弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人の有罪部分を破棄する。
     被告人を懲役四年に処する。
     原審の未決勾留日数中二百十日を右本刑に算入する。
     原審及び当審の訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人森誠一の控訴趣意について。
 論旨は第一、第二、第三に分けてあるが、要するに、被告人は責任能力者ではな
いにかかわらず、原審は完全な責任能力者であると認定したのは失当であるという
に帰着するのである。
 刑法は、精神の障碍により是非善悪を弁識する能力またはかかる弁識に従つて行
動する能力を全く欠く者を心神喪失者として罰しないもの(責任無能力者)とし、
右能力を全く欠く程度ではないが著しく低減している者を心神耗弱者として刑を減
軽すべきもの(限定責任能力者)としており、被告人が完全な責任能力者であるか
それとも責任無能力者または限定責任能力者であるかの判断は、一つに裁判官がな
すべき問題である。すなわち、精神に障碍があるかどうか、またその程度如何につ
いて、鑑定などの手続によらないでも他の資料で常識的に容易に判定できる場合が
あり、また特別の知識経験を有する専門家の力をかりなければならぬ場合といえど
もその程度如何によつて右責任能力の三種類のいずれに当るかの終局的判定は裁判
官に留保されているのである。しかしながら、精神にどの程度の如何なる意味の障
碍があるかということはそれ自体きわめて微妙な問題である場合が多く、いやしく
も専門家の意見を参照する場合には、これを十分に尊重検討しなければならないの
であつて軽々しく常識に頼ることは危険である。
 ところで、原判決は、鑑定人A作成の鑑定書同人の供述の外被告人の原審におけ
る供述態度ならびに被告人の供述調書によつて、被告人は本件犯行当時心神喪失ま
たは心神耗弱の状態にあつたことを認めがたいと判断している。そこで、右鑑定書
を精査してみると、同鑑定書は、本件記録を閲読し被告人の実母から被告人の家
系、本人歴を聴いて参考としつゝ被告人の身体を検診し、その結果を総合して作成
されたものであり、その結論として一、被告人は軽度の精神薄弱(魯鈍の程度)を
伴う精神病質人(性格異常者)特に性的精神病質人と診定する一、被告人は精神過
敏にして容易に感情は興奮し、往々これに継発して意識の障碍を発呈す。これは感
情と関係深き自律神経←→間脳の系統の機能の過敏並に不安定に因るものならん
一、公訴事実第一(昭和二十四年六月二十一日)及び第二(同年六月二十八日)の
犯行に関しては被告人は性的刺戟に対し強き性的衝動が起り、性慾充足の目的で計
画的に性的犯罪を行いたるものである。然し被告人はその犯行過程において次第に
情動が激しくなりその為強姦の行為中は所謂夢中(軽度の意識溷濁状態)となり為
たるものにしてこの間は自己の行為に対する是非善悪の弁識が著しく困難となり為
たるものと認む、という記載があり(訴訟記録二九四丁)、またその説明中に、被
告人の犯行を見ると、性的刺戟に対して異常に強き性的衝動が起り、この性慾を充
足せんものと計画的に被害者を空家に連れ込んだ、この時は尚事物の理非善悪の弁
識能力はあつたものと見られる、然しこの場合でも既に性的興奮状態にあつた為に
行為に対する抑制力は殆んど欠けていたと思われる旨の記載がある(同二九三
丁)。
 <要旨>このように、軽度ながら精神薄弱を伴う性的精神病質人であつて容易に感
情が興奮し往々意識の障碍を続する者が、性的刺戟を受けた場合、性的衝動
が起りこれを抑制することが著しく困難となり姦淫行為に入り軽度の意識溷濁状態
に陥るものと認めることは決して不自然ではないのであつて、そうだとすれば、そ
れは完全な責任能力者ではなくて、まさに心神耗弱者であると断定するのが相当で
ある。この場合被告人の行為が計画的に発足したという外形にこだわつて右の結論
を左右することは妥当でない。しかし、また弁護人主張のように心神喪失者である
と認定するのも相当でない。もつとも、当審鑑定人Bの鑑定書中には一、被告人の
犯行当時の直前までの数年間の精神状態は痴愚なる精神薄弱、癲癇、性慾異常なる
疾患に罹り責任行為を甚だとり難い状況であつて、犯行当時交接準備行動である陰
部や乳房を触れる行為まではかかる状況が続いたものと考える。二、狭義の交接行
動の時期中は夢幻様朦朧状態なる性的異常興奮状態であつて責任行為を全くとりえ
ない状態である。との記載がないでもないが、仮に右狭義の交接行動の瞬間にその
ような精神状態であつたとしても、その先行行為を含めて姦淫行為の全過程につい
て法律評価をする場合には、すでに交接行動を決意しそれに向つて行動を進めるに
当つて前掲精神状態であつたならば全体として心神耗弱者の行為と解するに妨げと
なるものではない。これを要するに、被告人が原判示強姦行為当時心神喪失者であ
つたという主張は採用しがたいけれども、心神耗弱者であることをも認めなかつた
原判決は、とうてい誤認たるを免れず、この誤認はもとより判決に影響を及ぼすこ
と明らかであるから、結局原判決は刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十二条によ
り破棄さるべきであり、本件はたゞちに判決ができるから同法第四百条但書に従い
更に裁判をする。
 原判決の認定した被告人の所為はいずれも刑法第百七十七条前段に該当するが、
被告人は右各犯行当時敍上のごとく心神耗弱の状態にあつたものと認められるか
ら、同法第三十九条第二項第六十八条第三号により減軽し、以上は刑法第四十五条
所定の併合罪であるから、同法第四十七条第十条により犯情の重いと認める原判示
第一の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で被告人を懲役四年に処し、同法第二
十一条刑事訴訟法第百八十一条に則り主文のとおり判決をする。
 (裁判長判事 荻野益三郎 判事 梶田幸治 判事 井関照夫)

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