弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人山本良一、同尾埜善司、同加藤幸則、同牧野敬次の上告理由について。
 株式会社の新株発行の場合、株式払込を取扱う銀行又は信託会社が払込金額の保
管証明をすると、この証明書は新株発行の登記申請の添付書類として用いられ、商
業登記簿による増資後の会社資本額の公示の基礎となるものである。従つて、この
証明書はいわば広く社会に対する表示の意味があるものともいうべく、法はかかる
意味においていわゆる禁反言の法理に則り、商法一八九条二項(新株発行のときは、
商法二八〇条ノ一四にて準用)を規定し、株式払込取扱銀行又は信託会社が、新株
発行会社と通謀の上、仮装払込について苟も一旦保管証明をなしたときは、真実に
はその払込がないのにも拘らず、その証明した金額をば当該会社に支払うべきもの
としたのである。畢竟、右の規定は仮装払込の弊を除き、社会的存在としての資本
団体たる株式会社の資本充実を図らんとするものに外ならない。従つて、この同条
の趣旨に照らすときは、裁判所の許可なくして払込取扱銀行を変更した場合(商法
一七八条、二八〇条ノ一四参照)、その許可を得ていない新たなる取扱銀行が払込
金保管証明をしたときにおいても、また何等株式申込証に払込取扱銀行として記載
されていない銀行(商法一七五条二項一〇号、二八〇条ノ六、五号参照)が、新株
発行会社の代表取締役の求めに応じ、払込取扱銀行であるとして払込金保管証明を
したときにおいても、右と同様に解するのを相当とする。しかして相互銀行が右法
条の銀行のうちに含まれることは、もとより当然である。
 今本件についてみるに、原審の認定したところによれば、上告会社は昭和二八年
一二月一〇日の取締役会において有償新株九七万五、〇〇〇株を発行することとし、
昭和二九年一日三一日午後四時現在の株主名簿記載の株主に対し所有株式一株につ
き一・五株の割合をもつて割当てること、申込期間は同年三月二二日より四月一〇
日まで、払込期日同月一六日とすることを決議し、右株式払込取扱銀行として株式
会社D銀行E支店を指定したが、右株金未払込額が相当多額に達したところ、被上
告相互銀行F支店長およびG支店長は昭和二九年四月一〇日過ぎ上告会社の代表取
締役より右増資新株式の末払込のものの善後措置につき協力を求められて、これを
承諾し、株式申込証に被上告相互銀行が払込取扱銀行として記載されていることな
く(原判決の認定したところによると本件増資に関する登記申請書に添付された株
式申込証用紙の払込銀行及び取扱場所欄には被上告相互銀行に京都及び大阪の両支
店が記載されているが、これは登記手続の際に形式を整えるためにあらためて作成
されたものというのである)、また払込取扱銀行を被上告相互銀行と変更したこと
につき、裁判所の許可を得なかつたのにも拘らず、被上告相互銀行F支店は、訴外
H、同I、同Jが合計三七万八、五二二株について、一株五〇円の割合の払込を現
実になしたものとして、同月一六日付の金一、八九二万六、一〇〇円の株式払込金
保管証明書を支店長K名義で発行し、被上告相互銀行G支店は、訴外Lが一三万一、
二九三株について一株五〇円の割合の払込を現実になしたものとして、同月一六日
付の金六五六万四、六五〇円の株式払込金保管証明書を支店長M名義で発行したと
いうのである。そうだとすれば、前記説示に照らし、被上告相互銀行は上告会社に
対して、右証明金額合計金二、五四九万七五〇円につき払込のなかつたことを以て
対抗し得ないものといわなければならない。しかるに、これと異なつた見解に立ち、
被上告相互銀行に支払義務がないとした原審の判断は失当であるから、論旨は理由
があり、原判決はこの点において破棄を免れない。 されば、本件についてさらに
審理させるため、民訴法四〇七条一項により原判決を破棄して本件を原審に差し戻
すこととし、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   田       誠
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    松   田   二   郎

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