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平成21年7月27日判決言渡
平成20年(行ケ)第10404号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年5月13日
判決
原告エイカーヤーズオーワイ
訴訟代理人弁理士浅村皓
同浅村肇
同岩井秀生
同森徹
被告特許庁長官
指定代理人寺本光生
同中川真一
同横溝顕範
同森川元嗣
同小林和男
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2006ー10774号事件について平成20年6月23日にし
た審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告(旧商号クバエルネルマサ−ヤーズオサケユキチュア)は,平
成8年5月13日,発明の名称を「外洋運搬船」とする発明について,特許出
願(特願平8−117418号。パリ条約による優先権主張1995年5月
12日フィンランド国)をし(甲7,8),平成17年6月7日に明細書の
特許請求の範囲を変更する手続補正をしたが(甲11),平成18年2月21
日に拒絶査定を受けたことから(甲12),平成18年5月25日,不服の審
判(不服2006−10774号事件)を請求するとともに(甲13),同年
6月6日,明細書の特許請求の範囲の記載を更に変更する手続補正(以下「本
件補正」という。)をした(甲15)。
特許庁は,平成20年6月23日,本件補正を却下した上,「本件審判の請
求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本
は,平成20年7月4日に原告に送達された。
2本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の明細書(以下,願書に最初に添付した図面と併せて「本願補正
明細書」という。)における特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり
である(甲15。以下,本件補正後の請求項1に係る発明を「本願補正発明」
という。別紙本願補正明細書【図1】∼【図3】参照)。
「【請求項1】少なくとも2個の貨物タンク(2,3,4,5)を含み,
それら貨物タンクのそれぞれが,半球形の上部分(11)及び下部分(12)
と,前記下部分(12)の上縁部に接続されていて貨物タンクの支持手段が接
続される要素を形成する赤道形状部(13)とを有しており,前記上部分(1
1)と前記下部分(12)とが同じ曲率半径を有する外洋運搬船(1)におい
て,前記貨物タンク(2∼4)の少なくとも1個が,その貨物タンクの上部分
(11)と前記赤道形状部(13)との間に位置していてそれらを相互に接続
する円筒形の中間部分(10)を有することを特徴とする外洋運搬船。」
3本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の平成17年6月7日付け手続補正書によって補正された明細書
における特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(甲11。以
下,本件補正前の請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。
「【請求項1】少なくとも2個の貨物タンク(2,3,4,5)を含み,
それら貨物タンクのそれぞれが,概ね半球形の上部分(11)及び下部分(1
2)と,前記下部分(12)の上縁部に接続されていて貨物タンクの支持手段
が接続される要素を形成する赤道形状部(13)とを有しており,前記上部分
(11)と前記下部分(12)とが概ね同じ曲率半径を有する外洋運搬船
(1)において,前記貨物タンク(2∼4)の少なくとも1個が,その貨物タ
ンクの上部分(11)と前記赤道形状部(13)との間に位置していてそれら
を相互に接続する円筒形の中間部分(10)を有することを特徴とする外洋運
搬船。」
4審決の理由
別紙審決書写しのとおりである。要するに,(1)本願補正発明は,特開昭6
1−241293号公報(以下「第1引用例」という。)に記載された発明
(以下「引用発明」という。)及び特開平3−128791号公報(以下「第
2引用例」という。)に記載された発明並びに特公昭51−20797号公報
(以下「周知例1」という。),特開昭56−146485号公報(以下「周
知例2」という。),実願昭58−96759号(実開昭59−35194
号)のマイクロフィルム(以下「周知例3」という。),実願昭56−944
03号(実開昭57−204988号)のマイクロフィルム(以下「周知例
4」という。)に記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をする
ことができたものであり,特許法29条2項の規定により独立して特許を受け
ることができないものであるから,本件補正は許されない,(2)本願補正発明
の上位概念発明である本願発明も,本願補正発明と同様の理由により,第1引
用例及び第2引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をするこ
とができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けること
ができない,というものである。
上記判断に際し,審決が認定した引用発明の内容並びに本願補正発明と引用
発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。
(1)引用発明の内容
「少なくとも2個のタンクを含み,それらタンクのそれぞれがタンク頂板
及びタンク底板とを有するタンク搭載船において,前記タンクが,そのタン
クのタンク頂板と前記タンク底板との間に位置していてそれらを相互に接続
する円筒形のタンク外板を有するタンク搭載船。」(審決書3頁26行∼2
9行。別紙第1引用例第1図ないし第3図参照)。
(2)[一致点]
「『少なくとも2個の貨物タンクを含み,それら貨物タンクのそれぞれ
が,上部分(11)及び下部分(12)とを有する外洋運搬船において,前
記貨物タンクが,その貨物タンクの上部分(11)と下方にある部材との間
に位置していてそれらを相互に接続する円筒形の中間部分(10)を有する
外洋運搬船。』である点」(審決書4頁下から4行∼5頁1行)。
(3)[相違点1]
「本願補正発明は貨物タンクの少なくとも1個が,円筒形の中間部分(1
0)を有し,貨物タンクの上部分(11)及び下部分(12)が同じ曲率半
径を有する半球形であるのに対して,引用発明は全てのタンクが円筒部を有
し,タンクの上部分及び下部分が半球形でない点。」(審決書5頁2行∼5
行)。
[相違点2]
「本願補正発明は下部分(12)の上縁部に接続されていて貨物タンクの
支持手段が接続される要素を形成する赤道形状部(13)とを有しており,
中間部分(10)は上部分(11)と前記赤道形状部(13)との間に位置
しているのに対して,引用発明は赤道形状部に関して明らかでない点。」
(審決書5頁6行∼10行)。
第3当事者の主張
1審決の取消事由に係る原告の主張
審決には,以下のとおり,(1)相違点1に係る容易想到性判断の誤り(取消
事由1),(2)相違点2に係る容易想到性判断の誤り(取消事由2),(3)作用
効果に係る判断の誤り(取消事由3)がある。
(1)取消事由1(相違点1に係る容易想到性判断の誤り)
審決は,「複数のタンクを搭載する船において,前方の視認性の確保とタ
ンクの総容積の増大は改善すべき課題として認識されているものであるとと
ももに,斯かる2つの課題は相反する性質つまり,どちらかの性能を向上さ

せようとすればもう一方の性能が低下する関係にあることは明らかといえ
る。また,球面形状は応力に対して強固な形状であることは一般的に知られ
た事項であり,タンクを製造する上でも強度を求めようとすればできるだけ
採用することが望ましい形状であるといえる。したがって,斯かる事項を考
慮すれば,引用発明においてタンクの容積効率を改善するに当って上下部分
を従来のまま半球形状とし,その間に第2引用例において示されたような円
筒部を差し挟むことを選択すること,及び容積を拡張する必要のないタンク
は球形を保持するようにすることに格別の創意は要しないといえる。したが
って,引用発明において上記の選択をして,本願補正発明の相違点1に係る
構成とすることに,格別の困難性は要しない。なお,引用発明の様に従来の
球形タンクの総容積を維持しつつタンクの容積効率を改善し,前方のタンク
の高さを低くして前方の視認性を向上させることと,本願発明(判決注本
願補正発明の誤記と認める。)の様に前方の視認性を低下させることなくタ
ンクの容積効率を改善し,タンクの総容積を従来の球形タンクの総容積より
も大きくすることとは,実質的に同義の改善であるといえる。」(審決書5
頁27行∼6頁7行)として,相違点1の構成は,容易想到であると判断し
た。
しかし,審決の上記判断には,次のとおり誤りがある。
ア「タンクの総容積の増大」と「前方の視認性の確保」とが相反する関係
にあることを前提として判断した誤り
審決は,「2つの課題は相反する性質つまり,どちらかの性能を向上さ
せようとすればもう一方の性能が低下する関係にあることは明らかといえ
る。」としているが,「タンクの総容積の増大」と「前方の視認性の確
保」は,常に相反する関係にあるわけでない。
仮に,「タンク容積」と「見通し」が,一方を向上させると他方が低下
するという関係が成立するとしても,そのことから,本願補正発明の相違
点1に係る構成が容易であるとの結論が導かれるわけではない。
したがって,審決の判断は,誤りがある。
イ強度向上のために,タンクの上下部分を半球形状にすることが容易であ
るとした誤り
以下のとおり,第1引用例及び第2引用例には,強度向上のためにタン
ク頂板と底板とを半球形状にするとの記載も示唆もない。
(ア)第1引用例では,容積効率を改善するためにタンクを竪型円筒状に
し,かつ,その円筒状部分をかなり高くしたものであって,タンク全体
の形状が球形ではないから,タンクが応力を受けたときに,球形の場合
のように応力を均等に分散させることができず,タンク頂板と円筒状部
分との間の連結部,及び円筒状部分と平坦な底板との連結部等にその応
力が集中される構成が採用されている。第1引用例において,「上下部
分を従来のまま半球形状」にしたとしても,タンク全体の強度を向上さ
せることはできないから,球面形状が応力に対して強固な形状であるこ
とをもって,上下部分を従来のまま半球形状とすることを導くことはで
きない。
引用発明においては,第1引用例(甲1)の第1図(別紙参照)のと
おり,タンク底板を平坦に形成して,その底板を船底で支える構成とさ
れているから,液化ガス等を収容したタンクの重量は,底板を介して船
底で支持される構成が採用されている。
(イ)また,第2引用例(別紙第2引用例第1図∼第5図参照)において
も,そのLNGタンク1は,「鉛直方向の直径が赤道の直径よりも若干
短い偏平球状に形成されている」(甲2,2頁左下欄16行∼18行)
ものであり,その頂部4及び南半球6は半球形状ではない。そして,第
2引用例には,南半球6の寸法について,例えば,「a/b≒1.
5に選定するとき,LNGタンク1の内圧により小曲率の部分に生じる
圧縮応力を十分小さく維持することができる」(甲2,3頁左上欄4行
∼6行)と記載されている。このように,第2引用例においては,頂部
4及び南半球6を半球形状よりも扁平な形状に形成するとともに,南半
球6を特殊な形状に形成することによって強度の向上を図っているか
ら,タンクの頂板と底板とを「同じ曲率半径を有する半球形」にすれば
強度が向上するなどとはいえない。
また,第2引用例に,竪型円筒状のタンクについて,「構造的にはタ
ンク底部を防熱材を介して船底構造で支えることを前提としている。と
ころが波浪中で船底は変動する水圧を受け,船底は大きく変形するた
め,これによりタンクの底板も変形をくり返し,強度的に問題があ
り,」(甲2,2頁左上欄2行∼6行)と記載されており,竪型円筒状
のタンクは,タンク底部を船底構造で支える構造であるために,強度的
に問題のあることが指摘されている。このように,タンクの強度は,タ
ンクを支える構造によっても影響されるものであり,単に球面形状を採
用することにより向上するものではない。
(ウ)「LNGタンカー」に係る甲23は,LNGタンクの形式には球形
タンク方式,GTT方式等のメンブレン方式,等があり,また,その他
の方式として,第1引用例,第2引用例のタンクと同様の三菱竪型円筒
タンク方式等を含む円筒形タンク,方形タンク等があることを記載して
いる。また,球形タンク,GTT方式のタンク,方形タンクを船倉に装
着した状態を図示している。このように,LNGタンクには種々の形式
のものがあり,それぞれに長所と短所がある。また,当然のこととし
て,強度を高める方法については,それぞれの形式のタンクについて考
慮するものである。例えば,GTT方式のタンク,方形タンク,円筒形
タンクについて,強度を高めるために,それらの上下部分を「同じ曲率
半径を有する半球形」にするなどということは,全く考え難いことであ
る。
(エ)以上によれば,強度向上のために引用発明におけるタンク頂板と底
板とを半球形状にすることに格別の創意は要しないとの審決の判断に
は,誤りがある。
ウ容積率改善のために,上下部分を半球形状のままとし,その間に円筒部
を差し挟むことが容易であるとした誤り
審決は,上下部分を半球形状のままとし,その間に円筒部を差し挟むこ
とが容易であると判断したが,次のとおり誤りである。
(ア)引用発明を基礎とする発明困難性
a引用発明においては,タンク容積効率を改善するために,従来は球
形であったタンクを竪型円筒状にしており,そのようにしたために上
部分(タンク頂板)を,半球形状よりも扁平な弧状のものにするとと
もに,下部分(タンク底板)を平坦にしている。このように,引用発
明における容積効率改善とは,従来の球形タンクと直径及び高さを同
一とする条件でタンク容積を増加させることを意味しており,タンク
頂板とタンク底板を半球形状よりも扁平にすること(すなわち,タン
ク頂板と底板の曲率半径を大きくすること)が必須であるから,これ
らを従来の半球形状に戻すことは考え難い。すなわち,引用発明にお
いて,上下部分を従来のまま半球形状とし(しかも上下部分の曲率半
径を同一にし)たのでは,従来技術と同じ球形タンクが得られるだけ
であって,容積効率を改善することはできないから,それは考え難
い。このことは,第1引用例の第2図に実線で示された引用発明の実
施例におけるタンク13と,鎖線で示された従来の球形タンクとを比
較すれば明らかであり,タンク13は,円筒形の外板を有する竪型円
筒状であるために,タンクの頂板及び底板を半球形状にすることがで
きない。タンクの高さを変えずに頂板を半球形状(すなわち,球を半
分にした形状)にすれば,その頂板は鎖線で示された従来の球形タン
クの上半部分と同じ形状になってしまい,また,底板を半球形状にす
れば,その底板は従来の球形タンクの下半部分と同じ形状になってし
まうから,上下部分を半球形状にして容積効率を改善させることはで
きない。
b被告は,引用発明においてタンク単体の容積を増やす作用を有する
のは,円筒部であると主張をする。
しかし,引用発明は従来の球形タンクの形状を竪型円筒状にするこ
とによって容積効率を改善するものであり,その竪型円筒状は,円筒
部を設けるのみではなく,タンクの頂板と底板とを半球形状よりも扁
平な形状にすることも必須である。タンクの頂板と底板とを半球形状
よりも扁平な形状にしなければ円筒部を設けて容積効率を改善するこ
とができないから,引用発明におけるタンク単体の容積を増やすのは
円筒部によるとの被告の主張は,合理性がない。また,第1引用例の
第1図,第2図(別紙参照)におけるタンク頂板及びタンク底板を半
球形状にすると,必然的にタンクの高さを増加させることになる。
さらに,引用発明の目的は容積効率の改善にあるから,引用発明に
は,そもそも「容積を拡張する必要のないタンクは球形を保持するよ
うにする」という技術思想は存在しない。
引用発明は,従来の球形タンクと同一の高さとする条件でタンクの
形状を竪型円筒状にすることにより容積効率を改善するものであるの
に対し,本願補正発明は上下部分を従来の球形タンクの上下部分の形
状と同様に維持しつつ円筒形の中間部分を設けることによって従来の
球形タンクの高さを変更して本願補正発明の課題を解決するものであ
る。したがって,「容積効率改善」といっても,その解決課題は異な
り,引用発明の構成から本願補正発明の構成に至ることは容易ではな
い。
c本願補正発明は,同構成を採用するによって,①上部分(11)と
下部分(12)は,同一の成形型,組立て治具等を使用して成形する
ことができること,②貨物タンクの少なくとも1個が円筒形の中間部
分(10)を有するとされているから,中間部分の高さを適宜に設計
することにより,タンクの容量を変化させられること,③その円筒形
の中間部分(10)を備えたタンクの製作は,比較的簡単であること
(甲8,段落【0003】∼【0006】)等の作用効果が生じる。
このように,本願補正発明は,「運搬すべき材料を運ぶ貨物タンク
の積載容量が,ある寸法の球形あるいは部分球形のタンクの製造に用
いられる製造手段を著しく変更する必要なく著しく増加される運搬船
を提供する」(甲8,段落【0004】)という,タンクの製造上の
問題を解決することを課題とし,そのために,上下部分を従来のまま
単に半球形にしたのみではなく,タンクの上下部分を「同じ曲率半径
を有する半球形」にした点に特徴を有する。
引用発明は,タンクの上部分及び下部分が「同じ曲率半径を有す
る」半球形でないため,引用発明から本願補正発明の構成に想到する
ことはできない。
(イ)第2引用例記載を適用することの発明困難性
第2引用例には,以下のとおり,容積率改善の目的で,上下部分を半
球形状にすることは示唆されていない。すなわち,第2引用例では,容
積効率の改善に関して,「容積効率が従来の球形タンクよりも優れてい
る。すなわち同一容積については,従来のタンクよりも高さを小さくで
き,形状が若干偏平でやや方形に近いため,船体内側に発生する無駄な
空間をより少なくできる。船用タンクのような大容積の場合,同一高さ
の球形タンクに比べ表面積の対容積比率も減少し,」(甲2,3頁右上
欄9行∼15行)と記載されている。ここにおいて,第2引用例におけ
る「容積効率が優れている」との記載は,同一容積の場合には従来のタ
ンクよりも低くなること,又は,同一高さの場合には従来のタンクより
も容積が大きくなることを意味している。そして,第2引用例のタンク
は,「形状が若干偏平でやや方形に近い」ものであり,第1図ないし第
4図から明らかなように,上下部分を半球形状よりも偏平なものとされ
ている。
そうすると,第2引用例において,容積率改善の目的で,上下部分を
半球形状にすることが示唆されているとはいえない。
(2)取消事由2(相違点2に係る容易想到性判断の誤り)
審決は,「船体に搭載されるタンクの赤道部分に,船体側に設けられたス
カート部と結合させるための赤道形状部を設けること及び,該赤道形状部を
別体に形成した後,溶接によりタンク本体に結合させることは共に周知の技
術である・・・。そして,引用発明及び第2引用例に記載された発明におい
ても斯かる周知の技術を採用することに格別の創意を要するものとは認めら
れない。また,第2引用例に記載された発明において上記周知の技術を採用
するに当って,赤道形状部と結合されるスカート部が船底方向から立ち上が
るように設けられている(上記周知例参照)ことからみて,赤道形状部を
円筒部5の下縁部に設けることは通常なされることであるといえる。そし
て,・・・引用発明に第2引用例において示されたような円筒部を差し挟む
ことを選択した際に,合わせて上記周知の技術を採用し,その際上記通常な
される事項に従って赤道形状部を円筒部の下縁部に設ければ,円筒部は,必
然的に上部分と前記赤道形状部との間に位置することになる。したがって,
4.(1)に述べた事項に加えて上記周知の事項を適用することにより,本
願補正発明の相違点2に係る構成とすることに,格別の困難性は要しな
い。」(審決書6頁9行∼27行)と判断した。
しかし,審決の判断には,次のとおり誤りがある。
すなわち,前記(1)イで主張したとおり,引用発明は,タンクを竪型円筒
状にして容積効率を改善しているのであるから,そのような円筒状のタンク
に第2引用例において示されたような円筒部を差し挟むことを選択する必要
はない。引用発明は,もともと本願補正発明の「中間部分(10)」に相当
するタンク外板を備えているのであるから,上記の選択をすることは有り得
ない。
また,引用発明においては,タンク底板を平坦に形成して,その底板を船
底で支える構成を採用しているから,貨物タンクの支持手段が接続される要
素を形成する「赤道形状部」は存在しない。したがって,仮に,引用発明
に,第2引用例において示されたような円筒部を差し挟むことを選択したと
しても,それによりタンクを支える構成が変わるわけではないから,「赤道
形状部」は依然として存在せず,「円筒部は,必然的に上部分と前記赤道形
状部との間に位置することになる。」(審決書6頁24行,25行)とはい
えない。
なお,審決の相違点2の認定については,「引用発明は赤道形状部に関し
て明らかでない点。」(審決書5頁9行,10行)との認定は不正確であ
り,「引用発明は貨物タンクの支持手段が接続される要素を形成する赤道形
状部を有していない点。」と正確に認定すべきである。
したがって,審決の相違点2に係る上記判断は,誤りである。
(3)取消事由3(作用効果に係る判断の誤り)
審決は,「上記の相違点1及び2に係る構成を併せ備える本願補正発明の
作用効果について検討しても,第1引用例,第2引用例に記載された発明及
び上記周知の技術から,当業者が予測しうる域を超えるものがあるとは認め
られない。」(審決書6頁29行∼31行)と判断した。
しかし,上記審決の判断は,次のとおり誤りである。
ア本願補正発明においては,タンクの上下部分を同じ曲率半径を有する半
球形状とすることにより,従来の球形タンク21∼24の製造のために使
用していた成形型,組立て治具等を使用して製造することができる。ま
た,中間部分の高さを適宜に設計することにより,タンクの容量を変化さ
せることができ,円筒形の中間部分を備えたタンクの製作は比較的簡単で
あるという作用効果がある。審決は,これらの本願補正発明の顕著な作用
効果を看過している。
イこの点について,被告は,第1引用例には,「従来の球形タンクでは,
タンクの高さを変えるため,直径の異なるものを製作する場合,その直径
によりタンク外板の曲率が変化し,タンク製作が複雑で困難なものになる
が,本発明における竪型円筒状のタンク11∼14では,タンク頂板やタ
ンク底板の形状は常に同一でよく,タンク11∼14の周面を形成するタ
ンク外板の高さを変えるだけで,高さの異なるタンクを容易に製作でき
る。」(甲1,2頁右下欄1行∼9行)との記載があると主張する。
しかし,第1引用例の上記記載は,次の事項を意味している。すなわ
ち,従来の球形タンクでは,タンクの高さを変えるためには直径を変える
必要があり,直径を変えると,タンク全体の曲率を変えざるを得ない。そ
して,球の大きさ(曲率半径)を変えると,タンク外板,すなわち球殻全
体が異なる曲率半径のものになるから,それぞれの球は全く別のものとし
て製造しなければならなくなる点を指摘している。
したがって,第1引用例の上記記載部分は,同一タンクの頂板と底板と
を「同じ曲率半径の半球形」としたままで,「中間部分の高さを適宜に設
計することによりタンク容量を変化させることができる」ことまでをも意
味しているわけではない。
引用発明においてはタンクの頂板と底板を扁平にすることが必須である
から,頂板と底板とを「同じ曲率半径の半球形」にすることは有り得ず,
それらを従来の球形タンクと同じにすることはできない。このことは,例
えば,第1引用例の第1図に示された4つのタンク11∼14における頂
板と底板の形状が,第3図の5つの球形タンク21∼24の上半球部分と
下半球部分の形状とは異なるものであることからも明らかである。
ウしたがって,本願補正発明の作用効果は,引用発明及び第2引用例に記
載された発明並びに周知技術から,当業者が予測し得るとした審決の判断
は,誤りである。
2被告の反論
(1)取消事由1(相違点1に係る容易想到性判断の誤り)に対し
ア「タンクの総容積の増大」と「前方の視認性の確保」とが相反する関係
にあることを前提として判断した誤りに対し
原告は,「タンクの総容積の増大」と「前方の視認性の確保」とは,常
に相反する関係にあるのではないと主張する。
しかし,審決における「斯かる2つの課題は相反する性質つまり,どち
らかの性能を向上させようとすればもう一方の性能が低下する関係にあ
る」との記載は,タンクの形状を同一として大きさを変えた場合を前提と
して,「タンク容積(タンクの大きさ)」と「見通し」は一方を向上させ
ると他方が低下するという相反する関係にあることを述べたものであり,
原告が主張するように,前方の視認性とタンクの総容積に関係するすべて
の要素に関係なく上記関係が成立することまでをも述べたものではない。
したがって,原告の主張は,その主張自体,審決の判断の違法を来すも
のではない。
イ強度向上のために,タンクの上下部分を半球形状にすることが容易であ
るとした誤りに対し
原告は,引用発明から,強度向上を理由として,タンクの上下部分を半
球形状にすることに格別の創意を要しないとした審決の判断は誤りである
と主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,理由がない。
すなわち,引用発明では,①タンクを竪型円筒状としたことにより,従
来の球形のタンクより,単体のタンクにおいて容積効率を上げているもの
であり,タンク単体の容積効率が上がるので高さを低く形成することがで
き,前方視認性の観点からタンク搭載船の前方のタンクを低く設定できる
こと,②タンクの周面を形成するタンク外板の高さを変えるだけで,高さ
の異なるタンクを製作できることから,全体の容積を変えることは容易で
ある。また,第2引用例にも頂部と球状部分の間に円筒部を設けると同一
の容積について高さを低くでき,容積効率の向上によりタンクの高さを減
少させ,視認性が向上する旨の記載がある。
上記のような,引用発明の課題及び作用効果,第2引用例の記載事項に
照らすならば,引用発明において,①タンク頂板とタンク底板とタンクの
容積を変えるための円筒形のタンク外板を有する3つの部分からなるタン
クの形状とし,②上下部分を応力に対して強固な形状である従来の半球形
状のままとし,容積を変えるための円筒形のタンク外板の具体的な構造
を,第2引用例において示されたような円筒部を差し挟むものとすること
に格別の創意は要しない。
原告のこの点の主張は,失当である。
ウ容積率改善のために,上下部分を半球形状のままとし,その間に円筒部
を差し挟むことが容易であるとした誤りに対し
原告は,容積率改善のために上下部分を半球形状のままとし,その間に
円筒部を差し挟むことが容易であるとした審決の判断に,誤りがあると主
張する。
しかし,原告の上記主張は,次のとおり理由がない。
原告の上記主張は,引用発明が「タンクの頂板と底板は,半球形状では
なく,頂板を弧状に,底板を平坦に形成している」ことを前提に主張す
る。この点,原告の主張は,審決の認定した引用発明と異なる発明を前提
としたものであり,その主張自体失当である。すなわち,審決が認定した
引用発明の内容は,「少なくとも2個のタンクを含み,それらタンクのそ
れぞれがタンク頂板及びタンク底板とを有するタンク搭載船において,前
記タンクが,そのタンクのタンク頂板と前記タンク底板との間に位置して
いてそれらを相互に接続する円筒形のタンク外板を有するタンク搭載
船。」(審決書3頁26行∼30行)というものであり,引用発明のタン
ク頂板とタンク底板を扁平にした点を前提としていない。頂板を弧状に,
底板を平坦に形成したものは引用発明の1実施例にすぎない。
引用発明におけるタンク単体の容積を増やすのは,半球形状によるので
はなく,円筒部によるものであるから,原告の上記主張は,理由がない。
そして,引用発明の上下部分を従来の球形のままとし,その上下部分の間
の「円筒形のタンク外板」の具体的な構造として,第2引用例において示
されたような円筒部を差し挟むものとすることに格別の創意を要しない。
以上のとおり,審決の判断に違法はない。
(2)取消事由2(相違点2に係る容易想到性判断の誤り)に対し
原告は,本願補正発明の相違点2に係る構成とすることに,格別の困難性
は要しないとした審決が誤りであると主張する。
しかし,船舶に搭載されるタンクにおいて,何らかの手法でタンクを支持
する必要のあることは自明であるから,タンクを支持する構成として周知で
ある「船体に搭載されるタンクの赤道部分に,船体側に設けられたスカート
部と結合させるための赤道形状部を設ける構成」,及び「赤道形状部を別体
に形成した後,溶接によりタンク本体に結合させる構成」を採用することに
格別の創意を要するものではない。
したがって,その旨の審決の判断に誤りはない。
なお,審決は,引用発明について,タンク底板を平坦に形成して,その底
板を船底で支える構成であるとは認定していないから,タンク底板を平坦に
形成して,その底板を船底で支える構成であると認定したことを前提とした
原告の主張は失当である。
(3)取消事由3(作用効果に係る判断の誤り)に対し
原告は,本願補正発明においては,タンクの上下部分を同じ曲率半径を有
する半球形状とすることにより,従来の球形タンク21ないし24の製造の
ために使用していた成形型,組立て治具等を使用して製造することができ
る,また,中間部分の高さを適宜に設計することにより,タンクの容量を変
化させることができ,円筒形の中間部分を備えたタンクの製作は比較的簡単
であるという作用効果があり,審決は本願補正発明の顕著な作用効果を看過
している旨主張する。
しかし,第1引用例にも「本発明における竪型円筒状のタンク11∼14
では,タンク頂板やタンク底板の形状は常に同一でよく,タンク11∼14
の周面を形成するタンク外板の高さを変えるだけで,高さの異なるタンクを
容易に製作できる。」(2頁右下欄4行∼9行。)と記載されているよう
に,タンクを構成する部材を同一形状とすれば,必然的に成形型や治具は同
一のものを使用することができ,その製作が容易となることは,自明のこと
であり,タンクの上下部分を「同じ曲率半径」の半球形とした場合には,更
にその製作が容易となることも自明のことである。
また,「高さの異なるタンク」は,その容量の異なることが明らかである
から,上記効果の記載は,中間部分の高さを適宜に設計することにより,タ
ンクの容量を変化させることができ,円筒形の中間部分を備えたタンクの製
作は比較的簡単であることを実質的に示唆するものであるといえる。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(相違点1に係る容易想到性判断の誤り)について
(1)「タンクの総容積の増大」と「前方の視認性の確保」とが相反する関係
にあることを前提として判断した誤りについて
ア原告は,「前方の視認性の確保」と「タンクの総容積の増大」が相反す
る関係は,すべての場合に成立するものではないから,「前方の視認性の
確保」と「タンクの総容積の増大」が相反する関係にあることを前提とし
て,容易想到性があるとした審決の判断は誤りである旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
まず,そもそも,原告の主張は,仮に,審決が根拠とした前提が誤って
いたとしても,審決の判断に違法を来すものとはいえないから,その主張
自体失当である。
のみならず,審決が,「前方の視認性の確保」と「タンクの総容積の増
大」が相反する関係にあるとした点は,前後の文脈からみて,誤った前提
に立って結論を導いたものとはいえない。
すなわち,審決は,①第1引用例及び第2引用例において,従来例とし
て球形タンクが存在していたことが開示されているとし(甲1及び2の各
〔従来の技術〕欄),②「前方の視認性の確保」と「タンクの総容積の増
大」が相反する関係にあるとの一般論を説示し,③球形形状は,応力に対
して強固な形状であることを述べた上で,④上記の相反性等を考慮するな
らば,タンクの上下部分を従来例と同様の半球形状とすることに格別の創
意を要しないとの結論を導いている。
上記の文脈に照らすならば,審決が,「前方の視認性の確保」と「タン
クの総容積の増大」が相反する関係にあると述べている点は,球形タンク
のように,大きさを変えてもその球形形状を保つ場合を前提としているこ
とが明らかである。そして,球形タンクに係る第1引用例の記載,すなわ
ち,「各タンク21∼25が球状に形成されているので,船の大きさに対
するタンク容積が少ない。すなわち容積効率が悪いという性質がある。船
橋からの前方見通しとタンク容積効率は密接な関連があり,例えば船首部
の2つのタンク21,22の直径を減じて上甲板上への突出量を減少させ
れば船橋からの見通しは改善されるがタンク容積効率は更に悪化すること
になる。」(甲1,4頁右下欄14行∼5頁左上欄1行)との記載にかん
がみれば,審決の上記判断に合理性を欠く点はない。
したがって,原告の主張は,この点からも,理由がない。
イ原告は,仮に,「前方の視認性の確保」と「タンクの総容積の増大」と
の間に相反する関係が存在してもなお,本願補正発明の相違点1に係る構
成(上下部分を半球形状とする構成)は,引用発明から容易に想到するこ
とはできない旨主張する。
しかし,原告の上記主張は,次のとおり理由がない。
(ア)第1引用例の記載
第1引用例には,次の記載がある。
「2特許請求の範囲
船尾部の上甲板上に船橋をそなえるとともに,同船橋よりも前方にお
いて船長方向に列設された複数の竪型円筒状タンクをそなえ,これらの
タンクが,上記上甲板よりも上方へ突出するように,且つ上記船橋より
は低くなるように形成されて,上記タンクのうち最前部の第1タンク
が,その後方の第2タンクよりも高さを低く形成されていることを特徴
とする,タンク搭載船。」(甲1,4頁左下欄5行∼13行),
「〔発明が解決しようとする問題点〕
ところで,上述のようなタンク搭載船では,各タンク21∼25の上
甲板1上方への突出量をほぼ等しくしているので,船橋4から前方への
見通し線5が水平に近く死角が大きくなっている。
また,各タンク21∼25が球状に形成されているので,船の大きさ
に対するタンク容積が少ない。すなわち容積効率が悪いという性質があ
る。船橋からの前方見通しとタンク容積効率は密接な関連があり,例え
ば船首部の2つのタンク21,22の直径を減じて上甲板上への突出量
を減少させれば船橋からの見通しは改善されるが,タンク容積効率は更
に悪化することになる。
本発明は,これらの問題点の解決をはかろうとするもので,十分なタ
ンク容積効率を確保しながら,しかも船橋から前方への良好な見通しを
確保できるようにした,タンク搭載船を提供することを目的とする。
〔問題点を解決するための手段〕
このため,本発明のタンク搭載船は,船尾部の上甲板上に船橋をそな
えるとともに,同船橋よりも前方において船長方向に列設された複数の
竪型円筒状タンクをそなえ,これらのタンクが,上記上甲板よりも上方
へ突出するように,且つ上記船橋よりは低くなるように形成されて,上
記タンクのうち最前部の第1タンクが,その後方の第2タンクよりも高
さを低く形成されていることを特徴としている。
〔作用〕
上述の本発明のタンク搭載船では,タンク形状を竪型円筒状としてい
るので,球形タンクに比しタンク容積効率が大幅に改善され,さらに複
数の竪型円筒状タンクのうち最前部の第1タンクが,その後方の第2タ
ンクよりも高さを低く形成されているので,船橋から前方への視界の下
限が拡げられるようになる。」(甲1,4頁右下欄9行∼5頁右上欄4
行)。
「〔実施例〕
以下,図面により本発明の一実施例としてのタンク搭載船について説
明すると,第1図はその船体縦断面図,第2図は第1図のⅡ−Ⅱ矢視断
面図である。・・・
なお,タンク11∼14は,いずれもその直径がタンク13,14の
高さと等しくなるように形成されており,またタンク13,14の高さ
は,従来技術として例示した球形タンク(第3図の符号21∼25およ
び第2図の鎖線参照)の直径に等しくなっている。また,第1,2図中
の符号2はタンクカバー,3はタンクドームを示している。
本発明のタンク搭載船は上述のごとく構成されているので,船橋4か
ら前方への見通し線5がより下方に向き,死角が小さくなるので,前方
見通しを十分確保できるようになる。これにより,航行中における安全
性が高められるのである。
また,第2図に示す第3タンク13と従来の球形タンク(鎖線)とを
比較すると,タンク13の容積は同一の直径および高さを有する球形タ
ンクの容積の約1.32倍が確保されており,したがって,第1図に示
すような本発明のタンク搭載船において,従来のタンク搭載船と同じタ
ンク容量を持たせる場合,船首部のタンク高さを低くしているにもかか
わらず搭載すべきタンク数を減少でき,その結果,船長の短縮をはかる
ことが可能となる。
さらに,従来の球形タンクでは,タンクの高さを変えるため,直径の
異なるものを製作する場合,その直径によりタンク外板の曲率が変化
し,タンク製作が複雑なものになるが,本発明における竪型円筒状のタ
ンク11∼14では,タンク頂板の形状は同一でよく,タンク11∼1
4の周面を形成するタンク外板の高さを変えるだけで,高さの異なるタ
ンクを容易に製作できる。
なお,本実施例のタンク搭載船では,第3タンク13および第4タン
ク14の直径は高さと等しく設計しているが,円筒状の場合は球形と異
なり直径と高さとを等しくする必然性はなく,個々の設計事情に応じて
直径と高さとは異なった値に選定できる。
また本実施例では,最前部の第1タンク11およびその後方の第2タ
ンク12の高さを低くしたが,最前部の第1タンク11のみの高さを第
2タンク12より低くしてもよい。」(甲1,5頁右上欄5行∼6頁左
上欄8行)。
「〔発明の効果〕
以上詳述したように,本発明のタンク搭載船によれば,船尾部の上甲
板上に船橋をそなえるとともに,同船橋よりも前方において船長方向に
列設された複数の竪型円筒状タンクをそなえ,これらのタンクが,上記
上甲板よりも上方へ突出するように,且つ上記船橋よりは低くなるよう
に形成されて,上記タンクのうち最前部の第1タンクが,その後方の第
2タンクよりも高さを低く形成されるという簡素な構成で,船体の大き
さに対してタンク容積を大きく確保することができるとともに,船尾部
上甲板上の船橋における前方見通しを良好に確保できるようになる。」
(甲1,6頁左上欄9行∼右上欄1行)。
(イ)相違点1についての容易想到性に係る判断
上記第1引用例の記載,特に「本発明における竪型円筒状のタンク1
1∼14では,タンク頂板やタンク底板の形状は常に同一でよく,タン
ク11∼14の周面を形成するタンク外板の高さを変えるだけで,高さ
の異なるタンクを容易に製作できる。」(甲1,2頁右下欄4行∼9
行)との記載によれば,第1引用例においては,本願補正発明と同様
に,中間部分の高さを適宜に設計することにより,タンクの容量を変化
させることが開示されているものといえる。そして,その他の記載を見
ても,上記のタンク頂板及び底板の形状は同一でよいことが記載されて
いるのみであって,その形状については,格別の限定はされておらず,
タンク頂板を弧状にし,底板を平坦にすることが第1引用例において必
須の構成とされているものではない。
そして,第1引用例には,従来例として球形タンクが示されている
(甲1,〔従来の技術〕,第3図)。また,タンクの形状として,上下
の半球形状のものを合わせて球形タンクを構成することは,特公昭51
−20797号公報(甲3),特開昭56−146485号公報(甲
4),実願昭58−96759号(実開昭59−35194号のマイク
ロフィルム〔甲5〕)及び実願昭56−94403号(実開昭57−2
04988号のマイクロフィルム〔甲6の1及び2〕)に示されている
とおり周知技術であるといえる。
そうすると,第1引用例においては,球形タンクの前方の視認性の確
保とタンクの総容積の増大とが相反する性質を有することを踏まえつつ
もなお,タンクの総容積の増大を図る必要のある場合にはタンクの頂板
及び底板を従来周知の半球形状のままとした上で中間部分の高さを適宜
に設計することにより総容積増大の目的を達成し,その必要がない場合
には従来周知の球形状のままにすれば足りると設計することができると
いうことができる。
半球形状における前記相反性の一般論を考慮しつつも,引用発明のタ
ンクにおいて上下部分として半球形状を選択することなどに格別の創意
を要しないとした審決の判断に誤りはなく,この点に係る原告の主張は
理由がない。
ウ小括
以上のとおりであって,本願補正発明の相違点1に係る構成は,第1引
用例に基づいて,容易に想到することができるから,相違点1に係るその
余の判断をするまでもなく,審決の判断に誤りはない。
念のため,相違点1に係る原告の主張(2)及び(3)についても,審決の誤
りの有無について判断する。
(2)強度向上のために,タンクの上下部分を半球形状にすることが容易であ
るとした誤りについて
原告は,強度向上のために,引用発明におけるタンク頂板と底板とを半球
形状にすることに格別の創意は要しないとの審決の判断には,誤りがあると
主張する。
しかし,以下に述べるとおり,原告の主張は理由がない。
ア原告は,第1引用例では,容積効率を改善するためにタンクを竪型円筒
状にしており,そのタンクは球形ではなく,タンクが応力を受けたとき
に,タンク頂板と円筒状部分との間の連結部,及び円筒状部分と平坦な底
板との連結部等に応力が集中される構成になっているから,「上下部分を
従来のまま半球形状」としても,タンク全体の強度が向上するとは考え難
いと主張する。
しかし,原告の上記主張は理由がない。
第2引用例には,「(5)タンクの南半球の形状が通常の鏡板構造と異
なり,貨液の半載時の液面近傍,すなわち赤道から南緯30°程度の範囲
が,半径が赤道部の水平断面の半径とほぼ等しい球体形状に形成されてい
ることで,複雑な半載時の液の動揺による座屈問題を従来の真球タンクと
同じ信頼性をもって設計できる。」(甲2,3頁右下欄1行∼7行)と記
載されているとおり,球体形状にすれば座屈強度の強くなることが記載さ
れている。そして,「球面形状は応力に対して強固な形状であることは一
般的に知られた事項」であるから,第1引用例においても,タンクの容積
効率を改善するに当たって,上下部分を従来技術と同様の形状である半球
形状とすることは,当業者にとって格別の困難を要しないことであるとい
える。したがって,原告の上記主張は理由がない。
イなお,原告は,引用発明においては,第1引用例の第1図(別紙参照)
のとおり,タンク底板を平坦に形成して,その底板を船底で支える構成と
されているから,液化ガス等を収容したタンクの重量は,底板を介して船
底で支持される構成とされている旨主張する。
しかし,第1引用例には,タンク底板を平坦に形成し,その底板を船底
で支える構成とし,液化ガス等を収容したタンクの重量は底板を介して船
底で支持されるものであるとの記載は見当たらず,引用発明のタンクが船
底で支持されるもののみに限定されると解する理由はない。したがって,
原告の上記主張は理由がない。
(3)容積率改善のために,上下部分を半球形状のままとし,その間に円筒部
を差し挟むことが容易であるとした誤りについて
ア原告は,第1引用例においては,タンク頂板とタンク底板を半球形状
よりも扁平にすることが必須であるから,これらを従来の半球形状に戻
すことは考え難いと主張する。
しかし,第1引用例においてタンクの頂板と底板とを半球形状よりも扁
平な形状にすることが必須であるといえないことは,前記(1)イ(イ)で説
示したとおりであるから,原告の上記主張は,その前提に誤りがあり,採
用することができない。
また,原告は,第1引用例(甲1)の第1図,第2図(別紙参照)にお
けるタンク頂板及びタンク底板を半球形状にすることは,タンクの高さを
増加させることになって,阻害要因がある旨主張する。
しかし,原告の上記主張は理由がない。すなわち,第1引用例には,
「船橋からの前方見通しとタンク容積効率は密接な関連があり,例えば船
首部の2つのタンク21,22の直径を減じて上甲板上への突出量を減少
させれば船橋からの見通しは改善されるがタンク容積効率は更に悪化する
ことになる。」(甲1,4頁右下欄16行∼5頁左上欄1行)と記載され
ているとおり,タンクの形状と前方通しとが密接に関係することは当業者
にとって自明のことであり,タンク頂板及びタンク底板の形状をどのよう
にするかは,引用発明を具体化する際に,前方の見通しを確保することが
できるよう,その形状による突出量を考慮して,当業者が適宜決定するこ
とができる設計的事項であって,その形状として,従来周知の半球形状を
採用できないとする格別の理由はない。したがって,阻害要因がある旨の
上記原告の主張は理由がない。
イ原告は,タンクの容量を定める部材として見た場合に,第1引用例にお
ける円筒状の外板はタンクの主要部を構成する部材であるのに対し,第2
引用例のタンクの円筒部5は,タンクの主要部を構成する部材ではないか
ら,第2引用例の円筒部5を引用発明における円筒状の外板に代えて使用
することは,容易でないと主張する。
しかし,原告の上記主張は理由がない。すなわち,第2引用例の円筒部
5もタンク容量を定める部材の1つであり,主要部を構成する部材に当た
るといえるものである。そうすると,引用発明において中間部分の設計に
当たり,上下部分の間に第2引用例において示されたような円筒部を差し
挟むことを選択することに格別の創意を要しない。よって,原告の上記主
張は理由がない。
ウ原告は,引用発明は,タンクを竪型円筒状にして容積効率を改善して
いるのであるから,そのような円筒状のタンクに第2引用例において示
されたような円筒部を差し挟むことを選択する必要はない旨主張する。
しかし,審決は,引用発明の上下部分を従来の球形のままとし,その上
下部分の間の「円筒形のタンク外板」の具体的な構造として,第2引用例
において示されたような円筒部を差し挟むことには,格別の創意を要しな
いとの論理を示したものであると理解され,そのような論理に不合理な点
はないから,原告の上記主張は理由がない。
エ原告は,引用発明の目的は容積効率の改善にあるから,「容積を拡張
する必要のないタンクは球形を保持するようにする」という技術思想は,
そもそも引用発明には存在しないと主張する。
しかし,引用発明の目的が容積効率の改善にあるとしても,それは複
数個のタンクの総容積を改善することで足り,具体的にタンクを複数個
設置するに当たり,前方の視認性も考慮して,容積を増大させる必要が
ないと判断された一部のタンクの形状を球形とすることに,合理性がな
いとはいえないから,これと同旨の審決の判断に誤りはなく,原告の上
記主張は理由がない。
オ原告は,引用発明は,従来の球形タンクの直径及び高さと同一の高さと
する条件でタンクの形状を竪型円筒状とすることによってその容積効率を
改善するものであるのに対し,本願補正発明は,上下部分を従来の球形タ
ンクの上下部分の形状と同様に維持しつつ円筒形の中間部分を設けること
によって従来の球形タンクの高さを変更して本願補正発明の課題を解決す
るものであるから,引用発明の構成から本願補正発明の構成に至ることは
容易ではない旨主張する。
しかし,引用発明のタンク容積効率は,前方見通しを確保できる範囲内
で改善するものであると把握することができるのであり,また,引用発明
の竪型円筒状タンクは,上甲板よりも上方へ突出し,かつ船橋よりは低く
なるように形成されるとともに,最前部の第1タンクの高さをその後方の
第2タンクの高さよりも低く形成することによりタンク容積効率を改善す
るものであり,竪型円筒状タンクの高さを球形タンクの高さと同じにする
ことを前提として,タンク容積効率を改善するものであると解すべき記載
はない。したがって,引用発明でいう「容積効率の改善」とは,従来の球
形タンクと直径及び高さを同一にした場合のタンクの容積を増加させるこ
とであるとの前提に立った原告の主張は,採用することができない。
2取消事由2(相違点2に係る容易想到性判断の誤り)
原告は,本願補正発明の相違点2に係る構成とすることに,格別の困難性は
要しないとした審決が誤りであると主張する。
しかし,船舶に搭載されるタンクにおいて,何らかの手法でタンクを支持す
る必要のあることは自明であるから,タンクを支持する構成として周知である
「船体に搭載されるタンクの赤道部分に,船体側に設けられたスカート部と結
合させるための赤道形状部を設ける構成」,及び「赤道形状部を別体に形成し
た後,溶接によりタンク本体に結合させる構成」を採用することに格別の創意
を要するものではない。
したがって,その旨の審決の判断に誤りはない。
3取消事由3(作用効果に係る判断の誤り)について
原告は,本願補正発明には,①タンクの上下部分を同じ曲率半径を有する半
球形状とすることにより,従来の球形タンク21ないし24の製造のために使
用していた成形型,組立て治具等を使用して製造することができる,また,②
中間部分の高さを適宜に設計することにより,タンクの容量を変化させること
ができ,円筒形の中間部分を備えたタンクの製作は比較的簡単である,との顕
著な作用効果を有しているから,その作用効果に照らして,本願補正発明を発
明することは容易ではなかった旨主張する。
しかし,原告の上記主張は理由がない。すなわち,第1引用例には,「本発
明における竪型円筒状のタンク11∼14では,タンク頂板やタンク底板の形
状は常に同一でよく,タンク11∼14の周面を形成するタンク外板の高さを
変えるだけで,高さの異なるタンクを容易に製作できる。」(甲1,2頁右下
欄4行∼9行)と記載されており,タンクを構成する部材を同一の形状とすれ
ば,必然的にその成形型や治具は,同一のものを使用することができ,部材の
製作が容易となることは,自明である。そして,異なるタンクの上部の部材同
士又は下部の部材同士を「同じ曲率半径」の半球形状とするのみならず,同一
タンクの上部と下部の部材同士を「同じ曲率半径」の半球形状とした場合に
は,更にその製作が容易になるであろうことも自明のことであるから,原告主
張の前記作用効果をもって,当業者が予想し得ない顕著な作用効果であるとは
認め難い。
また,「高さの異なるタンク」は,その容量の異なることが明らかであるか
ら,上記記載のうち,「高さの異なるタンクを容易に製作できる。」との記載
部分は,中間部分の高さを適宜に設計することにより,タンクの容量を変化さ
せることができ,円筒形の中間部分を備えたタンクの製作が比較的簡単である
ことを実質的に示唆するものであるといえるから,この点に係る原告主張の作
用効果も,引用発明から予想し得ない顕著な作用効果であるとはいえない。
そうすると,「相違点1及び2に係る構成を併せ備える本願補正発明の作用
効果について検討しても,第1引用例,第2引用例に記載された発明及び上記
周知の技術から,当業者が予測しうる域を超えるものがあるとは認められな
い。」(審決書6頁29行∼31行)とした審決の判断に誤りがあるとはいえ
ず,この点に係る原告の主張は理由がない。
4結論
以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他,原告は
縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,原告の本訴請求は理由がない
から,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
大須賀滋
裁判官
齊木教朗
(別紙)本願補正明細書【図1】
本願補正明細書【図2】本願補正明細書【図3】
(別紙)第1引用例第1図
第1引用例第2図
第1引用例第3図
(別紙)第2引用例第1図第2引用例第2図
第2引用例第3図第2引用例第4図
第2引用例第5図

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〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
時給 当社規定による
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シフトは週40時間以上
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