弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を名古屋高等裁判所に差戻す。
         理    由
 上告代理人青柳虎之助の上告理由第一、二点について。
 債権者が、弁済期の到来した債務の弁済を求めることは、債権者の当然の権利行
使であつて、他に債権者あるの故でその権利行使を阻害されるいわれはない。また
債務者も債務の本旨に従い履行を為すべき義務を負うものであるから、他に債権者
あるの故で、弁済を拒絶することのできないのも、いうをまたないところである。
そして債権者平等分配の原則は、破産宣告をまつて始めて生ずるものであるから、
債務超過の状況にあつて一債権者に弁済することが他の債権者の共同担保を減少す
る場合においても、右弁済は、原則として詐害行為とならず、唯、債務者が一債権
者と通謀し、他の債権者を害する意思をもつて弁済したような場合にのみ詐害行為
となるにすぎないと解するを相当とする(大正六年六月七日大審院判決、民録九三
二頁参照)。
 ところで、本件につき原判決は、債務者訴外D株式会社(以下単に訴外会社と略
称する)が債務超過の状況に陥り、上告人はその所持する右訴外会社振出の約束手
形が満期日である昭和二七年一〇月二四日不渡りになることを知り、原判示の如く
その前日である二三日に訴外会社の社員に対し右手形金の支払方を強く要求し、そ
の結果、訴外会社の社員は売掛代金債権を取立ててその弁済に充てることとし、同
月二四日より二六日に至る間売掛代金を集金したこと、そして右当初の二四日に集
金した金四二万四千八百円は同日債権者訴外E株式会社に対する債務の弁済に充て、
その後に集金した金三三万円を同月二六日上告人に対する前記手形金の一部弁済に
充てたこと等の各事実を認定し、これらの認定事実に基き「本件に於ける如く、弁
済期日後に於て弁済行為がなされたのであるが、受益者に於て他の債権者を害する
意思を以て弁済期日の前日より弁済を要求し、債務者に於ても他の債権者を害する
ことを知りながら之に応じ、以て両者通謀し弁済行為をなしたときは仮令その弁済
行為が弁済期日後になされたときと雖も、右弁済行為は詐害行為を構成する」と判
示して被上告人の本訴請求を認容したのである。
 しかしながら、原審の前記認定によれば、訴外会社が、上告人に対し本件手形金
の弁済をしたのは、上告人から強く弁済を要求された結果であることが、うかがわ
れるのである。しかも、原審における上告人の主張によれば、「上告人が訴外会社
に対し本件手形金の弁済を求めたのは、上告人自身の経済状態が逼迫していたため
である」というのであつて、もし上告人の右主張事実が認められるならば、本件に
おいては、訴外会社は、法律上当然支払うべき自己の債務につき、債権者たる上告
人から強く弁済を要求された結果、やむなく義務を履行した関係にあるものと認む
べきことは当然である。而して本件弁済が、このような関係でなされたとすれば、
単に原審認定の如き経緯だけでは、未だ債務者が他の債権者を害する意思をもつて、
債権者と通謀の上なしたものであるとは解し難く、又他面原審認定の如く、訴外会
社の社員が弁済のため二四日から売掛金の集金を行い、その初日の集金は挙げて他
の債権者の弁済に充て、その後の集金を以て上告人の債務の一部弁済に充てたとい
う事実から見ると、上告人と訴外会社との間に他の債権者を回避して上告人に優先
的に弁済しようとする通謀があつたとは断じ難い。
 されば、原審が、たやすく本件弁済を詐害行為であると判断したのは、法律の解
釈を誤つたか、または審理不尽、理由不備の違法があるものというべく、原判決は、
この点において破棄を免れない
 よつて、その他の論点に対する判断を省略し、民訴四〇七条に従い、裁判官全員
の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一

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