弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
         理    由
 本件抗告の要旨は、「競売申立書添附の建物登記簿謄本によれば、本件競売の目
的不動産は、東京都目黒区ab丁目c番のd家屋番号同町e番のf、g、木造瓦葺
平家建居宅一棟建坪十七坪二合五勺同所附属一、木造杉皮葺平家納屋一棟建坪十六
坪五合であるのにかかわらず、原競落許可決定には、競落を許可した不動産とし
て、右の記載の外、居宅については実測建坪三十三坪七合五勺、納屋については現
状(一)(居宅を指す)に合併と表示せられている。これは、建物所有者たる抗告
人が登記後増築により右二個の建物を合併したるによるものであつて、これにより
右附属建物は消滅したものである。そして原決定の建物の表示は鑑定人Aの実地調
査による評価書によつたものと思われるが、このような場合には、競売裁判所は、
直ちに債権者にこれが補正方を命じ、債権者は、民法第四百二十三条により債務者
に代位してこれを是正しなければならないのであつて、もしそうしないと、競売終
了による所有権移転登記を所轄登記所に嘱託する場合、嘱託書に原決定記載のとお
り記載すれば登記簿とてい触することになり、登記簿の記載どおり記載すれば嘱託
書と競落許可決定とが符合しないことになり、いずれにしても登記できないことに
なる。従つてかかる法規に違背した原決定は違法であるので、「原決定を取り消
す。本件競売は許さない。」との裁判を求める」というにある。
 しかしながら、記録によれば、本件競売申立書に記載せられ現に競売に付せられ
た物件は所論の登記簿に記載せられたとおりの建物であることが明らかである。た
だ競売手続の過程において、右建物の構造並びに実測坪数が登記簿の表示と符合し
ないことがわかつたので、競売裁判所は、建物の同一性にはかわりないが、競買申
出人の注意を喚起し適正な競買価額の申出をさせるようにするため特に競売期日の
公告に不動産の表示として右登記簿どおり記載する外、居宅については実測建坪三
十三坪七合五勺、納屋については現状(一)(居宅を指す)に合併と附記したので
あるが、それがそのまま原競落許可決定に競落を許した不動産の表示として引用せ
<要旨>られたにすぎないのである。このように、競売手続の過程において、競売の
目的建物の構造坪数等が登記簿の表示と符合しない事実が判明したときは、
それが予め知るにおいては手続の開始を妨ぐべき事実とみられるときは、競売裁判
所は、民事訴訟法第六百五十三条の趣旨に準じて処置するのが相当であるが、いや
しくも建物の同一件を失わないと認められる限り、何らの措置を講じないでそのま
ま競売手続を進行して差支ない訳である。従つて本件において問題となるのは、本
件建物の構造の変更、すなわち居宅と納屋とを合併したことが果して建物の同一性
を失う程度までにいたつているかどうかであるが、このように構造の変更を生じた
のは、抗告人が在来家屋に模様替増築を加えたためであり在来建物を取毀の上新ら
たに築造したものでないから、これがため在来の納屋か滅失したとがみることはで
きず、又、その変更の程度からいつて建物の同一性を失う程度までになつていない
と認めるのか相当である。されば債権者に対し本件建物の変更登記手続を命じない
でそのまま手続を進行した本件競売手続は正当であつて何ら違法の点なく、又、原
決定に競落を許した不動産の表示として登記簿どおり記載した外、実測坪数現状を
附記したからといつて、登記簿とてい触する訳ではないのであるから、競売終了に
よる所有権移転登記を所轄登記所に嘱託するにあたり不都合を生ずるようなことは
なく、嘱託を受けた登記官吏は不動産登記法第四十九条第五号第七号により受理を
拒絶することかできないであろう。
 以上の次第で抗告人の抗告理由は理由なく、その他記録を精査するも原決定取消
の事由となすに足る瑕疵を発見することができないので、抗告人の抗告を理由なし
として主文のとおり決定した。
 (裁判長判事 大江保直 判事 岡咲恕一 判事 猪俣幸一)

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