弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
 1 本件控訴を棄却する。
 2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人の請求を棄却する。
 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2 原審における被控訴人(1審原告)の請求
   控訴人は被控訴人に対し55万3455円及びこれに対する平成15年8月
1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第3 事案の概要
 1 事案の要旨
   本件は,被控訴人が控訴人に対し,控訴人との仲介契約に基づき,控訴人と
第三者との不動産売買を仲介し,これに付随して金融機関からの控訴人の住宅ロー
ン借入事務を代行したとして,仲介手数料55万3455円及びこれに対する期限
の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた
事案の控訴審である。
 2 前提となる事実
   以下の事実は,当事者間に争いがないか,各項末尾掲記の証拠によって容易
に認められる。
(1)当事者
被控訴人は,土地建物の管理,賃貸,売買,仲介及び鑑定評価等を業とす
る株式会社であり,控訴人は,平成15年6月ころ,神戸市a区に在住しており,
新しいマンションの購入を希望していた者である。(弁論の全趣旨)
(2)仲介契約の成立
控訴人は,平成15年6月14日,被控訴人との間で,希望する購入条件
として,物件の種類につき「マンション」,価格につき「1500~1600
万」,広さ間取り等として「4LDK」,所在地として「a区内」とした上,不動
産売買の仲介を主たる目的とする仲介契約(以下「本件仲介契約」という。)を締
結した。(乙1)
そして,被控訴人の仲介によって後記・の売買契約が成立したため,控訴
人は被控訴人に対して,仲介手数料として消費税込みで55万3455円を,平成
15年7月31日までに支払う旨約した。(甲2)
(3)不動産売買契約の成立
控訴人は,平成15年6月14日,zから,神戸市a区所在のマンション
の一戸である4LDKの物件(別紙物件目録記載の土地建物,以下「本件物件」と
いう。)を1600万円(本体価格1557万円,消費税43万円)で購入した
(以下「本件売買契約」という。)。(争いがない)
本件売買契約の契約書(甲1)には,媒介業者として被控訴人が,宅地建
物取引主任者として被控訴人の従業員であるAが,それぞれ記載されていた。(甲
1,弁論の全趣旨)
(4)仲介契約約款
本件仲介契約には約款として「一般媒介契約約款」が付されているとこ
ろ,同17条においては,以下の場合に,依頼者が仲介業者に対し,仲介契約を解
除することができる旨規定されている。(乙1,弁論の全趣旨)
 ア 仲介業者が一般媒介契約に係る業務について信義を旨とし誠実に遂行す
る義務に違反したとき
 イ 仲介業者が一般媒介契約に係る重要な事項について故意若しくは重過失
により事実を告げず,又は不実のことを告げる行為をしたとき
 ウ 仲介業者が宅建物取引業に関して不正又は著しく不当な行為をしたとき
 3 争点及び当事者の主張
   本件の争点は,本件仲介契約が合意解除され,又は,債務不履行によって解
除されたことにより,控訴人が前記仲介手数料の支払義務を免れるかである。
  (1)被控訴人による本件仲介契約の解除
ア 控訴人の主張
平成15年6月29日,Aは,控訴人が被控訴人に依頼した業務につ
き,後任者も定めずに担当を離れることを控訴人に申し出て,実質的に業務を放棄
した。報酬を得る立場にある者が自らその業務を放棄した場合には仲介契約を破棄
したものと解されるところ,仲介契約を破棄し,売買契約成立後の仲介業務を放棄
した控訴人に報酬請求権は認められない。
イ 被控訴人の主張
被控訴人側担当者にすぎないAが担当を替わる旨申し出ても,会社とし
ての被控訴人が仲介契約を破棄したことにはならず,控訴人が主張する事実は仲介
契約の破棄に該当しない。
  (2)控訴人による本件仲介契約の解除
   ア 控訴人の主張
     被控訴人は,宅地建物取引業法違反となる以下の行為を行った。これ
は,一般媒介契約約款17条に規定されている仲介契約の解除事由に該当する行為
であるところ,控訴人は,平成15年7月10日,被控訴人に対し,本件仲介契約
の解除を申し出た。
(ア)誇大広告の禁止(宅地建物取引業法32条)
被控訴人が作成した広告チラシ(甲3)は,広さの記載が現状と異な
り,単位の記載も無く,誇大広告を禁止した宅地建物取引業法32条に違反してい
たため,控訴人は不利益を被った。
(イ)重要事項の説明義務(同法35条)
被控訴人は,本件売買契約に際し,物件の説明をせず,書面も交付し
なかった。
(ウ)守秘義務(同法45条)
被控訴人は,控訴人が預けた印鑑証明書,住民票謄本,源泉徴収票等
の重要書類を一般郵便で郵送し,もって,守秘義務を怠った。
(エ)信義誠実義務(同法31条)
控訴人が迅速な業務処理を依頼したのに,被控訴人は,「他の仕事が
あるのにやってられません。」という回答をしたり,被控訴人の不手際により業務
処理を遅延させ,また,突然の業務放棄のため,控訴人を困惑させた。
したがって,控訴人と被控訴人との仲介契約は解除されているから,本
件仲介契約に基づく報酬請求権は認められない。
イ 被控訴人の主張
被控訴人に本件仲介契約の解除事由があることは否認する。
第4 争点に対する判断
 1 認定事実
証拠(甲1,3ないし5,乙1,2)及び弁論の全趣旨によれば,前記「前
提となる事実」に加え,以下の事実が認められる。
(1)被控訴人は,当初本件物件の概要を控訴人に説明したが,その際,控訴人
に示した広告(甲3)には,本件物件の間取りや詳細な情報,各部屋の広さを示す
数値等が記載されていたものの,各部屋の広さについては単位が付されておらず,
専有面積も,登記簿上の床面積ではなく,壁芯面積が記載されていた。
(2)平成15年5月ころ,Aは,控訴人に本件物件を案内し,説明を加えた
が,3.2㎡の広さであるトランクルームの場所や駐車場の場所については案内し
なかった。
(3)被控訴人は,本件売買契約の成立に伴い,控訴人と株式会社UFJ銀行
(以下「UFJ銀行」という。)との間の住宅ローン借入契約や同契約に伴う控訴
人とUFJ信用保証株式会社との間の保証委託契約に関する事務(以下「住宅ロー
ン事務」という。)を代行した。控訴人が作成した住宅ローン借入申込書(兼)保
証委託申込書(兼)保証委託契約書(甲4)の申込内容のうち「借入希望日」欄に
は,「平成15年7月31日」と記入されていた。しかし,控訴人は,当時の自宅
が賃貸であったことから,その賃料の負担を少なくするために,同年6月中に融資
承認を受け,自宅の賃貸借の解約手続を早期に行いたいと希望していた。
Aは,上記住宅ローン事務に必要な書類として控訴人から印鑑登録証明
書,売買契約書,住民票,源泉徴収票等の交付を受けていたところ,これらを速達
でUFJ銀行等に郵送し,同書類は本件売買契約の2日後までには宛先であるUF
J銀行等に到達した。
(4)控訴人は,同年6月29日ころ,Aに対し,銀行に対する書類送付の段取
りが悪かったので融資承認が遅れてしまう,同月30日までに融資承認を受けられ
なければ本件仲介契約は解約すると申し出たところ,Aは,融資承認は同年7月1
1日となっていること,融資承認は銀行が決めることで同年6月30日までに承認
が得られるよう努力はするが確約はできないと返答した。控訴人は,そのようなA
の態度に誠意がないとしてAに対して更に不満を述べ,これに対し,Aは,文句は
上司に述べるように求め,自らは担当を交替すると申し出た。
(5)結局,UFJ銀行などによる前記融資承認は,同月30日付けでなされ,
同年7月11日には,融資が実行されて売買代金が決済され,同日,本件物件につ
いて,控訴人に所有権移転登記がなされた。
 2 争点(1)について
(1)控訴人は,仲介契約において,仲介者が自らその仲介業務を中途で放棄し
た場合には仲介契約を破棄したものであるから,仲介者には報酬請求権が認められ
ないと主張する。
しかしながら,仲介者が仲介業務を中途で放棄した場合には,仲介業務の
主たる目的である売買契約の成否にかかわらず,仲介契約を破棄したものと解すべ
きであるというのは,控訴人独自の見解にすぎず失当であるから,控訴人の主張に
理由はない。
(2)そもそも,前記認定事実によれば,Aは融資承認を平成15年6月中に受
けられないおそれがある旨の控訴人の抗議に対し,控訴人の担当から外れたい旨を
申し出たのみであるところ,これをもって,被控訴人が仲介業務を放棄したものと
みなすこともできないし,まして,これをもって仲介者が報酬請求権を放棄する黙
示の意思表示をしたものとも認められない。
よって,控訴人の主張に理由はない。
 3 争点(2)について
(1)控訴人は一般媒介契約約款17条に掲げられた契約解除事由を主張すると
ころ,同規定は本件媒介契約の附款としての効力を有することは明らかであるか
ら,解除の結果として報酬請求権にどのように消長を来たすかはさておき,少なく
とも同規定の解除事由が認められた場合に,控訴人が本件仲介契約を解除すること
ができることは明らかである。
もっとも,同規定が,相当期間を定めた催告を必要とせず,直ちに解除し
うるものと規定した趣旨に鑑みると,同規定による解除が認められるのは,仲介業
者が,仲介契約の性質上およそ許されない背信的行為を行った場合で,かつ,履行
を催告してその結果を待つまでもなく,当該契約の目的を達成することがおよそ期
待できないことが明らかな場合に限られるものと解するのが相当であるところ,そ
のような場合にあたるか否かは,仲介者の態度,仲介義務違反の程度,仲介義務の
履行可能性などの個別具体的な事情に基づいて判断すべきものと解される。
(2)本件でこれを見るに,前記認定事実によれば,被控訴人の作成した広告
(甲3)に単位の表示がない上,専有面積として壁芯面積が記載されていたこと,
本件物件を案内する際,物件の一部であるトランクルームについて案内しなかった
こと,Aは源泉徴収票等個人情報の記された書類を書留でなく,速達郵便でUFJ
銀行に送付したことが認められる。
しかしながら,証拠(甲3)によると,被控訴人が示した広告には,間取
図が実際と異なる場合もあるので現況にて確認すべき旨記載されていることが認め
られるところ,Aは本件売買契約締結の1か月ほど前には本件物件に控訴人を案内
して現地で説明している上,専有部分の床面積は売買契約書にも明記されていたと
認められる(甲1)ことを考慮すると,上記広告の記載が購入者の判断を誤らせる
ほど著しく事実と相違するとは認めがたい。また,AがUFJ銀行に書類を書留郵
便で送付しなかった点についても,配達の確実性を考慮すると,一般的に相当な方
法といえるかは疑問がないではないが,本件においては,結果としてUFJ銀行に
配達されており,個人情報が第三者に漏れたような事情も認められない。さらに,
前記広告によれば,ト
ランクルームや駐車場についてもそれぞれ,管理費や修繕積立金を月々負担すべき
旨記載されていると認められ(甲3),トランクルームについては,本件売買契約
書にその床面積も記載されていると認められること(甲1)に照らすと,控訴人も
トランクルーム等の存在を認識した上で本件売買契約を締結したものと認められ
る。そうすると,これらの事情は,無催告での解除を相当とするような背信性の強
いものではないことは明らかであり,いわゆる契約の不完全履行として損害賠償請
求の対象として主張することができるか否かはさておき,少なくとも控訴人は,こ
れらを理由として一般媒介契約約款17条に基づく本件仲介契約を解除することは
できないというべきであり,控訴人の主張には理由はない。
(3)よって,そもそも,本件仲介契約の解除は認められないから,被控訴人に
よる報酬請求が認められない旨の控訴人の主張には理由がない。
第5 結論
   よって,被控訴人の本訴請求は理由があるからこれを認容すべきところ,そ
れと同旨である原判決は相当であって本件控訴は理由がないからこれを棄却するこ
ととし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条1項本文,61条を適用して,主
文のとおり判決する。
 神戸地方裁判所第6民事部
     裁判長裁判官    田 中 澄 夫
    
        裁判官    大 藪 和 男
        裁判官    三 宅 知三郎
(別紙)
物件目録
(一棟の建物の表示)
所    在  神戸市a区bc丁目d番地e
建物の番号  H
構    造  鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根14階建
(敷地権の目的たる土地の表示)
土地の符号  1
所在及び地番  神戸市a区bc丁目d番地e
地    目  宅地
地    積  10924.27㎡
(専有部分の建物の表示)
 家屋番号  α四丁目8番1の20801
 建物の番号  2号棟801
種    類  居宅
構    造  鉄骨鉄筋コンクリート造1階建
床面積  8階部分95.63㎡
(敷地権の表示)
土地の符号1
敷地権の種類所有権
敷地権の割合  10万分の668

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