長に就任したことは、当事者間に
争いない。
 成立に争いない乙第一号証の一、二、乙第四四号証の一ないし一三、乙第四六号
証、弁論の全趣旨により成立を認める乙第一号証の一四ないし一六、証人P18の証
言により成立を認める乙第三号証の五、第三六、第三七号証、証人P223の証言によ
り成立を認める乙第三八号証の一ないし六、八ないし一一、証人P224の証言により
成立を認める同号証の七、証人P225の証言により成立を認める同号証の一二、証人
P226の証言により成立を認める乙第三九号証の一ないし三、証人P227の証言によ
り成立を認める乙第四〇号証の一ないし三、証人P228の証言により成立を認める乙
第四一号証、証人P229の証言により成立を認める乙第四二号証、証人P230の証言
により成立を認める乙第四三号証、証人P223、同P228、同P229、同P231、同P
232、同P225、同P227、同P226、同P233、同P234、同P235、同P236、同P
237、同P238、同P224、同P239、同P240、同P241、同P242、同P243、同P
244、同P245、同P246、同P247、同P248、同P249、同P250、同P251、同P
230、同P252、同P253、同P254、同P255、同P256、同P257および同P18の各証
言ならびに原告P2本人尋問の結果(但し、証人P237、同P246および同P248の各
証言中後記措信しない部分を除く。)を総合すれば、次の事実が認められる。証人
P237、同P246および同P248の証言中左記認定に反する部分は措信しない。
 原告組合が三月六日東京都で全国組織部長会議を開催し、同会議において、三月
一五日午前〇時から午前九時まで乗務員の一〇割休暇斗争の実力行使を実施するこ
とおよび斗争拠点の一として広島第二支部を加えること等を決定したことは、前認
定のとおりである。原告P11は、広島地本から右会議に出席し、右決定に参画し
た。原告組合の中央斗争委員会が右決定に基づき、三月七日広島地本に対し前記の
ような斗争指令第六号を発したことは、前認定のとおりである。
 原告P2は、派遣中央斗争委員として、三月九日広島に赴いた。原告P11は、広島
地本委員長として、同日宮島職員会館において同地本代表者会議を開き、原告P2は
派遣中斗として、原告P12は広島第二支部委員長として右会議に出席した。右会議
において、原告P2は、広島地本に対し、口頭により前記三月一五日の一〇割休暇斗
争の実施を指令し、かつ右原告ら三名らは、その斗争の実施方法として、広島第二
支部の乗務員全員に当日の休暇申請書を提出させることや代替乗務員の乗務につい
ては、抗議してこれを阻止する等の大綱方針を協議決定した。原告P12は、広島第
二支部斗争委員長として、三月一〇日広二支部斗争委員会を開催し、原告P2および
同P11も出席のうえ、右原告三名らは、右斗争実施を確認するとともに、戦術とし
て次のとおり協議決定した。すなわち、組合役員はオルグとなつて組合員たる乗務
員を説得して一五日の斗争参加と休暇申請書の提出を求めること、斗争参加を確認
した証として、組合員一人一人から捺印を求めること、乗務員を説得して労働会館
に収容し、その乗務を阻むこと、広島地本傘下の広二支部以外の各支部、中国地方
の公労協、広島県労に支援動員を要請すること等を決定したのである。右決定に基
づき、原告P12ら広二支部幹部は、三月一一日から昼夜を問わず、各組合員に斗争
参加を説得して休暇申請書の提出を求め、また斗争当日は乗務を放棄して労働会館
に行くことを要請する活動を行なつてきた。広島第二支部は、三月一一日に広二支
部臨時乗務員集会を、三月一二日職場集会を開き、いずれも七、八〇名の組合員た
る乗務員の出席を得て、原告P12らは、右乗務員に対し、右斗争指令を伝達してそ
の趣旨を徹底させるとともに、斗争への参加を呼びかけた。原告P11は、地本斗争
委員長として、三月一三日地本斗争委員会および戦術委員会を開催し、原告P1およ
び同P12も出席のうえ、役員の任務分担、動員者の配置計画、斗争の実施方法等に
ついて次のとおり協議決定した。すなわち、斗争の総指揮は原告P2がとり、原告P
11および同P12はその下で、指揮班を組織すること、一四日までは動員者を上りホ
ーム、下りホーム、広島第二機関区に配置し、乗務員に対する斗争参加への説得活
動を行なうこと、一四日二二時以降は、第二機関区正門前、同北口機関室出入口、
上りホーム、労働会館、第一機関区に配置して、乗務員の説得活動と乗務阻止をは
かること、具体的な実施方法としては、乗務員を説得して労働会館に収容するこ
と、広島第二支部以外の各支部、特に広島第一支部の乗務員に対して代替要員とし
て乗務命令が出されることが予想されるが、これら各支部の乗務員にもオルグ活動
を行なつて乗務拒否に協力を求めること等を協議決定したのである。
 一方、被告中国支社長P258は、三月一〇日付中国支総第四一三号をもつて、広島
地本執行委員長である原告P11に対し、右斗争は、違法の行為であるから良識ある
行動をとるようにとの警告を発し、また広島第二機関区長P259は、同区正門附近の
掲示板および同区乗務員詰所に、同支社長名の「職員諸君に告ぐ」と題する警告文
を掲示し、職員が斗争を実施しないように警告した。しかし、原告P2、同P11およ
び同P12らの組合役員ならびに支援団体の組合員等約一、〇〇〇名はピケ隊を編成
し、数名ないし約二〇〇名で一団となつて、三月一三日午前八時ころから同機関区
附近または乗務員の出勤、退出の途上において、斗争実施日である三月一五日の午
前〇時から午前九時までに同機関区へ出務すべき勤務予定の乗務員らが、乗務を終
えて同区に帰区する際または同区から帰宅する際、あるいは乗務を終え同区休養室
で休養後さらに乗務のため同区事務室に出務する際、前記休暇斗争に参加するよう
説得勧誘し、広島市<以下略>所在の広島県労働会館に連行し、ここに収容し始め
た。こうして原告組合側は、一四日朝までには、四、五〇名の乗務員を労働会館に
収容して獲得した。原告P12は、三月一四日午後六時ころ約一〇〇名の組合員を指
揮して、機関区事務所前附近をジクザクデモ行進を行なつて気勢をあげた。
 前記のように原告P12らは組合員たる乗務員を説得して、三月一五日の休暇申請
書の提出を促していたのであるが、三月一四日昼ころまでには組合所属乗務員全員
の休暇届をとりまとめた。そして、原告P12は、同日午後七時五〇分ころ、原告P
2らとともに広島第二機関区長室において同区長に対し、三月一五日午前〇時から午
前九時まで休暇斗争を実施する旨通告し、所属組合員約二五〇名の休暇願を提出し
た。同区長は、列車輸送に重大な影響があるとの理由で、右申出を拒否するととも
に、斗争の中止とピケ隊員の退去を要請した。
 それにもかかわらず、乗務員の連行は、依然として継続されたばかりでなく、原
告組合は、三月一四日午後一〇時ころから、第二機関区前広場において、約一、〇
〇〇名の動員者を集めて、総決起集会を開き、原告P2および原告P11らが激励演説
を行なつた。この集会が続いて一五日午前〇時となるや、原告P2および原告P
11は、放送車の上にのぼり、斗争宣言を発し、ピケ隊員に対し、これより実力行使
により乗務員の獲得に行けと号令を発した。かくして、右ピケ隊員は、三月一五日
午前一時五〇分ころからは、約二〇名ないしは約一二〇名が一団となつて、広島駅
において、同駅に到着する列車の機関車の入口にピケを張つて機関車乗務員の乗継
乗務を妨害し、さらに機関車乗務員等に対し、必要以上に入念な乗継点検を行なわ
せた。
 そのような乗務員の連行および乗継乗務妨害のため、乗務員が多数出務を阻止さ
れて欠務し、また列車の遅延等が続出した。その詳細は、次のとおりである。
1 広島第二機関区関係乗務員の連行
(1) 芸備入換(入換第三仕業)関係
 三月一五日芸備入換(入換第三仕業)を担当のため、同日午前〇時広島第二機関
区に出務すべき同区所属の機関士P260および機関士P261の両名は、同月一三日午
後八時ころ芸備入換(入換第二仕業)の乗務を終え、同区において入浴をすませ身
仕度を整えて帰宅の途上、同区構内にある原告組合広島地方本部事務所附近に差し
かかつた際、前記ピケ隊所属の四・五名のピケ隊員にとり囲まれ、広島市内の荒神
踏切附近まで連行され、原告組合役員らが手配した自動車に乗せられ、広島県労働
会館三階の部屋に連行され、同三階廊下の入口扉に鍵をかけられ、その入口附近を
前記ピケ隊所属の約二〇名のピケ隊員が監視し、翌翌一五日の午前四時過ぎころま
で同館に軟禁された。
 このため右乗務員両名は、その出務を阻止され、それぞれ四時間二〇分欠務した
ので、同区長P259は同区所属の機関士P262および機関助士P263の両名を芸備入換
(入換第三仕業)に代務として乗務させるのやむなきに至つた。
(2) 芸備入換(入換第六仕業)関係
 同月一五日芸備入換(入換第六仕業)を担当するため、同日午前二時三〇分同区
に出務すべき同区所属の機関士P264および機関助士P265の両名は、同月一三日午
後一一時三〇分ころ客留入換(入換第五仕業)の乗務を終え同区において身仕度を
整え、帰宅の準備をして同区の更衣室を出た際、前記ピケ隊所属の七名のピケ隊員
に包囲され、衣服の一部を握られ、同地方本部事務所に連れ込まれた後、同ピケ隊
員に包囲されたまま前記荒神踏切附近まで連行され、原告組合役員らが手配した自
動車に乗せられ、前記労働会館に連行され、前記同様翌翌一五日午前四時過ぎころ
まで、同館に軟禁された。
 このため右乗務員両名は、その出務を阻止され、それぞれ一時間五〇分欠務した
ので、同区長は同区所属の機関士P266および機関助士P267の両名を芸備入換(入
換第六仕業)に代務として乗務させるのやむなきに至つた。
(3) 第五特急旅客列車関係
 同月一五日第五特急旅客列車に乗務のため、同日午前三時三五分同区に出務すべ
き同区所属の機関士P268および機関助士P269の両名は、同月一四日午前五時四〇
分ころ第五特急旅客列車の乗務を終え、同区において帰着点呼終了後、同区乗務員
室を出た際、突然前記ピケ隊所属の十数名のピケ隊員によりとり囲まれ、原告組合
役員らが手配した自動車に乗せられ、前記労働会館に連行され、前項同様翌一五日
午前四時過ぎころまで同館に軟禁された。
 このため右乗務員両名は、その出務を阻止され、それぞれ四五分間欠務し、所定
の準備時間一時間のうち四五分間を省略して乗務するのやむなきに至つた。
(4) 第三三急行旅客列車関係
 同月一五日第三三急行旅客列車に乗務のため、同日午前一時一分同区に出務すべ
き同区所属の機関士P270および機関助士P271の両名は、同月一四日午前八時三〇
分ころ、下り第三二九旅客列車の乗務を終え、同区において帰着点呼終了後衣服を
着替え身仕度を整えて帰宅の途上、同区正門附近にさしかかつた際、前記ピケ隊所
属の五、六名のピケ隊員にとり囲まれたので、右乗務員両名は明日勤務があるから
帰してくれと再三抗議したにもかかわらず、原告組合役員らが手配した自動車に乗
せられ、前記労働会館に連行され、前項同様翌一五日午前四時過ぎころまで同館に
軟禁された。
 このため右乗務員両名は、その出務を阻止され、それぞれ三時間一九分欠務した
ので、同区長は同区所属の機関士P241および機関助士P242を第三三急行旅客列車
に代務として乗務させるのやむなきに至つた。
(5) 第六一二旅客列車関係
 同月一五日第六一二旅客列車に乗務のため、同日午前四時三分に出務すべき同区
所属の機関士P247は、同月一四日午前九時三〇分ころ第四五小荷物専用列車の乗務
を終え、同区において帰着点呼終了後、同区事務室附近において、被告がかねて現
地に派遣していた中国支社総務部人事課長P272および同労働課員P229らから斗争
に参加しないよう注意を受けたが、約二〇名のピケ隊員を背景とした組合役員らの
説得監視の中で、原告P2および同P12外三名の組合役員に斗争に参加してくれとい
われて腕をとられ、原告組合役員らが手配した自動車に乗せられ、前記労働会館に
連行され、前項同様翌一五日午前四時過ぎころまで同館に軟禁された。
 このため右乗務員は、その出務を阻止され、一七分間欠務し、所定の準備時間一
時間のうち一七分間を省略して乗務するのやむなきに至つた。
(6) 客留入換(入換第九仕業)関係
 同月一五日客留入換(入換第九仕業)を担当するため、同日午前四時一〇分同区
に出務すべき、同区所属の機関士P224および機関助士P273は、一四日午前一〇時
四五分ころ西方入換(入換第八仕業)の乗務を終え同区において帰着点呼終了後、
右機関士P224は、同区事務室附近において原告P2および同P12らから、休暇斗争
に参加するよう再三説得を受けたが、右乗務員はこれを聞き入れず、帰宅するため
前記荒神踏切にさしかかつた際、前記ピケ隊所属の原告組合正明市機関区支部執行
委員長P238外前記ピケ隊所属の三名のピケ隊員により原告組合役員らが手配した自
動車に乗せられ、また右機関助士P273は、同日午前一〇時四五分ころ同区事務室附
近において、前記ピケ隊所属の四、五名のピケ隊員に腕をとられ、同区正門附近ま
で連行され、原告組合役員らが手配した自動車に乗せられ、右両名は、それぞれ前
記労働会館に移され、前項同様翌一五日午前四時過ぎころまで同館に軟禁された。
 このため右乗務員両名は、その出務を阻止され、それぞれ一〇分間欠務し、所定
準備時間一時間のうち一〇分間を省略して客留入換(入換第九仕業)の乗務をする
のやむなきに至つた。
(7) 第八三四旅客列車関係
 同月一五日第八三四旅客列車に乗務のため、同日午前四時一四分同区に出務すべ
き三次機関区所属機関士P274および機関助士P275の両名は、同月一四日午後七時
四〇分ころ第八七五貨物列車の乗務を終え同区において、到着点呼終了後、同区食
堂から同区休養室に向う途中、前記ピケ隊所属の約四〇名のピケ隊員にとり囲まれ
たので、右乗務員両名は、明日勤務があるから斗争に参加することはできない旨、
抗議したにもかかわらず、そのうちの七、八名のピケ隊員に腕をとられ、前記荒神
踏切附近まで連行され、原告組合役員らが手配した自動車に乗せられ、前記労働会
館に移され、前項同様翌一五日午前四時過ぎころまで同館に軟禁された。
 このため右乗務員両名は、その出務を阻止され、それぞれ二九分間欠務し、所定
の準備時間一時間のうち二九分間を省略して、第八三四旅客列車に乗務するのやむ
なきに至つた。
(8) 第三五急行旅客列車関係
 同月一五日第三五急行旅客列車に乗務のため同日午前一時三三分同区に出務すべ
き、柳井機関区徳山支区所属の機関士P249および機関助士P276の両名は、同日午
前一時三二分ころ同区に出務し、小郡鉄道公安室P277ら約三〇名の鉄道公安職員に
護衛され、広島駅に向う途中、広島第二機関区構内にある原告組合広島地方本部事
務所前において、原告P2が指揮する約二〇〇名のピケ隊員にとり囲まれ、もみ合い
となり、その結果同地方本部事務所に連れ込まれ、原告組合役員らが手配した自動
車に乗せられ、前記労働会館に連行され、前項同様同日午前四時過ぎころまで同館
に軟禁された。
 このため右乗務員両名は、その出務を阻止され、それぞれ二時間四七分欠務した
ので、同区長は、柳井機関区徳山支区所属の機関士P278および機関助士P279を第
三五急行旅客列車に代務として乗務させるのやむなきに至つた。
(9) 第三二急行旅客列車関係
 同月一五日第三二急行旅客列車に乗務のため、同日午前二時九分同区に出務すべ
き、糸崎機関区所属の機関士P280および機関助士P281の両名は、同日午前二時五
分ころ同区に出務のため、同区休養室を出たところ、前記ピケ隊所属の数十名のピ
ケ隊員にとり囲まれ、同地方本部事務所に連れ込まれたので、同乗務員らは再三出
務したい旨申し出たが聞き入れられず、原告組合役員らが手配した自動車に乗せら
れ、前記労働会館に連行され、前項同様同日午前四時過ぎころまで同館に軟禁され
た。
 このため右乗務員両名は、その出務を阻止され、それぞれ二時間一一分欠務した
ので、同区長は糸崎機関区所属の機関士P244および広島第二機関区所属の機関助士
P245を第三二急行旅客列車に代務として乗務させるのやむなきに至つた。
(10) 第八七四貨物列車関係
 同月一五日第八七四貨物列車に乗務のため、同日午前二時一五分同区に出務すべ
き、三次機関区所属の機関士P282および機関助士P283の両名は、同区に出務のた
め、同日午前二時一〇分ころ同区休養室を出たところ、前記ピケ隊所属の約四〇名
のピケ隊員にとり囲まれ、同地方本部事務所に連れ込まれた後、原告組合役員らが
手配した自動車に乗せられ、前記労働会館に連行され、前項同様同日午前四時過ぎ
ころまで同館に軟禁された。
 このため右乗務員両名は、その出務を阻止され、それぞれ二時間一五分欠務し、
同列車はついに運転を休止するのやむなきに至つた。
(11) 第一一四旅客列車関係
 同月一五日第一一四旅客列車に乗務のため、同日午前三時一五分同区に出務すべ
き糸崎機関区所属機関士P284および機関助士P285の両名は、同区に出務のため同
日午前三時一五分ころ同区休養室を出たところ、前記ピケ隊員にとり囲まれ、同地
方本部事務所に連行され、さらに原告組合役員らが手配した自動車に乗せられ、前
記労働会館に移され、前項同様同日午前四時過ぎころまで同館に軟禁された。
 このため右乗務員両名は、その出務を阻止され、それぞれ一時間五分欠務するの
やむなきに至り、第一一四旅客列車の機関車の出区がおくれ、同列車は広島駅を三
八分遅発するに至つた。
(12) 第三七急行旅客列車関係
 同月一五日第三七急行旅客列車に乗務のため、同日午前三時五分同区に出務すべ
き柳井機関区徳山支区所属の機関士P286および機関助士P287の両名は、同日午前
三時二〇分ころ同区に出務すべく同区休養室から出たところ、前記ピケ隊所属の約
一〇〇名のピケ隊員に包囲された後、同地方本部事務所に連行され、原告組合役員
らが手配した自動車に乗せられ、前記労働会館に移され、前項同様同日午前四時過
ぎころまで同館に軟禁された。
 このため右乗務員両名はその出務を阻止され、それぞれ五六分間欠務し、所定の
準備時間一時間のうち五六分間を省略して第三七急行旅客列車に乗務するのやむな
きに至つた。
2 広島第一機関区関係乗務員の連行
 三月一五日第三八急行旅客列車に乗務のため同日午前〇時三〇分広島第一機関区
に出務すべき糸崎機関区所属の機関士P240および機関助士P288の両名は、同月一
四日午後六時三〇分ころ第四三一旅客列車の乗務を終え同区において到着点呼終了
後、同区事務室から広島市<以下略>所在の同区乗務員宿泊所へ向う途中、同事務
室前附近においてピケ隊員約三〇名にとり囲まれ、自動車に乗せられ、広島市<以
下略>所在の広島県労働会館三階の部屋に連れ込まれ、そこに収容された。
 そして、一五日午前〇時二五分ころ同乗務員らから広島第一機関区長室に電話が
あつたので、同区長P228は同区助役P289および広島駐在運輸長付P290を同道し、
労働会館三階へ赴いたが、三階廊下の入口扉が鎖錠されてあるため入室できないの
で、廊下から声をかけたところ、同入口附近の部屋や上下階段から前記ピケ隊員約
二〇名が集まり、同区長らをとり囲んだ。同区長はピケ隊員らに対し右乗務員らを
解放することおよび右乗務員らと面接することを要求したが、ピケ隊員らは「乗務
員らはいない」と言つて入口扉を開けないので、引き返した。そして、同区所属機
関士P291および機関助士P292の両名を第三八急行旅客列車に代務として乗務せし
めようとしていたところ、前記所定の乗務員両名が同一時二五分ころ解放されて出
務したので、その代務を取り消し、所定の右乗務員両名を乗務させた。
 このため右乗務員両名はそれぞれ五五分欠務し、所定の準備時間一時間のうち五
五分間を省略して右列車に乗務するに至つた。
3 広島駅における機関車乗務員の乗務妨害等
(1) 第三一急行旅客列車関係
 三月一五日第三一急行旅客列車の所定機関車乗務員である柳井機関区徳山支区所
属機関士P293および機関助士P294の両名は、同日午前一時五〇分ころ被告派遣の
中国支社総務部労働課補佐P252ら約二〇名の職員および小郡鉄道公安室長P295ら
約七〇名の鉄道公安職員の護衛のもとに同駅一番線に至り同列車に乗務しようとし
た際、前記ピケ隊所属のピケ隊員約八〇名は南側機関車乗降口附近に立ちふさがつ
てピケを張り、右乗務員らの乗車を阻止したので、鉄道公安職員らがこれを排除し
ようとしてもみ合となり、同乗務員らはしばらくして機関車に乗車することができ
た。
 またピケ隊員らは同乗務員らに対し、乗継点検を特に入念に行なうよう要求し、
これを監視しながら実施させ、通常の場合の乗継点検は、同列車の停車時分である
五分以内において行なわれているのに、当日は必要以上に入念に行なわせられた。
 そのため同列車は一九分遅延するに至つた。
(2) 第三三急行旅客列車関係
 同日第三三急行旅客列車の所定乗務員が前記1(4)に記載したように連行せら
れたので、その代務乗務員に指定せられた広島第二機関区所属の機関士P241および
機関助士P242の両名は、同日午前二時一九分ころ被告派遣の中国支社総務部労働課
補佐P252ら約一〇名の職員に付添われ、同駅一番線に至り右列車に乗務しようとし
た際、約八〇名のピケ隊員が右列車の機関車乗降口付近にスクラムを組んでピケを
張り、同乗務員の乗務を阻止した。その際原告P11は、その場において右ピケ隊に
助勢し、右機関士が気動車の運転士への転換教育を修了した直後であることを口実
として、同乗務員の乗務に抗議して、その乗務を妨害した。被告の派遣員である前
記P252はピケ隊員らに対し、三回にわたり国鉄用地外への退去を口頭で要求した
が、同人らはこれを聞き入れず、立退く気配がないので、同三時七分に至り、小郡
鉄道公安室長P295ら約四〇名の鉄道公安職員がその排除に努めたが、右ピケ隊員は
抵抗してピケを張りつづけていた。そこで被告派遣の中国支社営業部長P296は、事
態収拾のため広島駐在運輸長付P297を同機関車に添乗させる措置を講じ、同列車は
同三時四七分ようやく発車することができた。
 そのため同列車は一時間二二分遅延するに至つた。
(3) 第三二二七旅客列車関係
 同日午前二時二六分ころ第三二二七臨時旅客列車は、広島駅二番線に到着し機関
車の付替え等の所定作業を終了して発車しようとしたが、同列車の先行列車である
第三三急行旅客列車が前項でのべたとおり、原告P11を含むピケ隊員らの乗務阻止
により発車できないままとなつていたので同列車も発車できなかつた。被告は第三
二二七臨時旅客列車を先発せしめるよう運行順序を変更し、同二時五十三分同列車
を先発させた。
 このため同列車は二二分遅延するに至つた。
(4) 第三五急行旅客列車関係
 同日午前三時二〇分ころ第三五急行旅客列車は、広島駅二番線で所定の措置が終
了し発車しようとしたが、同列車の先行列車である第三三急行旅客列車が前記
(2)でのべたとおり、原告P11らを含むピケ隊員らの乗務阻止により同三時四七
分まで発車不能となつたので、第三五急行旅客列車は発車できず、第三三急行旅客
列車の発車を待ち、同列車の発車につづいて同駅を出発した。
 そのため、第三五急行旅客列車は二九分遅延するに至つた。
(5) 第三八急行旅客列車関係
 同日第三八急行旅客列車の所定機関車乗務員である糸崎機関区所属機関士P240お
よび機関助士P288の両名は、同日午前二時一八分ころ被告派遣の中国支社総務部人
事課P253ら一〇名の職員の護衛のもとに、同駅四番線に至り、同線に到着した右列
車へ乗務しようとした際、原告組合の広島地方本部執行委員P298の指揮するピケ隊
員約八〇名が右列車の機関車乗降口附近に立ちふさがつてピケを張り、同乗務員ら
の乗車を阻止したが、同二時二八分ころに至り、右乗務員両名はようやく乗車する
ことができた。
 また、ピケ隊員らは同乗務員らに対し乗継点検を入念に行なうよう要求し、これ
を監視しながら実施させ通常の乗継点検は同列車の停車時分である六分以内におい
て行なわれているのに当日は必要以上に入念に行なわせられた。
 そのため同列車は一九分遅延するに至つた。
(6) 第三六急行旅客列車関係
 同日第三六急行旅客列車の所定機関車乗務員である糸崎機関区所属機関士P248お
よび機関助士P299の両名は、同日午前二時五九分ころ下関鉄道公安室長P300ら約
三〇名の鉄道公安職員の護衛のもとに、同駅四番線に至り、同線に到着した同列車
へ乗車しようとした際、前記P298執行委員の指揮する約一〇〇名のピケ隊員が同列
車の機関車乗降口附近にスクラムを組んでピケを張り、同乗務員らの乗車を阻止し
たが、右乗継乗務員らは同三時四分ころに至りようやく交代した。
 またピケ隊員らは前項同様同乗務員らに対し乗継点検を入念に行なうよう要求
し、これを監視しながら実施させ通常の乗継点検は、同列車の停車時分である五分
以内において行なわれているのに当日は必要以上に入念に行なわせた。
 そのため同列車は一三分遅延するに至つた。
(7) 第三二二八臨時旅客列車関係
 同日午前二時一三分第三二二八臨時旅客列車は、広島駅五番線に定時に到着し、
同二時三一分定時に発車しようとしたが、同列車の先行列車である第三八急行旅客
列車および第三六急行旅客列車が前記(5)、(6)でのべたとおりP298執行委員
の指揮するピケ隊員らの乗務阻止により発車できないままとなつていたので、同列
車も発車できなかつた。
 その後被告が第三二二八臨時旅客列車の運行順序を変更して同列車を先発させよ
うとしたところ、P298執行委員の指揮するピケ隊員約二〇名は同駅で乗継乗車した
糸崎機関区所属機関士P301および機関助士P302の両名に対し乗継点検を特に入念
に行なうよう要求し、これを監視しながら実施させた。
 そのため、同列車は三一分遅延するに至つた。
(8) 第三四急行旅客列車関係
 同日第三四急行旅客列車の所定機関車乗務員である糸崎機関区所属機関士P303お
よび機関助士P304の両名は、同日午前三時一二分ころ下関鉄道公安室長P300ら約
一〇名の鉄道公安職員の護衛のもとに、同駅五番線に至り同線に到着した右列車へ
乗車しようとした際、P298執行委員の指揮する約一二〇名のピケ隊員らが同列車の
機関車乗降口附近に立ちふさがつてピケを張り、「正規の乗務員か」など申し立
て、これを口実として乗務を阻止したが、右乗務員らはその後ようやく乗車するこ
とができた。
 その後同ピケ隊員らは前項同様同乗務員らに対し乗継点検を特に入念に行なうよ
う要求し、これを監視しながら実施させ、通常の乗継点検は同列車の停車時分であ
る六分以内において行なわれているのに当日は必要以上に入念に行なわせた。
 そのため、同列車は一四分遅延するに至つた。
(9) 第三二急行旅客列車関係
 同日第三二急行旅客列車の代務乗務員である糸崎機関区所属機関士P244および広
島第二機関区所属機関助士P245の両名は、同日午前三時三二分ころ被告派遣の中国
支社総務部人事課P305ら約一〇名の職員に付き添われ、同駅四番線に至り、同線に
到着した右列車へ乗務しようとした際、P298執行委員の指揮するピケ隊員約一〇〇
名が右列車の機関車乗降口附近に立ちふさがつてピケを張り、所定の乗務員でない
ことなど申し立て、これを口実として右乗務員の乗車を阻止した。同四時五分ころ
中央での交渉が妥結した情報を入手した前記派遣員P305が現地で指導中の原告P
2に対し、この旨を告げピケを解くよう警告したにもかかわらず、これを聞き入れ
ず、同四時二一分ころまでその妨害を継続した。
 このため同列車は四三分遅延するに至つた。
五 本件解雇の効力
 以上認定した本件争議行為の実状と原告ら一二名の行為に、前説示したところに
従い、公労法第一七条第一項および第一八条を適用すれば、本件解雇の効力は、次
のとおりとなる。
(一) 本件争議行為の評価
 本件斗争の内容は、原告組合が旭川地本(旭川支部)、青函地本(長万部支
部)、盛岡地本(青森支部)、水戸地本(水戸支部)静岡地本(浜松支部)天王寺
地本(奈良気動車区支部)、四国地本(高松支部)、広島地本(広島第二支部)、
鹿児島地本(鹿児島支部)および新潟地本(新潟支部)の一〇か所を拠点として、
三月一五日午前〇時から同九時まで乗務員を中心とする一〇割休暇斗争の実力行使
を実施することである。右斗争の結果、一〇拠点のうちの四拠点である旭川、水
戸、浜松、広島第二各機関区関係における三月一五日午前〇時から午前四時ころま
での実状だけによつても、運休したものは、貨物列車が一三本、単行機関車が一
本、遅延したものは、旅客列車が二三本で、遅延最長時間は二時間三一分、貨物列
車が一四本で遅延最長時間は四時間三〇分、荷物列車が一本で遅延時間一時間五九
分、原告組合によつて斗争への参加を説得され連行されたため、乗務または出務す
べき時間帯に欠務した乗務員が一〇二名で、最長欠務時間は一〇時間一八分であ
る。
 拠点とされた一〇支部の属する機関区は、当時のわが国の主要幹線である東海道
本線、東北本線、山陽本線、函館本線、常磐線等の列車運行を担当する機関区であ
り、しかも当該線においては、いずれも最も重要な機関区に数えられるものばかり
である。これによつてみれば、本件斗争は、全国的規模において行なわれたもので
あり、当時におけるわが国の最重要幹線における列車の運行を、三月一五日午前〇
時から九時まで、一〇拠点において阻害しようとするものである。そして現実の斗
争は午前四時ころまでに打ち切られたものの、多数の列車が運休し、または遅延し
た。しかも、これら運転を阻止または遅延させられた列車は、いずれも深夜に幹線
を運行するものであるから、長距離急行列車のような重要な列車が大部分を占めた
ものと推認される。そして、先に述べたような国鉄輸送の連鎖性という特殊事情を
考慮すれば、運休または遅延した右時間帯の列車の運行阻害の影響は、当該地点の
その列車に留まらず、他地点における後続列車や接続列車にも広く悪影響を及ぼし
ているものと推認されるのである。そうすると、本件斗争は、相当な時間にわたつ
て、全国的規模で行なわれたものであり、かつ主要幹線における列車の運行を著し
く阻害するものであるから、公労法第一七条第一項前段にいう公共企業体たる被告
の業務の正常な運営を阻害する行為に該当するものといわなければならない。
 なお、本件斗争は、休暇斗争の形式を踏んでいるけれども、原告組合の指令によ
つて集中的に多数の組合員に休暇届を提出させ、被告側に時季変更の抗弁について
の時間的余裕を与えず、しかも時季変更または業務の阻害を理由に不承認とされて
も、これに従わず、原告の組合員たる乗務員は、三月一五日はともかく勤務につか
ず、業務の正常な運営を妨げようとするものである。したがつて、これは争議行為
に該当するものであつて、違法性を阻却しない。
 原告らの行為のうち、ピケを張つて乗務員の乗務を阻止し、機関車に乗り込んで
乗務員に降車を説得し、または被告職員の業務の執行を実力をもつて妨害した行為
は、争議行為に際し、違法な手段または方法によつて列車の正常な運行を阻害する
結果を招来するおそれのあるものであるから、それ自体公労法第一七条第一項前段
にいう被告の業務の正常な運営を阻害する行為に該当する。
 原告らの行為のうち、中央組織部長会議または各地本斗争委員会等において、協
議のうえ本件争議行為を企画決定した行為は、原告らが特にその決定に反対したと
の反証のない限り、本件争議行為を敢行するため、原告らが共同意思のもとに一体
となつて、互いに他人の行為を利用して、本件争議行為を実施するという各自の意
思を実行に移すことを内容とする謀議をしたものであるから、本件争議行為の共謀
として、同項後段の共謀に該当する。
 原告らの行為のうち、本件争議行為を指令し、総決起集会において激励演説をし
て組合員に斗争への参加を呼びかけ、オルグとなつて組合員に休暇申請書の提出を
促し、または説得活動により乗務を放棄させた等の行為は、本件争議行為を実行さ
せる目的をもつて、組合員に対し、その行為を実行する決意を新たに生じさせ、ま
たはすでに生じている本件争議行為実行の決意を助長させる行為であるから、本件
争議行為をそそのかし、またはあおつたものとして、同項後段のそそのかし、若し
くはあおつたものに該当する。
(二) 原告組合を除くその余の原告らの責任
1 原告P4
 原告P4が第三四回中央委員会(一月一九日)、北海道常任評議委員会(三月四
日)、全国組織部長会議(三月六日)、旭川地本拡大斗争委員会(三月一一日)、
旭川地本戦術委員会(三月一四日)に出席して、本件争議行為の企画実行を協議決
定したことは、本件争議行為の共謀に該当する。同原告が数十名の組合員を指揮し
て乗務員の説得激励のためデモ行進を行なつたこと(三月一四日)および激励大会
において演説をしたこと(三月一四日)は、本件争議行為のあおりまたはそそのか
しに該当する。
2 原告P1
 原告P1が第二二〇九急行旅客列車の機関車運転室に乗り込み、乗務員に降車する
よう説得し、また第二〇九急行旅客列車に乗り込み、乗務員を説得して降車させた
行為(いずれも三月一五日)は、被告の業務の正常な運営を阻害する行為として、
本件争議行為の実行に該当する。同原告が第三四回中央委員会(一月一九日)、全
国組織部長会議(三月六日)、中央斗争委員会(三月七日)、水戸地本斗争委員会
(三月八日)、関東ブロツク拡大戦術会議(三月一三日)に出席して、本件争議行
為の企画実行を協議決定したことは、本件争議行為の共謀に該当する。同原告が水
戸地本に指令第六号を口頭で伝達した行為は、本件争議行為のあおりまたは、そそ
のかしに該当する。
3 原告P6
 原告P6が全国組織部長会議(三月六日)、水戸地本斗争委員会(三月八日)、関
東ブロツク拡大戦術会議(三月一三日)に出席して、本件争議行為の企画実行を協
議決定したことは、本件争議行為の共謀に該当する。同原告が傘下各支部に本件一
〇割休暇斗争の指令を発し、またその支援を要請したこと、および総決起大会にお
いて激励演説をしたこと(三月一三日)は、本件争議行為のあおりまたはそそのか
しに該当する。
4 原告P7
 原告P7が水戸地本斗争委員会(三月八日)、関東ブロツク拡大戦術会議(三月一
三日)に出席して、本件争議行為の企画実行を協議決定したことは、本件争議行為
の共謀に該当する。同原告が「組合員各位に告ぐ」という文書を掲示したこと(三
月一〇日)、総決起大会を開催したこと(三月一三日)、乗務員に対し休暇申請書
の提出を促したことは、本件争議行為のあおりまたはそそのかしに該当する。
5 原告P5
 原告P5が第二二〇九急行旅客列車の機関車運転室に乗り込み乗務員に降車するよ
う説得し、また第二〇九急行旅客列車に乗り込み乗務員を説得して降車させた行為
(いずれも三月一五日)およびP75に対する暴行は、被告の業務の正常な運営を阻
害する行為として、本件争議行為の実行に該当する。同原告が乗務員を説得して連
行した行為(水戸地区1の(2)、(3)、(5)、(7))は、本件争議行為の
あおりまたはそそのかしに該当する。
6 原告P3
 原告P3が、暴力をもつてP192助役の業務命令書の交付を妨害した行為は、被告
の業務の正常な運営を阻害する行為として、本件争議行為の実行に該当する。同原
告が第三四回中央委員会(一月一九日)、全国組織部長会議(三月六日)、中央斗
争委員会(三月七日)、戦術会議(三月一四日)に出席して、本件争議行為の企画
実行を協議決定したことは、本件争議行為の共謀に該当する。同原告が指令第六号
を静岡地本に口頭で伝達した行為および乗務員を説得して連行した行為(浜松地区
1の(1)、(3))は、本件争議行為のあおりまたはそそのかしに該当する。
7 原告P9
 原告P9が全国組織部長会議(三月六日)、静岡地本拡大斗争委員会(三月七
日)、戦術会議(三月一四日)に出席して、本件争議行為の企画実行を協議決定し
たことは、本件争議行為の共謀に該当する。同原告が静岡地本斗争委員長として、
傘下各支部に本件争議行為の実施と支援を指令したことは、本件争議行為のあおり
またはそそのかしに該当する。
8 原告P10
 原告P10が松島旅館を包囲して乗務員の出務を妨げた行為は、被告の業務の正常
な運営を阻害する行為として、本件争議行為の実行に該当する。同原告が静岡地本
拡大斗争委員会(三月七日)、戦術会議(三月一四日)および浜松支部拡大斗争委
員会に出席して本件争議行為の企画実行を協議決定したことは、本件争議行為の共
謀に該当する。同原告がオルグとなつて組合員を説得して本件斗争への参加を呼び
かけ、また各組合員から休暇申請書の提出を求めた行為および乗務員を説得して連
行した行為(浜松地区1の(1))は、本件争議行為のあおりまたはそそのかしに
該当する。
9 原告P8
 原告P8が実力を行使して第一五八貨物列車、第三五二貨物列車および第一三一一
旅客列車の発車を妨害した行為(浜松地区2の(1)、(2))は、被告の業務の
正常な運営を阻害する行為として、本件争議行為の実行に該当する。同原告が多数
の組合員を指揮してホームの上などで気勢をあげ、また横断幕等をはつた行為は、
本件争議行為のあおりまたはそそのかしに該当する。
10 原告P2
 原告P2が第三四回中央委員会(一月一九日)、全国組織部長会議(三月六日)、
中央斗争委員会(三月七日)、広島地本代表者会議(三月九日)、広二支部斗争委
員会(三月一〇日)、広島地本斗争委員会および同戦術委員会(三月一〇日)に出
席して、本件争議行為の企画実行を協議決定したことは、本件争議行為の共謀に該
当する。同原告が広島地本に対し口頭で一〇割休暇斗争の実施を指令したこと、総
決起集会(三月一四日)において激励演説を行ない、斗争宣言の号令を発したこと
および乗務員を説得して連行したこと(広島地区1の(5)、(6)、(8))
は、本件争議行為のあおりまたはそそのかしに該当する。
11 原告P11
 原告P11がピケ隊とともに第三三急行旅客列車の乗務員の乗務を阻止したこと
は、被告の業務の正常な運営を阻害する行為として、本件争議行為の実行に該当す
る。同原告が全国組織部長会議(三月六日)、広島地本代表者会議(三月九日)、
広二支部斗争委員会(三月一〇日)、広島地本斗争委員会および同戦術委員会(三
月一〇日)に出席して、本件争議行為の企画実行を協議決定したことは、本件争議
行為の共謀に該当する。同原告が総決起集会(三月一四日)において激励演説を行
ない、斗争宣言を発したことは、本件争議行為のあおりまたはそそのかしに該当す
る。
12 原告P12
 原告P12が広島地本代表者会議(三月九日)、広二支部斗争委員会(三月一〇
日)、広島地本斗争委員会および同戦術会議(三月一〇日)に出席して、本件争議
行為の企画実行を協議決定したことは、本件争議行為の共謀に該当する。同原告が
組合員に斗争参加を説得して休暇申請書の提出を促したこと、広二支部臨時乗務員
集会(三月一一日)および職場集会(三月一二日)に出席して、組合員たる乗務員
に本件斗争への参加を呼びかけたこと、約一〇〇名の組合員を指揮してデモ行進を
行なつたこと(三月一四日)、乗務員を説得して連行したこと(広島地区1の
(5)、(6))は、本件争議行為のあおりまたはそそのかしに該当する。
13 要約
 以上のとおり本件争議行為は、公労法第一七条第一項前段に該当する違法な争議
行為である。そして、原告組合を除くその余の原告らは、いずれも原告組合の幹部
として、この違法争議行為を企画、実行または指導したものであり、原告ら各自の
行為は、同項に規定する違法争議行為の実行共謀、そそのかしまたはあおり行為に
該当する。そうすると、原告らの行為は、右規定に違反するから、原告らは、同法
第一八条によつて解雇されてもやむを得ないことになる。
(三) 再抗弁についての判断
1 解雇権濫用の主張について
 公労法第一八条は、公労法第一七条第一項違反の争議行為をした職員を一律に解
雇することを規定したものではなく、解雇するかどうかは職員の違法行為の態様、
程度等に応じ合理的な裁量に基づいて決すべきものとする趣旨を規定したことは、
前記のとおりである。しかし、原告ら一二名は、いずれも原告組合の幹部として、
本件争議行為の企画、決定または実行について、指導的な役割を演じ、その行為の
態様、程度、性質等が前認定のとおりであるからには、原告ら各自について特段に
しやく量すべき事情が認められない限り、本件解雇を権利の濫用と目することはで
きない。このような事情については、立証がない。本件争議行為が規模、態様から
みて公労法第一七条第一項の争議行為に該当する限り、原告ら主張の本件争議行為
の目的の正当性は、本件解雇を権利の濫用とする資料としては無力である。
2 不当労働行為の主張について
 原告ら一二名が解雇通告当時、別紙第一記載のとおりの原告組合の役職にあつた
ことは、当事者間に争いなく、また原告ら一二名の原告組合における役職歴等は前
認定のとおりである。これによれば、右原告らは、いずれも活発な組合活動をして
いたものと推認される。しかし、本件解雇が右原告らの組合活動を嫌悪したためな
されたことを認めるに足りる証拠はない。
よつて、再抗弁は採用に値しない。
(四) 雇用契約の消滅
 そうすると、本件解雇は有効であるから、原告ら一二名と被告との間の雇用契約
は、前記解雇の意思表示がなされた日にそれぞれ消滅したものといわなければなら
ない。したがつて、同原告ら一二名と被告との間に雇用契約が存在することを前提
とする同原告らの請求は理由がないことになる。
第三 結論
 よつて、原告組合の訴えは不適法であるから却下し、その余の原告ら一二名の請
求はいずれも失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟
法第八九条、第九三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 岩村弘雄 小笠原昭夫 石井健吾)
(別紙省略)

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