弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を取り消す。
     被控訴人の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴人は主文と同旨の判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の主張および証拠の提出、援用、認否は、次のとおり訂正、附加する
ほか、原判決の事実摘示のとおりである。
 一 原判決の事実摘示中、被控訴人の請求原因四の三行目に「原告によつて持ち
去られ」とあるのは「被告によつて持ち去られ」の誤記であり、控訴人の抗弁一
(一)の九行目に「平田組は、その受領によつて」とあるのは「進興はその受領に
よつて」の誤記であり、同一(四)の一一行目に「原告は」とあるのは「被告は」
の誤記と認められるので、それぞれ訂正する。
 二 被控訴人は当審で次のとおり主張した。
 (一) 本件水面は平田組の私有堀であつて、それ故に平田組は「平田組置場」
と表示して控訴人はじめ他の木材業者のために木材を保管しているのであり、また
平田組は本件水面上の木材について筏の組直し、監守、曳航、手板の発行、名義書
替など一切の仕事を取り仕切つているのである。そうして平田組は控訴人とは別個
の法人格を有し、委任または請負契約関係に基づき独自の立場で本件木材を占有し
ているのであるから、平田組は控訴人の占有代理人であり、占有補助者にすぎない
者ではない。控訴人が平田組宛の荷渡指図書を発行したのも、平田組に占有代理人
としての独立した地位を認めたからにほかならない。
 (二) かりに平田組に本件木材についての独立した占有が認められないとして
も、占有の外形は十二分にあるのであるから、少なくとも控訴人の占有機関ないし
占有補助者と認められねばならない。
 (三) 被控訴人は荷渡指図書にいわゆる物権的効力があると主張しているもの
ではなく、荷渡指図書とは文字通り荷渡を指図する文書にすぎないが、木材業界で
は「荷渡の指図」を「占有移転の指図」の意味で使用しているのであつて、占有代
理人に宛てた荷渡指図書が発行され所持人より右占有代理人に呈示されたときは、
占有代理人に対し占有移転指図が到達し、民法第一八四条により占有移転の効力が
生ずるのである。本件においては、昭和三九年一〇月二七日に二通の荷渡指図書が
平田組に呈示されたときに、指図による占有移転の意思表示がなされたことにな
り、本件木材につき控訴人から進興、進興から被控訴人への各引渡が完了したので
ある。
 (四) かりに平田組が本件木材につき独立の占有を持たず、控訴人の占有機関
ないし占有補助者にすぎないとしても、被控訴人は本件木材の占有を次の経過によ
り取得した。
 (イ) 控訴人から進興に対する本件木材の引渡は占有改定によつて行なわれ
た。すなわち、控訴人は平田組宛の荷渡指図書を発行し、これを進興に交付するこ
とにより占有補助者である平田組に命令して本件木材の占有を進興に移転し、その
結果控訴人は進興の占有代理人となり、平田組は代理店占有機関または補助者とな
つたのである。
 (ロ) 次いで進興から被控訴人に対する占有移転は指図による占有移転によつ
て行なわれた。すなわち、進興は平田組宛の荷渡指図書を発行し、これを被控訴人
に交付することにより控訴人に対し爾後控訴人において被控訴人のため本件木材を
占有すべきことを指図したものにほかならず、被控訴人が右荷渡指図書を平田組に
呈示したことは控訴人自身に対する呈示としての効力を有し、その結果本件木材は
進興から被控訴人に引渡されたものといわねばならない。かりに右のような効力が
ないとしても進興より被控訴人に対する引渡は、控訴人より進興に対する引渡の方
式(荷渡指図書と題する書面を平田組宛発行するという方式)と寸分違わぬ方式で
行なわれたのであるから、控訴人が自己の方式のみを適式とし、他のそれを違式と
することは余りに身勝手で、このようなことは信義誠実の原則に照らし容認できな
いことといわねばならない。したがつて、被控訴人が本件木材の引渡を受けていな
かつたとしても控訴人はその主張の契約解除を被控訴人に対抗できないといわねば
ならない。
 (五) 控訴人の後記詐欺による取消の主張は時機に遅れているから却下される
べきである。かりに時機に遅れたものでないとしても右詐欺の主張事実は否認す
る。
 進興が控訴人に対し川崎物産株式会社振出の約束手形を差し入れる約束をしたか
どうか知らないが、約束があつたとしても、それは売買契約の重要部分ではなく附
随的なものにすぎなかつたと思われる。また進興には控訴人をだますつもりはな
く、ちょつとした手違いから不渡手形を出して倒産したもので、さもなければ約束
は完全に履行した筈である。かりに進興にだます意思があつたにしても、控訴人の
担当者A原木部長は経験豊かな専門家であるから、だまされて本件木材を進興に引
渡したとは考えられない。進興は本件木材の代金を自己振出手形で支払つたのであ
るが、その手形金債務を履行する意思も能力もなかつたということはない。
 被控訴人は控訴人と進興との間の取引の詳細は全く知らずただ控訴人発行の荷渡
指図書を信頼して本件木材を進興から買入れたのである。
 三 控訴人は当審で次のとおり主張した。
 (一) 本件木材が平田組の占有下にあつたことはなく、平田組は控訴人の占有
代理人ではなく、占有補助者でもない。すなわち、本件水面は控訴人の占用水面で
あつて、控訴人が買入れた木材は売主側の筏屋が回漕してくるのであり、その受渡
しには控訴人の従業員が立ち会うのである。しかる後控訴人が平田組に木材の到着
を連絡し、木材の整理の必要なときはその都度手数料を払つて依頼するのであつ
て、そのようにして筏の整理を開始したときにはじめて、またその整理中に限つ
て、平田組は控訴人の占有補助者となるのであり、その後木材が控訴人の占用水面
にある間、平田組が控訴人に対し一般的に法律上、契約上の保管義務を負担するこ
とはなく、木材が流出しても平田組は責任を負わない。もつとも、その間でも警察
との関係で見廻り責任を負い、また通りすがりに材木の向きをちよつと直す程度の
サービスをすることはあるが、いずれも私法上の義務として行なうのではない。そ
うして、控訴人が木材を他に売りこれを他に回漕するときは、平田組に対し具体的
な回漕依頼をするが、これに対し平田組は控訴人の回漕依頼の意思を確認したうえ
木材の回漕に着手するのであり、この場合にはじめて平田組は控訴人の占有代理人
となるのである。本件においては、被控訴人が平田組に荷渡指図書を持つて行つた
けれども、平田組は未だ控訴人に回漕依頼の意思を確認していないし、現実に回漕
に着手するという段階には至つていない、したがつて、平田組は控訴人の占有補助
者ないし占有代理人たる事実を備えていないのである。なお手板は最初に筏が組ま
れるときに作成されるもので、通常は木材が東京港に入つたとき東京港の筏会社が
計測して作成するのであり、本件木材についてはその後筏の一部を分離したため平
田組が木材のナンバーにより確認し明細書を作成したが、寸法等は当初の手板の記
載をそのまま記載しただけであり、木材の占有とは無関係である。また、平田組が
本件木材の名義書替を行なつた事実はない。
 (二) 本件荷渡指図書は単なる回漕依頼にすぎないが、これが講学上の荷渡指
図書にあたるとしても物権的効力を有するものではない。深川木場においては、木
材の取引に際しては、現物を確認するのが例であり、また荷渡指図書が発行され買
主側より筏屋に届けられたときは、筏屋は売主に回漕依頼の意思の確認をするのが
例であつて、荷渡指図書のごとき文書の授受のみで売買したり回漕したりする慣習
はない。
 荷渡指図書に占有移転の指図、命令が含まれていると解することはできないし、
平田組がなんらの占有を有しない以上、荷渡指図書の呈示は占有移転の効力を生じ
ないのである。
 (三) 控訴人は本件木材を昭和三九年一〇月二四日進興に売却したのである
が、その契約に際し、進興は真実は川崎物産株式会社振出の約束手形を控訴人に譲
渡する意思も能力もなく、控訴人より取得した荷渡指図書を川崎物産に示す意思も
なく、かつ債務履行の意思も能力もないのにかかわらずこれあるかのごとくよそお
い、荷渡指図書の交付を受けたらこれを川崎物産に示しその振出の約束手形(金額
二三八万五六七七円、満期昭和四〇年二月二〇日)を控訴人に譲渡する旨申し向け
てラワン材二四万五四四〇立方メートルの買受を申し込み、その言を信じた控訴人
をして売渡しの意思表示をなさしめ、もつてこれを騙取したのである。そこで控訴
人は進興に対し昭和四二年二月四日ころ到達の書面をもつて右売渡しの意思表示を
取り消す旨通知した。被控訴人は進興の詐欺の事実を十分承知していたにもかかわ
らず、進興が控訴人より将来取得すべき木材を譲り受けたものである。
 四 証拠(省略)
         理    由
 一 (一)控訴人が昭和三九年一〇月二四日進興木材株式会社(以下進興と略
称)に対し原判決別紙目録記載の木材(以下本件木材と略称)を代金二三八万五六
七七円で売却したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第六号証によ
れば本件木材は当時控訴人の所有に属していたものであり、一方、証人Aの証言中
に右売買契約に控訴人主張の所有権留保の特約があつたかのような供述があるが右
は証人Bの証言と対比して直ちに右特約の存在を肯認するに足るものとは認められ
ず、他にこれを認めるに足りる証拠がないから本件木材(特定物)の所有権は前記
売買契約により進興に移転したものである。
 (二) 成立に争いない甲第四号証の二、証人Cの証言により真正に成立したと
認められる甲第一号証、第二号証の一、二、第三号証と証人C、同Bの証言によれ
ば、被控訴人は昭和三九年一〇月二七日ころ本件木材を進興から代金二四七万四〇
三五円で買受けたことが認められ、本件木材の所有権はこれにより被控訴人に移転
したというべきである。
 二 (一)控訴人は、控訴人と進興間の前記売買契約がその主張の合意解除ない
し詐欺による取消によつて失効したと主張するので検討すると、証人Bの証言およ
びこれにより真正に成立したと認められる乙第一号証、証人Aの証言、原審におけ
る証人Dの証言、当審における証人Eの証言(第二回)を総合すれば、控訴人と進
興との前記売買契約においては、進興はその代金支払のため先づ自己振出の約束手
形を控訴人に交付したが、同月末または翌月初旬に取引先の川崎物産株式会社から
入手できる予定の廻り手形と差し代えて代金支払の確実を期する約であつたのに、
昭和三九年一〇月二七日夕刻ころ不渡手形を出して倒産し代金決済が不可能となつ
たため、翌二八日、控訴人より進興に対し本件売買契約の解約を申入れ進興も止む
なくこれに同意したことが認められ、本件売買契約は同日合意解除されたものとい
うべきである。
 (二) 右合意解除の結果、本件木材の所有権は控訴人に復帰することとなる
が、本件木材が右合意解除より前に既に進興より被控訴人に売却されていることは
前認定のとおりであり、もし被控訴人が右売買に基づき本件木材の引渡を受けたと
すれば被控訴人は右合意解除によつてはなんらの影響も受けない筋合であるが、こ
れに反し右引渡を受けていないとすれば、控訴人の詐欺による取消の主張をまつま
でもなく控訴人と進興との右合意解除により被控訴人は本件木材の所有権取得を控
訴人に対抗し得ないこととなる。よつて以下に被控訴人が本件木材の引渡を受けた
かどうかについて検討する。
 三 (一)控訴人が進興に対して本件木材を売却した際控訴人が株式会社平田組
(以下平田組と略称)に宛てて本件木材を進興に引渡されたいとの記載のある荷渡
指図書を発行して進興に交付したことは当事者間に争いがなく、また成立に争いな
い甲第四号証の二、証人Cの証言、原審における証人Eの証言によれば、進興が被
控訴人に対して本件木材を売却した際、進興は平田組に宛てて本件木材を被控訴人
に引渡されたいとの記載のある荷渡指図書を発行し、これを前記控訴人発行の荷渡
指図書とともに被控訴人に交付したことおよび被控訴人は右二通の荷渡指図書を昭
和三九年一〇月二七日(買受けた当日)の夕刻平田組の事務所に持参して呈示した
ことが認められる。
 (二) そこで、先ず平田組が本件木材の占有についていかなる地位にあつたか
を考えるのに、成立に争いない甲第七、八号証の各一ないし三によれば本件木材が
繋留されていた水面附近に「株式会社平田組置場」と書いた表示板が設置されてい
ることが認められ、また証人Cの証言および当審における証人Dの証言中に本件水
面は平田組の占用水面であつて平田組は本件木材を自己の占用水面で保管していた
ものであり、そうであるからこそ平田組宛ての荷渡指図書が通用しているのである
との供述があるが、右供述はいずれも前記表示板や荷渡指図書の「平田組私有堀」
などという記載から推測して述べたまでのものであることが後記認定の事実から窺
われ、それだけで平田組が本件木材を控訴人の占有代理人として占有していると認
めるには足りない。却つて成立に争いない乙第二、三号証、甲第六号証、証人A、
F、Gの各証言、原審および当審(第一、二回)における証人Eの証言によれば、
本件水面は木材業者である控訴人が東京都江東区長および深川警察署長より占用、
使用の許可を受けた水面で、その場所も控訴人の事務所前であつて、平田組の私有
堀ないし占用水面ではないことが明白で(平田組も占用水面を持つてはいるが本件
水面とは別の場所である)、前記各供述のよつて立つ推測は前提において既に誤つ
ているといわねばならない。そうして本件水面にあつた本件木材の占有関係につい
ての見解は、当裁判所も、控訴人が筏屋(川並)である平田組を占有補助者として
手数料を払つて筏組みやその監守をさせて占有していたもので平田組に代理占有さ
せていたものではないと認定判断するものであつて、その理由は原審および当審
(第一回)における証人Eの証言(ただし一部)をその証拠原因に追加し、右野本
証言の一部は措信できないと附加するほか原判決理由三(一)のとおりであるから
これを引用する。平田組が控訴人の占有代理人であるとの被控訴人の主張および平
田組は控訴人の占有補助者ですらないとの控訴人の主張は、いずれも当裁判所の右
判断と異り採用できない。
 (三) 次いで右認定の占有補助者である平田組に宛てて発行された荷渡指図書
の性質、効力について検討するのに、証人F、A、C(ただし一部)、B、Hの各
証言、原審および当審(第一、二回)における証人Eの証言を総合すると、次の事
実が認められる。すなわち、本件のようないわゆる木場における木材の取引で売主
の占用水面にある木材を他に売渡した場合、これを買主側の水面に回漕するには売
主から筏屋(当該売主を得意先としている特定の筏屋に限る)に依頼するのが例で
あり、その依頼は通常は電話や口頭で行なわれるが、本件記載内容のごとき荷渡指
図書を発行し買主からこれを筏屋に示して回漕を求める例もかなりあり、売買契約
自体も売主が現物を確認することなく荷渡指図書の交付を受けて代金を支払い、買
受人はこれをさらに第三者に交付して転売する事例も少なくないのである(本件て
も被控訴人が進興から本件木材を買受ける際現物の確認はなんら行なつていな
い)。しかし、右のように買主から荷渡指図書の呈示があつても、筏屋が木材を回
漕する前に、万一取引当事者間に紛争が生じ売主から筏屋に対して回漕しないよう
申入れがあると筏屋はこれに従うのが常であるばかりでなく、一般に荷渡指図書の
呈示があつても直ちに木材を引渡すのではなく、一応筏屋の方から当初の売主(筏
屋の得意先)に対して真実回漕してよいかどうかを問合わせその確認を得てはじめ
て回漕に着手するというのが古くからの木場の筏屋の慣行である。本件において
も、被控訴人より平田組に対して荷渡指図書が呈示されたけれども、現実の引渡に
着手する前に控訴人の社員が平田組事務所に行つて控訴人と進興との間の売買契約
が解約されたことを告げたうえ平田組が被控訴人から預つていた右荷渡指図書を持
ち帰つたものであるが、平田組としても得意先である控訴人の承諾を受けないで回
漕するつもりがないため大して気にとめることなく右荷渡指図書を控訴人に渡して
しまつたものである。以上の事実が認められ、右認定に反する証人Cの証言の一部
と当審における証人Dの証言は措信できず、他にこれを履えすに足りる証拠はな
い。
 <要旨>以上認定の事実によると、木材の取引に荷渡指図書が用いうれた場合、各
当事者間の取引になんの紛争もなく経過して最終の買受人が引渡を受け終つ
た場合には、荷渡指図書が木材取引の簡便と確実を期する上に役立つていることは
疑いがないが、しかしこのことは荷渡指図書の交付なり呈示なりによつて直ちに木
材の引渡が完成するとの意識が業者間に支配的であるとか、そのような慣習が確立
していることを意味するのではなく、むしろ荷渡指図書は荷主より筏屋に対する回
漕依頼の一つの手段であるにすぎず、しかもその依頼は現実の回漕が行なわれるま
ではいつでも発行者において電話や口頭で取消し撤回ができるものとして用いうれ
ているにすぎないことが明らかである。右のとおりで、荷渡指図書の発行、交付、
呈示は、それ自体によつてこれに記載された木材の占有移転が肯定されるものでな
いことはもとより、名宛人に対し受取人に対する占有移転を命令したり指図したり
する効力を持つものでもない。すなわち木材の占有移転があつたといいうるには、
荷渡指図書の発行、交付、呈示のほかにこれを合して現物の引渡があつたと認める
に適わしい他の行為なり意思表示のなされることを要するものといわざるを得ない
のである。
 (四) そうすると、控訴人より進興への本件木材の引渡が指図による占有移転
によつてなされたとの被控訴人の主張は、平田組が控訴人の占有代理人でない以
上、その前提を欠くし、またそれが占有改定によつて行なわれかつ進興より被控訴
人への引渡が指図による占有移転によつて行なわれたとの主張も、これを容れるに
十分な取引上の慣行や当事者の行為の存在を認められない本件においては、理由が
ないことに帰する。
 (五) なお、被控訴人は本件荷渡指図書を平田組に呈示した際平田組社員に対
し本件木材の保管証明書の交付を求めたところ、平田組社員は責任者不在であるか
ら後で右証明書を発行、交付すると約した旨主張するが、原審における証人Eの証
言によれば控訴人の占用水面にある木材について平田組が保管証明書を出す根拠も
事例もないことが認められ、そのような証明書の発行を約したとしても現実に右発
行がなされていない以上本件木材の引渡が肯定されるというわけのものでもない。
 また、被控訴人は、控訴人が本件木材の引渡義務の履行を怠つたとか、進興より
被控訴人への荷渡指図書の効力を否定するのが信義則に反するとか主張するが、本
件荷渡指図書の性質が上記認定のとおりであるとすれば、控訴人が進興との間の取
引の瑕疵を被控訴人に対抗しようとするのはむしろ当然であつて、なんら責めるべ
き点はなく、被控訴人の右主張もまた採用の限りではない。
 四 以上のとおりで、被控訴人は本件木材を進興から買受けてその所有権を取得
したが未だその引渡を受けるに至らず、対抗要件を具備しなかつたのであるから、
控訴人は前認定の合意解除を被控訴人に主張することができ、本件木材の所有権は
控訴人に復帰したということができる。
 したがつて爾余の点について判断するまでもなく被控訴人の本訴請求は失当とし
て棄却を免れず、よつてこれを認容した原判決を取り消すべく、訴訟費用の負担に
つき民訴法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 谷口茂栄 裁判官 瀬戸正二 裁判官 友納治夫)

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