弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人嶋倉釮夫の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であ
つて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 所論にかんがみ、職権をもつて判断すると、記録によれば、第一審判決が被告人
を罰金刑に処し、その刑の執行を猶予したため、検察官が量刑不当を理由に控訴し
たこと、原審において、検察官が、刑訴法三八二条の二第一項にいう「やむを得な
い事由」があると主張して、第一審では取調請求していない被告人の前科調書、交
通事件原票謄本四通及び交通違反経歴等に関する照会回答書の取調を請求し、原審
がこれらを取り調べたことが明らかであるが、原審が右前科調書等につき、右「や
むを得ない事由」の疎明があつたものと判断したのか否かは必ずしも明らかではな
い。しかしながら、右「やむを得ない事由」の疎明の有無は、控訴裁判所が同法三
九三条一項但書により新たな証拠の取調を義務づけられるか否かにかかわる問題で
あり、同項本文は、第一審判決以前に存在した事実に関する限り、第一審で取調な
いし取調請求されていない新たな証拠につき、右「やむを得ない事由」の疎明がな
いなど同項但書の要件を欠く場合であつても、控訴裁判所が第一審判決の当否を判
断するにつき必要と認めるときは裁量によつてその取調をすることができる旨定め
ていると解すべきであるから(最高裁昭和二六年(あ)第九二号同二七年一月一七
日第一小法廷決定・刑集六巻一号一〇一頁、同昭和四二年(あ)第一二七号同年八
月三一日第一小法廷決定・裁判集刑事一六四号七七頁参照)、原審が前記前科調書
等を取り調べたからといつて、所論のようにこれを違法ということはできない。
 よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、主文のとおり決定する。
 この決定は、裁判官谷口正孝の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見によ
るものである。
 裁判官谷口正孝の補足意見は次のとおりである。
 一 私も、本件において、原裁判所が第一審裁判所において検察官が取調請求し
ていない被告人の前科調書、交通事件原票謄本四通及び交通違反経歴等に関する照
会回答書を検祭官の請求により取り調べ、被告人に対する量刑資料としたことに違
法視すべきところはないと考える。法廷意見に賛成するものであるが、事は、控訴
審における事実の取調という困難な問題に係るものであるから、一言私なりの意見
を補足しておきたい。
 二 控訴審における事実の取調について、刑訴法は三九三条一項及び二項に規定
をおいている(但し、二項の規定は本件の場合考える必要はない。)。
 ところで、記録によれば、原裁判所において検察官は前記各証拠を第一審裁判所
において取調請求することができなかつたことについて「やむを得ない事由」があ
つたとして、釈明のうえ、その疎明資料の取調請求をしたところ弁護人の不同意に
より検察官はその取調請求を撤回したのであるが、原裁判所は右各証拠を取り調べ
ているのである。右訴訟の経過に鑑みると、原裁判所は検察官の釈明により同法三
八二条の二第一項の疎明があつたものとして右各証拠の取調をしたものか(この場
合は同法三九三条一項但書の規定により必要的取調となる)、それとも同法三九三
条一項本文の規定により検察官の請求により取調の必要があるものと認めて裁量を
以てその取調をしたものか必ずしも明らかでない。検察官が前記の如く同法三八二
条の二所定の疎明資料の取調請求を撤回したに拘らず、原裁判所が右各証拠を取り
調べた所以は、右三九三条一項本文の規定により原裁判所としては裁量的に検察官
の請求を容れ右各証拠を取調することができるものとの見解に出た措置と考えるべ
きであろう。論旨も又そのことを前提として原裁判所の証拠調の措置を違法として
論難しているのである。
 三 さて、控訴審における事実の取調については、見解が岐れている。控訴審は
いわゆる事後審であつて、控訴理由としての事実誤認、量刑不当を主張するについ
ては、訴訟記録及び第一審において取り調べた証拠に現われた事実に基づいて第一
審判決の事実認定、刑の量定の不当を攻撃する仕組みとなつている(同法三八一条、
三八二条参照)。従つて、控訴審における事実の取調は当然制約を受けざるを得な
いわけで、控訴審が第一審において取り調べられなかつた証拠を新たに取り調べる
については、同法三八二条の二所定の場合がその唯一の例外であるという主張が有
力に展開されている。弁護人の所論もこれと同旨の見解に出たものである。確かに
傾聴すべき見解であることを認めるのに吝かではない。
 然しながら、控訴審が事後審構造をとるからといつても、事後審構造の内容をど
のようなものとするかは、立法政策の問題であり、特に訴訟運営の実態を勘案して
これを決めなければなるまい。陪審制をとる訴訟制度のもとでは、事後審の構造は
まさに原判決の当否の判断に終始するのが筋であろう。然し、わが国の訴訟制度は
それと趣きを異にする。もし、わが国の控訴審が唯単に訴訟記緑及び第一審裁判所
が取り調べた事実のみに依拠して第一審裁判所の事実認定についてその心証形成の
過程を追試し、第一審判決の事実認定、量刑の当否を判定する判断に終始するもの
であれば、経験則違背等極めて例外の場合を除いて第一審判決を維持するという結
果に終るであろう。第一審裁判所における弁護側の防禦活動に十全を期し難い現在
の訴訟運営の実態を考える場合、刑訴法の理念とする実体的真実発見を逸するおそ
れがあるばかりか、その結果は被告人の不利益に帰することともなりかねない。昭
和二八年法律第一七二号によつて同法三八二条の二が改正追加されたのもこの辺の
事情を踏まえてのことであつた。もつとも、同条の規定する「やむを得ない事由」
によつて第一審の弁論終結前に取調を請求することができなかつた証拠の意味につ
いても明確ではない。あるいは、物理的不能に限るといい、あるいは心理的不能の
場合も含まれるというふうに学説は対立している。最高裁判所判例は、前科調書の
記載洩れの場合について本条に該当するとしている(同裁判所昭和四八年二月一六
日第二小法廷判決・刑集二七巻一号五八頁)。物理的不能説を採用したとしても十
分理解できる判例であるが、いずれにしてもこの点についての最高裁判所の判例の
立場はこれ迄のところ必ずしも明確に示されていない。「一審で当該証拠を提出す
る必要がないと思つていた」という心理的不能の場合までを右にいう「やむを得な
い事由」に含まれるという考えをとるならば、本件の如き道路交通法違反被告事件
において検察官が罰金刑の求刑をする場合まさか罰金刑について執行猶予の言い渡
しがあるはずはあるまいと思つて、道路交通法違反の前科、前歴等に関する証拠の
取調請求を怠つた場合も右の心理的不能の場合に含まれるのかもしれない。然し、
心理的不能説にいう「一審で当該証拠を提出する必要がないと思つていた」という
基準はあいまいであり、証拠調請求について新たな争訟を作ることにもなりかねな
いと思うのである。心理的不能説は当事者の救済を意図したものではあろうが、右
の問題点がある以上この説に左袒することには躊躇を感ずる。そして、もともと、
この説が「やむを得ない事由」をここまで拡げたのは、控訴審における事実の取調
を極めて厳格に解したからである。
 四 私は、右の「やむを得ない事由」というのは、物理的不能の場合に限ると考
えるが、同時に同法三九三条一項所定の控訴審における事実調については、同項但
書所定の同法三八二条の二の「やむを得ない事由」の存したことについて疎明があ
つた場合は、控訴裁判所としては常にその新たな証拠を取り調べる義務を負うが、
同項本文の場合は、裁量として新たな証拠を取り調べることができる旨を規定した
ものと考える。蓋し、控訴裁判所は、同法三七七条乃至三八二条及び三八三条に規
定する事由に関しては、職権で調査することができるわけであり(同法三九二条二
項)、その調査のために必要があるときは証拠調をすることができるのである(同
法三九三条一項本文、三九二条二項)。この場合、控訴審の構造が事後審構造だか
らというだけで新たな証拠の取調を極めて制限的に解することには前記のような疑
問を残すばかりか、職権調査の実質を失わしめることにもなりかねない。もとより
この場合職権調査といつても、控訴裁判所が記録並びに第一審裁判所が取り調べた
証拠を検討し第一審判決の事実認定、刑の量定について首肯し難いところを認めた
場合に限られることは当然である。このことと対比してみても、当事者の請求によ
る新たな証拠調について同法三九三条一項但書所定の場合に限定して解することに
は賛成しかねる。私は法廷意見に引用する同法三八二条の二の規定追加前の事案に
関し最高裁判所判例が控訴審における事実の取調について説示するところは、同条
追加後もなおその趣旨において維持されるべきものと考える。なお、このように解
することは、第一審における証拠の集中的取調、第一審訴訟手続の重視に毫も影響
を及ぼすものでないことはいうまでもないことである。
  昭和五九年九月二〇日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    角   田   禮 次 郎
            裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    谷   口   正   孝
            裁判官    和   田   誠   一
            裁判官    矢   口   洪   一

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