弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は,判例違反をいうが,事案を異にする判例を引用するものであ
って,本件に適切でないか,実質において単なる法令違反の主張であって,刑訴法
433条の抗告理由に当たらない。
なお,所論にかんがみ職権で判断する。
1記録によれば,本件の経過は次のとおりである。
(1)被告人は,強盗致傷等の罪で起訴されたが,この強盗致傷の行為(以下
「本件犯行」という。)に関与したことを否認している。
(2)上記被告事件の公判前整理手続で,検察官は,被告人の知人であるA(以
下「A」という。)の証人尋問を請求し,これが採用されたことから,準備のため
Aに事実の確認を行ったところ,Aは,検察官に対し,被告人がAに対し本件犯行
への関与を自認する言動をした旨の供述を行うに至った。
Aについては,捜査段階でB警察官(以下「B警察官」という。)が取調べを行
い,供述調書を作成していたが,上記の供述は,この警察官調書には記載のないも
の(以下,Aの上記の供述を「新規供述」という。)であった。
そこで,検察官は,この新規供述について検察官調書を作成し,その証拠調べを
請求し,新規供述に沿う内容を証明予定事実として主張した。
(3)弁護人は,この新規供述に関する検察官調書あるいはAの予定証言の信用
性を争う旨の主張をし,その主張に関連する証拠として,「B警察官が,Aの取調
べについて,その供述内容等を記録し,捜査機関において保管中の大学ノートのう
ち,Aの取調べに関する記載部分」(以下「本件メモ」という。)の証拠開示命令
を請求した。
(4)本件大学ノートは,B警察官が私費で購入して仕事に利用していたもの
で,B警察官は,自己が担当ないし関与した事件に関する取調べの経過その他の参
考事項をその都度メモとしてこれに記載しており,勤務していた新宿警察署の当番
編成表をもこれにちょう付するなどしていた。
本件メモは,B警察官がAの取調べを行う前ないしは取調べの際に作成したもの
であり,B警察官は,記憶喚起のために本件メモを使用して,Aの警察官調書を作
成した。
なお,B警察官は,本件大学ノートを新宿警察署の自己の机の引き出し内に保管
し,練馬警察署に転勤した後は自宅に持ち帰っていたが,本件事件に関連して検察
官から問い合わせがあったことから,これを練馬警察署に持って行き,自己の机の
引き出しの中に入れて保管していた。
(5)原々審である東京地方裁判所は,本件メモの提示を受けた上で,その証拠
開示を命じたため,その命令の適否が争われている。
2以上の経過からすると,本件メモは,B警察官が,警察官としての職務を執
行するに際して,その職務の執行のために作成したものであり,その意味で公的な
性質を有するものであって,職務上保管しているものというべきである。したがっ
て,本件メモは,本件犯行の捜査の過程で作成され,公務員が職務上現に保管し,
かつ,検察官において入手が容易なものに該当する。また,Aの供述の信用性判断
については,当然,同人が従前の取調べで新規供述に係る事項についてどのように
述べていたかが問題にされることになるから,Aの新規供述に関する検察官調書あ
るいは予定証言の信用性を争う旨の弁護人の主張と本件メモの記載の間には,一定
の関連性を認めることができ,弁護人が,その主張に関連する証拠として,本件メ
モの証拠開示を求める必要性もこれを肯認することができないではない。さらに,
本件メモの上記のような性質やその記載内容等からすると,これを開示することに
よって特段の弊害が生ずるおそれがあるものとも認められない。
そうすると,捜査機関において保管されている本件メモの証拠開示を命じた原々
決定を是認した原判断は,結論において正当として是認できるものというべきであ
る。
よって,刑訴法434条,426条1項により,裁判官甲斐中辰夫の反対意見が
あるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官宮川光
治の補足意見がある。
裁判官宮川光治の補足意見は,次のとおりである。
私が多数意見に同調するのは,次の理由からである。
原決定及び原々決定は,いずれも,本件メモが証拠開示命令の対象となるか否か
の判断において,まず犯罪捜査規範13条に基づき作成した備忘録(以下「13条
書面」という。)に当たるか否かを検討し,本件メモは13条書面に該当すると判
断している。しかしながら,本件メモが,広く,「本件犯行の捜査の過程で作成さ
れ,公務員が職務上現に保管し,かつ,検察官において入手が容易なものに該当す
る」か否かを問題とすることが適切である。そして,そのような書面であると判断
した後,刑訴法316条の20第1項に規定する主張との関連性の程度,必要性の
程度,弊害の内容及び程度について判断することとなる。
そして,主張との関連性の程度,必要性の程度,弊害の内容及び程度の判断につ
いては,原決定が「弁護人に既に開示された証拠を見ていない裁判所が限られた資
料からその内容の必要性や相当性を否定するには慎重であるべきであって,弁護人
の観点からする検討の余地を与えることも重要である」と述べていることは相当で
ある。
なお,主張と開示の請求に係る証拠との関連性については,本件弁護人は,新規
供述に沿う事実を否定し,新規供述に関する検察官調書あるいはAの予定証言の信
用性を争う旨の主張をした上で,それを判断するためには,本件メモにより,B警
察官によるAの取調べの際のやり取り等を明らかにし,供述の変遷状況等を明確に
することが必要であると述べている。被告人の取調べ状況を争点とする場合とは異
なって,B警察官によるAの取調べ状況とその際のAの供述内容を裏付ける根拠
は,Aの協力が得られない以上,具体的に明らかにしようがない本件では,関連性
についての主張は上記の程度でもやむを得ないと考える。
裁判官甲斐中辰夫の反対意見は,次のとおりである。
私は,原決定が,本件メモは「被告人側の主張との関連性」及び「必要性」があ
るものと認めた点において,明らかに刑訴法316条の20の解釈を誤り著しく正
義に反すると認めるので,原決定を破棄し,証拠開示命令請求を棄却するべきもの
と考える。その理由は,以下のとおりである。
本件メモは,刑訴法316条の20にいう主張関連証拠として開示請求がなされ
ているところ,弁護人が,上記の開示請求をする際には,同条2項2号により刑訴
法316条の17第1項の主張と開示の請求に係る証拠との関連性を明らかにしな
ければならない。そして,同項による「証明予定事実その他の公判期日においてす
ることを予定している事実上及び法律上の主張」の明示義務は,争点の明確化と審
理計画の策定のために課せられるものであり,可能な限り具体的な主張であること
が求められている。
ところで,取調べメモを証拠開示請求する場合には,取調べ状況やその際に作成
された調書の信用性を争点とするべきところ,本件においては,弁護人は,新規供
述に沿う事実を否定し,新規供述に関する検察官調書あるいはAの予定証言を争う
旨の主張をしたものの,B警察官のAに対する取調べ状況やその際の供述内容の信
用性については争点とせず,一切主張していない。したがって,本件メモの開示請
求の前提となる事実上の主張を具体的にしておらず,少なくとも本件メモとの関連
性を明らかにしていないものといわざるを得ない。
さらに,開示の必要性についても,原決定は,「A証人が従前の取調べでどのよ
うに述べていたかは重要な争点となるから,・・・その(本件メモ)記載が新たな
角度から意味をもってくる可能性は否定できず・・・」として本件メモの開示の必
要性があるものと判断している。
しかし,本件では,検察官はAのB警察官に対する供述調書を開示済みであり,
弁護人も,同調書に新規供述に関する事項についての記載がないことは争っていな
いのである。したがって,Aが従前の取調べでどのように述べていたかが重要な争
点とはなり得ない。あえていえば,A証人が新規供述に関する事項について,警察
官と調書外で何らかのやり取りがあり,それが本件メモに記載されていることが仮
定的な可能性としては考えられないでもなく,原決定の「新たな角度から意味をも
ってくる可能性」とは,そのことをいうものとも解される。しかし,原決定は,本
件メモを検討の上,自ら「本件メモ自体は,その内容からして証拠価値に乏しいも
のともいえる」としているのであるから,上記のような可能性はおよそ考え難いと
ころである。
さらに,一般に取調べメモの開示請求をする場合は,当該取調べ担当官の証人請
求がなされた上で行うものであるが,本件ではB警察官の証人申請がなされておら
ず,警察官調書作成の際の取調べメモのみが開示請求されているのであり,その請
求の方法からしても必要性は乏しいものといわざるを得ない。
私は,主張関連証拠の関連性,必要性等の判断については,法律審たる当審は原
則として事実審の判断を尊重すべきものと考えるが,双方の主張の明示義務は争点
整理のために重要であり,関連性,必要性等の判断は具体的に検討されるべきこと
が法律上予定されているので,そのような観点から,本件については,多数意見に
反対するものである。
(裁判長裁判官涌井紀夫裁判官甲斐中辰夫裁判官泉徳治裁判官
宮川光治)

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