弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人関係部分を破棄する。
     被告人を懲役二年に処する。
     原審における未決勾留日数中三十日を右本刑に算入する。
     但し本裁判が確定した日から四年間右刑の執行を猶予する。
     原審における訴訟費用中証人A、同B、同Cに支給した分は被告人の負
担とする。
         理    由
 弁護人松岡良俊の控訴趣意は記録に編綴されている同弁護人提出の控訴趣意書記
載のとおりであるからこれを引用する。
 弁護人の控訴趣意第一点について、
 よつて被告人関係の原判示強盗教唆の事実、並びに原審共同被告人D、同E、同
F関係の原判示強盗の事実につき原判決の挙示した各証拠を仔細に検討すると、該
証拠によれば被告人は昭和二十七年六月九日夕刻佐賀県小城郡a村大字b所在のG
建設事務所寮に遊びに行き前掲原審共同被告人等と雑談をした後共に外出するに際
し、右原審共同被告人Dが同寮止宿人Aから借受けた「匕首」を被告人において携
帯し同県同郡c村大字dで遊ぶうち、同日午後十時過頃右Dから、「どこか押し入
るのによい所はないか」と話しかけられるや、被告人は「この先の峠で二人の子供
を抱えた後家さんが店をしている、入るには都合がよい、その上今日は炭坑の勘定
日だから掛金が集まり相当の金があるたろう」とかねて被告人が知つている原判示
強盗被害者H方を教え、ここにおいて被告人と原審共同被告人D、同E、同Fの四
名は右H方において強盗をしようと共謀した上、相共に同家附近に赴き時間を過す
うち、強盗の用に供するため、被告人所携の前掲「匕首」を取り出し被告人及びそ
の他右原審共同被告人等において、交々雑草等で刀身を研磨してから、同日午後十
一時過頃右四名で右H方で強盗するため、まず原審共同被告人Eにおいて戸外より
屋内の様子を窺つたけれども未だ時間が早いように感ぜられたので附近の番所炭坑
と鉄道線路(筑肥線)との交叉点附近で時間を過し、同日午後十二時頃再び右四名
でH方に赴き同家屋内に侵入しようと試みたが、容易に戸を開くことができなかつ
たので更に前記交叉点附近に引返しているうち、被告人は右原審共同被告人等と共
に強盗することの非を悟り、同人等に対しては敢て犯行を阻止することなく又明示
的に該犯行から離脱すべき表意もせず、該犯行から離脱するため同所を立ち去つた
ことを認め得ると同時にその後約二時間を経過した頃前記原審共同被告人三名にお
いて、それぞれ、被告人が右犯行から離脱したものであることを察知し、更に同人
等三名で右H方に押入り強盗をしようと共謀した上、原判示三記載のとおり翌六月
十日午前二時四十分頃同家において強盗をしたものであることを認めることができ
るのであつて、原判決がその二の(イ)において判示した様に、被告人が強盗の犯
意のない前記原審共同被告人等名を教唆し、因つて原判示三の強盗を為すに至らし
めたものであることは到底認めることはできない。記録を精<要旨>査しても当裁判
所の右認定を左右するに足りる資料は全く存しない。しかして、数人が強盗を共謀
し、該強盗の用に供すべき「匕首」を磨くなど強盗の予備をなした後、その
うちの一人がその非を悟り該犯行から離脱するため現場を立ち去つた場合、たと
い、その者が他の共謀者に対し、犯行を阻止せず、又該犯行から離脱すべき旨明示
的に表意しなくても、他の共謀者において、右離脱者の離脱の事実を意識して残余
の共謀者のみで犯行を遂行せんことを謀つた上該犯行に出でたときは、残余の共謀
者は離脱者の離脱すべき黙示の表意を受領したものと認めるのが相当であるから、
かかる場合、右離脱者は当初の共謀による強盗の予備の責任を負うに止まり、その
後の強盗につき共同正犯の責任を負うべきものではない。けだし、一旦強盗を共謀
した者と雖も、該強盗に着手前、他の共謀者に対しこれより離脱すべき旨表意し該
共謀関係から離脱した以上、たとい後日他の共謀者において、該犯行を遂行しても
それは、該離脱者の共謀による犯意を遂行したものということができないし、しか
も右離脱の表意は必ずしも明示的に出るの要がなく、黙示的の表意によるも何等妨
げとなるものではないからである。さすれば当裁判所が説示した被告人の前示所為
はまさしく刑法第二百三十七条所定の強盗予備罪を構成することが明かであるに拘
らず、挙示の証拠により原判示二の(イ)の事実を認定した原判決は、その事実理
由と証拠理由との間にくいちがいの違法があるので原判決中被告人に関する部分は
刑事訴訟法第三百九十七条に則り破棄を免れない。論旨は理由がある。
 しかして、被告人関係の原判示二の(イ)事実に対応する本件起訴状記載の公訴
事実を原判示三の事実に対応する同公訴事実と対比通覧すると、当裁判所が右に説
示した事実は前記公訴事実とその基本たる事実関係を同じうし、且つ該公訴事実の
訴因の記載事実に包含された軽い事実で、被告人の防禦に実質的に不利益を生じる
虞がないので強ち訴因、罰条の変更をするの要はないものと解すべきところ、当裁
判所は本件記録及び原裁判所において取調べた証拠により、直ちに判決をすること
ができると認められるので弁護人の量刑に関する論旨に対する判断を省略し刑事訴
訟法第四百条但書に従い更に判決する。
 当裁判所が認定した事実
 被告人は
 第一、 昭和二十七年六月九日夕刻被告人肩書住居附近の佐賀県小城郡a村大字
b所在のG建設出張所寮に遊びに行き、原審共同被告人D、同E、同F等と雑談を
した後共に外出するに際し、右原審共同被告人Dが同寮止宿人Aから借受けた「匕
首」を被告人において携帯し、同県同郡c村大字dで遊ぶうち、同日午後十時過頃
右Dから「どこか押し入るのによい所はないか」と話しかけられるや、被告人は
「この先の峠で二人の子供を抱えた後家さんが店をしている、入るには都合がよ
い、その上今日は炭坑の勘定日だから掛金が集まり相当金があるだろう」とかねて
被告人が商用で知つていた同県東松浦郡e町大字fg番地物品販売業H方を教え、
ここにおいて、被告人は原審共同被告人D、同E、同Fの三名と右H方において強
盗をしようと共謀した上、相共に同家附近に赴き時間を過すうち、強盗の用に供す
るため、被告人所携の前掲「匕首」を取り出し、被告人その他右原審共同被告人等
において交々雑草等で刀身を研磨してから、同日午後十一時過頃右四名でH方で強
盗をするため、まず原審共同被告人Eにおいて戸外より屋内の様子を窺つたけれど
も未だ時間が早いように感ぜられたので附近の番所炭坑と鉄道線路(筑肥線)との
交叉点附近で時間を過し、同日午後十二時頃再び右四名で右H方に赴き、同家屋内
に侵入しようと試みたが、容易に戸を開くことができなかつたので更に前記交叉点
附近に引返しているうち、被告人は右原審共同被告人等と共に強盗をすることの非
を悟り該犯行から離脱するため同所を立ち去つたが、その後右原審共同被告人等に
おいて、それぞれ被告人が右犯行から離脱したものであることを察知し被告人と共
に強盗をしないこととしたため、被告人は単に強盗の予備をなし、
 第二、 業務その他正当の理由がないのに拘らず昭和二十七年六月九日午後七時
三十分頃から同日午後十一時頃までの間前掲G建設出張所寮から右H方附近まで匕
首(匁渡一四、八糎)一振を携帯し
 たものである。
 証拠の標目
 右の事実中第一の事実は
 一、 原審公判調書中の被告人の供述記載
 一、 被告人関係の原審第三回公判調書中の証人D、同E、同Fの各供述記載
 一、 Eの検察官に対する第三回供述調書中の供述記載
 一、 Fの検察官に対する第一、策三回供述調書中の各供述記載
 一、 DのIと自称しての検察官に対する第二、第三回供述調書中の各供述記載
 一、 被告人の司法警察員に対する第一、二回供述調書中の各供述記載
 中右判示に照応する部分を綜合し、
 右第二の事実は、
 一、 原審公判調書中の被告人の供述記載
 一、 被告人DのIと自称しての検察官に対する第二回供述調書中の供述記載、
 一、 被告人及び原審共同被告人D、同E、同F関係の原審第二回公判調書中の
証人Aの供述記載
 一、被告人関係の原審第四回公判調書中の検証の結果の記載
 を綜合しそれぞれこれを認める。
 法律に照すと、被告人の判示強盗予備の点は刑法第二百三十七条に、判示匕首携
帯の点は銃砲刀剣類等所持取締令第十五条第二十七条罰金等臨時措置法第二条に該
当するので所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法第四十五条前段の併合罪であるか
ら、同法第四十七条第十条に則り重い強盗予備罪の刑に法定の加重をした刑期の範
囲内で被告人を主文の刑に処し、同法第二十一条に従い原審における未決勾留日数
中三十日を右本刑に算入し、なお刑法第二十五条を適用し本裁判が確定した日から
四年間右刑の執行を猶予し、又刑事訴訟法第百八十一条第一項に則り原審における
訴訟費用中証人A、同B、同Cに支給した分は被告人をして負担させることとす
る。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 谷本寛 裁判官 藤井亮 裁判官 鍛冶四郎)

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