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平成19年6月27日判決言渡
平成19年(行ケ)第10084号審決取消請求事件
平成19年5月16日口頭弁論終結
判決
原告ニプロ株式会社
同訴訟代理人弁理士小谷悦司
同川瀬幹夫
同小谷昌崇
被告株式会社ココロ
同訴訟代理人弁理士小池晃
同田村榮一
同藤井稔也
同野口信博
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1原告
(1)特許庁が取消2006−30249号事件について平成19年1月23
日にした審決を取り消す。
(2)訴訟費用は被告の負担とする。
2被告
主文と同旨
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
(1)被告は,登録第1916238号商標(以下「本件商標」という。)の
商標権者である。本件商標は,「ココロ」の片仮名文字と「KOKORO」
の欧文字とを二段に横書に表記したものであり,昭和59年1月27日に登
録出願され,商標法施行令1条別表の第10類(平成3年9月25日政令第
299号による前のもの。以下,単に「第10類」という。)「理化学機械
器具,光学機械器具,その他本類に属する商品」を指定商品として,昭和6
1年11月27日に設定登録された。なお,このうち「その他本類に属する
商品」には,「測定機械器具(電子応用機械器具に属するもの及び電気磁気
測定器を除く。)」がある。
(2)原告は,平成18年2月22日,本件商標につき上記指定商品のうち,
「唾液を用いて人間のストレス度合いを測定する装置その他の測定機械器具
及びこれらに類似する商品」につき,商標登録の取消しを求める審判を請求
し,同年3月14日,同審判請求の予告登録がされた(以下,この登録を
「本件審判請求登録」という。)。
(3)なお,被告は,平成18年11月9日,指定商品の書換登録を申請し,
平成19年1月24日に書換登録がされ,指定商品は,「第1類写真材料」,
「第5類医療用腕環」,「第9類理化学機械器具,光学機械器具,写真機械
器具,映画機械器具,測定機械器具」,「第10類医療用機械器具」,「第
12類車いす」となった。
(4)特許庁は,上記審判請求を取消2006−30249号事件として審理
し,平成19年1月23日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審
決をし,その謄本は平成19年2月2日に原告に送達された。
2審決の概要
審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。その概要は,被告(審判被
請求人)は,本件審判請求登録前3年以内に,日本国内において,本件商標を
取消請求に係る指定商品中の「測定機械器具」に含まれる「RobovieⅡ
表面のセンサー付きソフト素材外装」(以下「被告製品」という。)について
使用していたと認められるから,本件商標の指定商品中,「唾液を用いて人間
のストレス度合いを測定する装置その他の測定機械器具及びこれらに類似する
商品」についての登録は,取り消すことができないというものである。
第3審決の取消事由に係る原告の主張
以下の1ないし5に記載する事実があるにもかかわらず,審決はこれらに反
する認定・判断をした点で,誤りがある。
1取消事由1
被告は,使用に係る商標(以下「被告商標」という。)を使用した対象は,
「商品」に関してではない。
すなわち,甲2(制作伝票)には,被告が株式会社国際電気通信基礎技術研
究所(以下「ATR」という。)から注文を受けた内容が記載されている。こ
れによれば,被告がATRから受けた注文の内容は「新RobovieⅡ表面
のセンサー付きソフト素材外装制作」という加工役務であるから,その取引書
類に「被告商標」を付したとしても,「商品」に使用したことにならない。
2取消事由2
仮に,被告が被告商標を使用した対象が「物」に関してであったとしても,
被告製造に係る「物」は,商標法上の「商品」に該当しない。
すなわち,被告がATRから注文を受けて製造した「物」は試作品である。
商標法上の「商品」は,流通の場に置かれ,取引の対象となるものであること
を要するから,被告が注文を受けて製造した試作品は,商標法上の「商品」に
該当しない。
3取消事由3
被告製品は,原告が取消しの対象とする指定商品の「測定機械器具」に含ま
れない。
すなわち,前記のとおり,被告がATRから注文を受けた内容は,「新Ro
bovieⅡ表面のセンサー付きソフト素材外装」である。しかし,甲2には
「センサアンプの固定およびセンサ∼アンプ間配線はATRで実施」と記載さ
れていることからすると,被告がATRから注文を受けて製造・納品した「ソ
フト素材外装」には,センサアンプ等は含まれていない。そうすると,被告製
品は,「各ピエゾセンサーから出力を解析することで,人の位置や姿勢を推定
することができ,また,各ピエゾセンサー出力の時間変化を解析することで,
人間がロボットのどこをどの様に触ったかといった人間の触り方を抽出・判別
することができる」ものではないので,原告が取消しの対象とする指定商品の
「測定機械器具」に該当しない。
4取消事由4
被告商標と本件商標とは,社会通念上同一の商標ではない。
すなわち,本件商標は,通常書体で同書同大同間隔に表わされた片仮名の
「ココロ」と,通常書体で同書同大同間隔に表わされた欧文字大文字の「KO
KORO」を,片仮名部分を上段,欧文字部分を下段として略1:1の比率で
整然と一体2段に表記されたものである。
これに対し,被告商標は,別紙審決の写し中の別掲「使用に係わる商標」の
とおりであり,創作的書体で表わされた欧文字小文字の子音「k」「k」
「r」に各々ハート体を後続させ,これを欧文字「O」に読ませた「koko
ro」部分と,通常書体で同書同大同間隔に表わされた「DREAMS」部分
と,特殊書体の漢字「株式会社」と通常書体の片仮名「ココロ」を連ねた「株
式会社ココロ」部分とを,順に,「kokoro」部分の縦横の大きさを
「1」,「DREAMS」部分の縦横の大きさを「1/3∼1/2」,「株式
会社ココロ」部分を「1.5∼2」の比率として一体3段に表記されている。
本件商標と被告商標とは,①本件商標が2段書きであるのに対し,被告商標
は3段書きである点,②本件商標が,「ココロ」部分を上段,「KOKOR
O」部分を下段とするのに対して,被告商標は,「kokoro」部分を上段,
「株式会社ココロ」部分を下段とし,「本件商標」に存在しない「DREAM
S」部を中段に挿入している点,③「本件商標」が上段「ココロ」と下段「K
OKORO」を略同大として整然と表記されているのに対して,被告商標は,
「株式会社ココロ」部分が「kokoro」部分の略2倍の大きさを有し,
「DREAMS」部分は「kokoro」部分の略1/2とされている点,④
「本件商標」が,「ココロ」部分を片仮名のみでの構成とするのに対し,被告
商標は,「ココロ」に先行させて「株式会社」を付して「株式会社ココロ」と
している点,⑤本件商標が,「KOKORO」部分を通常書体大文字で同書同
大同間隔の表示とするのに対し,被告商標が「kokoro」部分を,ハート
体を含めて創作的書体小文字で表示している点で相違する。したがって,被告
商標と本件商標とは社会通念上の同一性を欠く。
5取消事由5
被告商標の使用は,商標法50条の「使用」に該当しない。
すなわち,商標法50条の「使用」は,登録商標に信用を化体させる可能性
のある「使用」でなければならず,形式的に商標法2条3項の「使用」に当た
るとしても,信用化体の可能性ある「使用」でない限り,その商標登録の取消
しは免れ得ないと解すべきである。ところで,被告商標は,受注が1回であっ
て,1個の「物」を納品するに当たり,その取引書類に付されたものにすぎな
いものであり,流通の場において取引の目印として使用されたこともない。し
たがって,被告商標の使用態様は,商標法50条にいう「使用」に該当しない。
第4被告の反論
1取消事由1に対して
被告は,被告製品(被告独自の技術を用いて制作された新しいスキン構造を
有するとともに,ATRから支給を受けたセンサを組み込むことにより,測定
機能を備え,人間が違和感なく触れることができ,撫でる,たたく等の触覚コ
ミュニケーションに耐え得るロボットの外装)を,ATRから発注を受けて製
造,納品した。被告は,ピエゾセンサー(圧力センサー)の単なる加工役務を
行ったものではない。
甲2に,受注の内容として,「新RobovieeⅡに,センサー付きソフ
ト素材外装を装着する」と記載されているのは,当該ロボット本体の全身に隙
間なく装着される目的で,被告製品を製造することが注文の内容とされたから
である。被告製品は,一つがロボット本体に着脱自在に装着される目的で,他
の一つが専用スタンドに着脱自在に装着される目的で,それぞれ注文を受けた。
被告は,ロボット本体へ外装を装着する作業も担当したが,同作業は,納品に
当たって,梱包,運送をするための付随的なサービスであって,同作業は独立
した取引の対象ではない。
2取消事由2に対して
甲3(納品書)において「新RobovieⅡ用ソフトセンサ試作」と表記
されたのは,人間との触覚コミュニケーション機能を持った新しいロボットを
製造するに際し,新たな構造のロボット外装を望んだという発注者であるAT
R側の事情によるものである。ATRと被告の取引において,ATRに対して
ロボット外装の製造販売を行った行為は,通常の商品の製造販売行為と何ら変
わるところはない。
3取消事由3に対して
被告製品は,以下の理由により,原告が取消しの対象とした指定商品の「測
定器械器具」に当たる。すなわち,被告製品は,ロボットの体表を覆う柔軟か
つ鋭敏な触感覚を持ち,人との触覚コミュニケーションに耐え得る人工皮膚が
望まれているとの事情を背景に製造されたものであり,センサアンプへの接続
までは実施されず測定機能を前面に出していないが,本体は,人間の触り方を
抽出・判別するという測定機能を有する商品であるから,「測定機械器具」に
含まれる。
4取消事由4に対して
被告商標中,「kokoro」と「ココロ」との間に配置された「DREA
MS」は,「kokoro」及び「ココロ」の部分に比して小さく,書体も異な
ることから,「kokoro」及び「ココロ」の部分と同列に評価することは
できず,また「株式会社」の文字は,「ココロ」の部分に比較して小さく表記
されていることから,「株式会社」の文字は,「ココロ」の部分から分離して
把握し得る。そうすると,被告商標は,「kokoro」及び「ココロ」の二
段併記を基本構成とするものであって,「DREAMS」を小さく表記され,
「株式会社」が併記されたとしても,上記の基本構成に影響を与えない。
したがって,被告商標は,本件商標と社会通念上同一と評価することができ,
被告商標の使用をもって本件商標の使用がされたというべきである。
5取消事由5に対して
被告製品は,受注,製造から納品に至る一度の取引に相当の日数を要する。被
告製品に係るATRとの取引では,受注から納品に至るまでに4か月を要した
のであり,このような長期にわたる取引の過程で,被告商標を付した取引書類を
取り交わすことは,被告商標を商標的機能を発揮した態様で使用したものとい
える。
第5当裁判所の判断
1事実認定
前記当事者間に争いのない事実並びに証拠(甲1の1,2,甲2ないし7,
乙1,2,乙4の1ないし3,乙5,乙9の1ないし15)及び弁論の全趣旨
によると,以下の事実が認められる。
(1)被告製品の製造販売
ア被告は,ロボットの開発,企画製作,製造,販売並びに賃貸等を業とす
る会社である。被告は,本件審判請求登録から3年以内の平成16年8月
18日,ATRから「新RobovieⅡ表面のセンサー付きソフト素材
外装」(被告製品)を2体分の受注を受けた。
その際に,ATRが作成し,被告に注文の内容を指示した制作伝票(甲
2)には下記の記載がある。
「製品名新RobovieeⅡ表面のセンサー付きソフト素材外装制

納期平成16年10月20日
納入場所国際電気通信基礎技術研究所
知能ロボティクス科学研究所第二研究室
指示欄の仕様
新RobovieeⅡに,センサー付きソフト素材外装を装
着する
本体1体は既に工場に借り受け済み
スキンは2体分制作する
スキン保管用のスタンドも同時に制作(2体分)
センサアンプの固定およびセンサ∼アンプ間配線はATRで
実施
色は昨年度制作のRobovie外装と同色
10月に運搬用の専用箱(外装つきで運搬可能)が㈱○○
(甲2では社名はマスク処理されている。)より当社に届きま
す。
センサーはATRより支給」
イ被告は,平成16年12月15日,ATR内にある知能ロボティクス研
究所第二研究室へ被告製品を納品した。
ウ「新RobovieⅡ」とは,ATRが開発した人型ロボットであり,
ロボット単体の知能だけでなく,社会関係や周囲状況に応じた対話行動が
できる社会的知能を備え,身振り,発話,スキンシップ等様々な手段で,
人と違和感のないコミュニケーションを実現する技術が組み込まれている。
「新RobovieⅡ表面のセンサー付きソフト素材外装」は,この
「新RobovieⅡ」の体表を覆う人工皮膚の外装であり,その構造は,
人間の皮膚に似た触感覚を担保するシリコン樹脂シートと,シリコン樹脂
シート上に複数配設されたピエゾセンサーと,ピエゾセンサーからの出力
を制御回路に送る配線と,これらピエゾセンサー及び配線をシリコン樹脂
シートとの間で挟持するウレタンシート及びベースシートからなっており,
樹脂シートの全面にわたってピエゾセンサーが規則的に配列されているた
め,人がロボットに触れると,その触れる場所によってピエゾセンサーの
出力が異なるため,その各ピエゾセンサーからの出力を解析することで,
人の位置や姿勢を推定することができ,また,各ピエゾセンサー出力の時
間変化を解析することで,人間がロボットのどこをどの様に触ったかとい
った人間の触り方を抽出・判別することができるものである。
(2)本件商標の内容及び被告商標の使用態様
ア被告は,被告製品を製造し,ATR内にある知能ロボティクス研究所第二
研究室に対して納品するに当たり,納品書(控)(甲3),物品受領書
(甲4),請求書(甲5)の右上に被告商標を付して被告商標を使用した。
なお,上記納品書(控),物品受領書及び請求書の「商品コード/品
名」あるいは「商品名」の欄には「新RobovieⅡ用ソフトスキンセ
ンサ試作」との記載がある。また,納品書(控)及び請求書には「単価」
及び「金額」欄に金額が記載されている(甲3,5の当該欄はマスク処理
されている。)。
イ本件商標は,通常書体で同書同大同間隔に表わされた片仮名の「ココ
ロ」と,通常書体で同書同大同間隔に表わされた欧文字大文字の「KOK
ORO」を,片仮名部分を上段,欧文字部分を下段として略1:1の比率
で整然と一体2段に表記されたものである。
これに対し,被告商標は,別紙審決の写し中の別掲「使用に係わる商
標」のとおりであり,3段に分けて,上段には,創作的書体で表わされた
欧文字(小文字)で,「o」の文字はハート型の書体を用いて「koko
ro」と読むことができる態様で,太く大きく表記され,中段には,欧文
字(大文字)で「DREAMS」と小さく表記され,下段には,漢字で
「株式会社」を小さく,片仮名「ココロ」を太字で大きく表記されている。
各文字の縦の長さの大きさの比率は,おおむね「kokoro」部分,
「DREAMS」部分,「株式会社」部分,「ココロ」部分の順に,1対
0.3対0.8対1.2である。
2取消事由の有無について
以上認定した事実に基づいて,原告の主張する取消事由の有無について,以
下判断する。
(1)取消事由1及び2について
前記1で認定した事実によると,平成16年8月18日,ATRと被告と
の間で成立した契約(取引)は,被告において,被告製品「新Robovi
eⅡ表面のセンサー付きソフト素材外装」を対象として,その製造及び販売
を内容とするものである。被告が同契約に基づいて製造,販売した被告製品
は,人型ロボットである「新RobovieⅡ」の体表を覆う人工皮膚部
(外装)であるから,被告製品が商標法2条3項1号所定の「商品」に該当
することは明らかである。この点について,「納品書」(控え)及び「請求
書」には「新RobovieⅡ用ソフトスキンセンサ試作」と記載されてい
るが,同記載から,被告がATRと締結した契約の目的が,加工役務と見る
ことはできない。同記載は,むしろ,ATRにおいて,納品を受けた被告製
品を装着したロボットを,商用品としてではなく,試作品として使用する意
図があったと推認するのが相当である。そうであるとすると,被告が製造し
た被告製品(外装)をATRに,正に販売しているのであるから,前記の認
定を左右するものではない。
よって,上記取引が「新RobovieⅡ表面のセンサー付きソフト素
材外装制作」という加工役務であり「商品」ではない,あるいは,試作品で
あるから商標法上の「商品」ではないという原告の主張は,いずれも理由が
ない。
(2)取消事由3について
ア原告が登録商標の取消の対象とした指定商品は「唾液を用いて人間のス
トレス度合いを測定する装置その他の測定機械器具及びこれらに類似する
商品」である(なお,取消審判の請求の対象たる指定商品の特定が審判手
続との関係で適切であったか否かついては,後述する。)。
そこで,上記取引の内容である被告製品が,原告の取消しの対象とした
「唾液を用いて人間のストレス度合いを測定する装置その他の測定機械器
具及びこれらに類似する商品」のいずれかに該当するか否かを判断するこ
ととする(もとより,審判における争点は,取引の対象たる被告製品が,
商標法施行規則6条(平成8年12月25日通商産業省令第79号による
改正前の同規則3条)別表所定の「測定機械器具」に該当するか否かにあ
るのではなく,被告製品が,原告において取消しを求めた指定商品のいず
れかに該当するか否かにある。)。
イ前記1で認定した事実によると,被告製品は,「新RobovieⅡ」
の体表を覆う人工皮膚の外装であり,人間の皮膚に似た触感覚を担保する
シリコン樹脂シートと,シリコン樹脂シート上に複数配設されたピエゾセ
ンサーと,ピエゾセンサーからの出力を制御回路に送る配線と,これらピ
エゾセンサー及び配線をシリコン樹脂シートとの間で挟持するウレタンシ
ート及びベースシートから構成され,樹脂シートの全面にわたってピエゾ
センサーが規則的に配列されているため,人がロボットに触れると,その
触れる場所によってピエゾセンサーの出力が異なるため,その各ピエゾセ
ンサーからの出力を解析することで,人の位置や姿勢を推定することがで
き,また,各ピエゾセンサー出力の時間変化を解析することで,人間がロ
ボット(新RobovieⅡ)のどこをどのように触ったかという人間の
触り方を抽出・判別することができる製品である。そうすると,少なくと
も被告製品を装着した「新RobovieⅡ」自体は人間が当該ロボット
に触れたときにそのどこをどのように触ったかといった触り方を測定する
測定機械器具であるといえるので,それを構成し,当該ロボットにそのよ
うな機能を付与する「新RobovieⅡ表面のセンサー付きソフト素材
外装」は,測定機械器具を構成し,その重要な機能を奏する要素たる機械
器具の一つであり,原告において取消しを求めた指定商品たる「測定機械
器具」に含まれるものと解するのが相当である。
もっとも,前記1で認定した事実によると,制作伝票(甲2)に「セン
サアンプの固定およびセンサ∼アンプ間配線はATRで実施」,「センサ
ーはATRより支給」との記載があり,これによれば,センサーの準備及
び配線の実施等は被告製品の納品を受けたATR側において行うことが予
定されていたが,そのような作業をATRにおいて実施する経緯があった
からといって,上記の認定に影響を与えるものではない。
(3)取消事由4について
前記1で認定した本件商標と被告商標との構成に基づいて両者を対比する。
本件商標は,「ココロ」の片仮名文字と「KOKORO」の欧文字とを二
段に横書に表記したものであるのに対して,被告商標は3段に分けて,上段
には,創作的書体で表わされた欧文字(小文字)で「kokoro」と読め
るように,しかも「o」の文字はハート型の書体を用いて,全体を太く大き
く表記され,中段には,欧文字(大文字)で「DREAMS」と小さく表記
され,下段には,漢字で「株式会社」を小さく,片仮名「ココロ」を太字で
大きく表記されており,形式的に対比する限りは,本件商標と被告商標は同
一でない。
しかし,被告商標において,太字で大きく記載されているのは,上段の
「kokoro」の部分,及び下段右側の「ココロ」の部分であることから
すると,「ココロ」の片仮名文字と「KOKORO」の欧文字とを二段に横
書に表記した本件商標と,社会通念上同一の範囲に属するものとみて差し支
えないと解される。
(4)取消事由5について
前記のとおり,ATRと被告との間で成立した契約(取引)の内容は,被
告が被告製品である「新RobovieⅡ表面のセンサー付きソフト素材外
装」の製造及び販売を対象とするものである。取引の回数が1回であり,対
象となった商品が1個であったとしても,その取引の過程で取引書類(納品
書(控),物品受領書,請求書)に被告商標を付している以上,商標法所定
の商標の使用と認定する妨げにはならない。本件のように,ロボットの外装
という特殊な用途に使用される製品の製造,販売を対象とする特異な取引態
様において,被告製品自体に商標を付することは困難が伴うという事情を考
慮するならば,これらの取引の過程で作成した取引書類に被告商標を付した
行為をもって,商標の使用に該当すると解するのが相当であるというべきで
ある。
(5)小括
以上のとおりであり,審決には,原告の主張に係る取消事由はいずれも認め
られない。
3結語
(1)まず,本件審判手続に関して,以下の点を指摘する。
ア本件審判手続において,原告(審判請求人)は,「唾液を用いて人間の
ストレス度合いを測定する装置その他の測定機械器具及びこれらに類似す
る商品」につき,商標登録の取消しを求めた。これに対し,被告(審判被
請求人)は,原告が取消しを求めている指定商品の範囲が不明確であり,
不適法な審判請求であるから,許されないものであると主張した。審決は,
「唾液を用いて人間のストレス度合いを測定する装置」が具体的にどのよ
うな商品であるかを把握できなかったとしても,審判請求人が取消しを求
めているのは,該商品を含む測定機械器具であり,「測定機械器具」自体
は,平成3年10月31日通商産業省令第70号をもって改正された商標
法施行規則の前後を問わず,その別表中に掲載されている商品表示である
から,請求人が取消を求めている商品の範囲が不明確であるとはいえない
として,審理を進めた。
イしかし,上記の審判手続の進行には,以下のとおり,妥当を欠く点があ
る。
商標法50条は,継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使
用権者又は通常使用権者(以下,単に「商標権者」という。)が,各指定
商品又は指定役務(以下,単に「指定商品」という。)についての登録商
標を使用していない場合に,その指定商品に係る登録商標の取消審判を請
求することができると規定し,この場合,審判請求登録前3年間,商標権
者がその請求に係る指定商品のいずれかについての登録商標の使用をして
いることが証明されない限り,その指定商品の商標登録が取り消される旨
を規定する。
ところで,取消審判請求の審理の対象たる指定商品の範囲は,設定登録
において表示された指定商品の記載に基づいて決められるのではなく,審
判請求人が取消しを求めた審判請求書の「請求の趣旨」の記載に基づいて
決められる。そして,審判請求書の「請求の趣旨」は,①審判における審
理の対象・範囲を画し,②審判被請求人における防御の要否の判断・防御
の準備の機会を保障し,③取消審決が確定した場合における登録商標の効
力の及ぶ指定商品の範囲を決定づけるという意味で重要なものであるから,
「請求の趣旨」の記載は,客観的で明確なものであることを要するのは当
然である。
本件についてこれを見ると,審判請求書の「請求の趣旨」には,原告に
おいて取消しを求めた指定商品として「唾液を用いて人間のストレス度合
いを測定する装置その他の測定機械器具及びこれらに類似する商品」が記
載されていると推認されるが,同記載は,①「唾液を用いて人間のストレ
ス度合いを測定する装置」がどのような商品を指すか,②「唾液を用いて
人間のストレス度合いを測定する装置」と「その他の測定機械器具」とが
いかなる関係に立つのか(前者が後者に包摂されるのか,前者が例示的意
味を有するのか,前者は後者の例示であるとした場合に,後者の範囲に何
らかの限定を加える趣旨を含むのか否か等),③「これらに類似する商
品」の意味(「これら」が何を指すのか,類似する商品は何を意味するの
か。)等の点で,著しく不明確であるといえる。このような場合に,審判
において,何らの措置を採ることなく手続を行うことは,前記の①審理の
対象の画定,②審判被請求人の防御機会の保障,③取消審決の効力の及ぶ
範囲の確定等の点において,当事者及び第三者を含め,混乱を招くおそれ
がある。特に,仮に取消審決がされて確定した場合には,商標登録に係る
指定商品から「・・・これらに類似する商品」が除外されることになるが
このような不明確な審決が,効力を生ずる事態を許すことは,いたずらに
混乱を招くものというべきである。
したがって,商標登録の取消審判請求の審理する審判体としては,釈明
を求める,補正の可否を検討する等の適宜の措置を採るべきであり,その
ような措置を採ることなく,漫然と手続を進行させた審判のあり方には妥
当を欠く点があったというべきである。
また,本件審判手続における立証命題は,上記の「原告の請求に係る指
定商品のいずれかについて登録商標が使用がされているか」であるから,
必然的に,被告とATRとの間で締結した契約の詳細な内容が重要な争点
となるところ,本件審判手続において,この点に関する主張及び証拠の整
理が十分にされていない点においても,妥当を欠く点があったというべき
である。
もっとも,上記に指摘した点は,審判の対象に関する原告の特定の方法
に原因があったものであり,原告の請求に係る登録取消審判請求を不成立
とした審決の結論を左右するものとはなり得ない。
(2)以上の次第であるから,原告の請求は理由がない。その他,原告は縷々主
張するがいずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官上田洋幸
裁判官三村量一は,海外出張のため署名押印することができない。
裁判長裁判官飯村敏明

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採用情報


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我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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