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平成19年6月27日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成18年(ワ)第126号特許を受ける権利の確認請求事件
平成18年(ワ)第20971号承継参加申出事件
口頭弁論終結日平成19年4月20日
判決
山形県米沢市<以下略>
原告株式会社シー・シー・ワイ
同訴訟代理人弁護士柿崎喜世樹
山形県東置賜郡<以下略>
被告A
同訴訟代理人弁護士大森鋼三郎
同庄野功章
山形県東置賜郡<以下略>
被告承継参加人B
山形県東置賜郡<以下略>
同C
山形県東置賜郡<以下略>
同D
山形県東置賜郡<以下略>
同E
上記被告承継参加人ら訴訟代理人弁護士
大森鋼三郎
主文
1原告と被告及び被告承継参加人らとの間において,原告が別紙出願目
録記載1ないし5の各発明に係る特許を受ける権利を有することを確認
する。
2訴訟費用は被告及び被告承継参加人らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文第1項に同じ。
第2事案の概要
本件は別紙出願目録記載の各発明以下本件各発明というについて,(「」。)
特許を受ける権利以下本件特許を受ける権利というを発明者から譲り(「」。)
受けて特許出願をした原告が,原告から同権利を譲り受けたとして自らを出願
人とする名義変更を行った被告及び被告承継参加人ら(以下「参加人ら」とい
。),,,うに対し原告被告間の同権利の譲渡契約書が被告の偽造に係るもので
真正な出願人は原告であるとして,同権利が原告にあることの確認を求めた事
案である。なお,被告は,本件訴訟係属後,同権利の一部を被告承継参加人ら
4名に譲渡したとして,被告及び被告承継参加人ら5名全員で共有とする旨の
出願人名義変更手続を行っている。
1前提となる事実等(争いがない事実以外は証拠を末尾に記載する)。
(1)当事者及び関係者
ア原告は,農産物,食品廃棄物等を原材料とする乳酸及び乳酸エチルの精
製,販売や,農産物,食品廃棄物等を原材料とする生分解性素材の製造と
加工に関する研究と技術開発等を目的とする会社である(乙5,78。)
イ被告は,平成16年11月17日から平成17年9月26日まで,原告
,(,「」において参与という役職にあった者でありなお代表取締役付参与
。),,(,という名称が使用されていた参加人らは被告の親族である甲60
61,乙25,47の1,90,95。)
ウFは,平成14年7月15日の原告設立当初から平成17年3月9日ま
,,,(,で原告代表取締役を務めその後は原告取締役の地位にある甲71
乙5,78。)
なお,Fは,平成15年10月10日から平成16年7月24日まで,
原告取締役の地位にあったGと共に,本件各発明の発明者である(甲1∼
,,,。,。)。5乙578枝番号の書証を含む特に明記しない限り以下同じ
エHは,平成16年9月22日,原告代表取締役に就任し,同月28日,
その旨の登記がされた(乙5,78。)
オIは,平成16年11月17日から平成17年8月31日まで,原告取
締役の地位にあったが,同年9月,被告と共に原告を辞めて,平成18年
6月に独立するまで,被告の経営する会社(株式会社クリエーティブジャ
,「」。)(,パン以下クリエーティブジャパンというで働いていた甲53
乙5,78。)
カJは,平成15年8月中旬ころから平成17年10月7日まで,原告の
従業員として働き,その後,平成18年6月中旬ころまで,クリエーティ
ブジャパンで働いていた(甲54,証人J。)
キKは,設立当初から原告に関わって,原告の従業員として働き,平成1
6年11月17日から平成17年8月31日まで,原告取締役の地位に
あった(甲55,乙5,78。)
,,,クL及びMはいずれも平成16年7月26日から同年9月22日まで
Nは同年9月22日から同年11月10日まで原告取締役の地位にあっ,,
た(乙5,78。)
(2)本件各発明に関する特許出願人名義の変遷
ア原告は,平成15年8月,本件各発明の発明者であるF及びGから,本
件特許を受ける権利を譲り受け,本件各発明について,別紙出願目録の各
出願日欄記載の日に特許出願をした。
イ被告は,平成17年10月27日,特許庁長官に対し,平成16年9月
21日に原告から本件特許を受ける権利を譲り受けたことを原因とする出
願人名義変更届を提出し(以下「本件名義変更届出」という,これを受。)
けて,本件各発明についての特許出願人は,原告から被告に変更された。
ウ平成18年7月11日,有限会社リールビルドが,特許庁長官に対し,
同年6月1日に被告から本件特許を受ける権利を譲り受けたことを原因と
する出願人名義変更届を提出したところ,被告は,同年9月11日,同社
から同日付けでこれらの権利を譲り受けたとして,出願人名義変更届を提
出し,その結果,本件発明についての特許出願人は,再度被告に変更され
た(乙82∼84,87。)
エ参加人は,被告から本件特許を受ける権利の一部を譲り受けたとして,
平成18年9月11日,特許庁長官に対し,本件各発明についての出願人
名義変更届を提出して,同日,それが受領された(乙85∼88。)
2争点
本件の争点は,原告から被告に対して本件特許を受ける権利が譲渡されたか
否かである。
3争点についての当事者の主張
(被告の主張)
(1)原告被告間の平成16年9月21日の譲渡の合意
被告は,当時原告の代表取締役であったFとの間で,平成16年9月21
日,被告が担当する原告の業務内容とその報酬などについて,以下の合意を
した(以下「本件基本合意」という。。)
(被告の担当する業務)
①事業資金の調達,他企業の事業参加等の取りまとめ
②G博士の再協力の取付け
③山形大学の協力の取付け
④農林水産省からの補助金交付の取りまとめ
(報酬等)
①本件特許を受ける権利を被告に譲渡すること,F個人が保有する発明
者としての権利も譲渡すること
②農林水産省による補助金交付の採択通知後60日以内に1億円を支払
うこと
③実証プラント建設着工時に5000万円,完成時に5000万円を支
払うこと
④終身,年1000万円を支払うこと(被告を重要な位置に登用するこ
と)
そして,本件基本合意のうちの本件特許を受ける権利の譲渡に関する合意
(「」。),,部分以下本件譲渡合意というについては平成16年9月24日
F自身が,原告住所,名称及びFの氏名が代表取締役として刻されたゴム印
以下原告ゴム印という並びに代表者印として登録された真正の原告(「」。)
代表者印以下真正代表者印というを押捺して作成した同月21日(「」。),
(,,「」付けの原告被告間の権利譲渡証書甲11の2乙3以下本件譲渡証書
という)として書面化された。。
本件譲渡証書上に存在するFの記名及びその右側に存在する印影は,それ
ぞれ原告ゴム印及び真正代表者印によるものである。したがって,本件譲渡
証書は真正に作成されたものと推定され,これによれば,本件譲渡合意が認
められる。
被告は,本件譲渡合意に基づき,特許庁長官に対し,本件譲渡証書を提出
して,本件名義変更届出を行った。
(2)本件譲渡合意の存在を裏付ける事情
また,次のような,被告と,F又は原告との関係等に照らせば,本件譲渡
合意が成立したことは明らかである。
ア被告がFと知り合った平成16年6,7月当時,原告は,資金難に陥っ
ており,当時原告の代表取締役であったFは,多方面から借入れをしてい
た。
イ被告は,平成16年8月24日,Fから原告の運営資金として1000
万円の借入れを申し込まれたが,被告自身には資金がなかったので,Hに
対し,原告への1000万円の資金提供を依頼した。
ウ原告は,平成16年8月31日,被告の仲介により,Hの経営する株式
会社ダイニ以下ダイニというから1000万円を月100万(「」。),,
円の利息,同年9月30日を弁済期とする旨の約定で借り入れた。
しかしながら,上記1000万円だけでは原告の窮状は救えない状況に
あり,また,原告の事業自体の素晴らしさもあったことから,被告は,原
告が何とか事業を継続できるよう協力することとした。
エFは,被告に対し,平成16年9月17日,被告の「将来に対して身分
保証の保全」のため,本件特許を受ける権利の譲渡等の約束を取り交わす
ことなどを記載した「誓約書」と題する書面(乙110。以下「本件誓約
書」という)をファクシミリ送信した。。
オ被告は平成16年9月21日Fとの間で約条書と題する書面3,,,「」
通乙192057以下本件各約条書というにより被告が(,,。「」。),
原告に参画するに当たって果たす役割,原告における地位の確保,報酬な
どについて確認した。これを受けて,原告と被告とは,同月22日,原告
から被告に対する「事業推進することの取りまとめに関することの全権委
任」等を内容とする委任契約を締結し,そのころ,同日付けの委任状(乙
21。以下「本件委任状」という)を作成した。。
カFは,平成16年9月24日,本件譲渡証書,F個人が発明者である特
許発明に係る権利の譲渡証書(乙4の1,2。以下「F個人の譲渡証書」
という,本件各約条書等に真正代表者印を押捺した。被告は,上記2つ。)
の権利譲渡の対価として,Fに対し,500万円を支払い,Fは,同日付
けの受領書(乙111)を作成した。さらに,Fは,同日,被告の尽力に
よりHが原告の代表取締役に就任する手続を完了できたことへの感謝を表
すとともに,被告及びその推薦に係る者の原告取締役への就任に関してF
の責任で対応し,これを完了する旨を約した「約定書」と題する書面(乙
23。以下「本件約定書」という)を作成した。。
キFは,被告に対し,平成16年9月27日,本件譲渡証書の作成経過等
を確認する承諾書乙112以下本件承諾書というを作成しフ(。「」。),
ァクシミリ送信した。
ク被告は,Hとの間で,ダイニから原告への資金提供及び資本参加の合意
,,,。を取り付けHは平成16年9月22日原告の代表取締役に就任した
ケ被告は,平成16年11月17日,原告の参与に就任した。原告では,
同日付けで定款を変更し,参与について,取締役会への出席を要し,意見
を述べることができるが議決権はないという権限を明記した。被告は,そ
の責任と権限において原告のために働いて上記の役割を果たし,原告の事
業を軌道に乗せることに成功した。
コHは,原告の事業が軌道に乗り出した平成17年9月28日,被告を参
(),。,,与代表取締役付参与から解任し原告から排除したそこで被告は
自らの立場を守るために,本件特許を受ける権利について,本件譲渡合意
に基づいて,出願人名義変更の手続を行ったものである。
(3)原告の主張に対する反論
これに対し,原告は,次のような事情を主張するが,いずれも本件譲渡証
書の作成の真正に係る上記推定を破るに足りない。
ア原告は,本件譲渡証書が作成された平成16年9月21日から同月24
日までの間,Fが真正代表者印を所持していなかった旨主張する。
しかしながら,その当時は,原告の取締役であったMが真正代表者印を
所持しており,同人が,同月22日ころ,仙台市にて,当時同じく原告の
取締役であったN及びKの立会いの下,これをFに返還している。
,,,(),そしてFは同月23日お願いと題する書面乙108を作成し
訂正印及び捨印として上記のとおり返還を受けた真正代表者印を押捺して
いるのである。
,,,,このようにFは同月24日の時点で真正代表者印を所持しており
これを用いて本件譲渡証書に押印できたことは明らかである。
原告は,同月22日には,FがKと共に東京に出張していたため,真正
代表者印を受け取れなかったのごとく主張する。
しかしながら,取締役会議事録(乙122)上,同日午後には原告の取
締会等が開催され,Fが出席していることからみて,同主張には,不自然
。,,,な点が多く信用できないまたそもそも東京に出張していたとしても
仙台市を発つ前に受け取ることはできたのである。
イ原告は,Fが平成16年9月24日の午前中には「バイオマスシンポジ
ウム」出席のために山形県米沢市から新潟県中頸城郡柿崎町(現「新潟県
上越市柿崎区へ出発したから同日に本件譲渡証書を作成することはで」),
きなかった旨主張する。
しかしながら,Fは,同日午前中に米沢市の原告事務所に立ち寄り,本
件譲渡証書等を作成した後,シンポジウムのための資料等を持って,柿崎
町に車で出かけたのである。
ウ原告は,平成16年9月24日当時,Fが,糖尿病による諸症状から,
パソコン操作もできなかったし,文書の内容も確認できなかったから,本
件譲渡証書を作成できなかった旨主張する。
しかしながら,そのような病状の者であれば,上記シンポジウムなどに
,,出席することは不可能であるしその内容も理解できないはずであるから
原告の主張は矛盾している。
エ原告は,被告が,譲渡の対価を支払っていない,原告に貢献していない
などとして,そのような被告に対して,原告が本件特許を受ける権利を全
部譲渡する本件譲渡合意の内容は不合理である旨主張する。
しかしながら被告は上記(2)のとおり原告の業務の再建に尽力して,,,
も,被告自身に資力がないため,後に必要がないと思われた場合に,原告
から放逐される事態が予想されたことから,以後,原告に貢献していける
よう,被告の原告における地位を保全する手段として,平成16年9月2
1日,本件譲渡合意を含む本件基本合意に至り,原告の真正代表者印の返
還を受けた後である,同月24日に,合意内容を示す文書を,同月21日
付けで作成したのであって,その経過は,何ら不合理ではなく,また,譲
渡の対価も支払われている。
オ原告は,被告らが,白紙に原告ゴム印と真正代表者印のみが押された用
紙甲242536以下本件用紙というを利用して本件譲渡(,,。「」。)
証書を作成したなどと偽造の経過について説明するが,次のとおり,それ
らはいずれも理由がない。
(ア)本件譲渡証書と本件用紙とでは,原告ゴム印と真正代表者印の押さ
れている位置が全く異なっており,そのような用紙から本件譲渡証書を
作成することはできない。
(イ)原告は,本件譲渡証書の原稿が存在し,また,Fが所有していたノ
ートパソコンから削除された上記原稿のデータを復元した旨主張する。
しかしながら,その原稿の文面が本件譲渡証書とは異なっている上,
それを本件譲渡証書の偽造と結びつける事情は認められない。また,上
記復元データは,それに表れた改訂番号,更新日時,作成日時,ファイ
ルサイズ等からして,原告が主張する偽造経過を裏付けるものとはなり
得ない。
(ウ)原告は,被告が,平成16年12月上旬ころ,原告ゴム印及び真正
代表者印が入った金庫の鍵を保管していたIに命じ,Kをして,それら
の印を白紙に押捺させ,完成した本件用紙を原告事務所内のロッカーに
保管させていた旨主張する。
しかしながら,Iは,営業・対外交渉担当の取締役であるから,上記
金庫の鍵を保管していることなどあり得ない。
また,Kは,原告の当初からの従業員で,取締役に就任したこともあ
り,代表者印の重要性を十二分に認識していたのであるから,何の目的
に使われるかも分からないまま本件用紙を作成するなどあり得ない。し
かも,同人は,本件訴訟提起後9か月も経って自分が押捺したことを告
白したというのであり,その点も不自然である。
(エ)原告は,被告に命じられたJが,平成17年9月18日ころ,原告
事務所内のロッカーから本件用紙を持ち出し,被告に渡した旨主張する
とともに,Jが第三者に預けた段ボール箱に本件用紙が6,7枚入って
,(,いた旨主張しその状況を撮影した写真を証拠として提出する甲24
25,36。)
,,しかしながらJが原告事務所内のロッカーから本件用紙を発見して
被告に渡したのであれば,段ボール箱に入っているはずがない。そのよ
うな用紙が段ボール箱に入っていたという事実は,被告が本件用紙を手
に入れていないことを示すものであるか,あるいは,段ボール箱内での
発見が原告による虚構であることを窺わせるものである。
(原告の主張)
⑴本件譲渡合意は存在しないこと
原告被告間において,本件譲渡合意は存在しておらず,本件特許を受ける
権利が被告に譲渡されたことはない。
⑵本件譲渡証書は真正に作成されたものではないこと
本件譲渡証書の原告の住所,社名及びFの氏名の印影並びに原告代表取締
役の印影は,それぞれ,原告ゴム印及び真正代表者印によって作出されたも
のである。
しかしながら本件譲渡証書は真正に成立したものではなく被告によっ,,,
て偽造されたものであり,真正代表者印による印影の存在に基づく真正な成
立の推定は,次のような事情によって破られる。
ア真正代表者印は,平成16年7月26日から同年9月27日までの間,
Nのところにあり,Fは,本件譲渡証書に押印されたと被告が主張する同
月24日の時点で,同印を所持していなかったものである。
,,,(ア)FはNに対し同年9月24日の午前12時から午後1時の間に
通告書と題する書面甲68以下本件通告書というを内容「」(。「」。)
証明郵便で発送し,真正代表者印の返還を求めている。同郵便は,Fが
発送した米沢市とNが居住していた仙台市との地理的関係から,早くと
も同月25日でないと同人には到達しない。よって,Fが同月24日に
真正代表者印を押印することはできなかったのである。
なお,本件通告書に押捺されている印鑑は,代表者印として登録して
いないものであり,同書面で返還を求める対象として「弊社代表印鑑」
と記載されている印鑑こそが,真正代表者印である。
(イ)被告は,Fが,平成16年9月22日ころ,仙台市において,Nか
ら真正代表者印を受け取った旨主張している。
しかしながら,Fは,同日,Kと共に東京に出張して不在であり,N
から真正代表者印を受領することは不可能であった。なお,同日,取締
役会が開かれて,F,H及びNがそれに出席したという内容の取締役会
議事録(乙122)が存在するが,実際には,そのような取締役会は開
かれていない。
Nは,同月27日,米沢市に来て,真正代表者印をFに返還した。そ
して,その真正代表者印により,同月28日,取締役,代表取締役の変
更に関する登記手続が行われたのである。
イFは,平成16年9月24日,柿崎町において開催された「バイオマス
シンポジウム」に参加するため,その日の午前中には,米沢市を出発して
いる。被告の陳述書(乙1)によれば,Fが,同日,どこかで真正代表者
印を受け取ってきて本件譲渡証書を作成したとのことであるが,そのよう
な作業の後で柿崎町へ行くというのは,時間的に困難である。
ウFは,平成16年7月ころから,糖尿病による網膜症,白内障,腎不全
,,.,の症状が急速に現れ同年9月ころには視力が落ちて01程度となり
視野も中心部分が花が咲いたように見えてしまい,周辺部分しか見えなく
なった。そのため,自らパソコンを操作したり,文書の内容を確認したり
することができなくなっていた。さらに,同年10月5日ころには,肺に
水が溜まり息苦しくて立っていられないようになり入院するまでに至っ,,
ている。したがって,Fは,同年9月ころ,本件譲渡証書のように小さく
多量の文字が書かれた文書を作成することはできず,また,内容の確認も
できなかったのであるから,それに押印するということもない。
エ本件譲渡証書の内容は,次のとおり,不合理である。そして,文書の内
容が余りにも不合理である場合には,成立の真正を疑わせる事情となる。
(ア)原告は,本件各発明を実施して本格的な生産を行うことを目指して
おり,本件各発明は国からも評価され,平成18年5月までに1億10
00万円の補助金を受領することになっていた。それにもかかわらず,
途中で出願人を変更するはずがない。
(イ)被告は,本件特許を受ける権利の譲渡の対価を原告に支払ったこと
はない。原告は,かなりの資本を投入していたし,資金が不足する状態
にあったことから,資金調達をするべくHが関与することになったもの
であり,本件特許を受ける権利を無償で被告に譲渡するはずがない。
,,,(ウ)被告は平成16年9月21日当時原告の参与に就任しておらず
原告の業務に関与してからも,1か月程度しか経っていない。したがっ
て,原告との信頼関係は,いまだ構築されておらず,原告に貢献したな
どということはあり得ない。
(エ)Hは,平成16年8月31日に1000万円の資金を提供している
が,この段階で,被告は金銭を負担していない。そのHが,何も対価が
ないのに,被告に無償で本件特許を受ける権利を譲渡することはない。
(オ)原告にとって,本件各発明の実施が会社の設立目的であるし,存続
の根拠である。それを何の対価もなく,ただ被告に譲渡することはあり
得ない。
(カ)被告は,本件譲渡証書とともに,原告が被告に対して1億円,50
00万円といった巨額の支払を行う旨の本件各約条書が作成されたとす
る。
しかしながら,補助金は,1億1000万円であり,全額実証プラン
トの建設に当てられるものであって,その当時の原告の経営も赤字であ
る。そのような段階で,上記のような合意をするはずがない。
⑶本件譲渡証書の偽造の状況
被告及びその指示を受けた者が本件譲渡証書等の書類を偽造した状況は,
次のとおりである。
ア白紙に原告ゴム印及び真正代表者印が押捺された状況
原告ゴム印及び真正代表者印は,平成16年12月上旬ころ,原告の事
務所の金庫に入っていたところ,その鍵は,Iが保管していた。
当時原告の参与であった被告は,Iに命じ,被告の目的を知らないKを
して,原告の事務所内で,原告ゴム印と真正代表者印を押捺させ,本件用
紙を作成させた。このとき,被告は,A4判の白紙6ないし7枚に,その
右下部分か右上部分に押印した2種類の用紙を作成するよう指示してい
た。
イ本件用紙が保管されていた状況
その後,被告は,Kに対し,本件用紙を保管しておくように指示し,K
は,本件用紙を他の書類と一緒に原告の事務所のロッカールーム内のビニ
ール製手提げ袋に入れて保管していた。
被告は,平成17年9月18日ころ,Jに対し,本件用紙を持ってくる
ように指示した。Jは,同日午後,Kに電話して本件用紙の保管場所を問
い合わせ,これを探し当てて入手した。
被告は,そのころ,既にH等と対立しており,原告から利得を得ようと
考えて準備をしていた。また,J及びIは,被告と行動を共にしていた。
そして,被告,I及びJは,同月下旬ころ,原告の事務所内から,自分た
ちにとって都合の悪い文書や本件用紙を持ち出し,段ボール箱に詰め込ん
で,一時的に知人のOに預けた。
Oは,上記段ボール箱を原告のものと考えて,同年10月6日ころ,原
告従業員のPに対し,中身を確認してはどうかと連絡してきた。Pは,O
のところへ赴き,段ボール箱を開封したところ,本件用紙を含む書類が出
てきたので,Oに対し,当該段ボール箱を原告事務所に持ち帰る旨告げた
が,OがJに返すと言って拒否したため,その中身を写真に撮った。その
後,Oは,段ボール箱を元の状態に戻してJに返した。
ウ本件用紙に譲渡の文言が印刷され,本件譲渡証書が完成された状況
被告は,原告の参与を解任されるや,本件特許を受ける権利を我がもの
にしようとし,平成17年10月13日ころ,Jに対し,原稿を示して,
その内容をパソコン打ちするように指示した。Jは,被告の指示どおり入
力したが,プリンターがなかったので,文書データをフロッピーディスク
に保存し,印刷可能な店舗においてプリントアウトした。その後,Jは,
被告の指示を受けて上記データを訂正し,再び上記の店舗においてプリン
トアウトした。さらに,被告は,Jに命じて一部字句を訂正させ,同月2
6日過ぎには本件譲渡証書の記載内容のデータを仕上げ,これをフロッピ
ーディスクに保存した。Jは,被告の指示により,そのフロッピーディス
クと本件用紙とを持って上記店舗に行き,フロッピーディスク内のデータ
,。を本件用紙にプリントアウトして本件譲渡証書を完成させ被告に渡した
第3当裁判所の判断
1参加人らの訴訟参加形態について
参加人らは,被告から本件特許を受ける権利の持分を譲り受けた旨主張して
いるところ,特許を受ける権利の共有者は,特許法上,共有者全員でなければ
出願できず同法38条共有者の一部による出願は拒絶の査定を受け同(),,(
法49条1項2号かつこれに違反した特許は無効とされる同法123),,,(
条1項2号またいったん複数の者が共同して手続をした場合はその後の)。,,
特許出願の変更,放棄及び取下げ,特許権の存続期間の延長登録の出願の取下
げ,請求,申請又は申立ての取下げ,特許出願等に基づく優先権(同法41条
1項)の主張及びその取下げ,出願公開の請求並びに拒絶査定不服審判の請求
の各手続については,全員が共同してこれを行わなければならない(同法14
条しかも特許を受ける権利の共有者がその共有に係る権利について審判を)。,
請求するときは,全員が共同してこれを行わなければならない(同法132条
3項)という地位に立つ上,拒絶査定不服の審判を請求し,その請求が成り立
たない旨の審決を受けた場合,それに対して提起する審決取消訴訟も,固有必
要的共同訴訟であると解されている(最高裁判所平成6年(行ツ)第83号同
)。,7年3月7日第三小法廷判決・民集49巻3号944頁参照したがって
特許を受ける権利の共有者については,共同して行動しないと,特許査定を受
けることが困難であり,また,当該特許権が無効となるおそれがあるという地
位に立たされるものということができる。
このような特許を受ける権利の共有者の地位に照らせば,本件のように,原
告が被告に対して特許を受ける権利の確認を求めている訴訟は,訴訟の目的た
る特許を受ける権利の共有持分の帰属が当事者の一方である被告と第三者であ
る参加人らについて合一にのみ確定すべき場合に該当するといえるので,参加
人らは,被告の共同訴訟人として,本件訴訟に共同訴訟参加(民事訴訟法52
条)できるものと解すべきである。
2事実認定
証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告が原告の業務に関与するようになって
から,本件名義変更届出がされるまでの状況について,以下のとおりの事実が
認められる。
,,,⑴原告は農産物食品廃棄物等を原材料とする乳酸及び乳酸エチルの生成
販売や,農産物,食品廃棄物等を原材料とする生分解性素材の製造と加工に
関する研究と技術開発等を目的として,平成14年7月15日に設立された
株式会社である(乙5,78。)
⑵原告内では,上記目的に従った研究開発が進められ,F及びGが本件各発
明を行い,原告が同人らから本件特許を受ける権利の承継を受け,平成15
年8月8日,11月11日,11月20日,11月28日に,本件各発明に
ついて,それぞれ特許出願がされた(甲1∼5。))
⑶原告は,平成16年夏ころ,経営難に陥り,給与の支払遅延等を理由とし
て従業員が退職する事態に至っており乙14の1∼14の315原告(,),
の代表取締役であったFは,資金調達先を探していた。そして,Fは,Lを
通して知り合った被告からダイニの代表者であったHを紹介され,同年8月
31日,原告が,ダイニから,1000万円を,返済期限を同年9月30日
とし利息を月100万円とする旨の約定で借り受けた乙16の1原告,()。
のダイニに対する上記借入れに基づく返還債務については,F及び被告が保
証人となりまた特約事項として保証人Fが取得する50%別紙特許願,,,「
2003−391348を借用人に対し,担保提供する事とし,返済期日ま
でに返済出来なかった場合,貸付人にその権利を移行することに承諾しま
す(乙16の1)とされ,別紙出願目録記載3の発明について,Fが保有。」
する権利を担保として提供する旨が合意された。この借入れについては,平
成16年9月30日に書換え(更新)が行われ,返済期限は同年10月31
日とされた(乙16の2。)
,,(,⑷また平成16年9月22日にはHが原告の代表取締役に就任し乙5
78,同年11月17日には,被告が原告の参与に就任した(甲60。被))
告が参与に就任するに当たっては,原告において同役職がなかったため,定
款の変更手続がとられた(乙25。)
⑸その後,原告は,被告等の尽力もあり,従前,原告の取締役であり,本件
各発明の発明者であって技術開発等を担当していたGから,再度,原告にお
ける技術開発業務の支援を受ける旨の契約を締結したり乙29∼31山(),
形大学との間で共同研究契約を締結し乙32農林水産省が生産支援事,(),
業として開始したバイオマス生活創造構想整備事業の補助金を得るなどして
乙33事業を進め乳酸誘導体の発酵製造実証プラント建設工事の契約(),,
を締結するなどした(乙36,37。)
⑹平成17年9月26日,被告は,原告の参与を解任され,同月29日,そ
の旨の通知を受けた(甲61,乙47の1。)
⑺被告は,平成17年10月27日,特許庁長官に対し,平成16年9月2
1日付けの本件譲渡証書を提出して,本件名義変更届出をし,これにより,
本件各発明についての特許出願人の名義は,原告から被告に変更された(甲
6∼16。)
3本件譲渡証書の成立の真正
本件では,原告において被告に対する本件特許を受ける権利の譲渡があった
ことを認める旨記載された本件譲渡証書(甲11の2,乙3)が作成されてい
るところ,被告は,同書面が本件譲渡合意の内容を確認したものである旨主張
し,原告は,同書面の成立を否認するので,まず,本件譲渡証書が真正に成立
したものであるか否かについて検討する。
⑴成立の真正の推定
「」,,本件譲渡証書の右下の権利譲渡者という印字の下側には原告の住所
名称及び代表取締役の肩書きが付されたFの氏名が横3列に記された記名印
の印影が存在し,その右側に,原告の代表者印の印影が存在する(甲11の
2,乙3)ところ,上記原告の代表者印の印影が真正代表者印によって顕出
されたものであることは,当事者間に争いがない。
そうすると,上記印影はFの意思に基づいて顕出されたものと事実上推定
され,その結果,民事訴訟法228条4項により,本件譲渡証書がFの意思
に基づいて作成されたものと法律上推定されることになる(なお,上記記名
印の印影が原告ゴム印によって顕出されたものであることも当事者間に争い
がないが,上記記名印の印影が代表者印の印影と共に存在していることや,
原告ゴム印が原告事務所内のゴム印入れ内に保管されており,F以外の者も
容易にそれを使用し得たと認められること(甲55,弁論の全趣旨)からす
れば,本件譲渡合意の有無を検討する前提としては,上記原告の代表者印の
印影の真正のみを問題にすれば足りると解すべきである。。)
⑵推定を妨げる事情の有無
そこで,次に,上記推定を妨げる事情が認められるか否かについて検討す
る。
ア本件譲渡証書に真正代表者印が押捺されたとされる平成16年9月24
日の時点で,Fが同印を所持していたか否か。
(ア)まず,Fが平成16年9月21日の時点で真正代表者印を所持して
いなかったことは,当事者間に争いがない(ただし,同印の保管者につ
いては争いがある。。)
そして,証拠(甲68,70∼74,乙5,証人J)及び弁論の全趣
旨によれば,次の事実が認められる。
aJは,F及び被告の意向を受けて,同月24日,真正代表者印とは
異なる,銀行印として用いられていた原告代表者印を用いて,Nに対
し,真正代表者印の返還を求める本件通告書を作成した。
bJは,同日午前12時から午後1時までの間に,Nにあてて,内容
証明郵便により本件通告書を送付した。
cNは,同月27日,仙台市から米沢市にある原告の事務所を訪れ,
Fに真正代表者印を返還した。
d同月28日,真正代表者印が用いられ,原告の取締役及び代表取締
役の変更に関する登記申請の手続が行われた。
以上の事実経過に照らせば,Fは,少なくとも同月21日から同月2
7日までの間において,真正代表者印を所持しておらず,これを自ら使
用することができなかったものと推認することができる。
(イ)被告は,平成16年9月22日の時点で真正代表者印が返還されて
いたことの証拠として,真正代表者印による印影が存在する「お願い」
と題する書面の写し乙108以下本件依頼文書というを提出(。「」。)
する。そして,本件依頼文書について,Fが,同月23日,同書面に真
正代表者印を押捺した上でLに対してファクシミリ送信したものである
こと,別件の訴訟において,何ら利害関係を有しない相手方代理人弁護
士から書証として提出されたものであること,その訴訟の打合せに臨ん
だI,K及びJも,それが間違いないものと確認していることなどを挙
げて,Fが上記22日に真正代表者印を所持していたことは間違いない
旨主張する。
そこで,本件依頼文書の記載内容,体裁等を見ると,上部に,他の訴
訟で使用されたことを窺わせる「甲第14号証」の記載及び「弁護士」
と読める契印並びにファクシミリ送信されたことを窺わせる(株)「From:
シー.シー.ワイ」との02382886762004/09/2316:39#006P.001/001
記載が存在する。そして,その下側に捨印として,また,あて先である
Lの肩書きとして印字された「(株)東北サンラト」を二重線で消し,そ
の上部に「(株)シーシーワイ代表取締役会長」に訂正するための訂正印
として,それぞれ真正代表者印による印影が存在している。さらに,本
文の日付けは,平成16年9月23日とされ,その本文には,Nから原
告の代表者印を預かっているLに対し,その返還を依頼したが,いまだ
返還を受けていない旨が記載されている。そして,同書面の下部には,
原告代表取締役の肩書きが付されたFの氏名が印字されているものの,
その名下には真正代表者印による印影その他の印影は存在しない。
以上の事実に照らせば,同文書は,原告の事務所から平成16年9月
23日にファクシミリ送信されたものを受信した用紙であって,他の訴
訟で書証として提出されたものであると推認することができる。
しかしながら,上記Lの肩書きの訂正部分及び真正代表者印による印
影は,ファクシミリで受信された文書に通常見られ,同書面の他の部分
にも見られるような,文字の字体の粗さなどが見られないのであり,上
記訂正及び真正代表社印による印影は,ファクシミリ受信後に加えられ
た可能性が強い。
本件依頼文書において,上記のような加工が行われた趣旨は,明らか
ではないが,前記認定のとおり,Lは,上記ファクシミリが送信された
平成16年9月23日の前日である同月22日の時点で,原告の内部手
続上,既に取締役を辞任したとされているところ,そのようなLについ
て,敢えて上記のように肩書きを「代表取締役会長」とする訂正をして
いる点,同文書は,真正代表者印が返還されていないことを強く訴えた
内容であると認められるのに,その真正代表者印による印影が存在する
点(被告は,預けていた経緯を示すために,真正代表者印の返還(被告
は同月22日と主張する前に作成していた文書に押印したものであ。),
る旨主張するが,それ自体合理的な説明といえない上,本文の日付けが
平成16年9月23日となっていることとも整合しないから,上記主張
は採用できない,訂正印及び捨印として真正代表者印の印影が存在す。)
るのに,肝心の代表取締役名下にその印影が存在しない点など,不自然
な点が多い。
,,,,これらの事情を総合考慮すれば本件依頼文書によってFが同日
真正代表者印を所持していたという事実を認めることはできないという
べきである。
(ウ)被告は,本件通告書について,真正代表者印が返還されていたにも
かかわらず,返還前に作っていたものを,そのまま出したものであろう
と主張するが,返還されている印につき返還を求めることは不自然とい
うほかなく,しかも,本件通告書を平成16年9月24日に作成したと
の証人Jの供述を否定するに足りる証拠はないから,上記主張は失当と
いわなければならない。
また,被告は,証人Jの供述に信憑性がないとして縷々主張するが,
いずれの主張も,同証人がことさら虚偽の内容を述べているものと疑わ
せるには足りず,失当である。
さらに,L作成の陳述書(乙132)においては,同人が,Nから,
平成16年9月22日午前10時ころ,N及びK同席の下にMが直接F
に真正代表者印を返還し,その後,N自身は一切代表者印を手にしたこ
とはないこと,同月27日にNが原告の事務所に出社したことは間違い
ないが,その時にFに真正代表者印を返還したことは絶対にないこと,
本件通告書の件は,Fより原告の取締役変更登記をするということで真
,,正代表者印の返還を求められた際Lが保管していることを報告したが
L,Mのどちらかが真正代表者印を保管しているのであれば,それは既
に原告に返還されたことになるものの,その保管中に真正代表者印が使
用されてしまった場合を考え,後日の証として,Fと合意の上,同人が
本件通告書を差し出したことなどの報告を受けた旨が記載されている。
しかし,その内容は,主たる部分がNからの伝聞であって信用性が低い
のみならず,直接,Fに真正代表者印を返還したとされるN自身が,自
ら陳述書を作成しないこと(その理由として,同陳述書では,Fに貸し
た金員を返済してもらえなくなる可能性があるからとされるが,その説
明自体,説得力に乏しい,より信用性が高いと認められる上記証人J。)
,。の供述にも反することを考慮すれば上記陳述書の内容は採用できない
同様に真正代表者印の返還日について記載する被告乙1I乙,(),(
),()(),。2M乙109及びL乙115の各陳述書も採用できない
なお,被告は,Iが自ら進んで陳述書に真実を記載していることを示す
証拠として同人の手紙(乙134)を提出するが,そこに記載された内
容のみから直ちに同人の陳述書の信用性を認めることはできない。
イ本件譲渡証書の作成過程に関する事情
(,,,,),証拠甲53545670証人J及び弁論の全趣旨によれば
Jは,平成17年の9月ないし10月ころ,被告から依頼され,被告から
見せられた原稿に基づいてパソコンで文書を作成し,それを白紙に原告ゴ
ム印及び真正代表者印が押捺された書面に印刷して,被告の指示によりそ
れを修正するという作業を何度か経た上,本件譲渡証書と同様の文書を作
成したものと認められる。
これに対し,被告は,証人Jの供述に信憑性がない旨縷々主張するが,
既に検討したとおり,同証人がことさら虚偽の事実を述べたと認めるに足
りる証拠は存しない。確かに,同人の供述及び陳述書ともに,曖昧な部分
が認められ,また,部分的な変遷があることも否めないが,それは期日の
経過による記憶の薄れや他の事実との混同によるものとも考えられるとこ
ろ,被告の指示により,白紙に真正代表者印等が押捺された書面を用いて
本件譲渡証書と同様の文書を作成したという中核部分については,明確に
供述している上,そのような部分については,記憶の希薄化や混乱のおそ
れも乏しいといえるのであるから,信用性が高いというべきである。
また,被告は,Jによる上記原稿作成に関し,原告が復元したと主張す
るパソコン内の上記原稿のデータが約66キロバイトという記録容量の大
きなものであって,不自然であると強く主張するところ,証拠(甲39の
),,,「」1によれば確かにその復元結果としてサイズについては66048
と表示されているものの他方ページ数:1単語数:110文字数,,「」,「」,「
:628行数:5段落数:1文字数スペース含む:771とさほ」,「」,「」,「()」
ど長い文章ではないことを示す情報も表示されているのであるから,被告
が指摘する点のみをもって,証人Jの供述の信用性を否定することはでき
ない。
したがって,被告の主張は採用できない。
(3)小括
以上によれば,本件譲渡証書に真正代表者印が押捺されたと被告が主張す
る平成16年9月24日の時点においては,Fにおいて真正代表者印を所持
していなかったものと認められる。
かかる事情に照らせば,その余の点を検討するまでもなく,Fがその意思
に基づいて本件譲渡証書に真正代表者印を押捺したと推定することはできな
いというべきである。
そして,他に,本件譲渡証書の成立の真正を認めるに足りる証拠もなく,
これを認めることはできない。
4本件譲渡合意の有無
そこで,次に,被告が,平成16年9月21日になされたと主張する本件譲
渡合意を含む本件基本合意が認められるか否かを検討する。
(1)この点被告は原告の業務の再建に尽力しても被告自身に資力がない,,,
ことから,後に必要がないと思われた場合に,原告から放逐される事態が予
想されたことから,以後,原告に貢献していけるよう,被告の原告における
地位を保全する手段として,平成16年9月21日,本件譲渡合意を含む本
件基本合意に至り,原告の真正代表者印の返還を受けた後である,同月24
日に,合意内容を示す文書を,同月21日付けで作成した旨主張し,それに
沿う被告の陳述書(乙1)のほか,その経過を示す証拠として,本件誓約書
(),(,,),(),乙110本件各約条書乙192057本件委任状乙21
F個人の譲渡証書乙4の1本件約定書乙23及び本件承諾書乙1(),()(
12)を挙げる。また,本件特許を受ける権利とF個人が発明者である特許
発明に係る権利との両方の譲渡の対価として500万円が支払われていると
主張し,F作成の「受領書(乙111)を提出する。」
(2)しかしながらまず本件譲渡合意の内容は当時の原告の唯一ともいえ,,,
る資産である本件各特許を受ける権利について,被告に譲渡するというもの
であり,取締役会決議が必要な事項であると考えられるところ,それを裏付
ける証拠はない。しかも,本件基本合意中のその他の合意内容も,補助金受
領直後でいまだ原告として利益を上げるまでには至らないと思われる時期に
5000万円,又は,1億円の支払を約するものであったり,本件各発明の
実施・事業化による利益も全く不明であるのに,被告に対し終身にわたって
年間1000万円(及び被告の親族にも年間600万円)の支払を約するも
のであるなど,いかに,原告が窮状にある際に合意されたものであるとして
も,著しく被告に有利であって合理性を欠き,このような合意をすることを
基礎付ける特段の事情のない限り,上記合意が成立したと認めることはでき
ないというべきである。そして,上記1で認定したとおり,被告は,Fから
の依頼に応じて,ダイニからの融資を実現させ,その後も原告の業務の再建
に尽力するなどして,原告に一定の貢献をしたことは窺ええるものの,この
程度の貢献があったからといって,上記合意の合理性を導くことは困難であ
り,上記の特段の事情があるとは認められない。
そして,被告が挙げる上記各証拠のうち,本件各約条書(乙19,20,
57本件委任状乙21及び本件約定書乙23はいずれも平成),()(),,
16年9月24日に,真正代表者印を押捺して作成されたものとして提出さ
れているところ,上記3⑵ア(ア)のとおり,同日時点では,Fが真正代表者
印を所持していなかったと認められるから,同日に作成されたこれらの文書
は,Fの意思に基づいて作成されたとはいえないことになり,同文書によっ
て,上記合意を認めることは困難である。また,本件誓約書及び本件承諾書
は,上記において検討したとおり,真正に成立したとは認められない各文書
を引用した記載内容になっていること,特に,本件誓約書については,平成
16年9月17日付けであるにもかかわらず,同月21日付けの本件譲渡証
書が既に作成済みとされたり,印鑑証明が同月24日に「発効」するとされ
る等,不自然な点が存することに照らせば,これらの証拠を採用することは
できない。
さらに,F個人の譲渡証書(乙4の1)について,被告は,F個人の特許
発明に係る権利の譲渡が,本件特許を受ける権利の譲渡と一体としてなされ
たものであると主張する。
しかしながら,まず,上記文書は,平成16年9月24日付けで作成され
ているところ,上記3⑵アのとおり,同日にFが本件譲渡証書に押捺するこ
とが困難であったことに照らせば,同日にFがF個人の譲渡証書を作成する
ことが可能であったかも疑問といわざるを得ない。また,仮に,F個人の譲
,,渡証書がその意思に基づいて作成されたものであったとしてもそのことが
直ちに,本件譲渡合意の存在を導くものとはいえず,両者の譲渡の合意に一
体性を認めるに足りる証拠も存しない。さらに,その両者の譲渡対価の支払
を示すとされる上記受領書(乙111)は,原告代表者としてではなくF個
人が作成したものである上「但し,別紙譲渡証書に伴う代金として」との,。
記載が存するが,その別紙は添付されていないから,かかる証拠のみによっ
ては,原告が保有する本件特許を受ける権利について,譲渡の対価が支払わ
れたものと認めることはできない。
そうすると,被告の主張内容について説明する被告陳述書(乙1)も,上
記の検討に照らし,これを採用することはできない。
,,。(3)その他本件全証拠によっても本件譲渡合意を認めることはできない
したがって,被告が,原告から,本件特許を受ける権利を譲り受けたとは
認められず,原告は,上記権利を有するものといえる。
第4結論
以上の次第で,原告の請求は理由があるから認容することとして,主文のと
おり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官清水節
裁判官山田真紀
裁判官國分隆文
(別紙)
出願目録
1出願番号特願2003−206976
発明の名称農作物の乳酸発酵のための前処理方法および乳酸製造方法
出願日平成15年8月8日
公開番号特開2005−58004
公開日平成17年3月10日
2出願番号特願2003−381815
発明の名称ポリ乳酸生産システムおよび生産方法ならびにポリ乳酸生産支援
システムおよび生産支援方法
出願日平成15年11月11日
公開番号特開2005−143320
公開日平成17年6月9日
3出願番号特願2003−391348
発明の名称乳酸エチル製造方法
出願日平成15年11月20日
公開番号特開2005−154290
公開日平成17年6月16日
4出願番号特願2003−391464
発明の名称乳酸菌用培地,乳酸菌培養方法および乳酸製造方法
出願日平成15年11月20日
公開番号特開2005−151821
公開日平成17年6月16日
5出願番号特願2003−398583
発明の名称乳酸菌生育促進剤およびその製造方法
出願日平成15年11月28日
公開番号特開2005−151927
公開日平成17年6月16日

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◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

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