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平成18年(行ケ)第10151号審決取消請求事件
平成18年11月29日判決言渡,平成18年9月20日口頭弁論終結
判決
原告ソックコウベ株式会社
訴訟代理人弁理士丸山敏之,宮野孝雄,北住公一,長塚俊也,久徳高寛
被告株式会社三松
訴訟代理人弁理士大菅義之,佐々木常典
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
「特許庁が無効2005−89044号事件について平成18年3月1日にした
審決を取り消す。」との判決。
第2事案の概要
本件は,商標登録を無効とした審決の取消しを求める事案であり,原告は無効と
された商標の商標権者,被告は無効審判の請求人である。
1特許庁における手続の経緯
(1)原告は,「aimerfeelエメフィール」の文字を標準文字で
横書きしてなり,指定商品を商標法施行令別表の区分による第25類「被服(洋
服,コートを除く。)」とする登録第4478459号商標(平成12年7月12
日出願,平成13年6月1日設定登録,以下「本件商標」という。)の商標権者で
ある(甲174,175,176,240)。
(2)被告が本件商標の登録について無効審判の請求をした(無効2005−8
9044号事件として係属)ところ,特許庁は,平成18年3月1日,「登録第4
478459号の登録を無効とする。」との審決をし,同月13日にその謄本を原
告に送達した。
(3)なお,設定登録当時の指定商品は,「被服」であったが,原告は,審決の
後である平成18年4月11日,洋服,コートについて一部放棄し,同月27日,
その旨の一部抹消登録を経由した(甲176,240)。
2審決の理由
審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本件商標の登録は,商標法4
条1項11号に違反してされたものであるから,同法46条1項の規定により,無
効とすべきである,というのである。
()審決の判断1
ア本件商標について
(ア)本件商標は,標準文字で「aimerfeelエメフィール」と書してなるものであ
るところ,その構成中の後半の「エメフィール」の文字部分は,前半の「aimerfeel」
の文字部分の読みを特定したものと理解されるというのが相当である。そして,本件商標中の「ai
merfeel」の文字部分と「エメフィール」の文字部分は,いずれも親しまれた熟語的意味
合いを想起させるものではなく,また,「aimer」,「エメ」と「feel」,「フィール」と
の間に1字程度の間隔を有するものである。
そうすると,本件商標は,その構成全体の観念及び外観からみて,「aimer」,「エメ」と
「feel」,「フィール」とを常に一体のものとして把握,認識しなければならない特段の理由は
存しない。
(イ)ところで,審判甲1ないし3,6,7,9ないし17,21ないし143,145ないし1
52,154ないし156及び161ないし165(本訴甲1ないし3,6,7,9ないし17,2
1ないし143,145ないし152,154ないし156及び161ないし165)によれば,請
求人は,昭和54年より請求人商品(フォーマルドレス,ブライダルドレス,ウェディングドレス,
パーティードレス,ステージドレス等)の販売を開始し,請求人商品には,「AIMER」及び「エ
メ」の文字よりなる商標(請求人商標。「AIMER」は,引用商標をデザイン化したものであり,
また,「エメ」は,フランス語の「AIMER」の発音を日本語表記したものである。)を販売開始
以来継続して使用していること,請求人は,請求人商品について,請求人商標を表示したパンフレッ
ト,催し物の案内状等を顧客に対し配布したり,ファッション雑誌等に掲載したりして,本件商標の
登録出願前からその査定前を通して継続的に宣伝広告したことなどが認められる。
そうすると,請求人商標は,請求人商品を表示するものとして,本件商標の登録出願日である平成
12年7月12日当時,フォーマルドレスの分野における取引者,需要者の間において,周知なもの
となっていたと認め得るところであり,その周知性は,本件商標の査定時においても継続していたも
のといえる。
(ウ)上記(イ)で認定した事実に,本件商標中の「aimer」,「エメ」と「feel」,「フィ
ール」とを常に一体のものとして把握,認識しなければならない特段の理由が存しないことを合わせ
考慮すると,本件商標に接する需要者は,請求人商品を表示するものとして,フォーマルドレスの分
野において周知となっている請求人商標中の「AIMER」と同一の綴り字よりなる「aimer」
の文字部分,及び請求人商標中の「エメ」と同一である「エメ」の文字部分に強く印象づけられると
いうのが相当である。
したがって,本件商標は,構成全体より生ずる「エメフィール」の称呼のほか,「aimer」及
び「エメ」の文字部分より,単に「エメ」の称呼をも生ずるものであって,「愛する」の観念を生ず
るものといわなければならない。
イ引用商標について
引用商標は,「AIMER」の文字を横書きしてなるものであるから,これより,「エメ」の称呼
及び「愛する」の観念が生ずること明らかである。
()審決の結び2
以上によれば,本件商標と引用商標は,「エメ」の称呼及び「愛する」の観念を共通にする場合が
ある類似する商標といわざるを得ない。
また,本件商標に係る指定商品は,引用商標に係る指定商品に含まれるものである。
したがって,本件商標の登録は,商標法4条1項11号に違反してされたものといわなければなら
ないから,同法46条1項の規定により,無効とすべきものである。
第3当事者の主張の要点
1原告主張の審決取消事由
審決は,本件商標と引用商標との類否の判断を誤り(取消事由1),また,被告
による無効審判の請求が権利の濫用に当たり許されないのに,これを却下すること
なく判断した(取消事由2)ものであるから,取り消されるべきである。
(1)取消事由1(本件商標と引用商標との類否の判断の誤り)
審決は,「本件商標と引用商標は,「エメ」の称呼及び「愛する」の観念を共通
にする場合がある類似する商標といわざるを得ない。」と判断したが,以下のとお
り,誤りである。
ア本件商標について
(ア)日本では英語は著しく普及しているが,それと異なり,フランス語の知識
は需要者には極めて低い事情があるから,「aimer」は特定の概念を与えな
い。むしろ,本件商標は,親しまれた「feel」を手掛かりにして,全体が特定
の意味を持たない1つの商標と解すべきである。
(イ)原告は,本件商標を以下のように使用しているところ,これによれば,本
件商標は,「aimerfeel」や「エメフィール」のそれぞれ一体に使用
され,一息に称呼されているから,常に一体のものとして把握,認識すべきである。
a原告は,毎年数回発行するカタログにおいて,平成12年6月ころは「Fe
el」を使用し,平成13年7月には「Feel」と共に「aimerfee
l」を使用し,平成14年1月には「aimerfeel」だけを使用するよう
になり,さらに,同年9月にはこれに「エメ・フィール」を付し,平成17年5月
には「エメフィール」を付していた。なお,「aimerfeel」は,その文
字中の「i」の点を★印に変えた図案文字にしている。
b原告は,通信販売カタログ「ヴォイ」に掲載した商品広告において,「エメ
フィール」を使用している。
c原告は,ホームページにおいて,平成14年3月から「エメフィール」を表
示して広告している。
d原告は,販売促進用チラシ,案内状において,平成13年11月ころから
「i」の点を★印に変えた「aimerfeel」を使用している。
eそして,原告は,ブラジャー,ショーツ,キャミソール,水着の織りネー
ム,タグ(下げ札)に,上記「i」の点を★印に変えた「aimerfeel」
を付している。
(ウ)後記イ(イ)のとおり,被告による「AIMER」及び「エメ」の文字よりな
る商標(審決における請求人商標,以下「被告商標」という。)の使用には違法性
があるから,たとえ被告商標の使用が事実上行われ,それが大規模であっても,商
標を保護すべき正当な周知性を生じさせることはない。
(エ)本件商標の後半部分から「エメフィール」の称呼は生じるが,「フィー
ル」の部分を外して,「エメ」の称呼をも生じることはない。また,本件商標中の
「feel」の文字部分から「感じる」「感覚」「心地よさ」の観念は生じても,
需要者がフランス語aimerについての語学力を持っていることは期待できない
から,「愛する」という観念は生じ得ない。
(オ)したがって,審決が,「本件商標は,構成全体より生ずる「エメフィー
ル」の称呼のほか,「aimer」及び「エメ」の文字部分より,単に「エメ」の
称呼をも生ずるものであって,「愛する」の観念を生ずるものといわなければなら
ない。」と判断したのは,誤りである。
イ被告商標について
(ア)被告商標は,活字体の「AIMER」ではなく,「A」は両側が平行線で
上部が半円で繋がり,「A」「E」「R」の文字は横線の左端が縦線を超えて左方
へ突出した図案化された文字である。
しかるに,審決は,単に活字体の「AIMER」をもって被告商標であると認定
し,その認定を前提として本件商標と引用商標との類否の判断をしているから,誤
りである。
(イ)カネボウ株式会社(旧商号鐘紡株式会社,以下「カネボウ」という。)
は,昭和41年11月25日,引用商標について,指定商品を「被服,布製身回
品,寝具類」とする商標登録出願をして,昭和43年7月20日,その設定の登録
を受け,その後,被告に対し,引用商標に係る商標権を移転し,平成17年1月1
1日,その旨の登録を経由した。
ところで,被告は,昭和54年から引用商標に類似する被告商標をフォーマルド
レス,ブライダルドレス,ウェディングドレス,パーティードレス,ステージドレ
ス等(審決における請求人商品,以下「被告商品」という。)や女性用下着に使用
してきたものであるが,昭和57年8月14日以降においては,カネボウの許諾な
しに被告商標を使用しており(昭和63年8月31日までは引用商標自体の使用の
許諾がなく,同年9月1日からは引用商標の使用の許諾はあるものの,引用商標の
書体と異なる被告商標の使用の許諾がない。),また,昭和63年9月1日以降に
おいては,カネボウの許諾なしに女性用下着に使用してきた(使用が許諾された商
品はフォーマルドレスである。)。
したがって,昭和57年8月14日以降における被告商標の使用は,カネボウの
引用商標に係る商標権を侵害するものであるから,被告商標が適法に保護されるべ
き周知性を獲得したと認めることはできず,審決が,「請求人商標は,請求人商品
を表示するものとして,本件商標の登録出願日である平成12年7月12日当時,
フォーマルドレスの分野における取引者,需要者の間において,周知なものとなっ
ていたと認め得るところであり,その周知性は,本件商標の査定時においても継続
していたものといえる。」と認定したのは,誤りである。
ウ類否の判断について
(ア)引用商標の指定商品と同じ指定商品を含み,「AIMER」,「エメ」を
要部とする商標として,「AIMERCHAMBRE/エメシャンブル」,「LEtempsd★AI
MER.」,「AIMERLEMIEUX/エメルミウ」,「メール・エメ」,「NATTIERA
IMER」,「AimerLeon/エメレオン」,「エメ・バヌリー」,「AimerGalerie/
エメ・ガルリー」などが被告以外の第三者に商標登録されている。
これによれば,AIMERの文字を含んでも,「AIMER+○○○」の構成か
らなる商標は,「AIMER」単独の引用商標に類似せず,商品出所の混同を考慮
する必要はないということである。「○○○」の文字部分がフランス語又は英語で
あってもこの論理は変わらない。
(イ)引用商標の指定商品を離れると,「AIMER」単独の商標として,3類
「石鹸類,化粧品」(「AIMER/エメ」),9類「眼鏡」(「Aimer/エ
メ」),10類「外科用機器」等(「AV−Aimer」),14類「貴金属」等
(「AIMER」),18類「鞄金具」等(「aimar/エメ」),21類「食
器類」等(「AIMER/エーメ」),25類「靴類」等(「aimar/エメ」)な
どが被告以外の第三者に登録されている。
被告商標が周知のものであれば,同じ綴りの商標が多数商標登録されることはな
かったであろうから,結局,被告商標の周知性は,ブライダルドレスの商品分野に
限って考慮すべきである。しかも,本件商標は,指定商品から洋服,コートを放棄
したから,被告商標との出所の混同を考慮する必要はなくなった。
(ウ)審決は,本件商標が,「AIMER+FEEL」の構成であって,「FE
EL」の文字部分が商標の要部であることを看過し,かつ,被告商品であるブライ
ダルドレスの分野を越えて,ブラジャー,ショーツ,水着を含む原告商品の分野ま
で広げて判断したのであるから,このような審決の判断は,誤りである。
(2)取消事由2(権利の濫用)
ア原告は,ブラジャー,ショーツ,水着を主たる商品とする下着に本件商標を
使用し,全国に100以上の店舗を構えカタログ通信販売によって手広く営業して
いる。これに対し,被告は,ブライダルファッションを内容とする分野で被告商標
を専ら使用しているところ,営業活動を全くしていない原告の商品分野について,
たまたま引用商標の指定商品がそれをカバーしていることを奇貨とし,原告の営業
を妨害するために,上記(1)イ(イ)のとおり,カネボウから引用商標に係る商標権の
移転を受けて,その旨の登録を経由した平成17年1月11日からわずか2か月と
20日後に,本件商標の登録について無効審判の請求をした。
イ上記アの事情によれば,被告による無効審判の請求は,権利の濫用に当たり
許されないから,これを却下すべきであったのに,審決は却下することなく判断し
たから,誤りである。
2被告の反論
(1)取消事由1(本件商標と引用商標との類否の判断の誤り)に対して
ア本件商標について
(ア)商取引の実際,経験則を考慮すると,英語のみならず,フランス語からも
特定の概念が与えられることは普通のことであり,「aimer」について,特定
の概念が与えられないということは考えられない。仮に「aimer」に特定の概
念が与えられないというのであれば,本件商標は,例えば,「aimerな感じ」
というように観察されて特定の概念を持つことになるが,そうすると,「fee
l」の部分は「(的な)感じ」という商品の識別機能を果たさない部分として機能
するのであって,結局,「aimer」の文字部分が自他商品の識別機能を果たす
要部となる。
(イ)原告が使用していると主張する商標は,本件商標ではないから,このこと
をもって,本件商標中の「aimer」と「feel」を一体のものとして把握,
認識すべきであるということはできない。
(ウ)被告は,カネボウから許諾を受けて被告商標を使用しているのであって,
被告による被告商標の使用は,違法でない。
(エ)本件商標の構成自体のみをみても,「aimer」及び「エメ」の文字部
分により「エメ」の称呼を生じるということができる。また,実務上,フランス語
の商標について観念を特定する際に,フランス語の語学力,文法の知識等の有無を
問題とするような取扱いは既に必要とされていないから,「aimer」及び「エ
メ」の文字部分により「愛する」という観念が生じるのである。
(オ)したがって,審決が,「本件商標は,構成全体より生ずる「エメフィー
ル」の称呼のほか,「aimer」及び「エメ」の文字部分より,単に「エメ」の
称呼をも生ずるものであって,「愛する」の観念を生ずるものといわなければなら
ない。」と判断したことに誤りはない。
イ被告商標について
(ア)審決は,被告商標のうちの「AIMER」は,引用商標をデザイン化した
ものであるとしているのであって,単に活字体の「AIMER」をもって被告商標
であると認定したものではない。
(イ)被告は,カネボウから許諾を受けて被告商標を使用していたのであって,
確かに,契約条項を形式的に字面どおりに読めば,使用態様や商品について相違が
あるといえるが,被告による被告商標の使用は,カネボウとの間の契約の趣旨,目
的を損なうものではなく,また,カネボウとの間に契約違反や商標権侵害に関する
紛議は生じていないから,被告商標が違法に周知性を獲得したということはできな
い。
ウ類否の判断について
(ア)審決が本件商標と引用商標との類否の判断に当たり適用した判断手法は,
従来より積み上げられた実務判断に沿って行われた常識的に妥当,適正なものであ
り,原告が引用した各商標登録例は,そのような実務判断に沿って行われたもので
あるから,多数併存するのである。
(イ)本件において問題としているのは,「引用商標の指定商品以外の商品」に
係る(いわゆる著名商標が関係する)商標同士ではなく,(いわゆる周知商標が関
係する)「引用商標と同一又は類似の指定商品」に係る商標同士の類否についてで
あるから,原告の主張は審決の誤りと関係がない。
(ウ)本件商標が,「aimer+feel」の構成であって,「feel」の
文字部分が商標の要部であるとしても,これと同時に,「aimer」の文字部分
も要部である。また,引用商標の指定商品は,ブラジャー,ショーツ,水着を含む
原告商品の分野に及ぶものであるから,指定商品から洋服,コートを放棄したとし
ても,出所の混同の問題は依然として残っている。
エ以上のように,審決が,「本件商標と引用商標は,「エメ」の称呼及び「愛
する」の観念を共通にする場合がある類似する商標といわざるを得ない。」と判断
したことに誤りはない。
(2)取消事由2(権利の濫用)に対して
ア被告は,原告商品の分野においても営業活動をしているのであって,かつ,
無効審判の請求は,原告の営業を妨害するためではなく,自らが係わる被告商標及
び引用商標との類否関係を確認するために,法律上の当然の権利としてしたもので
ある。しかも,無効審判の請求は,商標権者でなければすることができないわけで
はないところ,被告がカネボウから引用商標を譲り受けたのは,自己の立場をより
明確にするだけのことにすぎないのであって,商標権の移転登録を経由した平成1
7年1月11日から2か月と20日後に無効審判を請求したからといって,原告の
営業を妨害することとは何の関係もない。
イしたがって,被告による無効審判の請求が権利の濫用に当たるということは
できないから,却下することなく判断した審決に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(本件商標と引用商標との類否の判断の誤り)について
(1)本件商標について
ア本件商標は,「aimerfeelエメフィール」の文字を標準文字
で横書きしたものであって,その構成自体に照らして,「エメフィール」の文字
部分が「aimerfeel」の文字部分の片仮名表記であり,「aimer」
が「エメ」に,「feel」が「フィール」に対応するものであるということがで
きる。そして,我が国の一般国民の通常の外国語の理解力に照らすと,本件商標を
構成する「aimer」,「エメ」は,「エメ」の表記から,フランス語で「愛す
る」を意味する語であると理解され,また,「feel」,「フィール」は,英語
で「感じる」,「感じ」を意味する語であると理解されると考えられる。
イ本件商標は,上記のように,フランス語の単語と英語の単語とを組み合わせ
た造語とその片仮名表記であって,一体不可分の特定の概念を示すものとはいい難
いところ,簡易迅速性を重んずる取引の実情にかんがみると,その一部分だけによ
って簡略に呼称,観念されることがあり得るといわなければならない。
そこで,検討するのに,甲1ないし3,6,7,9,10,12ないし17,2
1ないし108,112ないし143,145ないし152,154ないし156
及び161ないし165並びに弁論の全趣旨によれば,被告は,昭和25年に昭和
7年創業の呉服店を前身に有限会社として設立され,昭和43年に株式会社に組織
変更された会社であるところ,昭和54年にフォーマルドレス部門として「エメ」
ブランドを創設して,これを付した被告商品の販売を開始し,平成10年4月に
は,被告商品を扱う「エメ」の名称のフォーマルドレス専門店が全国で32店舗に
達したこと,被告は,本件商標の商標登録出願のあった平成12年7月以前に限っ
ても,被告商標を付した新作ドレスの展示即売会のチラシやその招待状,セールの
案内状及び商品のカタログやパンフレット等を顧客に配布したり,「別冊25ans
ウエディング」その他多数のブライダル関連の雑誌に被告商標を付した記事や広
告を掲載したりしていることが認められ,上記事実によれば,被告商標は,我が国
において,本件商標の登録出願がされた平成12年7月12日には,被告商品を表
示するものとして,取引者及び需要者の間に広く認識されるに至り,その状態が現
在においても継続していると認められる。
本件商標は,被告商標のうちの「AIMER」を標準の小文字で横書きした「a
imer」や被告商標のうちの「エメ」と同一の「エメ」をその構成の一部に含む
結合商標であるところ,上記のとおり,被告商標が,被告商品を表示するものとし
て我が国における取引者及び需要者の間に広く認識されていることにかんがみる
と,本件商標は,その外観,称呼及び観念上,被告商標を小文字にした部分(「a
imer」)や被告商標と同一の部分(「エメ」)がその余の部分から分離して認
識され得るものであると考えられる。そして,本件商標の指定商品は洋服,コート
を除く被服であって,被告商品(フォーマルドレス,ブライダルドレス,ウェディ
ングドレス,パーティードレス,ステージドレス等)と同一であるとはいえないも
のの,いずれもファッションに関連する衣服であるから,取引者及び需要者を共通
にすることが多いと考えられる。そうであれば,本件商標がその指定商品に使用さ
れたときは,その構成中の「aimer」,「エメ」の部分がこれに接する取引者
及び需要者の注意を特に強く引くであろうことは容易に予想することができるので
あって,本件商標からは,構成全体により「エメフィール」という称呼を生じると
ともに,「aimer」,「エメ」の文字部分により,単に「エメ」という称呼も
生じ,また,「愛する」という観念を生じるということができる。
ウ原告は,本件商標は,親しまれた「feel」を手掛かりにして,全体が特
定の意味を持たない1つの商標と解すべきである,本件商標の使用態様にかんがみ
ると,本件商標は,「aimerfeel」や「エメフィール」のそれぞれ一
体に使用され,一息に称呼されているから,常に一体のものとして把握,認識すべ
きである,被告による被告商標の使用には違法性があるから,これを保護すべき正
当な周知性を生じさせることはない,本件商標の後半部分から「エメ」の称呼が生
じることはないし,また,需要者がフランス語の「aimer」についての語学力
を持っていることは期待できないから,「愛する」という観念は生じ得ない,など
と主張する。しかしながら,上記イのとおり,簡易迅速性を重んずる取引の実情に
かんがみると,商標の一部分だけによって簡略に呼称,観念されることがあり得る
のであって,本件商標についても,被告商標の周知著名性の程度が高いことに照ら
すと,単に「エメ」という称呼が生じ,また,我が国の一般国民の通常の外国語の
理解力に照らすと,「愛する」という観念を生じるということができるのである。
そして,原告が主張するような態様で本件商標を使用しているとしても,本件商標
が「aimerfeelエメフィール」の文字を標準文字で横書きしたもの
である以上,「エメ」という称呼が生じ,また,「愛する」という観念を生ずると
いうことに変わりはない。なお,被告による被告商標の使用に違法性がないこと
は,後記のとおりである。
また,原告は,被告商標は,活字体の「AIMER」ではなく,「A」は両側が
平行線で上部が半円で繋がり,「A」「E」「R」の文字は横線の左端が縦線を超
えて左方へ突出した図案化された文字であるのに,審決は,単に活字体の「AIM
ER」をもって被告商標であると認定したと主張する。しかし,審決は,被告商標
(請求人商標)のうちの「AIMER」は,引用商標をデザイン化したものである
としているのであって,被告商標における「AIMER」が原告の主張するような
図案化された文字であることを当然に前提としているものである。
さらに,原告は,昭和57年8月14日以降における被告による被告商標の使用
は,カネボウの引用商標に係る商標権を侵害するものであるから,被告商標は,適
法に保護されるべき周知性を獲得したと認めることはできないと主張する。原告の
上記主張は,被告が当初提出した乙1ないし6(昭和63年9月1日から各3年間
ごとの被告商標の使用許諾に関する契約書)中に,昭和57年8月14日から昭和
63年8月31日までの間における被告商標の使用許諾に関する契約書がなかった
こと,乙1ないし6には,いずれも「甲の同意した書体及び態様においてのみ本件
商標を使用するものとし,万一本件商標に係る使用書体又は使用態様を変更すると
きは,事前に甲に書面をもって通知し甲の書面による同意を得なければならな
い。」との条項があるのに,引用商標とは書体の異なる被告商標を使用したこと,
乙2ないし6では,許諾された商品が「フォーマルドレス」であるのに,女性用下
着に使用したことを理由とするものであるということができる。しかしながら,被
告は,その後,昭和57年9月1日から3年間及び昭和60年9月1日から3年間
とする被告商標の使用許諾に関する各契約書(乙10,11)を提出しているし,
また,確かに,乙1ないし6にはいずれも上記の内容の条項があり,乙2ないし6
では許諾された商品が「フォーマルドレス」とされているが,甲224,乙1ない
し6によれば,被告は,カネボウとの間で,昭和63年9月1日から各3年間ごと
に被告商標の使用許諾に関する契約を継続した上,平成17年1月11日には引用
商標に係る商標権の移転を受けていることが認められるところ,この間において,
被告とカネボウとの間に紛争が生じるなど,被告による被告商標の使用がカネボウ
の意思に反するものであることをうかがわせるような特段の事情があることは認め
られないから,被告による被告商標の使用がカネボウの引用商標に係る商標権を侵
害するものであるということはできない。
(2)引用商標について
引用商標は,「AIMER」の文字を横書きしてなるものであり,我が国の一般
国民の通常の外国語の理解力に照らすと,「エメ」の称呼及び「愛する」の観念が
生じると認められる。
(3)本件商標と引用商標との類否について
そうすると,本件商標と引用商標は,「エメ」の称呼及び「愛する」の観念を共
通にするから,本件商標は,引用商標に類似するものである。
(4)原告は,引用商標の指定商品と同じ指定商品を含み,「AIMER+○○
○」の構成からなる商標が被告以外の第三者に登録されているから,「AIME
R」単独の引用商標に類似せず,商品出所の混同を考慮する必要はないと主張す
る。しかしながら,商標登録出願に係る商標が商標法4条1項11号に該当するか
否かは,査定時における指定商品又は指定役務の取引の実情等を考慮して,個別具
体的に判断すべきものであるから,「AIMER+○○○」の構成からなる商標が
登録されているからといって,このことから,「AIMER+○○○」の構成から
なる商標がすべて引用商標に類似しないということはできない。本件商標は,上記
のとおり,引用商標に類似するのであって,このことは,「AIMER+○○○」
の構成からなる商標が登録されていることによっては左右されるものではない。
また,原告は,引用商標の指定商品を離れると,「AIMER」単独の商標が被
告以外の第三者に登録されているのであって,被告商標が周知のものであれば,こ
のように多数の同じ綴りの商標が商標登録されることはなかったであろうから,結
局,被告商標の周知性はブライダルドレスの商品分野に限って考慮すべきであり,
しかも,本件商標は,指定商品から洋服,コートを放棄したから,被告商標との出
所の混同を考慮する必要はなくなったと主張する。しかしながら,商標登録出願に
係る商標が商標法4条1項10号に該当するか否かは,商標登録出願時及び査定時
における商品又は役務の取引の実情等を考慮して,個別具体的に判断すべきもので
あるから,「AIMER」単独の商標が登録されているからといって,このことか
ら,被告商標の周知性が認められる分野を確定することができるわけではない。そ
して,上記のとおり,被告商標は,被告商品を表示するものとして我が国における
取引者及び需要者の間に広く認識されているのであって,本件商標の指定商品が洋
服,コートを除く衣服であるとしても,ファッションに関連するから,本件商標が
その指定商品に使用されたときは,その構成中の「aimer」,「エメ」の部分
がこれに接する取引者及び需要者の注意を特に強く引くであろうと容易に予想する
ことができる。そうすると,指定商品から洋服,コートを放棄したからといって,
被告商標との出所の混同を考慮する必要がなくなったということはできない。
(5)したがって,「本件商標と引用商標は,「エメ」の称呼及び「愛する」の
観念を共通にする場合がある類似する商標といわざるを得ない。」とした審決の判
断に誤りはなく,原告主張の取消事由1は,理由がない。
2取消事由2(権利の濫用)について
(1)上記1(1)イのとおり,被告は,昭和54年にフォーマルドレス部門として
「エメ」ブランドを創設して,これを付した被告商品の販売を開始したものである
ところ,甲224,乙1ないし6,9ないし11によれば,被告は,カネボウとの
間で,昭和54年8月14日から各3年間ごとに被告商標の使用許諾に関する契約
を継続した上,平成17年1月11日には引用商標に係る商標権の移転を受けてい
ることが認められる。そして,被告が原告の営業を妨害する目的で本件商標につい
て無効審判の請求をしたことをうかがわせるような事情はない。
(2)そうであれば,被告による無効審判の請求は,権利の濫用に当たるという
ことはできないから,これを却下することなく判断した審決に何の誤りもない。
したがって,原告主張の取消事由2も,理由がない。
第5結論
以上のとおりであって,原告主張の審決取消事由は,いずれも理由がないから,
原告の請求は棄却されるべきである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
高野輝久
裁判官
佐藤達文

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