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平成20年9月30日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成19年(ワ)第27846号損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日平成20年9月4日
判決
東京都港区<以下略>
原告ジャパンスーパーバザール
ネットワーク株式会社
同訴訟代理人弁護士安川幸雄
東京都千代田区<以下略>
被告株式会社ジュエリー・フオンド
同訴訟代理人弁護士茅根煕和
同春原誠
同和田健児
千葉市美浜区<以下略>
被告乙2
同訴訟代理人弁護士中久保満昭
同古原暁
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告らは,原告に対し,連帯して金11億4840万6348円及びこれに
対する被告株式会社ジュエリー・フオンドにつき平成19年12月21日から,
被告乙2につき同月22日から,支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
2被告株式会社ジュエリー・フオンドは,別紙名簿目録記載の顧客名簿を一切
使用又は開示してはならない。
3被告乙2は,別紙名簿目録記載の顧客名簿を一切使用又は開示してはならな
い。
4被告乙2は,原告に対し,別紙名簿目録記載の顧客名簿の一切の媒体を引き
渡せ。
第2事案の概要
本件は,原告において,第三者から購入して取得した別紙名簿目録記載の顧
客名簿(以下「本件名簿」という。)が不正競争防止法2条6項の「営業秘
密」に該当し,被告乙2がこれを不正に取得し,被告株式会社ジュエリー・フ
オンド(以下「被告会社」という。)がこれを不正に利用したなどと主張して,
それぞれ,被告会社の行為については同法2条1項5号又は6号の不正競争に
該当し,被告乙2の行為については同法2条1項4号の不正競争に該当するこ
とを理由に,被告らに対し,連帯して損害賠償金11億4840万6348円
及びこれに対する不正競争行為のあった後(訴状送達の日の翌日)である,被
告会社については平成19年12月21日から,被告乙2については同月22
日から,支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払と,本
件名簿の使用又は開示の禁止等を求める事案である。
1前提となる事実
(1)当事者等
原告は,「1.衣服、装身具及び服飾雑貨の輸入、製造、加工、販売及び
輸出2.繊維原料及び糸、生地、織物等の繊維製品の輸入、加工、販売及
び輸出3.毛皮及び皮革並びに外衣、襟巻等の毛皮・皮革製品の輸入、製
造、加工、販売及び輸出4.スポーツ用品、タオル・浴室用品等の日用品
雑貨及び化粧小物の輸入、製造、加工、販売及び輸出5.美術品、工芸品、
時計及び宝飾品の輸入、加工、販売及び輸出6.寝具及び寝装品の輸入、
製造、加工、販売及び輸出7.家具調度品、室内装飾品及び壁紙等の室内
装飾用資材の輸入、製造、加工、販売及び輸出8.生花及び生花関連商品
の製造、加工及び販売9.食品、飲料、健康食品の製造、加工及び販売
10.古物の売買11.商品券の売買12.第1号乃至第11号記載の
物品又はその包装、外装に関するデザインの企画並びに商標の使用権の取得
及び再使用権の許諾・運用13.前期〔ママ〕各号に付帯又は関連する一切
の業務」を目的とする株式会社であり,平成17年9月28日に「有限会社
ビエンクラッセ」として設立され,その後,商号変更と組織変更により,現
在の「ジャパンスーパーバザールネットワーク株式会社」となった。(弁論
の全趣旨)
被告会社は,貴金属,服飾,雑貨等の販売を業とする株式会社である。
(原告と被告会社との間で争いのない事実,弁論の全趣旨)
株式会社ビソーニ(以下「訴外会社」という。)は,服飾,ファッション,
時計,貴金属,バッグ等の有名ブランド特選品の展示会販売等を業とする株
式会社であった。(原告と被告会社との間で争いのない事実,弁論の全趣
旨)
被告乙2は,訴外会社のもと社員であって(争いのない事実),営業推進
部長であったが,平成16年9月30日付けで訴外会社から解雇された(原
告と被告乙2との間で争いのない事実,弁論の全趣旨)。
(2)訴外会社の破産
訴外会社については,東京地方裁判所において,平成16年3月18日に
民事再生手続が開始され(同庁平成16年(再)第60号),同年8月18
日に再生計画が認可されたものの,平成17年9月20日に手続廃止となり,
同年10月19日に破産手続が開始された(同庁平成17年(フ)第194
00号)。(争いのない事実,甲11の1∼甲12の2,弁論の全趣旨)
(3)本件名簿の売買
訴外会社は,平成17年8月17日,Aに対し,本件名簿を代金200万
円で売却した(以下「第1売買」という。)。(甲10の1,弁論の全趣
旨)
第1売買の契約書(「顧客名簿及びその入出力機材売買契約書」,甲10
の1)には,次の記載がある。
「第一条株式会社ビソーニ(以下甲という)はA(以下乙という)に対し
下記の甲の保有するすべての顧客名簿及びそれを入出力する為の
機器一式を売り渡すことを約し、乙はこれを買い受ける。

平成17年8月末日時点に甲の保有するすべての顧客名簿。(こ
こでいう顧客名簿とは、顧客様の住所氏名、郵便番号、性別、メ
ールアドレス、お買い上げ情報および他のデータ上のすべての情
報を指す)及び機器一式
第二条売買の条件は下記のとおりとする。
(1)代金総額金弐佰萬円
支払条件引渡し時に現金にて支払い。
(2)引渡し所有権移転引渡しをもって完了とする。」
その後,Aは,平成17年9月1日,設立準備中の原告の前身会社(有限
会社ビエンクラッセ)に対し,本件名簿を代金250万円で売却した(以下
「第2売買」という。)。(甲10の2,弁論の全趣旨)
第2売買の契約書(「顧客名簿及びその入出力機材売買契約書」,甲10
の2)には,次の記載がある。
「第一条A(以下甲という)は有限会社ビエンクラッセ(以下乙という)
に対し下記の甲の所有するすべての顧客名簿およびそれを入出力する為の
機材一式を売り渡すことを約し、乙はこれを買い受ける。

平成17年9月5日時点に甲の所有するすべての顧客名簿(ここでいう顧
客名簿とは、顧客様の住所氏名、郵便番号、性別、メールアドレス、お買
い上げ情報および他のデータ上のすべての情報を指す)および機器一式
第二条売買条件は下記のとおりとする。
(1)代金総額金弐佰伍拾萬円
支払い条件引き渡し時に現金にて支払い。
(2)引き渡し所有権移転引き渡しをもって完了とする。」
2判断すべき事項
(1)本件名簿が不正競争防止法2条6項の「営業秘密」に該当するか否か
(2)原告の主張の要旨
ア本件名簿は,別紙名簿目録末尾ただし書記載のホストコンピュータとリ
ンクするパソコンによって,名簿の追加,訂正,変更等の管理がされ,こ
れに接続するラインプリンタによって宛名ラベルのプリントアウトがされ
る(これらのパソコンとプリンタを,以下「本件機器」という。なお,第
1売買の「入出力する為の機器一式」及び第2売買の「入出力する為の機
材一式」とは,本件機器を指す。)ものであり,本件名簿と本件機器とは
一体をなしている。
イ訴外会社において,本件名簿の管理者(責任者)と本件機器の取扱者は,
それぞれ特定の者に固定されており,バックアップ用のフロッピー等の情
報媒体は,訴外会社の社内倉庫に管理され,民事再生の申立て以降,取扱
者の机の鍵付きの引出しに管理されて,その鍵は取扱者のみが所持してい
たものの,本件機器の取扱いの際にパスワードの設定はされていなかった。
訴外会社の社内では,本件名簿にマル秘の指定がされており,訴外会社
の他の従業員が本件名簿を参照する場合は,顧客情報を必要とする理由を
明らかにし,取扱者に画面上の表示をさせるにとどめ,例外的にプリント
アウトをするときには管理者の許可を要していた。
原告においては,本件名簿の管理者(責任者)と本件機器の取扱者を同
一人に固定し,情報媒体は社内の耐火金庫に管理され,本件機器の取扱い
にはパスワードを設定している。このほか,原告の社内では,本件名簿に
マル秘指定をして,その重要性等を従業員に徹底しており,原告の他の従
業員が本件名簿を参照する場合の方法は,訴外会社のときと同様である。
また,バザールのダイレクトメールを発送するため,発送業者に業務を
委託するに際しては,原告は,訴外会社の時代と同様,発送業者に対し,
本件名簿の情報自体は交付せず,宛名シール・ラベルのみ1セットずつを
交付しており,発送業者において,バザール開催案内等を詰めた指定封筒
にこれを貼付して発送することになる。
ウなお,訴外会社は,平成17年9月20日に再生手続廃止となり,同年
10月19日に破産手続開始に至った。訴外会社の代表取締役Bら関係者
は,訴外会社の主催で「ビソーニスーパーバザール」を開催することが不
可能であったため,別の形でその開催を継続することを模索し,受け皿会
社として,原告の前身会社を設立することとした。他方,訴外会社とその
受け皿会社である原告にとって,最も重要な本件名簿については,訴外会
社の従業員にも知られることなく(知られた場合,万一の漏洩の危険性も
危惧されたため),これを移管することが必要であった。
そこで,Bの信頼のおける友人であったAに対し,訴外会社から第1売
買がされた。その際,BとAとの間で,①本件名簿と本件機器が営業秘密
であり,その内容を開けてはならないこと,②受け皿会社(原告の前身会
社)の設立準備ができ次第,譲渡すること,③もしAのもとで漏洩された
場合に責任を追及すること,が確認された。そして,その後,Aから設立
準備中の原告の前身会社に第2売買がされたものである。
エしたがって,本件名簿については,営業秘密としての秘密管理性を肯定
することができる。
第3当裁判所の判断
1本件名簿の営業秘密該当性について
不正競争防止法2条6項によれば,「『営業秘密』とは,秘密として管理さ
れている生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情
報であって,公然と知られていないもの」であり,このうちの「秘密として管
理されている」といえるためには,当該情報が客観的に秘密として管理されて
いると認識することができる状態にあることが必要である。
そこで,本件名簿についてこの秘密管理性の有無を検討すると,本件名簿は,
もともと訴外会社において作成,管理され,これが第1売買と第2売買を経て,
原告が管理するに至ったものであるから,①訴外会社における秘密管理性,②
第1売買の買主であるAにおける秘密管理性,③原告における秘密管理性がそ
れぞれ問題となり得る。
原告は,訴外会社における本件名簿の管理について,管理者と取扱者を特定
の者に固定し,バックアップ用の情報媒体を鍵付きの引出し等に管理し,マル
秘指定をして一般従業員のアクセスを制限していたなどと主張する。しかしな
がら,原告は,本件訴訟の審理において,訴外会社のもとにおける本件名簿の
管理状況の手がかりとなる資料が残っていない旨を述べており,原告において,
原告の上記主張を裏付ける証拠を準備することができなかったものである。
そして,仮に,訴外会社における秘密管理性が認められたとしても,次に,
第1売買の買主であるAにおける秘密管理性が問題となる。この点について,
原告は,BとAとの間で,①本件名簿と本件機器が営業秘密であり,その内容
を開けてはならないこと,②受け皿会社(原告の前身会社)の設立準備ができ
次第,譲渡すること,③もしAのもとで漏洩された場合に責任を追及すること,
が確認されたなどと主張する。
しかしながら,本件名簿の第1売買の契約書には,このような営業秘密であ
ることを前提とした条項は存在せず,同契約書は,単なる名簿とその機材の売
買契約書というほかないものであって,この点は,第2売買の契約書も同様で
ある。このほか,本件名簿がAのもとで営業秘密であることを前提として管理
されていたと理解し得るような客観的な証拠はない。
以上のとおりであるから,本件名簿については,原告のもとで,秘密管理性
などの営業秘密の要件を充たしているか否かを検討するまでもなく,原告が本
件名簿を取得する以前の時点において,営業秘密としての秘密管理性を充たし
ていたことの立証がないものというほかない。
2結論
したがって,原告の請求は,その余について判断するまでもなく,いずれも
理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官阿部正幸
裁判官平田直人
裁判官柵木澄子
名簿目録
原告の管理,保管する下記の44万0588件分(ただし,平成19年10月3
日時点)の顧客名簿

ステータス1172件/自「C」至「(有)D」
ステータス21万6482件/自「E」至「F」
ステータス318万7363件/自「G」至「H」
ステータス423万6571件/自「I」至「J」
計44万0588件
ただし,もとの作成者の株式会社ビソーニにおいて,IBM社製「AS40
0アドバンテージ」(「磁気ディスク装置010−0027559」,「磁気
テープ装置001−0046672」,「システム装置300−00A719
4」)をホストコンピュータとして作成された顧客名簿

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