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平成17年2月23日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成16年(ネ)第305号 不当利得返還,貸金請求控訴事件(原審・札幌地方裁判
所平成15年(ワ)第455号,同第1053号)
口頭弁論終結日 平成17年1月14日
判              決
               主              文
1 原判決を次のとおり変更する。
 (1) 被控訴人は,控訴人に対し,108万9000円及びこれに対する平
成15年3月28日から支払済みまで年5分の割合 による金員を支払
え。
 (2) 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
3 この判決第1項(1)及び第2項は,仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
   主文と同旨
第2 事案の概要
1 本件は,被控訴人から多数回にわたり金員を借り入れ,その返済をしてきた
控訴人が,被控訴人に対し,被控訴人は,貸金業の規制等に関する法律に定
める貸金業者であるにもかかわらず,控訴人との取引において所定の契約書
面や領収証等の交付をしなかったばかりか,年利1200パーセントにも及ぶ
著しく高率の利息を受領するなどしたとして,不法行為又は不当利得に基づい
て,控訴人が被控訴人に支払った金員の総額108万9000円全額について
の損害賠償又は不当利得返還及び同金員に対する訴状送達の日の翌日で
ある平成15年3月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅
延損害金の支払を求め(原審の第455号事件),他方,被控訴人が,控訴人
に対し,4回分の貸金合計28万1000円の返済並びに各貸付日から支払済
みまでの年29.2パーセントの割合による約定利息及び遅延損害金の支払を
求めた(原審の1053号事件)ものであるが,原判決は,被控訴人の請求につ
いては,これをいずれも棄却し,控訴人の請求については,一部を認容して,
その余を棄却したところ,控訴人がこれを不服として,前記控訴の趣旨記載の
とおりの裁判を求めて控訴したものである。
2 当事者の主張
 (控訴人の主張)
(1) 控訴人は,平成14年3月14日から平成15年1月31日までの間に,原判
決書別紙取引経過目録1記載のとおり,15回にわたり合計58万5000円
を被控訴人から借り入れ,上記期間中に,被控訴人に対し,10回にわたり
合計108万9000円を支払った。
(2) 被控訴人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)に
定める登録貸金業者である(北海道知事(1)石第○○○号)にもかかわら
ず,控訴人との上記取引において所定の契約書面や領収証等の交付をし
なかったばかりか,控訴人から受領した金員の額は,出資の受入れ,預り
金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)5条所定の利
率を大幅に上回る超高金利の金員であって,同法において刑罰の対象とさ
れるものであった。
(3) 被控訴人による上記貸付けは,それを呼び水にして控訴人から法外の超
高金利による多額の金員を受領することを目的とするものであって,金銭消
費貸借契約に名を借りた悪質な犯罪行為であり,不法行為にあたる。そし
て,控訴人は,金銭消費貸借契約に名を借りた悪質な犯罪行為により,被
控訴人に対し,合計108万9000円の金員を支払わされ,同額の損害を被
った。
  なお,控訴人は,被控訴人から貸金名下に合計58万5000円を受領した
が,それを損害額から控除することは,法は不法な原因に基づく財産変動
の回復について助力しないという民法708条の趣旨に照らし相当ではな
い。
(4) 仮に,被控訴人の控訴人に対する貸付及び返済金の受領が不法行為に
該当しないとしても,上記の事情に照らせば,本件における被控訴人の受
領金員は,そのすべてが貸金業法42条の2や出資法に違反する無効な契
約に基づくものであるから不当利得にあたり,被控訴人は悪意の不当利得
者である。
  また,控訴人が,被控訴人から受領した58万5000円の金員については,
民法708条の趣旨に照らし,これを控訴人の被った損失から控除すべきで
はない。
(5) よって,控訴人は,被控訴人に対し,不法行為又は不当利得に基づいて,
控訴人が被控訴人に支払った金員の総額108万9000円全額についての
損害賠償又は不当利得返還及び同金員に対する訴状送達の日の翌日で
ある平成15年3月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による
遅延損害金の支払を求める。
  (被控訴人の主張)
(1) 被控訴人が,貸金業法に定める登録貸金業者であることは認めるが,控
訴人との取引内容については,原判決書別紙取引経過目録2記載のとおり
であって,貸付金額及び返済受領金額ともに控訴人の主張は事実と異なっ
ている。
(2) また,被控訴人は,貸金業法に則った営業をしていたし,控訴人に対す
る,いずれの貸金についても年29.2パーセントの利息及び損害金の約定
を付したにすぎず,控訴人主張にかかる法外な金利を付したり,法外な金
利による金員を受領したことはない。
(3) したがって,控訴人の本件請求は,前提事実を欠いており,理由がない。
  なお,本件において,被控訴人が控訴人に対して金銭消費貸借契約に基
づいて交付した金員が不法原因給付となる旨の控訴人の主張は争う。
第3 判断
1 被控訴人が,北海道知事の登録を受けた貸金業法上の貸金業者であること
は当事者間に争いがない。
2 甲第2号証,第15号証,第30号証,原審における控訴人,被控訴人代表者
(後記措信しない部分を除く。)及び各項掲記の証拠並びに弁論の全趣旨によ
れば,以下の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
 (1) 控訴人は,平成14年当時,札幌市内の病院に看護師(乙3)として勤務し
ていたが,複数の金融業者から高利の借入れを重ね,その返済に窮してい
たところ,同年3月ころ,電信柱の広告で被控訴人を知り,同月14日,被控
訴人事務所において,金員の借入れを申し込んだ。
   被控訴人は,控訴人の身上・勤務先等について控訴人から聴取した上で
(乙3),同日,控訴人に対し2万5000円を交付したが,その際,返済期限
は控訴人の給料支給日の同月25日とし,返済金額を5万円と定め,返済方
法は持参払とし,また,返済予定日の前日には,控訴人から被控訴人に対
し電話で連絡すべきこと要求した。
 (2) 控訴人は,平成14年3月25日,被控訴人に対し,上記約定返済金5万円
を支払ったほか,以後,原判決書別紙取引経過目録1記載のとおり,被控
訴人から金員を借り入れ,その返済を繰り返した。
3 上記2で認定した事実については,そのほとんどが控訴人の記憶に基づくも
ので,控訴人の記憶を客観的に裏付ける契約書,領収証等の証拠資料を欠く
ものである。これに対し,被控訴人の主張に沿う書証として,被控訴人提出の
控訴人についての貸金台帳(乙2)のみならず,控訴人作成部分について成
立に争いのない乙第1号証の1ないし4があるところ,これらの乙号証につい
ては,その信用性を認めることができないし,上記貸金台帳の記載に沿った被
控訴人代表者の供述もまた信用することができない。
  すなわち,被控訴人は,貸金業者として,貸金業法所定の手続を遵守してい
たとか法外の金利を約定・徴求したことはない旨主張するにもかかわらず,当
審における証人Aの証言によれば,被控訴人は,Aに対し,返済期を1か月後
とし,返済金額を現実の貸付金額の2倍と定めて金員を貸し渡し,その返済を
受けたことが認められ(同証人については,本件の控訴人と被控訴人間の争
訟において虚偽を陳述すべき特別の事情は見当たらない。),また,当審にお
ける証人Bの証言によれば,Bが先に控訴人代理人に提出した陳述書(甲32
の1,33)の内容は,控訴人代理人の示唆や指図に基づくものではなかったこ
とが認められるところ,同陳述書によれば,Bもまた平成15年10月から平成
16年3月ころまでにかけて7回程度被控訴人から借り入れ,返済期間につい
てばらつきはあるものの,現実に借り入れた金員に対し概ね1か月にほぼ倍
額の率に該当する金員を返済していたことが認められる。そして,これらの事
実と別事件(札幌地方裁判所平成16年(ワ)第1086号)におけるCの本人尋問
における供述(甲37)は,少なくとも,被控訴人が金員の貸付及び貸金の回収
に当たって29.2パーセントの利率を全く遵守していなかったということ及び被
控訴人が借主に契約書や領収証を交付することを遵守していなかったし,貸
金の回収に当たって,銀行振込等の客観的痕跡を留めない持参払の方法に
よっていたことなどの点において共通する事実が認められる。してみると,当
審において出頭することなく証言を得ることのできなかったDの控訴人と同旨
の陳述内容が記載された供述録取(甲12)についても,その信用性を認める
ことができるというべきである。
  また,本件に顕れた証拠を総合すると,被控訴人の営む貸金業は,数万円程
度の小口の貸金が大半を占めることが認められるところ,被控訴人は短期間
における貸金では利益が上がらないものの,窮状にある借主に対するボラン
ティアとして,法定の金利を遵守してきた旨主張し,また,そうした主張に沿う
供述をするのであるが,控訴人本人尋問の結果及びその他前記別事件にお
けるCの本人尋問での供述等から認められる平穏さを欠いた取立行為,借主
に対する制裁金を伴った事前連絡要請及び借主からの預金通帳等の徴求・
管理等に照らすと,被控訴人の取立ては熾烈であり,これと相反する被控訴
人の上記主張や供述はいずれも到底信用することができない。
  したがって,その大半を記憶に依拠した控訴人の本件請求については,他の
例における被控訴人の貸付状況に照らし,本件における貸付の大要に関し十
分に信用することができ,また,控訴人の預金口座の入出金状況(甲15)や
被控訴人提出の証拠を参考にして記憶を喚起した上で整理した個々の貸借
及び返済についての控訴人の陳述(甲30)の信用性を首肯することができ
る。
  なお,被控訴人が提出した乙第2号証は,その記載内容を裏付ける客観的資
料の裏付けがなく,貸金業者としての帳簿(貸金業法19条)としてのみならず
通常の商業帳簿としても,その正確性について信用性に乏しく,同号証のみを
もって,上記認定を左右するには足りないといわざるを得ない。また,乙第1号
証の1ないし4については,それらが一度も控訴人に交付されていないことに
照らすと,その記載内容の正確性をにわかに信用することはできない。そし
て,他に上記控訴人やCらの供述の信用性を覆すに足りる証拠は見当たらな
い。
4 以上によれば,被控訴人は,原判決書別紙取引経過目録1記載のとおり,控
訴人との間で金員の授受をしていたことが認められるところ,それは,貸金業
法や出資法を全く無視する態様の行為であり,まさに無法な貸付と回収であっ
て,貸金業者として到底許されない違法行為であるというべきである。
  法は,ある程度の高利による消費者金融を許容してはいるが,本件のように
出資法の罰則に明らかに該当する行為については,もはや,金銭消費貸借契
約という法律構成をすること自体が相当ではなく,被控訴人が支出した貸金に
ついても,それは貸金に名を借りた違法行為の手段にすぎず,民法上の保護
に値する財産的価値の移転があったと評価することは相当ではない。
  したがって,本件において,控訴人が被控訴人に支払った108万9000円は
その全額が被控訴人の不法行為に基づく損害であるといい得るとともに,被
控訴人から控訴人に交付された金員については,実体法上保護に値しないの
みならず,訴訟法上の観点から見ても,被控訴人に利益になるように評価する
ことが許されないものというべきである。このことは,たとえば,通常の取引に
おける債権者の不注意に基づく過失相殺の主張が許されても,当該取引が債
務者の詐欺や強迫による場合には,当の欺罔行為者又は強迫行為者である
債務者からの過失相殺の主張を許さないものとすることと同様に,法の実現
の場面における各行為や主張の評価として民法及び民事訴訟法の前提とな
っているものと解することができる(民法1条,91条,民事訴訟法2条)。
5 以上の次第であるから,控訴人の本件請求のうち,被控訴人の不法行為に
基づく主張は理由があり,したがって,その余について判断するまでもなく,本
件請求を全部認容すべきところ,その一部を棄却した原判決は不当である。
第4 結論
よって,本件控訴は理由があるから,原審第455号事件にかかる原判決部
分を変更することとして,主文のとおり判決する。
    札幌高等裁判所第2民事部
     裁判長裁判官   末   永       進
    裁判官   森       邦   明
    裁判官   杉   浦   徳   宏

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