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裁判例


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平成14年(行ケ)第649号 審決取消請求事件
平成15年7月31日口頭弁論終結
判    決
原   告       新東工業株式会社
訴訟代理人弁護士    山 崎 行 造
同           杉 山 直 人
訴訟代理人弁理士    岩 橋 赳 夫
被   告       特許庁長官 今井康夫
指定代理人       中 田 みよ子
同           涌 井 幸 一
主    文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
特許庁が不服2001-15140号事件について平成14年11月25日
にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成12年6月6日,「静圧造型機ACE」の文字を標準文字で横
書きして成る商標(以下「本願商標」という。)につき,商標法施行令1条別表の
商品及び役務の区分第7類に属する複数の商品を指定商品として,商標登録出願を
した(以下「本件出願」という。)。本願商標の指定商品は,平成13年6月8日
ころなされた補正により「生砂鋳型造型機」とされた。
特許庁は,平成13年6月20日,本件出願につき拒絶査定をした。
原告は,平成13年7月23日,上記拒絶査定に対する不服の審判を請求し
た。
特許庁は,これを不服2001-15140号事件として審理し,その結
果,平成14年11月25日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決を
し,同年12月6日にその謄本を原告に送達した。
2 審決の理由の要点
別紙審決書の写し記載のとおりである。要するに,①本願商標と,「エー
ス」の片仮名文字及び「ACE」の欧文字を二段に横書きして成り,商標法施行令
1条別表の商品及び役務の区分第9類の「理化学機械器具,測定機械器具,配電用
又は制御用の機械器具,回転変流機,調相機,電池,電気磁気測定器,電線及びケ
ーブル,写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,眼鏡,加工ガラス(建築用
のものを除く。),電気通信機械器具,レコード,メトロノーム,電子応用機械器
具及びその部品,電気アイロン,電気式ヘアカーラー,電気ブザー,磁心,抵抗
線,電極,金銭登録機,硬貨の計数用又は選別用の機械,作業記録機,写真複写
機,手動計算機,製図用又は図案用の機械器具,タイムスランプ,タイムレコーダ
ー,電気計算機,パンチカードシステム機械,票数計算機,ビリングマシン,郵便
切手のはり付けチェック装置,アーク溶接機,金属溶断機,電気溶接装置」を指定
商品とする登録第4309825号商標(平成9年9月16日登録出願。平成11
年8月27日設定登録。以下「引用商標」という。)とは,同一の「エース」の称
呼及び観念を生ずる点で相紛らわしく,類似の商標というべきであり,②本願商標
の指定商品「生砂鋳型造型機」と引用商標の指定商品「アーク溶接機,金属溶断
機,電気溶接装置」とは,いずれも金属加工機械器具に属する類似の商品と認めら
れるから,本願商標は商標法4条1項11号に該当する,というものである。
第3 原告の主張の要点
審決は,本願商標の指定商品と引用商標の指定商品との類似性についての判
断を誤り(取消事由1),本願商標の称呼・観念と引用商標の称呼・観念との類似
性についての判断を誤った結果,本願商標と引用商標の類否の判断を誤った(取消
事由2)ものである。これらの誤りが,それぞれ結論に影響を及ぼすことは明らか
であるから,審決は,違法なものとして取り消されるべきである。
1 取消事由1(本願商標の指定商品と引用商標の指定商品との類似性について
の判断の誤り)
審決は,「本願商標の指定商品「生砂鋳型造型機」と引用商標の指定商品
「アーク溶接機,金属溶断機,電気溶接装置」は,いずれも金属加工機械器具に属
する類似の商品と認められる。」と判断した(審決書2頁24行~26行)。しか
し,この判断は誤りである。
(1) 本願商標の指定商品である「生砂鋳型造型機」は,生砂を用いた鋳物用砂
型を製作する機械である。
これに対し,引用商標の指定商品である「アーク溶接機,金属溶断機,電
気溶接装置」は,いずれも主に電気を用いて金属を溶接・溶断する機械装置であ
る。
両者は,その用途を異にすることが明らかである。
商品大辞典(甲第15号証)においては,「一般機械器具」という範疇の
中で,「工作機械」と「産業機械」とは,区別して扱われ,引用商標の指定商品の
属する「金属工作機械」及び「溶接機械」は前者に,本願商標の指定商品の属する
「鋳造機械」は後者に属するものとされている。さらに,「鋳造機械」は,「産業
機械」の中でも,他のより大きな分野に属さない「その他の産業機械」の一つとし
て扱われている。同辞典は,大学,官庁にとどまらず,広く産業界全体から各分野
の専門家を求め,掲載商品群の体系化も強く意識して作られたものであり,そこで
なされている商品の分類にも,各掲載商品の本質及び産業界の実情に照らし,強い
合理性が認められる,というべきである。
総務省が統計基準として用いている日本標準産業分類(甲第23号証)で
は,「一般機械器具製造業」という分類項目の中で,「金属加工機械製造業」とは
別に「特殊産業用機械製造業」という分類項目を設け,この中に「鋳造装置製造
業」を分類している。同分類は,昭和24年10月の設定以来,その後の産業の変
化に応じて何度も改訂が重ねられ,長期にわたり統計基準として通用してきたもの
であり,最近では平成14年に改訂がなされていることから,近時の産業構造を反
映したものということができる。
総務省が統計基準として用いている日本標準商品分類(甲第25号証)に
おいても,「鋳造機械・装置」は,「その他の産業用機械」という分類項目に属す
るものとして,「金属加工機械」とは別の項目に分類されている。
このように,商品や産業を分類する上での基準を提供するいずれの文献に
おいても,鋳造機械は,金属加工機械器具とは別異の分類による取扱いがなされて
いるのであり,これらの分類方法を考慮するならば,審決が,「生砂鋳造造型機」
と「アーク溶接機,金属溶断機,電気溶接装置」とはいずれも「金属加工機械器
具」に属する類似の商品と認められる,としたのは,誤りというべきである。
(2) 本願商標の指定商品である「生砂鋳型造型機」と引用商標の指定商品であ
る「アーク溶接機,金属溶断機,電気溶接装置」とは,その製造者・販売者・需要
者を異にすることが明らかである。
前者の機械の製造者等である,造型機に関連する鋳造業界を取り巻く幅広
い業種の企業を登録会員とする日本鋳造技術協会の登録会員(甲第2号証)と,後
者の機械の製造者等である,「溶接,接合技術に関する技術の向上と普及を図る」
(甲第3号証10頁)ことを目的に組織された日本溶接協会の企業会員(甲第3号
証)とは,大きく異なっている。
被告は,日産自動車株式会社と株式会社日本製鋼所とが両協会の会員とな
っていることを指摘し,鋳造と溶接とが同一企業により行われている実情がある,
と主張する。しかし,このことは,そもそも鋳造造型と溶接とが一般的に同一企業
によって行われていることを示すものではない。両協会に所属する会員が2社にす
ぎないことは,むしろ両指定商品の製造,販売,使用にかかわる者が原則として異
なっていることを示すものである。上記2社は,「鋳造造型」に関係が深い業界団
体である「日本鋳造機械工業会」の会員ではない。これらの事情は,むしろ,本件
商標の指定商品と引用商標の指定商品とに同一又は類似の商標を使用しても,これ
らが同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれはないことを示すも
のというべきである。
被告は,両協会のそれぞれに同一の企業グループ中の別個の企業が所属し
ている事実を挙げて,需要者の共通性を示すものである,と述べる。しかし,通
常,企業グループは,多用な業種をカバーするためにこそ形成されているものであ
るから,同一の企業グループの中で別の企業が関係しているという事実は,それぞ
れの業界に関連する企業が原則的に異なっていることを示しているというべきであ
る。
(3) 本願商標の指定商品である「生砂鋳造造型機」は,極めて大型の機械であ
るのに対し,引用商標の指定商品である「溶接機」は,全体的には小型である。
溶接機の中には,いわゆるホームセンターにおいて,一般の消費者に対し
直接販売されているような製品もある(甲第12,第13号証参照)。これに対
し,「生砂鋳造造型機」は,通常,受注生産の形態がとられている。
本願商標の指定商品である造型機の製造・販売に携わる企業は,極めて少
数である。
これらの事情を考慮するならば,両指定商品については,仮にこれに同一
又は類似の商標を使用したとしても,需要者において,同一の営業主の製造又は販
売に係る商品であると誤認混同するおそれはない,というべきである。
2 取消事由2(本願商標の称呼・観念と引用商標の称呼・観念との類似性につ
いての判断の誤り)
審決は,「本件商標は,その構成文字全体に相応して生じる「セイアツゾウ
ケイキエース」の一連の称呼のほか,単に「エース」の称呼及び観念をも生じるも
のといわざるをえない。」と判断した(審決書2頁16行~18行)。しかし,こ
の判断は誤りである。
(1) 本願商標は,「静圧造型機ACE」全体が一体のものとして需要者の間で
知られている。
造型機を取り扱う業界は非常に限られた業界であり,同業界では,「静圧
造型機」は,原告の商品を表す商標として通用している(甲第26ないし第28号
証)。
(2) 本願商標中の「静圧造型機」は,造型機の特徴や種類を表すものとして使
用されているのではない。
乙第16ないし第21号証中には,「静圧造型機」の語を造型機の特徴や
種類を表す語であるかのように使用している例がある。しかし,これらの使用は誤
った使用であり,これらの使用例があるからといって,そのことから直ちに,「静
圧造型機」の語が造型機の特徴や種類を表す語とされているとすることはできな
い。
(3) 上に述べたところによれば,本願商標は,「セイアツゾウケイキエース」
の一連の称呼及び観念のみを生じるというべきである。本願商標から,「エース」
の称呼及び観念は生じない。
第4 被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であり,審決に,取消事由となるべき誤りはない。
1 取消事由1(本願商標の指定商品と引用商標の指定商品との類似性について
の判断の誤り)について
指定商品が類似のものであるかどうかは,商品自体同士の間で取引上誤認混
同のおそれがあるかどうかにより判定すべきものではなく,それらの商品が通常同
一営業主により製造又は販売されている等の事情により,それらの商品に同一又は
類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認されるお
それがあると認められる関係にある場合には,たとい,商品自体同士が互いに誤認
混同を生ずるおそれがないものであっても,それらは類似の商品に当たるというべ
きである。商品が類似するか否かの判断は,商品の生産・販売の部門,商品の用
途,需要者の関係等を総合的に考慮することによってなすべき事柄である。
両商品が互いに品質,形状,用途を異にするものであっても,それに同一又
は類似の商標を使用すれば同一の営業主の製造又は販売に係る商品と誤認混同され
るおそれがある場合には,これらの商品は類似の商品に当たるというべきである。
(1) 「生砂鋳型造型機」は,生砂を用いた鋳物用砂型を製作する機械である。
「鋳物」は,鉄・青銅・アルミニウム・マグネシウム・アンチモン・錫・鉛などの
金属を溶融し,鋳型に流し込んで造った器物である。「鋳型」は,溶かした金属を
注入して鋳物の形を造るための型であって,その材料によって砂型・金型などがあ
る。また,「鋳造」は,金属を溶かし,鋳型に流し込んで,所要の形に造ることで
ある。これらの用語からみて,生砂鋳型造型機は,鋳造を目的とする機械の一つで
あるということができる。
鋳物砂を鋳型に成形するものである「造型機」も,鋳物砂を使用しないで
鋳造品を得る機械の一種である「金型鋳造機」も,いずれも,「鋳造機械」に含ま
れ(乙第2号証),鋳造品を製造するための機械である点で共通し,製造会社も少
なからず共通していることから,両者は密接な関係にあるということができる。
(2) 「鋳造」と「溶接」との関係についてみると,溶接・溶断する機械は,鋳
造の工程に深く関連性を有するものである。
「鋳造」と「溶接」とが同一企業によって行われている実情もある(乙第
8ないし第14号証)。
甲第2,第3号証によれば,鋳造業界と溶接業界のいずれにも属する会社
の例が存在すること,同一の企業グループに属する複数の会社がそれぞれ鋳造業界
と溶接業界の両業界に存在している例が存在することが認められる。鋳造の機械と
溶接・溶断の機械とは,金属を加工するという目的及び当該機械を用いて行う加工
に従事する企業(需要者)を共通にすることがあるということができる。
(3) 上に述べたところによれば,本願商標の指定商品である「生砂鋳型造型
機」と,引用商標の指定商品である「アーク溶接機,金属溶断機,電気溶接装置」
とは,これに同一又は類似の商標を使用するときは,これに接する需要者をして,
同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認させるおそれがある商品同士,という
関係にあるというべきである。
2 取消事由2(本願商標の称呼・観念と引用商標の称呼・観念との類似性につ
いての判断の誤り)について
本願商標が常に全体を一体のものとしてのみ把握されるとする特段の事情が
あるとは認められない。
本願商標中の「静圧造型機」の文字部分は,造型機の特徴,種類を表したも
のと理解するのが自然である。
「静圧造型機」の語は,静圧造型法を利用した造型機を表すものとして用い
られ(乙第16号証),原告の使用例も含め,造型機の特徴,種類を表したものの
ように用いられている(乙第17ないし第21号証)。
したがって,本願商標がその指定商品に使用された場合,これに接する取引
者・需要者は,その構成中,前半の「静圧造型機」の部分を商品の品質を表したも
のとして認識した上で,後半の「ACE」の文字部分を自他商品の識別標識として
の機能を果たす部分ととらえて,取引に資する場合が決して少なくないものという
べきである。
本願商標は,単に「エース」の称呼及び観念をも生じる,とした審決の認定
判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(本願商標の指定商品と引用商標の指定商品との類似性について
の判断の誤り)について
(1) 審決は,「本願商標の指定商品「生砂鋳造造型機」と引用商標の指定商品
「アーク溶接機,金属溶断機,電気溶接装置」は,いずれも金属加工機械器具に属
する類似の商品と認められる。」(審決書2頁24行~26行)と判断した。
商標法4条1項11号は,商標登録を受けることができない商標として,
「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似す
る商標であって,その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(・・・省
略・・・)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」を挙
げる。
同条項にいう指定商品が類似のものであるか否かは,商品自体同士を対比
して,それらが商品自体として取引上誤認混同のおそれがあるかどうかにより判定
すべきものではなく,商品自体同士の間では取引上互いに誤認混同を生ずるおそれ
がないものであっても,それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときに同一
営業主の製造又は販売に係る商品であると誤認混同されるおそれがある場合には,
これらの商品は,同条項にいう類似の商品に当たると解するのが相当である(最高
裁昭和36年6月27日第三小法廷判決・民集15巻6号1730頁参照。)。
乙第1,第3号証及び弁論の全趣旨によれば,本願商標の指定商品である
「生砂鋳型造型機」とは,生砂を材料として用いた鋳型(溶かした金属を注入して
鋳物の形をつくるための型。乙第1号証)である鋳物用砂型を製作する機械のこと
であること,引用商標の指定商品中の「アーク溶接機,金属溶断機,電気溶接装
置」とは,いずれも主に電気を用いて金属を溶接(金属合金を溶融状態あるいは半
溶融状態で接合する方法。乙第3号証)・熔断する機械装置のことであること,が
認められる。
昭和48年5月20日発行の「改訂3版 鋳物便覧」(日本鋳物協会
編。)には,「溶接補修」として,「気ほう巣,引け巣,砂食い,のろ食い,割れ
などの鋳物表面に現われる鋳造欠陥をガウジング,ガス溶接,はつり,グラインダ
ー作業などで除去し,溶接補修する。溶接法には被覆アーク溶接,ガス溶接,サブ
マージアーク溶接,イナートガスアーク溶接,炭酸ガスアーク溶接などがあるが,
普通鋳鋼の溶接補修には,被覆アーク溶接法が最も広く用いられている」(121
7頁)との記載がある(乙第5号証)。また,インターネットのホームページに掲
載された「“いもの”の知って得する豆知識」の「‐第15回‐鋳造と溶接って関
係あるの?」と題する文章中には,「一般に溶接は大別して二種類,補修溶接と組
立溶接とに別けられる。そして鋳物はこの両者に関りを持つ。鋳物のように形状複
雑,かつ肉厚の異なるものは各所で様々な凝固過程が起こるため思いもよらぬワレ
などを生じることがある。そこで活躍するのが補修溶接である。もちろん製品の使
用用途でワレ厳禁なものワレの程度がひどいもの溶接困難な材質については製品と
なることはない。後者の組立溶接は,構造物に使用されるもので皆さんが一般的に
思い描く溶接でしょう。信頼性,安全性が重視されるが,溶接技術の発展によりこ
れらをクリアし,多くの鋳物が構造物の一部として用いられている。現在のように
鋳物が多方面に需要を得ることができたのは,材質の改善と溶接の発展であり,両
者がともに発展することにより可能性を広げてきた。つまり,鋳物と溶接は切って
も切れない間柄であり,今後の発展のために更なる可能性に向けて両者の開発,発
展を願わずにはいられない。」(乙第4号証)との記載がある。
乙第8ないし第14号証によれば,同一の企業が「鋳造」と「溶接」の双
方を行っていることが少なくないことが認められる。
上に認定したところによれば,本願商標の指定商品に関係する「鋳物」と
引用商標の指定商品中の「アーク溶接機,金属溶断機,電気溶接装置」に関係する
「溶接」とは極めて密接な関係にあるということができるから,上記各指定商品に
同一又は類似の商標を使用するときは,同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤
認混同されるおそれがあるというべきである。
(2) 原告は,本願商標の指定商品である「生砂鋳型造型機」は,生砂を用いた
鋳物用砂型を製作する機械であるのに対し,引用商標の指定商品である「アーク溶
接機,金属溶断機,電気溶接装置」は,主に電気を用いて金属を溶接・溶断する機
械装置であることから,両者は,その用途を異にする,と主張する。
しかしながら,用途が異なる商品同士であっても,類似の商品と認められ
ることは十分にあり得ることであるから,用途が異なることを,商品の類似性を否
定する有力な資料とみることはできない。
原告は,商品大辞典(甲第15号証)や,総務省が統計基準として用いて
いる日本標準産業分類(甲第23号証)及び日本標準商品分類(甲第25号証)に
おいて,本願商標の指定商品の属する商品・産業の分野と引用商標の指定商品の属
する商品・産業の分野とが別個の分類項目に分類されていることを,両指定商品の
類似性を否定する根拠の一つとして挙げる。
しかしながら,例えば,商標法施行令1条別表の商品及び役務の区分も,
結局のところ,数多くある分類方法の一つにすぎないのであり,この分類によって
異なる区分に属するとして分類された商品又は役務同士であっても類似の商品と認
められることがあり得ることは,商標法が当然に予定していることである。このよ
うに,異なる分類項目に分類された商品同士であっても,類似の商品と認められる
ことは,十分にあり得ることであるから,ある分類方法において,分類項目が異な
るとされていることを,商品の類似性を否定する有力な資料とみることはできな
い。
原告は,本願商標の指定商品を扱う業種の企業を登録会員とする日本鋳造
技術協会と,引用商標の指定商品を扱う業種の企業を登録会員とする日本溶接協会
とで,登録会員が異なること,を両指定商品の類似性を否定する根拠の一つとして
挙げる。しかしながら,甲第2,第3号証によれば,日産自動車株式会社及び株式
会社日本製鋼所のように両協会の登録会員に属している企業があること,同一の会
社ではないものの,同じ企業グループに属する複数の会社がそれぞれの登録会員に
属している例もあることが認められる。これらの事実に照らすと,上記各協会の登
録会員の構成をもって,商品の類似性を否定する有力な資料とみることはできな
い。
原告は,本願商標の指定商品である「生砂鋳造造型機」と引用商標の指定
商品である「溶接機」とでは,機械の大きさが異なること,販売の形態が異なるこ
とを,両指定商品の類似性を否定する根拠の一つとして挙げる。しかし,これらの
事情は,いずれも,前記(1)で認定した事情に照らすと,指定商品が類似するとの前
記判断を左右するに足りるものとはなり得ないという以外にない。
上記の各事情を総合しても,前記判断を覆すには足りないというべきであ
る。
(3) 取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(本願商標の称呼・観念と引用商標の称呼・観念との類似性につ
いての判断の誤り)について
(1) 審決は,「本件商標は,その構成文字全体に相応して生じる「セイアツゾ
ウケイキエース」の一連の称呼のほか,単に「エース」の称呼及び観念をも生じる
ものといわざるを得ない。」(審決書2頁16行~18行)と判断した。
原告は,本願商標は「静圧造型機ACE」全体が一体のものとして需要者の
間で知られているから,「エース」の称呼及び観念を生じない,と主張し,甲第2
6ないし第28号証中には,これに沿うかのような記載がある。しかし,これらの
陳述書は,いずれも業界関係者の陳述書にすぎず,その裏付けとなる客観的な資料
が提出されていないことからすれば,上記主張を認めるに足りるものということは
できない。他に原告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。
平成8年11月18日発行の「第4版 鋳型造型法」(社団法人 日本鋳造
技術協会発行。乙第16号証)には,「静圧造型機」の語が,静圧造型法を利用し
た造型機を表すものとして用いられている。
鋳造を業として行っている会社である株式会社北川鉄工所(乙第17号証)
及び石川可鍛製鉄株式会社(乙第18号証)の各ホームページや,新聞記事(19
88年1月28日,11月22日,11月30日の日刊工業新聞,乙第19ないし
第21号証)にも,「静圧造型機」の語が,造型機の特徴,種類を表す語として用
いられている。
これらの事実に,「静圧造型機」という用語自体,もともと,「静圧」を利
用した「造型機」を示すのに,すなわち,造型機の特徴,種類を表すのにふさわし
いものであることを併せ考えると,本願商標に接する取引者・需要者は,「静圧造
型機」の部分を造型機の特徴,種類を表す語として認識し,「ACE」の文字部分
を自他商品の識別標識としてとらえ,取引に資する場合が決して少なくない,と認
めることができる。そうである以上,本願商標からは,「エース」の称呼及び観念
をも生ずる,とした上で,本願商標と引用商標とが類似する,とした審決の判断に
誤りはないというべきである。
(2) 取消事由2も理由がない。
第6 結論
以上によれば,原告主張の審決取消事由は,いずれも理由がなく,その他,
審決の認定判断にはこれを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告の本訴
請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法
61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第6民事部
裁判長裁判官  山  下  和  明
裁判官  阿  部  正  幸
裁判官  高  瀬  順  久

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