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平成24年12月25日判決言渡
平成24年(行ケ)第10142号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成24年10月9日
判決
原告X
被告Y
訴訟代理人弁理士高松利行
同高松宏行
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2011-890066号事件について平成24年3月27日にし
た審決を取り消す。
第2前提となる事実
1特許庁における手続の概要
被告は,「元祖ラーメン」(「ラーメン」は赤字で表記)と「長浜家」との文字を上
下2段に横書きした別紙のとおりの構成からなる商標(以下「本件商標」という。)
について,指定役務を第43類「ラーメンを主とする飲食物の提供」として商標登
録(出願日:平成22年1月21日,登録日:同年6月4日,商標登録第5327
392号。)を受けた商標権者である(甲1,2)。
原告は,平成23年7月22日,特許庁に対し,本件商標の登録を無効とするこ
とを求めて審判請求をした(無効2011-890066号)。特許庁は,平成24
年3月27日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」とい
う。)をし,その謄本は,同年4月5日,原告に送達された。
2審決の理由
審決の理由は別紙審決書写に記載のとおりである。要するに,審決は,本件商標
は,商標法3条1項4号にも,同6号にも,同法4条1項8号にも該当しないから,
登録を無効とすることはできないというものである。
第3取消事由に関する当事者の主張
1原告の主張
(1)本件商標の認定に関する誤り(取消事由1)
審決は,「家」が屋号を構成する文字として理解される場合があるという理由だけ
で,「長浜家」の文字は一体不可分の屋号となっていると述べているが,屋号を構成
するからといって一体不可分の屋号となる必然性はない。本件商標のうち「長浜家」
の部分は,「長浜」と「家」に分解されるべきものであり,審決には誤りがある。
(2)商標法3条1項4号該当性に関する認定判断の誤り(取消事由2)
ア「長浜家」は,地理的名称である「長浜」に,一般的に「屋号」「家号」の略
称とされる「屋」「家」のうち「家」を結合してなる商標である。したがって,「長
浜家」の表示は,ありふれた名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみから
なる商標であり,自他役務識別標識としての機能を果たし得ない。
イ一般に「ありふれた氏,業種名,著名な地理的名称等」に,「商店」「商会」
「屋」「家」「社」「堂」「舎」「洋行」「協会」「研究所」「製作所」「会」「研究会」「合
名会社」「合資会社」「有限会社」「株式会社」「K.K.」「Co.」「Co.,Ltd.」「Ltd.」等
を結合した商標は,原則として,商標法3条1項4号において「ありふれた名称」
に該当するとされている(商標審査基準第13)。
そして,「長浜」は,ラーメンを表示するものとして,極めて数多く使用されてい
る。空港,コンビニエンスストア,デパートで「長浜」ラーメンが販売されており,
長浜地区でラーメン店・屋台が開業され,福岡県には「長浜」あるいは「長浜ラー
メン」を冠した多数のラーメン店があり,福岡市にはラーメンの提供を行う飲食店
の経営を目的とする会社で「長浜」の地理的名称を有する商号で登記されたものが
多くある。
ウ「長浜家」のうち「長浜」は地区名や地理的名称としてラーメン関係で多数使
用されて全国的に著名になっているとともに,「家」については,屋号・商号表示の
略称として通常使用される表示語である。したがって,「長浜家」の商標表示は,商
号商標としてありふれた名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる
商標であり,商標法3条1項4号に該当する。
(3)商標法3条1項6号該当性に関する認定判断の誤り(取消事由3)
本件商標が屋号として理解されるからといって,そのことは「長浜家」が識別力
を持つことにはつながらない。本件商標の重要部分である「長浜」の部分は,極め
て多数の者に使用されている。本件商標が,一つの屋号の商標として,自他役務の
識別標識としての機能を発揮し得るものではないことは明らかである。
よって,本件商標は,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認
識することができない商標であり,商標法3条1項6号に該当する。
(4)商標法4条1項8号該当性に関する認定判断の誤り(取消事由4)
八王子の「長浜家」と横浜の「長浜家」は,例えば,インターネット上における
グーグルの検索エンジンで,前者は約121万件のウェブサイトが,後者は約61
万2千件のウェブサイトが検索されることからして,周知度(知名度)が非常に高
い。
よって,本件商標は,他人の著名な略称であり,商標法4条1項8号に該当する。
2被告の反論
(1)本件商標の認定に関する誤り(取消事由1)に対して
「長浜家」はその構成文字が同書,同大,等間隔にまとまりよく表示され,視覚
的に無理なく把握し得る構成となっているから,この「長浜家」に接した需要者は,
「長浜」と「家」に分離することなく「長浜家」全体を一体不可分のものとして認
識し,称呼すると考えるのがごく自然である。したがって,審決に取消事由はない。
(2)商標法3条1項4号該当性に関する認定判断の誤り(取消事由2)に対して
「ありふれた氏又は名称」とは,同種のものが多数存在するものをいい,例えば,
50音別電話帳等においてかなりの数を発見することができるものをいう,あるい
は,当該名称全体として多数存在するものをいうと解すべきである。
これを前提に「長浜家」について検討すると,「長浜家」の名称の使用例は,イン
ターネット情報による2件(「八王子の長浜家」,「横浜の長浜家」)のみであって,
「ありふれた名称」の上記要件を満たさないから,本件商標は商標法3条1項4号
に該当しない。
(3)商標法3条1項6号該当性に関する認定判断の誤り(取消事由3)に対して
本件商標は一つの屋号(名称)として認識されるものであり,また「長浜」の文
字が地名として理解される場合があるとしても,それによって「長浜家」の文字に
識別力がないということにはならない。
また,「長浜家」の名称の使用はインターネット情報による2件(「八王子の長浜
家」,「横浜の長浜家」)のみであるから,本件商標は多数の者によって使用されてい
るものではないうえ,一つの屋号の商標として十分に自他役務識別機能を発揮する
ものである。
したがって,本件商標は商標法3条1項6号に該当するものではない。
(4)商標法4条1項8号該当性に関する認定判断の誤り(取消事由4)に対して
原告が主張する前記2件の「長浜家」についての「商号」は明らかでない。また,
原告の提出に係る証拠は,単にインターネット情報(インターネット検索サービス
を用いての「八王子長浜家」又は「横浜長浜家」の検索結果)として発見され
たものにすぎず,その2店が雑誌や新聞記事等に多数紹介されて広く知られている
(著名である)との客観的事実を認めることは到底できない。また,インターネッ
ト検索エンジンを用いたキーワード検索によって導出されるウェブサイトには,キ
ーワードとは関連性がないものが含まれている。したがって,前記2件の「長浜家」
は「他人の著名な略称」ではない。
第4当裁判所の判断
当裁判所も,本件で提出された証拠を前提とする限り,本件商標は商標法3条1
項4号にも,同6号にも,同法4条1項8号にも該当せず,審決の結論に誤りはな
いと判断する。その詳細は,次のとおりである。
1取消事由1及び3について
(1)本件商標は,別紙のとおり,「元祖ラーメン」との文字と,「長浜家」との文
字を2段に横書きしてなるもので,「ラーメン」部分は赤色に,その他の文字部分は
黒色に着色され,「長浜家」部分は「元祖ラーメン」部分より大きな文字で表記され
ている。
このうち,「元祖ラーメン」部分については,「ラーメンにおける特定の味や特徴
等を最初に始めた」という程の意味を示すものであり,また,ラーメン店及びラー
メンを主とする飲食物において,しばしば使用される表記であることから,同表記
を「ラーメンを主とする飲食物の提供」の役務に使用したとしても,取引者,需要
者において,役務の質(内容)等を表示するものと解され,したがって,出所識別
標識としての機能を有しない。他方,「長浜家」部分については,「長浜」部分が滋
賀県長浜市あるいは福岡市中央区長浜地区に由来する地名であると認識されること
があり得るとしても,「長浜家」部分が同書・同大・等間隔にまとまりよく表示され
ており,長さにおいても三文字と短く,称呼としても「ナガハマヤ」の5音にすぎ
ないことからして,一体不可分の名称を示したものとして,認識・理解されるとす
るのが相当である。
(2)この点につき,原告は,「長浜」部分は,地理的名称や地区名としてラーメ
ンを主とする飲食物において多数使用されて全国的に著名になっていること,その
ことにより,需要者にとって,何人かの業務に係る役務であるかを認識することが
できない商標(商標法3条1項6号)に該当すると主張する。
しかし,原告が本件訴訟において,同主張を裏付けるために提出した証拠は,極
めて僅かであって,福岡空港,福岡県下のコンビニエンスストア及びデパートにお
いて,「『長浜』ラーメン」等と表記されて販売されている商品を撮影した数枚の写
真,屋台の写真,インターネット上の電話帳での検索結果,福岡市のタウンページ
の写し等に留まる。また,その販売状況,販売開始時期等の詳細を説明する証拠は,
一切提出されていない。
以上によれば,原告の提出した本件証拠を前提とする限りは,本件商標中の「長
浜」との構成部分が,需要者にとって,何人かの業務に係る役務であるかを認識・
理解することができない商標であるとはいえない。
(3)
したがって,本件商標が商標法3条1項6号に該当するとの原告の主張は,採用
できない。
2取消事由2及び4について
本件全証拠によっても,「長浜家」との名称が使用されている例は,インターネッ
トの検索サービスで発見された2件のラーメン店(八王子及び横浜の各長浜家,甲
11,12)にすぎない。したがって,本件商標が商標法3条1項4号に該当する
とは到底認められない。
また,原告が,上記2例の「長浜家」部分の表記が著名であることを示すために
提出した証拠は,インターネットにおける検索サービスの検索結果(甲13,14)
のみであって,他に何らの証拠もない。のみならず,乙3ないし8によれば,イン
ターネット検索サービスにより「八王子長浜家」又は「横浜長浜家」とのキー
ワードで検索した結果中には,当該2件のラーメン店と無関係のものが,数多く混
在していることが認められ,そのような点をも考慮するならば,原告の提出に係る
検索サービスで発見された2件のラーメン店が存在することをもって,本件商標中
の「長浜家」部分が「他人の著名な略称」であると認めることはできない。したが
って,本件商標が商標法4条1項8号に該当するともいえない。
3結論
以上のとおり,本件商標が商標法3条1項4号にも,同6号にも,同法4条1項
8号にも該当しないとした審決の結論に誤りはない。原告はその他縷々主張するが
いずれも採用の限りではない。よって,原告の請求を棄却することとして主文のと
おり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
八木貴美子
裁判官
小田真治
(別紙)

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