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平成28年4月26日判決言渡
平成27年(行ケ)第10179号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成28年3月1日
判決
原告シンクソートインコーポレーテッド
訴訟代理人弁理士高梨範夫
同勝又文彦
同村上健次
同安島清
同加藤智子
被告三浦工業株式会社
訴訟代理人弁理士正林真之
同片川健一
同小菅一弘
同林浩
同東谷幸浩
同岩池満
同加藤竜太
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が取消2013-300712号事件について平成27年4月30日
にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯等
(1)被告は,以下の商標(登録第2579058号。以下「本件商標」とい
う。)の商標権者である(甲1,2)。
(本件商標)
出願日平成2年11月15日
設定登録日平成5年9月30日
存続期間の更新登録日
平成15年9月16日,平成25年7月30日
指定商品の書換登録日
平成16年12月22日
指定商品第9類「配電用又は制御用の機械器具,回転変流機,調相機,
電池,電気磁気測定器,電線及びケーブル,電気アイロン,電
気式ヘアーカーラー,電気ブザー,電気通信機械器具,電子応
用機械器具及びその部品,磁心,抵抗線,電極」
なお,書換登録前(設定登録時)の指定商品は,第11類
「電気通信機械器具,その他本類に属する商品」であった。
(2)原告は,平成25年8月26日,特許庁に対し,本件商標の指定商品中
「電子応用機械器具(「ガイガー計数器・高周波ミシン・サイクロトロン・
産業用X線機械器具・産業用ベータートロン・磁気探鉱機・磁気探知機・地
震探鉱機械器具・水中聴音機械器具・超音波応用測深器・超音波応用探傷器
・超音波応用探知機・電子応用扉自動開閉装置・電子顕微鏡」を除く。),
電子管,半導体素子,電子回路(「電子計算機用プログラムを記憶させた電
子回路」を除く。),電子計算機用プログラム」について,継続して3年以
上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが
使用した事実がないとして,商標法50条1項の規定により,これらの指定
商品についての商標登録取消審判を請求し(以下,この請求を「本件審判請
求」という。),同年9月10日,本件審判請求の登録がされた(甲5の
1)。
特許庁は,上記請求を取消2013-300712号事件として審理した
上,平成27年4月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審
決(出訴期間として90日を付加。以下「本件審決」という。)をし,その
謄本は,同年5月12日,原告に送達された。
(3)原告は,平成27年9月8日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提
起した。
2本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりであるが,その要旨は,
次のとおりである。
(1)使用商標は,「MFX-W」,「MFX-EVシリーズ」及び「MFX
-EV」の文字からなるものであり(これらを総称して,以下「被告各使用
商標」という。),それらの要部は「MFX」の文字部分にあるから,被告
各使用商標は,本件商標と社会通念上同一の商標というのが相当である。
(2)被告の業務に係る商品「ボイラの集中管理装置」(以下「本件集中管理
装置」という。)は,ディスプレイ,キーボード,マウス,パーソナルコン
ピュータ本体などからなり,市販のパーソナルコンピュータにボイラなどの
集中管理を行うためのコンピュータソフトウェア(以下「本件ソフトウェア」
という。)をインストールすることで,本件集中管理装置として成立するも
のである。
また,CD-ROMに格納された本件ソフトウェアのみの購入によっても,
当該ソフトウェア購入者は,市販のパーソナルコンピュータを利用して,所
有しているボイラの集中管理が実現できるものであり,当該ソフトウェアが
バージョンアップされたときも同様である。
そうすると,需要者が被告から本件ソフトウェアを含む本件集中管理装置
一式を購入した場合には,取扱説明書や取引書類等に表示された被告各使用
商標は,本件集中管理装置に使用する商標であるといえるものであり,また,
CD-ROMに格納された本件ソフトウェアのみを購入した場合には,CD
-ROMに表示された「MFX-EV」は,本件ソフトウェアに使用する商
標であるといえる。
そして,本件集中管理装置一式を購入する場合であっても,本件ソフトウ
ェアや取扱説明書のデータが格納されたCD-ROMも引き渡されているこ
とが推認できるから,取引書類やCD-ROMに表示された「MFX-EV」
の文字は,本件ソフトウェアの商標を表示したものといえる。
また,商品「コンピュータソフトウェア」は,本件商標の指定商品中の
「電子応用機械器具及びその部品」に含まれる商品であって,かつ,本件審
判請求に係る指定商品中の「電子計算機用プログラム」に含まれる商品であ
り,使用商標の使用商品は「コンピュータソフトウェア」である。
(3)商品に標章(商標)を付したものを譲渡又は引き渡しする行為は,本件
審判請求の登録前3年以内(以下「要証期間内」という。)の平成25年3
月22日に行われていることが推認できる。
(4)以上を総合すれば,被告は,本件商標と社会通念上同一の商標を要証期
間内に本件審判請求に係る指定商品中の「電子計算機用プログラム」に含ま
れる「コンピュータソフトウェア」について使用したものというのが相当で
あり,被告は,要証期間内に上記指定商品について,本件商標(社会通念上
同一の商標を含む。)の使用をしていたことを証明したというべきであるか
ら,本件商標の登録は,商標法50条の規定に基づき,請求に係る指定商品
についての登録を取り消すべきではない。
第3当事者の主張
1原告の主張
本件ソフトウェアに表示された「MFX-EVシリーズ」の文字は,本件商
標と同一性のある商標とはいえない。
そして,本件ソフトウェアは,商標法施行規則別表第9類「十三電気通信
機械器具」中の「遠隔測定制御機械器具」の範疇に属する本件集中管理装置の
付属品にすぎず,同「十六電子応用機械器具及びその部品」中の「電子計算
機用プログラム」には当たらない。
すなわち,被告は,本件集中管理装置を導入していた顧客に対し,その更新
のために,新たな集中管理装置及びその付属品である本件ソフトウェアを販売
したにすぎず,これらの商品は,本件審判請求において商標登録の取消しが請
求された指定商品には該当しない。
したがって,要証期間内において,本件商標を商標登録の取消しが請求され
た商品について使用したことが証明されたとはいえず,これと異なる本件審決
の認定判断は誤りである。その理由は,以下のとおりである。
(1)使用商標が本件商標と同一性ある商標ということはできないこと
本件ソフトウェアが組み込まれたCD-ROMに表示された「MFX-E
Vシリーズ」の商標は,前後の文字を結合する役割を果たすハイフンを介し
て,同じ書体にて全体をまとまりよく一体不可分に表示されている。このた
め,「EVシリーズ」部分を直ちに記号と認識することはなく,「MFX-
EVシリーズ」の全体をもって一つの商標と認識する需要者も少なからず存
在するから,同商標は,本件商標との同一性を欠く。
(2)本件集中管理装置が「遠隔測定制御機械器具」に当たること
ア本件集中管理装置は,ボイラやこれを操作するボイラオペレーションパ
ネルが設置されるボイラ室とは離れた管理室に設置される。そして,本件
集中管理装置とボイラオペレーションパネルを電気回線を通じて接続する
ことによって,本件集中管理装置からボイラオペレーションパネルを介し
てボイラに指揮命令し,ボイラから離れた場所において,ボイラの稼働状
態に関する各種のデータを測定したり,ボイラの運転状態を制御したりす
る。また,本件集中管理装置は,ボイラばかりでなく,ボイラに給水され
る前に水が通過する軟水装置や脱酸素装置についても,離れた場所から,
これを測定・制御することができる。
イ本件集中管理装置は,「モニタリング機能」により,本件集中管理装置
に接続したボイラシステム(複数台のボイラ,軟水装置,脱酸素装置等か
ら構成される。)から各種データを測定・入手し,ボイラシステムを構成
するすべての機器を一括してモニタリングできるほか,軟水装置,脱酸素
装置及び個々のボイラの一つ一つの機器を個別的にモニタリングすること
もできる。そして,「報告書自動作成機能」により,ボイラのエネルギー
管理に必要な蒸発量・燃料使用量・ブロー量・運転効率等を自動集計し,
グラフ表示で示すほか,日報や月報として記録できる。また,個々のボイ
ラの詳細データを収集してその特性・傾向を管理することもできる。そし
て,モニターに表示された画像・集計表・グラフ・日報や月報等は,本件
集中管理装置のプリンタによって紙印刷することができる。
また,本件集中管理装置は,軟水装置,脱酸素装置及びボイラに異常が
生ずれば「機器異常管理機能」により警告を発し,また,正常な状態に修
正することができる。
さらに,本件集中管理装置は,「制御パラメータ設定機能」により,ボ
イラによって熱せられた蒸気工場の生産ラインに対して供給する際に,蒸
気圧力を安定的に維持するために必要なボイラの数を特定し,実際に稼働
するボイラの台数を制御することができる。また,蒸気の圧力を安定的に
維持するために稼働するボイラの台数を割り出し,この目的のために,ど
のボイラを稼働させるかの優先順位を自動的に切り替え・制御することが
できる。
加えて,本件集中管理装置は,「スケジュール設定機能」により,稼働
するボイラやその台数を一週間単位で切り替えることができるし,更に,
工場の操業日・休業日に応じてボイラの運転・休止を指示することができ
る。
ウ本件集中管理装置は,IPC機能を担う電子計算機本体,液晶ディスプ
レイ,キーボード,スピーカ,マウス,通信アダプタ,プリンタ,無停電
電源装置,スライド式プリンタテーブルを備えたラック,及び,コンピュ
ータソフトから構成される。そして,本件集中管理装置は,上記の「モニ
タリング機能」,「報告書自動作成機能」,「機器異常管理機能」,「制
御パラメータ設定機能」及び「スケジュール設定機能」を適正に果たすた
めに,これらの器具をひとまとめにアッセンブルし一体的にシステム化す
ることによって生まれた一つの商品であり,被告は,これを構成する個々
の部品を製造・販売しているのではなく,これらの機器を一体的にシステ
ム化した別個の商品を製造・販売しているのである。
エ以上によれば,本件集中管理装置は,工場に設置されるボイラ等につい
て,これと離れた場所において,ボイラに関する各種のデータを測定し,
これを記録し処理するものであり,また,ボイラ等を運転・制御する機能
を有する商品であるから,「遠隔測定制御機械器具」に該当する。
(3)本件ソフトウェアが「電子計算機用プログラム」に当たらないこと
ア本件集中管理装置は,IPC機能を担う電子計算機本体,液晶ディスプ
レイ,キーボード,スピーカ,マウス,通信アダプタ,プリンタ,無停電
電源装置,スライド式プリンタテーブルを備えたラック,及び,本件集中
管理装置専用のコンピュータソフトである本件ソフトウェアから構成され,
複数の機械器具等が複合化し一体となって所定の機能を発揮するシステム
商品として販売される。本件ソフトウェアは,これのみが機能し,独立し
て取引され,顧客が既に保有する他社製のコンピュータにおいて利用され
るわけではない。被告は,常に,一体的にシステム化された本件集中管理
装置を販売し,その際に,本件ソフトウェアが本件集中管理装置の構成部
品としてIPC機能を担う電子計算機に既にインストールされているか,
あるいは,本件ソフトウェアがCD-ROM等の記憶媒体に組み込まれて
提供されるのである。
そうすると,同記憶媒体は本件集中管理装置と一体になって取引に供さ
れるものであり,本件集中管理装置の付属品というべきである。
イそして,被告は,顧客に本件集中管理装置を納品する際に,本件集中管
理装置とボイラ・軟水装置・脱酸素装置の接続作業を行い,また,本件ソ
フトウェアのインストール作業を行ってから,本件集中管理装置がボイラ
システムを適切に測定・制御することを確認することによって,本件集中
管理装置の販売を完成させる。
したがって,同記憶媒体は,独立して商取引の対象となる「電子応用機
械器具及びその部品,電子計算機用プログラム」ではなく,集中管理装置
の付属品である。
(4)被告は,新たな集中管理装置及びその付属品である本件ソフトウェアを
販売したにすぎないこと
ア被告の顧客であるワタキューセイモア株式会社(以下「ワタキューセイ
モア」という。)作成の陳述書(甲21の1)には,同社が,「2013
年3月22日に,Ver.6.5.1のMFX-EV(CD-ROM化さ
れたソフトウェア)を確かに購入しています。」と記載されている。
イしかるに,これに係る見積書(甲11の1),注文書(甲11の2)及
び上記陳述書の記載に照らせば,ワタキューセイモアは,2004年3月
に導入済みの本件集中管理装置について,集中管理装置を構成する各種部
品の陳腐化あるいは老朽化その他の理由により,2013年3月に,これ
に代えて,新たな集中管理装置一式及びその付属品である本件ソフトウェ
アを購入したにすぎない。現に,上記見積書には本件集中管理装置の基本
的な構成部品が記載され,実際には集中管理装置一式が購入されたもので
あり,また,上記注文書には本件集中管理装置について被告が使用する商
品名称「MFX-EV」が表示され,「MFX-EV一式」と記載され
ているとおり,被告は,コンピュータやコンピュータソフトといった個別
ばらばらの商品について見積書を作成し,注文書を受理したのではない。
ウまた,被告は,ワタキューセイモアとの取引以外の取引書類として,注
文書(甲12)及び売上伝票(甲13)を提出したが,これらの書証から
確認できるのは,本件集中管理装置一式が取引の対象とされたことである。
現に,注文書(甲12)には,集中管理装置を構成する機器が表示され,
取引の対象商品が実質上集中管理装置であることが明らかであり,また,
売上伝票(甲13)には「キキイッシキ.バージョンUPMFX-EV
・・・」「OPソフトイッシキ.バージョンUPMFX-E・・・」と
記載されており,これが本件集中管理装置及びその付属品であるCD-R
OMに記憶された専用ソフトであることが明らかである。
エさらに,被告が,本件訴訟において,本件ソフトウェアそのものを販売
しているとの主張に沿う証拠として提出した見積書(乙3)も,これを受
け取る顧客は本件集中管理装置を既に導入済みであることがうかがわれ,
本件ソフトウェアのみが販売されたとしても,本件集中管理装置の付属品
にすぎないから,これをもって,被告が本件ソフトウェアそのものを独立
した商品として販売しているとはいえない。
オ以上のとおり,被告が提出した取引書類から認定されるのは,既に設置
されていた集中管理装置の更新のために,集中管理装置及びその付属品を
新たに販売したことであり,これらの商品は本件審判請求において商標登
録の取消しが請求された商品には該当しない。
2被告の主張
以下に述べるとおり,被告各使用商標の「MFX-W」,「MFX-EVシ
リーズ」及び「MFX-EV」は,本件商標「MFX」と社会通念上の同一商
標であり,また,被告各使用商標を使用した本件ソフトウェアは,本件集中管
理装置の付属品ではなく,「電子計算機用プログラム」に含まれる商品である。
そして,被告は,要証期間内に,被告各使用商標を付した本件ソフトウェアの
譲渡又は引渡しをする行為を行った。
よって,被告は,要証期間内に,本件商標と社会通念上同一の商標を,本件
審判請求において取消しが請求された指定商品中の「電子計算機用プログラム」
に含まれる「コンピュータソフトウェア」について使用したものであるから,
本件審決に,原告主張の取消理由はない。
(1)被告各使用商標が本件商標と社会通念上同一の商標であること
「MFX-EVシリーズ」の商標における「-EVシリーズ」の部分は,
「シリーズ」の言葉から,商品の種類,商品の製品群の表示であることは明
らかである。また,被告は,「-EVシリーズ」に加え,単に「-EV」や,
本件ソフトウェアの種類の相違から「-W」を付した表示,すなわち「MF
X-EV」や「MFX-W」も使用しており,要証期間内に作成,発行して
いる本件集中管理装置の取扱説明書には,複数の型番をまとめて「MFX-
W,EV」と表記してもいる。
そうすると,「-W」,「-EV」,「-EVシリーズ」は,本件ソフト
ウェアの取引者・需要者にとって,本件コンピュータソフトウェアの型番を
表示する付記的表示であり,「MFX」がその商標の要部であると容易に認
識できる。
なお,コンピュータソフトウェアの製造者,販売者にとって,当該商品の
出所を示す「商標」の後に,-(ハイフン)を介して,数字,ローマ字等を
記載して,当該コンピュータソフトウェアの種類(機能の相違や,対応する
OSの相違など)を表示することは,普通に行われている事実もある。よっ
て,コンピュータソフトウェアの需要者にとっても,被告各使用商標におけ
る「-EVシリーズ」,「-EV」,「-W」の表示は,同様に,本件ソフ
トウェアの種類を表示した付記的部分と容易に認識できる。
(2)本件集中管理装置は「遠隔測定制御機械器具」に当たらないこと
本件集中管理装置は,汎用性のあるコンピュータ,液晶ディスプレイ,キ
ーボード,スピーカ,マウス,通信アダプタ,プリンタ,無停電電源装置,
プリンタテーブル,本件ソフトウェア等の集合物からなり,本件ソフトウェ
アをインストールし,作動させることによって,ボイラの運転状態を確認,
記録等管理する装置として機能する。
すなわち,本件集中管理装置は,あくまでも,「ボイラ」等の運転状態を
確認する機能(モニタ表示機能),「ボイラ」等の運転情報を自動で収集し,
日報・月報データとして保存できる機能(報告書自動作成機能),「ボイラ」
等で異常が発生した場合,コンピュータ画面に異常を知らせる機能(メンテ
ナンス表示機能)等を有するに止まるものであり,「ボイラ」等を制御する
機能はない。
ここで,「ボイラ」の制御とは,給水量,燃焼速度,蒸気温度のような変
動量を制御して,「ボイラ」の運転状態を一定に維持することをいい,ボイ
ラの安全性を確保するため,「ボイラ」には,常用圧力を維持する機能を有
する自動圧力制御装置,常用水位を維持する機能を有する自動水位制御装置
などの制御装置を設けることが義務づけられている。
しかしながら,本件集中管理装置(いわゆるボイラ等の運転監視装置)に
は,このような制御機能はなく,また,このような制御機能を有しなければ
ならないというような法的義務も存在しない。
本件集中管理装置は,これらの制御装置とはその機能が異なり,よって,
原告が主張する「遠隔測定制御機械器具」に該当しない。
(3)本件ソフトウェアは本件集中管理装置の付属品ではなく「電子計算機用
プログラム」に含まれること
本件集中管理装置の中心部分は,汎用のコンピュータと本件ソフトウェア
からなり,本件集中管理装置のボイラ等の運転監視装置としての機能を果た
す本質は,本件ソフトウェアにある。
そして,被告は,本件ソフトウェアそのものを,独立した一つの商品とし
て,価格設定して販売している。また,被告は,本件ソフトウェアのバージ
ョンアップも適宜行っており,バージョンアップされた同ソフトウェアも,
別途,それ自体,独立した商品として価格をつけ,販売している。本件ソフ
トウェアは,何らかの装置に付属してその部品として取り扱われる,定価の
ない物などではない。
そして,「電子計算機用プログラム」には,コンピュータ自体の動作を制
御するオペレーティングシステムなどのシステムソフトウェアや,本件ソフ
トウェアのような,使用者が目的とする作業そのものを行うアプリケーショ
ンソフトウェアを含む全てのコンピュータソフトウェアが含まれるから,本
件ソフトウェアは,「電子計算機用プログラム」に該当する。
(4)被告は,被告各使用商標を要証期間内に使用したこと
ア要証期間内の平成25年3月22日に,被告各使用商標を付した本件ソ
フトウェアの譲渡又は引き渡しする行為が行われていることが推認できる
との本件審決の認定は正当である。
これに関する見積書(甲11の1)では,「1更新部品一式」の下に
記載された,「・シーメンス製産業用コンピューター一式(Windo
ws7)」の品名に対応して,数量「1」の記載とともに定価が記載され
ている。また,「2ソフトウェアバージョンアップ」の下に記載された
「・バージョンアップ」,「※MFX―EVWindows7対応」,
「※M-NETⅡ対応」の品名に対応して,数量「1」の記載とともに定
価が記載されている。
これらの記載からもわかるとおり,同見積書に現れているのは,被告の
顧客が,本件集中管理装置を構成するシーメンス製産業用コンピュータと,
バージョンアップされた本件ソフトウェア(MFX―EVWindow
s7対応)を一緒に注文した事例である。
被告は,上記産業用コンピュータ及び本件ソフトウェアを,それぞれ別
個の商品として取り扱っており,それゆえ,当該見積書には,産業用コン
ピュータ及び本件ソフトウェアのそれぞれについて,品名を分けて記載し
て,各々,数量,単価,定価を記載している。
このような記載からも,集中管理装置というハードウェアとソフトウェ
アが一体構成となった一つの装置が存在するものではなく,かつ,被告は,
そのような装置を一個の商品として取り扱い,一つの価格を設定している
ものではないことは明らかであり,また,本件ソフトウェアが付属品など
ではないことも明らかである。
他方,上記見積書に対応する注文書(甲11の2)に,「MFX―EV」
「一式」という記載があることについては,注文書は,注文者が任意にそ
れぞれの書式で作成するものであり,コンピュータと本件ソフトウェアを
まとめて購入した注文者が当該注文書に「パソコン更新MFX―EV
1式」とまとめて記載しているからといって,販売者である被告が,コン
ピュータと本件ソフトウェアをそれぞれ別個の商品として価格をつけ,販
売しているという事実を何ら否定することにはならない。
なお,別の注文書(甲12)においては,その「品名」の欄には,「1.
産業用コンピュータ一式」,数量「1」,金額の記載とは別に,「5.ソ
フトウェアバージョンアップ」,数量「1」,金額の記載があるとおり,
本件集中管理装置を構成するコンピュータと本件ソフトウェアとは,それ
ぞれ,別個の商品として価格が付けられ,取引されている。
イさらに,平成24年11月13日付けの見積書(乙3)によれば,被告
は,要証期間内に,本件ソフトウェアそのものを,単独で販売したことが
認められる。
すなわち,上記見積書には,品名,規格,数量として,「1ソフトウ
ェアバージョンアップ1式」「・バージョンアップ」,「※MFX-E
VWindows7対応」と記載され,また,「2更新部品一式」の項目が設
けられ,「・PCは,お客様支給品を使用致します。」と書かれ,さらに,
「・セットアップ,インストール1」として,「御仕切」,「定価」が
それぞれ記載されている。さらに,同見積書の下欄には,「④PCは,
弊社にて動作検証を行った,お客様支給PCを用いた場合の見積になりま
す。」と記載されている。
これらの記載から分かるとおり,同見積書は,「MFX-EV
Windows7対応」のバージョンアップされた本件ソフトウェアのみを発注
した被告の顧客に対して発行されたものであり,被告が,本件ソフトウェ
アそのものも販売していることを示すものである。
第4当裁判所の判断
1認定事実
後掲各証拠によれば,次の事実が認められる。
(1)本件集中管理装置の構成
ア本件集中管理装置の取扱説明書には,本件集中管理装置の「装置全体」
の説明として,パソコン本体,液晶ディスプレイ,キーボード,外部スピ
ーカー,マウス,通信アダプタ,カラープリンタ,無停電電源装置,スラ
イド式プリンタテーブル等から構成されている旨の記載がある(甲8及び
25の各本文6頁,甲19の1及び2,甲20の1及び2にそれぞれ添付
された取扱説明書の本文6頁)。そして,上記パソコン本体に,後記イの
とおりの機能を果たすための専用のアプリケーションソフトウェアである
本件ソフトウェアがインストールされることにより,本件集中管理装置と
して機能することとなる。
本件集中管理装置は,蒸気ボイラ,ボイラ室オペレーションパネル,脱
酸素装置,システム軟水装置などの機器とオンラインで接続されたネット
ワークを構成し,このネットワークを介して,これらの機器の運転情報や
ボイラ台数制御情報等の伝送が行われる(甲9,甲26の1)。
被告従業員作成の陳述書(甲18)には,本件集中管理装置の販売形態
に関して,①CD-ROMに格納された本件ソフトウェアのみを販売する
ケースと,②パソコンに予め本件ソフトウェアをインストールして,その
パソコンとセットで販売するケースがあり,①の場合は,CD-ROMに
格納された本件ソフトウェアのみを販売し,顧客の既存のパソコンにイン
ストールしてもらうのに対し,②の場合は,例えばシーメンス製のパソコ
ンに予め本件ソフトウェアをインストールして,そのパソコンとセットで
販売するが,パソコンは他のメーカーのものも対応している,との記載が
ある。
イ本件集中管理装置の取扱説明書には,その冒頭付近に,「本管理装置は,
Microsoft®社のWindows®上で稼働するシステムです。」
との記載があり(甲8,25の各ⅳ),装置の機能について,次の記載が
ある(甲8,25の各本文5頁)。なお,本件集中管理装置には,これら
に加えて,ネットワークを通じて,同装置の監視モニタや報告書を別のパ
ソコンから閲覧できる「Web監視オプション」などのオプション機能が
ある(甲6)。
(ア)モニタ表示機能
全体モニタ画面より,本件集中管理装置が管理している各種機器(ボ
イラ,水処理機器,圧力変換器等)の機器全体の状況を1画面で監視で
きる。また,個別モニタ画面より,機器1台毎の個別詳細状況や当日の
主な熱管理データを確認することができる。これらのモニタはカラーグ
ラフィックにより機器イメージそのままに表示される。
(イ)メンテナンス表示機能
本件集中管理装置が管理している機器で「警報」や「お知らせ」等が
発生した場合,どのような画面を表示している状態においても,アラー
ム発生ウィンドウを自動起動し,そのアラーム内容とオペレータへの操
作指示ガイダンス等を表示する。特に緊急性が高い場合には,アラーム
発生ウィンドウの起動と同時に警報音を鳴らす。
(ウ)報告書自動作成機能
本件集中管理装置が管理している各ボイラから自動収集された運転情
報を,日報・月報データとしてパソコン本体のハードディスクへ記録す
る。記録した日報・月報データは必要に応じてディスプレイへ表示した
り,プリンタで印刷したりすることができる。
(エ)ヒストリカルトレンド機能(オプション)
本件集中管理装置が管理しているボイラシステム内のヘッダ圧力,蒸
発量のリアルタイムデータを10秒毎にパソコン本体のハードディスク
へ記録する。蓄積されたヒストリカルトレンドデータ(履歴データ)を,
監視モニタ上に表示することにより,ヒストリカルトレンドグラフの機
能を使用しての蒸気負荷分析が行える。
(オ)アラームサマリ機能(オプション)
本件集中管理装置が管理している機器で発生したアラーム情報を,ア
ラーム履歴としてパソコン本体のハードディスクへ記録する。記録した
アラーム履歴は必要に応じてディスプレイに表示したり,プリンタで印
刷したりすることができる。
(カ)データバックアップ機能
本件集中管理装置に登録している内容及び報告書データ等のバックア
ップを行うことができる。定期的なバックアップ作業を実施することに
より,過去データの保護が行える。
ウ本件集中管理装置の個別モニタ画面には,ボイラやシステム軟水装置,
脱酸素装置等の周辺機器毎の個別モニタ画面のほか,台数制御装置の個別
モニタ画面がある。
本件集中管理装置の取扱説明書には,台数制御装置(「BP-101」
の製品番号が付されている。)の個別モニタについて,「台数制御装置B
P-101の設定内容の確認及び,その変更を行うことができます。台数
制御設定,週間プログラム設定,ローテーション設定,自動手動設定を行
う専用のダイアログを表示させ,その設定内容を台数制御装置に書き込む
ことができます。」との記載があり,個別モニタ画面に台数制御装置によ
る制御内容が表示されるほか,台数制御装置で設定できる台数制御,週間
プログラム,ローテーション,自動/手動に関する設定を個別モニタ画面
上で行い,台数制御装置に設定内容を書き込むことができるとの記載があ
る(甲8,25の各本文104ないし123頁)。
エ被告が販売するボイラ室オペレーションパネル「BP-101」のパン
フレット(乙7)によれば,同オペレーションパネルは,ボイラ室全体の
集中監視機能のほか,台数制御機能及びデータ通信機能を備えるとされる。
オ本件ソフトウェアのバージョンアップについて
本件集中管理装置は,最新機器に対応するため,定期的な機能追加を行
っており,新たな機器を購入した顧客に対しては,本件集中管理装置を有
償で最新版へバージョンアップすることによって,最新機器を監視,管理
することが可能になる。この場合,被告は,CD-ROMに格納されたバ
ージョンアップ版の本件ソフトウェアを,顧客に販売する(甲18)。
(2)本件集中管理装置の表示
本件集中管理装置の表示に関して,被告のウェブサイト(甲3。平成26
年2月26日印刷のもの)には「MiuraIntelligenceFlexibilitySystem
ER」との表示が,本件集中管理装置のパンフレット(甲9。平成20年1
1月印刷のもの)には「マイフレックスシステム」,「MFX-EVシリー
ズ」,「MFX-EV/EVFシリーズ」との表示が,取扱説明書(甲7
(平成22年1月発行のもの),甲8(平成25年4月発行のもの),甲2
5(平成23年3月発行のもの)),仕様書(甲6。作成年月日不明)には,
「MFX-Wシリーズ」,「MFX-W」,「MFX-EVシリーズ」,
「MFX-EV」,「MFX-W,EV」,「MiuraIntelligence
FlexibilitySystem」などの表示が,それぞれされている。
(3)ワタキューセイモアに対する本件集中管理装置の販売
アワタキューセイモアは,平成16年3月に本件集中管理装置を購入し,
同社の小樽工場に設置されたボイラの運転管理システムとして使用してき
たが,平成25年3月5日ころ,被告に対し,パソコン及びその周辺機器
一式の更新,システムのセットアップ及びインストール,本件ソフトウェ
アのバージョンアップ,従前の管理装置からのデータ移行作業を含む本件
集中管理装置の更新を発注し,同月22日,被告から,パソコン及びその
周辺機器一式とともに,本件ソフトウェアのバージョンアップ版の格納さ
れたCD-ROMの引渡しを受けた(甲11の1及び2,甲21の1及び
2,弁論の全趣旨)。
上記CD-ROMの表面には,「集中管理装置MiuraIntelligence
FlexibilitySystemVer.6.5.1日本語」との表示のほか,下
記のとおりの「MFX-EVシリーズ」の文字からなる標章(以下「本件
使用商標」という。)が表示されていた(甲21の1及び2)。
(本件使用商標)
イ前記アの本件集中管理装置の更新に関するものと推測される被告従業員
作成の平成25年2月18日付け見積書(甲11の1)には,「パソコン
更新の御見積」として,次の記載があり,下記の「1」及び「2」につい
て,それぞれ単価の記載がされている。
「1更新部品一式
・シーメンス製産業用コンピューター一式(Windows7)

-キーボード及びマウス含む
-スピーカ含む

・セットアップ,インストール
・既設プリンタ用ケーブル
※M-NETⅡ対応」
「2ソフトウェアバージョンアップ
・バージョンアップ
※MFX-EVWindows7対応
※M-NETⅡ対応」
ウ前記アの本件集中管理装置の更新に関するものと推測される平成25年
3月5日付け注文書(甲11の2。作成者は,弁論の全趣旨に照らし,ワ
タキューセイモア従業員であると推測される。)には,「下記の通り注文
致します。」として,品名欄に「パソコン更新」,規格欄に「MFX-E
V」,数量欄に「一式」の各記載があるほか,これに続く品名欄に「シー
メンス製産業用コンピュータ(Windows7)」,「データコンバート・試運
転含む」などの記載がある。
2本件使用商標が本件商標と社会通念上同一の商標といえるか
前記1に認定した事実によれば,被告は,要証期間内である平成25年3月
22日ころ,ワタキューセイモアに対し,本件集中管理装置の更新に関して,
「MFX-EVシリーズ」の文字からなる本件使用商標が表示された本件ソフ
トウェアのバージョンアップ版が格納されたCD-ROMを引き渡した事実が
認められる。
そこで,本件使用商標が,本件商標と社会通念上同一の商標ということがで
きるかどうか,以下検討する。
(1)「MFX」の文字部分が本件使用商標の要部に当たるか
ア本件使用商標は,前記1(3)アのとおりの外観を有し,「MFX」の欧
文字,「-」の記号,「EV」の欧文字,「シリーズ」の片仮名文字が,
順次,横書き一段に記載されてなるものである。
そして,「MFX」の文字部分と「EVシリーズ」の文字部分は,「-」
(ハイフン)によって接続されているのに対し,本件使用商標を構成する
文字の大きさには特段の差異はなく,また,上記ハイフン部分を除く各文
字の間隔にも特段の差異はないから,上記ハイフンの前にある「MFX」
の文字部分は,上記ハイフンの後の文字部分と対比して,外観上まとまっ
たものとして看取されるというべきである。
これに対し,上記ハイフンの後の「EVシリーズ」の文字部分は,「E
V」の文字部分それ自体には,出所識別標識としての特段の称呼や観念を
生ずるものではなく,むしろ,「連続性を持つ一連のもの」との意味を有
する日本語であることを容易に理解することができる「シリーズ」の文字
部分がその後ろに付されていることや,電子応用機械器具の取引分野にお
いては,それ自体としては必ずしも固有の意味を生じるものとはいえない
欧文字等の組合せを,商品の種別や型番を表す記号として用いることがあ
ることからすると,取引者,需要者において,「MFX」の語によって表
象される一連の製品における個々の製品の種別や型番を表す語と理解する
ことができるというべきである。
イ以上を総合すると,本件使用商標の「MFX」の文字部分は,本件使用
商標のその余の文字部分から分離して観察することが取引上不自然である
と思われるほど不可分的に結合しているものではなく,むしろ,電子応用
機械器具の取引者,需要者において,被告が製造販売する製品を表すひと
まとまりの表示として認識するものと認められ,また,本件使用商標のそ
の余の文字部分からは,出所識別標識としての称呼や観念は生じないから,
「MFX」の文字部分が独立して自他商品の識別標識として機能し得るも
のであると認められる。
したがって,「MFX」の文字部分は,本件使用商標の要部であると認
められ,本件商標は,これと同一の文字からなるものであるから,本件使
用商標は,本件商標と社会通念上同一の商標であると認められる。
⑵原告の主張について
原告は,本件使用商標は,前後の文字を結合する役割を果たすハイフンを
介して,同じ書体にて全体をまとまりよく一体不可分に表示されており,そ
の全体をもって一つの商標と認識する需要者も少なからず存在するから,同
商標は,本件商標との同一性を欠くと主張する。
しかしながら,本件使用商標における「MFX」の文字部分は,ハイフン
の後の文字部分と対比して,外観上まとまったものとして看取され,電子応
用機械器具の取引者,需要者において,被告が製造販売する一連の製品を表
すひとまとまりの表示として認識するものと認められるから,「MFX」の
文字部分が独立して自他商品の識別標識として機能し得る要部であるという
ことができるのは,前記⑴のとおりであり,原告の上記主張は,採用するこ
とができない。
3被告が本件使用商標を本件審判請求の対象となった指定商品について使用し
たか
前記1(3)によれば,被告は,要証期間内に,ワタキューセイモアに対し,
本件使用商標が表示された本件ソフトウェアのバージョンアップ版が格納され
たCD-ROMを引き渡したことが認められる。
かかる行為をもって,本件商標と社会通念上同一の商標を,本件審判請求の
対象となった指定商品に含まれる「電子計算機用プログラム」について使用し
たということができるかどうかについて,以下検討する。
(1)本件集中管理装置と本件ソフトウェアの関係について
ア前記1(1)アのとおり,本件集中管理装置の取扱説明書には,「装置全
体」の説明として,パソコン本体及びその周辺機器から構成されるとの記
載があり,被告のウェブサイト(甲3,甲26の1及び2)や本件集中管
理装置のパンフレット(甲9),取扱説明書(甲8,25)には,パソコ
ン本体及びその周辺機器が納められたテーブルの写真や,その見取図が,
本件集中管理装置として掲載されている。
一方,本件集中管理装置の取扱説明書には,その冒頭付近で,「本管理
装置は,Microsoft®社のWindows®上で稼働するシステ
ムです。」として,本件集中管理装置の本質が,むしろソフトウェア(本
件ソフトウェア)にあると受け取れるような説明がされている(1⑴イ)
ほか,その記述内容も,ソフトウェアの操作方法を説明したものと受け取
ることが十分に可能なものになっている(甲8,25)。そして,被告が,
パソコン本体及びその周辺機器自体を製造しているとは認められず,これ
らの機器は,専ら,被告が,他のメーカーから既製品を調達して組み合わ
せたものと認められる。さらに,これらの機器自体は,パソコン本体,キ
ーボード,ディスプレイ,マウス,通信アダプタ,プリンタ,無停電電源
装置といった,パソコンでソフトウェアを操作するために使われるありふ
れたものばかりである上,汎用のものであれば足りるのであって,本件集
中管理装置を構成する機器としての特有のハード面での仕様や性能が,被
告によって付加されているとは認められない。そして,これらの機器が集
中管理装置としての前記1(1)イのとおりの機能を果たすためには,アプ
リケーションソフトウェアである本件ソフトウェアが,パソコン本体にイ
ンストールされることが必要となる。
また,前記1(1)オによれば,本件集中管理装置は,最新機器に対応す
るための機能追加を,本件ソフトウェアのバージョンアップ版を格納した
CD-ROMを用いた本件ソフトウェアのバージョンアップという形態で
行っているものと認められるが,上記のような形態による本件集中管理装
置の機能追加に当たって,パソコン本体及びその周辺機器自体の更新が必
須のものであると認めるに足りる証拠はない。
イそうすると,本件集中管理装置の機能,性能は,専ら本件ソフトウェア
の機能,性能に依存しているものであって,むしろ,その本質はソフトウ
ェアである本件ソフトウェアにあるということも可能である。そして,本
件集中管理装置を最新機器に対応させるためには,少なくとも本件ソフト
ウェアのバージョンアップが必要であり,この場合には,本件集中管理装
置が所要の機能を果たすための必須の構成要素である本件ソフトウェアの
バージョンアップ版が格納されたCD-ROMが顧客に販売されるから,
かかるバージョンアップ版を対象とする独立の取引を観念することができ
る。
以上によれば,本件ソフトウェアのバージョンアップ版は,本件集中管
理装置の単なる付属品ではなく,それ自体を独立した商品として観念する
ことができるというべきである。
ウ前記1(3)に認定したとおり,被告は,平成25年3月5日ころ,ワタ
キューセイモアに対し,本件使用商標が表示された本件ソフトウェアのバ
ージョンアップ版が格納されたCD-ROMを引き渡しているが,前記イ
において説示したところによれば,この行為は,独立した取引として観念
することができるものというべきである。
なお,上記CD-ROM引き渡しの際,パソコン本体及びその周辺機器
も更新されているが(1⑶),前記イに説示したとおり,本件ソフトウェ
アは,パソコン本体及びその周辺機器の付属品ではなく,むしろ本件集中
管理装置の本質をなすとも言い得るものであって,独立の商品として観念
することができるものである。また,前記1(3)イのとおり,パソコン本
体及びその周辺機器の更新については「更新部品一式」として,本件ソフ
トウェアのバージョンアップについては「ソフトウェアバージョンアップ」
として,見積書(甲11の1)の品目に挙げられ,それぞれ単価が設定さ
れていたのであって,この点からしても,本件ソフトウェアのバージョン
アップ版が,独立の商品として取引の対象とされたと認定することには何
ら妨げがないものというべきである。
そして,本件ソフトウェアのバージョンアップ版が,本件集中管理装置
に所要の機能を付与するための専用のアプリケーションソフトウェアをバ
ージョンアップさせるためのものであり,商標法施行規則別表第9類の
「十六電子応用機械器具及びその部品」中の「電子計算機用プログラム」
に当たることは明らかである。
以上を踏まえると,被告は,本件ソフトウェアのバージョンアップ版と
いう商品が格納されたCD-ROMという「包装」に本件使用商標を付し
たものを,譲渡ないし引き渡したものと認められるから,要証期間内に,
本件商標の指定商品に含まれる「電子計算機用プログラム」について,本
件商標と社会通念上同一と認められる本件使用商標を使用したと認めるこ
とができる。
したがって,本件商標の商標権者である被告において,商標法50条2
項本文所定の証明をしたものというべきであるから,これと同旨の本件審
決の認定判断に,誤りはない。
(2)原告の主張について
ア原告は,本件ソフトウェアは,商標法施行規則別表第9類「十三電気
通信機械器具」中の「遠隔測定制御機械器具」に属する本件集中管理装置
の付属品にすぎず,同「十六電子応用機械器具及びその部品」中の「電
子計算機用プログラム」には当たらないと主張する。
しかしながら,前記1(1)イによれば,本件集中管理装置は,各種機器
の運転状況の監視や運転データの確認・記録・保存,報告書の自動作成等
の機能を有するにすぎず,ボイラその他の機器を制御する機能を有すると
は認められない。
なお,前記1(1)ウによれば,本件集中管理装置は,台数制御装置にお
いて設定できる台数制御,週間プログラム,ローテーション,自動/手動
に関する設定を,個別モニタ画面上で行い,台数制御装置に設定内容を書
き込むことができる機能を有することが認められる。
しかしながら,かかる機能は,台数制御装置が行う制御の内容に関して,
本件集中管理装置の個別モニタ画面上で各種設定ができるというものにす
ぎず,機器の制御自体はあくまでも台数制御装置が行い,本件集中管理装
置自体が行うものではないから,本件集中管理装置が上記のような機能を
有することを理由に,同装置が商標法施行規則別表第9類の「十三電気
通信機械器具」中の「遠隔測定制御機械器具」に当たるものと認めること
はできない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
イ原告は,本件ソフトウェアは本件集中管理装置の付属品にすぎず,「電
子計算機用プログラム」には当たらないと主張する。
しかしながら,本件ソフトウェアのバージョンアップ版について,独立
の商品として観念することができることは,前記(1)イのとおりである。
また,ワタキューセイモアに対する本件ソフトウェアのバージョンアッ
プ版の引渡しが,パソコン本体及びその周辺機器の更新と同時に行われた
ことが,本件ソフトウェアのバージョンアップ版の商品としての独立性を
失わせるものではないことは,前記(1)ウのとおりである。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
4結論
以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文
のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官鶴岡稔彦
裁判官田中正哉及び裁判官神谷厚毅はいずれも転補のため署名押印すること
ができない。
裁判長裁判官鶴岡稔彦

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