弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
被告人Aの弁護人山本新の上告趣意第一点及び第二点の一、被告人Bの弁護人今泉
三郎の上告趣意第一点、被告人C、同Dの弁護人長崎祐三の上告趣意について。
 口の島を含む北緯三〇度以南、北緯二九度以北の南西諸島は、本件犯行の当時に
おいては、昭和二四年五月一四日法律第六五号、関税法の一部を改正する等の法律
により改正された関税法一〇四条に基く昭和二四年五月二六日大蔵省令三六号によ
り関税法の適用については外国とみなされていたのであるが、右大蔵省令を改正し
た昭和二七年二月六日大蔵省令五号により、昭和二七年二月一一日以降は右の地域
は、外国とみなされなくなり本邦の地域となつたことは前記法令自体で明である。
所論は右法令の経過に徴すれば本件所為については原判決言渡(昭和二七年一二月
四日)当時において犯罪後の法令により刑の廃止があつた場合にあたるにもかかわ
ららず原判決は免訴の言渡をしなかつた違法があると主張し、又は更に右の前提に
立つて憲法違反を主張するのである。しかしながら右大蔵省令五号によつて外国と
みなされる地域に変更があつても、外国又は外国とみなされる地域と本邦との間に
おいて、免許を受けないで貨物を輸出又は輸入することが禁ぜられているという関
税法上の規範は、昭和二七年二月一一日の前後を通じて依然として存続され、従つ
て無免許輸出又は輸入という所為の可罰性に関する法的価値もまた終始かわるとこ
ろがないと解すべきであるから、右地域の変更は昭和二七年二月一一日以前に成立
した関税法七六条違反の罪の処罰に何ら効果を及ぼすものでないと解するのが相当
である。されば右大蔵省令五号の施行によつて本件所為について刑の廃止があつた
とする所論はいずれも理由がない。次に犯罪後の法令により刑の廃止があつたこと
を前提として、弁護人山本新は原判決を以て憲法三一条又は憲法一八条に違反する
と主張し、弁護人長崎祐三は原判決は憲法三九条を無視した違法があると主張する
のであるが、本件においては犯罪後の法令により刑の廃止があつた場合に当らない
こと右に説明した通りであるから所論違憲の主張はいすれもその前提を欠き採用す
ることができない。
 弁護人山本新の上告趣意第二点の二は量刑不当の主張に帰し、弁護人今泉三郎の
上告趣意第二点は事実誤認、同第三点は量刑不当の主張であつて、いずれも刑訴四
〇五条の上告理由にあたらない。また記録を精査しても刑訴四一一条を適用すべき
ものとは認められない。
 よつて刑訴四〇八条により、後記裁判官の少数意見を除くその余の裁判官一致の
意見で主文の通り判決する。
 裁判官真野毅、同小谷勝重、同藤田八郎、同河村又介、同谷村唯一郎、同小林俊
三の少数意見は、本件において被告人らが物資を密輸出又は密輸入をしたとされて
いる口の島を含む北緯三〇度以南、北緯二九度以北の南西諸島は、本件犯行当時に
おいては、関税法の適用については外国とみなされていたのであるが、昭和二七年
二月一一日以降は、外国とみなされなくなり本邦の地域となつたことは多数説の判
示するとおりである。かかる場合においては、右地域が外国とみなされていた間に、
右地域に向け密輸出なし、又は右地域より密輸入した罪については、犯罪後の法令
により刑の廃止があつたものと解し、被告人らに対しては刑訴四一一条五号により
原判決を破棄し同法三三七条二号を適用して、被告人らを免訴すべきものであるこ
と昭和二七年(あ)第四三四号同三〇年二月二三日言渡大法廷判決記載の真野、小
谷、藤田、河村、谷村、小林六裁判官の少数意見のとおりである。
 裁判官小林俊三は、この点に関し、前記大法廷判決記載の同裁判官の意見と同一
の意見を附加する。
  昭和三〇年七月二〇日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    池   田       克

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