弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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    主     文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
     事実及び理由
第1 請求
1 被告の原告らに対する平成9年10月31日付け非公開処分(工振第538号の2)を
取り消す。
2 被告の原告らに対する平成9年11月7日付け非公開処分(地振第494号)を取り消
す。
3 被告の原告らに対する平成9年11月7日付け非公開処分(地自第216号)を取り消
す。
4 被告の原告らに対する平成9年11月7日付け非公開処分(国文第59号)を取り消
す。
5 被告の原告らに対する平成9年11月7日付け非公開処分(総文第168号の2)を取
り消す。
6 被告の原告らに対する平成9年11月7日付け非公開処分(総文第168号)を取り消
す。
7 訴訟費用は被告の負担とする。
第2 事案の概要
 本件は,岐阜県民である原告らが,岐阜県情報公開条例(本件条例)の実施機関で
ある被告(岐阜県知事)に対し,岐阜県が関与する宇宙技術及び科学の国際シンポジウ
ム岐阜県事業実行委員会等6つの実行委員会及び協議会が作成又は取得した文書の
公開をそれぞれ請求したところ,被告が,これら委員会等は岐阜県とは別個の独立した
団体であって,岐阜県は当該文書を作成し,また取得していないとしてこれら文書を公
開しない旨の処分をしたので,原告らが被告に対し,これらの各非公開処分の取消しを
求めた事案である。
1 争いのない事実
(1)当事者
ア 原告らは,いずれも肩書住居地に居住する岐阜県民である。
イ 被告は,本件条例2条1項の実施機関である。
(2)本件条例の規定
 本件条例には,以下の規定が置かれている。
 2条1項「この条例において「実施機関」とは,知事,教育委員会,選挙管理委員会,人
事委員会,監査委員,地方労働委員会,収用委員会及び内水面漁場管理委員会をい
う。」
 2条2項「この条例において「公文書」とは,実施機関の職員が職務上作成し,又は取
得した文書,図面及び写真であって,実施機関が管理しているものをいう。」
(3)非公開処分の存在①
ア 原告らは,平成9年10月20日付けで,「宇宙技術及び科学の国際シンポジウム岐
阜県事業実行委員会」(委員会①)に関する公文書についての公開請
求を行った。
イ この請求に対し,被告は,平成9年10月31日付けで,工業振興課の主管した199
6(平成8)年度における委員会①について支出した負担金等の支出に関して,収支予
算書及び決算書の明細を表す文書(積算根拠などや請求書,領収書なども含む),実行
委員会の名簿(以下,これらの文書を合わせて「本件文書①」という。)は存在しないとの
理由で非公開処分(工振第538号の2,本件処分①)を行った。
(4)非公開処分の存在②
ア 原告らは,平成9年10月27日付けで,「飛騨・美濃地域おこしフェア実行委員会」
(委員会②)に関する公文書についての公開請求を行った。
イ この請求に対し,被告は,同年11月7日付けで,地域振興課の主管した1996(平
成8)年度における委員会②について支出した負担金等の支出に関して,収支予算
書及び決算書の明細を表す文書(積算根拠などや請求書,領収書なども含む)(以
下,これらの文書を合わせて「本件文書②」という。)は存在しないとの理由で非公開
処分(地振第494号,本件処分②)を行った。
(5)非公開処分の存在③
ア 原告らは,平成9年10月27日付けで,「全国地域づくり先進事例会議inぎふ実行
委員会」(委員会③)に関する公文書についての公開請求を行った。
イ この請求に対し,被告は,同年11月7日付けで,自治大学校の主管した1996(平
成8)年度における,委員会③について支出した負担金等の支出に関して,収支予算
書及び決算書の明細を表す文書(積算根拠などや請求書,領収書なども含む),実行
委員会の組織票(名簿)(以下,これらの文書を合わせて「本件文書③」という。)は存
在しないとの理由で非公開処分(地自第216号,本件処分③)を行った。
(6)非公開処分の存在④
ア 原告らは,平成9年10月27日付けで,「第14回国民文化祭岐阜県実行委員会」
(委員会④)に関する公文書についての公開請求を行った。
イ この請求に対し,被告は,同年11月7日付けで,総合文化振興課の主管した199
6(平成8)年度における,委員会④について支出した負担金等の支出に関して,収支
予算書及び決算書の明細を表す文書(積算根拠などや請求書,領収書なども含む)
(以下,これらの文書を合わせて「本件文書④」という。)は存在しないとの理由で非公
開処分(国文第59号,本件処分④)を行った。
(7)非公開処分の存在⑤
ア 原告らは,平成9年10月27日付けで,「文化庁芸術祭岐阜公演実行委員会」(委
員会⑤)に関する公文書についての公開請求を行った。
イ この請求に対し,被告は,同年11月7日付けで,総合文化振興課の主管した199
6(平成8)年度における委員会⑤について支出した負担金等の支出に関して,収支
予算書及び決算書の明細を表す文書(以下,これらの文書を合わせて「本件文書⑤」
という。)は存在しないとの理由で非公開処分(総文第168号の2,本件処分⑤)を行
った。
(8)非公開処分の存在⑥
ア 原告らは,平成9年10月27日付けで,「岐阜県民文化祭運営協議会」(協議会⑥)
に関する公文書についての公開請求を行った。
イ この請求に対し,被告は,同年11月7日付けで,総合文化振興課の主管した199
6(平成8)年度における協議会⑥について支出した負担金等の支出に関して,収支
予算書及び決算書の明細を表す文書(以下,これらの文書を合わせて「本件文書⑥」
という。)は存在しないとの理由で非公開処分(総文第168号,本件処分⑥)を行っ
た。
ウ これに対する異議申立・諮問・答申・決定の月日及び内容は,前記(2)ウ及びエと同
じである。
(9)本件処分①ないし⑥に関する異議申立とこれに対する棄却決定
ア 原告らは,平成9年11月17日付けで被告に対して本件処分①ないし⑥について
異議申立を行い,被告は,本件条例に従い,同年12月8日,岐阜県公文書公開審査
会に諮問し,同審査会は,審議の結果,平成11年10月18日付けで被告に「公文書
非公開決定は妥当である」との答申を行った。
イ 被告は,平成12年2月23日付けで,上記異議申立を棄却するとの決定をした。
2 争点
 本件文書①ないし⑥(以下,これらを合わせて「本件各文書」という。)が,本件条例
により情報公開の対象となる「公文書」,すなわち,「実施機関の職員が職務上作成,取
得した文書」であって,「実施機関が管理しているもの」にあたるか否か。
(原告の主張)
(1)本件各文書は,いずれも実施機関の職員が職務上作成,取得した文書であって,
実施機関が管理しているものにあたる。
(2)被告は,地方自治法172条,153条1項に基づいて,委員会①ないし⑤及び協議
会⑥(以下,これらを合わせて「本件各委員会」という。)の事務局担当課の職員をし
て当該担当課の職務の一環として当該各委員会についての諸事業や付随する事務
を行うことを委任し,同時に,地方自治法154条によれば,本件各委員会の事務局
担当課の職員が行う文書の作成は,いずれも被告の職員が職務上行う事務に他なら
ないから,本件各文書はいずれも被告の職員が職務上の権限により作成する文書で
あり,これに伴って取得する文書も被告の職員が職務上の権限により取得する文書
である。
(3)また,本件各委員会は事務局が県庁内の所管課等(委員会①は工業振興課,同
②は地域振興課,同③は地方自治大学校,同④,⑤,協議会⑥はいずれも総合文化
振興課)に置かれていることから,本件各文書は同委員会存続中は事務局所管課に
存在し,本件各委員会のうち解散したものについての文書は各所管課が保管してい
るものであるから,本件各文書は実施機関が管理しているものというべきである。
  被告は,本件各文書は,県の執務室等に事実上置かれているものにすぎず,公文
書規程等による保管もしていないことから,公的に支配しているとはいえず,上記公
文書には該当しないと主張するが,公開の対象となる公文書を実施機関において管
理しているものに限定しているのは,実施機関が当該公文書を支配下においている
場合でなければ,当該公文書を開示することができないからであることからすれば,
「実施機関が管理しているもの」とは「現実に実施機関において管理しているもの」を
いうと解すべきであり,この場合の「管理」は管理権限の所在とは必ずしも一致するわ
けではない。また,被告が発した平成9年5月20日付け「実行委員会方式事業の経
理事務に関する留意点について」によれば,実行委員会の文書は事務局所管課にお
いて岐阜県公文書規程の規定に準じて処理することとされ,解散した実行委員会に
は事務局が存在することはあり得ないから,解散後は,事務局であった所管課におい
て岐阜県公文書規程の規定で処理すべきものと自動的に読み替えられるものである
から,本来,本件各文書はいずれも公文書管理規程に従って管理されるべきもので
ある。
(4)さらに,委員会①は知事が名誉会長,同②ないし⑤及び協議会⑥は知事や副知
事,部長が代表を担い,県がいずれも負担金の全てまたは相当部分を負担しており,
県が自ら事務局を担っていること,本件各委員会の余剰金は,委員会③を除いて全
額県に返還され,返還の剰余金確定と県への戻入金調書の期日がいずれも同日で
あるという経費の動きは,通常の県の「課」における事業費の動きと何ら変わるところ
はないこと,本件各委員会は,県の施設を利用する際に目的外使用許可申請をして
いないこと,被告の職員が,職務専念義務免除もなく,給与の減額措置を行わないま
まに本件各委員会の業務,事務に従事していること,これらの諸事情によれば,本件
各委員会は,岐阜県とは別個の団体とは認められず,いずれも岐阜県の一部という
べきであり,この点からも,本件各委員会の職員が作成,取得し,委員会が管理して
いる文書は,被告の職員が職務上作成,取得し,被告が管理しているものであるとい
える。
(5)仮に,本件各文書が,実行委員会の存続中,実行委員会として作成・取得・管理し
た文書であって,県の職員が作成・取得したとはいえないとしても,少なくとも当該委
員会が解散した時点からは,被告が剰余金同様に文書を受け取り,しかるべく保管し
ているものである。そうすると,本件文書①(委員会①は平成9年3月28日解散),本
件文書③(委員会③は平成8年12月26日解散),本件文書⑤(委員会⑤は平成9年
5月21日解散)については,本件処分①③⑤以前より被告が保管しているのだから,
非公開処分としたことは違法である。また,本件処分の取消しを求める訴えは,平成
12年2月23日付けの異議申立棄却決定の取り消しをも包含する趣旨であるところ,
被告は,異議申立棄却決定時において本件文書②を保管していた(委員会②は平成
10年2月20日解散)のであるから,本件文書②の非公開処分を改め公開すべきで
あったのに,再度非公開処分としたことは違法である。
(被告の主張)
(1)そもそも,本件条例は岐阜県の公文書に適用されるものであり,実施機関の職員
が職務上作成,取得していないもの,あるいは実施機関が管理していないものは,本
件条例の適用外であるところ,本件各文書は,県とは別個独立した実行委員会の職
務として作成,取得し,当該委員会が管理しているものである。
(2)実行委員会は,県と県以外の団体により設立され,当該団体の職員が構成員たる
委員となっており,代表者も定まっていること,実行委員会は,委員が出席した会議で
多数決により合意,決定された要項により運営されていること,実施計画の策定,収
支予算及び決算その他財産関係等重要事項については,実行委員会の議決事項と
なっており,事実,収支予算及び実施計画は,実行委員会において議決決定され,そ
れに従って執行されていること,実行委員会の予算の執行は,県の会計とは独立して
行われており,物品調達等の契約行為,支払は全て実行委員会名で行われているこ
となどからすれば,実行委員会は,県とは別個独立した権利能力なき社団であり,県
は実行委員会の一構成員にすぎず,本件各文書は,県とは別個独立した実行委員
会の職務として作成,取得し,実行委員会が管理しているものである。
(3)また,本件各文書は,県の執務室等に事実上置かれているものにすぎず,公文書
規程等による保管もしていないことから,公的に支配しているとはいえず,公文書に
は該当しない。
  実行委員会解散後における文書の扱いについては,破産の場合の商業帳簿の取
扱いに準じて,清算人たる実行委員会の会長または実行委員長がその職務において
保管すべきものである。そうすれば,清算人たる会長または実行委員長はあくまで権
利能力なき社団である本件各委員会の機関であり,県とは独立しており,県が保管
管理している文書とはいい難い。
(4)行政不服申立については,異議申立が,行政処分に対する事後審査制度の一環と
して位置づけられていることから,決定の違法判断の基準時は原処分時とすべきで
ある。
  従って,本件処分①ないし⑥の違法判断は,平成9年10月31日及び同年11月7
日の処分時を基準とすべきであり,処分後の事情の変更は考慮する必要はない。
第3 争点に対する判断
1 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,本件各委員会について以下の事実が認めら
れる。
(1)本件委員会①
 岐阜県は,「第20回宇宙技術及び科学の国際シンポジウム岐阜県事業」を円滑に開
催するために,県内の企業の協賛のもとに,通産省,科学技術庁(いずれも当時),宇
宙開発事業団などで構成される本件委員会①を組織した(本件委員会①要綱1条,2
条)。
 本件委員会①には,役員として名誉委員長(岐阜県知事が就任),顧問,実行委員
長,副実行委員長,監事が置かれ(3条),名誉委員長,顧問は,委員会の円滑な運営
を図るため,国際的な視野に立った指導,助言を行い,実行委員長は,実行委員会を代
表し会務を総理し,副実行委員長は,実行委員長を補佐し委員長に事故があるときに
その職務を代行し,監事は,実行委員会の会計状況を監査し,その結果を実行委員会
に報告するものとされている(4条)。
 委員会は,合計29人の役員及び委員で構成され(6条),委員長が必要と認めたとき
に招集され(7条),事業計画及び収支予算,事業報告及び収支決算,要綱の改正その
他,事業の目的達成のために必要な事項を議決するものとされている(8条)。
 委員会は,委員会構成員の過半数の出席により成立し,議事は,出席者の過半数で
決し,可否同数の場合は委員長が決定することとされている(9条)。
 委員会の事務局は,岐阜県商工労働部企業立地技術課(後に工業振興課と改名)内
に置くものとされている(12条)。
 委員会に必要な経費は,負担金をもって充てることとされ(13条),収入の多くが岐阜
県の負担金によって占められている(収入総額4871万2651円中4181万1000円,
約85.8%)ものの,委員会の予算の執行は,岐阜県の会計とは独立して行われ,負担
金が振り込まれる預金口座を持ち,平成8年4月1日に実行委員長名で岐阜県知事に
対して負担金が請求され,委員会の解散に伴って生じた剰余金(223万8833円)は委
員会の議決に基づき,平成9年3月28日ころ,全額が岐阜県へ返還されている。
 同委員会は,目的を達して,平成9年3月28日ころ解散した(14条)。
(2)本件委員会②
 岐阜県は,「飛騨・美濃地域おこしフェア」の開催に当たって,その円滑な運営を図る
ことを目的に,平成8年9月27日,岐阜県と同フェアの関係諸団体で本件委員会②を組
織した(本件委員会②規約1条,2条)。
 委員会は委員をもって組織し,会長1名(岐阜県企画部長の職にある者が就任),副
会長3名及び監事2名が置かれ(4条),会長は委員会を代表し,会務を統括し,副会長
は,会長を補佐し,会長に事故あるとき,又は欠けたときは,その職務を代行し,委員
は,委員会の運営等を審議し,監事は会計を監査するものとされている(5条)。
 委員会の会議は,会長が必要に応じ招集し,会長が議長となり,原則として委員の過
半数の出席により成立し,議事は,出席者の過半数で決し,可否同数の場合は議長が
決することとされている(6条)。
 委員会の事務局は,岐阜県企画部地域振興課内に置くものとされている(8条)。
 委員会の経費は,負担金その他の収入をもって充てることとされ(7条),収入の多く
が岐阜県の負担金によって占められている(収入総額1601万2717円中1470万円,
約91.8%)ものの,委員会の予算の執行は,岐阜県の会計とは独立して行われ,委員
会会長名義の預金口座を持ち,平成8年9月30日に実行委員会会長名で岐阜県知事
に対して負担金が請求されている。
 同委員会は,目的を達して,平成10年2月20日ころ解散した(9条)。
(3)本件委員会③
 岐阜県は,平成8年度に岐阜県において開催される「全国地域づくり先進事例会議in
ぎふ」の企画及び実施に関する業務を行うことを目的に,岐阜県と岐阜県以外の関係諸
団体の職員で本件委員会③を組織した(本件委員会③規約1条,2条)。
 委員会は委員をもって組織し,会長1名(岐阜県知事の職にある者が就任),副会長
1名及び監事2名が置かれ(4条),会長は委員会を代表し,会務を総括し,副会長は,
会長を補佐し,会長に事故あるときは,その職務を代行し,監事は委員会の事業及び会
計を監査するものとされている(5条)。
 委員会は,会長が必要に応じ招集し(6条),規約の制定及び改廃,実施計画の策
定,収支予算及び決算その他重要な事項を議決するものとされている(7条)(議事は多
数決によって決められるものと推認される。)。
 委員会の事務局は,岐阜県地方自治大学校に置くものとされている(9条)。
 委員会の経費は,負担金,補助金その他の収入をもって充てることとされ(10条),収
入の多くが岐阜県の負担金によって占められている(収入総額1961万5108円中17
13万円,約87.3%)ものの,委員会の予算の執行は,岐阜県の会計とは独立して行
われ,委員会会長名義の預金口座を持ち,平成8年4月15日に実行委員会会長名で
岐阜県地方自治大学校長に対して負担金が請求されている。
 同委員会は,目的を達して,平成8年12月26日ころ解散した(11条)。
(4)本件委員会④
 岐阜県は,第14回国民文化祭の開催を通じて,広く国民の文化活動への参加意欲
を喚起し,新しい文化の創造を促し,地方文化の交流・発展に寄与することを目的に,
平成8年8月19日,本件委員会④を組織した(本件委員会④会則1条,3条)。
 委員会は,役員及び委員をもって組織され,会長1名,副会長10名以内(実際には8
名),監事2名の役員が置かれるものとされている(5条)。会長は,岐阜県知事をもって
充て,実行委員会を代表し,会務を総理するものとされ(6条,7条),副会長,監事,委
員は,関係機関及び団体の役職員,学識経験を有する者,会長が必要と認める者のう
ちから会長が委嘱し(6条),副会長は,会長を補佐し,会長に事故あるときは,会長が
あらかじめ指定した者がその職務を代理し,監事は,事業の執行状況及び会計につい
て監査し,必要があるときは,会長に意見を述べることができるものとされている(7
条)。これとは別に,委員会には会長が委嘱した顧問(14名,いずれも名誉県民ないし
国会議員)及び参与(71名,いずれも県議会議員ないし報道機関関係者)が置かれて
いる(8条)。
 委員会の会議は,岐阜県,社会福祉,学校関係者などの役員(11名)及び委員(53
名)をもって構成し(10条),国民文化祭の準備,運営及び実施の基本計画,会則,事
業計画及び事業報告,予算及び決算その他重要な事項について審議し決定するものと
され(11条),会長が招集する(12条)。議長は,会長または会長が指名する者がこれ
にあたり(13条),議事は,出席者の過半数の同意をもって決し,可否同数のときは,議
長の決するところによることとされる(14条)。ただし,会長は,会議を招集するいとまが
ないと認めるときは,その議決すべき事項について,専決処分することができる(15
条)。
 委員会の事務所は,岐阜県企画部総合文化振興課内に置くものとされている(2
条)。
 委員会の経費は,負担金その他の収入をもって充てることとされ(18条),収入のほ
とんど全てが岐阜県の負担金によって占められている(平成8年度において,収入総額
1700万6127円中1700万円,ほぼ100%)ものの,委員会の予算の執行は,岐阜
県の会計とは独立して行われ,委員会会長名義の預金口座を持ち,平成8年度につい
ては,平成8年8月22日に実行委員会会長名義で岐阜県知事に対して1700万円の負
担金が請求され,同年度の剰余金(4万9933円)は委員会の会議の承認を受けた上
で,平成9年5月21日ころ,全額が負担金拠出者である岐阜県へ返還されている。
 同委員会は,目的を達して,平成12年3月27日ころ解散した(20条)。
(5)本件委員会⑤
 岐阜県は,文化庁芸術祭岐阜公演を実施するため,本件委員会⑤を組織した(本件
委員会⑤規約1条)。
 委員会は,岐阜県,県内の市町村長,社会福祉関係者などの役員(11名)及び委員
(36名)をもって組織され,会長1名,会長代理1名,副会長7名,監事2名の役員が置
かれるものとされている(3条)。会長は,岐阜県知事をもって充て,委員会を代表し,会
務を総理し,会長代理は,岐阜県副知事をもって充て,会長の職務を代理し,副会長,
監事及び委員は,会長が委嘱し,副会長は,会長及び会長代理を補佐し,会長及び会
長代理に事故あるときは,その職務を代理し,監事は,会計を監査するものとされてい
る(4条)。
 委員会の会議は,会長,会長代理,副会長及び委員をもって構成し,会長が招集し,
会長又は会長があらかじめ指名した者が議長となり,議事は,出席者の過半数をもって
決することとされる(6条)。
 委員会の事務局は,岐阜県企画部総合文化振興課内に置くものとされている(9
条)。
 委員会の経費は,負担金,協賛金その他の収入をもって充てることとされ(8条),収
入の半分以上が岐阜県の負担金によって占められている(収入総額1億2003万494
1円中7365万円,約61.4%)ものの,委員会の予算の執行は,岐阜県の会計とは独
立して行われ,委員会会長名義の預金口座を持ち,平成8年7月22日に実行委員会会
長名で岐阜県知事に対して7365万円の負担金が請求され,剰余金(1717万2040
円)は委員会の会議の承認を受けた上で,平成9年5月21日ころ,全額が負担金拠出
者である岐阜県へ返還されている。
 同委員会は,目的を達して,平成9年5月21日ころ解散した(10条)。
(6)本件協議会⑥
 岐阜県は,岐阜県民文化祭の開催のため必要な企画を行い,これを総合的,かつ効
果的に運営するため,本件協議会⑥を組織した(本件協議会⑥設置要綱1条)。
 協議会は,県,県教育委員会,市町村,報道機関,県域芸術文化団体,関係団体の
役職員及び学識経験者のうちから,会長が委嘱する役員(41名)及び企画委員(48
名)をもって組織され(3条),会長1名,会長代理1名,副会長10名以内(実際には7
名),理事40名以内(実際には37名,副会長を含む。),地区理事,監事3名以内(実
際には2名)の役員が置かれるものとされている(4条)。会長は,岐阜県知事をもって充
て,協議会を代表し,会務を総理し,会長代理は,岐阜県副知事をもって充て,会長の
職務を代行し,副会長は会長が委嘱する者とし,会長を補佐し,会長及び会長代理に事
故あるときは,会長があらかじめ指定した者が,その職務を代理し,監事は会計その他
の事務を監査するものとされている(4条)。これとは別に,協議会には会長が委嘱した
名誉顧問(3名,いずれも名誉県民)及び参与(10名,いずれも報道機関関係者)が置
かれている(5条)。
 協議会には役員会,企画委員会が設置され,役員会は,会長,副会長及び理事をも
って構成され,岐阜県民文化祭の基本方針及び必要な企画その他必要な事項に関す
る業務を決定し(6条),企画委員会は,企画委員及び開催地の市町村教育委員会教育
長をもって充てる地区委員により組織され,岐阜県民文化祭の基本方針及び必要な企
画について企画立案するものとされている(7条)。
 協議会の事務局は,岐阜県企画部総合文化振興課に置くものとされている(10条)。
 協議会の経費は,岐阜県の負担金,協賛金,広告料収入などの収入で充てられ,収
入のほとんど全てが岐阜県の負担金によって占められている(平成8年度において,収
入総額2602万5610円中2699万4000円,約99.9%)ものの,委員会の予算の執
行は,岐阜県の会計とは独立して行われ,協議会会長名義の預金口座を持ち,平成8
年度については,平成8年5月15日に協議会会長名で岐阜県知事に対して4225万円
の負担金が請求され(後に1624万6000円を減額する補正がされている),剰余金(2
03万9850円)は協議会の役員会及び企画委員会の承認を受けた上で,平成9年5月
21日ころ,全額が負担金拠出者である岐阜県へ返還されている。
 同委員会は,現在も存続している。

(1)本件各文書は,実行委員会の職員が職務上作成又は取得したものと認められると
ころ,本件条例の規定上,実行委員会は実施機関に含まれていないので,本件条例
に基づいて本件各文書を公開するためには,各実行委員会が,実施機関である知事
の職務上の指揮監督権限に服する職員にあたる実態が存在することが前提として必
要である。
  しかしながら,本件各委員会は,前記認定のとおり,いずれも,岐阜県とそれ以外
の団体ないし個人とが共同して組織したものであって,岐阜県関係者以外の者も構
成員に入っていること,それぞれの規約に基づいて代表の方法を定め,意思決定機
関を置き,多数決による意思決定の方法が定められていること,それぞれの活動目
的を達するため岐阜県とは独立した資産を有し,その名をもって会計管理をしていた
こと,そして,本件各委員会は,それぞれが以上のとおりの人的及び物的組織として
活動してきた実態があること等の諸事情に照らすと,これらは,いずれも岐阜県を中
核的な構成員としつつも,それとは独立した任意団体として組織されているものであ
って,権利能力なき社団の実態を有するものと認められる。
(2)
ア本件各委員会は,いずれも上述したとおり,会長,名誉委員長など主要な役職を知
事,副知事など岐阜県の役職者が占め,負担金の多くを岐阜県が支出し,事務局を
岐阜県庁の各所管課においていることなど,その事業推進の中核を岐阜県が担って
いることは明らかであるが,それらの事情をもって直ちに本件各委員会が独立した団
体としての法的性質を有しないということはできず,一定の事業目的をどのような組織
体を構成して遂行するのが合理的かつ相当であるかは,それぞれの行政目的に照ら
して判断,決定されることであるから,上記の諸事情は,本件各委員会について上述
したとおりに認められる法的独立性を左右すべきものとは解されない。
イ また,原告らは,本件各委員会には,県職員が,職務専念義務免除もなく,給与の
減額措置を行わないままで,それらの業務に従事していること,本件各委員会は,事
務局を県庁内の所管課等に置き,その施設利用についても目的外使用許可申請をし
ていないことを指摘して,本件各委員会には岐阜県とは別個の団体としての性格を認
めることができないと主張する。
 地方公共団体の職員は,原則としてその勤務時間及び職務上の注意力のすべて
をその職務遂行のために用いなければらならず,当該地方公共団体がなすべき責を
有する職務にのみ従事しなければならない(地方公務員法35条)が,岐阜県は,県
知事の提案により本件各委員会が主催する行事について予算を計上し,これらにつ
いて県議会の承認を受け,各委員会を構成する他の団体とともに当該行事の実施に
協力することを適法に決定したものと認められ,そのような場合には,本件各委員会
に関する事務は岐阜県がなすべき責を有する職務に当たり,県の職員は職務専念義
務の免除を受けることなく本件各委員会に関する事務に従事することができるものと
解されるから,原告らの上記主張は採用できず,また,事務局が県庁内の所管課等
に置かれたことも,そのことの適否は別途考慮されるべき性質のものであって,この
主張も岐阜県と本件各委員会が実質的に同一であることを基礎づけるものではな
い。
(3)以上に認定,説示したとおり,本件各委員会はいずれも岐阜県とは独立した別個
の権利能力なき社団であって,各実行委員会の事務に従事する職員は,本件条例が
定める実施機関の職員とは認められないから,本件各委員会が作成し,又は取得し
た文書は,本件条例が公開の対象としている公文書には当たらない。
 また,本件委員会①ないし⑤は,上記のとおり既に解散したものと認められ,弁論
の全趣旨によれば,これらの委員会が作成し,又は取得した文書は,現在,各委員
会の事務局を所管していた県庁の所管課などに事実上存在するものと認められる
が,実施機関とは別個の団体であった各委員会から,知事など本件条例所定の実施
機関が,これらの文書を受け入れてその支配下に置き,公文書管理規定によって管
理をしている事実は,本件全証拠によってもこれを認めることができないから,これら
既に解散した委員会が作成し,又は取得した文書も,本件条例が公開の対象として
いる公文書には当たらない。
第4 結論
 よって,本件処分①ないし⑥はいずれも正当であって,原告らの請求はいずれも理由
がないから棄却し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用し
て,主文のとおり判決する。
岐阜地方裁判所民事第1部
裁判長裁判官中  村  直  文
裁判官   末  永  雅  之
 裁判官   加  藤     靖

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