弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役一年に処する。
     原審における未決勾留日数中三十日を右本刑に算入する。
     訴訟費用は、全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人金綱正己作成の控訴趣意書に記載してあるとおりであ
るから、ここにこれを引用し、これに対し、左のとおり判断する。
 第一点について。
 原判決認定の貼付ビラの記載が検事Aやその家族の生命、身体及び財産に対し害
を加うべきことを内容とするものであることは、自体明白であつて、原判決の援用
する押収証拠物、写真、鑑定人B及び警察技師C各作成の鑑定書に徴すれば、右ビ
ラの脅迫文言は、被告人が他の氏名不詳者と共にこれを記載したものであることが
明らかである。記録及び証拠物につき彼此照合して検討するも、右各鑑定書が信憑
力を有することは疑を容れない。そして、前記各証拠その他の原判決援用の証拠
(但し、証人Aの供述中所論伝聞部分及び推定部分を除く)を総合すれば、被告人
が原判示のような意図のもとに、他の氏名不詳者一名又は数名と共に、脅迫文言を
記載したビラを貼付することにより検事Aを脅迫することを謀議して前記脅迫用ビ
ラを作成し、該共謀者の全部又は右謀議により貼付担当者となつたその一部が現実
にこれを原判示の時に原判示の場所に貼付し、もつて原判示のように前記Aを脅迫
するに至つたことを肯認するに充分で<要旨>ある。しかしながら、本件が暴力行為
等処罰に関する法律第一条第項に該当するには、被告人がかかる脅迫を謀議
しただけでは足らず、現実に他の者と共同して脅迫行為を実行することが必要であ
つて、右脅迫用ビラの作成は、未だ脅迫行為の予備に過ぎす、これが貼付されるま
では、脅迫の実行に著手したものとは言えないから、被告人が現実に前記ビラの貼
付行為に加わつたことが認められなければ、被告人が同法律第一条第一項違反の行
為をしたものとはならないのであつて、被告人が現実にかかる貼付行為に加わつた
ととについては、原判決援用の証拠によるも、更にその他の原審に顕れた証拠によ
るも、これを確認することができない。また被告人が現実に該貼付行為に加わらな
くても、右貼付行為を現実に行つた者が二名以上あれば、被告人は、その謀議者と
して暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項違反の罪の共同正犯としての罪責を
負うべぎもの(大審院昭和七年(れ)第一一七七号同年十一月十四日第一刑事部判
決、判例集掲記判決要旨第二に関する部分参照)であるが、かかる貼付行為が現実
に被告人以外の二名以上で行われたことについても、原判決援用の証拠その他の原
審に顕れた証拠によるも、これを確認することができない。従つて、被告人の本件
行為は、刑法第二百二十二条の脅迫罪の共同正犯たるに過ぎないものと解する外な
く、被告人が暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項違反の罪をおかしたものと
認定した原判決には、所論のような判決に影響を及ぼす事実の誤認があるものと言
わなければならない。論旨は、理由がある。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 坂間孝司 判事 鈴木勇 判事 堀義次)

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