弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人中村喜一、同菊地養之輔の上告理由第一点について。
 所論の要点は、本件立木は上告人自身の植栽にかかるものであるから、上告人は
その所有権を、公示による対抗要件がなくとも、第三者に対抗しうるのであり、同
旨の大審院判例(昭和一七年二月二四日民集二一巻一五一頁)も存する。原判決は
法律の解釈適用を誤つている、というにある。
 案ずるに、原審確定の事案によれば、上告人が訴外Dから本件山林を買い受け、
地盤所有者として本件立木を植栽して後、Dはこの山林を別に訴外Eに売り渡して
移転登記を得させ、被上告人Bは更に右Eから買い受けて移転登記を経たというの
であつて、上告人はこの山林所有権につき被上告人らに対抗できないのである。た
だ本件立木は上告人が権原に基づいて植栽したものであるから、民法二四二条但書
を類推すれば、この場合、右E・Bらの地盤所有権に対する関係では、本件立木の
地盤への附合は遡つて否定せられ、立木は上告人の独立の所有権の客体となりえた
わけである。しかしかかる立木所有権の地盤所有権からの分離は、立木が地盤に附
合したまま移転する本来の物権変動の効果を立木について制限することになるので
あるから、その物権的効果を第三者に対抗するためには、少なくとも立木所有権を
公示する対抗要件を必要とすると解せられるところ、原審確定の事実によれば、被
上告人らの本件山林所有権の取得は地盤の上の立木をその売買の目的から除外して
なされたものとは認められず、かつ、被上告人らの山林取得当時には上告人の施し
た立木の明認方法は既に消滅してしまつていたというのであるから、上告人の本件
立木所有権は結局被上告人らに対抗しえないものと言わなければならない。これを
立木所有権を留保して地盤所有権のみを移転した場合にたとえ、右と同趣旨の理路
をたどる原判決の説明は正当であつて、所論の違法はない。なお、所論引用の大審
院判例の事案は、未登記の田地所有権に基づき耕作して得た立稲および束稲の所有
権の差押債権者への対抗力に関するものであるが、稲は、植栽から収穫まで僅々数
ケ月を出でず、その間耕作者の不断の管理を必要として占有の帰属するところが比
較的明らかである点で、成育に数十年を予想し、占有状態も右の意味では通常明白
でない山林の立木とは、おのずから事情を異にするものというべく、右判例も必ず
しも植栽物の所有権を第三者に対抗するにつき公示方法を要しないとした趣旨では
ない、と解されるから、本件の前記判示に牴触するものではない。所論は採用でき
ない。
 同第二点について。
 原判決の文旨は所論解除の有無を確定したものとは解しえないが、原審はむしろ、
この有無を本件事案の結論に影響を及ぼす余地のない事柄と見、あえて確定する必
要を認めなかつたものと解される。従つてこの点に原判決の理由不備があると主張
する所論は失当であつて、採用できない。
 同第三点について。
 所論は、原審の事実認定を非難するものであるが、原審認定はその挙示の証拠に
よつて肯認することができ、経験則違反とは認められない。所論は採用できない。
 よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとお
り判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    河   村   又   介
            裁判官    島           保
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    高   橋       潔
            裁判官    石   坂   修   一

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